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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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番外27話『レディ~イドーナツ!』

 ドーナツレースのルールは至って単純。このロングリングロングランドを一周するという、ただそれだけ。
 銃・大砲・爆薬・凶器は何でもOK。

 島を一周するためのボートは手作りで、木材はオール2本と空樽3個の部品で作らなければならない。

 麦わらチームはナミ、ハント、ロビン。
 彼らの乗るボートはウソップが作ったタルタイガー号。
 樽をそれぞれ半分に割ってつなぎ合わせてあるという、少々雑な造りのボートとなっているが、かといって船大工でもないウソップにそれ以上のクオリティーを求めるというのも酷な話だ。むしろ最低限、海に浮かぶボートの体ものを作り上げたことを褒めるべきだろう。

 それに対するフォクシーチームはフォクシー海賊団のアイドル、ポルチェ。さらには魚人のカポーティとホシザメのモンダ。ちなみに、ポルチェは割れ頭こと銀ギツネのフォクシーが白馬のシェリーを狙撃した時に隣にいた女で、ハントにとっては気に入らない敵でもあったりするのだが、それはともかく。
 フォクシーチームの乗る船はキューティーワゴン号。さすがに船大工もいるらしく、機能だけでなく見た目もしっかりとしたボートが出来上がっている。

「とにかくやるからには勝つわよ! それに、ハントも自分から出場するって言ったんだから体の調子悪くても最低限のことはしなさいよ」
「当然!」
「相手を沈めてもいいのよね」

 麦わらチームの言葉に、フォクシーチームも答える。

「いやん、無茶なこと言ってるわ」
「ふん、海坊主だかなんだか知らねぇが、海は俺たちの土俵だぜ。なぁ、モンダ!」
「シャー!」

 司会がルールやメンバーの読み上げを行い、迷子防止の永久指針を麦わらチームとフォクシーチームの両チームが受け取り、スタートラインへと位置についたことで準備は整った。

『せいぜい島から離れないようにお気を付けて、幸運を祈るよ!』

 司会者の言葉にナミが「島から離れる? なんでわざわざそんな遠回りを。イン攻めて最短で行くわよ!」というのだが、ハントが「いや、そうがいかないらしい」と呟いた。

「なんで?」
「さっきウソップにとりあえず離れろって言われた。なんか銃とかで妨害されるかもしれないから、だって」
「え、嘘!?」
『位置について! レディ~~~~イ!』

 まだまだ戸惑いを隠せない麦わらチームの意志には関係なく、司会者がスタートの合図となる空砲を構え、そして。

「ドーナツ!!」

 声と共に空砲が開け放たれた。
 と、同時。
 フォクシー海賊団たちの何十、何百とある大砲や銃がタルタイガー号へと向かって一斉掃射された。

「うぉ、本当に撃ってきた!」
「いやー!」

 あまりにたくさんの銃弾や大砲により海面が大きくうねりを見せる。転覆しそうになるほどに不安定な態勢となったタルタイガー号へと、ポルチェが「お先に失礼! 簡単に沈んじゃいやん、よ! 楽しませてね!」という言葉と共にホシサメのモンダに船を引かせて、先へと進む。

 とはいえ、タルタイガー号は今はそんなことを気にしている場合ではない。

「……て、転覆は免れたな」
「転覆したらこの船だともう沈んでリタイアってことになりそう」

 ハントとナミがホッと、一息――

「見て、何か飛んでくるわ」

 ――つく間もない。

「岩!?」

 しかも、大きい。
 タルタイガー号ごと人間を押しつぶさんといわんばかりの巨大な岩だ。

「……んー、これならなんとかなるかな?」

 あわてて漕ごうとするナミとロビンを尻目にハントが跳躍。そのまま大岩を受け止め、先をいくキューティーワゴン号へと投げつけて見せた。
「きゃあああ」
「なにーーー! モンダ、回避! 回避だ!」

 味方の援護射撃でいきなりリードを得て余裕の雰囲気を醸していた態度から一転、悲鳴をあげて大岩を避けることとなった彼らの姿を見ていたハントが真っ先につぶやく。

「よし、今のうちに漕ごう」

 オールをこぎだそうとするハントに、それよりもナミが呆れたように「……あんた、アレで無理してないの?」
「え? ああ。体はなんともないし、でもあれぐらいなら」

 平然と答えるハントに、ロビンはロビンでおもしろそうに「普段はどういう筋力をしてるのかしら」

「……うん?」
「っていうかアンタ船を引っ張って泳いだ方が早いんじゃないの?」
「いや、それは俺も思うけどたぶんこのタルタイガー号がもたないんじゃなかな」
「……問題はボートの方なのね。今更だけどハントって……なんだろう……恋人にいうセリフじゃないかもしれないけど……なんというか、オカシイわよね」
「というか本当は魚人なんじゃないかしら」
「……頑張ってる人間になんか酷くね?」

 一応、船を漕ぎながらの会話だが、真剣勝負をしているとは思えないような会話に、それが聞こえていたキューティーワゴン号側のカポーティが「なめるなよ!」と声を発した。

「うふ、見せてあげて魚人空手」
「ウオ!」

 気合一閃。

「海面割り!」

 海を手刀て叩き割る。その勢いのままに水面が、まるで刃と化してタルタイガー号へと襲い掛かる。

「ハント!」
「おう!」

 ポルチェの言葉にカポーティが呼応したのと同様に、ナミの声に呼応してハントが海面を叩くと同時、おおよそ人間大サイズの水柱があがった。本来のハントならともかく今のハントならばこの程度の水柱が限界だろう。だが、今回はこれでも十分。
 垂直にあがった水柱が重力にひかれて海面に戻り始めると同時、その水柱の頂点から手刀をまっすぐに振り下ろした。

「海の刀」

 手刀を受けた水柱が、急激に水の刃へと変化した。以前、黒檻のヒナの艦隊を破るときに用いた海の宝刀の小規模版だが、その威力は折り紙付き。カポーティの海面割りとハントの海の刀がぶつかり合い、一瞬だけせめぎあったかと思えばカポーティの水の刃が霧散。そのまま海の刀がキューティーワゴン号へと襲い掛かることとなった。

「な!?」
「うそ!?」
「シャッ!?」

 キューティーワゴン号の彼らが皆一様に驚くも、今度は先の大岩のように回避するタイミングがないほどに鋭く、結果、必然的に着弾。

「いやん、ボートが斬り飛ばされちゃったわ!」
「ぬあー、海坊主め! だったら次は――」

 そう言って魚人空手を発動しようとするカポーティに、だが気付けば彼の体から8本のロビンの腕が生えていた。まるで締め上げるように関節を極めるその腕に、カポーティでは如何ともしがたく「何だ、うわっ!?」と身をよじるだけで精一杯。

「八輪咲き、フリップ!」

 そのまま船を牽引するホシザメ、モンダの頭へとバックドロップでカポーティの頭部を叩き付けた。
 見事に両者ノックダウン。
 一時的とはいえ、キューティーワゴン号はストップすることになった。

「お、おい、海坊主って二つ名は伊達じゃねぇぞ。カポーティがドーナツレースで何もできてねぇってのは初めて見た!」 
「あの黒髪のねーちゃんは悪魔の実の能力者だぞ!」
「あ、なんか俺褒められて――」
「――いいから、さっさと船を漕ぐ!」

 観客側から漏れる声に、ハントが軽く頬を緩ませるもナミに頬を引っ張られてすぐさま船を漕ぎ始める。

「……けどこれじゃやっぱり追いつけないわね」

 船をけん引するモンダたちに対して、麦わら側はただただ船を漕ぐだけ。さすがにこれだけ機動力に差があってはレースとしては如何ともしがたい。気を失っていたカポーティとモンダもすぐに意識を取り戻したらしく、縮まった距離がまた開き始めた。

「ね、ハント……ボートが壊れない程度に船を引っ張ってみてよ」
「また難しい注文を……普通のイカダとかなら問題なかったんだろうけど」
「じゃあ、私と航海士さんがボートのきしみ具合を見ながらで、漁師さんが徐々にスピードをあげていくのはどうかしら」
「そうね、それが一番いい気がする。どっちみちこのままじゃあいつらに追いつけないし」
「了解……徐々に、だな」

 頷き、ハントはそのまま着水。
 ウソップに一応は、と作ってもらっておいたタルタイガー号を引っ張れるロープを体に括り付けてゆっくりと動き始める。
 それらを見て笑うのは、もちろんタルタイガー号よりも随分と先に行っているキューティーワゴン号の面々。

「アハハ……追いつけないからって私たちの真似を始めちゃったわ」
「ハハハ、人間がモンダに追いつけるかよ」

 前方からバカにされているとも知らずに、ハントは自分が引っ張るタルタイガー号の強度に舌を巻いていた。

 ――なんか、俺が思ってたよりもずっと強度あるな、これ。

 速度に強弱をつけたり、蛇行してみたりと。ゆっくりと前に進みながらも強度を確かめていたハントの感想がこれだ。

「どう、ハント」
「さすがウソップってところかも……これならある程度は」
「……いけそうってことかしら?」
「ああ……二人ともしっかり掴まってろよ? これぐらいの重さなら俺、結構速いから」

 先ほど、飛んできた大岩を簡単に投げ返したハントが言うのだから説得力がある。ナミも、ロビンも珍しく何も言わずにタルタイガー号に掴まって、同時に「いいわ」とハントへのGOサインを出した。

「おっしゃ!」

 掛け声とともに、ハントが急加速。

「いや~~~~っ!」

 あまりの急加速ぶりにナミの悲鳴をまき散らしながら、タルタイガー号が一気にキューティーワゴン号を抜き去り、そのまま爆進していく。
 当然、慌てるのは急に追い抜かれたキューティーワゴン号だ。

「ええ!?」
「嘘だろ! なんだあのスピード!?」
「シャッ!?」
「いやん、このままじゃ負けちゃう」
「海坊主を少し甘く見すぎてた! ポルチェちゃんしっかりつかまってな!」
「頼むわよ!」
「合体! 魚々人泳法!」

 モンダがカポーティの下半身のみを呑みこんで、合体完了。
 魚人の筋力とサメの尾ひれで、エンジン倍速となってタルタイガー号を追いかけ始めた。

 ただし、速度としてはこれで5分5分といったところで、それを感じ取ったタルタイガー号は安堵の息を漏らした。

「良い感じよ、ハント!」
「ボートがもつならこのまま楽にゴールできるんじゃないかしら」
「……いや、でもなんか前方に見えてきた」

 泳ぎながら前を見て警戒する言葉を漏らしたハントの言葉通り、彼らの行く先にはこの島の特色どおりの随分と長いサンゴ礁が待ち受けていた。

「ホント……なあに? あのあの長く突き出たサンゴ礁」
「見て、あれのせいでおかしな海流が生まれてるわ、むやみに突っ込まない方がいいかも」
「あ、でもあんまりのんびりとしてたら追いつかれるぞ?」
「……ハント、ここを通り抜けるまではタルタイガー号に乗って!」
「……え? けど」
「いいから早く!」
「お、おう」

 ナミの指示通り、ハントがボートの上にまでよじ登った時、タルタイガー号の背中にまでキューティーワゴン号が追いついた。

「先にいかせてもらうわよ」

 ポルチェの言葉通り、未だに足踏みをしているタルタイガー号と追い抜こうとした時、ナミが「さぁ、私たちも行くわよ!」

 タルタイガー号とキューティーワゴン号が並んでロングサンゴ礁へと突入する。
 コースのイン側をとっているのがタルタイガー号、アウト側をとっているのがキューティーワゴン号。今まではあまり位置取りなど関係のなかったレースだが、ここで「フェフェフェッ!」と割れ頭ことフォクシーの笑い声が響いた。

「ん?」

 不思議に思う間もない。
 丁度イン側のタルタイガー号だけの視界を遮るように煙幕が張られた。

「フェフェフェッ! このサンゴ礁の迷路 目隠しで通り抜けてみろい!」

 フォクシーの笑い声に、ハントがまたイラっとした様子を浮かべつつも、けれど不安そうな様子でナミを見るのだが、ナミはそんなものどこ吹く風といった様子でハントへと声をかける。

「ハント、ここを抜けたらロング渦……アンタの馬鹿力でさっきの大岩みたいに私たちをぶん投げて頂戴」
「バカって……いや、うん。わかった」

 それよりも先にこの状況をどうにかしないと。そう言おうとしたハントだっが、すぐにその必要がないことに気づいて頷いた。
 タルタイガー号は誰も漕いでいないというのに一人でに迷路を突き進んでいたからだ。

「な、なんで」
「ここは海流の迷路。入り口さえ見極めればあとは勝手に出口まで運んでくれるわ。もともと前なんか見えなくてもいいのよ」
「さすがナミ!」

 フォクシーの妨害をいとも簡単にすり抜けてサンゴ礁の迷路を突き進む彼らだったが、その横では同じくキューティーワゴン号もサンゴ礁をぶち破りながら着々と進んでいた。並び具合はほぼ横一線。どっちともいえない順位の中で、遂に両チームともにサンゴ礁地帯を突き抜けた。

 続いて待ち構えているのは先ほどのナミの言葉通り、横にも縦にも長い渦。キューティワゴン号はさすがにこれに呑まれるわけにはいかないと迂回する形で回り込もうとするのだが、タルタイガー号は違う。
 サンゴ礁地帯を突き抜けた瞬間ハントは再び海の中へと潜り込んでいた。

「いくぞ、二人ともつかまってろ!」
「いいわよ!」
「どうぞ」
「どっせい!」

 少々おっさん臭い掛け声とともに、海中からタルタイガー号を持ち上げてそのまま前方へとぶん投げた。
 二人を乗せたタルタイガー号はロング渦を超えて、その先で横に待ち構えていたロング岬すらも飛び越えて着水。一気に最短距離を突き抜けた。

「うそ! なによあれ!」
「けど、見ろよポルチェちゃん。海坊主がまだロング渦の手前だぜ……これで戦力は半減、これなら追いつけるって!」
「あら、ほん――」

 カポーティの勝利を確信した言葉に、表情を緩めたポルチェだったが、次の瞬間にはその表情を固まらせた。

「どうしたん……だっ!?」

 カポーティも同様だ。
 理由は簡単。
 問題のハントが、まるで海中に何か土台かなにかあるかのようにその場から一気に跳ね上がって。うまいことロング岬に着地。そしてまたすぐさまジャンプをして、見事にタルタイガー号に追いついていたからだ。

「い、急ぐぞ、モンダ!」
「シャッ!」

 慌てて魚々人泳法で追いつこうと再び海を走り出した彼らを尻目に、タルタイガー号はどんどん先へと突き進む。
 順調に突き進むタルタイガー号と、それに大きく離されて必死になって追いかけるキューティーワゴン号。


 

「あ、コース指示よ」
「右へって書いてあるわね」
「あれ、ここで迂回しないといけないのか……じゃあとりあえず右にいったらいいんだな?」
「ってひっかかるかぁ!」
 嘘の看板指示にハントがひっかかりかけたり。




「おばーちゃんオヤビ……おばーちゃーん」
「ああ……あたしゃもうダメかもよ……ああ、そこ行く船の方々。助けてくれませんかね」
「……さすがにあれには俺でも騙されないぞ」
「ちょっとホッとしたわ」
 ろくな変装もせずに死にかけているおばあちゃんを演じるフォクシーを無視したり。




「ナミ、ロビン! ゴールだ!」
「……だからやめろっつってのよ! うっとおしい!」
 今度は嘘のゴールポイントに、またもやハントがひっかかりそうになったり。




 途中、タルタイガー号へとフォクシーによる様々なおジャマが入り、そのいくつかにハントがひっかかりそうになったりはしたもののナミとロビンには通じず、ろくなタイムロスになっていないことに加えて、両チームの速度も大して変わらない以上、ロング渦でできてしまった大きな差はほとんど埋まらない。

「見て! もうゴールが目の前に!」
「後ろはまだ遠いか?」
「遠いというか、視認できないぐらいかしら」 
「それはまた随分と遠いな」

 タルタイガー号を引っ張りながら海を進むハントが軽く勝利を確信して笑みを浮かべる。見聞色を扱えるハントがキューティーワゴン号の位置をわざわざ聞いたのは、単純に今は見聞色を発動していないからだ。

 見聞色を発動していないのは別にハントが相手をなめているから、というような理由では決してない。後ろをナミでもロビンでも見れるということと、そしてそれ以上に今のハントの体力では見聞色を無駄に発動しているのはつらいからだ。

 ほとんど勝利を得たと思っているタルタイガー号の3人に「おい、おめぇら! てこずらせてくれたな!」というフォクシーの声がかかった。いつの間にかゴール横の陸地で待ち構えているそのフォクシーの姿に「またあいつっ」とナミが嫌そうな声を漏らす。

 これまで何度も幼稚な邪魔をしてきたフォクシーだ、また変なことをしてくるのだろうか。そう考えるナミ、ハント、ロビンの3人へと、フォクシーが自分の親指に中指と薬指をくっつけて、人差し指と小指をたてた状態の――いわゆる狐の形の――手を向けた。

「今更なにかしら?」
「さぁ、けどどうせまた子供だましよ、無視していっちゃいましょう!」

 あくまでも無視して先に進もうとするナミと、ロビンも同様な気持ちなのかどこか呑気に首を傾げた。
 鈍い反応でいる二人と同じくハントも似たような態度でいたのだが、どことなく嫌な予感を覚えて、最後ということもあって見聞色を発動して、その表情を驚愕に染めた。

「っ、ナミ、ロビン! 少し外れるぞ!」
「え?」
「ハント?」

 呆けた二人へと、フォクシーは待ったなし。

「ノロノロビーーーム!」

 ハントが見聞色で察知したそれを狐の指先から放った。

 ――っさせるかっ!

「魚人空手!」

 それはもうハントにとってもほとんど反射行動だった。
 タルタイガー号を守るようにノロノロビームの間へと体をすべり込ませて、そこで「千枚瓦正拳!」

 拳を海面へと垂直に振り下ろした。
 数メートルほどの高さにまで上がる水柱。そこへぶつかるノロノロビーム。
 打ちあがった水柱が、まるで停止しているかのように遅い動きでゆっくりと、それはもう目には変化がないようにしか見えないほどにゆっくりと、海面へと戻り始める。

「んなにっ!? バカな! なんでわかった!?」
「なに、これ!」
「……水柱が停止してる?」

 フォクシーが驚きの声をあげ、同様にナミとロビンも驚くなか、ハントがそっとタルタイガー号を牽引して、それでレース終了。

『勝者! タルタイガー号! デービーバックファイト一回戦「ドーナツレース」を制したのは、なんとなんとぉ! 波乱の大波乱! 麦わら一味、タルタイガー号だーーーー!』
「よっしゃー! よくやったぞお前ぇら!」
「ナミさんもロビンちゃんも素敵だったよー?」
「ハント、結構体張ってたけど大丈夫なのか?」

 司会者の勝利者を認めたコメントで、順にルフィ、鼻の下を伸ばしたサンジ、ハントの体を心配そうにしているチョッパーが勝利を得た3人へと声をかける。

「にしてもノロノロビームってなに?」
「漁師さん、よくわかったわね」
「うん、まぁ……勝ててよかった」

 体を動かしてある程度すっきりしたのか、レースに出る前のようなハントらしからぬ空気は薄れている。微笑すら浮かべてホッと一息をつくハントへと、今度は外野からフォクシーが現れた。

「おい、海坊主! おまえなんでノロノロビームのことを知ってやがる!」
「……いや別にノロノロビームなんて知らな――」
「――はっ、まさかお前……俺のファンか! 有名人ってのも困りものだぜ!」
「なんでだよ! お前みたいな割れ頭のファンになるなら死んだほうがマシだ!」

 自分勝手な結論に達したフォクシーを、ハントが全力で拒絶する。

「……それは……言い過ぎ」
「イヤン、オヤビン! ちょっと海坊主やめなさいよ!」

 どうやら相当精神的に打たれ弱いらしい。隣にいたポルチェがフォクシーを慰めている。

『さぁさぁ、では待望の戦利品!』

 司会者の声が、彼らの間に割って入った。
 フォクシーとポルチェが悔しそうに顔を歪ませて、対照的にルフィとハントが互いの顔を一度見てから頷きあう。

「ちょ、ちょっと……私、別にあんな奴らから仲間ほしくないわよ」

 そっと小声でいうナミに、ハントも頷いて「大丈夫、見てたらわかるって」とナミの肩を叩く。
 全員が固唾を呑んで耳を傾ける中、ルフィは声高らかに宣言した。

「シェリー!」
「……」

 その名前に、皆一様に呆気にとられた、言葉を失い、反応を失う。
 白馬のシェリー。
 トンジットの馬だったにも関わらず、フォクシーがそのシェリーを狙撃し、自分の馬になったという良くも悪くも海賊らしい言葉を言い放っていたことから、ルフィやハントにとって、シェリーは奪還すべき対象として気に留めていたのだ。

 もともと、フォクシーたちからすればルフィたちの注意や闘争心を自分たちへと向けさせるために狙撃し、そう言っただけ。という意味合いのほうが強いのだろうが、それでもやはりトンジットとシェリーの絆を他の、しかも割れ頭のような海賊に邪魔されるのはルフィとハントにとっては気分の良いものではない。

 フォクシーからすれば儲けものという気分だろうが、ルフィたちからすれば大事なことで、絶対に取り返さなければならないことでもあった。

「竹馬のおっさん、これでシェリーとおっさんはずっと一緒だ」
「ありがとうな」

 ルフィへとトンジットが目に涙を浮かべてお礼を言う。
 フォクシーたちは次のデービーバックファイトの準備に移っているため、もうここにはいない。ここにいるのは麦わら一味とトンジットとシェリーだけだ。一同が黙ってそれを見つめている中、ルフィと同様にうんうんと頷いていたハントへとナミが声をかける。

「……シェリーってあの白い馬のこと?」
「ああ、うん。本当は竹馬のおっちゃんと一緒にいるはずの馬なのに、いきなりあの割れ頭が銃で馬を撃って『今からこの馬は俺のだ』って言ったからさ……どうしてもあいつらの手からシェリーを取り返したかったんだ」

 どこか嬉しそうにすら見えるハントの顔に、ナミが「ふーん?」と声を漏らして、ハントの顔をのぞき込む。

「な、なんだよ」

 ――び、びじ可愛い。

 恋人というものになっても、そうそうナミの顔を見慣れられるものではないらしく、ハントはそっぽを向き、内心とは裏腹の照れ隠しの言葉でどうにか冷静を装う。そんなハントの態度に、普段のナミならばいとも簡単に看破してそれをからかうのだろうが今のナミの関心はそこにはないらしく、ハントの顔を覗き込んだまままた質問を。

「あの馬を取り返したくてハント、良くない体で頑張ったんだ?」
「ん? いやまぁ、あとあいつらにムカついてたのもあったし。べ、別にいいだろ? レースでもちゃんと無茶しなかったし、それに自分で言うのもなんだけど怪我人なりの最低限の活躍はしたと思ってるぞ?」
「……そうなんだけど――」
「そうなんだけど……え、なんでそこに意味深にこっち見んの? あれ、俺あんまり役立ってなかった? そ、それともなんかナミにとって嫌なことまた気づかない内にやっちゃった? 気を付けてるつもりだったんだけど」

 モックタウンでやってしまったような気遣いの足りなさがまたあったのかと、オロオロとし始めたハントの行動にナミがそっと笑みを浮かべて「ううん、違うわよ」と首を振る。その反応に露骨にホッとした様子を見せたハントを見つめながら、ナミは浮かべていた笑みをさらに深くする。

「そういうんじゃなくて……何て言うのかな。ちょっとだけ、ハント変わった気がして」
「……え? 変わった? 俺が?」
「なんて言えばいいのかはわからないけど……でも、前のハントならたぶんチョッパーに止められたらそこで終わってた気がする。だから……うん、私が思ってるハントよりちょっと男らしくなった気がする」
「……そう、か? 自分だとあんまりわからないんだけど」
「うん、多分だけど……変わった」

 頬をポリポリと掻き「そ、そっか」と、まんざらでもなさそうな様子でハントが頷く。それからフとナミへと視線を向けて、今度はハントが、少しだけ恐る恐ると言った様子でナミへと問いかけた。

「……ナミは前の俺のほうが良かった?」

 ハントの問いに、ナミは目を丸くさせて、それから首をひねり、ハントへと視線を真っ直ぐに返してから言う。

「ううん、私はハントがハントならそれでいいから、どっちでも好きだけど……あ、けど今のハントはいい顔してるから。そういう意味だとちょっと変わってかっこよくなったかも」
「え」
「あ、でもあんまり心配させるのはやめてよ? 今日ぐらいだったらいいけど、あんまりひどいと流石にちょっとひいちゃうから……っていうか心配になるから」

 ナミらしからぬ、いや、逆にナミらしいのかもしれないドストレートな言葉。好きという言葉にかっこよくなったという褒め言葉。加えて心配になるという言葉。ドストレート3連発にハントが顔を真っ赤にして「あ……うん、えっと……気を付けます」と、どこの令嬢だと思わせるようなか細い声で返事をした。

「なら、よし」と、ナミが頷いて二人が赤みがかった顔で微笑みあう。

 穏やかな空気が流れ、二人の手が自然とお互いの指に絡み合う。二人の肩が触れ合い、それにすら二人が笑みを浮かべて。

 と。

『――さぁ、ここで一発グロッキーリングのルールを説明するよっ!』

 響き渡る司会者の、第二回戦の説明。

 ハントとナミは軽く微笑みあって、手をつないだまま、それに耳を傾けるのだった。

 ここには確かにフォクシー海賊団はいない。が、トンジットとシェリーを含めて、麦わら一味はここに集結している。
 一同の目がある中で、その彼らの目を気にせずにいい空気を醸し出しているハントへと、サンジが蹴りを繰り出そうとしていたのをチョッパーとウソップが必死になって止めていたことにハントが気付くまで、あと数秒といったところ。
 ちなみに、ナミがみんなに見られているということを想いだして照れにより顔を赤くさせ、俯くというおそらくは珍しい光景が訪れるのも、あと数秒といったところ。
 



 さて。
 デービーバックファイト二回戦は球技。種目名はグロッキーリング。
 ゾロとサンジの仲の悪さが災いして何度かピンチに陥るということがあったものの、チョッパーがうまく立ち回って勝利。

 フォクシー海賊団から奪うものに関して、ハントが不調ということもあって食糧が心もとないというサンジとハントの意見から肉を奪おうという意見があがったが、ウソップとナミの3回戦で最悪負けてもいいように敵のドクロマークのシンボルを奪うのがいいんじゃないかという意見が出たため、そちらを採用。
 ルフィが「俺があんな割れ頭に負けるか」と不満げにつぶやいていたのはともかくとして、2回戦も無事終了。




 続いてデービーバックファイト三回戦は戦闘。種目名はコンバット。
 現在2敗しているフォクシー海賊団はこのままでは盛り上がらないからと、この種目での500人賭けを要求。麦わら側にとって全く得がないこの提案を、ルフィが呑みこみコンバット開始。色々と仕込まれたカラクリによってルフィが敗色濃厚になるも、それを打破。ルフィが見事に勝利を得た。

 さて、別に奪うものがない麦わらチームは、とりあえず肉と酒を指定。餓死されても気分が悪いので食べきれない分やそれ以外の食材は放置。

 ナミの折角だからお宝もらっちゃいましょう、という言葉でそれも指定。
 酒と肉とお宝を指定したことで残り497人を指名しなければいけないわけだが、ルフィは端から497人をテキトーに選択。デービーバックファイトが終了すると同時に「お前ら解散」というルフィの号令とともに、結局はその497人も元のフォクシー海賊団へと戻っていった。

「おぼえてろー!」

 徐々に遠ざかる、フォクシー海賊団の最後の遠吠えを最後に、デービーバックファイトは完全に幕を閉じたのだった。

 
 

 
後書き
・シェリーを奪い返す、というのはアニメ展開。
 ついでに最後のコンバット500人賭けもアニメ展開、いらない人間をたくさんもらってデービーバックファイト終了後に解散する、というものアニメ展開です。


・デービーバックファイト2回戦、3回戦はカット。
 チョッパー入った2回戦が気になった方、申し訳ないです。チョッパーは結構優秀なので、多分うまいこと二人をフォローするんじゃないかと、それでその結果、なんの見せ場もなく終わるという妄想しかできず、諦めましたorz

・すいません、感想の返信遅れます。更新優先でいきます。せっかくいただいてるのに申し訳ないです。もうちょい落ち着いてから返させていただきます! 
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