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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico25リンドヴルム迎撃班~The Temporary Extra Unit~

†††Sideなのは†††

ルシル君が意識不明の重体に陥ってから1週間ちょっと。ルシル君をそんな目に遭わせたのは、私とアリサちゃんとすずかちゃん共通の知り合いだったシュヴァリエルさんだった。喫茶・翠屋によくケーキを食べに来てくれてたレーゼフェアさん。そのお代をいつも払わされていたシュヴァリエルさん。みんな笑顔だったのに・・・。

「(レーゼフェアさんはジュエルシードを輸送してた艦を襲撃して、シュヴァリエルさんはリンドヴルムとして・・・ルシル君を・・・)はぁ・・・」

溜息が出る。やっぱりショックだよ。だって2人とも優しい人だったんだもん。お話は面白いし、陽気な人だったし。だから今でも悪い人だなんて思いたくない。けど、管理局員として止めないといけない。

「そういやさ、今日、あたし達が呼ばれたのってどういう理由?」

「リンドヴルムが狙って来てた男の子が目を覚ましたって」

無期限休暇を言い渡されてた私たちチーム海鳴は、リンディさんとクロノ君から呼び出しを受けて本局・医務局へとやって来た。元々、ルシル君のお見舞いのために本局に来るつもりだったから何も問題ないし、男の子から事情も聞いておきたい。
そうして辿り着いた医務局内にある個人病室へ辿り着くと、「イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトです」シャルちゃんがノックした。すると「どうぞ」リンディさんから返事が来た。プシュッと引き戸がスライド。特別な個室みたいでかなり広く、私たちがみんなは入っても余裕がある。

「あ、はやてちゃん、ヴィータちゃん達も・・・」

リンディさんにクロノ君にエイミィさん、それにはやてちゃんたち八神家のみんながすでに揃ってた。そしてベッドの上ではあの黒髪の男の子が上半身を起こしてて、「あ!・・・ぅ・・・すず・・・か・・・あ!」表情を輝かせた。きらきら輝く黄金の瞳が向いてるのは「え、私・・・?」すずかちゃんだった。

「ぅあ・・・あ、すず・・・か・・・あ・・・!」

男の子が精いっぱいすずかちゃんに向かって手を伸ばす。フェイトちゃんが「あの、この子、言葉が・・・」って誰にとも言わずに漏らした。すずかちゃんが「でも、私、この子がちゃんと喋ってるのを聞きました」って答える。

「たぶんリンドヴルムから逃げる際の襲撃で言語能力、それに・・・記憶を失ってしまったみたいなの。目を覚ます今日までずっとうなされていたし。とても辛い目に遭ったんだと思う」

シャマル先生から伝えられた悲しい話。それに、男の子は私たち――というよりはすずかちゃんが来るまで塞ぎこんでたって。記憶が無くても怖い出来事だけは憶えてる。それがどんなに辛いものか・・・。フェイトちゃんが「でも、どうしてそこまですずかに懐くんだろう?」って話を切り変えるべく、すずかちゃんの手に触れて笑顔を見せる男の子を見た。

「おそらくその少年が意識を手放す直前に、自分を護ってくれたのはすずかだ、という記憶が片隅にでも残っているんだろう。君たちを呼んだのは、彼がすずかの名前を呼んでいたからなんだ。すずかが来てくれたら多少は記憶が戻るかと思っていたんだが、やはり無理だったようだ。参ったな。彼が何者なのか、何故狙われるのか、それを聞きたかったんだが・・・」

「この子もそうだけど、リンドヴルムのシュヴァリエルの襲撃にも備えないといけないわよね」

クロノ君とリンディさんが嘆息する。シャマル先生が言うには男の子の記憶は時間が経てば戻ってくるってことだけど、シュヴァリエルさんの襲撃だけは時間が解決してくれない。尋常じゃないルシル君の魔力や魔法、それらを受けても倒れなかったシュヴァリエルさん。私たちが勝つなんて、どれだけ頑張っても想像すら出来ない。

「君たちのデバイスの記録データを見せてもらったが・・・。正直、局内でシュヴァリエルに勝てる局員が居るとは思えないというのが本心だ。一応、心当たりが1人いるが、あの方が現場に出るにはいろいろと条件が揃わないといけないからまず当てには出来ない」

「リアンシェルト先輩ね」

リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサ准ーーじゃなかった、少将(この前、昇格したんだった)。本局どころか次元世界でも最強かもって噂の氷結系魔導師。噂でしか知らないけど、20年くらい前にたった1人で1つの世界の気候・四季を狂わせて、冬しかない世界へと変えたって聞いた。それで何十年と続いた内乱を止めたって。その強大すぎる魔法と魔力を危険視されて、現場に出られないようにされたとも聞いた。

「はい。ですから、リアンシェルト総部長は度外視します。で、話を戻すが。ルシルのあのデタラメな魔力。発動時、地球周辺で微弱な次元震が感知された。そんなふざけた魔力の攻撃を受けても、シュヴァリエルには左腕1本のダメージしか与えられなかった。その事実が恐ろしい」

クロノ君の表情はこれまで見せたこともないほどに切羽詰まってるって感じだ。そしてリンディさんは「唯一、ルシル君以外で彼に対抗できそうなのは、特捜のアルテルミナスさんくらいね」って小さく溜息を吐いた。

「わ、わたしだってシュヴァリエルと戦える力――絶対切断があります!」

「だが、君のスキルは不発に終わった、終わらされた」

「それは!・・・あのお札の所為で・・・。お札さえなければきっと・・・!」

「・・・観測部の解析課と分析課にあのお札を調べてもらったけど、結果はただの紙片、ということしか判らなかったわ。ロストロギアでもなし。どういう仕組みなのか、未だに不明・・・。イリスの絶対切断を強制解除することから、スキル封じの紙片だ・・・って、これだとアルテルミナスさんの破壊効果もキャンセルされてしまうわね・・・」

打つ手なしみたいな空気に。とそこに「1つに気なったんだけどね」エイミィさんが小さく挙手。みんなの視線が集まると、「このシーンなんだけど――・・・」モニターを展開して、シャルちゃんとシュヴァリエルさんの戦闘シーンを再生させた。

『馬鹿か。お前も、お前だからこそ理解してるだろう。魔導では魔道には勝てないってな!』

シャルちゃんの一撃を首に受けてもビクともしなかったシュヴァリエルさんがそう言い放ったシーンだ。

『随分とファンシーな奴が出てきたな。しかも・・・魔導じゃないときた。だが、魔道の敵じゃないんだよ・・・!』

さらに特別技能捜査課のテレサ一士とトゥーリア一尉へそう言い放ったシーン。そのシーンで一時停止させたエイミィさんは「魔導では魔導では勝てない、って事だけど、これってどういう意味なのかな・・・?」って小首を傾げた。

「それは僕も気になっていた。魔導は、魔法の古い言い回しだが、今でも普通に使われるものだ。だからシュヴァリエルの言う魔導と魔導の違いがよく判らないな」

博識なクロノ君でも判らない違い。私も考えてみるけど、当然の如く判らない。でもその答えはすぐに出た。その答えをもたらしたのは「私が知ってる」シャルちゃんだった。そんなシャルちゃんが突然、大人モードへと変身。突拍子過ぎて呆けてると、「ちなみに今の私はイリスじゃないけどね」ってシャルちゃんは微笑んだ。

「シャルロッテ・・・さん・・・?」

私はポツリと漏らした。シャル――イリスちゃんは二重人格で、イリスちゃん本人と前世のシャルロッテさんの人格を有してる。そんなシャルロッテさんは何千年も前の時代を生きてた、伝説級の騎士だって話。その事実はチーム海鳴のみんなが知ってる。そのシャルロッテさんが、イリスちゃんの体を借りて私たちにお話をしてくれるみたい。

「はあ、本当にガラリと雰囲気が変わるわね~。とても大人びていて、騎士然としていて・・・綺麗だわぁ」

「ふふ。ありがとう、リンディ提督。それじゃあ本題に入ろうか。魔導と魔道の違いについて。話は簡単。魔力を扱うために必要な器官が、私たちとシュヴァリエルとじゃ違うという事。リンカーコアはみんなが持つ器官。シュヴァリエルが持ってるのは魔力炉(システム)と呼ばれる器官」

シャルロッテさんが語る、リンカーコアと“システム”の違い。大気中の魔力を体内に取り込んで蓄積、外部に放出するっていう機能は同じだけど、“システム”っていう器官は魔力を独自に生成する機能もあるらしくて、魔力結合を無効にするAMF内でも普通に魔法が使えるとの事。さらには蓄積した魔力と生成した魔力を掛け合わせてさらに強大な魔力を生み出すことが出来るって。

「でもそれだけじゃ優劣なんて付かなくない? 総魔力量や出力はリンカーコアより優れてるかもしれないけどさ。確かに魔力出力が強ければ強いほど魔法効果も高まるだろうけど、シュヴァリエルの攻撃にはそんなに魔力が付加されてなかったでしょ。いや、まぁ尋常じゃないのは確かだったけど、それでもルシルの方が圧倒してたわ」

「アリサちゃん、敬語・・・! シャルロッテさんはすごく年上で、偉い人なんだよ・・・!」

「あ、つい、シャル――あー、イリスと同じ顔だから・・・!」

「いいよ。呼び捨てでもタメ口でも。その方が私もしっくり来るし。んで、話を戻してアリサの疑問に答えるよ。リンカーコアと魔力炉(システム)の最大の違い。それは、神秘、って呼ばれる特殊な力が働いているかどうかなの」

私たちは揃って「神秘?」って小首を傾げる。神秘的とか、神秘主義とか、そういう意味での神秘なのかな?

魔力炉(システム)の歴史は古くてね。神や天使や精霊、魔物や悪魔が普通に人の世界に干渉していた時代の人間に宿っていた代物なんだよ」

なんか宗教的――オカルトっぽい話が始まっちゃった。みんなもそんな空気だけど、シャルロッテさんは真剣・大真面目だ。だからそれは本当の事なんだと思える。そう言えばルシル君の使い魔も天使さん?達だったし。

「科学が進歩した現代を生きるみんなにしたら、神とか魔物とか何言ってんの?って思えるだろうけど、私が生きていた時代からすればこれが普通だった」

その当時を思い返してるみたいなシャルロッテさん。そんなシャルロッテさんに「つまり・・・?」クロノ君が話の続きを促した。

「うん。つまり魔力炉(システム)は、神秘的な、幻想的な、神話的な、超常的な、そう言った不思議で未知な存在が普通に居る世界で生まれ育まれた物ね。当時はまだ神様とかと関わりがあった時代だからね。必然的に人間は神様たちの力を少なからず授かった状態で生まれていたの。
えっと、超常現象って、科学では解明できないものを言うでしょ。早い話がそれに尽きるの。科学では到達できない領域・神秘。それを含んだ魔力は、現代の魔力を侵す。人の生み出した科学は、星が生み出した神霊には届かない」

「えっと・・・難しくてよく判らないけど、簡単に言うと、現代の魔導師は大昔の魔導師にはどうやっても敵わない、ってことかな・・・?」

「なのはの考え通りね。私たち魔術師の間にはこういう摂理があった。神秘を打倒するにはそれ以上の神秘を以ってあたるべし。だから魔導師は魔術師には勝てないの」

「魔術師・・・」

「うん。神秘の含まれた魔力を操作して何かしらの作用を発生させることを私たちは、魔術、と呼んで、魔術を扱う人間を、魔術師、と呼んだの」

「・・・あっ。シュヴァリエルが言ってた魔導と魔導って・・・!」

「そうだよ、アリシア。アイツは魔法と魔術のことを言ってたわけ。・・・で、重要な話を1つ。シュヴァリエルを斃せるのは、と言うよりは斃して良い資格を持ってるのはルシルだけね」

「どういうこと?」

フェイトちゃんがそう訊くと、シャルロッテさんがシグナムさん達をチラッと見た。私たちもシグナムさん達に目を向ける。シグナムさんたち守護騎士の4人が顔を見合わせた後、「シュヴァリエルは、エグリゴリなのだ」ってシグナムさんが話してくれた。

「エグリゴリって、ルシル君やオーディンさん達セインテスト家が存在目的としてる人たちだよね」

それは“闇の書”事件が終わってすぐ、ルシル君から聞いたセインテスト家の存在理由。命を賭しても“エグリゴリ”と戦って破壊する事こそが、今もなお暴走してる“エグリゴリ”を救う事なんだって言ってた。それが“エグリゴリ(元々はヴァルキリーっていう名前だったみたい)を造り出したセインテスト家の悲願なんだって。

「でもルシル君は・・・」

「はやてちゃん・・・」

とても辛そうな顔をして俯いちゃったはやてちゃんにリインが心配げに名前を呼ぶ。私たちもたぶん似たような表情だと思う。けどシャルロッテさんは「それでもルシルじゃないと」って首を横に振った。

「騎士シャルロッテ。ルシルは勝てるのか・・・?」

「勝つよ。セインテスト家は当時から最強クラスだったからね。ま、その力を受け継いでるルシルが本来の強さを発揮できる環境が出来れば、だけど」

シャルロッテさんがクロノ君にそう答えると、「・・・わたしらが邪魔・・やったんやな・・・」はやてちゃんがポツリと漏らした。シャルロッテさんはただ小さく頷いた。逃げろ、って言われたあの時、私たちが大人しく逃げていれば・・・ルシル君はあんなに酷い目に遭わなかった。ルシル君をもっと信じていれば・・・良かったのに。

「ルシルの基本戦術は大火力での射砲撃や範囲攻撃。周りを気にしないで戦える環境がベストな戦闘スタイルだ。周囲に護るべきモノ、壊してはいけないモノがあれば、どうしても攻撃手段が限られることになる・・・」

「そういうこと。だから、ルシルが万全になって、シュヴァリエルと対峙した時、私たちは何を置いても逃げの一手。ルシルが自由に、全力全開で戦える環境を用意する。それが私たちに出来る唯一の手助け」

「だけど、ルシリオン君が目を覚ましたとしてもすぐには戦えないでしょう。その間の襲撃は一体どうすれば・・・」

「シュヴァリエルを斃すことはまずルシルじゃないと不可能。今の私でも勝てないと思う。けど、足止めや時間稼ぎくらいなら私や・・・カローラ姉妹、アルテルミナス、ベッキーが出来ると思う」

「彼女たちも魔術を使えるのか!?」

「カローラ姉妹は確認済み。カローラ家もセインテストやフライハイトと同様に古代ベルカなんかよりずっと古い時代から在る家柄だし。アルテルミナスの破壊効果も完璧じゃないけど有効。スキル封じのお札の対処も考えてる。ベッキーの固有スキルも魔術に近いから、致命傷は与えられないと思うけどダメージは入ると思う」

「決まりだな。今回の一件には1つの部署だけじゃ足りない。特殊編成の部隊が必要になる」

「早速その事を含めて運用部のレティに掛け合ってみるわ。リンドヴルムとシュヴァリエルの迎撃を目的とした臨時特殊部隊の編成について」

クロノ君とリンディさんが話を進めてく。私たちがどうすればいいか迷ってるところで、「リンディ提督、クロノ執務官」シグナムさんが話を切り出した。

「我々もその臨時部隊に入れてもらえないだろうか」

「あたし達、リンドヴルムとは何度もやり合ってるしさ」

「シュヴァリエルへの対処法については我らも反論はない。しかしヴィータの言うようにリンドヴルム兵との戦闘では我らに一日の長がある。決して足手まといにはならぬ」

「そのつもりだよ、始めから。シグナム達はしばらく臨時部隊でのみの任務に就いてもらおう・・・って、私が勝手に決めていいのかどうかだけど。イリスはそうだけど私は局員じゃないし」

「いや、あなたはシュヴァリエルについて誰よりも知っているようですし、イリスやあなたにも臨時部隊に入ってもらいたい」

シャルちゃんとシャルロッテさんが参加するなら「あのっ、私たちも・・・!」お手伝いしたいから、私やみんなも同時に名乗りでた。だけどリンディさん達は即答してくれなくて、少し考える仕草をした。
どうしてなんだろう。私たち、リンドヴルムの人たちをちゃんと迎撃できたのに。確かにシグナムさん達より武器型ロストロギアを相手にした経験はない。だけどそこはみんなで協力すればきっと打ち勝てる。って、みんなでそう説得を試みてみたんだけど・・・

「いや、そうじゃないんだ。君たちは学校があるだろう。イリス一人なら家庭の事情でなんとか休みを取られるが、君たち揃って休ませるわけにはいかないだろう」

即答してもらえなかった理由は、私たちの実力じゃなくて学校があるからなんだ。リンディさんも「そう度々早退や遅刻もさせられないし。詰めっきりなんて論外だものね」って右手を頬に添えて嘆息した。

「でもま、なのは達にも入ってもらうつもりでいるよ。私たちがシュヴァリエルを押さえ、リンドヴルム兵はシグナム達が担当。なのは達は後続の応援部隊。普通に日常を過ごして、緊急時には呼び出し。オーケー?」

シャルロッテさんに私たちは「はいっ!」答えた。それから、基本的に本局に近い無人世界を拠点にして、そこで男の子と一緒にリンドヴルムを迎え撃つ事などを決めて、解散しようとしたところで・・・

「っ!・・・すず・・あ・・・ぅあ・・・!」

男の子がすずかちゃんから離れないように必死に手を伸ばして、「あっ!」ベッドから落ちそうになった。けど、すずかちゃんが間一髪で抱き止めたことで事なきを得た。

「すず・・・か・・・あ・・・ぅ・・・あ!」

今にも泣きそうな顔ですずかちゃんをギュッと抱きしめる男の子。すずかちゃんどころか私たちまで照れくさくなる・・・と思ったけど、男の子があまりにも必死で、迷子みたいで。だからかすずかちゃんと男の子が抱き合ってても恥ずかしいとか、そんな思いはなくて、なんて言うか・・・

「まるで母子ね~」

シャルロッテさんがそんなことを言うものだから「私、お母さんじゃないよ!」すずかちゃんが言い返した。でも困った。すずかちゃんが帰ろうとすると男の子は声を荒げて引き止めようとしちゃう。

「あぅぅ・・・どうしよう・・・」

すずかちゃんが困惑する。いよいよもってどうしようかってところで、「仕方ない、か」シャルロッテさんが溜息を吐いた。

「リンディ提督。1つお願いがあるのだけど♪」

†††Sideなのは⇒イリス†††

パジャマから学校の制服に着替えて、身嗜みを鏡台の前で整える。
ここは海鳴市郊外の山の中にある一軒家。シャルロッテ様がリンディ提督に頼んで、空き家だったこの家を安値で購入してもらってシュヴァリエル迎撃の本拠地とした。ここは街中じゃないから多少の派手な戦闘は出来るし、学校へも車で通えるからかなり便利な拠点だ。

「髪の乱れ、無し♪ 笑顔、バッチリ☆ 制服、OK❤」

わたし達シュヴァリエル迎撃部隊・・・って言うか、班、になっちゃったんだけど。この臨時部隊の正式名は、古代遺物管理部・機動一課・臨時特殊作戦班。対リンドヴルムについてはすでに一課が専属になっちゃってて、わたし達だけの部隊を作ることが出来なかった。
でもシャルロッテ様やリンディ提督たちが機動一課の課長や各小隊長、さらには監査役をも説得。この特殊作戦班を臨時的に設立させてもらえた。特に力になってくれたのは、運用部の2トップ。リアンシェルト総部長とレティ次長。それにシュヴァリエルの戦闘記録が役立った。
そんなわたしたち特殊作戦班がここの拠点に移ってから初めての朝。

「――おはよう~」

身嗜みを整えて1階のダイニングへ。そこで朝ご飯を作ってくれてるはやてと、その手伝いをしてるリインに挨拶。そして「ルミナ、セレス、ベッキー先輩、おはよう」ダイニングテーブルに着いて朝ご飯をワクワクしながら待つ、同課のアルテルミナス・マルスヴァローグとベッキー・ペイロード先輩、そしてシグナムやヴィータと同じ第2212航空武装隊のセレス・カローラにも挨拶。この3人とチーム海鳴全メンバーで、臨時特殊作戦班だ。

「おはようや、シャルちゃん」

「おはようですぅ~」

「「おはよう、イリス」」

「おはようございます、シャルさん」

ルミナとセレスは物心つく前からの親友だから敬語も無用でいいんだけど、ベッキー先輩は年上(14歳)だし、局員歴としても先輩なのに敬語。まぁ、わたしだけじゃなくて誰に対しても敬語なんなんだけどね。その3人は今、局員の制服じゃなくて私服姿。緊急時以外は私服で過ごすことになってるから。

「なのは達は・・・まだ起きて来てないんだね」

ダイニングとキッチンにははやて達だけ。リビングに目をやってもなのは達の姿はない。時刻は7時。もう起きていてもおかしくないのに。なんて考えてたら、「イリスが最後だよ」ってセレスが庭を指差した。

「なのは達は朝早くから外で魔法の練習をしてる。えらいね。練習を怠らず、常に成長を続ける。少しは見習ったらどう? イリス」

「だったらルミナも練習すれば? パラディンだって練習を続けないと弱くなるんじゃない?成長を怠れば衰退に転じるのは世の習い、って言うくらいだし」

「何それ。何かの格言? 良いこと言ってるところ申し訳ないけど、私とセレスはシグナムさんとヴィータとザフィーラと模擬戦やったんだけど~?」

「ちなみにベッキーさんは固有スキルをこの世界の環境に慣れさせるために朝早くから起きてたし」

「文明が発展している管理世界とは違って、この世界にはまだ信仰心が在るおかげで私のお供も元気です」

負けた。反論できない。確かになのは達は庭で魔法の練習してるし、シグナムとヴィータとザフィーラもなのは達に付き合ってる。ルミナとセレスが「成長を怠れば、なんだって~?」ってニヤニヤとわたしを見る。

「へーい、わたしはお寝坊さんですよ~。成長を怠る、怠け者ですよ~」

「「開き直った!?」」

「いいよ、たまには休みでも。昨日も一昨日も早朝から練習してるんだし」

この班が決まってから1週間。はやてやなのは達も積極的に魔法の練習を再開した。朝早くから夜遅くまで。暇があれば1日中ずっと。もちろんわたしも参加してた。だからちょこっと休みが欲しいなぁ~、なんて思ったり・・・。

「って、あの男の子――ジョンも一緒なんだ」

広い庭(と言っても敷地内と敷地外の境界線が無い)で、練習を終えてタオルで汗を拭いてる女の子集団の中でただ1人の男の子・ジョンが視界に入った。ちなみに偽名ね。いつまでも名前が無いんじゃ呼び難いし。由来は、ジョン・ドゥ。日本で言うところの、山田太郎、とか、鈴木一郎、みたいなありふれた名前から。

「今日も今日とてすずかにベッタリか~」

ジョンはすずかにベッタリで、離れようとすると何が何でも後を追う。すずかのトイレやお風呂、果てには学校にまで付いて行こうとする勇者。わたし達より2cmほど身長が低いけど、やっぱり男の子だからすずかも恥ずかしがるばかり。

(わたし達が何を言ってもやっても言う事を聞いてくれなかったよね・・・)

すずかが、困るから、って言ってもスミスは首を横に振った。けど、すずかが本当に困ってる表情を浮かべると、ジョンは少しずつだけど言う事を聞いた。それからはすずかだけの言葉を聞くようになった。

「あの子、クララと同じ強制転移能力を持ってるみたい」

ルミナがポツリと漏らす。さっきまで行われてた模擬戦で、すずかにアリサの火炎弾が向かった瞬間、スミスが庇うようにして立ち塞がったとのこと。そして火炎弾に手の平を翳すと穴のようなモノが開いて、火炎弾を飲み込んだんだという。

「そうとは言え、ジョンさんは無意識での発動らしく、しかもすずかさんに危険が及びそうになった時、という限定ですが・・・」

「すずかが羨ましい。私も男の子に護ってもらいたいものだよ」

「あー、それ解る。やっぱり女の子だし、男の子に護ってもらうお姫様とかに憧れるよね」

「私も理解できます。憧れますよね」

架空の男子に護ってもらってる様を想像してるのか、ルミナとセレスとベッキー先輩はポケーッと呆けた。でも「無理だよね、それ。3人ともとんでもなく強いし」ってわたしは現実に引き戻す一撃を発する。すると3人は「はぁ」大きく溜息を吐いた。
ルミナなんて教会騎士団の中でもトップクラスの騎士・パラディンの1人だし。セレスもまたAAA+の騎士だし。ベッキー先輩はA+だけど、固有スキルを使えばこれまた強い召喚魔導師だし。この3人を護れる男子なんてそうそう居ない。え、ルシル? ルシルはわたしとはやてのものだよ。

「はーい、ルミナ先輩、ベッキー先輩、セレスさん、お待たせです」

「リクエストの、純日本の朝ご飯ですよ~」

リインが押して来たキャスター付きのワゴンには白いご飯、お味噌汁、卵焼き、サバのみりん干し、サラダと、「食後にヨーグルトあるからね」はやてが付け加えたデザートが載ってた。ルミナ達は、わたし達の住む日本のご飯を食べたいってことみたい。今夜も和食になること間違いなし。

「わたしがなのは達を呼んで来るよ」

朝ご飯の用意も整ったところで、わたしはなのは達を呼ぶことにした。テラスへ続くガラス戸を開けて、「おはよう、みんな! 朝ご飯の用意できたよ~!」ついでに挨拶すると、「おはよー!」なのは達も手を振って挨拶を返してくれた。そんな中ですずかが「ジョン君。おはよう、って」ジョンに挨拶するよう促した。

「お、おは・・・よう・・・」

「ん。おはよう、ジョン」

ジョンは少しずつだけど言語能力が回復していってる。拙いけど軽くは喋れるようにはなった。でも記憶の方はサッパリ。思い出そうとすると頭痛が起きるようで、シャマル先生からは無理に思い出させない方が良い、って厳命されてる。
そうしてみんなで朝食タイム。わたし達はダイニングテーブルとリビングテーブルに分かれて、「いただきます!」はやて作(リインはあくまで手伝い)の和食を美味しく頂く。

「美味しい! 噂には聞いてたけど、はやてって本当に料理が上手なのね!」

「卵焼きもオミソシルも美味しい! シグナムさん達は毎日、こんな美味しいご飯食べてるんだ~。いいな~、羨ましいなぁ~」

「はやてさん。リインさん。とても美味しいです」

和食初挑戦のルミナとセレスとベッキー先輩からベタ褒めされたはやては「おおきにです♪」照れくさそうにはにかんだ。リインも「ありがとうですぅ♪」って満面の笑みを浮かべた。ようやく笑顔を見せてくれるようになったはやて。でも、それでもやっぱり器材に囲まれたベッドに横たわって、チューブや計測機器に繋がれたルシルを見ると涙を流しちゃう。

「あ、ジョン。あんた、またニンジンを残してるわね」

「にゃはは。好き嫌いは良くないよ、ジョン君」

「ニンジンがダメな人って本当に居るんだ~」

「ジョンは男の子だよね。見て、ジョンより小さいリインだって好き嫌いなくお野菜たべてるよ」

リビングテーブルから聞こえてきたそんな話声。フェイトがリインを引き合いに出した。そんなリインは、グリーンピースに苦戦していて避けようとしてた。わたし達みんなの視線を一手に受けたリインは、「い、いただきますでうぅ・・・」泣く泣くグリーンピースを食べた。うん、えらい、えらい。

「お、偉いよ、リイン」

「そのまま苦手を克服しちまえ」

はやてとヴィータがリインの頭を撫でて褒める。シャマル先生も居ることが出来れば同じように褒めていたと思う。でもシャマル先生はルシルの治療に付きっきりだ。

「ほら、ジョン君。私を護ってくれるんだよね。だったら好き嫌いしないで、お野菜をたくさん食べて強くなってね」

「・・・う、うん・・・」

ジョンはフォークで突き刺したニンジンを少しの間にらめっこした後、パクっと食べた。すずか達が拍手して褒めると、「・・つよ・・くなる・・ぼく・・・」ジョンはそのまま野菜サラダを平らげた。
それからみんなで後片付けをして、そろそろアリサの家の車で登校しようかって時間になって・・・

「それじゃルミナ、セレス、ベッキー先輩」

「シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、リイン」

ここ拠点にてジョンの護衛と留守番を担当するルミナ達に「あとはよろしく」ってお願いする。ルミナ達も「ん。任された」って思い思いに応えてくれた。

「ジョン君」

「すず・・・か・・・」

毎朝恒例ジョンの、すずか行かないで、が始まりそう。すずかが「いってきます♪」笑顔で挨拶すると、「あぅ・・・」ジョンはすずかの袖を引っ張ってる自分の手を見て、「いって・・らっしゃい・・・」名残惜しそうに手を離した。お、今日はすんなりと1回で決着がついた。

「ジョン君。夕方にはちゃんと帰ってくるから、それまではお姉さん達の言う事を聴いて、良い子で待っててね」

「・・・うん・・・」

手を振るすずかに、手を振り返すジョン。そしてわたし達は「いってきます!」ルミナ達に見送られながら家を出た。

 
 

 
後書き
ボケルトフ。シャローム。エレフトフ。
今回は対リンドヴルムの臨時部隊を設ける話としました。チーム海鳴に、アルテルミナスとセレス、そしてベッキー。魔術系に強い3人を加えた戦力ですね。次回から本格的に動かしていく予定です。

 
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