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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第180話 過去の闇



――殺人ギルド・笑う棺桶(ラフィン・コフィン)


 2年に及んだSAOの攻略期間において、食い詰めた挙句ほかのプレイヤーから金やアイテムを奪い取る犯罪者プレイヤーこそ、比較的初期から出現していたが、その手口は多人数で少人数を囲んで一方的にトレードを強要したり、せいぜい麻痺毒を使用したりといった範囲にとどまっていた。

《HP全損だけはさせない》

 その不文律は当たり前の様に自然に出来た。
 基本的にSAOに参加しているプレイヤー達はゲーマーが多く、上位ともなれば、重度のネットゲーマーが殆どなのだ。故に、犯罪とは全く無縁に生きてきた人間ばかりだった。

 ……だから、最後のトリガーだけは誰にも引けない、命を奪うまではしない、そう思っていたのだ。だが、それが破られたのはたった1人の異質なプレイヤーの存在ゆえの事だった。

 男の名前は《PoH》。そのユーモラスな響きのあるキャラネームだが、内包しているモノはまさに異質と言っていい。《悪のカリスマ》 と形容すべき者だ。

 そのカリスマ性を齎す要因は数点ある。

 第1のカリスマ性。
 それは、PoHがエキゾチックな美貌を持ち、更に数カ国語、少なくとも三ヶ国語を操るマルチリンガルだった事だ。恐らくは日本人と西洋人の混血なのだろう。日本語、そして流暢な英語、スペイン語のスラングの混じる、まるでプロDJのラップの様な喋り。

 人というものは、1人の人間圧倒的なその存在感や巧みに操る言語。一度、人が虜になれば。……それに一度でも傾けば。古来より、人間の中にある粗暴で原始的な姿に戻ってしまうのだ。文明社会ではありえないだろうと思える。……だが、ここは異世界なのだ。

 そして第2のカリスマ性。
 それは単純にPoH自身の強さにある。短剣使いとしての腕はかの世界でNo.1だと言う事は、認めたくなくとも、奴を知る者ならば、誰もが頷いてしまう。……それは、最前線の攻略組の中でもトップであるキリトやアスナ、レイナ。……リュウキも認めている。何故なら、システムに頼った攻撃だけではなく、まるで自分の手足の如く操る刃。それは、モンスターだけではなく、プレイヤー達をも斬り刻んだのだろう。

 そして、《友斬包丁》と言う物騒な銘を持つ武器。

 ……あの世界での用語で魔剣と呼ばれる武器の1つ。それを手に取った奴の実力は、攻略組のプレイヤーですら、恐るほどの実力を身に付けていたのだ。



 ラフコフの名が轟く切欠になった事件は2023年の大晦日の夜だった。



 30人近い規模に膨らんでいたPoHの一味。
 奴らは、フィールドの観光スポットで野外パーティを楽しんでいた小規模なギルドを襲ったのだ。
大晦日の夜に響く絶叫。

 30人もの数の暴力と、練られた人とは思えぬ残虐な手段を用い、半数以上を死に追いやった。

 そのギルドが壊滅するのは時間の問題だった……が、そこにたまたま居合わせたのが当時、まだキャラネームではなく、白銀の剣士としての呼び名が殆どあったリュウキ。

 元々彼の名前は中層~上層までに満遍なく轟いていた。アルゴの情報の件もあるが、彼は幅広く各層を闊歩しているから、救われた、と言う事実も少なくないのだ。

 彼の中のカレンダーの中に休日などと言うものはあの時は無かった。大晦日であろうと、クリスマスであろうと、関係なかった。居合わせたのは、偶々……としかいえないだろう。
 だが、その偶々、偶然で助かる命が増えたのだ。

 不幸中の幸いの1つが、あのPoHの一味は誰しもが高レベルプレイヤーと戦う準備等はしていなかった事にあった。PoHであれば、或いはリュウキに対抗できたかもしれない。だが、危険を冒さず、一方的に嬲る事を楽しんでいたフシのある連中は、そんな対決は望んでいなかったのだ。

 この時、PoHは初めてリュウキと言うプレイヤーの強さ、本当の意味でその強さを知った。

 これまでの情報でも、その実力の高さに関しては、知っていたつもりだった。……だが、それでも、何処かリュウキの事を甘く見ていた面もあったのだろう。リュウキにとって、PoHとの出会いは、あのアインクラッド第66層での戦いが初だ。

 そして、笑う棺桶の最後となったのが、あの最終戦争。

 66層での戦いの様な、以前の様な迷いは攻略組には最早無かった。シデンを、他の仲間たちを失った痛みも共に持ち……決して臆すこと無く、殺人集団と闘ったのだ。


――……もう迷わない、1つの迷いが1人の仲間を失う結果になる。


 もう、誰しもが心に弱み、……隙を作らなかった。或いは、これはゲームだ。と自らに念じ、自らを洗脳をしていたのかもしれない。

 奇襲を受け、攻略組は打撃を被ったものの それは想定内だった。一度受けた痛みは、皆に周知をしている。そして、何処から情報が漏れていようと、心の中は、心構えまでは読めはしない。
襲を当たり前、と判断できる強靭な精神を備えた戦士たちが集ったのだから。

 最終的にはラフコフの半数以上が死に、生き残りの殆どが牢獄へと入れられた。


 ……キリトも、この時3人の命を、そしてリュウキも新たに5人を殺した。








~予選会場 待機ドーム~



――……あの男はPoHではない。


 この時、リュウキは勿論、キリトもそう思った。確かに、あの世界で抑揚のない細切れの喋り方をしていたプレイヤーはいた。あの笑う棺桶(ラフコフ)の中にいた筈だと言う事は思い出していた。そして、あの戦争中に確実に剣を合わせている事も。

 
 キリトもリュウキも、同じ考えだった。


 あのボロマントの男が消え去った後、キリトは震えが止まらなかった。確かに、あの男はあの時にいた筈だった。だが、今のキリトの頭に過ぎったのはそこではない。


――……もしかしたら、あのマントの中にいたのは、オレがこの手で殺した3人、いや4人の誰か?


 脳裏に過るのは、記憶を何処かに、心の奥に放置した筈だった。忘れ去ったつもりだった。目の前にいるリュウキの背中を見ながら、後ずさりをする様に、背後に備え付けられている椅子に力なく落ちた。

 心底おびえている。両手を見たら、それが震え続けているのも判る。

 キリトは、震えている両手を見た後、目の前にまだ立っているリュウキを見て。

「………つよい、よな」

 不意に、キリトが声を発した。これは考えていった言葉ではない。あの男が死銃だと言う事を目の前のリュウキは看破した。

 そして、更にあの時の悪夢を一笑する様に、跳ね返す様に、彼は押し退けた。


――やっぱり、オレは仮初、なんだ。オレには。なんの力もない。


 キリトの中でそれは、何度も思った事だった。いままでの事件でもそう。

 SAOもALOでも。

 ……この男がいなかったら、なにも出来なかった。これまでも、そして、今も。そう、どんな言葉で取り繕うと、乗り越えたと勘違いしようと。……本質は変わらないんだ。

「………やっぱり、オレは、なにも変わらない」

 キリトが続いてそう言う。
 肩を落とし、両の肩を掴み、そして震えていた。アミュスフィアの安全装置が働き、自動ログアウトをしてもおかしく無い状況。そんな時。声が聞こえた。

「……つよい。……それは、オレの事が、か?」

 その声を聞いて、キリトは思わず顔をあげた。先ほどのリュウキの声じゃない。いや、声自体は、別人に変わった、と言う訳ではなく単純に覇気の問題だった。

「キリトには、そう見えるのか。今のオレが」

 この時、キリトは初めて判った。リュウキの肩が、いや、身体が僅かに震えている事に。

 リュウキはゆっくりと振り返ると、キリトに対面になる様に座った。

「……オレは強くなんかない」
「なに、言ってるんだよ……」

 キリトはリュウキの返答を訊いて、直ぐに返す。そんな訳無い、と弱々しい身体に喝を入れて、それを声に変えて。

「……お前がいなきゃ、オレは逃げていたかもしれないんだ。……アイツがあの連中の1人だと知ったその時にでも、……オレは」

 キリトがそういった瞬間、リュウキはキリトの目を見た。リュウキの赤い瞳がキリトの目を捉えた。

「……知ってる筈、だろう。キリト。……オレはひとりじゃないから、立ち上がる事ができるんだって事を。……なにも変わらないのはオレも同じなんだ」

 リュウキも何度も思い起こしている事だ。


――小さな世界で膝を抱えていた自分を、本当の意味で解放してくれたのは、支えてくれた仲間達、レイナだった。


 そして、心が砕けかけたあの戦いの時。
 他人の命を……。幾ら、最悪の連中だとしても、同じ命だ。幾らそう思い、自分自身に言い聞かせても。止めどなく流れ出る涙を止める事が出来なかったんだ。

 止めてくれたのは、支えてくれたのは、目の前のキリトだった。あの時、支えて連れ帰ってくれなかったら、自分がどうなっていたかなど判らない。

 だからこそ、何度だって言える。自分ひとりでできる事なんて、たかがしれている。

 ひとりじゃなかったから、ひとりじゃなかったからこそ、最後まで立つ事が出来た。

 ……あの世界の終演の時も、命を諦めずに抗う事が出来たんだ。



「お前が、キリトがいたから。いてくれたから、あの時、あいつらとの戦いの時だって。命を諦めたあの時だって。キリトや皆にに支えてもらえたから、オレがオレでいられた、強くあろうと思うことが出来た。……もう、何度も言わせないでくれよ」

 リュウキは、そう言って苦笑いをしていた。
 キリトは、その笑みを見て……一先ず落ち着きを取り戻す事が出来たんだ。


――そう、オレは、オレ達は。誰もがひとりじゃないからこそ、立ち上がる事が出来たんだ。


 それを思い返す事が、思い出す事ができた。自分がそうである様に、リュウキだって、完璧な超人という訳じゃないんだ。

 自分の弱い部分を認めて、受け入れ、そして、前に進めるのは仲間たちがいたから。

「……そう、だったな。はは、悪いリュウキ」
「いや。お互い様、だ」

 リュウキは、キリトにそう言う。

 先ほどの、あの男に対する挑発もそうだ。……目の前のキリトの前で情けない格好なんてみせたくなかった思い、そして、頼れる相棒が傍にいたから、それらがあって、全面的に前に出すことが出来た。
……だから、あんな行動が言動が言えた。……出来たのかもしれない。
 あの死銃と名乗る者が、笑う棺桶のメンバーなのだとしたら、尚更だ。

 そう、仮にキリトが先ではなく、自分が先にあの男と出会っていれば?

 キリトの様になっていた可能性だって大きい。……いや、間違い無い。そして、もう1つ思う所はある。

「……オレが、最初に。キリトより先に、あの男と出会っていれば、キリトは来てくれたよ。……絶対」

 リュウキは、そう言った。そう、自分がキリトの前に立てた様に、キリトも自分の前に立ってくれた筈だと、リュウキは思っていたのだ。いや、思うではなく確信していたのだ。




 キリトは、それを聞くと、仄かに表情を赤く染めた。

 男同士で……と、客観的に見れば思うかもしれない。だけど、それこそ無粋だ。2人の絆は、何よりも固く、強い。同性だからこそ、結べるモノがあった。

 それは、2人の最愛であるレイナやアスナとは、結ぶ事が出来ない形。愛情ではなく、友情。

――綺堂に教えてもらったのは親愛。
――玲奈に教えてもらったのは愛情。
――そして、和人に 教えてもらったのは固い友情だった。


「「……はは」」

 リュウキとキリトは互いに軽く笑っていた。……2人ともが同じ事を考えていたのかもしれない。だからこその笑みだった。



 そして、数秒後。

「……ちょっと、気を紛らわしてくる」

 キリトがリュウキにそう言っていた。あの男との接触により、少なからず精神を乱されたからだ。それを引きずる訳にはいかないから。

「ああ。そうだな。……こんな所で負けるなよ? キリト」
「はは。負けるかよ。……大体掴めてきた感じもする。……準決勝まで更に力つけて、リュウキ挑む。……簡単には負けないぜ」
「それはまだ甘い。 1戦や2戦程度で掴める程 銃戦は甘くない。それに言っただろ? 簡単に勝つつもりはないさ」
「生憎、こっちは剣だ。……なら オレは超ハード・モードの銃ゲームをクリアしてみせる!」
「まぁ、そうだな。キリトの剣は厄介だ。それを踏まえて……頑張れ」
「……久しぶりにきいたな! その嫌味な感じ!」

 SAO時代よく聞いたセリフを思い出すキリト。

『まぁ、頑張れ』

 何度、思った事か……、それは激励、と普通は思えるのだけど、キリトがリュウキから聞くとどうしてもそうは聞こえなかった。それも良い思い出の1つ……だろう、多分。

 キリトはそのまま、席を離れた。軽く歩き……、そして他人の戦いを見る。まだ、リュウキの言うように、自分には絶対的に経験が足りていない事は自覚しているからだ。必ず本戦ではあの死銃との戦いになる。剣が使えるから、と言っても銃の腕が全くない自分にとって、それが致命傷に成りかねないのだ。だから、少しでも知る必要がある。

 そして……、幾ら言われても、キリトは思う。『リュウキの脚を引っ張らない様に』と。






 キリトが席を外した更に数秒後の事。視線を外し、リュウキはただ一点を。……備え付けられた無地の机の一点を見つめていた。

「……思い出してしまったんだ、な」

 リュウキは両肘を机につき、そして手を組んで額につけた。

 思い返すのは、あの戦争での事。

 いや、あの最終戦争だけじゃない。……戦友を失って、我を忘れた時の事もそうだ。幾つモノ命をこの手で奪ったあの事実を。

 確かに、あの時。本当に心が壊れる寸前だった、と自分自身でも判る。確かに、あの時、皆に、キリトに助けたもらった。

 それでも、その爪痕は確実に心に残っている。新たな闇となって、心に残っている。だけど、その闇は消せるものじゃないし、……消してはいけないモノだ。生き残った者の責務でもあるのだから。

 幾つモノ傷を負ってきた。それは失ってしまったり。或いは、奪ってしまった事で、沢山心に傷を負ったんだ。リュウキは、1人になった事で、それを強く、強く思い返してしまっていた。

「……はぁ、なんて顔してんのよ」

 眉をひそめてそう言う。いつの間にか、目の前に彼女が立っていた。


――シノン、だった。


 リュウキは、ゆっくりとその顔を見た。シノンの鮮やかなショートヘアが揺れているのも見えた。


――ほら。……他人から見たら、オレを見たら、今のオレは酷い顔なんだよ、キリト。……オレだって同じだ。……強くなんか無い。ただ、虚勢を張っているだけに過ぎない。


 リュウキは そう思うと、何処か笑えた。

「……そんなにギリギリの試合だったの? その割には、随分と早く戻ってきた見たいだけど。……あの変態と一緒に」
「いや、何でもない。……それに、そろそろ名前で読んでやってくれ。キリトだ」
「ふん。……ってそんな事より、たかが1回戦でそんなありさまじゃ、決勝なんて夢の又夢よ。……私、あんたたちから貸しを取り立てないといけないんだから」
「直接的な貸しは、無い筈……何だがな」

 リュウキの嘲笑を見て、先ほどの彼とは思えない。とシノンはこの時察した。この男は、何時も落ち着いてて、何処か余裕があって、……いけ好かない。そんな佇まいだった筈だ。

「……同じ事よ。あんたからだって、色々と聞きたい事だってあるんだし。……頭をすっとばした後で聞きたいんだからね」
「………」

 リュウキはもう、返す事が出来なかった。何故、だろうか。……思い出したから、だろうか?

「……本当にどうしたの?」

 シノンはその姿を見て、察した、と言う印象から、確信へと変わった。
 彼を纏う不穏な気配。それは、離れているのにも関わらず、その身体の芯に居座っている何かの温度を感じた気がした。暗く、冷たい何か。……自分が求めている冷たい氷。それとは全く別の次元の温度だった。

 思わずシノンは、リュウキの、彼の肩に手を触れた。

 この時、なんで触れたのか……判らなかった。そもそも、自分からもう触れるつもりは無かった。でも、何かが彼女を動かしたのだ。

 その肩から感じるのはアバターの温もり、通常であれば、それだけの筈だった。小刻みに震えているのを感じ取れた。……そして、通常のアバターの体温は温かい筈なのに、手から得られた温感は、冷たい、そして、その温度の中に、通常では感知などできる筈もない、不明確なモノ。


――……負の感情、とでも言えばいいだろうか?


 それが、リュウキの中に宿っているかの様にも感じていた。










~予選Fブロック~



 シノンは、右手の全体にかすかな疼きを感じて、眉をひそめた。
 それをシノンは左手で擦り落とそうとするが、チクチクと刺激する感覚は中々去ろうとはしない。……原因は判っている。

 リュウキの肩に手を触れた時だ。

 飄々としてて、キザったらしさも醸し出し、常に余裕の表情を崩さない新参者。新参者といえば、もう1人もそうだ。無礼で不遜、図々しいキリトもそう。

 シノンはリュウキの肩に手を触れた。
 そして、彼の異様な冷たさを感じたすぐ後、彼は次の予選ステージへと消えたのだ。最後まで、その表情を見る事なく、消え去った。だけど、その表情が一体どんな種類のモノなのかは、判った気がしていた。

 あの後、何があったのか、知りたいと思えた自分が不思議でならなかった。何故、他人に……、戦う為に、強くなる為に、この世界で戦い続けていると言うのに、なんでこんなにあの男の事が気になるのかが、判らない。

 だから、シノンの脚は自然に、キリトの方へと向かわせた。

 何かがあったのなら、もう1人、知り合いであるキリトなら、知っていると思ったからだ。幸いな事に、キリトはまだ予選ステージには行っておらず、中央部付近にとどまっている。それを見つけたシノンは、キリトに話しかけようとしたのだが……、出来なかった。その時に見た彼の横顔は、……リュウキにそっくりだったから。

 心に引っかかる何かを抱えたまま、シノンは戦場に立った。

 まだ、右手に残る感覚はきえない。あれから、1時間以上たったというのに。

「……っ」

 シノンは、ギリっと歯を食いしばり、感覚を消去する事を諦め、その右手を対物狙撃ライフルの引き金に添えた。


 このステージは《曠野の十字路》


 乾燥した高地の中央で、2本の直接道路が交差している地形。

 そして、対戦相手の名前は《スティンガー》。
 この戦いに勝てば、次の決勝がどうであれ、BoB本戦。バトルロイヤルへの出場権が得られる。だが、流石にここまで勝ち抜いてきただけあり、強敵だった。名前から察するに、携行型地対空ミサイルだ、と思えるのだが、どうやら違う。

スティンガーが装備している武器。


□ FN・SCAR カービンライフル。

 使用者の腕に追従する様に、危険な武器だ。
 装着された高性能ACOGスコープが、そのアサルト・カービンライフルをの集弾率をかなり上昇させている事だろう。つまり、単発式であるシノンのライフルでは接近戦に持ち込まれたら、太刀打ちできない。

 シノンの唯一の勝機は、道路で4分割されたステージにあった。其々、ブロックからブロックへと移動する為には、絶対に中央の十字路を通らなければならない。

「…………ふぅ」

 シノンの意識は再び氷となる。必中の一撃を入れなければ、敗北。だが、そんなプレッシャーがどれ程のものだろうか?あの男と対峙した時に比べたら、まだ生ぬるい。

 そして……忌まわしいあの過去に比べたら……何でも無い。

 この大会で自分が倒さなければならないのは、あの2人の男達なのだから。こんな所で躓いてはいられない。


 時間がぎゅっと凝縮される。


 1秒が、まるで何10分にも感じられる。そんな時が止まったかの世界で、シノンは2人の戦いぶりを。片方は乱暴な離れ業で……そしてもう片方は逆に鮮やかと取れる神業とも言える戦い。それを思い返していた。





――……彼を見送った後、シノン自身も次の予選ステージへと運ばれた。






 どうやら、予選の2回戦での相手はまだ初心者に毛が生えた程度らしく、ステージは、狙撃手にとって有利とも言える、見通しの良い、荒れた山岳地帯。


 相手の名前は《ブルズ》

 ブルズは、狙撃手相手だと言うのに、更には高低差があるにも関わらず、身を隠す事もせず、対戦相手は堂々と正面突破を測ってきた。

 それを見たシノンは軽くため息を吐きつつ。洗礼が必要だろうと思い、その引き金に指をかける。

 そして熟練者は地の利を活かし、頭上から、頭撃ち(ヘッドショット)

 開始から2~3分でケリが付くと言う、これまでの戦績でも最速記録を叩き出した。

 だが、こんなものは何ら自慢にはならない。ただ、赤子の手をひねる程度にしか思っていない。初心者狩りと言う行為の卑しさを知っている自分だからこそ、そう思えていた。


 そして、予選会場へと戻った時、丁度2人の男の片割れ、キリトが戦っている所を見たんだ。

 それはまさに鬼気迫るとでも形容したくなるほどの、捨て身特攻戦法。

 アサルトライフルを乱射するAGI型相手に、あのファイブセブンで応戦しつつ、正面突破。放たれたライフル弾は、着弾しながらも、あの光剣で切り落とすと言う離れ業もやってみせた。そして、距離をゼロに詰めた途端に、その対戦相手の身体を、ライフル事叩っ斬ったのだ。

 荒々しく乱暴、そして無茶苦茶。シノンの中に、それらが浮かんでいた。

 その戦いを静かに観戦していたシュピーゲルは、隣にシノンがきた事が判った様で、呟く。

「彼、ずっとあんな感じで戦ってるよ」

 そう、言っていた。シュピーゲルは、今日はここには観戦を目的としている。つまり、全ての試合を見ていると言う事だ。……だから、間違いなく全ての戦いを今見た様な戦い方で制しているらしい。そんな戦い方をするプレイヤーは第1、2回のBoBには1人もいなかった。
 予選会場である、待機ドームでもどよめきが響く。

「……彼と彼が、今回の予選の台風の目だと思うよ、シノン」

 シュピーゲルは再び指をさした。その先に居るのは、もう1人の男。……よくよく考えたら、2人とも女の容姿だけど、それはこの際置いておこう。

 シノンは、キリトの戦いも見ておきたかったけれど、もう1人、リュウキの戦いも見ておきたかった為、僥倖だと言えるだろう。だけど、試合に動きは無いみたいだった。

 それでも、ライブ中継は彼を捉え続けている。

「なんで? 交戦してる訳でもないのに、ライブカメラは アイツを映してるの?」

 シノンが疑問に思って、シュピーゲルにきいていた。シュピーゲルは、振り返らず、単調に答えた。

「それは、彼の戦い方も異常だからさ。……銃の世界なのに、体術を使った接近戦を主としている。……彼の仲間だ、って事がよく判る戦いだよ。ただ、光剣とハンドガンじゃなくて、ナイフとハンドガンだから、条件を考えたら、彼の方がもっと不利な筈、なんだけどね」
 
 そう言った。

 つまり、こうだ。あの男の戦いは、他のマシンガンを乱射して、バリバリの戦争をしている試合を映すよりよっぽど絵になる戦いを披露しているらしい。まだ、戦いが始まっていないのに、その中継カメラで追いかけないといけない程の戦いを。

「………」

 シノンは息を飲んだ。
 そんな戦いをあの時の彼がするのだろうか? と。そして、是が非でも見てみたいと思った。体術もそうだが、それ以上に彼の戦いを一目。

「っ!!」

 そんな時だ。
 待機ドームに大きなどよめきが沸き起こった。

 中継カメラが捕らえたのは、リュウキが戦っているステージの中央の開けた広場にいた戦車だった。


「え、M1戦車!?」


正式名称。

□ M1エイブラムス。

 現実では、アメリカ合衆国が開発した主力戦車である。


 因みにこの世界、BoB予選でも希に、各ステージには固定砲台、とも呼べる代物が設置されているモノがある。それは、銃座であったり、砲座だったり……そして、この兵器だったり。だが、それは著しく公平さに欠けるモノ。

 自分がカスタマイズし、ある意味育ててきた銃ではなく、ステージにあらかじめ置かれている兵器を使うのだから。

 だが、それが出現するのは稀も稀。
 GGO世界でも中々お目にかかる事ができず、出来たとしても、壊れてしまっていて、オブジェになってるモノばかりだ。だから、ソレを使う事が出来た者は、《ツイている》としか言えなくなってしまう。
 圧倒的な火力と、通常兵器ではビクともしない耐久度を誇るのだから、通常であれば抗う術はないのだから。

「……あっちゃぁ、 これは幾らなんでも無理でしょ。運が悪かった、としか言えないわね」

 対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)でも、M1戦車を破壊し切るのには、弾数が足りないだろう。一番薄く設定されている装甲を見ぬき、正確に……と、考えただけでも気の遠くなりそうな戦いになってしまう事も想像できる。
 そして、プラズマ・グレネードを使用したとしても、足りるかどうか……。銃弾も尽き、爆弾も尽き、The‐Endとなる事が目に浮かんでしまうのだ。


「……どうだろうね」
                                    
 シュピーゲルは、戦車には興味なさそうにそう言っていた。シノンはこの時、不自然に思えた。あのアタリを引いたら、プレイヤーであれば、誰しもが、驚きどよめきを上げる。それでも、彼は戦車ではなく、彼を見ていたのだ。

「……っ(……この状況を覆す、とでも言うの?)」

 シノンの額に冷たい汗が流れる。
 戦車と対峙している彼の姿も、中継モニタは捕らえた。ただ、佇んでいる。動揺してたり、慌てたりはしておらず、ただ集中をしているように見えた。

「……何をするっていうの」

 ……負けだと思ったシノンだが、今は釘付けになってしまった。

 この絶望的な状況をどう切り抜けるのか、それを知りたい。この状況で覆す事ができるとすれば、それはVR世界のゲームの枠を超えた奇跡。……強さが必要だろう。

 だが、もし、本当にそんな事ができるのなら。



――……見てみたい。



 シノンはこの時強く、強くそう思っていた。

 だからこそ、彼の姿から、目を離す事が一切出来なくなってしまっていたのだった。

 
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