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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第164話 何よりも安全第一で

~竜崎家~
 


 例の事件より数日後の事。
 
 結論から言うと、ゼクシード氏は見つかった。
 彼は……物言わぬ身体となって、自宅で発見されたのだ。

 ゼクシード事、本名は 茂村 保。

 躍起になって捜索をしていたけれど、見つけたのは警察関係者ではない。一般人からの通報である。その茂村氏が居住しているアパートの大家が彼を見つけた。遺体は腐敗しており、死後一週間程は経っていそうだとの事。
 どうやら、死銃の言う、《力》とはこの事だった様だ。




「いやぁ、悪いね。まさか依頼しようとして、君のお家に招待されるとは思わなかったよ。リュウキ君」

 竜崎家に足を運んでいたのは菊岡だ。とある事件についてをリュウキに依頼しようとして、呼び出そうとコンタクトを取ろうとしたら。

「ま、爺やに話は色々と聞いてたよ」

 リュウキはため息を吐きながらそう言う。テーブルを挟んで対面しているけど、やっぱりどーにも、信用しづらい笑顔を持っている菊岡だったから、外では心配だった様だ。家だったらどう言う話かもよく判ると言う事で。

「全く……爺やは、心配しすぎなんだよ。過保護だ」
「おや? 遅い反抗期が来たのかい?」
「ち、違う。……心配してくれてるのは正直嬉しいけど。なんか、家に菊岡さんを入れるのが嫌だった」
「そ、それは、随分と辛辣なコメントだね……、本人の前で言うなんて。 でも一応 僕の方からも、それは謝っとくよ。ちゃんと信頼される前に色々と無理言ったし」

 『呼ばれたから来たんだけど~』と、何処か苦笑いをしてる菊岡。リュウキからしたら、どうにも胡散臭さが漂う菊岡には正直警戒心を持っている。
 だけど、キリトの事やアスナ、レイナの事で色々としてくれていた事は紛れもない事実だから多少は我慢しなければならないだろう。

 ……多少?

「ま、こっちも一応言っておくよ。冗談だって」
「……冗談だとは思えなかったんだけどね」

 菊岡は、再びため息を吐いた。
 そして、真剣な表情をした。それを見たリュウキも表情を改めた。

「それで? 今回のオレに頼みごとって何?」

 腕を組み、そう聞くリュウキ。

 最近の仕事の傾向で多いのは、VR関係の事が圧倒的だった。

 そして、主にセキュリティの強化面だ。

 仮想世界でのマネーは、現実世界の金銭を仮想口座に振込み、そこからゲーム内で使用されている事が殆どだ。だけど、それを窃盗する輩もいるし、毀損の被害届が頻発している。
 1ヶ月の間に約100件にも上る程だ。
 だから、仮想課を自称しているかの男ならその類の依頼だとリュウキは考えていた。

「まぁ、自称仮想課、総務省を名乗る人からの依頼だ。大体は想像が付くけど」

 リュウキは、そう口に出して、椅子に深く腰掛けた。

「し、心外だなぁ、リュウキ君。僕はちゃんと職員の身分を得てるんだよ? 自称だけ なんかじゃないさ。ほら、証拠だよ」

 菊岡は、身分証明書。社員証を見せた。まるで、警察がみせてくる手帳の様に。

「それは知ってる。……でも、オレは何か怪しいと思った事は全部解明しないと気がすまない性質でね菊岡さん。オレと関わりを持とうとした時点で、その事はそれなりに覚悟していたんじゃないのか?」

 そう、リュウキはそこにも思う所はあった。
 彼の素性を言い当てた時、菊岡はそこまで驚きをみせなかったのだ。『ああ、ばれちゃったか!』程度である。

「まぁ、ね。全ての情報がネットで得られる可能性がある現代だ。バレちゃう事くらい想像はしてたさ。……まぁ、ざっくりと聞くけど、ハッキングしたんだろう? ……痕跡はまーーーったく残ってなかった様だけど」
「さぁ……? 情報源は企業秘密だ」

 リュウキはそう言って、白けていた。
 そもそも、彼の腕は超一流であり、痕跡なんか残さない。故に証拠を掴もうなんてことは、それこそ雲をつかむ様な話しなのだ。それに、現在のシステム・セキュリティの大部分は、彼が手掛けている。
それを抜ける事など造作もない、と思える。

 正直、敵に回せば恐ろしい事極まりない。
 その才能を、悪い方へと向かわせれば、未曾有のサイバーテロが起こる事も想像するのは難しくない。

 だが、そこは綺堂氏がいるから大丈夫だろう。そして、彼自身の性質から考えても、そっちの方に堕ちる事は考えられないから。

「正直に言うと、オレとしては、変な事をしない限り、あまり無茶な事はしない」
「やれやれ、読まれちゃったか。大人顔負けだね。肝に銘じておくよ」
「菊岡さんは顔に出やすい。それは兎も角、本題に行こう。サイバー関係の犯罪の件?」

 リュウキがそう問いかけた。菊岡は、それを訊き、やや渋い顔をする。

「……勿論だよ。君の耳にも届いていると思うけど、ここに来て、バーチャルスペース関連犯罪の件数が増え気味だからね。仮想財産の盗難やら器物損害もあるし。ゲーム内のトラブルから、怨恨での現実世界での傷害事件も多々……」
「それは頭が痛い話だ。……正直、不快感も出てくる」

 リュウキは、その絡みの事件に非常に不快感、それだけでなく嫌悪感、憎悪すらも出ている。それは仕方ない事なのだ、何故ならリュウキ自身があの世界の事が好きだから。

 あの世界で大切な事を学んだ。
 あの世界で大切な人が出来た。

 確かに大変だった事も勿論あるけれど、あの世界はリュウキにとってかけがえのない世界なのだから。だからこそ、その世界を汚すような真似をされてしまえば、そう思ってしまうのだ。

「まぁ、リュウキ君の気持ちは判るよ」

 菊岡も大体察した。

 基本的に、この手の犯罪は決して無くならない。
『働き蟻の法則』や石川五右衛門が残した辞世と伝えられる歌にある『浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ』 この世は、それらが示すとおりだ。決して無くならないのに、行動を、対策をしている。矛盾、と言われるかもしれない。でも世の中と言うものは、矛盾だらけなのだ。その中で、必死に足掻くしかない。

 菊岡自身も自問自答をする時だってあった。それでも感情を抑制しているのは、菊岡がリュウキよりも大人だからだ。

「……っと、私怨に似たモノは置いとくよ」

 だが、勿論リュウキも、もうそこまで子供ではない。彼もまた、経験を積んできているのだから。……時折子供の表情が出てしまうのはご愛嬌で。

「頭の痛い事ばかりじゃないと思うけど。聞いた話によると相模湾沖に希少金属の巨大鉱床が見つかったんだろう? 色々とこっちにも情報が入ってるよ。官僚達が大分喜んでる、と」
「あははは……、ま、そうなんだけどさ? 僕が入った総務省は無関係だし、勿論防衛省もね。だから当分回ってこないって思うよ」

 菊岡は、苦笑いをしながらそう言う。本当に色々と知っているんだね。と半ば呆れもしていた。

「さて、話を戻すけど、往来している事件の話さ。まぁ、全国で起きる傷害事件とか、強盗・窃盗事件の中では微々たる数だし、君が好んでいるあの世界、VRMMOが社会不安を醸成してる、なんて短絡的な結論は出ないだろう。……だけどね」
「VRMMOゲームが、現実世界で他人を物理的に傷つけることへの心理的障壁を低くしている。その件は、キリトとも以前色々と討論を交わしたけど、結論を言えばキリトもオレも同感だし 認めている」

 そう話をし、テーブルに用意されたハーブティを口に入れた。菊岡も、リュウキに続いて口に含む。

「無数に生まれたVR世界。その中の一部はPK行為が当たり前。日常化している。……ある意味では、現実的殺人の予行演習だ。 体感型ゲームになる以前でも 昔ニュースでもよく上がっていたらしい。犯罪を助長するって。……これはその比じゃない。実際に仮想世界に入って、自分の体でその行為に及ぶんだから」

 リュウキは一息置くとつづけた。
 
「まぁ、それは安易な考えだと思う。実際には昔から統計を取ってるらしいけど、暴力が日常化されたゲーム、そのメジャータイトルが発売する事によって、犯罪率が減少されているという結果もあるから」
「ああ。それについては、僕の方でも持っているよ。 ゲームをする事によって精神的ストレスを解消される。だから減少しているんだろう、って結論も出ている。それで終わり、って訳じゃないけどね」

 そう、実際にゲームを真似て現実世界で何かを起こそう!と考える異常者は希も希。日々往来している突発的な衝突や金銭目的の犯罪等に比べたら本当に微々たるものなのだ。

「……そうだ。終わりじゃない。実際に微々たる量だと言っても、その1つ起こす事で大事件になったりするんだから。 何らかの対策が必要になってくるのは間違いない。……法規制はまず無理だろうけど」
「ん? 無理かな?」
「当たり前」

 リュウキは、再び紅茶を口に含む。

「この情報化社会において、ネット的に鎖国するなんて事出来ない事は当たり前だ。それに、VRMMOは、回線にかかる負荷だけを見ればかなり軽いコンテンツだから。……だからこそ、国内でいくら取り締まったところで、ユーザーも業者も海外に脱出するだけだ。まぁ、その前に反発が上がると思うけど。一部の異常者のせいで 娯楽の1つを取り上げられるんだ。健全に楽しんでるユーザーなら 大反発だろう」
「う~む……」

 菊岡は、リュウキの話を聞いて、再び考え込んだ。そして、口を開く。

「リュウキ君は、何でプレイヤー達はPKに走るんだと思う? どんなゲームでもそうだと思うけど、協力し合う事、即ち仲良くする方が楽しいって思うんだけどね、僕は」
「……はぁ、菊岡さんもALOをプレイしてるんだから、少しはわかってきたんじゃないか?そもそも、MMORPGって言うのは奪い合いが前提。数少ない限られたリソースを奪い合うモノだ。逆に聞くけど、ALOに限らず、数多のネットゲームに果てはあると思う?」
「果て?」
「終わりって事だよ。ユーザーが辞める、と言う事を除いたとして、終わりはあると思うか?」
「うーん……、そうだね。一般的には運営している会社が配信を止める以外には無いかな」

 菊岡はそう答えた。実際に、ALOにおいては運営していたレクトプログレスが解散したのに、また新たな運営が出来、続いているんだ。止める意志を持って辞めないと、永遠に続くとも思える。

「そう。基本的に終わりはないんだ。ユーザーがいる限り、ニーズに答える限り、無くならない。そんな無限世界でプレイヤーに向かわせる原動力は何か。運営達が飽きさせない様に、アップデートを繰り返したり、マーケティングを続けたりしてるけど、真は、優越感を求める本能的な衝動、だと思う」
「……へぇ」

 菊岡は眉を上げた。彼から、そんな言葉を聞く事があるとは思わなかったからだ。色々とトップに君臨している彼から。

 リュウキはつづけた。

「これは、ゲームに限った話じゃない。認められたい。人より上に行きたいっていうのは、この社会の基本的構造。……オレ自身、仕事とかゲームとかに関して、別段そこまで……って感じで、特に思った事はないけど。そう思う気持ちについては理解しているつもりだ。そう言うモノなんだと」
「成る程ね。確かに君には縁のなさそうな話だよ。その歳で本当に充実してるし、あんな可愛い彼女だっているんだし」
「……煩い。一言余計だ」

 こう言うモノは自分自身がなってみないと、本当の意味では理解出来ない事だ。劣等感を持って、初めてその優越感と言うものを持ちたくなるから。別に負けた事が無いわけではない。挫折だって味わった事はあるし、深く傷ついた事もある。でも、その感情とは少し違う気がするんだ。
 リュウキは、基本的にマイペースな所もあるからだと思うが。

「いーや、言いたいね。僕は君は、いや君達は死ぬほど羨ましいんだから。あんな美人姉妹と仲良くしてるなんてね。 今度さ。女の子を紹介してくれないかい? ALO内では君は顔が広いんだろう? 僕としては シルフの領主の彼女と面識を持ちたいんだけど」
「ん、サクヤの事か。仲介役くらいなら別にかまわないが、無論 双方の同意がいるぞ? 一応会う目的も伝えてからになるが良いか? 彼女は領主だからな」
「って、そんな事言ったら即OUTじゃないか! それに、ゲーム的なあれじゃなくて……ゴニョゴニョ」
「ん?? 何故だ? それに何言ってるか聞こえないぞ? 最後の方」
「はぁ……」

 菊岡は、ため息を吐いた。この手の会話の根幹を彼は解っていないから。別に本気で言ったわけじゃないけれど、こう返されるとは正直予想出来てなかった。

 そして、ちょっと間を置いて、さっきのは冗談だとリュウキに伝えて先に進める。

「話は戻すけど、優越感を求めてる、だったっけ? 正直僕にもあるよ。言いにくいけど、同期の桜とかにね……」
「ん。だとは思う。……普通だったらさ。 そしてそれは簡単じゃない。それこそ並大抵の努力じゃ無理だ。オレは仕事の事が大好きだったから、そこまで思わなかったけど、12年間の技術向上っていうのはそれ相応のものだったと客観的に思う。そこでMMORPGだ」

 リュウキは所々、とんでもない様な事をさらっという。
 普通だったら、とか そこまで思わなかった、そして 先ほどの別段思った事ない、とか。他人が聞いたら、嫌味に聞こえる事。でも、彼を知っている人が聴けば……、そうは思わない。
 それが普通だと思える程の道を通ってきたのだから。

 とまぁ、彼に対する事は置いといて、更にリュウキの話は続く。

「時間は有限だけど、注ぎ込めば注ぎ込む程、ほぼ必ず強くなる。……時間を要求する類のものだってある。それも突き詰めれば努力だけど、勉強とか仕事とかよりは格段に楽しい。 仕事とゲームを比べるなら、オレ自身も間違いなくゲームの方だから。 そして、手にした力を持って プレイヤー達が集う場所に行けば……、注目っていうのは嫌でも集まる。そこからは見解の相違。それを迷惑に思う者もいたり、逆もしかり」

『迷惑に思うのは誰がどう考えたって、君だろ?』 と正直菊岡は思ったけれど、そこは口を閉じた。

「それに、以前までのモニター越しのMMORPGじゃない。VRMMORPGなんだ。視線を想像する……じゃなく、本当に見られているんだ。格段に増すと思うね」
「ほうほう、確かにね。イグシティの街中やアルンの空の上、……目撃情報はたくさんあるけど、レイナちゃんとマイムマイムだもんね。そりゃ 視線が集まるわけだ。色んな意味で」
「………」
「ああっと、冗談だよ? 冗談。帰れ~なんていうのはまだ勘弁してくれ。まだ 話があるから」
「全く……」
「でも、その心理だろう? 間違いなく」
「……ああ、そうだと思うよ」

 リュウキは、頭を掻きながらそう言う。異性についての興味が薄かった、と言うより感情をよく理解していなかった頃は、そうでもなかったけれど、理解して、愛情を知った今は本当によく判る。
レイナは美人で可愛い。
 好きと言う感情の一歩手前で思う感性だ。……あまり言い過ぎるとノロケになっちゃうので、割愛するとする。


 割愛しないと、世界で一番可愛いのはレイナ。と言う理由を事細かに説明しなきゃならないから。


「兎も角、このゲームで手に入るモノは 一種の麻薬の様なものなんだ。モノ、強さと言うモノが誰でも手に入るんだから。 自分の手で、相手を破壊できる力。 元々強さって言うのは、誰しもが欲するモノだ」

 リュウキのその言葉の中には、深い想いがある。

 かつて、守る事の出来なかった少女の事。……菊岡には知るよしも無いし、リュウキ自身も話すつもりも無かった。そのまま、菊岡は、リュウキの話は理解したようで頷いた。

「ああ、そうだね。格闘漫画を読んで、同じ修行してみたり~とか、僕もあったよ。ま、たいていはすぐにそう上手くいくもんじゃない、って悟って 現実的な夢に切り替わっていくんだけど……って、ああ。そう言う事か。 向こうの世界では、その夢の続きをもう一度見られる、って事かい」
Exactly(その通り)。その夢の世界で、力を手に入れたと錯覚し、そして夢から覚めないままに現実に戻ってきて……」

 リュウキは、空を仰ぐ様に天井を見た。それに、続くのが菊岡だ。

「仮想世界での強さが、現実を侵食し 犯罪に走った。って事かな。うん、その通りだと思うよ。……それを踏まえて、なんだけど」

 菊岡は、両手を組み、リュウキの目をしっかり見据えて聞いた。


「仮想世界がもたらすもの、それは本当に心理的なものだけなのだろうかね?」


 ここからが、今回の件の本題部分だ。

 それは、あるVRMMOでの出来事。
 そして連動する様に、現実世界で起こった不審死。

 その原因が一体何なのか。

 それを菊岡氏はリュウキに聞いてみたかった、リュウキの意見を聞いてみたかったのだ。

「……心不全」
「うん。そうなんだよ。死体の精密検査もしてみたけれど、やっぱり、死後時間が経ちすぎてた、って言う事もあってね。急性心不全としか判らなかったんだ」
「待った」

 リュウキが話を止める様に掌を向けた。

「話によると、その彼はアミュスフィアを付けていた事、そして何日も飲食を忘れてダイブしていた事。……その手の衰弱死事故、悲惨な話だけど珍しい事でも無い。……なのに、手回しが早すぎる事は無いか? 精密検査までしたのは何でだ?」
「うっ……」

 菊岡は、口ごもった。どうやら、何か話していない事がありそうだ。

「……オレには話せない内容がある、って事か? なら 別にオレじゃなくたって……」
「ああっと、そうじゃないんだ。……えっとね、これは綺堂氏に依頼していた事から、判明してね。 ちょっとリュウキ君に言ってもいいものか、って 思っちゃって」
「……爺やの?」

 リュウキは、訝しんだけれど、別段おかしい事じゃないとすぐに判断した。
 綺堂自身も、万能選手だ。一分野に置いて、即ちコンピュータ関連に置いてはリュウキの方が優れているが、綺堂は幅広くなんでもこなす。その技量は果てがないとも言える程だ。
 綺堂が最近していた事をリュウキは思い浮かべたら、すぐに出てきた。

「つまり、ガンゲイル・オンライン(GGO)か?」
「……その通りだよ。 聞いているかい?」
「ああ。ちょっと大きな事件になりそう、って言われた程度だけどね。 成る程 なら彼がゼクシードか」
「その通りだよ」

 菊岡は隠さず答えていた。

 因みに、同僚である《姫萩渚》が個人的に依頼した相手が綺堂氏。
 これまでも、何度か綺堂氏とは仕事のやり取り、依頼のやり取りをしたけれど、信頼をつかみ損なった様だ。同僚の片岡は別だった様だけど。

「はぁ、随分と信頼されてるんだな。日頃の自分の行いを見直したらどう? 爺やは見る目は凄くあるし、その上鋭い。それに各方面の企業でも大分信頼されてるから、パイプが凄いよ。 悪巧みなんかした日には、大変な目に遭うかもな」
「ぅ……。ま、まぁ それはそれとして、ね」

 子は親の背中を見て育つとは言うけど、リュウキの仕事以外でのスキル……と言うか観察眼的なモノは、彼を見て学んだんだとよく判った。自分は引き篭りだったと、言っていたけれど、蓋を開けてみたらところがどっこいだ。


「それで、何で、それがオレに話しにくい?」
「いや、君を差し置いて、綺堂氏に……って思われたかもしれないと思ってね」
「何言ってるんだ。爺やはオレの恩人であり、親であり、師匠でもあるんだ。そんな事思うわけないだろ」
「あ、ああ。それは知ってるい。でも このタイトルを先にプレイした事を伝えたら、結構リュウキ君は複雑な顔してた、と聞いてね」
「……もうオレは、そんなにガキじゃない。 ったく、爺やは」

 リュウキのその言葉の中には、少し呆れが入っていたが、忙しなく足を揺さぶったりしている。

 ガンゲイル・オンラインの話をしてからだ。

 それを見た菊岡は、『やっぱり……』と思わずにはいられなかった。

 そして、話は不審死事件に向かう。

「……爺やから話は聞いてる。死銃と名乗る妙な男がGGOの中で発砲。そして、その数秒後にその世界にはいない、《MMOストリーム》に出演していた彼が胸を抑え、苦しみながらログアウトをした。生中継中の事だし、ネット上でも、結構インパクトがあったって色々と情報が飛び交ってる。……どれも信憑性はゼロに等しい怪談、都市伝説の類になってる様だけど」

 リュウキがそう言うと、菊岡は頭を掻いた。

「たった1件でここまで色々と蔓延するなんて、余程のインパクトがあったんだね…。ゼクシード氏の事と、妙な男の、死銃の件はその通りだよ。詳しく言うと、GGO世界の首都《SBCグロッケン》という町のとある酒場での事だったよ」
「……だけど、亡くなった彼には申し訳ないが、菊岡さんの言うとおり、1件。……偶然と言う考え方の方が正しいと思うが」
「いや、そうでも無いんだよ」
「何?」

 リュウキは、目を開いた。
 事件と思われている不審死に関しては ゼクシードの話しかまだ知らなかったから。

「今度のは5日前、11月14日。《47氏》。 場所は埼玉県さいたま市浦和区の某所。……状況はゼクシード氏と同じだよ。アパートの一室で死体が発見された。まだ、この件は世間には出回ってないし、僕の所に来たばかりの情報だから 知らないのは無理無いけどね」
「……それで、死因はやはり、心不全で その男が撃った後、なのか?」
「その通り。GGO内のグロッケン市、複数でMob狩りに出向こうとした所で発泡されたらしい。街中で圏内だから ダメージは通らない筈なんだけど、……その数秒後に落ちたそうだ。 流石に、ゼクシード氏の時の様に、信頼出来る情報源じゃないけど、実際に同じ時刻に人が死んでるんだ。……間違いないだろう」

 視線を下に、ズレたメガネを元に戻しながらを菊岡がそう言う。そしてリュウキの方を見た。リュウキは何やら考え込んでいる様だ。

「何かあるかい?」
「解せない点がある」
「ほう、その解せない点というのは?」

 リュウキは、菊岡の目をみながら話す。

「仮想世界でのアバターを制御しているのは、アミュスフィアも勿論あるが、基本的にユーザーの脳信号。 不可能か、可能か、は一先ず置いといて、仮に仮想世界で何か仕掛けたとして、現実に影響を与えるのなら、心臓ではなく脳だ。……心不全と結論つけていると言う事は、脳に異常はなかったんだろう?」
「なるほどね。流石リュウキ君。着眼点が素晴らしいし、早い。……その通りだよ。まっさきに検証した。ナーヴギアは、もう廃棄処分の対象だから、有り得ないし、そもそも、アミュスフィアは、安全性が第一で売り出していると言う事もあって、脳を壊す程の電磁波は出せない設計なんだよ。あの機械が出来るのは、五感の情報をごく穏やかなレベルで送り込むことだけ。……その点は間違いないことは知っているだろう? 君なら」
「………」

 アミュスフィアの安全性に関しては、よく知っている。そもそも、それを確認する事が、あの世界に行く事の最低条件だったからだ。記憶を失っていたあの時。綺堂が徹底的にそれは調べた。間違いなく安全である、と言う事だ。

「安全性については、オレもよく知っているよ。それに、原因系についてだけど、今も色々と考えてみているけど、どれも無理がある理論だ。五感の全て。触覚、味覚、嗅覚、視覚、聴覚。……そのどれを考えても アミュスフィアの安全装置が働く前に心臓を止めかねない威力を発揮する代物を人間がだせるとは思えない。超自然現象でもない限り。……でも、このデジタル世界に置いて、そんなオカルトな話はナンセンスだ。殆どが科学的に解明されてるモノばかりだし」
「あー、そうだったね。確か5~10年前だったかな? 結構有名な霊能なんらた、って人が 詐欺で捕まったしね。いやぁ、あれ聞いた時は冷めちゃったよ、ほんと」

 菊岡は笑いながらそう言っていた。


 そしてリュウキとは、細かに議論をつづけた。

 触覚なら、鳥肌が立つ様なモノ、一般的には無数の虫が足元から這い上がってくる様な現象。でも、それは無いとスッパリ言い切った。悪寒レベルだし、以前の世界で知り合いがそれ以上の不快感を仮想世界で味わったけど、無事だった、とリュウキは言っていた。粘液まみれのイソギンチャクモンスターに全身を絡み取られたのだ。鳥肌が立つと言うレベルでは、ムシなんか可愛いものだろう。……人其々な部分はあると思うが、そんな事で一々心臓が止まってしまえば、今ごろ死体の山が生まれている。


 そんな感じで、全ての五感、アミュスフィアがプレイヤーに伝えている全てを議論したが、不可能だという結論に至った。


「……と、これまで色々と話したけど、もうこれ全部検証はしているんだろう? 机上の論じゃなくて」
「ま、まあね。でも やっぱりリュウキ君の意見も聞きたかったんだよ。君やキリト君の意見は本当に刺激的で、脳が活性化されそうだ、と思うくらいだからね」

 菊岡の表情の奥を読んだリュウキ。足を組み替えて、菊岡をまっすぐに見て言う。

「それで。さっさと本当の本当の本題に入ったらどうだ? そのゲームの中で死銃ってヤツに会ってこい、いや撃たれて来いか?」

 リュウキの中で、まず間違いないだろう、と結論を付けた。原因を討論するだけなら、別に直接合わなくていいし、端末でのやり取りでも、問題ない筈だ。事実、これまでやり取りの大半がそれに該当する。これまでは、大抵他の誰か(殆どキリト)と一緒に話をした事はあるが、マンツーマンは初めてだ。記憶を辿ると対面して色々と言うのは、以前までだと、あのカウンセリング以来していない。

 つまり、直接言わなければならない様な事であり、且つ、もう検証している様な事を、答えが出ている事をもう一度言わせようとした事。

 ……そして絶対に安全だと言う事、ゲーム内でのPKが現実に及ぶなんて事が有り得ないと言う事を結論させた。つまり、それらを材料にGGOの世界に行けと遠まわしに言っている様なのだ。

 ……これらをあっという間に読んだリュウキ君は末恐ろしい。

 菊岡も、驚いている様だ。


「え??」
「……ここに爺やがいる以上、大っぴらにその言葉を口にする事は出来ないだろうから、オレから聞いたんだよ。……それにコイツの尻尾を掴もうと思ったら、一番現実的だ。GGOを運営してる《ザスカー》には別の思惑があるみたいだから、平和な島国である日本が色々と要請を出しても、中々相手にしてくれるもんじゃない」

 それを聞いた菊岡は、更に驚きの表情を作った。その顔は嘘偽り無いモノ、素の顔だ。

「そ、それはどう言う意味だい?? ザスカーについては、何も判ってない所じゃないんだけど??」

 菊岡がそう聞くけど、リュウキは何も言わなかった。ただ、個人的な推測もあるし、完全じゃないから言わないという言葉だけを残しただけだ。


 菊岡は不満気味だったけど、ノリ気であるリュウキを見ただけでも良しとした。


 話を聞いたら、リュウキ自身もGGOには興味が物凄くあるとの事だ。でも、現実での仕事、そして皆との約束を優先しているから、中々手が付けれてない。幾ら興味があって、楽しみにしているゲームだといっても。リュウキの中には、次の図式が成り立つから。




『GGO≪≪≪……∞レイナ(……達)』





 その後は勿論、何処からともなく爺や事綺堂が現れた。リュウキの安全が第一だと言う事を念を入れながら言ったのだ。幸いにも、この家では不自由する事はない。あのSAO事件の際、リュウキの身体を病院に移すことなく、全てこの場で出来たのだから。

 メディカルチェックは絶対にする事と、GGOをプレイする時は絶対に傍で見させてもらう事。それらを綺堂は、リュウキに約束させた。断るつもりはリュウキにはなく、そして菊岡も反論等する筈もするつもりも無かった。

 安全第一が絶対条件なのは、多分これからもずっと同じだろう。

 リュウキは色々と思う所はあるけれど、やっぱり嬉しさの方が大きかったのだ。

 
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