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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  闇の向こうに

ゴォン!という硬いモノ同士がぶつかり合うような音が響く。

そこは、部屋だった。

狭い部屋だ。四方の壁はマットな手触りの黒に塗りたくられ、中央には応接室のように向かい合った一対のソファーと黒檀と思しき立派なつくりのテーブルがあった。

固く握った拳を、部屋に一つしかない閉ざされた《扉》に打ち付けた長身気味の青年――――《狂怒》は錆びた金属が無理矢理震えているような声を荒々しく発する。

「クソッタレ。ビクともしやしねぇ」

「だぁから言ったじゃなぁーい。あんなクソみたいに弱っちいガキ一人さっさと見捨てりゃいいのにって」

ソファーにだらりと寝転がる、青年より幾分若い印象がある少年が、なよなよしい言葉の中に滴るような毒々しさが窺える声で言った。

「兄様ぁ、さすがにちょっとおかしいよ。ねじ伏せられた僕ならともかく、兄様ならその気になれば《出られた》でしょ」

うるせぇ、という取り付く島もない答えに軽く肩をすくめた少年は、またごろりと横になる。

その、どこまでも他人事であるというスタンスに、狂怒はいらついていることも手伝って若干キレかけたが、彼の象徴する名――――感情を思い出して辛うじて堪えた。

クソッタレ、と口の中で呟き、もう一度忌々しげに扉を叩き、乱暴に溜め息を吐き出して青年は少年がだらりと寝るソファーの向かいに身体を沈ませた。

「……正直な話、お前ぇはどう思う?今回の敵について」

「兄様は敵と言うけど、それはあのガキにとっての敵であって僕には関係なーい。それを踏まえた上であえて敵と言うけど……《アレ》はヒトじゃない」

「………………」

思わず二の句が告げなかった青年に対し、ダルそうながらも黄色い眼光だけは鋭い瞳が片方だけうっすらと開き、こちらを見る。

「ただのヒトが、赤の他人の精神構造で身体を動かすぅ?しかもほぼノータイムで~?アハッ、冗談も大概にしろよ」

毒々しい中に、鈍色に輝く刃を覗かせた言葉を、少年は放つ。

「《アレ》がヒトだったら、父様はもっと早く死んでいた。いや、そもそも爪痕すら残さずに死んでたかもしれない。それがなかったんだから、《アレ》はヒトじゃない」

「……あぁ」

それしか、それしか言えなかった。

コイツがここまで怯えたのはALOの時以来か、とぼんやりと回想しながら、狂怒は軽く吐息を吐いて周囲を見渡した。

前回、レンが来た時とは大違いだ。

四方はあの時の二分の一ほど。当然ながらグランドピアノやビロードが飾られるような余空間などなく、ソファーとテーブルだけがある光景はどこか寒々しくさえ感じられる。

この部屋は、いわばレンの心象風景だ。この部屋の状態によって、持ち主というか地主である少年の心理状態も把握できるのだが。

―――良くねぇ。いや、最悪だ。

これまであの少年が心を動かすたびに、この部屋は変化してきた。だが、ここにいた期間が一番長い狂怒自身ですら、ここまで縮まった部屋を見るのは初めてだ。

恐らく外の《アイツ》と関係あるんだろうが、とそこまで胸中で呟いた青年は更なる舌打ちを重ねる。

「それに、あの防御力。まさか――――」

その時だった。

前兆はない。

「――――やっと見つけた。ここにいたんだね」

唐突に、声がかけられた。

「「――――――――ッッ!!?」」

寝転がっていた少年も跳ね起きる。

二人の中央。

黒檀のテーブルの上に、まるで最初からそこにいたかのように悠然と立つ、少女がいた。

髪はボーイッシュなショートカット。少し大きめなパーカーと、キュロットスカートを身に着けている。

目深に被ったパーカーフードの向こう側から、背筋が凍るほどに『無邪気』な視線がこちらを睥睨するように動いているのが分かった。

「誰だ手前ぇ!!」

数瞬遅れ、青年はこれがどれだけの異常事態なのか悟った。

ここはある意味、レンの魂――――フラクトライトに最も近い場所だと言っていい。

本質。

底。

少年の本性と隣り合い、触れ合える場所だ。そんなところに見知らぬ者が来るということは――――

「まさか……ここまで浸食されたのか!?怒りで自分(テメェ)の守り忘れるたぁなぁ!!……狂楽!」

「分かってる!」

狂楽と呼ばれた少年が、宙に手をかざす。

途端、少女の輪郭が急速にブレ始めた。時折ノイズが走るように、境界線が曖昧になるのだ。

合間に、ジジザザッという異音を発しながらも、少女は一通り周囲を見回した後で満足したように口を開く。

「迎えに来たよ、子供達。充分に喜んだでしょ?充分に怒ったでしょ?充分に哀しんだでしょ?充分に楽しんだでしょ?……なら、そろそろお家に帰る時間だよ」

ゆっくりと。

ゆらり、と。

手が伸ばされる。

折れそうなほどに華奢なその指先に、まるで刀の切っ先を突き付けられたような気がし、狂怒は勢いよく後退した。

だが、現れた少女は動かない。

駄々をこねる子供でも見るかのように、あくまでゆったりとした動きで首を巡らせる。

「狂怒、狂楽。……帰ろう、《ファル》のトコに」

瞬間。

ズ……ッ、と。

足裏が地面につく感覚が急速に消失する。まるで重力がなくなったような――――否、どちらかと言えば頭の上方に吸い込まれるような、嫌な不安定さがあった。

「な……んッ!?」

「……これ、は!!まさか……父様!?」

後ろで弾けた狂楽の声に、正確にはその中に含まれていた単語に、ノドが干上がったような感触を狂怒は得る。

―――まさか、そんな、嘘だろッッ!!?

焦りながらも具体的な打開策は何も思いつけない青年を、至近距離で見つめ、少女は柔らかな笑みを浮かべた。

桜色に僅かに色づいた唇が開き、音にならない声を作り出す。

―――おいで。

短いその言葉を聞く者は、もうその部屋にはいなかった。










レン、好きだよ。

でも何で振り向いてくれないの?

ボクはこんなに好きなのに。愛してるのに。

マイちゃんがいるのは分かってるよ。だけど、だけどさ。少しくらいいいじゃない。

少しくらい、こっちをみてみるくらい、いいじゃない。

ボクじゃダメなの?

なんで?どーして?

ろくおーになったよ。

つよくなったよ。

つらかったけど、いっぱいいっぱいれんしゅーして、いっぱいいっぱいがんばったよ。

それでも、まだだめなの?

どーしても、ふりむいてくれないの?

ぼくは、きみのとなりにたちたいだけなのに。

いっしょうけンめー、がまんしたのに。

ほんとはすきになッテもらいたい。

だケド、それはむりだってわかッた。だからガまんしたのに。

まだがまんしナイとイケナイの?


……じゃア、モうイイヤ。


ツライコトなンテ、モーウンザリ。


イイジャン、ガンバッタヨ。



カナワナイコイダッテアルヨネ。




……………………………………………………………………アレ?








ボク、ダレノコトガスキナンダッケ?










身体中の熱という熱が吸い出されるような不快で不気味な感覚とともに、唐突にユウキは意識を覚醒させた。

といっても意識は覚醒したのだが、視界が薄ぼんやりとして周囲の状況がまったく分からない。聴覚も何か蓋でも被さっているようにくぐもって聞こえた。

不安定な五感に、ユウキはアバターの眉をひそめた。

アミュスフィアの体感覚同期機能が上手くいってないのだろうか。サーバの回線が渋滞、もしくは混乱した時によく生じるラグとも違う。見たことのない、いや感じたことのないその現象は、少女の心を不安で掻き毟った。

やがて霧が晴れるように、ぼんやりとした闇に包まれていた五感が戻り始める。

初めに感じたのは、二の腕を中心に広がる針のような激痛だった。

血が流れるように一定間隔で脈打つその傷は灼熱のようでもあり、そうと思えば極寒の氷のような寒気を伴う怖気を与えてきたが、どうやら時間とともに徐々に弱くなっているようである。

次いで感じたのは、妙に生暖かい手のひら――――いや正確には手首の感触だ。

ぶよぶよした、柔らかい。だがまったく好きになれそうになく、また慣れそうもできない。

そんな感触が、手首から先を覆っていた。

混乱。

困惑。

だが、それも視覚が戻るまでだった。

レンが、目の前にいた。

俯く顔は長い前髪に隠れ、ほとんど見えない。辛うじて鼓膜が捉えるひゅーひゅーという風鳴りの音のようなサウンドエフェクトだけが、彼が本当に自分の従弟だということを伝えてくる。

「れ…………」

レン、と呼びかけようとした声が、止まった。

気付いたのだ。

この、纏わりついてくるような嫌な感触に。

「……………………ぁ」

()()に。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっッッッッッッ!!!!!!!」

手首まで少年の胸部に埋没していた腕を引き抜き、少女は絶叫しながら、力なく倒れてくる少年を受け止めた。

小柄な身体から伝わってくる体温が自身でもびっくりするほど安心できて、ユウキは幼い子供のように嗚咽し、しゃくりあげながら、かき抱いた小さな背中をより一層強く抱く。

弱々しい、今にも消え入りそうな囁き声にも満たない呼気が耳元で響いた。

「よかっ……た。戻った…んだ、ユ…………ねーちゃ……」

微かに震えるその声はどうやら微笑んだようだったが、しかし直後湿った音とともに粘着質の液体の塊が弾ける音が連続して耳朶を震わす。

「れ、レン!レン!レンッ!!」

「――――まったく、呆れた強情さだったよ。いや、もうそこまで来ると気持ち悪いほどだったね」

必死に呼びかける声を塗り潰すように、至近で声が上がった。

首を巡らせると、髪をボーイッシュにカットした少女がゆっくりと歩み寄ってくるところだった。一瞬、綺麗な声と相まって「誰?」と思いそうになったが、身に着けている山吹色のギリースーツがその少女の正体を言外に突き付けていた。

「フェ、イバルッッ!!」

「おかえり絶剣。君がちゃんと戻ってきたってことは、うん。無事にレン君には定着したみたいだね」

にっこりと微笑み、抱かれる少年に目を落とす少女にゾッとしたものを覚えたユウキは思わず口を開く。

「何を……何をしたの!?」

「くすくす。それ、さっきレン君に訊かれたなぁ」

「いいから答えて!!」

激昂する《絶剣》と呼ばれた少女に、《背中刺す刃》と呼ばれた少女は肩をすくめて声を響かせた。

「《鎧》だよ。君達六王がかつて《災禍の鎧》と呼んでいたものを、彼に植え付けたの」

「――――なッ」

「もともとレン君の中には《欠片》と《因子》があったからね。即興で植え付けた君よりはよっぽど、《彼》に惹かれるでしょうね」

相手を納得させるような大仰な身振り手振りはしない。扇動させるような台詞選びもない。

淡々と。

事実をただ述べた、という風なフェイバルのその言葉は、嘘だとはにわかに信じがたい真実味があった。

だが、信じられない。

いや、信じたくない。

バッ、と。少女は己の二の腕に視線を落とす。そこは予選決勝にて、《死銃》ザザに出会い頭に奇襲で貰った場所だった。

そこには、二の腕を覆う迷彩服(BDU)()()が走り、その下のアバター素体皮膚に黒々とした穴が開いていた。通常のダメージ判定の際に出るエフェクトとは絶対に違うそれからは、煙のような細い瘴気がしゅうしゅうと漏れている。

「ッ!まさかあの時!!」

「そうだよ。ザザに頼んで埋め込ませてもらった。ま、あっちもあっちで《因縁あるヤツ》と戦いたかったみたいだから、手を出さないという交換条件にはホイホイ乗ってきたよ」

「……じゃあ、レンをここまで傷つけたのは――――」

くすくす、と。

《無邪気》な嗤いが軋るように耳朶を打つ。



「君だよ、《絶剣》」



緩やかに流れたその言葉の羅列が脳に沁み込むまで、どれくらいかかっただろう。

完璧に。

完全に。

動きを止めた少女に、《無邪気》な声は嗤いを投げかける。

「先に言っておくよ、《絶剣》。レン君は襲い掛かってくる君に対して、ただの一度も手を上げなかった。ただの一度も、ね。彼はずっと、ただただ防御に徹してたんだ」

「そ……んな……」

「びっくりするほど献身的だよ。いっそ不気味でもある」

冷静に。

冷淡に。

冷酷に。

フェイバルは言葉を続ける。

()()()()()よ。はっきり言って」

「――――ッ!」

完全に《呑まれた》少女は、もう動けない。

理屈でなく、精神的に動けない。

だが、聞くことはできる。

抱く小さな身体に残された僅かな《芯》に力が入った音だけは。

「…………おいおい」

ギシギシ、と鳴る身体を無理矢理にでも動かして、少年は従姉の腕をすり抜けて、立ち上がる。

血走った双眸が蠢き、嗤う少女に照準を合わせた。

「ヒトが寝てる間に、ずいぶんと好き放題言ってくれんじゃん……!」

関節が焼きごてでも当てられているように熱い。

眼の焦点は会わず、視界は絶えずぼんやりとして明瞭としない。

だけど。

それでも。

立てる。立ち上がる。

少年は、一人の少女の声にならない心の叫びに無言で答える。

「……植え付けたはずだけど」

目を細め、同時に緩やかに腕を動かす――――臨戦態勢に入るフェイバルに対し、レンは《獰猛》に嗤う。

「あーァ?あの()()()()のことォ?あははッ、悪ィけどこちとら、どれくらい長い間《鬼》と過ごしてきたと思ってんの?」

「………………」

音もなく。

目を細める少女は、音もなく手のひらに自らの得物を滑り込ませた。

手足でも《はじいて》しまうか、と適当に考えながら、少年の四肢の動きを注意深く観察していたフェイバルは、だからこそレンの唇が至近距離のユウキに最小限の動きで言葉を伝えたのを見逃した。

「……跳ぶよ、ユウキねーちゃん」

その囁きに思わず少女が訊き返すより――――

一瞬早く。



カンッ。



両者の真横。

ストリートの中央部のアスファルト上に硬い金属音が鳴り響いた。それは場が静かであったことも手伝い、これまでの何よりも強く場を揺るがせた。

「「「―――――――ッ!!」」」

三者が三様の反応を返しながら鋭く振り向く……前に。

ボッシュウウウゥゥゥー!という空気の抜ける風船のような音とともに、猛烈な白い煙が視界を丸ごと覆い尽くした。

「な、なにっ!?」

狼狽えるユウキの襟首を、真後ろから力強い手が引っ張る。

潰されたカエルみたいな声を立てながらも後ろを見た少女は眼を見張った。

「……り、リラ!?」

GGOにて初めて知り合った双子の強気な方。

筋力値優先ビルドの彼女でも、いくら小柄だとはいえ、プレイヤー二人を運搬するのは骨が折れるのか、軽く息を乱していて移動速度もかなりのペナルティを受けて重い。

しかし彼女は欠片も躊躇する様子もなく、汗をいっぱいに浮かべた顔を勢いよく振り向かせる。

「大きな声出さない!何だか知らないけど逃げるよ!!」

「ちょ、あぶっ――――!」

とりあえず手を離して、という叫び声は当然のように聞き届けられなかった。 
 

 
後書き
なべさん「はいはい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「激動すぎない?この回だけで」
なべさん「うーん、でも正直分けたら分けたで中途半端だったから、これでよくね?みたいな感じでこんな感じになった気がするんだよね」
レン「適当だなオイ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
――To be continued―― 
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