和服
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第四章
「だからそこは気をつけてね」
「服の左側が上ね」
「そう、それでね」
「肌着を着て襦袢も着て」
「振袖もね」
「それからその細い帯を締めるのね」
「腰紐ね」
綾はその名前もだ、喜久子に教えた。
「それを締めて」
「綾ちゃんみたいに整えて」
「ますはそこまでしてみて」
「ええ」
喜久子は肌着を着なおしてだ、後は綾がした様にした。それから。
綾は腰に今度は伊達締め巻きを締めた、喜久子もそうした。
そこから遂に帯を締めて足袋も履いた、そこまでしてだった。
喜久子は遂に和服を着た、その彼女を。
綾は部屋にあった大鏡の前に連れて行って彼女の全身を見せた。そのうえで問うた。
「どう?自分の着物姿」
「うん、何か不思議な感じね」
「そうでしょ、制服やお洋服の時とはね」
「また違っていて」
「これが日本の正装なのよ」
まさにそれだというのだ。
「そうなのよ」
「じゃあこの服を着て」
「それでね」
「お茶をするのね」
「普段は着ないけれどね」
綾はこのことはだ、くすりと笑って話した。
「流石に」
「普段は制服のままなのね」
「このお部屋でね」
それをするというのだ、茶道を。
「そうするから。けれど正式な時はね」
「この着物でするのね」
「どう?また着てみる?」
「着ていいの?私が」
「勿論よ」
綾は後ろからだ、喜久子の両肩に自分の手を乗せて後ろから答えた。
「是非来て、もう呉服屋のお嬢様みたいよ」
「私お家は銀行員だけれど」
父の仕事がだ。
「お母さんはスーパーのパートだし」
「そのことはそのことで」
「私がそんな感じなの」
「呉服屋さんのね」
「そうなのね、じゃあこれからも」
「着てくれるのね」
「ええ」
喜久子は綾に笑顔で応えた、そしてだった。
茶道部で正式に入部して和服も着ることにした、だが。
一年後だ、二年生になった喜久子は部活の前に綾にこんなことを言った。
「やっと正座にね」
「慣れたのね」
「うん、正座は中々ね」
「やっと幾ら正座で座っても足が痺れない様になったのね」
「それまで随分かかったわ」
「ううん、正座はね」
このことについてはだ、綾はこう答えた。茶室までの渡り廊下を歩きながら。
「やっぱり大変よ」
「慣れるまでが」
「けれど慣れたらね」
「もう足が痺れないわね」
「結局慣れることなのよ」
正座についてはというのだ。
「やっと慣れたのならね」
「いいことね」
「ええ、好きなだけ茶道が出来るわね」
「そうね、和服も着られるし」
「すっかり和服好きになったわね、喜久子ちゃんも」
「今ではそうよ、じゃあ今日は茶道部に出て」
そしてだった。
「明日は美術部で和服の絵描くわ」
「そっちも頑張ってね」
綾はその喜久子に笑顔で返した、そうして二人で仲良く茶道部の茶室に向かうのだった。
和服 完
2015・4・29
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