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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 13 「六課のとある休日」

 隊長陣に関する過去やそれから来る想いを知ったことでか、フォワード達のやる気は一段を増した。ティアナに関しては焦りや不安もなくなり、以前と違って常に同じ動きではなく、その場に応じた動きをしようという意思が感じられるようになった。
 故に今朝の厳しい訓練と模擬戦も無事に終了した。今回の模擬戦は第2段階クリアの見極めになっていたのだが、結果から言えばフォワード達は無事に合格。まあ日頃からあれだけみっちり扱かれていれば当然の結果ではあるのだが。
 これまでろくな休みもなく訓練ばかりの毎日だったことに加え、なのは達が1日中隊舎で待機することもあって、フォワード達には自由時間を与えられた。明日からは各デバイスのセカンドフォームを中心に訓練していくため、充分に英気を養ってもらいたい。
 訓練が終わった後、俺は隊長陣と一緒に食事を取ることになった。フェイトの代わりにライトニング分隊の訓練を見ることも多いため、デバイス関連の仕事はシャーリーが行ってくれている。彼女との間には技術的には大きな差がないため、俺は技術者としてよりも教導官として働いている今日この頃である。

「ショウ、お前最近はフォワード達の面倒ばっか見てるけどよ……他の仕事溜まってたりしてねぇのか? あっ、言っとくけど勘違いすんなよ。一緒に教導してるわけだし、あいつらの教導もお前の仕事だってのは分かってるからな。別にサボってるとか言いたいわけじゃ……」
「大丈夫よヴィータちゃん、ヴィータちゃんが心配してるってことはショウくんはちゃんと分かってくれてるわ」

 シャマルの発言に気恥ずかしさを覚えたのかヴィータの顔は真っ赤に染まる。こうなるだろうと分かっていたはずなのに、今のような言い回しをするシャマルは相変わらず時々人が悪い。

「べ、別に心配とかはしてねぇよ。ショウは昔からやることはきちんとやる奴だったからな」
「そう思ってるけど一応確認するんがヴィータのええところや。なあショウくん?」
「そうだな」

 はやてと俺の追撃でヴィータの顔の赤みはさらに増す。彼女が誤魔化すように食事の進行を早めるが、昔と変わらない行動に俺達は微笑ましい気持ちになり静かに笑った。向こうのテーブルで食事を取っていたなのはやフェイト、シグナムの顔にも笑みが見える。
 直後、流していたニュースが芸能関連から政治・経済へと変わる。
 話題として取り上げられたのは、昨日行われたミッドチルダ管理局地上中央管理局の予算会議について。今回で3度目の申請であり、税制に関することなので注目しているものはしているのだろうが、俺達の雰囲気は変わらずのんびりとしたものだった。ある男の名前が出るまでは。
 男の名前はレジアス・ゲイズ。階級は中将であり、首都防衛隊の代表でもある。
 どうやら予算会議の当日はゲイズ中将の管理局の防衛思想も語られたらしい。アナウンサーのその言葉に、俺達の意識は画面のほうへ自然と向いた。

『魔法と技術の進歩と進化……素晴らしいものではあるが、しかしそれが故に我らを襲う危機や災害も10年前とは比べ物にならないほど危険度を増している。兵器運用の強化は進化する世界の平和を守るためである!』

 確かに兵器の運用を今以上にすれば犯罪者の数は減るだろう。だがそれは一時的なものではなかろうか。優れた兵器が生み出されれば、それを悪用しようとする者は必ずと言っていいほど現れる。
 それを無くそうとすれば更なる兵器が生み出され、再び悪用されるに違いない。イタチごっこも良いところだ。
 画面では盛大な拍手が鳴り響いているが、ヴィータやシャマルは耳だけ傾けておけばいいと思ったのか食事を再開する。俺もそうしようかと思ったが、とりあえず最後まで聞いてみようと思って残りのメンツと同様に動きを止めたまま演説に耳を傾ける。

『首都防衛の人手は未だ足りん。非常戦力に置いても我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪も発生の確率で20%。検挙率においては35%以上の増加を初年度から見込むことができる!』
「……このおっさんはまだこんなこと言ってんのな」
「レジアス中将は古くから武闘派だからな」
「……あ、ミゼット提督」

 なのはの声にヴィータは「ミゼット婆ちゃん?」と言いながら画面に意識を戻した。現在画面にはゲイズ中将の奥に3人の人物が映っている。
 まずはヴィータが婆ちゃんと呼んでいる優しげな笑みを浮かべている女性。名前はミゼット・クローベル、本局統幕議長という役割を担っている。
 次に……頬に傷のある貫禄のある男性の名前はラルゴ・キール、武装隊栄誉元帥である。最後に真面目そうな雰囲気の男性、彼は法務顧問相談役のレオーネ・フィルスと言う。

「伝説の三提督揃い踏みやね」
「でも……こうしてみると普通の老人会だ」
「もう、ダメだよヴィータ。偉大な人達なんだよ」

 はたから見た感じはヴィータの言うようにごく普通の老人にも見える。しかし、フェイトの発言も真実だ。あの方達は管理局を黎明期から今の形まで整えた功労者達なのだから。
 とはいえ、人の良い方達でありヴィータ達は過去に護衛任務を受け持ったこともあるため、ミゼット提督達とは交流がある。特にミゼット提督ははやてやヴィータ達のことがお気に入りらしい。ヴィータが彼女のことを好きだと素直に言うのは、おそらくそのへんが関係しているのだろう。

「そういえば、ショウくんはこの後どうするんや?」
「フォワード達のデバイスの調整……と言いたいところだが、シャーリーが任せてくれって言ってたからな。セイも手伝うみたいだし……正直に言えば、これといってすることはない」
「なら街にでも出かけてきたらええよ。今日はなのはちゃん達も居るし、教導とデバイス関連のことでお疲れやろうから」

 なのは達がいるから万が一の時も大丈夫なのは分かるが、仕事量に関しては俺よりもお前や他の隊長陣のほうが上だと思う。俺だけ休みをもらうというのも申し訳ないのだが。
 しかし、休める時に休んでおくのは大切なことでもある。移動用としてバイクを持ってきているし、乗らなければ宝の持ち腐れだ。ここは素直に街にでも繰り出すべきかもしれない。
 そんなことを考えた直後、遠慮気味に話しかけてくる声があった。

「あ、あの……出来ればでいいんだけど、エリオ達の付き添いしてもらえないかな?」

 声の主は、可能ならば自分が一緒に出かけたいんだけど、と言いたげな雰囲気を隠そうともしていないフェイトである。
 エリオ達の保護者なので心配なのは分かるが、少々過保護ではないだろうか。過保護になるのは昔から抱え込む癖があったり、無茶を繰り返してきた幼馴染達くらいで良いとは思うのだが……。
 それにあいつらももう10歳。保護者なしで出かけられる年齢だろうし、保護者がいるとかえって気を遣う気がする。それにそのへんの大人よりも危機に直面した時に対応もできるわけで……とはいえ、心配をする気持ちは分かる。

「まあ別に構わないが……動画を取ったりはしないぞ」
「そ、そこまで頼むつもりはなかったよ!?」
「ふ……ずいぶん怪しい返答だな」
「シグナムまで……」

 相変わらずシグナムはフェイトのことがお気に入りのようだ。彼女は親しい人間をからかったりするが、頻度で言えばフェイトが断トツで多いだろう。

「何つうかあれだな、子供の面倒について話してるとまるでショウとフェイトが親みてぇだ」
「――っ、べべ別に私とショウはそういう関係じゃないよ!? 私はふたりの保護者だからあれだけど、ショウは別にそんなんじゃないし、ふたりからすればお兄さんって感じだろうし……」

 ヴィータの言葉の選択についても言いたいことはあるが……フェイト、この手の話題に対する免疫のなさは昔とほぼ変わってないな。
 シュテルやシグナムを除いてもフェイトには彼女をからかう人間が割りと居る。例えば義母であるリンディさんや義姉であるエイミィだ。これまでにエイミィの子供の面倒を一緒に見たことがあるのだが、その時にも似たような発言をされたのを覚えている。
 この10年の間に数え切れないほどからかわれてきたのにこの純情さ……ある意味凄いことだよな。あいつなんて昔の可愛らしさが消えつつあるっていうのに。

「ショウくん、その視線は何かな?」
「はやてちゃん、それはきっとあれですよ。家族扱いされるならフェイトちゃんよりもはやてちゃんの方が良いみたいな……」
「いやいや、あの顔はどう見ても違うやろ。それに今の私の恋人は機動六課や。やからショウくんとイチャついとる暇はないんよ」

 さらりとそう言えるようになったあたり、受け流しが上手くなったのか、はたまた俺への想いは完全に友人止まりになったのか。あの日聞いた言葉が幻だったのではないかと思えるほどの成長である。
 しかし、まずは目の前のことをきちんとやる。それが終わって気持ちに変化がなければ再び……とも言っていただけに、今はただ待つしかないのだろう。無論、期待したりはしない。期待してしまうと気が付かないうちに意識してしまいそうだから。
 そうこうしている内に食事は終わり、俺はエリオ達の引率を任されたので着替えるために部屋に戻った。エリオ達が私服で出かけるのだから俺が制服で出かけるわけにも行くまい。
 ――多分出発する前にフェイトがエリオ達と話すだろうな。俺の仕事はあくまで引率だし、フェイトにとっては大切な時間だろうから邪魔するのも悪い。入り口のところで待っておくか。
 準備を終えた俺は一足先に隊舎の入り口へと向かう。
 外に出てみると3人の人影。ひとりは先ほどまで一緒だったなのはだ。あとのふたりは、バイクに跨っているティアナとスバルだった。俺の記憶が正しければ、あのバイクはヴァイスさんのだったはずだが、まあ普通に考えて貸してもらったのだろう。

「じゃあ転ばないようにね」
「大丈夫です。前の部隊に居たときは毎日のように乗ってましたから」
「ティア、運転上手いんです……あっショウさん」

 スバルの声になのはとティアナの意識もこちらへと向く。見慣れた制服姿ではないせいか、スバル達の顔には驚きのような感情が見える。

「ショウさんもお出かけですか?」
「まあな……あまりジロジロ見られると恥ずかしいんだが。変な格好してるか?」
「え、い、いえ、とてもお似合いだと思います!」
「そうですよ、すっごくカッコいいです!」

 嬉しい返答ではあるのだが……ティアナの慌てたように言う姿はどこかフェイトに似ているし、嘘偽りない笑顔のスバルはかつてのなのはにそっくりだ。
 ティアナはまあ大丈夫だろうが、スバルは世の男子達を困らせないか心配になるな。ボーイッシュだが出るところはしっかり出ているし、割と男って生き物は単純だから今みたいな言動をすれば勘違いする輩もいるだろう。

「ありがとう……貴重な休みなんだし、さっさと出発したらどうだ?」
「じゃあお言葉に甘えて……あっ、お土産買ってきますね。クッキーとか」
「気持ちは嬉しいけど、気にしなくていいから楽しく遊んできなね」
「はい」
「行ってきます」

 それを最後にティアナ達は颯爽と走り始める。ちらりと聞こえただけだったが、確かにティアナの運転の腕前は良いようだ。あれならばヴァイスさんが泣くような未来は起こらないだろう。
 ――エリオ達の引率がなければ俺もバイクに乗れたんだが……ここに居る間は外に用事がない限り乗れそうにないな。また今日みたいな機会があれば、今度は俺がティアナにバイク貸してやるか。
 ティアナ達の姿が見えなくなってすぐ、後ろから足音が聞こえた。振り返ってみると、そこにはフェイトとエリオ達の姿があった。

「ライトニング隊も一緒にお出かけ?」
「「はい、行ってきます!」」
「うん、気を付けて」
「ふたりともあまり遅くならないうちに帰ってくるんだよ。夜の街は危ないからね。それとショウの言うことはちゃんと聞いて迷惑掛けないように」

 エリオ達に優しく声を掛けるフェイトの姿は母親に見えなくもない……が、彼女は俺と同年代である。10歳程の子供がいる年ではないだろう。
 とはいえ、母親みたいだと言うと喜びそうな気がする。だが年齢的にはお姉さんのほうがしっくり来るわけで……よし、これ以上は考えないでおこう。

「ショウ、ふたりのことお願いね」
「ああ……」

 返事はしたものの……服装のせいか、ある意味俺がエリオとキャロのデートを邪魔しているような気がしてならない。とりあえず街まで送って、その後は別行動したほうがいいのでは

「ショウ、お願いね。頼んだから」

 フェイトさん、分かったのでそんな怖い顔で覗き込むのやめてもらっていいですか。引き受けたからには真面目に引率というか見守らせてもらいますんで。

「んじゃ、俺達に出発するか」
「うん、兄さん」

 笑顔で手を握ってくるエリオの姿は年が離れていることもあって可愛らしくもある。背後に羨ましそうな目をしていそうな人物が居そうな気配がするが、俺は気にしない。故に振り返らない。エリオの方からやってきたことだし、立場的に手を振り払う理由もないから。

「いいなぁ……」
「ん? どうしたキャロ、さっさと行くぞ?」

 空いている手をキャロに差し出すと、一瞬固まったように見えたが、すぐさま笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。妙に手を握る力が強いが、そんなに嬉しいことなのだろうか……まあ彼女の年齢を考えればおかしいことではないし、深く考えることもないだろう。

「じゃあ行ってくる」
「「行ってきます」」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、車とかには気を付けてね。もしも何かあったときはすぐに……」

 俺が一緒に居るのにこの過保護っぷり……俺が信頼されていないのか、はたまた心配が過ぎるのか。
 フェイトの精神的ダメージを考えると、エリオ達が反抗期を迎えないことを心から願いたいものだ。すでに大人びてしまっている部分があるので大丈夫の気もするが、それはそれで彼らのことが心配にもなったりする。
 けどまぁ……とりあえずは今日が楽しい1日だったって言ってもらえるようにするのが先決か。帰ったらフェイトに色々と聞かれそうだし。


 
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