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エターナルトラベラー

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第三十一話

さて、フェイトが家に来てから一週間。

その日俺達が学校で授業を受けていると、授業中にもかかわらず携帯に母さんからメールが入った。

先生に隠れて携帯のメールを開いてみると、内容はどうやらすぐに帰って来いとのこと。

すぐにと言われても今は授業中な訳なんだけど。

とりあえずその旨を返信すると、すぐさま返信。

緊急事態に付きすぐに帰って来いとの事。

まあ、幸いにも俺は一番後ろの席で、丁度いい事に教室の後ろの扉が人一人出入りできるくらい開いている。

ふむ、行けるかな。

俺は『絶』で気配を絶つと先生が黒板に板書している隙を付いて廊下に躍り出る。

うまく行ったようだ。

俺はすぐさま玄関に向かい、外履きにに履き替えると急いで家路を駆けたのだった。


さて、家に帰ってきた俺だが…うん、これは親に言う言葉ではないが言わせてほしい。

またお前かっ!!!


家に帰った俺を出迎えたのは血相を変えたフェイト。

助けてくださいと腕を引かれてリビングへと移動すると、其処には新聞が広げられ、その上で包帯を巻かれて息も絶え絶えな様子のオレンジ色の大型犬が…

アルフじゃねえか!

「お願い、あーちゃん。何とかして!」

丸投げかよ!

つかなんでアルフはこんなにボロボロなんだよ!?

混乱の渦中に居た俺を引き上げたのはフェイトの声。

「アオ…」

「くぅん…」

久遠まで…

うっ、そんな表情で俺を見ないでくれ。何とかするから。

まあ、フェイトにしてみれば多分俺なら何とかなるんじゃないかという母さんの期待を感じているだけだろうけれど。

「分ったから!」

「あーちゃん、はやくはやく!」

「母さん霧吹きってどっかにあったっけ?」

「霧吹き?えっと…確か」

家の中をうろちょろする母さんが最終的に持ってきたのは市販されている除菌消臭ができるあれ。

「大丈夫、ちゃんと洗ってきたわよ」

…いいんだけどね。

俺は一瞬右手の上に十拳剣の瓢箪を顕現させて、一滴だけ霧吹きに入れる。

そのまま台所まで行って水を足してよくかき混ぜるとおよそ40cmほど離れた所からアルフに向かって吹きかけた。

しゅっしゅっと吹き付ける霧が当たると、途端にその体から傷が消えて、血の気が戻ってくる。

…しかしシュールな光景だ。

持っているのが無地の霧吹きではなく市販品なアレの為に、汚物を消毒しているような…

俺の精神的な葛藤は置いといて、意識は戻ってないがアルフの容態も落ち着いた所で俺は母さんに事の顛末の説明を求めた。

今日はお買い得品があるからとフェイトと久遠に留守番を頼んでスーパーのチラシを片手に出かけていたんだと。

買い物も終わり、少し近道しようと海岸の遊歩道を歩いていたとき突然大型犬に襲われてしまったらしい。

先日のこともあるし、良く見ると額に宝石のようなものが埋まっているのが見えた為、またあの宝石のせいだと思ったんだそうだ。

ならばと母さんは反撃。アルフの惨状と、母さんの具合を見れば分る様に一方的にボコボコにしたんだろうな…

止めを刺そうとしたときに朦朧とした意識で呟いた一言が「フェイト…ごめん」だったそうだ。

その言葉を聴いた母さんは大慌て。

急いで担いで家まで戻って、フェイトに手伝ってもらいつつ応急手当。しかし状況は改善しなかったから直ぐ様俺を呼んだと。


そろそろアルフの傷も塞ぎきっただろうか。

朦朧としていた意識が覚醒したようだ。

「うっ……ここは?っフェイト!」

フェイトはどこだ!?とガバっと起き上がり、母さんの隣で心配そうにアルフを見ていたフェイトを発見した。

「フェイト、無事で良かったよ」

瞬間的に犬から人型に変身してしっかりとフェイトを抱きしめた。

「あ、あの…」

しかし、記憶喪失のフェイト自身は困惑の表情。

フェイト!フェイト!と、涙を目にいっぱいにためてフェイトの存在を確かめている。

しかし、それも直ぐに変わる。

今度はぐるるっと喉を鳴らしながら母さんを威嚇した。

しかし、それもフェイトの次の発言まで。

「あのっ!…あなたはいったい誰ですか?」

「え?…」








ショックで体が硬直しているうちに此方の事情を有る程度説明。

記憶喪失である事、今は俺達が保護している事。

後は親御さんを探している事。

母さんが襲われて、正当防衛で反撃したら当たり所が悪かった不慮の事故だった、と。

襲われて~のあたりは余りフェイトに聞かせるものでもないので俺が念話で伝えた。魔導師である事に驚いていたようだが…まあ、今は関係ない。


さて、今度はアルフの番。

「あたしはフェイトの使い魔さ。フェイトと一緒にくそババアの命令でこの世界、地球にジュエルシードを探しに来たのさ」

「ジュエルシード?」

母さんが質問する。

「青い宝石みたいなやつさね。あたしらもそれが何なのかは分らない。ただ集めて来いって言われただけだからね」

ただ、幾つあるか位は知っていたようだ。

「そう、まだそんなに有るのね」

手元にあるのは4個。先は遠そうだ。

しゃべり終えるとアルフは疲れたのかまた犬の姿になって気を失ったようだ。

「フェイトちゃん、久遠、ちょっとその子見ててね」

「あ、はい」
「くぅ!」

母さんは後をフェイトと久遠に頼むと俺を連れてリビングから移動した。

誰も聞いていない事を確認すると母さんは俺に話しかけてきた。

「あのアルフって子ならばフェイトちゃんの保護者に会えるわよね?」

「多分」

「そう…でも、今のフェイトちゃんを帰していいものか、悩むわ」

「どういう事?」

それは記憶喪失だからか?

「……最近フェイトちゃんと私が一緒にお風呂入っているのに、なんでなのちゃん達を呼ばないかわかる?」

うん?

「あの子の体に虐待の痕を見つけたからよ」

ああ、なるほど。プレシアからの折檻か。

「ああ、それで俺と一緒にお風呂には入ってくれない訳か」

まあ、未だに俺と一緒に入ろうとするなのは達の方がおかしいんだが。

「…それはまた別の問題だと思うけれどね」

一瞬呆れたような顔をしてから表情を真剣なものに戻した。

「あの子、両親から愛されていないんじゃないかしら。今も私を放さないようにぎゅっと抱きしめて眠っているわ」

まず彼女は片親なんだが、それは原作知識が無ければ分からない事だ。

まあ、原作知識を見るに愛されてはいないわな。プレシアにしてみればよく出来た偽者なわけだし。

「だから私、先ず一人で両親に会いに行ってみるわ。そこでちゃんとお話してくる」

母さんはこんな俺達でも自分の子として受け入れてくれた愛情深い人だ。そんな人が幼児虐待を見過ごせるわけ無いか。

「ん、分かった。でも、俺も行くよ。相手が魔導師って事も有りえるだろうし、話がこじれてって事もありえる」

母さんが負けるとは思わないけれど、危険なものは危険だ。

「うん、お願いね」

と言うか最初からそのつもりで俺に話しを振ったくせに。

それから数日後、アルフの体調が元に戻ったのを確認して俺達はフェイトの母親、プレシアに会いに行く事となる。



side アルフ

あたしがこの御神家に来てしばらく経つ。

最初の内はフェイトが記憶喪失だという事であたしはかなり混乱していた。

あたしの事を全く覚えていないフェイトを見るのは辛かった。

けれど、それと同時にあんなに笑顔を見る事が出来るとも思わなかったのだ。

そう、今のフェイトは良く笑う。

それは相手に心配させないための演技では無く、心の其処からの物。

以前のフェイトが失っていたものだ。

それもすべてあのババアの所為だ。

そう考えると記憶は無いが今のフェイトは幸せそうだ。

フェイトの幸せ、それはあたしがフェイトに求めたものでもある。

このまま記憶を無くしたままの方がフェイトは幸せなのかもしれない。

そう考え始めた頃だ、御神紫がフェイトの母親に会いたいと言って来たのは。

あたしは考えた。どれがフェイトにとって最良の選択なのか。

だけど頭の悪いあたしじゃ考えても分からない。

しかし、目の前に居る御神紫はフェイトのことをちゃんと考えてくれている人。

ならば悪いようにはしないかもしれない。

そう思ってあたしはしぶしぶあの糞ババアの所へ御神紫と御神アオを案内したのだ。

side out


さて、やってきました時の庭園。

そう、プレシア・テスタロッサの居城だ。

アルフの転送魔法で高次元内にある城まで直接転移してきたのだ。

「大きいところね」

ここに来ての感想がソレとは恐れ入る。

俺としてはこの高次元空間の光源がどこから来ているのかが疑問です。紫色に光ってて気持ち悪っ!

正門に着くと何も触れていないのに勝手に扉が開いた。

「入ってこいって事ね」

「多分」

俺たちは城の中に脚を踏み入れた。

「こっちだ」

アルフの案内で通路を進む。

そして案内された部屋には椅子が一つしかなく、その椅子にいかにも悪役といったポーズで一人の女性が座っていた。

まあ、ぶっちゃけ何ていうの?玉座の間?ラスボスの間?なんかそんな感じだけど、実際にこんな部屋があったら引くわ…

どっしりと玉座に座っているプレシアが此方をきっとにらみ付けていかにも不快だと言う感情を隠しもせずに話し出した。

「アルフ…フェイトはどうしたの?」

「フェイトは…」

「その質問には私が答えるわ」

言いよどんだアルフを制して母さんが言葉を発する。

「貴方は?」

うろんな目が母さんを見る。

「私は御神紫と申します。今現在諸事情により貴方の娘さんを預かっているものです」

「預かっているですって?」

「はい」

それから母さんは出来るだけ相手を刺激しないように言葉を選びながらフェイトの現状を説明する。

「記憶喪失?…本当に使えない人形ねぇ。本当にどうしようもない子…」

「人形?」

「ええ、あの子は私が作ったお人形。それ以上ではないわ」

人形。まあプレシアの愛はすべてアリシアに向いている。本当にフェイトへの関心は薄いんだな。

まあ、今の台詞だけ聞いても普通意味は分からないだろうけれど。

母さんを横目でうかがうと、その表情に般若が浮かんでいるようだ。

やばい!母さんが切れそうだ…

「人形?今自分の娘を人形って言ったの!?」

「ええ、言ったわ。あんな子私には要らないもの。あの子に価値なんて毛の先ほども無いわ」

母さんから感じられる不穏な空気。

実際に体内から発生した大量のオーラが指向性を持たずに当りを圧迫している訳だが、普通にプレッシャーが常人には耐えられないほどに膨れ上がっている。

隣に居たはずのアルフなんて飲まれて尻尾を丸めて震えている。

しかしどうにも精神が既に壊れかけているプレシアにはどこ吹く風のようだ。

その有り余る愛情から来る怒りを何とか押しとどめ冷静さを取り戻す。

「じゃあ、私に娘さんをください」

「「はぁ!?」」

あ、アルフとハモった。

って、まてまてまて。

今母さん何て言ったよ。

くれって言ったのか今!

なんか台詞だけ聞くとプロポーズ後の男性が彼女の両親に言う台詞みたいだな。

プレシアはなにやら考えるそぶりを見せた後、

「いいわよ」

と、答えた。

ちょっ!いいのかよ!

「ただし、ジュエルシードを私の所まで持ってきなさい」

「ジュエルシード…幾つですか?」

母さん!そこは何で必要か理由を聞くところじゃないのか!?

「そうね全部…と言いたいけれど、最低12個、それ以上あると嬉しいわ」

それだけ聞くと母さんは不快だという感情を隠そうともせずにきびすを返し、時の庭園を後にした。


所変わって御神家。

リビングに全員集まって家族会議。

「と、言うわけで。今日からフェイトちゃんはうちの子になりました。皆さん拍手」

わー、ぱちぱち。

俺は心の中だけで拍手した。

ソラ、久遠、なのはは皆ぽかん顔。

ぱちぱち

おや?拍手をしているのは誰だ?と視線を向けるとフェイト。

うっ…素直な子だね。

しかも多分今母さんが言った言葉の意味をよく理解してないんじゃないか?

「ちょっと、母さん!うちの子ってどういう事?」

「そ、そうだよね?行き成りだよね?」

ソラとなのはが混乱しながら質問した。

「いらないって言うから、頂戴って言った。後悔はしていない」

「「はぁっ!?」」

「だから、フェイトちゃん」

「はい」

おどけた表情から真剣な、それでも優しさあふれる表情で母さんはフェイトに向き直る。

「あなたは今日から御神フェイトよ。いい?」

「え?あっ…はい!」

うわぁ…母さん強引に押し切ったよ。

フェイトもなんだか嬉しそうな気がするし。

記憶が戻らない事を切に願うよ、まったく…

詳しい話はフェイトの記憶が戻ったときか、成人したら話すと言う方向で纏めた。

母さんの説明に、またもやぽかんとしていた二人を置いて話は進む。

「それでね、ちょっと母さん必要なものが出来たから二人にも手伝ってほしいんだけど」

「え?あ、うん…」

「それはいいんだけど…」

なのはとソラがようやく混乱から少し回復。

「そう、ありがとう。それじゃあ、明日から忙しくなるわね」

「な、何を手伝えばいいの?」

「ジュエルシード集め」

なのはの問いに少しいたずらっぽい笑顔でそう答えた。 
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