大晦日のスノードロップ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
5部分:第五章
第五章
「こうした花も」
「殿下もそう仰っていました」
「流石はアレクサンドルですね」
彼女は孫を褒めた。
「貴方にそう言うなんて」
「おかげでよいものをお届けるすことができました」
「それで」
「はい」
話は移った。
「この花を作ったのは誰ですか?」
「農家の姉妹です」
「農家の」
「はい、都の側の。小さい娘達です」
「子供達が作ったのね」
「そうです」
「そうだったの」
エカテリーナはあらためて刺繍とアクセサリーを眺めた。実に奇麗なものでとても子供が作ったとは思えない程だった。
それに。心が感じられた。真心が。彼女はそれにも気付いていたのだ。
「アレクサンドルを呼んで下さい」
「殿下をですか」
「はい。そして馬車も用意して」
彼女は続けて指示を出した。
「宜しいですね。行くところができました。すぐに発ちます」
「わかりました。それでは」
女帝はすぐに動いた。そして都を後にしてある場所に向かうのであった。
刺繍にアクセサリーを作り終えたマーシャとリーザはそのまま母の手伝いに戻った。相変わらずつつましやかな生活を送っていた。
「そういえばお姉ちゃん」
暖炉の側で椅子に向かい合って座って編み物をしている二人。リーザが姉に声をかけてきた。
「何かしら」
「今日大晦日だよ」
「そうだったの」
マーシャは妹に言われるまでそれに気付いていなかった。
「うん、今年ももう終わりだね」
「そうだね」
編み物をしながらそれに頷く。彼女は幼いながら仕事に終われてそれを忘れてしまっていたのだ。
「陛下に届いてるかな、もう」
「スノードロップ?」
「うん、届いてたらいいね」
「そうね」
妹の言葉にこくりと頷く。
「きっと届いてるよ」
「そうかな。だったらもうそろそろお知らせが来る筈だけれど」
リーザは首を傾げてこう言った。
「だって。もう大晦日だし」
「待っていればいいのよ」
首を傾げる妹に対して言った。
「届いてたらきっと返事が来るから」
「そうね」
「そうよ。だから待ちましょう」
「うん。ところでね」
「何かしら」
二人は暖かい暖炉の側で朗らかに話を続ける。この時母は市場に出掛け麻を買いに言っていたのだ。だから今家にいるのは二人だけであった。
「この編み物どうかなあ」
「どんなの?」
妹が見せた編み物を覗き込む。それは中々よい出来であった。
「いいんじゃない?」
マーシャはそれを見てこう言った。
「奇麗にできてるわ」
「そう?」
リーザは褒められてその顔を晴れやかなものにさせた。
「ええ、色合いがね。いいわ」
「結構考えたのよ、これ」
リーザは晴れやかな顔をそのままにしてこう返した。
「どうしようかなって」
「考えた介があったわね」
「うん。じゃあ次はね」
編みながら朗らかにお喋りを続けていた。そこで扉をノックする音が聞こえてきた。
「誰だろ」
「私が出るわ」
マーシャが席を立った。そして扉の方に向かう。樫の木で出来た重い扉である。
「はい」
扉を開ける。するとそこには着飾った一人の女の人が立っていた。服装だけでなく雰囲気も立派であった。威厳と気品が立っているだけで感じられる。そんな人がそこにいた。
「あの」
マーシャはその雰囲気に飲み込まれそうになりまがらもその人に声をかけた。
「何か御用ですか?」
「一つ聞きたいことがあるのだけれど」
その人はマーシャを見下ろして尋ねてきた。
「はい、何か」
「あれを」
「はい」
その人が声をかけると役人の人が後ろから何かを持って来た。マーシャ達が刺繍やアクセサリーを渡したあの役人の人である。とても偉い人だと思っていたのにこの人はその役人を平気な顔で使っていた。そのことからもこの人が普通の人ではないのがわかった。
ページ上へ戻る