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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第187話 5人の候補



 オレが、いや、オレ達が降り立ったのはGGOの首都である《SBCグロッケン》の北端、総督府タワーに近い路傍の一角。

 殆ど同時にこの世界に降り立ち、目を合わした時……互いに目を丸くさせていたのは言うまでもない。

 一応ある程度は集合を決めていたものの、時間をそこまで細かく示し合わせていた訳ではないから。それに、ダイブ先が全く同じだと言う事も驚愕だ。

「……やっぱり、何時もながらだが、変なところで息があってるんだな? オレ達」
「だな。……もう結構付き合いも長いし」

 互いに苦笑いしながらそう言う2人。傍から見れば、微笑んでいる美少女2人だから、結構絵になる。……人通りが少ない場所で2人にとってはよかっただろう。それに、こんな展開は以前の世界、SAOでも何度かあるから少し懐かしんでもいた。そして2人はある程度笑いあった後、本題に入る。

「……総督府まで歩きながらにしよう。《聞き耳》のスキルがあるかもしれないが、ここでなら問題無いだろう」
「そうだな」

 誰が聞いているか判らないから、ある程度は警戒するべきなのだ。2人は相手と違って、かなり目立ってしまうから……と言う事も勿論あるだろう。

「……以前言った事だが」
「ああ。……リュウキが言っていた、カマかけ作戦の事か?」
「それだ。別に作戦名まで言った覚えはないが……まぁ良い。……反応したのは結構いたけど、中でも悪意を感じたのは1人だけ。……判りやすかった。全員にかけれた訳じゃないが」
「……死銃は1人じゃない、複数の可能性大か。100%、とは言わないけど、強ち的はずれって訳でも無いか」

 キリトとリュウキは更に会話を続ける。

「的外れって、……結構失礼な事、言ってくれるな? キリト」
「って、言葉の綾だよ! ……それより、相手っていうのは?」
「ん。……本戦には参加していない様だ。あの予選の時ずっと会場にいたみたいだから。……別アカウントを使って参加、も考えたけど、時間的に無理だ。……本戦に参加しない以上、今回のBoB内では多分驚異としてはゼロに近い。……不正介入をする様な真似は無理だし。一応、外でも見ててくれてる人はいるから」

 リュウキは、腕を組みながらそう答える。


――……まだ、その名を言うべきか少し迷っている部分も何処かにはあった。


 異様な気配を醸し出した相手。……その相手は彼女の友達だったからだ。はっきりと判明したわけじゃないけど、それがリュウキを迷わせる枷になっているのだ。

 だけど、今回のこれはゲームじゃない。……遊びじゃない。

 実際に人が死んでいるのだから。この世界ででは、探りを入れて、ボロを出す可能性は極めて少ないだろうけど、知っていたほうが良い。リュウキは最終的にそう判断し、キリトに名を、当事者として考えている者の名を言おうとした時。

「あ……」
「ん……?」
「………」

 ばったりと出会ってしまった。……麗しき凄腕冷静美少女スナイパーである彼女に。キリトは、何やら固まっていて、シノンは露骨に嫌そうな表情、リュウキはただ軽く会釈をしていた。




――シノンは、考える。




 シュピーゲルと別れた後、ただ街中を歩きながら考えていた。今回のBoBは以前よりも増して、厳しい戦闘になるだろう。……予選で自分を打ち負かした彼もそうだが、その彼と同等に戦いを続けていた彼も。

 憂鬱とさえ思える黄昏色の空を背景に、歩き続ける。

 その中でも、気づいたら考えてしまっているのは……、あの時の事だ。何で、この手に触れた温もりが忘れる事が出来ないのだろうか?もう、一日経っているというのに、まだはっきりとこの手に感じる事ができている。その根源が、どうしても判らない。……なんで、そこまで思ってしまうのかが、判らない。……だけど、その事を考えていると、自分のことで手一杯の筈なのに、少しだけその大変な自分のことを忘れることが出来る。

 それは、決して強さなんかじゃない、ただ 忘れているだけだから、手痛いしっぺ返しをもらう事だって判っている。だけど、考えていない時は……何処か心に落ち着きさえも産まれているんだ。

 ……等と、心の中で自問自答をしている最中だ、ばったりと出会ってしまったのは。

 もし、出会ったのが……彼1人であったとしたら、ちょっと動揺してしまうかもしれなかった。だけど、幸い?な事にもう1人いる。以前の事もあって、嫌悪感が十二分に頭の中に生まれてきた為、そのおかげで誤魔化しをする事が出来たのだ。

「や! シノン。今日は宜しく」

 嫌な顔をしているというのに、彼は、キリトは最初こそ固まった様だけど、何処にも躊躇い等が無い様子だ。……キリトを知っている者からすれば、十分に色々と考え苦悩すらもしつつ声を掛けている事が判るんだけど……、シノンにはそうは見えないだろう。リュウキはリュウキで、軽く挨拶をする程度。

「……よろしく、ってどういう意味」

 フン、と鼻を鳴らしながら、藍色の瞳をギラつかせていた。それを見ただけで、キリトにはやや後悔の顔色も見えたが、ここまで来たら後にはひけないだろう。

「まぁ これから戦う相手には……なかなか言えない言葉だな」

 リュウキも、キリトの気兼ねない接し方を見て、苦笑いをしていた。

「まったくよ。……白々しい」
「い、いや、いいじゃないか。お互いベストを尽くしてって事で! そ、それにリュウキまで一緒に批難しないでくれよ」

 キリト1人孤立しかけていたから、思わず抗議をリュウキにもしていた。別にリュウキとしては、そこまでいうつもりは無かったんだけど……、と苦笑いをしていた。

 キリトは、まず最初にシノンに話しかける、と言う選択肢が間違えていた様だ、と後悔。接触はリュウキに任せれば良かった、とも。……だけど、もうここまで来たら後には引けないから、ヘコタレずに言葉を重ねた。

「え、えと。それにしても えらく早い時間からダイブしているんだな。……人のこと言えないけど、まだ大会まで3時間はあるぞ」
「ん。……正確には3時間5分」

 街にある時計を見て時刻を確認するのはリュウキ。以前時刻に遅れそうになってしまった事もあって、普段よりもやや敏感になってしまった様だ。……ちなみに、それはシノンも同様だ。

「昨日は誰かさんのおかげで危うくエントリー為損ないそうになったから」

 ぷい、と背ける彼女。流石にそう言われたら、リュウキも反論する。

「……その誰かさんの中にはシノンも入ってるだろ? ……色々とオレに聞いていたんだから」
「うぐっ……」

 小さく咳き込むシノン。 振り返って軽くその藍色の眼で睨みをきかせてくるが……、直ぐにため息を吐いていた。

「それに関しては、私の落ち度だわ。……でも、大体そっちだって今から潜ってるじゃないのよ。 アンタ達に暇人見たく言われたくないわよ」
「い、いやいや、そこまで言うつもり無いって。た、ただ……その~」

 リュウキの一言でやや好戦的に構えていたシノン。
 ここでの発言はまさに火に油を注ぐ様なものだから、慎重に慎重に言葉を選ぼうとしていたキリト。それを見たリュウキは言葉をキリトに代わって繋げた。キリトは随分と時間が掛かっている様子だから早く!という事だ。……流石はリュウキである。

「色々と教えてくれないか? 少し、今大会の事で。……必要な事なんだ。頼む」

 リュウキは真剣な顔つきを……、と言うより元々同じ顔だ。シノンにはそう見えた。そして、キリトは心底この男が一緒にいてくれて良かった、と思わずにはいられなかった。何より、キリトは当初のシノンに声をかけた時の事もあるけれど、自分にはアスナという相手がいる。

 ……仮想世界でも許容されざる行為だと思えるが、これは天地神明に誓って、ナンパ行為じゃない!

 と、心の中で絶叫をした。……横の男にそんな自覚が元々あるかないか、それは判らない……いや、判る。全く考えてないだろう。彼にもレイナと言う相手がいるんだけれど、そんな事は露とも考えていない様だ。

 リュウキ自身はただただ、自分の使命、任務を果たす為、新たな犠牲者が出ない様にと考えているのだ。……何よりも、目の前にいる彼女にもその魔の手が及ぶ可能性がある。……考えたくない事だけれど、あの件もある。


――可能性は、考えたくないが高いと言わざるを得ないんだ。



「まぁ、いいわよ。……アンタは、別に良いのよね? 何だか、さっきからコロコロ表情変えてるだけだし」

 シノンはとりあえずOKを出した。……リュウキに。

「じゃ、とりあえず向こうで」

 そして、シノンはドサクサに紛れてリュウキの手を再び取った。再び、あの温もりが身体の触覚信号として脳内に叩き込まれる。

 ……無意識に、それに飢えていた? ……もう一度、感じたかった?

 シノンはその一瞬頭に過ぎった考えを一蹴する様に軽く首を振った。

「え、は? い、いや……」

 しどろもどろになっているキリト。……リュウキは苦笑いをする。シノンは本当にキリトの事を毛嫌い、と言うか敵意をものすごく向けている。……昨日、打ち負かしたのは自分なのに、それ以上のモノをキリトに向けているのだ。

「……一体ナニしたんだ? キリト。 シノンに」

 だから、ため息を吐きながらも、そう聞いていた。

 まず間違いなく、あの時。……あの性別がバレた? 時に何か不味い事をした様だ。それをかなり根に思っている様だ。ビンタの1発や2発で許さない程に。

「あ、あはは……その……」

 思わずキリトはリュウキの問いに答えそうになった瞬間。

「……言うな!」

 シノンの眼光が、言葉が弾丸となってキリトに発射された。撃ち放たれたその弾丸が、キリトの脳天を貫いたかの様にキリトは仰け反っていた。

「は、はい……」

 シノンの一撃に思わずキリトは頷いた。
 全面降伏、と言ったところだろうか、リュウキはこれ以上聴いても答えられないし、何より別に意味のない事だから、聞く事を止めた。

「すまないがキリトも一緒に頼むよ。 ……別に今大会で共同戦線張ってる、って訳じゃないから。ただ、情報の共有はしよう。と決めていた事なんだ」
「………」

 シノンは、その言葉を聞いて一頻り睨んだ後、目を伏せた。一先ずOKの証だと受け取った。掴んでいた手を離し……(僅かながら、名残惜しそうに)、すたすたと歩き始めた。その後にキリトとリュウキが続いていった。









 総督府ホールの端末で、参加エントリーを済ませた3人は、タワーの地下一階に設けられていた広大な酒場ゾーンに向かった。

 シノンは奥まったブース席にするりと腰を下ろした。ドリンクメニューを眺めるシノン。……ちなみに、ここは酒場だと言う事もあり勿論アルコールの類の名前も連なっているけれど、……目もくれないリュウキ、いや 露骨に目を反らせた。

「ん? どうかした」

 シノンは、その僅かな挙動を見逃さない。……色々としてやったり!とされていたから、何か弱点でも、と思った、というのは別の話。

「……いや」

 リュウキは、軽く首を振って、選んだのはハーブティ。……なんで酒場にあるの? 雰囲気壊れない? と思ったけれど、一番良いのがこれだった。

「ははは……、いや コイツちょっとトラウマが合ってな? その、酒に。何せ、リュウキは、いぜn“ずんっ!”っっ!!」

 キリトが親指でリュウキを指しながらそう言おうとしたのだけど……、足先に電流が走った様に、飛び上がりそうになった。勢いよく、キリトの足を踏みつけた様だ。

「……酒って、アンタ達未成年じゃ、って判らないか。 アバターだし。それに仮想世界なら別にどうってこと無いし。……まぁ 泥酔は勘弁だけど」
「何でもない。……忘れてくれ。それにオレ達は現実では未成年、だ」

 リュウキは早々に終わらす。……良いカードを得たな、とシノンは軽く笑っていた。

「た、たはは……」

 キリトは、足に走る疑似痛覚に耐えながら、注文したジンジャエールを半分ほど飲み干した。アインクラッドと比べたら随分と素っ気ないシステムだけど、GGOの世界観、雰囲気にはマッチしている。
 ……リュウキのハーブティはちょっと別だけど。

「ふぅん。……ま、良いわ」

 シノンはとりあえず、それ以上は何も聞かずに頷いた。

 でも、何れは色々と聞いてきそうな気がするのは気のせい、じゃないだろう。

 今は気まぐれを起こしただけかもしれない。……シノンは、リュウキやキリトを見ながら、随分と対照的な表情をしている2人を見て、まるで猫の様な笑みを見せていた。



 そして質問タイム?に入る。

「えっと、本戦のバトルロイヤルってのはつまり、同じマップに、今回は45人がランダムで配置されて、出くわすそばから撃ち合って、最後まで生き残った奴が優勝……ってことだよな?」

 キリトがうんうん唸りながらそう聞いていた。横でリュウキは涼しい顔をしながら、ハーブティを楽しんでいる様だ。そして何だか、腹が立った様子のシノン。珈琲のグラス越しにキリトの方を睨み、言う。

「……何が 『必要な事』なのよ。真剣な顔して何聞くのかと思ったら、ただ私に解説させようって魂胆じゃない。だいたいそんなの、運営が参加者に送ってきたメール見れば全部書いてあるわよ」
「それに関しては、ごもっとも、だ」

 シノンにすかさず同意するリュウキ。再びハーブティの入ったカップを口に運び楽しんでいる。

「い、いや 一応……読んだんだけどさ」

 キリトは唸る。……間違いなく、リュウキは読んでいるだろう。説明書を読まないタイプじゃなさそうだから、と言う事もあるし、これまでのゲーム(とは言っても、SAOとALOしか知らないが)では、説明書は疎か、攻略本も真っ青な情報を持っていたのだから。

 ……因みに、正確には一度キリトはざっと流し読みしたあと、ゲーム内で、再度しっかりと読み直そう(リュウキに聴きながら)と考えていた。だがしかし、その前に熟練者でありBoBにも参加した事のあるシノンに出会ったからには、やはり直接レクチャーしてもらった方が断然早い。

 リュウキには、だいたいバレている様で、横目で見ながらため息を吐いていた。彼の言う必要な事は、聴きたかった事は……こんな基本中の基本の事じゃないから。

「え、えっと。オレ自身の理解が正解か、どうか。を確認しておきたいかなーって……」
「なら、聴けばいいじゃない。私じゃなくたって」
「……いや、リュウキも初出場って言うし。……ここはシノンさんに頼りたい、と思いまして」
「物は言いようね」

 冷ややか極まる声のシノン。
 ……我関せず、とまではいかないけれど、話に加わってこないリュウキ。2人の冷ややかな視線と仕草をダブルで喰らったキリトは心胆も冷える思いだった。

「まぁ、基本的にはあんたが今言ったとおりよ。参加者45人による同一マップでの遭遇戦。開始位置はランダムだけど、どのプレイヤーとも、最低1kmは離れているから、目を開いたらいきなり、なんて事にはならないわ」
「い、1キロ?? って事は、相当マップ広いんだな?」

 思わず口を挟んだキリト。
 流石に、リュウキのため息が場に聞こえる程大きくなっている。

「キリト、絶対に見てないだろ? 説明メール。……もしくは流し読みか。基本中の基本だろ、それ。……参加者45人、それに予選の時の1対1でのマップの事も考えたら、想像出来るだろ?」
「う……」

 ぐぅの音も出ないキリト。
 まさかの仲間? からのお説教の場面を見たシノンも思わずリュウキに習ってため息を吐いていた。……盛大に。

「……ったく、メール位全部読んでおきなさいよ。それにそんな情報、一番最初の段落に書いてあるわよ。 マップは前回は直径10kmの円形だったけど、プレイヤーの数が増したから、広がって15km。 山あり森あり砂漠ありの複合ステージだから、装備やステータスタイプでの一方的な有利不利は無し」
「ん。違いないな。確かに最初の段落だ」
「わ、悪かったよ……、ってそれより15って……」

 キリトが思い浮かべているのは、あの城、浮遊城アインクラッドだ。あの城の第1層のフロアの大きさが確か直径10kmだったはずだ。その更に1.5倍もの大きさを誇る広大なフィールド。……1万人もの人間が同時に狩りを出来るフィールドにたった45人のプレイヤー、それもたっぷりと間隔を開けて配置されてる。

「まぁ、だいたい考えてる事は判る。『……こんなんで遭遇出来るのか?』 って思ってるんだろう?」

 キリトの顔を見たリュウキはそう聞いた。
 それ程の広大なマップで思い浮かべるのはあの城の事だから。ALOを考えたら、それ以上に広いワールドマップだが、アレは横に広がった世界。SAOは云わば縦に広がっている世界だから、一番しっくりと考える事が出来たのがあの第1層の始まりの街なのだろう。

「あ、ああ。そうだ。 だって、下手すると、大会時間終了まで誰とも出会わない可能性も……」
「この世界は銃の世界、って事忘れてないか?」
「そうよね。……どっかの誰かはその《銃》の世界に、剣なんか持ち込んでるんだから、考えつかなかったんでしょうね」

 銃の部分を強調する。何だかトゲのある言い方のシノン。
 銃使うプレイヤー達がザクザクと斬られてしまっているから、少なからず敵視が強いのだろう。

「銃で撃ち合うゲームだ。其れくらいの広さは必要だろう」
「ええ。スナイパーライフルの射程が1キロ近くあるし、アサルトライフルだって500メートル、……そんなの持った45のメンバーが狭いマップの中に押し込められたらどうなると思う?」
「え、えっと……」

 そう聞かれて、キリトは考える。
 つまり、始まったばかりで殆ど目の前にプレイヤーがいる様な、視認出来る距離にいたとしよう。そんな場所で飛び道具、それもSAOでいう投擲スキルなんか比べ物にならない、比べたらいけない程の攻撃力抜群の飛び道具が其々に常備されている。出会った瞬間……。

「バリバリの撃ち合いになる、かな?」
「だな。……同士討ちも含めたら あっという間に半分程は死ぬだろうな」
「正解。……実際狭い場所で突然の銃撃戦、経験した事あるけど、あっという間だったわ」

 ここに、経験者がいるから間違いなさそうだ。キリトは納得した様で頷いた。そして、何より……。

「(……結局丁寧に解説してくれてるなぁ、つっけんどんな物腰のアバターの向こう側には、実は親切で心優しい女の子が……)」

 とか何とか考えたキリトだったが、直ぐに考えを止めた。この表情を読まれでもしたら、大変だから。……視ているのはシノンだけじゃないから。

「まぁ、キリトの考え通り、剣だろうが銃だろうが、相手がいなきゃ始まらない。遭遇しないと戦いは始まらない。……それを逆手にとるプレイヤーも出てくるだろう。漁夫の利を狙う者とかも。……だから、参加者に配布される、だったよな?」
「ええ。《サテライト・スキャン端末》をね、って……私、ほんとに必要なの? アンタがいれば十分じゃない」

 リュウキの話を聞いていたら、初心者には十分過ぎるだろう、とシノンは思った。メールを読むのが普通とは言え、それなりの量の文面だ。……見たくない、とか判らなくもないかもしれないから。

「いや、オレ自身も確認はしたいから、頼むよ」

 リュウキはそう言うと仄やかに笑みを見せた。柔らかな笑みだ。シノンは思わず顔を背ける。……相手はアバター、それも女顔のアバターだ。別に、そっち系の趣味がある訳じゃないのだが、何故だかこの相手は違う。……アバターの奥にある真の素顔までが見えていないのに、感じられるから。

「っ、仕様がないわね」

 頭を振ってそう言う。……背けた、という仕草を、それで誤魔化す様に。

「え、えーっと、オレを置いていかないで……」

 残されたキリトは、哀愁を漂わせていた。……3人いて、1人だけハブられる状況程嫌なものはないのだから。

 その後、《サテライト・スキャン端末》についての説明は終了。

 どうにか聞く事が出来たキリトはその性質を考える。

「そんなルールがあるなら、スナイパーは不利じゃないか? 15分に1回上空を監視衛星が通過する、って設定があったら、 茂みの中で里芋みたいに、じーっとしてひたすらライフルを構えてるのが仕事だろ?」
「……里芋は余計よ」

 キリトに藍色の火花を。一瞥を浴びせるてから、シノンは不敵な笑みを返していた。

「1発撃って1人殺して1km移動するのに、15分もあれば十分過ぎるわ」
「……自信満々の様だが、過信は油断を生むぞ?」
「……う、煩いわね。油断なんてもう微塵もないし、しないわよ! 特に、アンタ達には!」
「え、ええ! お、オレまで……」

 2人の剣幕に巻き込まれてしまった、というより、火種を放り込んだのは自分だから仕方がない。でも、よくよく考えたら、リュウキが言う過信、というのは彼女には無さそうだ。予選で敗れた、敗北という糧も存在しているだろうから。それに、そもそも衛星頼りにシノンを奇襲に行こうものなら、逆にそこを狙い撃ちされかねない。たった1発で致命傷……じゃなく、即死武器を持っているのだから、1発でアウトなのは正直きつい所がある。

「えっと、とりあえず、試合が始まったらとにかく動き続けながら敵を見つけて倒して、最後の1人になるまで頑張る……って事だよな。 そんで、15分事に全プレイヤーの現在位置が手元のマップ端末に表示される、と。 その時にはあと誰が生き残ってるかも判る、だよな? ……これで合ってる? 2人とも」
「だいたい合ってる」
「……って、オレまで聞くなよ」

 初心者1人、熟練者2人、と言う構図になってしまっているかの様だ。

 強さは除けておいたとしても、この世界での知識量を考えたら、圧倒的にシノンの方が上なのだけど。

「え、っと…… つい、な」

 キリトは頭を掻きながら笑う。……仕草の1つ1つがまるで少女そのものだ。とはリュウキは間違ってもツッコマナイ。何故なら、自分自身にブーメランの様に跳ね返ってくるのが判りきっているから。……自分の容姿、見た目を考えたら。

「じゃ、用は済んだわね。次会う時はアンタ達にへカートの一撃を喰らわせる時だから」

 シノンは、そう言うと離れようとする、が。

「まだだ。……もうちょっとだけ、頼む。寧ろ出鼻をくじかれてしまったが、ここからが本題なんだ」

 シノンの隣で座ってたリュウキは、彼女の手を掴んだ。その感触がまた、脳内に電気信号として、叩き込まれたシノンは、思わず震えてしまいそうになるが、何とかこらえる。

「く、くじいて悪かったな! って、そうだよ。ここからが大事なんだ、オレからも頼むよ!」

 キリトの一声で、更に冷静さを取り戻すことが出来た。……いけ好かない男の声だから、と言うのは内緒だ。……シノンは全然内緒な感じにはしてないけれど。

「……何があるって言うのよ。と言うか、最初からアンタからばかりだったわね」

 シノンはキリトの方をジロッと睨んだ。

 リュウキにも必要な事だと、言われ頼まれた。本当に教える様な事があるのか疑問さえ浮かべるこの男にだ。だけど、いざ聞いてみればキリトの質問コーナーばかりだったから、改めて思い出したら何処か腹が立った様だ。

「うぐ……」

 確かにその通りであるから、キリトは何も言えない。……だけど、どっちでもいいから言ってくれなければ話は進まない。

「も、良いから 本題に入るぞ」

 リュウキは、またまた……何度目かわからないため息を吐きながら、可視化したウインドウをシノンに見せた。そこに映っているのは運営が送ってきたBoB本戦出場者一覧。45人の参加者の名前を列挙したページだ。……当然だけど、勿論Fブロックの名前もあり、1位リュウキ 2位シノン 3位キリトの名前も見える。

 多分、シノンはそこに目がいったのだろう。猫が怒った様な可愛さではなく、ジャガーが怒ったかの様な皺を鼻筋に刻んでいた。

「なによ、昨日の予選決勝について、改めて勝ち誇ろうってわけ?」
「……はぁ、そんな小さい人間じゃないつもりなんだがな」

 シノンの怒りの表情も何処吹く風。リュウキはその威圧感も右から左へ受け流した。キリトは、『……流石だな』と思いつつも、昨日負けたのは自分も同じだから、やっぱり悔しさを滲ませ、右頬がぴくぴくと脈打つように動いていた。

「だが、オレに負けたのはシノンの責任だ。……それに、勝つチャンスだってあっただろ?」
「むぐっ……あ、相変わらず、アンタは一言が多いわねッ! 違うなら、本題にさっさと入りなさいよ!」

 リュウキのS心が疼いているのだろうか? 或いは天然なのだろうか。

「(……多分、今は後者だな)」

 と、キリトは思いつつ、話を繋げた。

「オレに言っといて、リュウキだって脱線しかけてるじゃないか。 えっと、シノン。悪いんだけど、ここに乗ってる45人の内、知らない名前は幾つあるか、聞きたいんだ」
「……はぁ?」

 シノンはなぜそんな事を聞きたいのかが理解出来なかった。この世界には、コンバート仕立てであり、経験も浅い。……だから、名前とアバターが一致する様な事は無理だろう。
『この名前の相手は、散弾銃装備、あと、この相手は……』と言った具合に。
 だから、名前を知る意味がわからない。

「頼む、教えてくれ。重要な事なんだ」

 一言余計な事を言ってくれやがったリュウキも、途端に悪戯顔の雰囲気から再び真剣味を増した顔に戻っていた。

「……まぁ、そのくらいは別にいいけど」

 シノンは訝しんではいたものの、どうやらこれが本当に聞きたい事なのだと判断して、卓上に映るウインドウに目を落とした。指でスライドさせながら、瞳を素早く左右に動かす。

「ん、もうBoBも3回目だから、殆どの人は顔見知りかな。知らない相手と言ったら、……どっかのムカつく2人以外を除いたら5人だけ」
「5人、か。……なんて名前だ?」
「………」

 リュウキとキリトの視線が一気にシノンとウインドウに集中した。

「ん……《銃士X》と《ペイルライダー》。《ジーン》、《赤羊》んと、それにこれは《スティーブン》かな」

 シノンがぎこちなく読み上げた名前を2人はウインドウ上で確認した。

《銃士X》と《赤羊》以外は全員アルファベット表記だ。2人は、リュウキとキリトは、少し俯かせると、まるで脳内に刻み込むかの様に唇を僅かに動かしながら、その名前を小さく連呼する。

「スティー……、む」

 リュウキは一通りの名前を読み上げ、最後の1人の名前、そのスペルに目を向けた時、言葉を詰まらせた。何故なら、これは《スティーブン》じゃないからだ。


――……リュウキは、彼女(・・)の影響もあって、色々と調べたり、それ関係の仕事も請け負ったりしたから。


 だから、正しく呟き直そうとしたその時。

「あのね、そろそろいい加減にして。一体何なのよ? さっきから私に訊くばっかりで、あんた達は何にも説明しないじゃないのよ」

 痺れを切らしたシノンの方が早かった。
 最初こそ、自分にただ解説をさせようとしていただけだと思っていたが、それはもう違うと言う事は判った。……何かがある、と感じたのだ。普段なら、其れこそあの色々と衝撃的な告白前後だったら、そこまで感じなかったかもしれない。だけど、シノンは見てしまったから。……2人の中に隠された何かを、その表情に。

「……」

 リュウキは、まだ視線を下に向けたままだった。そして、キリトは。

「ああ……うん……」

 ただただ、曖昧な返事で間を持たせていた。

 その5つの名前のどれかが、間違いなくあの死銃、元《笑う棺桶》所属のSAO生還者だろう。

 いや、もしかしたら……、全員がそのメンバーである可能性もあるのだ。リュウキと打ち合わせていた事もあるから。



――死銃は1人じゃないと言う事、つまりそれはその上限がわからないと言う事だ。




 
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