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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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八十八 初戦・参戦・国境線

「―――【崩掌】!!」

先ほどまでとは一転した重い攻撃。
異形の姿と化した次郎坊の一撃は、ナルの小柄な身など容易に投げ飛ばす。
「ぐ…ッ」

木の幹にしこたま背中を打ち、ナルの口から苦悶の声が漏れる。木に止まっていた鳥が驚いて空へ羽ばたいていった。
(なんだってばよ、急に…っ)

突然強くなった次郎坊の一撃一撃が酷く重い。咄嗟にチャクラを込めて防御したものの、殴られた腹を押さえてナルはよろよろと立ち上がった。
これが【呪印】の力か、と感嘆すると共に恐怖を覚える。

【呪印】は強制的にチャクラを引き出す故、身体への負担が大きい。
その上、今の次郎坊は寸前より十倍以上の力を出せる【状態2】。
けれど強すぎる力にはそれ相応のリスクがつきものだ。
(大蛇丸の許へ行ったら……)

サスケもこうなるのだろうか。

そう考えて、ナルはゾッとした。
同時に彼女は次郎坊にも同情の念を抱いたのだ。
【呪印】の使用を強要され、身体を酷使しないといけないのならば。
大蛇丸の部下であるが故に、負担がかかる【呪印】を施されたのならば。

思考を止めるように頭を振り、ナルは顔を引き締めた。秘かに印を結ぶ。
殺す気でかからないと、自分が殺される。忍びで在り続ける以上、抱き続けるその信念をナルは改めて思い返す。

悲しむべき事にそれが『闘い』というものなのだから。





「どうした、もう終わりか?」
次郎坊の挑発を聞き流し、ナルは瞳を閉ざした。
あの時は成功出来なかった術の印を結ぶ。納まり切れなかったチャクラの渦が手中から迸った。

(なんだ、あの印は…)
見覚えの無い印に次郎坊は無意識に警戒した。地面を叩く。
「【土遁・土陸返し】!!」

途端、土壁が次郎坊とナルの間にそそり立つ。
垂直にそびえ立つその防御壁は、しかしながらナルの攻撃の前では意味を為さなかった。

「―――【螺旋丸】!!」
青白い光が次郎坊の眼に突き刺さる。慌てて退避したが、【螺旋丸】の余波を受けて次郎坊の巨体は吹き飛んだ。
一方のナルは、砕け散る岩の破片を前に、顔を顰めていた。手中から零れ散るチャクラの名残を険しい顔つきで見下ろす。
(違う…こんなんじゃない)


自来也に教わった術であり、アマルに見せると誓った術――【螺旋丸】。
アマルが大蛇丸の許へ行ってしまう際も、完成出来ずに終わってしまったこの忍術は、未完成のままナルの中で燻っている。どうしてもチャクラを凝縮する事が出来ないのだ。
現時点におけるナルの【螺旋丸】はチャクラを乱回転させるだけで留まっている。

【螺旋丸】は凝縮する事によって威力が格段に跳ね上がる術だ。けれど、今のナルの【螺旋丸】はチャクラを無駄に外へ放出してしまっている。
もっとも、たとえ未完成であっても次郎坊の【土陸返し】の土壁を容易に突き崩せる事から、その威力の凄さが窺える。
(まだ、これじゃ…【螺旋丸】とは言えないってばよ)


「なんだァ、今のは…?術の成りそこないか?カスが」
余波を受けて吹き飛ばされた次郎坊が立ち上がってくる。未完成の術だと即座に察した彼の暴言に、ナルは唇を噛み締める。
以前自来也が見せてくれた【螺旋丸】は、相手を一瞬で気絶させるほどの威力があった。
最大威力を誇ったままの乱回転を一定の大きさに留める。それが出来ないままでは【螺旋丸】は完成しない。


「……知ってるか?」
悔しげに唇を噛み締めるナルに、次郎坊は突然問い掛けた。
「人間五人も集まるとな。必ず一人、クズがいる。そういう奴はいつもいつも馬鹿にされてよぉ。いざという時は真っ先に捨て駒がお決まりだ…」

唐突に始まった次郎坊の話。そこで言葉を切った彼は顎を軽く上げ、見下すような視線でナルを見据える。
「…お前のことだよ」

けれどその実、彼の口調はまるで次郎坊自身が捨て駒だと認識しているような。
そんな物言いであった。


「大体最初に残る奴ってのは、弱いって相場が決まってるんだ。捨て駒扱いのカスだってな」
「……確かにオレってば、『落ちこぼれ』って言われ続けてきた」
次郎坊の嘲りに、意外にもナルは反論しなかった。むしろ肯定する。

「けど、オレが残ったのは仲間に言われたからじゃない。オレ自身で決めたことだってばよ!それにな、」
そこでナルはにこり、と自信たっぷりに微笑んでみせた。

「仲間を大切にしない奴なんて、木ノ葉にはいないってばよ!!」


あまりにも潔いその啖呵に、次郎坊のほうが怯んでしまう。無意識に後退した足首は、次の瞬間何者かに掴まれた。
「なっ!?」
「【土遁・心中斬首の術】!!」
真下からにょきっと生えた手首が次郎坊の足首を掴む。
そのまま地中に引き摺りこまれそうになり、彼は慌てて踏ん張った。力を込めれば、逆に次郎坊の怪力で引っ張られた相手が地面から引き摺りだされる。


だがそれは、一人ではなかった。


「なんだと…っ!?」
「悪いけど、一気に決めさせてもらうってばよ!!」
次郎坊を今正に地下へ引き摺り込もうとしたのは、ナルの影分身達。
当初、次郎坊に投げ飛ばされた彼女は印を秘かに結んでおいたのである。
いつもならすぐに使う【影分身】をナルは逆に奥の手として取っておいたのだ。

幾人ものナルが次郎坊の身体を地下に引き摺り込もうとする。流石の次郎坊も、何十人以上もいるナルからの攻撃に対処出来ない。
それでもなんとか抗おうとしたその瞬間―――。

「――――【螺旋丸】!!」
トドメとばかりに、本体であるナルから【螺旋丸】を喰らった。


「ぐあ…ッ!!」
今度は余波などではなく、もろに受ける。腹に打ちこまれた【螺旋丸】が次郎坊を襲う。
先ほど余波だけでも吹き飛んだのだ。未完成とは言え、その威力は凄まじい。

同時に、ナルの影分身達が渾身の力で次郎坊の足首を引っ張った。
痛みに耐える次郎坊は為すすべなく、地下に引き摺りこまれ、やがて完全に土砂の中へ消えてゆく。

掘り返された大地の上。
一人佇むナルの息遣いだけが、その場に残っていた。












「貴方の相手はこの私です」

キリッと顔を引き締めて宣言するヒナタを、ネジは呆然と見遣った。
「ひ、ヒナタ様?何故…」
「任務帰りに【白眼】で視えたので…」
対峙する鬼童丸から眼を逸らさずに、ヒナタはネジのもっともな問いに答えた。


彼女が突如としてネジ達の闘いに参戦したのは、本当に偶然である。
任務から帰っている矢先、【白眼】で先を見通したヒナタは偶々誰かを追い駆けているネジ達を見掛けた。
同時に、その先にいる波風ナルの事も。

当然、ヒナタは自分が憧れるナルの許へ向かおうと思った。彼女に加勢したかった。
けれど、【白眼】の視界の中で、闘志を瞳に宿して闘うナルを見て戸惑ったのだ。
今ここでナルの戦闘に加入すれば、逆に彼女のペースを崩すのではないか、と。

推察するに、ナルは足止めとして一人残ったようだ。ネジを始め残りのメンバーは後ろ髪を引かれながらも誰かを追っている。
ならば、自分がナルの為に出来ることは。

ヒナタは逡巡した。
今この場で自分が取れる最善の行動を見出す為、【白眼】で視る。
故に彼女は現在、此処にいる。
ナルの意志を尊重した上で、ヒナタは鬼童丸との戦闘を選択したのである。
たとえ、本心ではナルの援助に回りたくても。


「ネジ兄さん。私は貴方達の任務を知らない。でも誰かを追ってるってのはわかる。だから―――」
すっと手の甲を掲げる。ナルと同じ、闘志を宿した瞳が狼狽するネジを促した。
「ここは私に任せて、行ってください」


躊躇するネジを見兼ねて、シカマルが自分達の任務の経緯を手短に告げる。勿論『サスケを見逃す』という任務の真意は伏せて。
シカマルの話を耳にしたヒナタは自分の判断が間違ってなかったと悟り、ほっとした。
そうしてネジ達を先に行くよう仕向けるヒナタに、焦れた鬼童丸が攻撃を仕掛ける。
「逃がすかよっ!!」

戸惑いつつもサスケを追い駆けようとしたネジ達目掛け、襲い掛かる蜘蛛の巣。粘着性のある糸が、シカマル・キバ・いの・ネジ――四人の背中に向かって飛び掛かる。
重力に逆らって襲い来る蜘蛛の糸が最後尾にいるネジの足に届く寸前。


糸がぷつり、と断ち切られた。
他でもない、ヒナタによって。

「此処から先へは行かせません!!」
















耳元を掠める風鳴りに、サスケは眼を覚ました。
意識を取り戻した瞬間、誰かに抱えられていると察し、眉を顰める。
サスケを気絶させた当の本人が面倒臭そうに舌打ちした。
「ようやく起きやがったか」

目覚めるや否や、落とされて、サスケは強かに背中を地面に打ち付けた。
文句を言おうと顔を上げ、直後周囲の景色に瞠目する。
「此処は…」
「てめぇが眠ってる間に連れて来てやったぜ。感謝しろよ」
偉そうな物言いで鼻を鳴らす多由也に、サスケは青筋を立てて言い返した。

「だったら、わざわざ俺を気絶させるなんて真似しなけりゃいいだろ」
サスケのもっともな非難に、彼を担いで一人、この国境まで連れてきた多由也はわざとらしく眼を眇めた。
「アホか。んなもん、木ノ葉から音までのルートを馬鹿正直に教える馬鹿が何処にいる?」


気絶したサスケを担いで多由也が第一に行った事柄。
それは君麻呂達とは若干違う別の経路を使う事である。君麻呂達を追うシカマル達に、サスケの実際の足取りをつかませないようにしたのだ。
同じ国境を目指しているとは言え、その方向が少しでも違えば、音隠れの現在地は把握出来なくなる。


また、サスケを気絶させた理由は、経路を教えてはマズイからだ。
サスケが大蛇丸から逃げ出した場合を想定すれば、木ノ葉から音隠れまでの道筋を見せるわけにはいかない。たとえ国境までであっても、念には念を入れるべきだ。


そう暗に告げられ、サスケは顔を顰めた。そこで彼はようやく、現在自分の近くにいる音忍が多由也だけだと気づく。
君麻呂を始めとした音の忍び達はどうしたのか。

「他の奴らはどうした?」
「あいつらは足止め役だ。てめぇを追って来た木ノ葉の相手でもしてるんだろうよ。たくっ、抜け忍をわざわざ追い駆けてくるたぁ………愛されてんな、お前」
多由也の返答に、一瞬サスケの肩が跳ねた。沈黙を貫きつつも『木ノ葉』という語に視線を彷徨わせる。

無言のサスケをどう思ったのか、多由也はハッと鼻で笑った。サスケの迷いを容赦なく断ち切る。
「なんだ、もう故郷が恋しくなったか。だが、もう遅い」
そこで多由也はくいっと顎で促す。指し示された場所へサスケはのろのろと眼を向けた。



視線の先。其処には赤髪を靡かせる少女が一人、立っていた。
「お出迎えが来ちまったからな」

 
 

 
後書き
お待たせいたしました!
ナルVS次郎坊!この戦闘にご不満を抱く方、多いかもしれないです…すみません(汗)
また今回、矛盾の多い箇所があるかと思われます。ですが、後に説明しますので…
どうかご了承願います!!
 
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