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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  074 紅翼天翔 その2

 
前書き
3連続投稿です。

1/3 

 

SIDE 升田 真人

「……で、そこで、だ。隠さなければいけなかった。本名が気になるだろう?」

「……う、うん…」

妹紅に、まるで昔話を語る様に語り始める。

「……その昔──とは云っても3年程前だが、遥か(おおぞら)の月より飛来する光の粒を見付けた男が居た」

「シン…?」

いきなり語り始める俺を訝しがる妹紅だが、俺はそんな妹紅を手の動作にて──〝質問は後〟と云わんばかりに宥める。

「その男は、その光の粒を不審に思いその光の粒を追い掛けた。……やがてその光の粒は一番近くの竹林へと降って行った。……その時はまだ昼間だったので〝光〟が見付けやすいであろう、夜まで待つ事にした。……やがて夜になり、男は夜の竹林で世にも珍しき〝光る竹〟を見付けた。男がその竹を伐ってみれば、その竹の切り口から3寸ほどのとても可愛らしい女の子が出てきた」

そこで息継ぎとばかりに句切る。

「……物見遊山な感覚でその〝光る竹〟を伐った男だったが、男は女の子が出てくるとは思っていなかったので、その女の子の処遇について頭を悩ませた。……男はその──すやすやと寝息を発てている女の子を育てる事にした」

更に句切る。

……ちなみに、〝女の子が出てくるとは思っていなかったので〟とは妹紅に語った(騙った)が、これは半分以上嘘。6割から7割の割合で、女の子──〝かぐや姫〟が出てくる事は確信していた。……もちろんの事ながら、【竹取物語】の〝原典〟的な意味で…

閑話休題。

「とある集落に厄介になる事なった男は、目を覚ましたその少女から名前を聞いた。……そして、その少女はこう名乗った…。……蓬莱山(ほうらいさん) 輝夜(かぐや)と」

「な…っ!?!」

やはりと云うべきか、妹紅は心底憎んでいる仇敵の片割れの名前に切り株から勢いよく立ち上がる。……それを手の所作だけで宥める。先ほどの焼き直しである。……妹紅がなんとか落ち着いた頃合いを見計らい、更にその後の(はなし)を続ける。

「その男は、輝夜と簡単な食事処を始める事にした。……やがて輝夜はたいへん美しく育ち、その食事処の看板娘として世の貴族諸侯から声が掛かるようになった。しかし輝夜はその声に──どんな甘言にも応じず、その食事処の看板娘であり続ける。……しかし、貴族諸侯の声は止まらない。業を煮やした輝夜は、その貴族諸侯の中から熱意有る5人の貴公子に、結婚するにあたって、ある条件を突き付けた」

「……それって、もしかして…」

心当たりが有りそうに呟いた妹紅の言葉に、首肯で妹紅のその呟いた言葉を言外に肯定する。

「輝夜はこう言った。……〝私と結婚したければ、それ相応の固い意思を見せて欲しい。でなければ、と結婚する〟──と…。輝夜はトドメとばかりに、更にこう続けた。……〝その〝固い意思〟を示す方法としては、5人の貴族様達は私が身を寄せている食事処の主人──彼より早く私の出す難題を解いて下さい。……彼より遅くても彼と結婚します〟…。5人の貴公子達にそう告げる」

「……何それ、勝手過ぎるよ」

……その妹紅の、不貞腐れながらの言葉には心の中で同意したかった。……俺も当時──〝枷〟が外れるまでは、輝夜のそのお触れに一杯喰わされていた様なものだったから…。

「……輝夜が云う彼──輝夜が身を寄せていた食事処の主人は、輝夜のその提案に戸惑っていた。……輝夜へ向けていた感情が正室や側室に向ける感情とは違っていたからだ。……しかし、〝他の男に輝夜を取られるかもしれない…〟そう考えたその男もまた──いつの間にか輝夜に〝そう云う〟情を抱いていた事に気が付いた。……それからの事についてだが──端折って結果を言ってしまえば、輝夜が出した5つの難題を一番早く達成したのは輝夜が身を寄せていた食事処の主人だった」

「……まさかその店主の名前は──」

帝の勅命を受けた者から“蓬莱の薬”を奪って──それを飲むなどの向こう見ずなところは有るが、妹紅は頭は悪く無い。……〝その正体〟──俺の名前について辿り着いたのだろう。……だが、敢えて妹紅の言葉をスルーして続ける。

「そして輝夜とその男は結ばれた。その男は輝夜との婚姻により、嫉妬に駆られた襲撃者や、その男を謀殺せんとする帝の(はかりごと)などを(ことごと)く退けた」

「………」

妹紅は最早俺の語りを待っているだけである。

「そして数年が経った頃だった。……輝夜が(しき)り月を見ては物憂げな表情をする様になった。その男が言葉を掛けてみても、輝夜は曖昧な表情で──これまた曖昧な返事をするばかり。……輝夜はやっと口を開いたかと思えば、こう語った〝私は月から来た。近い内に月から迎えが来ると〟…」

ここら辺は多少〝原典〟を交えて騙る。

「腕に覚えが有った男は、輝夜を月へと帰さない為に方法を用意さた──月からの使者を(みなごろし)に出来る方法を用意した。……が、結局その男は使者達を鏖にすると云う惨事は起こらなかった。輝夜は男を薬で眠らせて男の元を、月からの使者と共に離れたからである」

……輝夜がまだ地上に居るのは知っているので〝月に帰った〟とは言ってないのがミソだったり。この言葉遊びに気付くか否かは妹紅次第。

「輝夜に逃げられた男は、その(ほとぼ)りが冷めるまでは悪目立ちしていた名前を忘れさせる為にも、山に(こも)る事にした。……男が山入ると1人の少女を──不老不死の少女と出会った。そして紆余曲折を経て──男はその少女を弟子とする事になったとさ」

「………」

そこで語りを終える。今度は妹紅に問う。

「……妹紅も気が付いているだろう? その男の名前を──正体を」

「……升田 真人。……シンの本名は升田 真人だと云うの…?」

「ああ」

怒りや驚愕──はたまは疑心などの感情に囚われながらも、妹紅はやっとの事で──まるで否定してくれと云わんばかりにその言葉を捻り出すが、俺は妹紅のその幻想をぶち壊す様に真実を伝えた。……そして、感情のキャパシティが一杯になったのか──

「………」

「……って、妹紅?」

……やはりと云うべきか、妹紅は切り株に腰掛けたまま器用に気を失ってしまった。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 藤原 妹紅

目を開けば、そこにはこの──シンに弟子入りしてからの数年間で見馴れた天井(?)だった。

「……ん…? ここは〝てんと〟の中? ……いつの間に…」

―……升田 真人。……シンの本名は升田 真人だと云うの…?―

―ああ―

(……ああ、思い…出した)

気絶してしまう前の事が思い起こされる。シン──升田 真人からの、無情かつ衝撃的な告白を受け止めきれなくて、気をやってしまったのだった。……恐らくはシン(慣れているので、私の中ではそう呼称する事した)が運んでくれたのだろう。

「……判らない…」

私の頭の中は、控えめに云ってもぐちゃぐちゃだった。……シンがなぜ自ら(シン)を仇敵としている私を弟子として迎え容れてくれたか判らないし──シンがなぜ〝敵〟になる事が判りきっていたはずの私を育てる様な真似をした理由も判らない。

……シンが輝夜を語る顔を思い出してから、シンの顔が忘れられなくなった。……あの──嬉しそうで懐かしそうな顔。シンも輝夜に逃げられて裏切られた──ある意味私と同じはずだ。……でも、どうしてあんな顔が出来るのか…。……判らない。

……そして…

「シンにどんな顔で会えば良いの…?」

それすらも、判らなかった。……だが、そんな私にも出来る事が有るなら…

「……シンに訊こう…」

正直に、シンへとこの疑問をぶつける他無い──結局それしか無い。……やる事が決まったので、〝てんと〟から顔を出せば既に朝になっていた。〝てんと〟は4つ──個別の人数用意してある。

……ちなみに、〝てんと〟は昨日まで3つしか無かったから、恐らくは〝姉弟子〟のものだろう。……いつも気になるのだが、一体シンはどこに荷物を隠しているのだろうか? ……いつかは知りたい事ではある。

閑話休題(それは兎も角)。

シンの〝てんと〟を叩いてみてもみても大抵なら有るはずの返事が無かった事から判るに──シンは居なかった。……既に起きている様で、日課の鍛練に出ているのだろう。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

――カンカンカンカン

シン曰く〝べーすきゃんぷ〟からそう遠くない鍛練場に足を運ぶと、木剣と木剣がぶつかり合っている音が耳につき、何事かと様子を窺ってみたら、シンとシホさんが〝かなり速い速度〟で打ち合っていた。……私も受けているシンからの修行である。……が、違いがあるとすれば…

(……私より速い…)

それだけでは無く、私よりも木剣を打ち合う音が〝長く〟続いている。……その意味は判っている。

(……ううん、それだけじゃない。……多分──いいや絶対、あの人は私より強い)

つまりはそう云う事。私は20~30合で、手の痺れから木剣を落としてしまう。……だがあの人──シホさんは、〝音だけ〟で数えてみても50を超えている。……私が見えないだけでもっと打ち合っているのかもしれない。

――「……強くなった、な!」

――「わっ?! ……あー…参りました」

……そんな事を考えていると、〝カァン〟と甲高い音が響く。シンがシホさんの木剣を弾き上げた。……私の目から見てもシンの勝ちだと云う事が判る。

「……居るんだろう?」

シンの言葉。主語は省かれているが、誰に語り掛けているかは判った。私は素直に、シンの前に出ていくしか無かった。

SIDE END 
 

 
後書き
明日もう一話投稿します。 
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