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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life12 暗躍を照らす光

 特訓10日目。

 少々時間を遡り、敵の軍勢が広域陽動作戦を開始しだした頃。
 各地で敵の襲撃を受けている所で、所用――――一応駿足のアキレウス(レウス・クロス)と会う約束をしていたので、ついでに緊急時への対応も話し込んでいた士郎が、転移魔法陣で白銀の魔剣士――――叛逆の騎士モードレッド(モード)の所に戻って来ていた。

 「状況は?」
 「・・・相当広範囲で、謎の敵共から襲撃を受けてるみたいだぞ?」
 「なっ!?まさかゼノヴィアを狙ってる奴らのか?」
 「多分そうなんだろうぜ。流石に此処までやるとは、フィリップもケイン予測出来なかったろ」
 「・・・・・・・・・・・・」

 想定外の規模に、士郎は押し黙った。
 それを横目で見たモードはため息をつく。

 「オイ、士郎」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「こっち向け、ってか聞け!」

 落ち込み続ける士郎に頭を殴る。

 「な、何だよ?」

 殴られた士郎は完全に聞いていなかったのか、殴られた頭を押さえながら怪訝な顔をモードに向ける。
 そんな士郎の表情を見た彼女は、不快気な顔を作りながら口を開く。

 「何だよはオレのセリフだ!つか、質問は無しだ。いいか?オレはフィリップでもケインでも(・・・・・・・・・・・・)予測できなかっただろうって言ったんだぞ?にも拘らず、何落ち込んでやがる!お前はフィリップよりも頭がいいか?ケインよりも戦術眼が上か?そんな訳がない、2人よりも下だろうがっ!それなのになに全部俺の責任だなんて顔してやがるんだよ、このムッツリがっっ!」
 「俺は別に・・・」
 「嘘つけ!どうせお前の事だから、確証がなくても報告すべきだったって、責任を幾つも勝手に背負い込もうとしてるんだろ!?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 明らかに図星だったのか、またも口を噤む。
 それを見て、モードはまたも溜息を吐く。

 「お前は何でもかんでも背負い込み過ぎなんだよ!赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)を宿したお前の弟分が悪魔になったのも、藤村組の所用で出かけてたから仕方がないってのに、勝手に自分のせいだと背負い込みやがって・・・。お前が『衛宮』だった頃にも、さんざん周りに言われてたんじゃねぇのかよ!?勿論・・・・・・・・・“父上”にもな」
 「むぅ」

 反論したくても出来ずにいる士郎に、モードは嘆息する。

 「まぁ~たく、“父上”もとんだマスターに引き当てられたもんだな。めんどくさい」

 そんな風に皮肉るが、彼女からすれば士郎は『面倒』な存在ではあっても『嫌い』な存在ではない様だ。
 そこで、よし!と言う言葉が士郎の口から吐き出された。

 「やっと切り替えたか・・・」
 「いや、落ち込むなら何時でも出来ると思ったまでだ。だから、今に集中する」
 「後で落ち込む気かよぉ」

 士郎の言葉に、モードは本日3度目の溜息をついた。


 -Interlude-


 旧首都ルシファードより少々離れた小高い丘。
 そこでは、敵キャスターが統べるゴーレムの軍勢に対して、祐斗と炎駒は苦戦を強いられていた。
 あの後、炎駒の背に跨ったままではお互いに全力で事に当たれないと言う事で別れて戦っているが、徐々に押され始めている上に祐斗がふらついて来て、防戦一方になり始めていた。

 「ハァ、ハァ、こっのぉ!」

 ゴーレムの重量に任せた振り降ろす様な手刀に、それを聖魔剣で受け止めてから半歩下がってから横薙ぎに切り伏せる。

 「ハァ、ハァ、ハァ」

 リアス達と同様に、修業中に騒動が起きたので碌に休憩も出来ないままこうして戦闘に入っているので、魔力以上に体力がかなり落ちていた。
 得意のスピードで敵を翻弄する事も、テクニックで相手の攻撃を捌き切る事も出来ずに、今の防戦状況を維持するのがやっとになっていた。
 その光景を視界に入れていた炎駒としては今すぐに援護しに行きたい処ではあったが、炎駒自身も祐斗ほどでは無いにしろ防戦一方になってきている上に徐々に祐斗のいる地点から離れる羽目になっていた。

 (先程祐斗さんの身柄を押さえると言う事を言っていましたし、こうして私から祐斗さんを離すのも態となのでしょうね)

 状況が徐々に悪化している事実に気付きながらも、事態を打開する術が今の自分に無い事に対して歯がゆさを感じていた。
 そうして懸命に打開策を考えている最中に、空しくも自体が動いた。

 「くぁあっ!」
 「祐斗さん!」

 遂に防戦維持が困難になったのか、祐斗は加速が加わったことによる首なし騎士(デュラハン)タイプのゴーレムに突撃を剣で受け止めきれずに地面から足を離して宙を舞った。
 それを視界に居れた炎駒はすぐさま飛び立とうとするが、嫌なタイミング(・・・・・)飛龍(ワイバーン)タイプのゴーレムが邪魔する様に飛んでくるので思うように動けないでいた。
 無論、これが偶々である筈がなく、炎駒が横目でキャスターを見ると片手の指を微動作させていた。つまり操っていた。
 その光景を忌々しく思っていた瞬間、祐斗から一際高い悲鳴が聞こえて来た。

 「ぐぁあああ!」
 「なっ!?」

 どのタイプでどのゴーレムかは把握できなかったが、祐斗は空高く打ち上げられた。
 そしてそんな祐斗に向けてさらに上から飛龍(ワイバーン)タイプのゴーレムの両方の後ろ足で祐斗の両腕を掴み上げて拘束する。

 「クッ!祐斗さん!?」

 切迫した事態に最早あと先の事を考える事を放棄した炎駒は、全身から大波の様な炎を吹き出してゴーレムに襲い掛かる。
 しかしその行動自体を察知されていたようで、炎駒を閉じ込める様にタイプを問わずに釜倉状態を形成していった。

 「おの――――」

 それに気づいて飛び立とうとするも、炎駒は完全に間に合わずに閉じ込められた。
 しかし、そんな事だけでは勿論諦めていなかった様で、ゴーレム達の隙間から炎が噴出するも、周りのゴーレム達が其れを塞ぐように何体も覆いかぶさり続けて、表面上は炎が零れなくなった。
 しかし当のキャスターは、自動(オート)でゴーレム共に行動させている為、その事自体に興味を示さずに捕えた祐斗の身を見ていた。

 「さて、捕えたはいいが、恐らく君は余力を残しているね?と聞いても答えないだろうが、君の考えなら予想はついているよ?君は、僕にまで近づいた瞬間に余力をすべて出し切って切り殺すつもりなんだろうが、甘いよ」
 「っ!」

 全てが全て演技では無かったとしても、如何やら最後の賭けだったらしく、策略に気付かれた事に内心で苦虫を噛みしめち気分に襲われていた。
 その策略に対するキャスターの答えは、馬型のゴーレムから降りた首なし騎士(デュラハン)の持つ西洋剣風の鉱物だった。

 「抵抗されても面倒だし、だからと言って殺すわけにもいかないが、抵抗しない様に弱らせておく必要もあるし、腕の一本を断っておこう」

 言葉通り、ゴーレムを操作して祐斗の片腕を切らせるために、首なし騎士(デュラハン)が近づいてから西洋剣に模した鉱物を振り上げてから、振り下ろされた・・・・・・はずだった。
 キャスターの視界からも祐斗の視界からも斬首人ならぬ斬腕人役の首なし騎士(デュラハン)が、消え去った。ある轟音を後から残して。

 「何?」

 その結果自体を訝しんだキャスターだったが、今度は彼の視界に移っていた祐斗を拘束するゴーレムが塵芥となると同時に、祐斗も消え去った。そしてまたも残ったのは轟音のみ。

 「一体何が――――」

 起こったと言おうとした処で、邪魔をさせないように炎駒を止めていたゴーレム製の釜倉が轟音と共に弾け飛んだ。
 その衝撃により辺り一帯が土煙に染まった。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 状況を把握するためにひたすら待つキャスター。
 緊急時のためにゴーレムの軍勢による防備を忘れない。
 そうして土煙が晴れると、3頭の馬に寄り引かれるであろう戦車(チャリオット)があり、その上に翠色の髪をした美青年が奪い取られた木場祐斗(人質候補)を馬型の転生悪魔の背に乗せている所の横に立っていた。

 「何所の何方か存じませんが、救助して頂きありがとうございます」
 「あ、貴方は一体・・・?」

 炎駒と祐斗は、翠色の髪をした美青年――――駿足のアキレウス(レウス・クロス)を見上げていた。

 「ん?あー、何度も説明するのも面倒だしな。とっとと終わらせるから少し待っててくれよ」

 炎駒と祐斗を見下ろすレウスは、目の前に広がるゴーレムの軍勢と対峙した状況を大したことは無いとでも言いたげに、不敵な笑みを浮かべる。
 そのやり取りを静観するほどお人よしでもないキャスターは、飛龍(ワイバーン)タイプのゴーレム共を突進させる。
 その光景を見たレウスは一つ息を吐く。

 「公言したからにはとっとと終わらせよる。レウス・クロス推して参る」

 言い切ると同時に、炎駒と祐斗の目の前から戦車(チャリオット)を残して消え去る。

 パパパパァッーーーン!!

 ほぼ同時にレウスの神速の蹴りを喰らった飛龍(ワイバーン)タイプのゴーレムらは、地に居たゴーレム達を巻き込んで全て失墜した。

 「!」

 その光景を見たキャスターは、瞬時に周りに居たゴーレムらを自分を包み込むような釜倉形状にさせて防備を固めた。
 しかし、これでキャスターは視界を自ら失くしたかと言えばそうでは無い。
 キャスターにとって自身の創造物たるゴーレム達は、眼であり手足でもある。
 故に、外に居るゴーレム達を介する事で、レウスを補足できるのだ。
 だが、もしもの時を考えて保険策を発動させてから、ゴーレム達を操作して敵に殺到させる。

 しかし、レウスからすればそんなものは全て止まって見える為、自分に向かっていたゴーレム達の突進をあっさりと躱しつつ、前に突き進む。
 レウスの行動を阻むべく、キャスターはゴーレムを使い何重もの壁を作る等して妨害を試みるが、それらも悉く躱され叩き落され粉砕させられる始末だった。
 そうしてレウスは、キャスターが中に居るであろう釜倉の防備付近まで後僅かと言うところで飛び上がる。

 「?」

 その行動にゴーレムを通して見ているキャスターは、首を傾げながらも飛龍(ワイバーン)タイプのゴーレム達を特攻させる。
 足場のない宙であれば、神速も恐れるに足らないと言う考えからの操作だろう。
 しかし、当のレウスは不敵な笑みを崩さないまま槍を逆向きに回転させて自分に突進してくるゴーレム達を迎え撃つ。
 しかもその様は槍による突き穿つ態勢では無く、まるで――――。

 「そーーら、よっ!!」

 レウスの槍の柄に突かれたゴーレムは、突かれた部分は砕けるどころか陥没もしなかったが、その衝撃により真逆――――つまり落ちていく。
 その落下していくゴーレムは、別のゴーレムに当たりその衝撃によりまた地面に向けて落下して更に当り落下と、見る見るうちにレウスに突進していたゴーレム達は全て地面に向けて落下していった。
 そしてその着弾地点はキャスターが籠っているであろう釜倉状の防備壁だ。
 それらは見事すべて着弾してもの凄い騒音を響かせると同時に、防備壁を破壊していった。

 「――――っし、パーフェクト!」

 自分の起こした結果に満足気な笑みを浮かべながら、レウスは悠々と着地する。
 その光景を少し距離が離れた後方から見ていた炎駒と祐斗は、唖然とした面持ちで一部始終を見ていた。
 祐斗からすれば自身は勿論、沖田総司(剣術の師)藤村士郎(戦闘技術の師)の2人よりも遥か上と思える程の全く影も見えなかった速度に、圧倒されていた。
 炎駒は、自分たちがあれほど苦戦していたゴーレムの軍勢をいとも容易く蹂躙していった戦闘力と体運びに目を奪われた。
 何より2人にとって大きかったのは最後のレウスの突き付く動きだ。
 そう、あれではまるで――――。

 「ビリヤードは趣味の一つでな、この程度のゲームは楽勝なのさ」

 最後の攻撃は敵をビリヤードの玉に見立てたモノだったらしい。
 とは言うモノの、ビリヤードの玉とは違いゴーレムは凹凸などもあり本来100%イメージ通りにはいかないのだが、そこは大英雄の運動能力と心眼を如何なく発揮した上で可能としている芸当だが、その素晴らしい能力を無駄にしているようにも思えた。
 その当の本人は、自分の攻撃によって破壊して巻き上がった土煙が蔓延している釜倉状の中を視界に入れた途端、不敵な笑みから気怠そうな表情に変えた。

 「――――と言っても、標的(メイン)が逃げている時点で意味も無いがな」

 レウスの視線の中の釜倉の内部は、キャスターが真っ二つに壊れていた。
 但し、キャスター自身が自分に似せて作った身代わりのゴーレムだったが。

 「た~く、あっちの敵アーチャー()と言い英霊としての誇りの欠片もねぇのか。どいつもこいつも裏や陰でこそこそと・・・」

 瓦礫同然のゴーレムだった物を見ながら嘆息する。
 彼としては真正面から堂々とぶつかり合いたいので、敵アーチャーや敵キャスターの様な手合いは吐き気がするようなもの同然と言う事だろう。

 「ちっ、此処で何時までもうだうだしていても仕方ぇし、あっちの2人いや、1人と1体をルシファードに送り届けるか。どうせ敵キャスター()は逃げたんだろうしな」

 そう言った瞬間に遮るモノも無くなったので、一瞬で戦車(チャリオット)の元にまで戻る。
 そのまま少し話し合ってから、その戦車(チャリオット)で炎駒と祐斗を送ってからの説明事情となり、旧首都ルシファードに向けて空を駆けていく。

 それを、かなり離れた地点で保険策として退避していたキャスターがその光景を見送った。
 キャスターが受けた要請(オーダー)は足止めと時間稼ぎのため、既に十分その役割を果たしている上にレウス・クロス(あんな化け物)と交戦しあうなど無益にも程があった。
 さらには、今回の作戦の戦力増強とはズバリ、キャスターの宝具を完成させるために必要な核である一流の魔術回路を持つ魔術師を手に入れるためのモノな為、キャスター自身が消されては元も子もないので言い訳も十分に立つのだ。

 (そもそも、あんな化け物とヤりあうと言うのならそれこそ完成した宝具が必要だし、そうでなきゃ僕なんて一撃で霊核を潰されて、確実に魔力の塵芥に成るだろうからね)

 冷静な思考で判断するキャスターはこの場から去ろうと、足元に魔法陣を出現させる。
 大体このキャスターからすれば極論、この作戦自体の成否など如何でもいいのだ。
 キャスター自身は契約に従事していればいいのだが、レヴェルは期限内までに契約を成功させなければ非常に重いペナルティを課せられてしまう。
 つまり今回の事で焦っているのはキャスターでは無く、レヴェルの方だと言う事だ。

 (勿論、僕だって宝具の完成が早く済むのであればそれに越したことはない。けれど、藤村士郎(あの魔術師)が一流の魔術回路を有した魔術師など判明していないのに無理をする必要なんて無い)

 魔術師とは、基本的に全てにおいて自己中心であり効率性――――つまり、合理的思考に基づく人種である。
 その為これ以上非効率的の上、デメリットしかない戦場に何時までも留まる必要はないと判断しきったキャスターは、英霊の誇り以前に魔術師性を優先して何の躊躇も執着も見せず素直に転移魔法陣にて去って行った。
 後に残ったのは土くれや瓦礫の山だけだった。


 -Interlude-


 堕天使領を襲撃した機械人形の軍勢は、全て沈黙して残る堕天使達を妨げるのはKraだけだった。
 そして当の本人は、アザゼルを筆頭にしている神の子を見張る者(グリゴリ)たちに拍手を送っていた。

 「大したものだ。試作段階とはいえ、堕天使や天使の光力の攻撃を半減させる機械人形たちを此処まで速くスクラップに変えるとはな」
 「それは褒めてんのか皮肉なのかどっちだ?こっちの一斉攻撃もものともせずに余裕しゃくしゃくで全部躱したやがって・・・!」

 Kraから少し距離が離れている正面から、アザゼルが吐き捨てる様に問う。
 確かに機械人形たちは悉く機械クズの瓦礫に変えた様だが、この場に居る堕天使達の約5分の一ほどは苦しみに悶える様に蹲っていた。
 その堕天使達は全員、Kraの拳打をたった一発喰らってこのありさまだった。
 しかもその中の1人は朱乃の実父のバラキエルだ。
 彼の場合は、隙を突かれて喰らいそうになったアザゼルを庇ったための結果なのだが。
 しかし流石は神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部の1人である。
 苦しみには悶えながら片膝はついても、決して地に伏せずに戦意と殺意は未だ健在だった。

 「好きに判断すると言い。だがそうだな・・・これほどの奮闘を見せてくれた報酬として出血大サービスに君たちの誰もが見た事も無い神器(セイクリッド・ギア)をお見せしようか」
 「俺が見た事も無い神器(セイクリッド・ギア)?」
 「ああ、これがそうだ」

 Kraは、自分の懐から片手だけで持てる位の小さく純白な箱の様なモノを取り出した。

 「何だそりゃ?装備型か?」
 「ふむ、一見は百聞にしかずとも言うだろうし、見た方が――――いや、体験した方が早いな」

 Kraはアザゼル達の怪訝な視線をよそに、神器(セイクリッド・ギア)だと言う純白の箱を天に向けて手を上げる。

 「加減はするが極力直撃せぬ様にな。禁手化(バランス・ブレイク)

 Kraの言葉と同時に彼の手元から純白の箱が消えた。
 そしてその直後、天から途轍もない“何か”がアザゼル達を含む堕天使達に降りかかろうとしてきた。

 「っ!?近くに居る怪我人を抱えろ!何かは判らねぇが、アレを喰らうと消滅する(やべぇぞ)!!」

 アザゼルの指示に誰も意見を挿まずに、言う通りにしてその場急ぎ離れる。
 そして如何やらアザゼルの直感は正しかったようで、堕天使達が全員離れた直後に“何か”が降り落ちて土煙も豪音も出さずに消えていた。
 その光景に堕天使一同はゾッとした。
 そして頭のアザゼルは、Kraを睨み付けるが当の本人は仮面を付けているので判別は厳しいだろうが何食わぬ顔に雰囲気は飄々としていた。

 「あー、すまない。手を抜くのを忘れていた」
 「ぜってぇわざとだろぉ・・・!」

 そんなKraにアザゼルは濃密な殺気と共に抗議を叩きつけ様としていたが、そんな暇を与えてくれる気は毛頭ないようだった。

 「私を睨み付けている暇はないぞ?堕天使の総督よ。こっから先は今度こそ手を抜くが、何方にしても気を付けた方が良い。所詮君らからすれば敵の戯言だろうからな」

 Kraが言い切った直後に次々と天から“何か”が堕天使達目掛けて降って来た。

 「いいな、お前ら!避ける事に徹しろ!絶対に当たるんじゃねぇぞ!恐らくあれは、俺の光の槍でも相殺は無理(・・)だ!!」

 アザゼルは、自分の部下や仲間たちに向けて怒鳴り声で指示をする。
 その光景を高みの見物と言わんばかりにそこから距離を取って、アザゼルの指示を評価する。

 「大したものだ。ただ見ただけでそこまでの分析ができるとは、流石は神器(セイクリッド・ギア)オタクと言うとこかな?」

 アザゼルに聞こえるか聞こえないかの大きさで呟くKraは、堕天使達の必死にもがく姿を表面的(・・・)には愉快そうに、しかし一切の感情を読み取れないような瞳で見続けていた。

 
 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 ゼノヴィアは自分の窮地を救ってくれた白銀の魔剣士を見上げていた。
 疑問付で。

 「助けてやったのに、誰だとはご挨拶だな。ま、求められてもねぇし解らねぇでもないけどよ」
 「・・・・・・・・・」

 重装な鎧を着こんだ魔剣士から出た声音は、口調は荒いが意外にも女性のモノだった。

 「何な呆けてるけど、立てるか?」
 「え?あ、はい」

 地面に尻をついているゼノヴィアに向けて手を差し出す。
 それに咄嗟に手を掴んで引っ張り上げてもらえると思いきや、勢いがあり過ぎた。

 「そーら、よっ!!」
 「な、何・・・を・・・・・・!?」

 モードは、ゼノヴィアを引っ張り上げるのではなく、自分の背後に置いて隠すようにした。
 そしてそのまま、ゼノヴィアの背後に迫っていた1体と自分を取り囲むように迫っていた4体及び中距離から投擲された短剣(ダーク)を横薙ぎに斬り伏せた。
 あまりの強烈な一撃に、計5体のアサシンは呻き声や悲鳴を出す間もなく一瞬にして魔力の塵芥へと還り、10本前後の短剣(ダーク)は悉く叩き落された。

 「おっのれっっ!!」

 全体見えるような位置に陣取っているアサシンの核と思える存在は、個にして群である自身の一部が次々に屠られている現実に、髑髏の面の下で歯ぎしりしていた。
 そこに背後から、頭からつま先まで完全な黒づくめの格好をしたレヴェルが現れた。

 「苦戦しているようですね?アサシン」
 「マスター(レヴェル様)!・・・・・・面目次第もございません」
 「言い訳をしないのは潔い良い事ですが、時間を掛けてはこの度の作戦の全てが無駄になります。時間差で仕掛けますよ。いいですね?アサシン」
 「・・・御意」

 レヴェルの提案に即座に行動するアサシン。
 多くのアサシンの中でも筋力が高いモノを前衛に、それ以外は後衛として短剣(ダーク)の投擲による援護をさせる。
 そんな風に瞬時にそれぞれの個に伝達させたアサシンをよそに、黒尽くめ姿のレヴェルはいつの間にかにその場から消え失せていた。

 「おーおー、無駄に湧き出てきやがるな。まるでゴキブリみたいだぜぇ」
 「貴様っ・・・・・・!」
 「あ、あのあんまり挑発しすぎるのは如何かと・・・」

 自分たちを囲むアサシンの集団に対してもぶれない反応の上敢えて挑発するモードに対して、ゼノヴィアは流石にビビりながら制止しようと試みる。
 無駄なようだが。

 「下手の挑発に構うな。一斉に攻撃する」

 アサシンの核を合図に、先ほどのくらべものにもならない数のアサシン達がゼノヴィアとモードを囲みながら突進して行き、その間を縫って後衛のアサシン達の短剣(ダーク)の一斉投擲が彼女たちを襲う。

 「おりゃあッ!そしてぇ、赤雷よ!!」

 疲労と怪我の具合で弱っているが、この状況故自分も参戦しようとデュランダルを構えて参戦しようとするところで、手でそれを制止たモードが何かを指示した後にもう片方の剣を掴んだ腕で斬るのではなく、剣の平で風を発生させる様に一回転して殺到して来た短剣(ダーク)を叩き落とす。
 そして今度こそ自分に向かってくるアサシン達に向けて、保有スキルの一つである魔力放出の付加属性たる赤き雷属性を纏った剣戟で迎撃する。

 「がふっ!」
 「ごあっ!」
 「ぎゃっ!」

 モードの赤雷を纏った剣による一撃は、自分に向かって来る第一陣の多くを塵殺した。
 そこにわざと致命傷を負わさなかったアサシンの一体の頭を鷲掴みにして、投擲されていた第二陣の短剣(ダーク)の盾にした。

 「ぎゃあああああ!!」
 「ぎゃはっ!?」
 「げはっ!」

 結果として、自分に殺到した多くの短剣(ダーク)を盾にしたアサシンに突き刺さり消えて行った。
 だが勿論、たった一体だけでは防ぎる事は叶わなかったが、他にもわざと致命傷を負わさなかったアサシン達を器用に蹴り上げて盾にして防いだ。
 なおも突っ込んでくるアサシンに対しても斬撃だけが効果的な戦法ではないと言わんばかりに、剣の柄で殴る剣の平でも殴ると、まるで嵐のような戦い方をしていく。
 そんな乱暴かつ残酷な戦闘に、近くに居たゼノヴィアも流石に引き気味だった。
 自分をこうして守っている相手であろうとも、相手の状況に関係なく苛烈に攻めていくのであれば魔剣士らしいと言えるが、この白銀の魔剣士は敵を切り伏せるだけでは無く、手甲で殴る頭突きをする剣で叩く剣を投げる負傷した敵を掴み盾にする負傷した敵を蹴り上げて器用に宙で盾にするなど、戦法があまりにも雑過ぎるため、本人も自分は魔剣士だなどと名乗ってはいないが、魔剣士以前に剣士だと思えなかった。

 しかし、そんな大雑把な戦闘をしていては流石に隙が生まれて来た。
 誰の影の中から化までかは判別できないが、レヴェルがアサシン張りの気配の遮断を用いてゼノヴィアを捕らえようよ彼女たちの背後から現れた。

「ここですね」

 両手指の先から、糸の様な黒い何かを操りゼノヴィアを絡め取ろうとする。
 だがそこでゼノヴィアが両目を瞑っていることに気付いた。

 「?」

 そんな疑問の直後、ゼノヴィアやモードの近くに1本の剣が突き刺さる。
 その剣には呪文が刻まれていた。
 そして剣の真名は――――。

 『輝ける不敗の剣(クラウ・ソラス)!!』

 何所からか聞いた事のある声が聞こえた瞬間、剣から莫大な光が発せられた。

 『なっ!?』

 突然の事に思わず驚いたのか、アサシン達の多くが目を見開いて(・・・・・・)しまった。
 しかし、アサシン達の核を含む少数のアサシン達とレヴェルは、咄嗟に目を閉じる事で難を逃れた。

 「ぬぅ、目潰しか!?」
 『ぐぅ!?』

 アサシン達の多くが、目を押さえて動きを硬直または鈍くなった。

 輝ける不敗の剣(クラウ・ソラス)

 ケルト神話における4つの宝物の一つで、戦神ヌアザが使っていたと言われている光の剣である。
 この光を眼にした者は一時の間、視力を失うと言われている。
 また、一度鞘から抜き放ち剣に刻まれている呪文を口にすれば、敵が隠れていようと自ら見つけ出して当たるまで追跡すると言う。
 さらには巨人殺しの逸話もある。
 この剣は戦神ヌアザの剣と言われているが、光神ルーの息子たるクランの猛犬クー・フーリンが使っていたともされており、正当な所有者については曖昧だ。

 輝ける不敗の剣(クラウ・ソラス)の光が未だ続いているのを肌で感じていたレヴェルは、漸く消え去ることを感じてすぐさま瞼を開いた。
 しかしそこで驚愕した。

 「!?藤村士――――」
 「せいっ!」
 「ごふぅっ!」

 レヴェルの眼前に縮地で移動して来ていた士郎は、眼前の敵を仙術と魔術と魔法で強化した足で、宙へと高く蹴り上げる。
 宙へと蹴り上げられたレヴェルは、血反吐を吐きながらも何とか態勢を整えようと全身から黒い糸の様なモノを出そうとしたところであることに気付いた。
 自分を蹴り上げた当の本人である藤村士郎が、自分に向かって跳躍しながら呟いている事に。

 「――――ものみな焼き尽くす浄化の炎(オムネフランマス フランマブルガートウス)破壊の王にして再生の微よ(ドミネーエクスティンク ティオニース エトシグヌス レゲネラティオース)我が手に宿り手敵を喰らえ(インメアーマヌーエンス イニミークムエダット)
 (これは詠唱・・・・・・知らない呪文だが拙い!!)

 自身の知識外だと判断するレヴェルは正しい。
 それはまだ『衛宮士郎』だった頃に魔術の修行と称して送られた世界の魔法なのだから。
 士郎が自分に到達する前に、前面に黒い糸状の盾を形成し終えようと言うところで、士郎の片腕が中心目掛けて突っ込んできた。
 そして、掌から光が微かに発光する。

 「っ!」
 「――――紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)!」

 瞬間、特殊な爆炎がレヴェルに襲い掛かる。

 「がっぁああああああああああ!!?」

 爆炎をもろに受けたレヴェルは、強い衝撃と共に全身が炎に包まれた。
 この異世界の魔法は『衛宮士郎』だった頃に知り得た魔法だが、才能が無い為一度たりとも成功できなかったものである。
 しかし今現在のこの身は、強靭な肉体を持ちえる藤村の血と旧一流魔術師の家アインツベルンの濃密な魂魄と絶大なる魔術回路を持ちえた血の混血の規格外な器を得た事により、習得可能になったのだ。
 と言っても、フィリップの下であるにも拘らず修得するまでに、3ヶ月掛かったが。

 だが如何やらこれで終わりでは無いのか、外側から見た焔が弱っている箇所に掌を当てた瞬間にレヴェルが堪らず衝撃と共に先ほど以上に吐血した。

 「ごぶっ!」

 気を籠めた八極拳の掌底により、相手の内部から破壊すると同時に衝撃も加えて吹き飛ばした。
 吹き飛ばされたレヴェルは吐血しながら地面を2回3回とバウンドしてから、うつ伏せ状態で転がっていった。
 しかし致命傷には至らなかったのか、全身を未だに覆っていた焔を自分の上に魔法陣を展開させて消火した。

 「ちっ!」

 この事に致命傷を負わせきれなかったと舌打ちをしながら、レヴェルに向かい駆けて行く。

 「士郎さん!?」

 その途中でゼノヴィアとすれ違ったが、今はまだ事情説明している暇は無いので後にするように無視した。
 そうこうしている内に目標であるレヴェルの手の甲が怪しく光り出した。
 それは令呪だ。

 「――――アザ・・ジン、れぃじゅ・・・以て、め・ずる。わだぢ、ががえで・・・どおぐべ、逃げろ゛」
 「させるかっ!」

 マスターからサーヴァントに強制させる絶対命令権のコマンドスペルが令呪だ。
 その発動を止めようと、すかさず令呪が宿る右手の甲に向けて投影した黒鍵を放つも、それを遮るように一番近くに居たアサシンが割って入り、所持していた短剣(ダーク)で叩き落とした。
 そしてこの事により令呪は正確に作動した。
 アサシンの核たる存在が、令呪の力により一瞬にしてレヴェルの下に現れて命令通り抱えてその場を後にしようと森の中に逃げ込もうとする。

 「――――逃がすか、よっ!」

 それを魔力放出で加速した事により、レヴェルごとアサシンを切り裂こうとするが、令呪の力による効果の影響か、モードの斬撃は空しくも空を切り割くだけに終わった。
 そのままアサシンは通常時よりも倍以上の速度でその場を去った。
 それにより、宝具として展開していたアサシン達も消える。

 「くそっ!仕留めきれなかった!」
 「令呪使われたんじゃ、仕方ねぇだろ?それより、いいのか?他の所に援護に行かなくてよ?」

 レヴェルを屠れなかったことに対して歯噛みしている士郎に、モードは自身の剣を肩に乗せながら戻ってきた。

 「解ってる。切り替えなきゃならない時があるくらいはな。だからゼノヴィア、事情は後で必ず説明するから今は何も聞かないでくれ」

 モードの言葉に応えてから、ゼノヴィアに振り向き目と目を合わせながら言い放つ。

 「・・・・・・・・・解りました」

 聞きたい事は山ほどあるゼノヴィアだったが、士郎がこうして真剣な表情をした上でなら仕方がないと引き下がった。

 「じゃあモード、ゼノヴィアを任せたぞ?」
 「おう!」
 「え?って、うわぁ!」

 士郎の返事を受けたモードはゼノヴィアを抱き抱えた。
 士郎がではなく、モードが抱きかかえた。所為お姫様抱っこ風に。

 「ちょ!?士郎さん!?」
 「俺は此処から援護する。タイミングはパスから送ってくれ」
 「了~解」

 ゼノヴィアの戸惑いを無視して先に進める士郎とモード(2人)

 「士郎さんがお姫様抱――――」
 「喋ると舌噛むぞ」
 「いや、だか、うわぁあああああ!!?」

 魔力放出をブースターにモードは、問答無用でゼノヴィアを抱えたままグレモリー家本邸に向かって行った。
 これによりゼノヴィアは、後で盛大に士郎へ文句をぶつけようと心に深く誓った。 
 

 
後書き
 2万字いきそうなので此処で切りました。 
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