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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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盗賊-フーケ-part3/二大戦士、異世界に降臨す

(まさか…あいつがウルトラマンだったなんて…!!)
さっきの男の姿を思い出したサイトは、心の中でどう反応すればいいのかわからなかった。
『まさか、こうも早く拝めるとはな…』
ゼロもまた、あの銀色のウルトラマンを再びお目にかかることになるとは思いもしていなかった。
グドンとツインテールは、突然現れた強敵に動揺しきっている。銀色のウルトラマンは自分を挟み撃ちしている二体をじっと見ながら身構えている。
「シュア!」
真っ先に彼が立ち向かった相手はグドンだった。空中爆転で一気にグドンの背後へ飛んで着地、背中に蹴りを加えた。グドンが倒れこんだところで、ウルトラマンはその頭を強引に掴んでグドンを無理やり立たせる。続いて拳を数発、そして膝蹴りをグドンの胴体に叩き込んでいき、最後に尾を掴んでグドンのバランスを崩して地に倒す。
しかし、あのウルトラマンは何者なのだ?M78星雲人には見えないし、かといってとっくの昔に滅ぼされたウルトラの星の兄弟星ともいえる獅子座L77星などの出身にも見えない。
強い、サイトはこのウルトラマンの実力を高く見た。ゼロもサイトの目を通してこの戦いを記憶に焼き付けている。
「!」
サイトはツインテールが、グドンがウルトラマンと交戦している隙にこちらに迫ってきている。しかも、後ろにはルイズたちもいるではないか。どさくさに紛れて逃げる前にまたルイズたちを狙う気か!
「ゼロ!」
『ち、しゃーねーな!』
俺たちも行くぞと叫ぶサイトに、やむなしと言う様子でゼロは意を決する。サイトが左手を掲げると、彼の右手首のブレスレッド状態のテクターギアが、彼の身を包んで巨大化、テクターギア・ゼロへと変身した。
(よかった。前回の時のようなチビトラマン状態じゃなかった!)
『チビトラいうな!!』
無事本来の巨体への変身を遂げて一安心するサイトに、ゼロは怒鳴る。ともあれ、これでツインテールと戦える。ゼロはテクターギアから煙を吹かしながら構えを取った。

「!?」
銀色のウルトラマンは、テクターギア・ゼロの出現に思わず動きを止めた。新たな敵か?そう思って警戒したが、見たところこちらではなくツインテールの方に注意が向いている。
(…無視して構わんか)
ひとまず『今のところは』だが敵じゃないようなので、放っておくことにした。
すると、グドンがさっきのお返しと言わんばかりに、鞭を一度・二度・三度と連続で振う。ウルトラマンは三度バック転で後退することで回避した。体勢を整えて反撃に移ろうとしたが、グドンがすでに彼の眼前にまで接近し、ウルトラマンに向けて鞭を叩き込む。
「GUEEEEAAAA!!!」
顔面に鞭攻撃を食らって、ウルトラマンは地面に倒される。倒れこんだところでまた鞭を叩き込んできた。
「グ!ウオ!」
鞭の攻撃にウルトラマンは手を出し切れずに…いや、彼は伊達にウルトラマンを名乗っているわけではない。鞭の嵐の中をかいくぐってグドンに向けて蹴りを一発、そしてジャブストレートを二度食らわせ、地上に投げ倒した。
しかし、グドンは立ち上った途端に両手の鞭をウルトラマンの両腕に絡みつかせた。
「ヌゥ…グ!」
予想以上の強烈な力だった。そのせいか無理を振りほどこうにも、全然ほどける気配がない。グドンは近づいてウルトラマンに鋭い牙をむき出してきた。ツインテールという立派な餌を目の前に、ウルトラマンに食らいつこうとしている。だが、ここでグドンは敵を知らな過ぎた故のミスを犯していた。それは、両腕を銀色のウルトラマンの両腕に絡みつかせていたこと。
なぜこれがミスと?それは、銀色のウルトラマンの両腕に装備された腕輪には、魚のひれのように刃が着いていたからだ。
「ヌゥゥゥ…シェア!!!」
腕輪の宝珠が光ると、気合の声を発したウルトラマンが一気に自分の両腕を後ろに引っ張った。同時に、グドンの自慢の両腕の鞭は無残にも二本とも切り落とされてしまった。武器を失い丸腰のグドン。しかもグドンには、鞭意外にまともな攻撃手段はなかった。
ウルトラマンから頭を掴まれひじ打ちを顎に受け、さらに頭上からの鋭いチョップにグドンは頭がくらくらしていた。
「ディヤ!!!」
しかし、ウルトラマンの更なる回し蹴りによってグドンは大きく吹き飛んだ。思い切り地面に落下し叩きつけられるグドンに、もうウルトラマンに立ち向かえる力は残っていない。
すると、ウルトラマンの両手に稲妻がバチバチとほとばしり、彼は両腕を十字に組み、グドンにまっすぐ向ける。
歴代のウルトラマンたちの、おなじみの必殺の技の構えだ。銀色のウルトラマンの十字に組まれた手から紅く染めあがった必殺光線が発射された。
〈クロスレイ・シュトローム!〉
「ハァァァ…ジェア!!!」
光線はグドンにまっすぐ直撃した。光線を浴びせられたグドンの体は、木端微塵に砕け散った。

「デア!」
ゼロはツインテールの尾の付け根に向けて手刀を仕掛ける。だが尾の力は強く、ゼロのチョップを跳ね返した。ならばと胴体に直接拳を叩き込むと、ツインテールはお留守になったゼロの足に噛みついてきた。足に噛みついてきたツインテールを振り払おうとするが、ツインテールの尾がゼロの首に絡みつき、自由を奪う。ゼロは自分の首に巻きついているツインテールの尾を解こうとするが、なかなかほどけない。だが、根性任せに力を振り絞った彼は、強引にツインテールの尾から抜け出し、足に噛みついてきた顔も蹴りつけた。
今度はこちらの番と、ゼロはツインテールにとびかかる。だが、ツインテールはしゃがみと似た要領で体を丸め、ゼロの飛びかかりは空振りに終わり、結局背後に回り込んだ程度に終わる。すると、とっさにこちらを向いてきたツインテールが尾でゼロをぶっ叩いてきた。ゼロはツインテールから一度離れ、再び仕掛けようとしたが、ツインテールがしつこく尾を振い続けてきて近づきにくくなった。もう一度背後から仕掛けるか。ゼロは宙に舞いあがってツインテールの背後に回り込むと、後ろからツインテールの尾を掴みだす。
「KUAAAAAA!!!」
「グ…ウオォ!!…」
このツインテールは生まれたばかりの赤子。しかし人間の赤ん坊よりもめちゃくちゃに暴れまわる分余計にタチが悪い。しかし、ツインテールはゼロの手を振りほどくと背後のゼロに向けて、二つの尾を伸ばす。再び首を掴まれてしまうゼロだったが、逆にその体勢のまま、ツインテールを巴投げで背後に叩きつけた。すかさず、地面の上に倒れたツインテールの胴体に抱きついて体を締め上げていく。ツインテールはゼロの呪縛から逃れようと必死にもがき続けていると、ゼロとツインテールは同時に地面に倒れこみ、そのままゴロゴロと転がっていく。少し転がった後、ゼロは立ち上がり様にツインテールの尾を掴み、ぶんぶんと振り回し、投げ飛ばした。ツインテールもついに、限界に達していた。
止めだ、ゼロは足を燃え上がる炎を纏わせ、空中へと舞い上がる。そして、地上にいるツインテールに向けて必殺の蹴りをお見舞いした。
〈ウルトラゼロキック!〉
「デエエエエエヤアアア!!!」
蹴り飛ばされて炎に焼かれていくツインテールは、地面に落ちた途端に爆発して消え去った。

「す、すさまじい強さね…」
「次元が違う…」
泥棒退治は、いつの間にかウルトラマンと二大怪獣の決闘にすり替わっていたが、少なくともこの時この日の戦いが終わったことを誰もが悟った。
キュルケとタバサは、そしてルイズも自分たちにできることなど何もなかったようにしか思えなかった。
銀色のウルトラマンは、ゼロに視線を向けてきた。視線が互いに合い、しばらくそのまま奇妙な空気を漂わせながらその場に立っていた。二人とも、相手が一体何者なのか、どこから来たのか、非常に気になっていた。そして何より、こいつは敵か味方かはっきりしていないために警戒心も抱いていた。
しかし、先に沈黙を破ったのは銀色のウルトラマンの方だった。それも言葉ではなく、行動で破った。彼は、フーケの元に歩み寄っていくと、彼女の前に掌を下ろす。
(…)
フーケは、知り合いである彼の正体がウルトラマンだと知ってかなり動揺しきっていた。聞きたいことが腐るほどあったのだが、どこから言えばいいのかさっぱり分からなくなっている。が、少なくとも彼が今、話は後にして自分の掌に乗れと言っていることは理解できた。フーケを掌に乗せて、銀色のウルトラマンはゼロに背を向けた。明らかにこの場から離脱するつもりだ。
「あ、あいつ!なんでフーケを!?」
ルイズたちは信じがたいものを目にしたとしか思えなかった。なぜ、あのウルトラマンがただの盗賊をかばうようなことをしている。向こうの事情も状況も知らないのだから、理解できなくても仕方がない。
「おい、待てよ!!何を言わず立ち去ろうってのか!」
ゼロが叫んでウルトラマンを引き留める。銀色のウルトラマンは足を止めて、後ろを振り返る。
「お前何者なんだ?なぜ怪獣と戦った?なんでその盗賊を連れて帰ろうとしたんだ?」
質問を連発するゼロに、ウルトラマンは辟易しきったようにため息を漏らしていた。
(…うるさい奴だ)
構うだけ時間の無駄だと思っているのだろうか。ウルトラマンはゼロに再び背を向け、フーケを掌に乗せたまま大空へと飛び立ってしまった。
「待て!!」
ゼロの声など断固無視。飛び立ったウルトラマンは赤い発光体となって空に消えていった。
「………」
結局、あいつが何者なのかわからないままだった。ゼロはただ、あのウルトラマンが消えていった空の彼方を見上げ続けていた。

隙を見て元の姿に戻ったサイトはルイズたちと合流、結局フーケは取り逃がしたが破壊の杖を取り戻すことには成功した。
学院長室にて、破壊の杖を返却したルイズたち。彼女たちからの報告を聞いてオスマンとコルベールは驚いていた。
「無事でよかったぞい。よくぞ破壊の杖を取り戻してくれた。しかし…よもやミス・ロングビルがあのフーケじゃったとは…」
「学院長、一体どこで彼女を雇ったのですか?」
「街の酒場じゃよミスタ・コルベール。愛想よくしてきたうえに、尻を触っても怒らないので思わず採用してしまったが……」
「死んだ方がいいのでは?」
さらりとコルベールは穏やかな外見に似合わない物騒なことを言う。
「かーー!何を言うか!今思えばあの時点でフーケの策じゃったろうて!しかしまんまとハメられてしまったのう…」
呆れるコルベールだったが、この時自分も、宝物庫の前で彼女と会話した時に、うっかり宝物庫の弱点を暴露してしまったことを思い出した。人のこと言えないことを悟り、わざとらしく笑ってごまかしだす。
「び、美人はいけませんな。美人はそれだけでいけない魔法使いですな」
「おお、うまうことを言うでないか!」
「「「「………」」」」
何をやってるんだこの人たちは…。サイトたち四人はあきれ返っていた。特に女性陣はジト目で二人を睨んでいる。女性として彼らを軽蔑している目線だった。その視線にとげとげしさを感じたオスマンはうぉっほん!と咳払いして表情を真面目なものに整える。
「して、最後の報告者が…突如現れ、ウルトラマンゼロと共に怪獣を撃破した銀色の巨人が、フーケを連れ去ったと言うのは真かの?」
「は、はい…にわかには信じられませんでしたが…」
ルイズも報告した自分自身、解決できない疑問として捉えていた。なぜあのウルトラマンは、フーケを?
「…フーケの行方については、わしが王宮に申請しておこう。例の銀色のウルトラマンのことじゃが、それとフーケの関係についてはくれぐれも伏せてほしい」
「どうしてですの?」
キュルケが疑問を抱いて尋ねる。
「今や、ウルトラマンはこの国の希望の象徴でもある。王都を襲撃したあの怪獣のせいで、人ならざる者への深すぎる恐怖心がこの国中を取り巻いておるのじゃ。その矢先にウルトラマンが現れ人々を怪獣という驚異から救った。間違いなくウルトラマンに依存する者がおるじゃろう。じゃが、そんな時にウルトラマンとフーケに何らかのつながりがあると見たら、この国の民たちは何を信じればよいかわからなくなってしまう。王宮の衛士たちも、戦意を失ってしまうじゃろうな…」
オスマンの言うことは、確かな事実だった。怪獣と星人の侵攻を受けて深い傷を負わされた状況下で、ウルトラマンという存在はトリステインではすでに無視してはならない存在と化している。王宮の衛士たちでは太刀打ちもできず、結局ウルトラマンによって怪獣は倒された。すでに、権力におぼれて腐敗しつつある貴族メイジではなく、何も言わず人々を守るウルトラマンの方がよっぽど頼れる存在として認知され始めていたのだ。
そんな中ウルトラマンとフーケに私的なつながりがあるなんて話は、ウルトラマンに裏切られたと言う絶望に心を染めてしまった人が、もう頼れるものがないから自分たちが人の上に立とうと考える者による暴動を起こしたりと混乱が起こるかもしれない。余計に国が疲弊してしまう。
あくまで可能性の話だが、起こらないと限らないし、学院長命令ということもあってルイズたちは黙ることにした。
(…)
サイトはあの銀色のウルトラマンを、それに変身したあの男のことを思い出す。あいつは一体何者なんだろう。フーケを連れ去った理由は一体何なのだろうか。フーケは、もし自分の聞き間違いでなければ個人的な私利私欲ではなく、別の誰かのために怪盗をしていただけで根っからの悪人ではない。あのウルトラマンはそれを知っていたからフーケを助けたのか?自分たちに手を下すような真似をしなかったし、何となく突っぱねたような態度をとって来たが少なくとも敵と言った印象はなさそうだった。
いや、疑問と言えばもう一つある。破壊の杖…MACバズーカだ。なぜ、かつての地球防衛軍の兵器が、この異世界に存在しているのだ?
「本来フーケを捕まえてきたらシュヴァリエの称号を与えようと思っておったのじゃが、残念なことに前述の理由とフーケを取り逃がしてしまったことから爵位の授与は与えられん」
「え~?」
キュルケが不満そうにため息を漏らした。だが、無理もない。今朝自分たちに降りかかった火の粉を振り払わねばならないと言った以上、フーケの侵入を許し取り逃がしたという失敗結果を王宮に報告することはできない。だから、本来与えるはずだったシュヴァリエの称号はなしとなった。
「おお、そんなに残念がらなくてもよい。わしがなんとかそれらに代わる報酬を約束しよう」
渋っていたキュルケを見かね、なんとかしようとオスマンは約束した。
「あの、だとしたらサイトにも、何も…」
ルイズが恐る恐るオスマンに尋ねる。悔しいことだが、サイトはフーケのゴーレムだけではない。突如出現した怪獣相手にもひるむことなく破壊の杖を用いて自分たちを助けてくれた。もしサイトがいなかったら、自分たちがどうなっていたことか、想像したくない。オスマンは申し訳な下げに言った。
「済まぬ。彼は平民じゃから、どのみち報酬を用意できんのじゃ」
「いや、俺は必要ないですよ。ただ、その代わり話をしたいんです」
話をしたいと告げるサイトに、オスマンは机の上に置かれた破壊の杖のケースを一瞬見つめ頷くと、同時に何か思い出したように声を上げる。
「…うむ、わかった。…おおそうじゃ。今夜はフリッグの舞踏会。存分に楽しみたまえ」
「そうでしたわ。すっかり忘れておりました!」
思い出したようにはしゃぐキュルケ。舞踏会とは、昔の映画で見たような…ダンス会のようなものだろうかとサイトは思う。生徒達は意気揚々と準備をするため学院長室を後にする。そんな中、ルイズはその場に残っているサイトに振り向く。
「先行っててくれよ」
「う、うん」
そう促され、ルイズもタバサとキュルケと共に今度こそ学院長室を後にした。
「さて、サイト君…じゃったな。ワシに聞きたいことがあるんじゃろ?褒美のせめてもの代わりじゃ。なんでも聞いておくれ」
「ありがとうございます。学院長」
お礼を言うとサイトは、机の上に置かれている破壊の杖が、自分の知る限りではどういったものなのかを語り始めた。
「この破壊の杖は、俺の世界…地球の兵器です」
「チキュウ…?」
コルベールは首を傾げる。
「俺の故郷…地球は約50年前から、怪獣や侵略者の脅威にさらされてきました。そのたびに地球防衛軍が、そしてウルトラマンたちが現れ、俺たちを守ってきてくれたんです。そこにある破壊の杖のような、多くの兵器を用いて」
「ウルトラマンを知っている辺りからただの平民の少年ではないと思っていたが…やはり君はこの破壊の杖を知っておるのか」
オスマンは破壊の杖のケースを、懐かしむように撫でながら言った。
「はい。この破壊の杖…正確にはMACバズーカと言います。MACと呼ばれる防衛組織が使用していました。でも、これをどこで…?」
サイトにそこまで言われ、オスマンは静かに目を閉じた。
「もう35・6年前のことじゃ…森を散策しておったわしは突如、ワイバーンに襲われたのじゃ。そこを救ってくれたのが、破壊の杖の持ち主なのじゃ。彼はこの破壊の杖を用いてワイバーンを吹き飛ばすと、その場に倒れてしまったのじゃ。全身から血を流し、それはもう酷い怪我じゃった。わしは彼を学院に運び込み手厚く看護したのじゃが…」
当時のことを思い返し、思いつめた表情を浮かべながら言葉を切らしたオスマン。
「…まさか、お亡くなりに」
サイトがそう言うと、オスマンは頷いた。
「恩人として彼は丁重に葬った。遺品である破壊の杖は、宝物庫に保管したのじゃ」
「…」
「彼は死ぬ前に、服についておったこのマークを握りうわごとのようにこう言っておった」
オスマンは破壊の杖…MACバズーカのケースに刻まれたマーク…かつてサイトの地球を守ってくれたことのある防衛組織『MAC』のエンブレムに触れる。
「『地球に帰りたかった。円盤生物に殺された仲間の仇を討てなくて残念だ』と。わしにはよく意味が理解できなかったが、彼に何か思うところがあったのじゃろうな」
「…やっぱりそうだ」
サイトがここで声を漏らすと、オスマンは彼の一言を聞き逃せなかった。自分を救った人物のことだから気になっていた。
「やっぱりとは?」
「35年前ってのも合っている。彼も俺の地球にいた人だ。それも…MACの隊員の人だった。授業で聞いたぐらいなんですが…かつて『ウルトラマンレオ』という名前のウルトラマンと共に地球を守ってきた組織だったんです。でも…侵略者の送り込んだ円盤生物に基地を破壊されて、全滅したそうです。地球防衛軍に起こった悲劇として、歴史の授業で習ったのを覚えてます」
「…そうか、それで仇を討てなかったとか言っておったのか…」
何十年もたった今でもオスマンは覚えていた、死ぬ直前の彼の、すさまじく悔しそうな表情を浮かべながら息を引き取った時の顔を。涙でぐしゃぐしゃになって、手を伸ばす姿は無念さに満ちていた。
『………』
ゼロは、黙ってサイトを通してオスマンとサイトの話を聞いていた。サイトは気づかなかったが、『ウルトラマンレオ』と彼と共に戦っていたMACの末路を聞いたときの彼は、サイトの精神の中で驚いたように顔を上げていたのである。
「でも、その人は何のはずみでこの世界に来たんだ?俺と違って、誰かに召喚されたわけでもないのに…」
基地を破壊されたはずみで、この世界にやってきたというのだろうか?
「わからぬ。どんな手で、その地球という世界から来たのか…」
「くそ…もしかしたら、帰る手がかりが見つかると思ってたのに…」
地球にいる母は無事だろうか?それに自分がGUYSと協力して救助した一般人は?そして、同じ現場にいた彼女…ハルナは無事なのか?サイトはできることなら今すぐにでも確かめたかった。自分が生きていることを、早く母や彼女に知らせてあげたい。でも、それができもしない状況であることを嘆いた。
いや…サイトはここで一つ思った。もし地球へ帰る方法が見つかったとして…。
(この世界は、どうなるんだ?)
見捨てるのか?この世界も地球と同じ脅威に晒されてしまっている。それを見捨てるのか?でも、自分と体を共有しているゼロはあくまで二心同体。同一人物とは言えない。都合よく力を貸すとは思えない。他の奴を当てにしようにも、あの銀色のウルトラマンは今日その姿を拝見したばかりでまともに会話もしていない。無理だろう。かといって、自分のようなただの人間で、怪獣や侵略者に勝てるか?無理だ。どうすればいいのかわからなくなってきた。
「サイト君、教えてくれてありがとう。それにもう一つ、君に伝えねばならぬことがある」
「え?」
思い悩みだしていたサイトに、オスマンは例を言ってくると同時に、彼の左手を掴む。ルイズのコンタクト・サーヴァントによって刻み付けられたルーンが二人の目に映された。
「君は不思議だとは思わないか?いかに君が地球の人間だとしても、わずかな期間でこの破壊の杖を使いこなせるはずがない。その理由は、君の左手に刻まれたルーンに秘密があるのじゃ」
「俺の、ルーン…ですか」
ギーシュの時がそうだった。このルーンが、剣をまともに振ったこともないギーシュとの決闘における圧倒的不利な状況を打破した。たとえゼロと同化していなくても、このルーンの力がサイトに勝利をもたらしていたかもしれない。
「そう。これはこの世界において我らメイジの始祖であるお方…『始祖ブリミル』が召喚した四人の伝説の使い魔が一人、ガンダールヴのルーンじゃ」
「ガンダールヴ?伝説…?」
「そうじゃ。ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなすことができたそうじゃ。破壊の杖を使うことができたのもそのためじゃろう」
「…でも、どうして俺がその伝説の使い魔ってのに?」
伝説の使い魔の力と言われても、サイトにはいまいちピンと来ないのだ。召喚したのはルイズだが、彼女もまた伝説と謳われるほどの力を持っているのか?いや、それはない。彼女の魔法の際は、残念ながら評価しきれるようなものではないのだから。
「何か、運命めいたものを感じるのぅ。ウルトラマンの存在していると言う世界から来た彼と君…そしてガンダールヴのルーン。ただの偶然とは思えぬ。その偶然には、君たちが今回の件で遭遇した、銀色のウルトラマンも関わっているやもしれんな」
「……」
あのウルトラマンのことを考えると、サイトは同じ疑問を抱かされる。あいつは何者だ?と。オスマンの言葉を聞くと、きっとあのウルトラマンとは会うことになるかもしれない。いや、間違いなく会うことになる。不思議と、サイトは明確な根拠というものを形にできないが、それでも再会することになると確信した。

アルヴィーズの食堂の上の階は大きなダンスホールになっている。今夜のフリッグの舞踏会はそこで執り行われた。着飾った生徒や教師が、豪華料理を並べたテーブルの周りで歓談中だ。笑顔と活気のある光景。その一方でサイトはバルコニーから外を見ていた。
「にしても、今日はおどれーたな相棒。相棒とはまた別の巨人が現れるなんてよ」
デルフが鞘から顔を出してケタケタおどけるように言う。が、一方でサイトは盛り上がった素振りさえなかった。
「…」
「相棒?どうしたよ」
「地球に帰る手がかり、見つかったと思ったんだけどな」
夜空の星を暇そうに数えながらサイトは呟く。
「いいじゃねえの、これもこれで。わからない方がわくわくするだろ?」
人の気も知らないで口の減らない奴である。とはいえ、根は陽気で楽しい男の性格をしている。今のような気分だからこそデルフの存在は都合がよかった。
『サイト』
ふと、ゼロがサイトに話しかけてきた。
「ゼロ?」
『お前、フーケ捕縛任務の時に言ってたよな。「血を吐きながら続けるだけの悲しいマラソン」って』
「あ、ああ…それがどうかしたのか?」
『どこで聞いたんだ?』
「えっと、母さんが…といっても義理だけどな。昔の思い人から教えてもらったってさ」
昔の思い人?
(セブンが宇宙警備隊での訓練を見ていた時、俺や新人たちに贈った言葉をどうしてこいつが知ってると思ってたら…義理の母親、ね)
この言葉は、実はゼロ自身も聞いたことがあったらしい。今もそうだが、当時のゼロは実力至上な考えを持っていたからどうでもよく思っていたためずっと忘れていたらしいが、サイトがあの時言ったことで思い出したらしい。全く異なる星なのに同じ言葉をどうして知っているのか気になったが、セブンのかつての功績を聞き及んだこととのあるゼロはすぐに理解した。そして例の言葉をくれた母がいるということに、彼はサイトに問いてくる。
『……お前、故郷に帰りたいのか?』
なんだかやけにしおらしい口調。サイトは不思議に思った。
「それはまぁ…そうだろ。帰りたいってのが本音だ。でも…お前とは分離できないままだ。ずっと二人ともこのままっていくわけにもいかないだろ?二人とも別々の故郷に帰れないじゃないか。だからせめて方法とか手がかりだけでも知っておきたかったんだ。この星は地球からも光の国からもどれだけ離れてるかもわからないし」
すでに地球は宇宙へ進出できるまでに文明が発展している。もしこの星がどこにあるのか判明していたら、地球へ帰るのに苦労などしない。それはゼロにも言えたこと。だが、サイトとゼロそれぞれの故郷から一体この星がどの位置にあるのか見当もついていないのだ。
とはいえ、地球と同様狙われつつあるこの星を、唯一侵略者や怪獣を知る自分が無視するべきかと思うと、Yesなんて言えはしない。だから帰る時の導だけでも知りたかったのだ。
しかし、ゼロは言った。
『帰れねえよ…俺は。帰りたくても帰れねえんだ』
「え?」
「はぁ~いダーリン」
それはどういう意味だと尋ねようとすると、ここでもったいぶらせるかのようにキュルケがサイトの元にやってきたのだ。彼女は胸元の開いた、それでいて上品なドレスで着飾っている。本人いわく、特注で作らせたドレスだそうだ。彼女は18歳とサイトより一つの年齢だというのに、年上の綺麗な貴婦人のようだ。
「もう、折角のパーティなのにそんな顔してたらダメよ。ほら他の皆だって楽しんでるじゃない」
キュルケが指し示す方向を見ると、タバサは黒いドレスに身を包み、頭にはティアラを付けている。右手にフォークを、左手に皿を持って。何かをもぐもぐ食べているところから、舞踏会というのに、寧ろご飯が目的のように見える。
「私が無理やりおしゃれさせたのよ。かわいいでしょ?」
確かに、タバサも素材は立派で、小柄な知的メガネ美少女と言った印象がある。ドレスにを包むとそれ以外に気品も出て似合っている。が、そんな上品な姿と裏腹にあの小柄な体のどこにそんなに入るんだという大量の料理と格闘中。今はハシバミ草のサラダに食らいついている。ハシバミ草はサイトも厨房でシエスタにふるまってもらった時に試食したことがあったが、事前にシエスタが「とっても苦いですから気を付けてください」と忠告を入れていた。彼女の言っていた通り、地球でも味わったことのないほどの苦みがサイトを襲った。そんなハシバミ草をあんなに目をきらめかせてまで見ているこっちが腹いっぱいになるほど食すタバサにある種の恐ろしささえ覚える。
紫のラメ入りのタキシードを纏っていたギーシュも、得意の口説き文句で女子生徒たちからの人気を取り戻し始め、ダンスを申し込まれて良くも悪くも調子よしのようだ。それを見ていたモンモランシーが不満そうな顔をしているのも見えた。
「そういうわけで、ダーリン踊りましょ♪」
「いや、俺は……」
そんな気分じゃないとサイトが渋っていると、大勢の男子達が寄ってきた。
「キュルケ、今夜も綺麗だよ!!」
「あらん、ありがと」
キュルケは男子生徒たちから褒められ、ダンスを申し込まれるや否やそっちの方へ移って行った。元々乗り気じゃなかったからちょうどいい。ルイズの部屋で先に寝ようと、ホールを後にしようとしたときである。
「ヴァリエール公爵が息女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~り~!!!」
ホールの壮麗な扉が開かれ、ルイズが姿を見せた。
その姿に、サイトは息を呑んでしまう。髪をバレッタにまとめ、白いパーティドレスに身を包み、ひじまで覆い隠す白い手袋が、いつもの彼女とはまるで別人かと疑わせるほどの美しさを放っていた。
確かにルックスはサイトの好みに近い美少女だったルイズ。でもその実性格はかなりの癇癪持ちで我儘。…と思っていた自分がいた。
『へえ…ただ喚くだけのガキとは思えないな』
ゼロがさらりと、ルイズが聞いてたらまさに言葉通りになることを言う。ルイズにゼロの声が聞こえないのが幸いだ。
そんなルイズに男子生徒たちが我先にとダンスを申し込んでいる。今までゼロだの無能だのと蔑んでいた癖に、現金なことにルイズの魅力の虜になったらしい。しかしルイズは彼らからの申し入れに目をくれず、まっすぐサイトの元へと歩いてきた。
「楽しんでるみたいね。サイト」
「い、いや別に」
「へえ、馬子にも衣装って奴だな娘っ子」
「そこのボロ剣、うるさいわよ」
デルフが余計なひと言をいうと、ルイズは怒るがすぐにサイトに視線を戻す。
「お前、踊らないのか?」
いっぱい誘われていたのにどうして俺のところに来たんだ?疑問に思っていると、ルイズはサイトの方に手を差し出してきた。
「踊ってあげてもよくてよ」
目を反らして照れくさげに言ってきた彼女に、サイトは戸惑った。言われている自分までなんだか照れてしまう。でも、頼み方がなっていない。そう思ったサイトはこう言った。
「踊ってください、じゃねえの?」
しばらく沈黙がその場に流れたが、ルイズから溜息が漏れる。
「き、今日だけだからね…!」
ルイズは両手でドレスの裾を恭しく持ち上げ、足を曲げお辞儀をしながらサイトにダンスを申し込んだ。
「私と一曲踊ってくれませんこと?ジェントルマン」
頬を染め、淑女らしくダンスを再び申し込んだルイズはとてつもなく可愛らしい。サイトはそれだけで胸を高鳴らせて骨抜きにされてしまった。デルフをバルコニーの柵に掛け、手を取り合った二人はホールへと歩いていく。
「俺、ダンスなんてできないぞ」
映画でちょこっと見たくらいだ。後は学校の体育祭で嫌々ながらやらされたくらいしかダンスの経験がない。
「分かってるわよ。いいから私に合わせて」
ルイズに言われたとおりに動くサイト。
「そう、ゆっくり。上手じゃない」
続けているうちに、サイトの動きは中々様に映るようになった。そんな中、ルイズは彼に尋ねた。
「結局、シュヴァリエの爵位がもらえなかったなんて、ただ働きもいいところだわ」
「いいじゃんか。死ななかっただけマシだろ」
「……ねえ、あの破壊の杖のこと…知ってたのよね」
「ん?あ、ああ…」
「じゃあ、異世界から来たのも本当…なのよね」
「信じてなかったのかよ?証拠なりなんなり見せたのに」
「今まで半信半疑だったけど…あんなの見たら信じるしかないじゃない」
ノートパソコンとか見せたじゃないか。破壊の杖でやっと信じてくれたのか?まあ、何から何まで信じるとまではいかないだろうけど。
「帰りたい?」
「…ああ…」
帰りたい。それは紛れもなく本当のことだ。故郷に心残りがある形でこの世界に来てしまったのだから。
「…ごめんね」
「え?」
「勝手に故郷から呼び出したことよ。その…悪かったって思ってるわ」
意外だった。もうとっくになんとも思っていないのかとてっきり思っていた。だが今のルイズは、サイトを地球から呼び出し、結果的に彼と彼の家族・友人を引き離してしまったことに責任を感じてくれたようだ。
「それに、ありがとう…」
「次から次へと如何したんだ?」
今日のルイズはなんだかおかしい。ゼロといいルイズといい、すごく違和感を覚えさせられる。
「だって、怪獣にやられそうになったとき助けてくれたでしょ。だから…」
みるみる顔を赤らめながらルイズは俯く。
「気にすんなよ」
「どうして?」
首を傾げるルイズに、サイトは笑って見せてこういったのだった。
「俺は、お前の使い魔なんだろ」
その笑みを見たときのルイズは、さらに一層赤くなりながらも、笑みが浮かんでいた。
「こいつはおどれーたな」
バルコニーから見ていたデルフはその暖かな様子を眺め続けていた。
「主人のダンスの相手を務める使い魔なんて初めて見たぜ。こりゃおでれーた!」

その頃、グドンを撃破しフーケを連れてテクターギア・ゼロの前から立ち去った銀色のウルトラマンは、遥かな空を飛び続けていた。ただ遠く、誰の目にも届かないくらいの遠い場所へと。トリステインからも遠く離れた森の上に浮くと、ウルトラマンは赤い発光体となって地上に静かに降りると、元の姿であるシュウに戻り、さっきまでウルトラマンの掌に乗せられていたフーケを下ろした。
「全く、驚いたもんだよ。ここに来たときのあんたから巨人やら怪獣の話やらは聞いていたけど、まさかあんた自身がウルトラマンって奴だったとはね…。
あたしの危機を察知して飛んできたのも、『村』から一っ飛びで来られたのもあんたがウルトラマンだからかい?」
フーケはやはり顔見知りということからか、シュウからウルトラマンや怪獣のことを聞き及んでいたようだ。だが異世界での話、フーケ自身もサイトから地球のことを聞かされた時のルイズと同様信じ切れてはいなかっただろう。自分がウルトラマンであることを知られることとなったシュウは何も言わなかった。
「…まあな。これについては『ティファニア』にも教えていない」
「テファにもかい?なんで…ってこいつは愚問か」
あんな力を隠したがる理由はすぐに検討が付く。口先のみで言うならただの眉唾話で済むだろうが、もしも彼の力の秘密を突き止めた奴がいたら、特にそれを突き止めた奴が貴族だったら、間違いなく権力確立のために利用するに決まってる。もしくは危険視されて命を狙われるなんてこともあり得る。それにフーケの言う『テファ』という少女になにかしらの事情があっても、彼女がシュウの持つウルトラマンの力を恐れることも不思議ではない。少しでも可能性を減らすために口を閉ざしていたのだ。
「あたしも、盗賊稼業で稼いでること、あの子には内緒にしてるからね。黙っておくよ」
「…感謝する。マチルダさん」
表情を変えないままシュウはそう告げる。
「そういえば、最近トリステインで噂になってたあの巨人、あんたは興味ないのかい?」
「…ないと言えば、嘘になるか」
シュウも噂にはすでに『ウルトラマンゼロ』のことを聞き及んでいた。自分と同じウルトラマンを名乗る巨人、ゼロ。自分の味方になるのか、それとも敵となるのかはまだわからない。だがシュウには一つはっきりしていることがあった。
(…奴が俺の敵になるのなら、俺は躊躇わず殲滅するだけだ)
同じウルトラマン同士だと言うのに、この考えはおかしいと思うかもしれない。でも、彼のいた世界でこう考えても仕方ないことでもある。彼の世界で人類に味方をしたウルトラマンは『ただ一人だけ』しかいなかったのだから。だから人外に対する警戒は怠ってはならないのだ。
「で、ここはどこらへんだい?」
フーケはこの辺りがどこなのか気になってシュウに尋ねる。
「…あの村だ」
シュウが静かに告げると、周囲を見渡したフーケはその意味を理解した。
「あ、ああ…ここか」
「今日はもう疲れたはずだ。あんたはゆっくり休んでくれ」
背を向けて、森の向こうから見えるかすかな明かりを向いた彼からかけられた気遣いの言葉に、フーケは表情から見て驚いていたことが見え見えだった。が、あまり声に出すと無表情で何を考えているのかわからない彼を怒らせてしまいそうなので、いたって冷静に保ちつつ、適当に返事をする。こういう感じの男にはあまり気に触れるようなことを言わない方がいい気がした。
「そう、だね…あの子の顔もあんたが召還されて以来あまり見てないから、そうさせてもらうよ」
それでも動揺しているように見えるが、シュウは森の中に見える村へひたすら歩いたままなので気づいていない。先にある小さな村にたどり着くと、シュウは村のとある家の扉をノックする。
「…『ティファニア』、俺だ。今帰ったぞ」
すると、その家の扉が開かれ、帽子を被った少女が顔を出してきた。
「お帰りなさい。…って、あ!」
その少女は、外が暗く家の中が暖炉の明かりで明るくなっていたせいで、外からはよく顔を拝見できなかったが、彼女がフーケの顔を見て、闇を吹き飛ばしそうなくらいの輝かしい笑みを見せていたことは間違いじゃなかった。
「マチルダ姉さん!」

その頃…。
とある宇宙の、名もなき惑星。そこには顔が獅子を意識させたような作りになっている、赤い巨人がいた。
「ゼロ、一体どこへ消えたのだ?」
その巨人の名は…ウルトラマンレオ。この日サイトがオスマンに教えた地球防衛軍MACと共に怪獣・侵略者と戦ってきた、宇宙警備隊最高幹部『ウルトラ兄弟No.7』の戦士だ。彼は他のウルトラ兄弟たちとは違い、M78星雲光の国の出身ではなく獅子座L77星の王子である。彼の言動によると、ゼロとは知り合いのように見える。
「兄さん」
レオの元に、もう一人彼そっくりの赤い巨人が現れる。彼は『アストラ』。レオの双子の弟であり、ウルトラ兄弟の8番目に選ばれた戦士だ。地球に長くとどまらず、宇宙各地を飛び回りながら侵略者と戦ってきた少し異例な経歴を持つウルトラマンである。
「何か手がかりを掴めたか?」
「ゼロなんだけど、どうも地球に向かったそうだ。セブン兄さんの時と同様に地球を狙ってきたクール星人からの情報だよ」
このアストラというウルトラマン、どうやら以前サイトたちの地球を襲い、GUYSと交戦したクール星人の生き残りを捕まえ尋問したようだ。
「地球に?」
レオが意外そうに言うと、アストラは頷く。
「ええ。あいつは、他者に自分を認めてもらいたがっていたからね。僕たちウルトラ兄弟の戦ってきた星で強くなれば…と考えているんじゃないだろうか」
「なるほどな。それなら合点も行く。アストラ、お前は捕まえたクール星人を光の国に送検し監視しておけ。俺はゼロを探しに地球に行く」
「兄さんが自ら?」
「何が起こるかわからん。二人同時に行けば逆に全滅の危険がある。だが一人だけ向かえば最悪の事態までは免れる」
まるで自分が死ぬ前提のような言い方に、アストラは抗議する。
「その言い方は止めてくれ、兄さん。僕は信じているよ。兄さんは決して死なないってね」
それを言われると、レオはくく…と苦笑した。
「これでも、一度命を散らした身なのだがな。まあいい。行ってくるぞ、アストラ」
「はい、気を付けて。レオ兄さん」
弟にしばしの別れを告げ、レオは地球に向かって飛び立っていった。アストラはそんな兄を見送りながら、彼の無事を祈るのだった。
 
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