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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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ALO編
  第132話 最強の剣と魔

 
前書き

 

 

 シルフ、ケットシーの救出に向かう一行。
 それに正確に気づいたのはユイが最初だった。

 自分達の方が先を飛んでいる、進んでいると言う希望的観測は……外れだったのだ。自分たちよりも遥か前方にいる大集団、数にして68人。そして、更に向こう側に14人。……恐らく位置的にシルフとケットシーの会議出席者たちだと予想するのは容易かった。

 つまり……、状況は最悪だと言う事。

 本来、これは密会であり、同盟の為の会合。互いに、中立地帯で、領主同士が対峙する以上、武装する筈がないのだ。故に、モンスターに対抗出来る最低限の武装と護衛。そして、アルン高元にはフィールド型のモンスターはいないと言う仕様も今回は悪く働いた。

 ユイがサラマンダーとシルフ、ケットシーを見つけた丁度其の後。アルン高原の空を飛んでいた5人の視界を遮っていた大きな雲の塊が、さっと切れた。限界まで飛んでいた皆の眼下には、緑の高原がいっぱいに広がる。その一角、低空を這うように飛ぶ無数の影、5人ずつのくさび形のフォーメーションを作って、密集しているその姿は、まるで不吉な戦闘機そのものだと思えた。

 その更に少し先に、円形の小さな台地が見える。左右に七つずつの椅子が据えられており、即席の会議場といった案配だった。……羽音を殺し、忍び寄る軍団に気づく様子もない。

「――……ここまで、ね」
「間に合わなかった……」

 リタとリーファは、そうポツリと呟いた。ユイの言葉を聴いても、最後の最後まで諦めない、そのつもりでこの場所にまで全力で飛んだ。この時、飛ぶ事自体が得意じゃなかったリタも、シルフ内でも最速と謳われているリーファについてこれた。想いの力はどんな世界でも作用するのだと、認識を改めていた。

「さぁ、此処が最後の地点。……ここからは先は、後戻り不可能領域(ポイント・オブ・ノーリターン)よ。……もう行きなさい。2人とも」

 リタは、ゆっくりとキリトとドラゴの方を向いていった。この規模で攻めてきて、こちらの戦力は最低限。……戦いになれば絶望の二文字しか浮かばない。

「そう、だね。……あたしもそう思う。もう、巻き込めないわ。ここから先は地獄も同然。……だから。これ以上は、もう……良いよ。短い時間だったけど、楽しかった。これまでに無いほどの興奮だったよ」

 リーファは、笑顔でそう言い、そしてリタの方を見た。
 少し照れくさそうにしていたが、リタも同じ思いだったようだ。最後は笑顔で、別れる。……それを決めていた。

「……さて、キリト。どうだ? 良い考えはあるか?」
「ん、1つ……無い事は無い。まぁ、博打だ。大博打。因みに手札は ドラゴだ。どうだ? 乗るか?」
「乗るもなにも、内容を聞いてないぞ。それに手札がオレだけとはな……が、説明を受けている時間は余り無いようだ」
「ああ、ドラゴは太陽の位置でいてくれ。合図したら、降りてきてほしい。時間ないし、アドリブだけど、名演技を期待する」
「……期待するなよ」

 当の2人は、まるで聞いてなかった。
 何やら打ち合せの様なものをしている様だが、内容がリーファやリタには理解出来ない。

「ちょっと、聴いてんの? ……最後くらい ちゃんと聞いてよね」

 リタは呆れながらそう言っていた。ここまで来たら、少し遅れても結果は変わらないだろう。だから、そこまで余裕があったようだ。

「リタの言う通りだよ! もうっ! ……早く行って。見つかったら君も、君たちもやられちゃうよ」

 この時、リーファは少しだけ、悲しそうな顔をしていた。そう言ったその時、意を決したように、キリトもドラゴもこちら側を向いた。

「オレ達は行かないぞ?」
「……は?」
「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね。それで一致団結したよ。オレ達は」
「え?」

 2人は、それぞれそう言うが、わけがわからない。あの軍団を見て、退かない……というのだろうか?如何に、この2人でもあれだけのメンバーを相手にすればどうなるのか判らない筈が無い。キリトは14人を確かに倒したが、あの時とは状況が全く違う。領主討伐を狙っているこの軍勢は、戦闘能力に長けている者達で構成されているだろう。一人一人のスキルが高いのは明らかだ。

 そんな絶望的な戦力差の中で、一体何をしようというのか?

 キリトは、肩のユイをつまみ上げて胸ポケットに放り込と翅を思い切り震わせて、猛烈な加速を開始した。凄まじい突風が発生し、その風が2人の顔を叩く。反射的に、リタとリーファは目を閉じてしまい……、そして次に目を開けた時にはキリトは勿論、ドラゴもそこにはいなかった。
 いや、キリトだけは判った。

 あの台地目指して急角度のダイブに入ったのだ。

「ちょっ!! なな、何してるのよ!!」
「バカっぽい……どころじゃない! 本気のバカじゃないのっ!!」

 感傷的にならなかった、と言えば嘘になるだろう。それ程、2人は別れる事に思う所があったからだ。……が、それをまさに見たとおり、一蹴され一瞬で台無しにされた。

「もう! ってか、もう1人のバカは一体どこに行ったのよっ!!」

 リタは、ドラゴが周囲のどこにもいない事を視認すると、とにかくキリトは直ぐ下に見えている為、そちらに向かって追いかけた。リーファも呆れつつも慌てて後を追いかけた。


 目指す先。

 小さな台地にいた会議の参加者は、ようやくサラマンダーの強襲に気づいた様で、次々に椅子を蹴り、そして銀光を煌めかせながら抜刀する……が、それは予想通りの装備であり、重装備で固めているサラマンダーの攻撃部隊に比べてあまりにも脆い。人数の差もそうだった。まさに、兎を狩る獅子が如く全力で攻めようと構えたその瞬間。

 サラマンダーとシルフ、ケットシー達の間に漆黒の一陣の風が吹きすさぶ。いや、風と言える程可愛らしさは何処にもない。その勢いは、ドラゴの魔法の隕石の様に獰猛さもはらんでいるかの様だ。

 サラマンダーも、シルフも、ケットシーも等しく同じ場所を凝視していた。その場所には男がいたからだ。


「双方、剣を引け!!!」


「うわっ!!」
「っぅ!!」

 リーファとリタは、ダイブしながら思わず首をすくめた。まだ、かなりの距離が離れていると言うのに、まるで近距離で叫ばれたかの様な大声。それも室内で叫んだかの様に響き渡る。……ここはどこまでも続いている様に広い世界だと言うのに、一体どれだけの声量だろうか。

 ………が、そのおかげもあり、リタとリーファは、サクヤ達の所まで行く事が出来た。サラマンダー達は皆同じようにキリトに集中しているから。

「サクヤ!」
「ったく、面倒事に巻き込まれたわね」

 2人は、台地に着地すると同時に、シルフの集団の中心にいる彼女、……美しく美貌と言う形容詞が相応しい女性、領主サクヤの下へと向かった。

「リーファ!? それに、リタまで!? どうしてここに――……い、いや、そんな事より、これは一体どういう……」

 基本的に、サクヤは冷静沈着であり、どんな時でも優雅さを忘れていない様に振舞っていたが、流石に今回ばかりはそうはいかないようで、取り乱していた様だ。

「ふふん。あんたのその顔を見るために来たのよ」

 リタは嬉しそうにそう言っていた。いつもいつも、一杯食わされてしまうのがリタの方だから。

「……それは勿論冗談。簡単に、すぐには説明しきれないわ。あたしにも、リタにも。……ただ、1つ言えるのはあたし達の命運は、あの人達次第、って事だわ」
「……何がなにやら」
「……一緒に特等席で見ようじゃないの。バカ共がする大バカな事を」

 サクヤも、リタもリーファも、キリトの方を見つめていた。

 そして、サクヤ達と同様に状況の理解に苦しんでいるケットシー達も習うように見ていた。

 その中にいる女性、大きな猫耳を携えており、その肌は健康的、とも取れる小麦色で大胆に素肌を晒している。ここALOの世界では,サクヤ同様、種類こそ違えど 驚くべき程の美少女。

 領主《アリシャ・ルー》

 図らずしも、自分たちの命運を全て、彼らに預ける事になったのだった。


「指揮官に話がある!」

 そして、その直ぐ後にキリトが再び叫んだ。
 あまりにふてぶてしい声と態度に圧倒されたかのように、サラマンダーの槍隊の輪が割れ、その中から1人の大柄な戦士が現れた。炎の色の短髪を剣山の様に逆立てており、その目つきは正に獅子が獲物を見定める様な鋭い眼光、鎧で身体の正確な輪郭は判らないのだが、その下には逞しい筋肉の鎧で包まれていると判る。その頑丈な身体に加え、恐らくは超レア装備であろう鎧と巨大な剣を携えていた。

 そして、その口がゆっくりと開いてよく通る太い声がながれた。

「――……スプリガンがこんなところで何をしている。……どちらにせよ、殺すことには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう」

 並みの覚悟であれば、対峙するだけで、立ちすくんでしまうかの様な眼光だったが、キリトも臆する事無く、大声で答えた。

「オレの名はキリト。スプリガン=ウンディーネ同盟の大使だ。……この場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望む、と解釈していいんだな?」

――……成る程な。

 この時、まだ上空高くにいたドラゴは、キリトの考え、博打だと言っていた意味を理解した。傍から聞けば、ハッタリも良いところだろう。

 ……だが、100%に近いハッタリでも、99.9999999……%、100とはなりえない。

 事実だと言う事を証明出来ないと同時に、虚実だという事を証明出来ないからだ。……本来は、この会議は極秘であり、伝わっている筈もない。が、何故かこのスプリガンのキリトは知っていて、しかも止めに入った。その事実だけでも、彼らの思考にくい込むのは間違い無いだろう。
 戦いは避けられないかもしれないが。

(……一騎打ちに持ち込める可能性はあるな。それに、あの男は好戦的だ)

 ドラゴは、ユージーンの姿を見てそう思い……、そして自身は、キリトの言う合図をただ待っていた。


「……ふん、護衛の1人もいない貴様がその大使だと言うのか?」
「ふ……、本当にそう思うか?」
「なに……?」

 キリトが不敵に笑うと、ゆっくりと手を上げた。その仕草を見て、まさかこの場にスプリガンとウンディーネの軍団が現れるのか?と、皆がざわつきながら周囲に目を凝らしたがその影1つさえ見えない。

「……護衛がいる、と言うのはハッタリか? 大使だ、と言う事同様に」

 ユージーンは表情を変えずに、ただ鋭い眼光でキリトを睨みつけていた。……が、それをキリトは軽く受け流す。

「注意力が足りないぞ。サラマンダーの猛者よ」
「なに……!?」

 キリトがそう言った瞬間、キリトの背後にまるで、白い雷に似た閃光が迸った。周囲もそれを目の当たりにし、一気にざわめく。閃光と共に、突風も生まれ、それらが顔面を叩き、視界を遮る。
 ……風が止み、先を見た所で、一人の男が加わっていた。

「……護衛、とは言えないな。我ら ウンディーネとスプリガンの秘密兵器、最終兵器(リーサル・ウエポン)と言っていい存在だ」

 キリトの言葉に、思わず軽く吹いてしまうユージーン。この時が初めて表情が変わった様だ。

「くくく……、確かに いたようだ。……が、2種族の秘密兵器、最終兵器 とはデカくでたものだ。それで何の証明となる? ……妙な身成をしているが、お前同様大した装備もない。貴様らの事など、にわかに信じるわけにはいかないな。……が」

 ユージーンは、突然せに手を回すと、巨大な両刃直剣を音高く抜き去る。黒い赤に輝く刀身に絡み合う二匹の龍の象嵌が見て取れる。

「オレの攻撃を30秒耐え切ったら、貴様を大使として信じてやろう。……なんなら、秘密兵器、とやらを合わせて2対1でも構わんぞ?」
「随分と気前がいい案だ、が。オレとこの男……2人同時で、本当に良いのか?」

 キリトの絶対的な自信を見たユージーン。

 今回は、ただのハッタリとは思えない。
 
 そう信じられる程のモノを、黒い瞳の奥で黒い炎となって灯っている様だった。

「ほう……、ならこちらも2対2と行こうか。……ジェイド!」

 ユージーンは、首を捻り、後方に待機している部隊に向かって再び野太い声を上げた。

「おやおや、私ですか?将軍」
「ああ、この男は秘密兵器、らしいからな。ならばそれ相応の者を連れねば失礼、だろう?」
「やれやれ、お戯れが過ぎると思うのですが……、ご指名とあらば仕方ありませんね」

 ジェイドと呼ばれる男は、ゲームの世界だというのに、メガネを掻けている様だ。この世界は脳でプレイするものだから、基本的には視力等の五感は全く問題ない。……稀にFNC、フルダイヴ不適合と言う場合は存在するが、その場合は、まずゲーム内のアイテムで改善出来る様なものではない。脳の信号のやり取り、脳とフルダイヴマシンの間に生じる接続障害の為、改善される筈もないのだ。




「……まずいな」
「え……?」

 そんな時だ。サクヤがこの緊迫した空気の中で低く囁いた。

「あのサラマンダーの両手剣、伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)の紹介サイトで見た事がある。《魔剣グラム》……それに、あの男も名をいっていた。……間違いない、あの男が《ユージーン将軍》だろう。……知っているか?」
「名前、くらいは……」
「ちぃ……、それだけじゃない。あのひょろメガネ、《ジェイド》……間違いない、サラマンダーの中でも随一の魔法の使い手よ。……直接見たわけじゃないけど、聞いた話じゃ、魔法使いなのに、近接でも遠距離でもどこからでも戦える魔法使い」
「っ……」

 サクヤの言うユージーンだけでなく、リタが言っていたジェイドと言う名にもリーファは聞き覚えがあった。リタの様に数多の魔法を使いこなせるわけではないが、近接、遠距離の両方、どこででも戦える魔法使い。リタが目指していたスタイルであり、戦闘能力を考えれば、或いはリタも凌駕するほどの者。

 つまりは、サラマンダーの大魔法使い(マギステル・マギ)だと言う事。

「……サラマンダー領主《モーティマー》の弟ユージーン、その上領主の懐刀と呼ばれるジェイドか。武においてはユージーン将軍、そして魔に関してはジェイド、領主である兄モーティマーは知。サラマンダー三大トップの内の2人がここに揃うなど……と言う事は……つまり……」
「全プレイヤー最強の3人中2人が手をタッグを組んだ、って事……?」

 リーファの言葉に頷くサクヤ。リタも忙しなく、指先を噛んでいた。そして、勿論ケットシー側のアリシャも呆然としていた。

「これは、もう 完全に無事で、家に帰れる気がしなくなってきたヨ……」

 そう、呟きながら。






 キリトとドラゴはゆっくりと空中へと飛び上がる。それに続いて、ユージーンとジェイドも翅を広げ飛んだ。

「……良いのか? 片方は魔法使いの様だが?」
「お気遣いなく。私はどちらでもいけますので……ね?」

 メガネをくいっと指で持ち上げると、不敵に笑みをみせた。それは、キリト同様、絶対の自信で満ちている様だ。そして、杖を持っていた手には槍……どちらかと言えば、ロングソードに分類される位の大きさの槍を持っていた。

武器交換(クイック・チェンジ)……」

 キリトは、それを見て呟いた。
 あの世界では、同じ種類の武器であれば、直前に装備していたものと同じものを装備出来る、と言うスキルだった。……が、ジェイドは操作した様な素振りはみせていない。
 何らかの上位スキルなのだと解釈した。……おまけに、武器の種類も変わっているのだから。

 そして、相手のスキルを考えるのはもう、やめた。

 2対2と言う構図となっている様だが、1人が1人を相手にするマンツーマン。ユージーンをキリトが、ジェイドをドラゴが相手にする事になる様だ。

 空中で対峙する4人は、互いの力量を測るがごとくにらみ合い、硬直さえしていた。が、それは直ぐに破られる。


 強い風が上空高くに吹き荒び、大きな雲を流して太陽の光が差し掛かった。強い日差しが、キリトの目に当たり、眩んだその瞬間、予備動作無し(ノーモーション)、でユージーンが動いたのだ。

「ぬぅん!!」

 赤く巨大な剣は正確にキリトの首筋を狙う、が、キリトもその軌道は正確に読んでおり、無駄のない動作で剣で受け止めよう、そしてカウンターを叩きつけようとしたその時。

「なっ……!?」

 キリトに向かって振り下ろされた赤い剣は黒い剣に衝突するその瞬間、キリトの刀身を透過したのだ。まるで、陽炎、蜃気楼の類か?と一瞬思ったのだが、その次の瞬間には、その蜃気楼は形を成した。

 そのまま、キリトの身体に激突する。

 ずがあぁぁぁぁんっ!!!! と言う凄まじい爆音が響き、キリトは、近くに無数にある高台に激突した。

「なにっ……!?」
「やれやれ、向こうはお熱いですねー……、ですが、我々も参りましょうか?」
「……っ、ああ!」

 ドラゴは、横でいたキリトが飛ばされたのを視て驚きを隠せなかった。その瞬間の一瞬の隙。……が、ジェイドは攻撃を仕掛けなかった。気をそらしたのはドラゴの方であり、不注意なのだが……、それを望まなかったのだろうか?ドラゴは、宙を蹴り ジェイドとの距離を詰めた。
 そして剣を振るうが、ジェイドもその軌道を見切り、槍の刃の部分で攻撃を受け止めた。

「……さっきの間に、2回は殺られた気がしたよ」
「おやおや、初対面で随分と評価してくれているようですが……、貴方も只者ではないでしょう?……私の眼は誤魔化せません」

 目つきを更に鋭くさせるジェイド。
 鍔迫り合いの最中、キリトもどうやら、全損はしておらず持ち直した様だ。軽く笑うと、ドラゴは目の前の男に集中した。力を加え、鍔迫り合いを制すると。

「ふんっ!!」

 剣を胴の部分を狙って薙いだ。が、十分なタイミングで槍で払い落とした。

「魔法使いが使用する体技じゃないな」
「まぁ私がそう名乗った訳ではありませんので。……ですが、こういった事もできますよ」

 ジェイドは一瞬の内に、槍から杖を取り出し、そして詠唱をする……のがスタンダードな魔法使いだ。

 だが。

「……なっ!?」

 杖を振るった直後に、拳大程の炎の玉が飛び出した。正確にドラゴの身体を狙って飛んできて……。

 ずごぉぉぉぉぉっ!!! と、先ほどの衝撃音に負けないほどの爆発音と共に、炎が猛り狂った。







「魔剣グラムのエキストラ効果《エセリアルシフト》。それに……アイツ、の方は、《聖杖ニルヴァーナ》……」
「な、何?それって……。」

 サクヤの呟きに、リーファは聞いた。あの二人がああも簡単に攻撃を直撃したのに驚いたが、それ以上に驚いたのはさっきの2つの現象。ユージーンの剣は、キリトの剣を透過し、ジェイドの杖は無詠唱で魔法を発動させた、……それも攻撃力も十分に備わった魔法だ。そのリーファの疑問にアリシャとリタが答える。

「魔剣グラムは、剣や盾で受けようとしても、非実体化して、すり抜けてくる。……それがエキストラ効果だヨ!」
「あのニルヴァーナのエキストラ効果は《マジック・リコード》、その杖の使い方は、魔法を放つ為だけじゃなく、杖そのものに、魔法を記憶させる事が出来る伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)。……おまけに、マナの消費は最小魔法程のものだから、この戦いでドラゴのHPより先にアイツのマナが尽きる様な事は無いわ。アイツが近接でも戦えるっていうのは、槍じゃなく、そう言う理屈だったのね……」
「そ、そんな、無茶苦茶な!」

 リーファは、アリシャとリタのその効果の説明を聞いて思わずそう抗議の様に言ってしまっていた。つまり、ユージーンの剣は防御不能、弾き防御(パリィ)で防ぐ事も出来ない。全ての攻撃を見切り、躱さなければならないのだ。……が、この高速近接戦闘において、そんなのは殆ど不可能だ。

 そして、リタが言う効果があるあの杖。

 魔法と言うのは、詠唱に時間を掛ける。その詠唱時間は、基本的には無防備であり、大きなリスクを孕む。故に魔法使いは近接では戦えないとされている。そして、そのリスクに応じて、それ相応の魔法を放つ事が出来るのだ。

 火力を考えたら、接近戦を主とする戦士達よりも高い事もあるダメージディーラーともなる事が出来る。一言で言えば、リスクを伴い、強大な魔法を放つ事が出来るのが魔法使いの詠唱時間と魔法。

 ……が、あの杖はそのリスクの部分だけを全て無しにしてしまっている。剣での攻撃で言うならば、弱攻撃しかしてないのに、当たれば全てが高威力となってしまうも同じだ。


「……あの馬鹿、いきなり現れといて、負けるんじゃないわよっ……!」
「キリト君……っ」

 圧倒的不利な状況での戦い。でも、二人を見守る事しか出来ないのだ。信じて、見守る事しか……。









「ほう……ジェイドの攻撃を受けて生きてる。お前と言い、あの男と言い、驚いたぞ?」
「戦闘中に、よそ見とは余裕だな! ……って、それよりなんなんだよ! 今のは! 防御してるのに、無茶苦茶な攻撃をしやがって!」

 キリトは、お返しだ!と言わんばかりに剣を叩きつける。ドラゴの方も心配だったが、今は余裕はこちらには無い。……ユージーンは、武器の性能に負ぶさっているだけの戦士ではない様だ。
 鍛え上げ、研ぎ澄まさしたその反射神経は、キリトの剣を受け流し、即座に反撃に転じる。

 キリトには、攻撃を防御する事が出来ないから、避け無ければならない。高速で迫り来る刃を剣防御無しでよけ切るのはあの世界でも体験した事の無い高難易度クエストであり、キリトの身体には赤いダメージエフェクトを幾つ受けてしまっていた。

「ぐぅっ……効くな……、おい、もう30秒は経ってるんじゃないかよ!」

 喚きをあげるキリトにユージーンは、不敵に笑う。

「悪いな、やっぱり斬りたくなった。……貴様の首を取るまでに変更だ。貴様の首を取った後、あの秘密兵器とやらの首も貰おう。ジェイドが始末をしてなければ、だがな?」
「この野郎……、絶対に泣かせてやる!」

 圧倒的な不利な中でも、キリトは怯まず 同じくらいの巨大な剣を構え、最大速度で迫っていった。


「……さて、そろそろ起きたらどうです? 大してダメージを受けている様には見えなかったですが」

 ジェイドは、発生させた炎の渦に向かってそう言っていた。その渦の中から、まるでその言葉に応える様に炎が2つに分かれ、道が出来た。

「……いい眼をしている。が、ダメージは受けているぞ。正直驚いた」
「驚いたのは私の方です。……私は、この武器の性能からの攻撃。だからこそ、あれだけの速度で放てる。……が、私同様、貴方は詠唱をしないで魔法を使った。……あの攻撃に負けない魔法を放ち、直撃を防いだ」
「ご明察。魔だけでなく知将でもある様だな」
「まぁ、モーティマーさんには負けますがね。」

 ジェイドは軽く笑うと、再び構える。

「確かに素早い……ですが、私の魔法の全てを回避し続けれますか? ……来るのは魔法だけとは限りませんが」

 かなりの速度で、武器交換を数度繰り返した。一瞬二択の攻撃。魔法か、槍か。手の選択を見誤れば、直撃をしてしまうだろう。

「……純粋に競いたい相手だ。……だが、悪いな」

 ジェイドに聞こえない程の声量で、ドラゴは謝っていた。

 これは、正直対人戦ではあまり使いたく無いものだった。

 何故なら、自分にしか使えない、その武器にしか使えないエキストラ効果の様なものだから。



「この戦いは負けれない戦いだ。世界樹に行く為に、……シルフ達の為にも……」


 そう言うと、ドラゴは目を閉じた。

「……ぬ!?」

 ジェイドは、強張る。ジャグリングをする様に、武器交換をしていた手を止めた。何故、五感の1つ、最重要器官とも言える視覚を縛る?だが、何故か動く事が出来なかった。

 そして、ドラゴが開いた目を見たその時。

「っ……」



――……身体に戦慄が走る。



「……ここからが本番だ……ってな」

 開かれたその瞳は、赤く……サラマンダーの色よりも赤く、深く、染まっていたのだ。
 
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