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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico22竜の強襲~The 2nd task force : Dragon Eyes~

†††Sideアリサ†††

夏休みも残り数日となったある日、あたし達チーム海鳴は夏休み最後の思い出に、海鳴市郊外の山中にある温泉旅館・山の宿へと1泊2日の旅行にやって来たわ。

「――あれから1年ちょっとかぁ。・・・1年。口にすればあっという間だったけど、その内容はすごく濃いわよね~」

あたしは思い出深いこの旅館を眺めながらそう言ってみた。あたしとすずかは、この旅館で魔導師になって、初めて魔法戦を経験した。すずかも同じ思いだったみたいで「そうだね。私は色々な事が初めてだったから余計に驚きだったよ」って感慨深げに言った。

「にゃはは。アリサちゃんは、セレネちゃんとエオスちゃんから魔法を知らされていたけど、すずかちゃんはここで一度に知っちゃったんだもんね」

「あたしとフェイトが、アリサとすずかと対面したのもここが最初だっけか?」

「あ、うん。えっと、あの時は本当にご迷惑をお掛けしました」

なのはとフェイトとアルフも当時のことを思い返してるみたいね。ジュエルシードを巡る、なのは・ユーノ・セレネ・エオスと(あとでシャルたち管理局も参戦)、フェイトとアルフとプレシア、そしてテスタメント・ステアの戦いに、あたしとすずかも参加した。
そう、あたしとすずかにとってはここがスタート地点。ジュエルシードに願って魔導師にしてもらって、プレシアの名前を取ったPT事件を最後まで見届けた。得たモノもあるし、失ったモノもあった事件だったわ。

(ステアとプレシアは亡くなって、けどアリシアが蘇ったのよね)

悲しい事もあったけど、それでもあたし達はPT事件を乗り越えた。そんな思い出深い場所に、あたし達はやって来た。PT事件に関わりのあったあたし達が旅館を眺めていると、「話には聞いてたけど、ホンマに歴史ある場所なんやな」はやてが微笑んだ。シャルも「あとで、どこで覚醒したのか見に行きたいなぁ」って、森の方を見た。

「そうね。行ってみようかしら。あたしとなのはとすずか、チーム海鳴初期メンバーの始まりの場所に」

「うん。でも今はとりあえずチェックインだけは済ましておこうか」

散策はいつでも出来るから、思い出の場所巡りはそれからにしようってすずかが提案。みんなはそれで納得みたいで、思い思いに旅館の中へ入ってく。カウンターでチェックインの手続きをするのはシャマル先生と人型に変身したザフィーラ、そしてフェンリル。
いくら自分自身の宿泊代(フェンリルの代金はルシル払いのようだけど)は出すにしても、あたし達はまだ子供だから、財布からお金を出すわけにはいかない。人数分の宿泊代をまとめてシャマル先生たちに預けて、支払ってもらうことにした。

(大人が子供にそれぞれお金を出させたとなると、旅館の人たちのシャマル先生たちの心証が悪くなってしまうかもしれないしね)

「みんなー。チェックインは済ませたから各自、荷物をお部屋に運んでちょうだ~い♪」

シャマル先生の号令に「はーい!」子供組は返事をして、フェンリルから受け取った大部屋の鍵を手に先を行く。

「わわっ」

「ひゃっ? はやてちゃん、大丈夫です!?」

「はやて!」

「掴まって下さい、主はやて!」

今のはやては車椅子に乗ってないのよね。自分の足で歩いてるわ。だけどまだしっかりとした足取りじゃなく、松葉杖を使ってなんとか歩ける状態。だから今、はやてはよろけてしまって、リイン、ヴィータ、シグナムに支えられた。
アインスが天へと旅立ってから今日で1週間と少し。その間、はやてはリハビリを病院だけじゃなくて本局でも懸命に続けた。実はアインスが旅立つ前から補助があれば歩けたそうなんだけど、はやては車椅子を使い続けた。アインスに車椅子を押してもらう、その為に。お互いを必要としたい為のことだったって、数日前にはやては教えてくれたわ。

――そやけどそれももう終わりや。アインスは旅立ったからな。これからは、甘えは許されへん。車椅子はもう卒業。こっからは自分の足で歩いて、父さんや母さんと一緒に見守ってくれてるアインスを安心させたい――

そう笑顔を浮かべてたはやて。その努力は少しずつ実ってる。松葉杖だけどはやて自身だけで歩けるようになったんだから。

「おおきにな、みんな。わたしは大丈夫や。さ、行こ」

はやてがまたひとりで歩き始める。ヴィータとリインがさらに寄り添うようにして左右を固めた。そして改めて泊まる部屋へ向かう。着いたその部屋は30畳ほどもある和室。宴会でも開けるような場所で、カラオケセットが置かれてある。八神家全員に唄ってもらおうかしらね。

「お夕飯は19時からだそうで、こちらで食べることになりますね。お布団はセルフで、そこの押し入れから自由に出して良いそうです。お風呂の方は14時から解放で、露天風呂はもう開いてます」

シャマル先生からそう教えてもらう。現時刻は13時半。開くまでもう少しね。露天風呂はもう開いてるけど、まだ明るい時間から入るにはちょっと勇気が要るわ。露天風呂周りのセキュリティーは完璧で、覗きとかの心配はないんだけど、それでもやっぱりちょっと気になるわけよ。
そういうわけで、さっきの約束を早速果たすことに。荷物を置いて旅館の外へ。旅館の周囲にある山林の中を歩いて、時折立ち止まっては「この傷はあの時の・・・」なのはやすずかは樹の幹や地面に付いた傷や窪みを見て当時を思い返す。そうして辿り着いたのは「私とアリサちゃんが、魔導師になった場所・・・」すずかの言うように、始まりの場所だわ。

「この窪み・・・。あたしとすずかがリンカーコアとデバイスを得た時に生まれた衝撃波で出来たやつよね・・・」

外へ向かうように発せられた衝撃波の痕が今でも残ってた。あたしとすずかは屈んで、そっと指先でその窪みをなぞった。ヴィータが「へぇ。はやても言ってたけど、こんなところでも歴史ありなんだな」って感嘆して、あたしの隣に屈んで窪みを撫でた。
次は、あたしとすずかが初めてフェイトとアルフと初めて言葉を交わした、あの川。そこを訪れると、「この橋・・・」フェイトが川に架けられた橋を見てそう呟いた。アルフが「どうしたんだい、その橋が」って小首を傾げる。

「にゃはは。アルフは憶えてないんだね」

「何をだい?」

「あの橋、新しいでしょ」

「ん? ああ、そうだね。アリサ、それがどうしたってんだい」

「この橋、私が壊した・・・やつだ。たぶん。・・・悪い事しちゃったな・・・」

フェイトが心苦しそうに答えた。そう。前の橋は、フェイトの雷撃で焼け落ちた。その当時はジュエルシードの事で精いっぱいだったフェイト。だから橋なんて関係ない物だったと思うけど、今はきちんと悪い事は悪い事だって、罪悪感を覚えてる。

「ここであたしとすずかは、フェイトとアルフと会ったのよね。ま、会ったことは憶えていてもあたし達が名乗ったのは憶えてないでしょうけど?」

アルフの殺気はいま思い出すだけでもちょっと身震いするわ。

「あぅ。ごめん」

「どういうことです?」

フェイトが申し訳なさそうに謝ると、リインが訊いた。あたし達は、フェイトは事件後の別れの挨拶をするまで、あたし達の名前を憶えていてくれなかったことを話した。ここで名乗ってからどこかで会うたびにあたし達は名前を呼び合っていたのに、フェイトの頭には残っていなかった。うん、ちょっぴり寂しいわよ。

「あの時は色々あって、その・・・」

「にゃはは。解ってるよ、フェイトちゃん。けどもう大丈夫だもんね♪」

「うん。親友だから♪」

なのはとフェイトが笑顔を浮かべ合う。本当に仲が良いわよね。けど、「そうだよね♪」すずかも、「ま、あん時の事もいい思い出よ」あたしも参加。そして「おーい、わたしを忘れてもらっちゃ困るよ~♪」シャルがあたし達4人に勢いよく抱きついた。

「なんや、ちょう疎外感があるなぁ~」

「ですぅ~」

「わたしもその時は眠りに付いてたから知らな~い」

はやてとリイン、それにアリシアがそんなことを言うもんだから、「み~んなも親友なのだ~♪」シャルがあたし達を引っ張ったまままではやて達に突撃。はやてとリインは「わぁ!」シャルに押し倒されて、あたしとすずかは「のわっ!」ヴィータを押し倒し、なのはとフェイトは「ひゃ!」アリシアを押し倒した。

「まったく、何をやっているんだ、君たちは」

「もう。土だらけになっちゃって。早くお風呂に入って浴衣に着替えちゃいましょ」

散策で十分時間を潰したことで14時は過ぎたし、服も汚れたし、ちょうどいいわね。みんなで「はーい」応えて、旅館に戻る。泊まる部屋に戻って替えの下着と浴衣を手に、「おっ風呂~、おっ風呂~♪」歌うシャルとアリシアを先頭に大浴場に向かうんだけど・・・。部屋を出る前、「ルシル君とザフィーラは行かへんの?」はやてがお茶を啜るルシル達に声を掛けた。ザフィーラはともかくとしてルシル、アンタおっさんくさいわよ。

「俺は服汚れてないし、寝る前に1回入れば良いかなぁって」

「ルシリオンと同じです」

やっぱり男の子か、ルシル。1日に何度もお風呂に入ることが好きじゃないみたいね。あくまで1日の汚れを落とすだけの行為だって思ってるよう。ザフィーラは確かお風呂がそんなに好きじゃないって、はやてから聞いてたけど。そういうわけだからあたしたち女の子グループだけでお風呂に行くことに。

「ルシル~。男の子しか居ないからって、女の子――特にわたしの荷物とか漁ったりなんかしちゃダメだよ~♪」

「馬鹿を言ってないで早く行け」

シャルのからかいをルシルはサラッと流して、「あ、この菓子美味い」部屋の中央にあるテーブルの上に置かれてるお菓子に舌鼓を打った。

「ちぇ~。そろそろ別路線でアプローチしないと本気で飽きられる~」

シャルがそう反省した。でも後悔はしてないみたいね。次は何やろうっかなぁ~、って鼻歌交じりだもん。そんなシャルと一緒にスキップするアリシアを先頭にして、あたし達は大浴場へ到着。脱衣所で思い思いに服を脱いでいく中、あたしは「はやて、ソレ・・・」隣で懸命に服を脱いでるはやての胸にあったソレに気付く。

「あ、コレか。うん。アインスの指環やよ」

首に提げられた剣十字“シュベルトクロイツ”に寄り添うように光る指環が1つ。ルシルが夏祭りで買ってくれた指環ね。

「アインスが逝くその瞬間まで身に付けてた指環や。ルシル君が、可能な限り肌身離さず持っていてくれ、って言うから、こうしてシュベルトクロイツと一緒に首に提げることにしたんよ。それにな。なんかこの指環を身に付けてると、ホンマにアインスが側に居てくれる気がするんよ。温かみを感じるって言うか。・・・この指輪はきっとアインスなんよ」

指環を手の平に乗せて愛おしそうに眺めるはやてに「そっか。じゃ、大事にしないとね」そう返す。はやては「うんっ!」って、同性のあたしでもドキッとする笑顔を浮かべた。あたしもなんとなく不思議な感じがしてるのよね、あの指環。ひょっとすると本当にアインスの心が宿っているのかもしれないわね。

†††Sideアリサ⇒すずか†††

お風呂を済ませた後、アリシアちゃんから、卓球をやろう、って提案があったから夕ご飯まで結構本気なゲーム(トーナメント戦もやって、私が優勝したよ)を繰り返した。汗だくになっちゃったからまたお風呂に入り直したけど。そうして夕ご飯。みんなでカラオケしながら、豪華な懐石料理に舌鼓を打った。
ちなみにカラオケは、1人きりじゃなくてデュエットで唄った。なのはちゃんとアリシアちゃん。フェイトちゃんとはやてちゃん。アリサちゃんとシャマル先生。シャルちゃんとシグナムさん。ヴィータちゃんとリインちゃん。アルフとフェンリルさん。そして私はルシル君とデュエット。ザフィーラは最後まで唄わなかった。聴きたかったなぁ~。

「――あー、唄った~」

「一度ノッちゃうと、なかなか止まんないよね~」

「カラオケって楽しいぃ~!」

デュエット大会が終わってからもソロで歌い続けたシャルちゃんとアリシアちゃんとフェンリルさんは、少し声を嗄らし始めたところでカラオケ機器の電源を落とした。備え付け冷蔵庫から自販機で買ったフルーツ牛乳のビンを手に取って、部屋の中央にある足の短い長テーブルでトランプゲーム・ババ抜きをしてる私、なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、ルシル君、アルフの元に来た。
ちなみにアリサちゃんとアリシアちゃんとヴィータちゃんとリインちゃんは、携帯ゲーム機で狩りを楽しんでて、シグナムさん、シャマル先生、ザフィーラの大人組はお酒を飲みながらお喋り中。

「喉を嗄らすまで唄うなんて馬鹿か。はい、すずか」

私に2枚のカード差し出してるルシル君が呆れる。私は右と左、両方のカードに触れてルシル君の表情の変化を見る・・・んだけど、ポーカーフェイス過ぎて全くと言っていいほど変化が判らない。ルシル君ってギャンブルゲームにとてつもなく強い。心理戦なんかしかけたら倍で返ってくるし。

「にゃはは。でもすごく良い歌声だったよ、シャルちゃん、アリシアちゃん、フェンリルさん」

「うん。フェンリル、歌、上手なんだね」

なのはちゃんとフェイトちゃんの褒め言葉に続いて「なんか不思議と落ち着ける歌声だったよ」私も、フェンリルさんの独特の声色の歌声を称える。唄ったのは演歌で、長い黒髪と浴衣も相まってプロの歌手みたいだった。

(あぅ、ジョーカー引いちゃった・・・)

私がルシル君の手札から引いたのはジョーカー。これで私の手札はジョーカーを含めて3枚。今度は私が「はい、なのはちゃん」に手札を差し出す。私も努めてポーカーフェイスを作る。なのはちゃんは私の手札に触れては私の顔を見る。さっきの私のように表情の変化を見るためだね。でもこれならどう? 無表情から笑顔に変える。

「・・・えっと、えっと・・・じゃあ・・・これ! あっ」

「「「「「判り易い・・・」」」」」

「にゃ゛っ!」

なのはちゃんはこういうゲームには向いてない。だって素直で、純粋で、隠し事なんて出来ない優しい子だから。なのはちゃんは手札をシャッフルして、「はい、はやてちゃん!」に手札を差し出した。はやてちゃんもなかなかにポーカーフェイスが下手なんだけど、なのはちゃんに比べればマシかな。

「あ・・・、ほっ・・・、あ・・・ほっ」

「「「「「判り易い・・・・」」」」」

緊張と安堵の表情の差がハッキリし過ぎだよ、なのはちゃん。はやてちゃんが「ほい、これや」カードを引くと、「はぅぅ・・・」なのはちゃんが肩を落とした。ジョーカー以外が引かれたんだね。で、最終的に「わたしも上がりや♪」はやてちゃんがなのはちゃんの手札2枚の内から1枚を引いて上がったことで、「にゃぁぁぁ!」なのはちゃんの負けが確定。

「もう1回! あと1回だけ!」

トランプを集めてシャッフルするなのはちゃんがもう1戦を提案。断る理由もないから、第2戦に入る。だけどその前に「ごめんね、ちょっとお手洗いに」私は席を立って、私の代わりにアリシアちゃんが入ってもらうことにした。

「俺も少し席を外すよ。シャル。代わりに入ってくれないか?」

「あいあーい。手加減しないよォ、なのは~❤」

「あたしももういいよ。フェンリル、代わっとくれよ」

「いいよ~」

私とルシル君とアルフに代わり、シャルちゃんとアリシアちゃんとフェンリルさんが入った。部屋を出て私はお手洗いに、そしてルシル君は「売店に行くの?」に向かおうとしたからそう訊いてみた。

「ん? ああ。少し小腹が空いて。部屋に元々あった菓子はもう無いし、食料調達だ」

「珍しいね。だけどルシル君。寝る前にお菓子は美容に悪いよ?」

ルシル君にしては珍しいと思う。ご飯の後ですぐに間食だなんて。ルシル君は「男にそんな心配は無用」って微笑んだ。そんなルシル君と別れてお手洗いへ。用事を済ませて部屋へ戻ろうとした時、「はい・・・?」誰かに呼ばれたような気がして後ろを振り返ったけど、そこには誰も居ない。小首を傾げながらもまた歩き出して、「・・・??」今度は気配のようなものを感じたからまた立ち止まる。

≪どうかしまして? すずか≫

「なにかに呼ばれているような気がして・・・。気配もあったような・・・?」

ちょっと気になったから旅館の外に出て見ることにした。普段ならここまで行動的にならないんだけど、今回はどうしても気になっちゃった。

≪すずか? お待ちくださいな。皆さんに一言断りを入れた方がよろしいのでは?≫

「気の所為の確率の方が高いし、大事にしたくないからしないでいいよ」

≪ですが・・・≫

「私だって技術者の前に魔導師なんだよ、スノーホワイト。何かあってもすぐに墜とされるような真似だけはしない」

“スノーホワイト”を握り締めて山林の中を行く。気配があったような、って微妙な感覚を頼りに歩いたんだけど、やっぱり何事もなかった。声も気配も気の所為だと見切りを付けて戻ろうとした時、ガサガサと草が揺れた。
風は無いから、「狐とか狸・・・?」野生動物が居るのかもしれないって思って、ちょっと見てみよう、なんて考えが。気配を殺してその場に留まる。山林の奥から何かが来る気配を察知。草が揺れる音が近くなってきた。

「・・・・・・あれ?」

すぐそこまでと言ったところで草が揺れると音が止んだ。途中で私に気付いちゃったのかな、ってそっちへ歩み寄って行く。すぐ側まで行った時、「きゃっ!?」何かが飛び出して来て、私を押し倒した。

「あいたた・・・。一体何が・・・? っ!!」

私を押し倒したのは、私と同い歳くらいの子供だった。フェンリルさんみたいに綺麗な黒髪でショートヘア。Tシャツにハーフパンツ姿。靴やサンダルを履いてない裸足。ううん、そんなことより男の子だよね、外見的に。私の胸に顔が押し付けられているような今の体勢に、顔どころか全身が熱くなって「あ、あの!」引き離すために両肩に手を置いて私の上から退かした。

「・・・ん・・・う・・ぅく・・・」

「・・・あの、大丈夫・・ですか?」

何か苦しそうに顔を歪めているから声を掛けてみるけど、意識は無いみたいで返答はない。こんな夜更けに子供1人が山林を裸足で歩いていてるのは不自然。それに今日の宿泊客は私たちだけって聞いてるから、他の宿泊客じゃない。明らかに異常事態。

「スノーホワイト。シャマル先生に連ら――」

「見つけたぞ!」

そこまで言いかけたところで、男の人の声が聞こえた。目線を男の子から前へ向けると、前方数m先に暗視ゴーグルのような物を装着した大人数人が居た。月明かりが、その人たちが持ってる凶器を照らし出す。

(剣1、槍1、槌1、全身甲冑1。あと全部の指先に爪の付いたグローブを武装してる人が1。目視5人・・・!)

「おい、原住民のガキが居んぞ」

「チッ。見られたんなら仕方がない。始末しろ」

「うわぁ、嫌だなぁ。辺境の管理外世界で、何の罪もない幼女を殺すなんて」

「放っておいてもいいんじゃない? どうせ俺たちのことなんて説明できないでしょ」

「その甘さが俺たちの首を絞めるかもしれないだろ。任務は常に徹底するべきだ」

私を口封じする算段を付け始める人たち。管理外世界って括りを知っているということは、管理世界の人なんだ。それに、簡単に人を殺す話をするなんて完全に犯罪者のそれ。その人たちの狙いはこの男の子。渡すわけにはいかない。

「悪いな、お嬢さん。運が悪かったと、自分の不幸を呪ってくれ」

グローブの人が大きく両腕を振るうと、10本の指先に付いてた爪部分が高速で飛来した。速い。だけど、私はそれ以上の速さを持つ攻撃を何度も経験してる。

「スノーホワイト・・・!」

≪アイスミラー!≫

爪が到達するより速くシールドを展開すると、「魔法!? 魔導師か!」あの人たちが一斉に身構えた。

「何故、管理外世界に魔導師が居る!?」

「俺の一撃をあっさり防ぎやがった・・・!」

「見た目に惑わされるな。あの子供、戦闘経験があるぞ」

今の攻防で一気に警戒されちゃった。子供だから相手に油断が生まれやすくなる、ってルシル君は言っていたけど、相手によっちゃそのアドバンテージも、活きるより先に崩れちゃう。

「・・ぅ・・うぅ、ここ・・・は・・・?」

「っ! 気が付いた? 怪我とか苦しいとかは無い? 」

「・・・あ・・・きみ・・・だれ・・・僕・・・は・・・」

「あ、私、月村すずかっていいます」

「・・すず・・か・・・う・・・」

≪また意識を手放してしまったようですわね≫

「・・・だったら、早くあの人たちを捕まえないとね」

≪そうですわね。・・・封時結界、発動します≫

戦闘の為の結界を発動。これで周囲の被害を抑えられるし、何よりみんなに異常事態を報せることになる。すぐにでもここに集まってくれるはず。まずはバリアジャケットへと変身。そして男の子を庇うように前に躍り出る。

「時空管理局本局・第四技術部所属、嘱託魔導師、月村すずかです。管理外世界への渡航許可証は・・・やっぱりないですよね?」

「管理局員だと・・・!」

「くそ! 殺して口封じなんて出来ないぞ」

「相手はガキ1人。事故に見せかけて殺せ」

また、殺せ、って言った。脅迫罪の追加。管理外世界への不法渡航、武装所持、戦闘・傷害未遂、男の子への誘拐・監禁未遂などなど。上げていけば切りがないよ。とりあえず、「えっと~、ごめんなさい。私は1人じゃないんですよ」そう言ってニコッと笑顔を作ってみる。

「なに・・・?」

「・・・なぁ。この世界、管理番号いくつだ・・・?」

「は? んなこと、どうでもいいだろうが。早くその小娘を黙らせて、あのガキを回収するぞ」

「いいから!」

「・・・確か、第97管理外世界・地球・・・だったか」

「極東の島国で、国名はニッポン」

「ちなみに、この街の名前は海鳴市です♪」

最後に私はそう付け加えると、1人の男の人の顔が青くなって、「ウミナリ・・・、まさか、お前は・・・チーム海鳴、なのか・・・!」って呻いたから、「はい。そのチーム海鳴です♪」答えてあげた。

「っ!・・・くっそ! チーム海鳴だ! 管理局広報誌で取り上げられていた! 幼くも局内上位クラスの魔導師が集った、新進気鋭のチーム! 平均魔力・魔導師ランクAAAの! しかも――」

あー、そう言えば1月前くらい、総務部・広報課の人たちから取材を受けたけど。その時に写真も撮ったし、色々と質問にも答えた。それで魔力や魔導師ランクの事も知ってるんだ。

「やったな。あたしらの希望通りの展開だぜ。因縁に決着がつけることが出来るなんてな」

「ああ。ロストロギア蒐集組織リンドヴルムの私兵隊の討伐が出来るとは」

「だな。俺たちが相手をしよう」

「久々の竜狩りか。腕が鳴る」

ヴィータちゃん、シグナムさん、ルシル君、ザフィーラが騎士服姿で私の目の前に降り立った。そして背後から「すずかちゃん!」「すずか!」なのはちゃん達が私の名前を呼びながら駆けて来てくれていた。はやてちゃんもリインちゃんとユニゾンを果たしていて、「リンドヴルム。闇の書を狙って来てた連中やね」って、シャマル先生と一緒にルシル君たちに並び立った。

「おいおい。こいつら全員がAAAクラスの魔導師なんかよ」

「しかも管理局員だって? 悪い冗談にも程があんぞ、おい!」

「そんな事は問題じゃない! その武器型デバイス、防護服・・・、やはり間違いない! ソイツら・・・パラディース・ヴェヒターだ!」

私の正体にいち早く思い出した人が叫ぶ。他の人たちも自分たちが置かれた非常事態にようやく気付いて、さっきまでの威勢が嘘みたいに一気に沈んだ。ルシル君が「なら、こうしようか」指を鳴らすと、ルシル君たちみんなの頭部がデフォルメされた動物の着ぐるみになった。ルシル君に至っては大人モードにまでなった。リンドヴルムの人たちはいよいよ以って逃げ腰になり始めた。

「く・・・! たとえそれでも・・・ソレを回収しなければ・・・!」

剣を持ってる人が男の子を睨んだ。その人が身構えると他の人たちも武器を構えた。

†††Sideすずか⇒イリス†††

「すずか、シャマル。その子を保護してくれ。俺たちはコイツらを仕留める」

管理世界に名を轟かせてるロストロギア専門の蒐集家のミスター・リンドヴルムを筆頭とする、リンドヴルムが海鳴市にやって来た。狙いは、すずかの側に倒れている少年みたい。歳はわたし達と同じくらい。魔力を感じることから魔導師だって思うんだけど、あの連中がどうして魔導師を狙うのかは不明。ま、捕まえてから聴取ね。

「一気に決めるぞ。シャマルとすずかとフェンリルは、その子の保護を最優先」

ルシルからわたし達に指示が飛ぶ。フェンリルが男の子を抱きかかえて後退して、すずかとシャマル先生が追いかける。

――テートリヒ・シュラーク――

――紫電一閃――

――守護の拳――

――集い纏え(コード)汝の雷撃槍(フルグルゼルエル)――

そしてわたし達は一斉に攻撃に移る。人数もそうだけど魔力量だけでも十分にリンドヴルムの連中を超えてる。コレって完全に弱いイジメのパターン。でも手加減はしない。これまで局はコイツらに苦汁を舐めさせられていたんだから。
ヴィータは同じハンマー使いを、シグナムは剣使いを、ザフィーラはグローブをはめた奴と、ルシルは槍使いを、そしてわたし達は全身甲冑の奴を。甲冑男は「数の暴力だと!? 貴様ら、それでも管理局員か!」って、彼を包囲するわたし達へ向かって怒鳴った。

「強奪犯がうだうだ言ってんじゃないわよ! フレイムアイズ!」

――フレイムウィップ――

アリサが繰り出すのは炎の鞭。今ではカートリッジをロードしなくても発動できる攻撃魔法。甲冑男は「くそっ」って悪態を吐いて、わたし達に向かって突進して来た。そして炎の鞭が当たった・・・と思ったんだけど、当たる直前に消滅した。アリサだけじゃなくわたし達も小首を傾げる。

「ハ、ハハ、ハハハ! ど、どれだけ魔力があっても、やっぱこの甲冑の前じゃ魔導師なんてザコになっちまうんだよな!」

甲冑男の突撃を横や上空に跳ぶことでわたし達は回避して『なのは、フェイト。魔力弾お願い』思念通話で2人に指示すると、『了解!』不満も言わずに答えてくれた。

「アクセルシューター!」「プラズマランサー!」

制止した甲冑男の背後になのはとフェイトの攻撃が撃ち込まれたんだけど、「また・・・!」着弾直前に消滅した。もう1度突撃して来る甲冑男。わたしはすぐさま『はやて、リイン。ベルカ式の魔力弾!』今度ははやてに指示。

『了解や』『はいです!』

――ブラッディダガー――

ユニゾンはやてが発動したのは血色の短剣による包囲攻撃。それと一緒にわたしは“キルシュブリューテ”を勢いよく振るって地面を穿って、魔力付加の無い純粋な物理攻撃――石礫を繰り出す。すると、はやて達の攻撃も着弾時に消滅したけど、わたしの石礫は、カツン、と当たった。

「決まり! ソイツの甲冑、AMFを使ってる!」

AMF――アンチ・マギリンク・フィールド。フィールド系の上位魔法で、魔力結合・魔力効果発生を無効にすることが出来るAAAランク魔法防御だ。出力によっては今のわたし達の通常魔法じゃ決定打を与えることが出来ないうえ近付いただけでバリアジャケットが掻き消される。

「チッ。もうバレたかよ! だが、判ったところでどうしようもないだろ! 魔力全開でようやくどうにかなるって話だ! それにな! コイツの出力はこんなもんじゃないぞ!」

相撲の四股を踏む動作をした甲冑男。すると「うぐっ・・・!」AMFの出力や効果範囲が上がって、わたし達のバリアジャケットが強制解除されてしまった。唯一、Sランクのはやてだけがなんとか騎士服を維持してるけど、「あ、アカン・・・、キツイ・・・」かなりギリギリなよう。

「アルフは下がって!」

フェイトが叫ぶ。アルフは使い魔だ。わたし達よりAMFの効果を受ける度合いが強い。だから「すまないね」アルフは後退。

「形勢逆転だな、おい。チーム海鳴なんて名ばかりのガキの集団じゃないかよ」

余裕を見せ始めた甲冑男は、「ほら、撃ってみろよ魔法」ってなのは達に無防備な体を晒す。ああいう武装の性能だけで自分を強者だって思い込む奴が特に嫌い、大嫌い。仕方ない。骨の1本や2本くらいは覚悟してよね。

「アルフ! 岩!」

後退したアルフにそう言う。それだけでアルフは察してくれたようで、「あいよ!」地面を全力で殴って大小さまざまな岩塊を作ってくれた。そして「おらよ!」アルフが岩を甲冑男に向かって放り投げた。

「馬鹿め! そんなもんに当たるかよ! 当たったところで――」

甲冑男は自分の防御力を見せつけるかのように両腕を広げて体を晒して、「見ろ! コイツには傷1つとして付くかねぇ!」岩に当たって見せた。確かに傷は付いてないし、衝撃で倒れるようなこともなかった。わたしは視線で、続けて、ってアルフにお願いする。

「どんだけでも投げるがいいさ! 岩が尽きたところでお前らは終わりだ!」

「どうすんのよ、シャル」

アリサ、それになのは達が不安そうな目を向けて来た。だけど「問題ないよ。アイツの意識はアルフと岩に向いてる」って微笑んで見せて、わたしはAMF効果範囲に出る。“キルシュブリューテ”を具現した鞘に収めて、居合いの構えを取る。魔力を脚に集中。見詰めるは甲冑男。深呼吸を1回した後、息を吸って止める。

――閃駆――

前傾姿勢で突撃。効果範囲に入ったことで脚への魔力強化が途絶えるけど、初速を得るだけの強化だったから構わない。甲冑男はわたしの接近に気付いてない。飛来する岩に当たって見せたり、殴って迎撃したり、大笑いしてる。どんだけ間抜けなんだろう。ひょっとすると今まで負けを知らなかったのかも。かなり性能の良い甲冑だし。でもね・・・

「せいっ!」

「うご・・ふ・・・ぐぅっ・・・!?」

鞘から引き抜いた“キルシュブリューテ”を甲冑男の脇下――甲冑の継ぎ目から覗く肉体に直接叩き込む。ボキボキ、メキメキ、右腕の骨が折れた音が耳に届いた。甲冑男が折れた右腕を押さえて「ぎゃぁぁぁぁ!」空を仰ぎながら悲鳴を上げた。わたしはさらに「ふんっ!」柄頭で甲冑男の喉を打つ。これで終わり。甲冑男は激痛で意識を手放した。

「騎士を相手に、性能頼りの武装だけで勝てるなんて思わないでよね」

魔力なんかなくたって強い騎士は本当に強い。わたしはまだまだだけど、コイツくらいなら倒せる。それからなのは達に甲冑を外す手伝いをしてもらって、AMF効果を解除。甲冑男の正体は10代後半くらいの青年だった。若気の至り、か。バインドで拘束して、「おーい、そっちは大丈夫か~?」無傷で戻って来たヴィータ達と合流した。

 
 

 
後書き
ドブロホ・ランクゥ。ドブリイ・デニ。ドブリイ・ヴェチル。
VSリンドヴルム戦の初戦をお送りしました。強襲というサブタイトルに相応しくない雑魚っぷりに呆れてしまう方もいらっしゃるでしょう。いえ、実際は強いんですけど、うちの女の子達が強すぎるんですよ。

「ドラゴンアイズがやられたようだな」

「フン。奴らは我らがリンドヴルム小隊の中でも最弱!」

第2などの部隊番号がありますが実力の序列には関係ないです。まぁ、第0はシュヴァリエルが居るため最強ですけど。
話は変わりますが、テイルズオブシリーズの最新作ベルセリアやゼスティリアのアニメ化が発表されました。ベルセリアはシリーズ初の女性の単独主人公だそうで、FF13のライトニングやDOD3のゼロなどが思い浮かんだりしてます。
さらにさらに「うたわれるもの2」のアニメも10月から放送されるとのことで、今から楽しみにしています。

 
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