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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第110話 ALFと解放軍


 それは突然だった。

「うっ……」

 突如、ユイが苦しそうに声を上げたのだ。

「……ユイ?」
「大丈夫か?」

 それに気づいたリュウキとキリト。リュウキは、反射的にユイの方を視ていた。

「みんなの……、みんなの、こころが……」

 その声はとても細かい。でも、よく通る声が場に響いたのだ。その声は、アスナにもレイナにも届いた。 そして はっ として、顔を上げる。
 ユイは、空に視線を向けていた。

「みんなの……こころが……」
「ユイ! どうしたんだ、ユイ!」
「何か……思い出したのか?」

 キリトが叫び、そしてリュウキがそう聞く。ユイは2度、3度瞬く。でも、2人の言葉が判らないのか、何も言わない、言えなかった。そこへアスナとレイナが戻ってきた。

「ユイちゃん!? 大丈夫っ!」
「何か思い出したの??」

 2人が駆けつけたところで、ユイはゆっくりと表情を俯かせて答えた。

「あたし、わたしは……ここには、いなかった……。ずっと、ずっとひとりで……、くらいところにいた……」
「暗い……ところ?」

 リュウキは、その言葉を口吟みながら考えた。
 この世界において暗い所、昼夜問わずに暗いところと言えば、迷宮区、即ち圏外、洞窟系のダンジョン。そこであれば、燭台の灯りくらいしかないだろう。
 だが、第1層であれば、暗闇と表現するにはまだ明るい方だ。

 確かに、ユイは『くらいところにずっといた』と言った。

 それは、子供だからだろうか、とも考えたが何かが違う。ユイは、何かを思い出そうとするかのように顔をしかめ、唇を噛むと、突然――。

「あ、うあ……あ、あああ!!」

 ユイの表情が崩れ、顔が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が迸った。

「っ!!?」

 その瞬間、ザ、ザッ!と言うSAOないで初めて聞くノイズじみた音があたりに響き渡る。いや……、このまるで耳を劈くような不協和音が響くのは自分たち4人だけのようだ。他の子供たちや、あの女性は心配する様子で、耳を塞ぐような仕草はしていなかったのだから。

「ゆ、ユイちゃんっ!」

 崩壊するかの様に激しく振動するユイの身体をアスナは、両手で必死に包み込む。レイナも心配そうに、ユイの傍にいた。

「ママ、……おねぇちゃん……わ、わたし、こわい……とても……こわい……」

 まだ、鳴り止まないそのノイズは、ユイと連動している様だ。彼女の精神状態と連鎖反応を起こし、この現象を起こしているのだとすれば……。

「……安心しろ。ユイ」

 リュウキは、ユイの額に手を当てる。そして、ユイを優しく撫でた。あのノイズはまだ頭の中で響いているが、眉一つ動かさずにユイの方を見ていた。そして、安心できる様に、微笑みがならユイの方を見て。

「……ここには、皆いる。……ユイは1人じゃない。……もう、ユイのいる場所は暗いところなんかじゃない」
「っ……」

 その言葉が深く……ユイの中に入っていく様な感じがした。
 そして、数秒後……、その不協和音は、怪現象は収まり、硬直したユイの身体をアスナがキリトの腕から抱き上げ、ぎゅっと胸に抱きしめた。

「……なんだよ、今の……」

 状況が理解できない。キリトの虚ろなつぶやきが静寂に満ちた空き地に低く流れ出ていた。

 そして、その後、子供たちを助けてくれたお礼にと、彼女に、サーシャと言う女性に教会へと招かれた。本来の目的である、ユイの事を聞く事、そしてユイを養生させる事もあった為、4人はその招きに応じた。
 その教会へと向かう道中。

「……リュウキ君、今のが何だったんだろう……」

 レイナは、今アスナにおぶられているユイの方をみながら心配そうに呟いた。彼女はまた、眠りについている。……以前のように、深い眠りについてしまったらどうしようと、心配も尽きないのだ。

「……まだ、はっきりとは言えないが。……さっきの現象は、明らかに通常のものではない。確認したが、数列が明らかに乱れていた。……システムエラーのそれに酷似してる」

 リュウキが神妙な表情でそう答えると、レイナは驚いた様な表情をした。
《システムエラー》と言う言葉を聞いて。

「えっ……、そ、それって……」

 レイナが再び言及をしようとした時。

「ここです。どうぞ」

 目的地、はじまりの街、東七区の教会へと到着したのだ。

「……続きはまた後だ、レイナ。まだ、確信出来ていない事が多い」
「う、うん……」

 レイナはその言葉に従い、皆と共に、教会内へと入った。あの現象、そして苦しむユイの顔。頭から暫く離れる事は無かった。







~第1層 教会~




「ミナっ!パン1つ取ってー!」
「ほーら、よそ見してるとこぼすよ?」
「あーっ!先生ー!ジンが目玉焼きとったー!」
「えー、でも代わりにニンジンやったろ?」
「ニンジン代わりにならないもん!ニンジン嫌いっ!」



 それはあっという間に起こったの光景だった。

「……これは、凄いな」
「あはは、そうだねー」
「こう言うもの、なのか。……子供たちが集まった食事と言うものは……」
「うん、これが一般的だと思うよ? 賑やかでしょ」

 眼前で繰り広げられるまるで、戦場さながらの食事風景に、呆然としていたのは男性陣。いや、アスナやレイナ達も内心では同じだったと思える。それは久しく無かった光景だから。
 間違いなく、この世界にきて一度も無かった事だ。

 レイナは、リュウキに教える様に言っていた。
 リュウキ自身は、幼い頃の集団行動は取ったことがないも同然だったから。能力開発研究所と言う場所でこんな風景は無かったと、思えるから。

「……騒がしいけど、凄く楽しそう、だ」

 リュウキはそう呟いていた。
 自分もこう言う事を経験してきていれば、何処か違った一面も得られたのではないか?と一瞬頭を過ぎったけれど、それは考察するだけ無駄だし、今が満ちているから別に良いと思っていたのだ。

「……だよね」

 レイナは、直ぐ隣で座っているリュウキの手をそっと取った。……リュウキがどう感じ、想っているのかが判ったから。リュウキもレイナの手を握り返した。
 口には出してないけど互いに伝わっていたのだった。

「ふふ、毎日こうなんですよ? いくら静かに、って言っても聞かなくて」

 そんな時、サーシャはキリト達をみながらそう言いっていた。でも、そう言いながらも、子供たちを見るその表情は、その目は心底愛おしそうだった。

「子供、好きなんですね」

 アスナがそう言うと、サーシャは照れたように笑っていた。

「向こうでは、大学で教職課程を取ったんです。ほら、世間では学級崩壊とか長いこと問題になっていたじゃないですか。だから、子供たちを私が導いてあげるんだーって燃えてて。でも、ここに来てあの子供たちと暮らし始めたら、何もかも見ると聞くとは大違いで、むしろ私が頼って、支えられている部分が大きいと思います。……でも、それでも良いっていうか……、それが自然なことだって思えるんです」
「何となくですけど、解ります」
「うん。そうだよね?」

 アスナがそう言うと、レイナも頷いた。その2人の視線の先には、ユイがいた。
 
 ユイは、すっかり元の調子に戻って笑顔を見せてくれていた。
 今は、真剣にスプーンを口に運んでいるから、笑顔は見られないけど、それでも愛おしい。アスナは、ユイの頭をそっと撫でた。レイナもその姿を見て安心すると同時に、笑顔も戻る。ユイの存在が齎してくれる温かさは驚く程である。彼女達が其々愛し合っている男性と触れ合う時のそれとはまた違う温かさ。まるで、包まれている様な温かさ、静かな安らぎを感じるのだ。

(……私もお姉ちゃんみたいに、子供ができたら、もっともっと強く思えるのかな?)

 レイナはそうも思っていた。
 ユイがおねぇちゃんと慕ってくれているのは、とても嬉しい。でも、やっぱり ママと言われる方がより強く思うのではないか?と思ってしまうのだ。だから、いつか……本当のママになった時の事を思い浮かべていた時。

「……どうかしたか?」

 愛おしそうに微笑んでいた時、そう考えていた時、自然とレイナはリュウキの方を見ていた様だ。その視線に気がついたリュウキ。彼もまた微笑み返していた。
 その顔をレイナが意識してしまったものだから。

「っ///!! な、何でもないよ~? ほ、ほら! これ、美味しいよねっ!?」

 慌てて、レイナは出された朝食を頬張る。
 そんな彼女を見ててリュウキも更に笑顔の質を一段階上げた。その微笑ましさは、ユイや子供たちにも勝るとも劣らないものだと、アスナもサーシャも思っていたのだった。

 ……昨日の謎の発作を起こして倒れたユイは、幸いにもあの後 数分で目を覚ました彼女だったけれど、直ぐに長距離を移動させたり、転移ゲートを使わせたりする気にはどうしてもならず、それにサーシャからの熱心な誘いもあって、教会の空き部屋を一晩借りることにしたのだ。

 つまり、このさながら戦場のような光景は、朝食時である。朝の気付には丁度いいものでもあるだろう。それに、今朝からユイの調子も良さそうだからこそ、この場の全員が安心した。でも、基本的な状況はまるで変わっていない。かすかに戻ったらしきユイの記憶によれば、はじまりの街に来たことは無いようだった。

 ……それもそうだろう。

 この街の中で暗闇が形容される様な場所は黒鉄宮の牢獄の中だけとも取れるし、ユイの口ぶりからも、全く灯りが差さない場所だと思える。……そんな場所はこの層の街には存在しないのだから。

 そして、何よりもユイは、保護者と暮らしていた様子すらない事もあった。

 だから、当初より予想していた保護者と何か大変な自体に見舞われて……と言う予想は覆され、その記憶障害や幼児退行といった症状の原因もまるで判らなくなったのだ。

「………」

 ただ、1名だけは除いて。

「んー? おにぃちゃん?」

 ユイの顔をずっと見ていたリュウキだった。ユイもその事に気づいた様で、首を傾げる。リュウキはと言うと、ニコリと笑うと。

「……ふふ、頬に付いているぞ?」

 リュウキは、ユイの頬に指を伸ばした。それは、サンドを頬張った時につけてしまったのだろう。リュウキは、それをひょいと掬い上げる。本当に、ここまで細かに作ってあるから、驚愕と言うものだ。この世界は。

「あー、えへへ……ありがとうー」

 ユイは、ふにゃりと、頬を緩め 笑顔をリュウキに向けた。リュウキもそれに笑顔で答える。

「ふふ、リューキくん? 指で取ったら、ちゃんと食べなきゃ!」
「ん? ああ。そうだな」

 リュウキは、その指をひょいと口にいれた。その光景がとても微笑ましくておもしろい。そして、レイナは面倒見が良いと言う新たなリュウキの一面を見れて良かったとも思っていた。……リュウキも良いパパになれそうと思っていたから。

 その場にいた皆の笑顔が絶える事がない朝食となっていた。




 そして、キリトが昨日の話を切り出したのは、朝食を終えた後の事だった。サーシャもその事は重々承知だった様で、重い口を開く。

「軍の人たちの方針が変更された感じがしだしたのは、半年くらい前です。……徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人たちと、それを逆に取り締まる人たちもいて……軍のメンバー同士で対立してる場面も何度も見ましたし、噂じゃ、上の方で権力争いか何かあったみたいで……」
「……話は大体耳に入ってるよ」
「ほんと? リュウキ君」

 サーシャの言葉にリュウキが頷いた。
 以前、無茶な攻略参加があった事もあり、リュウキも気になってアルゴに聞いてみたのだ。……事、ゲームのイベント等の事であれば、造作もなく調べる事が出来るが、対人、ギルド関係となるとリュウキもどうしようも無いから、その道のプロに話を聞くほうが早い。

「過激派と穏健派と言った所だろうな。……聞き覚えのあった男が過激派のリーダーだと言う事だ」
「……キバオウ」
「あの時の話、聞いてたけど、あの人……そんな事を……」
「っ……」

 そんな時だった。
 この教会に誰かが近づいてくるのを察したのは。

「まて、……誰か来るみたいだ」
「そうだな。……来たのは1人、か」

 リュウキも話をやめて、入口の方を向いた。索敵スキルで探ってみても、間違いなく着ているのは1人。

「え……。また、お客様かしら……」

 サーシャの言葉に重なるように、教会内に音高くノックの音が響いた。

 扉を開けた先にいたのは、長身の女性プレイヤー。銀色の長い髪をポニーテールに束ねており、その凛とした表情は、怜悧という言葉がよく似合うと思える程鋭く整った顔立ちだ。

(わぁ……すっごく美人さん……)

 レイナも思わず目を丸くさせてしまっていた。
 それは、美人と言う事もあるが、大人っぽいと言う憧れも含まれていた。

 アスナも同じだろう。
 だが、そう感じたのも一瞬である。それは、彼女の装備を確認したからだ。昨日あったあの連中と同じ装備。鉄灰色のケープに隠されているが、女性プレイヤーが身に纏う濃緑色の上着、そして大腿部がゆったりとしたズボン。そして、何よりも……あるシンボルも見えたのだ。エンブレムと言うものだろう。

 それは、軍の一員であると言う証。

「あ、心配なさらずとも、この方は大丈夫です」

 サーシャは、視線から緊張感を感じ取った様で、そう答えていた。その女性プレイヤーは、優雅ささえ醸し出している様にゆっくりと頭を下げると。

「初めまして。ユリエールです。ギルドALFに所属しています」
「ALF?」
「え……っと……」

 それは初めて聞く名前のギルドだった。
 アスナもレイナも脳内に保管してあるノートをペラペラとめくって確認してみるが、何度探してもその名前は見当たらなかった。

「……ALFは軍の略称だ。そうだろう?」

 判らない2人に教える様に、リュウキが代わりに答えた。
 その略称を使うのは、現ギルドを快く思っていない者に限られていると言う情報も知っている。因みに それは勿論、アルゴ経由の情報だ。

「あ、はい。そのとおりです。すみません。混乱させてしまって……。アインクラッド解放軍の略称です。正式名はどうも苦手で……」

 何度聞いても、落ち着きさが出ていて、やや低く感じるものの、優雅さが全面に出てさえ感じる。声質はアルトのもの。……正直子供っぽさがまだまだ残るアスナやレイナ。
 だからこそ、羨望を感じてしまうが、挨拶をされた以上は答えなければならないだろう。

「はじめまして。わたしはギルド、血盟騎士団の――……あ、いえ、今は一時退団中ですが、アスナと言います」
「同じく、わたしも一時退団中の身ですが、同ギルドに所属していたレイナです」

 其々が自己紹介をしている所に、ユイがひょいと視線を向けた。

「あ、それでこのコはユイと言います」

 ユリエールを注視していたユイは、僅かに首をかしげているが、直ぐに笑顔を見せた。……そして、ユリエールは、血盟騎士団の名前を聞いた途端に目を見張らせた。

「……KoB。アインクラッドにおいて、トップギルドの1つですか。なるほど、道理で僅か2人であの連中をあしらう訳だ」

 その連中というのが、昨日の暴行恐喝集団のことだと直ぐに悟った。……だからこそ、再び警戒心が沸き起こってきたのだろう。

「……つまり、昨日の件で抗議に来た、と言う事ですか?」
「いやいや、とんでもない。その逆です。よくやってくれた、とお礼を言いたいくらいで」
「……」

 事情がまるでつかめない3人だ。
 だが、大体の事はリュウキは判っている様で答える。

「……アインクラッド解放軍、と言う名を好まない者には共通点があるらしい。……現状の軍の事を快く思わない者、憂いている者が解放軍を名乗らず、ALFと言う名を使うそうだ」
「っ………」

 ユリエールは、そのリュウキの言葉を聞いて、表情を歪ませた。その表情を見ただけでわかる。
 ……間違いなくこの人はその内の1人だと言う事が。

「……そう言っていただき、感謝致します」
「いや、オレは話を聞いた事を言っただけだ。」

 リュウキはそう言って首を振った。
 今後どう変わるかは、彼女のようなプレイヤーにかかっているだろう。アスナもレイナも、キリトもそう感じていた。

「それで、どうしたんでしょうか? 抗議ではないというのなら、今日はどう言った……?」

 ユリエールの視線や振る舞いから、この教会に用事があると言うよりは、自分たちに用がある印象があった為、レイナはそう聞いていた。

「あ、はい。申し訳ありません。……折り入ってあなた方にお願いがあってきたのです」

 その銀の髪を揺らせながら頭を下げる。何事だろうか、と4人は話を聞く事にしたのだった。


「元々軍のトップであるシンカーは、決して今のような独善的な組織を作ろうとしたわけじゃないんです。ただ、情報とか、食料とかの資源をなるべく多くのプレイヤーで均等に分かち合おうとしただけで……」

 教会内へと招き入れ、サーシャにも立ち会って貰いながら、ユリエールは話を始めていた。軍の事を初めから順に。ALFが今の名前になったのはサブリーダーだった男が実質の支配者となってしまった為。
 ……シンカーという名は、嘗てSAO開始当時の日本最大のネットワークゲーム総合情報サイトである《MMOトゥデイ》。その略語でMTDという名でギルドを作った男の事だ。
 情報サイトについては、キリトもリュウキも知っている。そして、その名前も。

「だが、軍は巨大になりすぎた」

 キリトのつぶやきに、ユリエールも頷いた。
 危険を極力減らし、安定した収入を得てそれを均等に分配しようという発想、思想は間違えてはいない。……だが、この世界の根源はMMORPG。
 この世界で生きている者は、大義名分を持ち、信念を持った者だけではない。当然だろう、嘗ては画期的なVRMMOとして売り出されていたのだから、基本大多数がゲーマーなのだから。

 だからこそ、そのMMORPGの本質である、プレイヤー間でのリソースの奪い合いは変わらない。
そう、ここが極限的状態となったとしても……。

 だからこそ、理想を実現、させるためには、組織の規模は勿論、強力なリーダーシップが必要だったのだ。規模自体は申し分ない。……いや、巨大すぎたのだ。

「そこに、台頭してきたのが、キバオウという男です。……彼ら一派はシンカーが放任主義なのをいいことに、同調するプレイヤーたちと体制強化を打ち出して、ギルド名を変えさせました。更に公認の方針として、犯罪者狩りと効率のいいフィールドを独占することに推進したのです。……それまで、一応は他ギルドとの友好も考え、狩場のマナーは守ってきたのですが、数の力で長時間の独占を続けることで、ギルドの収入は激増して、彼らの権力もどんどん強力なものになってしまいました。……そして、調子に乗って、街区圏内でも《徴税》と称して恐喝まがいの行為すら始めたのです。昨日、あなた方が痛い目に合わせたのはそんな連中の急先鋒だった奴らです」

 一息つくようにユリエールは、サーシャが入れてくれたお茶を含む。ユイも同じようにお茶を含む。
幼い彼女には、難しすぎたのか、途中から何度も、うつらうつらとさせているのを見て、レイナは、席を外す?と聞いたが、ユイは残ると言ったのだ。

 その後もユリエールは続ける。

「でも、キバオウ派にも弱みはありました。それは、本来はSAOから《解放》する為の組織、ギルドであるのに、資源の蓄積だけにうつつを抜かせて、その本来の目的をないがしろにし続けたことです。本末転倒だと言う声も上がり、その不満を抑えるために、最近キバオウは無茶な博打に出たんです。……配下の中でも最もハイレベルのプレイヤー10数人による、攻略パーティを組んで、最前線のBOSS攻略に送り出したんです」

 その言葉に、互いに見合わせていた。
 ……最前線に来た軍のメンバー、それに面識があるのだから。

「コーバッツさん……」
「博打にすらなっていない。……端から無謀な作戦だ。25層以上を知らない者たちが、レベルだけを頼りに上にあがってくるなんて」

 リュウキは、ギリっと歯軋りをして、拳を握り締めた。単純に適正レベルさえあれば、大丈夫なのではない。この世界はそんな生ぬるいものではない。……誰しもがそれを判っている事だと思いたかった。
 あの時の声が、表情が、まだ鮮明に残っているから。

「……そのとおりです。元々攻略組の皆さんに比べたら、私達の力不足は否めません。……結果は最悪なものでした。その結果、キバオウはその無謀さを強く糾弾されたのです。もう少しで彼を追放できるところまで行ったのですが……。追い詰められたキバオウは、シンカーを罠に掛けると言う強攻策に出たのです」

 その言葉を口にするユリエールは、唇を噛んでいた。

「……シンカーは、……彼をダンジョン奥深くに置き去りにしたんです」
「ッ!!」
「て、転移結晶は?」

 余りの驚きの事で、思わずキリトはそう聞いた。だが、ユリエールは、首を左右に振った。

「そ、そんな! 圏外に手ぶらで?? なんで、そんな危険なことっ!」
「……シンカーは良い人過ぎたんです。キバオウの『丸腰で話し合おう』と言う話を信じて……、3日前の事です」
「3日も前に……!? それで、シンカーさんは?」

反射的に訊ねたアスナに、ユリエールは小さく頷いた。

「《生命の碑》の彼の名前は、まだ無事なので……安全地帯まではたどり着けたようです。……ただ、場所がかなりハイレベルなダンジョンの奥なので、身動きが取れないようで……ご存知のとおり、ダンジョンにはメッセージを送れませんし、中からはギルド倉庫にアクセスできませんから、転移結晶を届けることもできないのです。……すべては副官である、私の責任です」

 出口を死地のど真ん中に設置した回廊結晶を使う殺人は《ポータルPK》というメジャーな手法だ。……仮にも解放を謳っているギルドの者が。そう強く憎悪したとしても仕方がないだろう。あの男(キバオウ)は、墜ちるところまで堕ちたと言う事だ。

「私のレベルでは、突破する事ができません。……かと言ってキバオウの息のかかっている軍のプレイヤーの助力もあてには出来ません……。そんなところに、恐ろしく強い人たちが街に現れたと言う話を聞きつけて、いてもたってもいられずにこうしてお願いに来た次第です。キリトさん、リュウキさん、アスナさん、レイナさん」

 ユリエールは、4人の顔を其々1人ずつ見ると、深々と頭を下げていった。

「お会いしたばかりで厚顔極まるとお思いでしょうが、どうか、どうか私と一緒にシンカーを救出に行ってくださいませんか……」

 この話はとても長く感じた。アスナは彼女をじっと見つめた。確かに、ユリエールが嘘を言っている様には見えない。……だが、悲しいことだとは思うが、ここSAO内では他人の言うことをそう簡単に信じることは出来ないのだ。口では何と言っても、昨日の報復に圏外へと誘い出し、危害を加えようとする陰謀である可能性も捨てきれない。

 アスナは、私情をぐっと押し留めながら口を開いた。

「私達に出来る事なら、力を貸して差し上げたい――……と思います。ですが、そのためにはこちらで最低限のことを調べてあなたのお話を裏付けしないと」
「それは……当然、ですよね」

 ユリエールの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

「無理なお願いだという事は、私にもわかってます……、ですが……ですが、黒鉄宮の《生命の碑》にあるシンカーの名前に いつ、横線が刻まれるかと思うと、もうおかしくなりそうで……っ」

 その涙は留まる事なく流れ続けた。
 そう、《シンカーは安全地帯で身動きがとれない状況にある》と言うのは、あくまで可能性の話なのだ。……もし彼が、決死の覚悟で動き出すかもしれないと言う可能性だった捨てきれないのだ。人の良い彼は、自分が居なくなれば、軍がどうなってしまうのか、それを考えない筈が無いから。
 
 そして、その選択をしてしまったその時が、彼の最後だとも言えるから。

「っ……」

 レイナも、彼女の涙を見て 気持ちが強く揺らいだ。
 血盟騎士団と言う巨大な組織の中で培ってきた経験もあり、彼女もアスナ同様の考えを今も強く持っていたのだ。そして、感情で動いてしまえばどうなるのかと言う事も、痛い程知っている。

 時には非情になってでも、そう選択せざるを得ないと言う事を。

 だけど……信じてあげたいと言う気持ちも強く持っていた。……もし、シンカーと言う人とユリエールがただの副官、司令官の関係ではなく、特別な絆で結ばれている2人だったら?自分に置き換えてみれば、すぐ横に居る愛する人が危険な目にあっていると言う状況なのだ。
 そんな状況だったら……、自分も絶対にユリエールと同じ行動を取ると確信出来るから。
 
 アスナもレイナの想いも察した。
 当然だろう。全く同じ想いを持っていたのだから。キリトも迷っている様子だった。

 そんな中、声を発した者がいた。

「……引き受けよう」

 両腕を組み、目を瞑っていた男がそう声を上げたのだ。その言葉に皆が反応した。中でもユリエールは信じられないような表情をしていた。まだ、裏付けもとっていないこの状況で、こんな無茶な願いを聞き入れてくれるというのだから。

「リュウキ、くん……」
「迷うくらいなら、行動をしよう。後悔をしない様にな。……失ってから、後悔しても遅すぎるんだ」

 リュウキはそう言うと、ユリエールを、そして他の3人を見て、笑った。

「オレ達なら、大丈夫だって信じているからな? 仮に、これが罠だったとしても。オレ達なら問題ない。この4人なら何でも出来る。……そうだろう?」

 その言葉が引き金だった様だ。キリトもニヤっと笑った。

「そうだな。疑って後悔するぐらいなら、信じて後悔した方が幾らかマシだ」
「そう、だね? 私、皆とだったら、なんだって切り抜けられる。リュウキ君の様に皆の事、信じてるしね」
「……うん。皆が納得してるのに、私だけいかないなんて言えないし、言わない。私だって、大事な人を助けたいって気持ちわかるから」

 3人とも頷いた。
 そして、ユリエールも思わず口元に手を当てて、更に涙を溜めた。

「……それに、ユイ。この人は嘘を言っていない。……そうだろう?」
「うん。だいじょうぶ。そのおねえちゃん、うそついてないよ」

 リュウキが軽く隣のユイの頭を撫でながら聞くと、ユイもニコリと笑って頷いた。まるで、相手のこころが判る様だった。……その発言内容もそうだが、つい昨日までのたどたどしさが嘘のような立派な日本語を使っているのも驚きの1つだった。

「ユイちゃんも、そう思うの?」

 リュウキの言葉に同意したユイに、アスナはそう問いかけた。すると、ユイは、こくりと頷く。

「うん、ママ。……うまくいえないけど、わたし、わかる」

 そのユイの言葉を聴いて……ユリエールは、再び深く頭を下げた。目に溜まった涙をぱっ、と滴らせながら……。

「ありがとう……ありがとうございます……」
「それは、シンカーさんを救出してからにしましょう」
「そうですよ、ユリエールさん。……涙は、とっておきましょう。彼をつれて、戻ってきたその時に」

 ユリエールの肩を掴み、励ますアスナ。そして、傍らで微笑むレイナ。キリトは、ユイの頭を撫でなら。

「なら、ユイはちょっとお留守番だな?」

 そう言ったと同時だった。
 大きく、くりっと開いていたユイの目が少しつり上がり、首をブンブンと左右に振ったのだ。

「いや、ユイもいくっ!」

 流石にその言葉だけは、賛同するわけにはいかないだろう。だからこそ、成り行きを見守っていたサーシャは、ユイに言う。

「ユイちゃん。わたしと一緒にお留守番をしましょう?」
「いやぁっっ!」

 ユイは頑なに拒み続けた。
 そんなユイを見て、キリトは大真面目に。

「おぉ……、これが反抗期と言うヤツなのか」
「なるほど……」

 リュウキもキリトの言葉に頷いた。ただの反抗期ならば、まだいい。だけど、これから行く場所はとても危険な場所なのだ。

「ちょ、ちょっとっ! リュウキ君っ! キリト君っ! もっと反対してよっ!」
「そうだよ。馬鹿な事言わないの、……ユイちゃん。今から行くところはとっても危ないから……」

 ママの言う事は、と期待したレイナだったが更なる追撃は逆効果だった。ユイは、キリトの腕にぎゅっとしがみつく。

「やだぁぁっ! ユイもいくのっっ!」

 ……我が子の我が儘、初めての我が儘なら聞いてあげたいとも思えるが……。だが、無理やり引き離す様な事も出来るはずもなく……、やむなく一緒に連れて行くことになったのだ。勿論、全員のポケットには転移結晶を常備装備するという事を絶対条件として。

 
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