万華鏡の連鎖
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銀河動乱
帝国の騎士
意識が戻ると、酷い頭痛が脳髄を喰い荒らしていた。
頭が、割れる。
「鎮痛薬だ、飲め。
苦痛が消え、楽になるぞ」
思考力の失せた身体は、自動的に反応。
疑う事を知らぬ赤子の様に、声の方向へ掌を差し出す。
「手が震えているな、杯を持ってやる。
慌てず、ゆっくりと飲め」
液体が咽喉を潤し、頭痛を駆逐。
水晶≪クリスタル≫の波紋、名状し難い解放感が染み渡る。
「ガミラス星人、記憶は無事か?」
徐々に瞼を上げ、私の顔を直視。
虚勢を張り、言葉を選ぶ。
「納得したかね?」
「残念だが、機械は嘘を言わん。
帝国最強兵器ディスラプター有効射程、構造、作動原理を知る方法は無いか?」
「簡単な事だ、ショ-ル・カン。
地球の精神交換装置を使い、ザース・アーンを脅迫する。
中央銀河帝国第二皇太子、歴史研究家には時を超える術が無い。
ヴェル・クェン殺害、暗黒星雲同盟の捕虜になった事実を告げる。
装置の破壊を避ける為には、ディスラプター関連の情報が必要だ。
私には脅迫者、暗黒星雲同盟の兵士達を阻む手段が無い。
大帝は既に暗殺され、ジャル・アーン暗殺の手筈も整っている。
ディスラプター操作可能者は皆無となり、帝都の陥落も時間の問題だ。
20万年前の過去界に閉じ込められ、手の打ち様が無い第二皇太子はどうする?
暗黒星雲同盟の兵士達を騙し、本来の身体に帰還しなければならない。
公にはされていない貴賎婚の相手、最愛の妻にも破滅の瞬間が迫っているのだからね。
ディスラプター関連の情報が要る、と告げれば断れないさ」
青色人が驚き、瞳を瞠った。
「素晴らしい、完璧じゃないか!
気に入ったぞ、ジョン・ゴードン!!
20万年前の過去界には、大胆な男達が誕生していたらしいな!」
私の鏡像は闊達に宣い、親近感を抱いたと見える。
「お誉めに与り、光栄至極とでも云っておこうかな。
ディスラプター関連の情報を獲得すれば、勝利は確実かね?
他に何か、僕に出来る事はあるかい?
野望達成の暁に皇帝の座、リアンナ姫に手を出さない事も保証して貰うよ」
「あんな高慢ちきで貴族意識の高い女、ろくなもんじゃないと思うがね。
統一帝国の象徴《シンボル》になれば、もっと凄い美人達が君に求愛するぞ」
「リアンナ姫は渡さない、地球にも連れて行く!
他の女をあてがう気なら、先刻の約束は反故にしてやるからな!!」
「なんだ、彼女が君の弱点《ウィーク・ポイント》って訳か?
人質として残そうかと思ったが、そこまで惚れ込んでいるなら逆効果だろうな。
私は君と違って、奇麗な顔なんぞに興味は無い。
好きにしろ、厄介払い出来て助かるよ」
「ザース!
無事だったのね!!」
部屋に戻ると、リアンナ姫が声を弾ませた。
不安、孤独、閉塞感の相乗効果。
極度に神経を消耗、憔悴した表情に胸が痛い。
「極秘の情報を得る為、私と君を地球に送らねばならないと信じさせた。
監視の目を盗み、ジャル・アーンに警告を発しなければならぬ。
リアンナ、協力してくれるね?」
「もちろんよ、ザース!
私は、何をすれば良いの?」
「具体的な計画は、これから立てる。
とりあえず、暗黒星雲の料理を堪能しよう」
盗聴されている事は、百も承知だ。
青色人達は腹を抱えて、大笑いしているに違いあるまい。
白色彗星帝国軍の監視艦隊司令、ミル酷似の青色人リン・カイル指揮の数名も隠密作戦に同行。
コルビュロ経由の情報に基き、星間パトロール中の艦艇を避けて地球に向かう。
リアンナ姫は闇《ダーク》航行中、気鬱の病に罹り感情が暴走。
『星が見たい』と駄々を捏ね、青色人達も手を焼いた。
個室の壁一面に星空が投影され、徐々に移動。
草原地方の騎馬民族に倣い、星の位置を読み現在位置を探る。
薄々予想はしていたが、指標となる星の特定は難渋。
現在位置が掴めず、大脱走は無謀と判断せざるを得ぬ。
精神感応増幅装置の操作手順を懸命に思い出し、地球着陸後に実験を開始。
私の身体に転移した第二皇太子、鍵を握る重要人物と時を超える念話を試みた。
思念波増幅装置《サイキック・コンヴァーター》は無事に動き、精神接触を実現。
ザース・アーン本人は実戦の経験が無く、戦術指揮の訓練も受けておらぬ。
事態打開の妙手は無く、私の実績を考慮して情報を提供。
研究所の設備と機能、操作手順を頭に叩き込む。
第一に為すべき事は、敵の戦力を確かめる事。
青色人達の思考、記憶を探る為に精神感応増幅装置を調整する。
波長を合わせ精神測定《サイコメトリ》、盗聴《タッピング》を開始。
別の潜宙艦《ファンタム》1隻が衛星、月の裏で隠密作戦を援護中と判明した。
地球警備隊は貧弱、常駐の戦闘艦も皆無。
加速装置内蔵の戦闘用改造生命体009、変身能力者007等が現れる気配も無いが。
宇宙偵察機008号が銀河辺境星域の巡視中、地球に着陸して推進機関を調整中。
使用可能な手段を組み合わせ、事態を打開せねばならぬ。
私は地球警備隊の最高指揮官に遠隔精神感応、心話で事情を説明。
続いて遠距離偵察機デバステーター、もとい、宇宙偵察機の搭乗員に思考を送る。
(暗黒星雲同盟の潜宙艦《ファンタム》が、地球に着陸した!
帝国宇宙軍の名に懸けて、救助を求む!!)
他者の思考を傍受する事に慣れた超能力者と異なり、幻聴の類と疑われて当然だが。
白色彗星帝国軍の優秀な戦士、メーザー酷似の青年士官は迷う事無く思考を閃かせた。
(QX《クリア・エーテル》、緊急出撃《スクランブル》する!
敵の着陸した場所、数、状況を教えろ!!)
(潜宙艦《ファンタム》が、2隻!
エベレスト麓、月の裏側に着陸!!
敵は私の研究所に数名の他、総て艦内!
出来れば麻痺銃《パラライザー》で敵を撃ち、設備の破壊を阻止して貰いたい!!)
(わかった、麻痺ビーム放射器を使う!
君も失神するが、一網打尽にしてやる!!)
私は意識を喪う前に、宇宙偵察機008操縦者に関連情報を提供。
連合艦隊司令官コルビュロ、シリウス出身艦長の裏切り行為も告げる。
精神感応増幅装置は銀河パトロール隊の認識票、レンズ同様に思考の真偽を証明。
困惑して当然の事態であったが、青年士官は数秒後に腹を据えた。
(ザース・アーン殿下、御命令を!
帝国を救う為、忠誠を誓います!!)
(QX《クリア・エーテル》、協力に感謝する!
敵に悟られず、麻痺砲の射程内に接近可能か?)
(偵察機は探知フィールド無効化仕様、隠密活動用ECM装置も強力です!
数分間、お待ちください!!)
(私の心配は無用だ、優先順位を間違えてはならん!
月の裏で待機の敵艦は常時、研究所と僚艦を見張っている筈だ。
先に後方援護の潜宙艦《ファンタム》を無力化、麻痺砲で照射せよ。
焦らず、急がず、慎重にな!)
メーザー酷似の青年士官は要請を受け容れ、数分後に緊急発進《スクランブル》。
宇宙空間で視認を困難とする為、艶消しの黒で塗装した偵察機が敵を襲う。
私は精神感応増幅装置を操り、地球警備隊の最高責任者に事情を説明。
暗黒星雲同盟の軍人達が意識を喪っている間に、警官達が捕縛の手筈を整えた。
月の裏で麻痺ビーム放射装置が唸り、潜宙艦メリック号の乗組員は意識を喪失。
続いて地球の研究所一帯に向け、不可視《ステルス》の波紋を放つ。
不法侵入者達と共に私も麻痺砲を浴び、目覚めた後に精神感応増幅装置を操作。
黙秘を貫く捕虜を尋問の際、盗聴《タッピング》に徹する。
ミル酷似の監視者が唯一、帝国転覆の陰謀を察していた。
「長官は艦隊司令部居住区、カイザー転送機の操作室に移動!
内部から施錠、立て籠もっています!!」
「動力遮断、妨害フィールド展開せよ!」
乗員の機転で転送機は停止。
相原通信長に酷似、地球出身の青年士官ヴァーリン他数名が拳銃を握る。
裏切者は徹底抗戦を選び、波動銃も弾く壁《バリケード》の陰から連射。
戦斧《トマホーク》の連撃で壁《バリケード》は壊し、麻痺銃《パラライザー》が裏切者に届いた。
「ヤマト乗組員諸君、ありがとう。
彼は暗黒星雲同盟の機密情報を得る為、内通者を演じていた事にしておく。
大帝の襲撃は事前に知らされておらず、独断で第二皇太子を地球に匿っていた。
漸く裏切り者の尻尾を掴んだ故、私を迎えに来たと皇帝に報告すれば良い」
「殿下、感謝いたします!」
ヴァル・マーラン艦長以下、全員が一斉に頭を下げる。
「礼を言うのは、私の方だ。
大帝暗殺の真犯人を捕えるまで、情報統制は継続する」
ヤマト艦橋の要員は、常に、信頼の置ける勇者。
大宇宙不変の黄金律《ルール》は、星歴21万年超の異世界でも真理であった。
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