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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―

作者:鳩麦
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第三章
  ニ十二話 世界最強の少女

 
前書き
アニメはじまた。ニ十ニ話 

 
ミッドチルダ南部。湾岸住宅地近くの海岸に、金属同士がぶつかり合うような轟音が響いた。

「おっとぉ!(へえ、こりゃ確かに重い)」
打ち込まれた蹴りを斧槍(ハルバード)の柄で受け止めた青年……ライノスティード・ドルクは、口角を上げながら受け止める。
遠間から踏み込んでの蹴りの筈だが、その蹴りには驚くほどの威力が乗っていた。破壊力だけではなく、その蹴りを放つのがアインハルトと丁度同い年の少女だと言うのも、驚きの要因の一つだろう。
まあ、その基準としている少女もなかなかアレなのが有る意味この世界の常識が他とは違う証明になっているかも知れないが。

「ウォーロック!」
[Photon Lancer]
「ッ!」
ライノの言葉一つで、ウォーロックが彼の脇に光球(スフィア)を生み出す。撃ち出されるのは雷光の槍。しかしそれがスフィアから射出され始めるよりも早く、少女が動いた。
あろうことか体制を一度引いて立て直すと、即座に突き込むような鋭く早い蹴りで、スフィアを弾き飛ばしたのだ。

「なんとぉ!?」
「やぁっ!」
これにはライノも驚きを隠せず声を上げる。おかげで立て続けに放たれた左の蹴りの回避で体制が崩れる。追撃が来る……

『成程大した反応だな……!』
『そのようですね。来ます』
「(行ける!)空……!」
たたらを踏むように下がったライノのがら空きの防御に向けて蹴りが迫る。苦笑するライノはそれに……

「惜しいな。ミウラちゃん」
「えっ、あぅっ!」
笑いながら対応した。
不意に少女の“後方”から、強烈な衝撃が彼女を襲った。彼女の死角、後方に精製されていたスフィアから、あえて踏み込もうとした所にフォトンランサーが発射されたのだ。当然、蹴りを放とうとしていた体制が強制的に大きく崩されつんのめり、地面に倒れそうになる……のを……

「悪いねぇ、俺年長者だからさ」
[Attraction]
「わぁっ!?」
強引に引き起こされた。
否、“引き寄せられた”のだ。そうとしか思えない、明らかに通常の物理法則とは違う理屈で動いた彼女の身体の胸倉が、突然ライノに掴まれる。

「しまっ……!」
「ちょい卑怯なん、だぁ!」
「かっ……!」
即座に地面から離れた身体が、次の瞬間、ライノの反対側の地面に叩き付けられた。「投げられた」背中からの凄まじい衝撃に息を詰まらせながら、少女は理解する。

理屈は簡単だ。やや離れた位置にいた彼女の身体を、ライノが磁力変換の効果を使って強制的に引き寄せ、掴み、身体強化によって強化された筋力で、片手一本使ってぶん投げたのだ。
離れていても関係なしの、言わば“射程のある投げ技”とでも言おうか。
ライノだからこそ出来る格闘技の一つだった。

『お、起きない……とっ!?』
「甘~い」
「!?」
仰向けに倒れ、それでも即座に起き上がろうとした彼女はしかし、地面に向けて引き付けられるように再び倒れる。勿論、偶然やドジでは無い。ライノの電磁力変換がまたしても、少女の身体を地面に縫い付けるように引き付けていたのだ。うつ伏せと比べて、仰向けの体勢から起き上がると言うのは通常ならばともかく、地面に引き付けられている状態ではとんでもなくきつい。
一瞬では有るものの、彼女の身体が完全に硬直する。そしてその瞬間……

「ほい、どーん!!」
「ひぃっ!!?」
彼女の顔面のすぐ真横に、ハルバードの穂先が突き刺さった。

「降参、するかい?」
「は、はぃ……」
両手をホールドアップするようにして上げながら地面に横たわり、ミウラと呼ばれた少女は半泣きでそう答えた。

────

「いやぁ、やるじゃんミウラちゃ~ん。俺ちょっとヒヤッとしたぜ?」
[ニヤニヤしないで下さい気色悪いです、今すぐその深海魚のような顔をひっこめてくださ……あ、失礼、私は深海魚の方々に何て失礼な事を……]
「そこまで酷い!?俺の顔そこまで酷い!?ねぇ!?」
相変わらずの毒舌っぷりにライノが半泣きでそう言うのを見ながら、苦笑して彼の目の前に居た薄く淡いオレンジ色の髪に深い緑色、そして完全な絶壁と化した胸の、ぱっと見少年にしか見えない少女……ミウラ・リナルディは言った。

「いえいえ!結局手も足も出ませんでしたから……それより、凄いです!ボクの動きも全部読まれたみたいでした……!」
ライノが今いるのは、アインハルトのデバイスを作った八神家の別のメンバーが近所の子供達に武道を教えている一種のご近所道場、「八神道場」の練習場になっている砂浜である。
其処でライノは、今期「八神道場」からIMに参加する彼女、ミウラのスパーリング相手を、ノーヴェを通じて依頼されたのだ。元々依頼の日は予定が空いていたため、あえてライノの方から出向き、こうして練習相手に徹している。

「ま、其れが此奴のやり方だからな」
ミウラの言葉にそう答えたのは、彼女並みに低い背丈に燃えるような赤毛をお下げにした少女……と言っても、実は今この場所に居る誰よりも年上な人物。八神はやての守護騎士、ヴォルケンリッターが一人、鉄槌の騎士ことヴィータである。
まぁ、騎士とは言ってもお気に入りのノロイウサギがプリントされたTシャツを着て、下半身ジャージな姿を見てるとただのボーイッシュな少女か何か……お世辞にもあのJS事件で、全身から流血しながらでも聖王のゆりかごの反応炉を破壊すると言う大奮戦を見せた、気合いと根性の権化のような騎士には見えないが。

「そうなんですか?」
「あぁ。此奴にとって他人の意表を突くのは十八番みたいなもんだ。記録されてる試合の中にも、そう言う試合が沢山あるからな。今の一連の中で出した手札も、此奴にとってはほんの一部だぞ」
「はっはっは、やだなぁ人聞き悪いっすよヴィータさん。若い子にそう言う事言わねーで下さいって」
後ろ手に頭を掻きながらライノが苦笑すると、ヴィータはふんっ、と鼻息を鳴らして笑った。

「何が若いだ。アタシにとっちゃお前らなんか両方ともかわんねーよ!」
「そりゃヴィータさんはそうでしょうけど!」
苦笑したままライノが突っ込む。と、ミウラがキラキラした目で此方を見ているのが分かった。

「えーと?」
「凄いです!しかも世界代表選で、ニ位に入賞なさったこともあるんですよね!?ホントに凄いです!尊敬します!!」
「あ、あぁどうも……けど、お前にだって俺は割と可能性感じるけどな。まだ手札は隠してるんだろ?」
「ふぇっ!?」
ニヤッと笑って言うライノに、ミウラは何故か赤面して妙な声を上げる。そんな様子を楽しそうに眺めながら、ライノは言った。

「お前、魔力を運用する時特有の魔力の流し方をしてるよな?これ、勝手な見解だけど、収束魔法とか使えるんじゃねーか?」
「ふぇぇっ!?」
「当たりみてーだな」
分かりやすいなーと思いつつ、楽しそうにライノは続ける。

「それに、さっきの蹴り技。距離を詰める時の速さを加算したとしても、他の格闘系選手と比べて圧倒的に重かった。拳も中々だ。ハードヒッターとは言え身体強化でアレだけの能力に加えて、収束魔法。此処まで来ると、下手に収束砲撃何かに使うよりもよっぽど強そうな使い方が俺には思い浮かぶんだけど……」
「ふ、ふあぁ!?な、何でわかるんですか!!?ら、ライノさん魔法使いなんですか!?」
「えーっと、そうですけど……?」
と言うかお前もそうだろう。と思いつつライノは苦笑する。と不意にヴィータが口をはさんだ。

「おっと、詮索は其処までにしとけよライノ。ミウラ!お前も簡単に動揺するんじゃねー!」
「は、はいぃ!!?」
「嘘付くの向いてないなー、お前」
素直すぎるだろうに。と思いつつ、ライノは持っていたスポーツドリンクを一口飲む。

「そういやぁライノ」
「はい?」
不意に掛かったヴィータの声に、ライノが首を傾げて応じた。

「今年は“彼奴”もIMに出るんだろ?どうなんだ、練習とか」
「あぁ。まぁ順調なんじゃないですかね?久々に楽しそうですから彼奴」
「へぇ……」
思い出したように小さく笑うライノに、ヴィータは少し驚いたような顔をした。

「今年は男子の部も荒れますよ~?今頃彼奴は、山奥かな」
「あ?山奥?」
「えぇ、ちょっとした練習相手に会いにね」
首を傾げるヴィータに、ライノは楽しげに微笑んだ。

────

「此処か……?」
クラナガン中央駅からリニアトレインや今時珍しい路線バスを乗り継いで二時間程。都市部とは違い、多少交通などが整備されたとはいえ殆ど手付かずの自然が残る、ミッド西部の小さな山林地域に、クラナはやってきていた。

[指定された座標まではもう少しですね]
『こんな所で練習してる人なのか……』
[変わり者な方なのかも知れませんねぇ、ちょっと気をつけた方が良いでしょうか?]
『でもヴィクトーリアさんの友達だよ?そうそう変な人だとは思えないけど……』
アルとそんな事を話しつつ、ヴィクトーリアに教えられた場所を目指してクラナは歩き出す。周囲には森と川のせせらぎ、鳥のさえずりなどの自然からなる色と音が満ち、陽光がそれらを平等に照らす。[熊注意]等と書かれた標識に苦笑しつつ、舗装された道を脇にズレて少し川の方へと降りていった所に、比較的平らで、小さな河原があった。

[座標はこの辺りです]
『此処……?』
はて、周囲に誰かが居るようには見えないが……そんな事を思って周りを見渡すと、すぐ其処にテントが張ってある事に、クラナは気付いた。

『あれかな……?』
近寄っていき、テントの周りを観察する。しかし……周囲には火をおこした後や何かを立てたような跡は有るのだが、当のテントはアルが呼び掛けても反応が無く。中を覗くと案の定無人だった。

[お出掛けでしょうか……?]
『うーん……出掛けるって言っても、どこに?』
[はて……?]
少し考えながら周囲を見渡すと、ふと音に気が付いた。高速で水が流れ落ちるような音、これは恐らく……滝だ。音の近さから考えて、すぐ其処の河がカーブになっている部分の、林の陰だろう。

「(退屈だしな……)」
普段都市部に住んでいると、あまり滝のような大自然の景色に触れることは少ない。そう言う意味では、この前のカルナージ合宿はよい景色を見れた。そんな事を思いながら、特に考えもなくクラナはそちらの方へと向かった。

「わぁ……」
林の向こうには、やはり滝があった。と言っても、想像していたほど巨大な物ではない。高さはせいぜい4mちょっとと言ったところ。水量もそれ程ではない。ただ落ちてくる水がしぶきをあげていて、辺りには他の場所よりもひんやりとした空気が満ちていた。

「気持ち良いな……」
そんな風に一人ごちながら、クラナは吸い寄せられるように滝に近づいていく。低い滝ではあるが、近くで見ればそれなりに迫力がありそうだ。
と……

「?」
すぐ近くで滝の音とは違う、何か生物の気配を感じた。もしや本当にクマでも居るのではあるまいなと内心冗談混じりにそんな事を思って、クラナは静かにその音源の方へと近づいて行く……
……其処に居たのは、熊では無く、また竜や妖精のような幻獣の類でも無く……一人の、少女だった。

「…………ぁ」
舞い上がった水滴が、少女の周囲でキラキラと輝き、その一糸纏わぬ姿を美しく飾りながら落下する。透明な雫が彼女の背筋を伝い、細く磁器のように滑らかな肢体を強調する。あるいは妖精のようですらあるその少女は、クラナが踏んだ小さな木の枝の音を聞いて、緩慢な動きで振り向いた。
彼女の深い藍色の瞳の視線と、クラナの真っ黒な瞳の視線とが、はっきりと交差する。一瞬の静寂が二人の間を包み込み、小さく息を吸い込んだ少女の薄い唇から……

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」
それはもうとんでも無い声量の悲鳴が飛び出した。
まあ幾ら美しく幻想的に描写してみても、結局の所のぞいて居る事に変わりはないのである。

「ごっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!!!!」
ようやく我に返ったクラナもまた、全力で後方を向いてとにかく謝り謝って謝る。
流石に久々に見る女性の裸体は、健全な15歳の男子である彼には刺激が強すぎたらしく顔から火が出そうなほどに朱くなっている。

「な、なんでぇ!?突然人っ……なんでぇ!?」
「ご、ごご、ごめんなさい俺っ、俺、まさか水浴びしてたなんて、ほ、本当にごめんなさい!」
それにしても双方ともにえらいパニクりようである。全く会話が成立していない。不毛な疑問と謝罪の連鎖に流石に困り果てたのかアルが声を上げた。

[あのぅ、お二方共、ひとまず落ち着いて下さい。深呼吸しましょう、深呼吸]
「あ、アル?そ、そうだな……すう、はあ……」
「せ、せやね……すー、はー」
言われて二人は非常に素直に深呼吸を始める。アルが内心苦笑している(まあデバイスなので内心以外苦笑しようがないが)とはつゆ知らず、二人は一斉に深呼吸を始める。ようやく少し冷静さを取り戻した二人は、それでもやや裏返った声で会話を始めた。

「え、えっと、とりあえず、き、君、どうしたん?こんな所で……」
「あ、いやその……俺、人を探しに来たんです、ヴィクトーリア・ダールグリュンさんの紹介で、その……!」
「ヴィクターの……?あ……も、もしかして、男子の部の出場者くん……?」
「あ、は、はい、それで、その人を探してるんですが……」
「ご、ごめん其れ多分ウチや……!」
クラナの後ろで、焦ったようにパシャパシャと水の跳ねる音がした。少しして、控えめな声がする。

「あの、振り向いても、ええよ……?」
「は、はい……」
言われておずおずと振り向くと、其処にはタオルけっとを巻いた先程の少女が立っていた。髪や身体にまだ水滴は付いているが、身体の大部分はタオルで隠されているので、先程までよりは大分ましだ。

「ひ、ひとまず、始めまして……やね。ウチはジーク……ジークリンデ・エレミアいいます。君は……?」
「高町クラナ、です……」

────

「あー、そやったらウチが時間勘違いしとったんね……ごめんな~。ウチ滅多に人に会わんから……」
「いえその……こちらこそ……」
とりあえずジャージを着たジークリンデが苦笑する。のに対して、クラナは頭を深々と下げたまま完全制止する。その様子に困ったように笑って、ジークリンデは言った。

「えぇと、ひとまず頭上げよ?気にして……は無い訳や無いけど、そのままじゃ話もできへんし……」
「いえ……」
憮然として頭を下げ続けるクラナに、ジークリンデはますます困ったらしく、何故か意味も無く左右を見回す。挙動不審におろおろする少女の前で全力で頭を下げ続ける男子。なんだか分からないがとてもおかしな光景だ。

[あ、相棒、エレミアさんおっしゃる通りです。頭を上げましょう。相手の顔を見ずに会話するのも、失礼に値しますよ?]
「…………」
何度か二人促されて、クラナはようやく顔を上げた。

「本当に……すみません……」
「あ、ううん、ウチにも原因があったわけやから、そんな気にやまんといて?な?」
「そう言う訳には……」
彼女の言葉に恐縮したように言うクラナに、ジークリンデは「まじめやなぁ」とますます苦笑する。後ろ手に手を組んで、軽く首を傾げて言うその姿はとても可愛らしかったが未だに若干顔が朱い。まぁ年下とは言え男子に一瞬でも裸体を見られてしまったのだ。朱くなるなと言う方が無理な相談だろう。

「うぅん……」
「…………」
しかし何はともあれ、先ずはこの気まずい空気をどうにかしなくては本当に碌に会話も出来なくなってしまう。そんな風に考えて、ジークリンデは必死に考えを巡らせる。そうして……

「と、とりあえず……お味噌汁、呑む?」
「え……」
突然の提案に、クラナは眼を丸くして硬直する。その様子をみて、自分が割と突拍子もない事を言ったことに気が付いたのだろう。数秒の静寂の後、顔が一気に朱くなる。

「あ、いやその、ウチお味噌汁が好きでな、あとおにぎりも好きやから、その、いやそうやのうて!せやから……味噌汁でものんで、落ち着けたら……その……」
「……ぷふっ……」
[……!?]
「う、うぅ……」
頬を朱くしたまま所在なさげに視線を右往左往させている彼女に、クラナは溜まらず小さく吹き出した。その反応にジークリンデはますます顔を赤らめて俯く。馬鹿にされたのだと思ったのだろう。だが、其れは違う。

「あ、あの……」
「うぅ、なに……?」
「いただきます。味噌汁」
「ふぇ……」
不意打ち気味のその言葉に、呆けたようにジークは眼を丸くする。

「すみません笑ったりしてしまって……その、凄く強い方だって伺っていたので、もっと硬派な方かと思ってて、こんな風な、可愛らしい方だとは……」
「…………」
[…………]
苦笑しながら言ったクラナは、ぽかんと此方を見ているジークリンデに慌てたように弁明した。

「あ、いやその、すみません変な事言って!」
「う、うぅん!そんな事あらへんよ!?えっと、そしたら、一緒に呑もか?」
「はい、いただきます」
小さく笑って、クラナはジークの近くに会った鍋と焚火のすぐ近くに座る。ジークは簡易用の味噌を取りだすと、其れを鍋の中に入れ始めた。

────

「どうかな?お口にあうか分からんけど……」
「……美味しいです。お上手ですね」
「そんな事あれへんよ~。こんなん、だし入りのお味噌に具を入れただけやし」
笑いながらブンブン手を振ったジークリンデは、自分も味噌汁を一口のんで少し考え込んでから言った。

「んー、やっぱりエドガーの方がおいしいなぁ」
「エドガーさん……ですか?ヴィクトーリアさんの所の、執事の?」
「ん?あ、せやった、クラナくんはヴィクターの友達やからしってるんや」
一瞬どうしてわかるの?と言うように怪訝そうな顔をした彼女は、直後に納得したようにぽんっと手を叩いた。

「うん。ウチ、色々なことでヴィクターに世話になっとって、偶に、エドガーにおでんとかおにぎりつくってもらってるんよ」
「そうなんですか……」
だから今回の紹介にも応じてくれたのか。と、クラナは変な所で納得していた。まさか彼女とこんな風に会話する事が出来る日が来るとはこの間まで、まったく思っていなかったからだ。

[でも驚きましたよ!強い方とは聴いていましたが……まさか、世界チャンピオンの方だったなんて……!]
「あー、うん。あ、ウチが此処に居るのは内緒にしといてなー、なんや、びっくりするくらい人が集まってしまうから」
『……それだけ、有名ですからね」
困ったように頬を掻いて行ったジークリンデに、クラナは苦笑しながら言った。

ジークリンデ・エレミアと言うこの少女が魔法戦技界に姿を現したのは、ほんの三年前の話である。

初出場の翌年、彼女は、初めて世界代表戦の覇者となった。
14歳、出場二回目の少女が、突如として、次元世界十代女子の世界を制したのである。その衝撃は、当時少なくとも16を超えなければ制覇不可能とされていた女子魔法戦技界を震撼させ、同時に大いに沸かせた。しかも、真に驚くべきは其処では無い。
彼女の戦績には、黒星が二つある。一度目は初出場のIM都市本戦。二度目は去年のIMの都市本戦だ。これならば、特におかしなことでは無いだろう。だが問題はその内容だ。
ニ度の黒星はいずれも出場棄権による不戦敗である。そして彼女が唯一出場棄権をしなかった一昨年の大会で、彼女は世界代表選での優勝を果たした。つまりこの少女は公式戦において、戦って負けた事は“一度も”ないのである。

公式戦無敗。
去年世界代表選覇者の座に到達しなかった彼女が、未だに最強のチャンピオンと呼ばれるのはこの称号のためだ。文字通りの“負け無し”……其れが、彼女が最強たる所以なのである。

[無敗のチャンピオンの練習風景なんて、誰でも見たいでしょうからねぇ]
「そ、そんな大した人間ちゃうんよ……それに、其れを言うたら君のご主人様の方が凄い……せやろ?クラナ・ディリフス君」
「いえ、俺は……というか、気が付いてらっしゃったんですね」
「うん、君の映像、前に何回か見たことあるんよ。ヴィクターも一緒に。背ぇは大分高くなっとるけど、君の顔あの元気な子まんまや」
可愛い弟でも見るように優しげに微笑んだジークリンデに、クラナは苦笑して応じた。

「お見苦しい物をお見せしまして……」
「そんな事あらへんて!ウチ、君の試合好きなんよ?凄く楽しそうに闘ってて、みててワクワクするから」
「えっと、その……ありがとうございます」
真っ直ぐに褒められたせいか、頬を朱くしながらクラナは頭を下げた。何と言うか、普通に可愛い女性であるためもあるだろう、初対面の女性にこうも真っ直ぐに笑顔を向けられると、むずがゆい気持ちになる。

「それで、今日はたしか……」
「あ、はい。スパーリングをお願いしたくて来ました」
「ん。あ、でも、もしかしたらヴィクターから聞いてるかもしれへんけど……」
「はい。武装無し、格闘技のみの組手だけ、ですよね。聞いてます」
「うん。ごめんなー?ウチ、あんまりちゃんとした試合形式のスパーリングってやったこと無いんよ。せやから……」
やや申し訳なさそうな顔をして言ったジークリンデに、クラナは即座に首を横に振って答えた。

「……いえ、十分です。お願いしている立場ですから、よろしくお願いします」
「……うん!ほんなら、今から一本やろか?」
「…………!」

────

数分後には、二人は河原近くの林の中。少し開けた小さな広間のような場所に立っていた。
浅く生えた若草と柔らかい土が丁度良いクッションになる此処は、ジークリンデの練習場所の一つなのだと言う。自然の中に出来た即席のリングだが、危険な石や木の排除された空間は、使う人間が丁寧に整備した跡が見られた。

[うーん、それにしてもあんなことがあったのにもう練習とは、相棒もエレミアさんも何と言うか、こだわらないタイプですか?]
「アル……」
「うぅ、もう言わんといてぇ」
クラナがやや溜息が地に、ジークが恥ずかしげに頬を赤らめながらそう言う。が、彼女は一度頬をパンパンとたたくと、気を取り直したようにしゃっきりとした目でクラナを見た。

「まぁ、クラナくんが悪い人やないってことはもう充分わかったし、ホント言うと、ウチもはようクラナくんのストライクアーツ、見てみたいんよ」
腕をグルグル回して、真っ直ぐにクラナを見つめるジークリンデに、クラナは一度背筋を伸ばして向き直る。今から自分は、彼女に手ほどきを受ける立場だ。失礼は許されない。

「はい。よろしくお願いします!」
「うん!よろしくな~」
互いに礼を交し、少年と少女が構えを取る。

────

「…………」
「…………」
互いが構えを取った瞬間から、辺りは静謐な空気に包まれていた。林の中に立ちこめる冷たく、それでいてどこかピンと張りつめた空気が、小鳥のさえずりの響く森の中に流れ、何処かで飛び立つ小鳥の落とした青葉が、地面に触れた。
瞬間。

「ッ!」
「ハッ!」
およそ同年代としては信じがたいスピードで踏み込んだクラナの右ストレートを、同じく常人離れした反応速度と反射神経でジークリンデは受け止めて弾き落とす。その流れに逆らう事無く敢えて右腕は落とされる。代わりとばかりに右足で踏み込み、其処を軸として左腕のフック。これをジークリンデの左腕が受け止めるや否や、今度は彼女が右足を軸とした左足上段の蹴りを飛ばしてくる。

「てぇっ!」
「フッ!」
これを膝を曲げて回避、頭の上をかすめる風にややひやっとしつつ、右足を軸にして左からの下段蹴りで相手の軸足を狙う。次の瞬間。

「!?」
「りゃぁっ!」
ジークリンデの右足が浮いた。頭上を通り過ぎた左足の勢いを利用して空中に浮き、右足からの後ろ回し蹴りに移行したのだ。魔力を使わず純粋な身体能力でこれをするあたり大したものである。対して既にしゃがんだ体勢のクラナはこの下段蹴りをかわす事は出来ない。ほぼ反射的に、クラナは交差させた腕を自身の前にかざしていた。

「くっ!(重、い……!)」
接地していない為、文字通り地に足のつかない浮いた攻撃のはずなのに、その蹴りの一撃が驚くほどに重い。下手に力の流れに逆らうとダメージが増すと判断したクラナは、あえて曲がって居た膝に全神経を集中して後方に飛びその勢いのまま吹き飛ばされた。
それでも判断が遅れたことに違いは無く、腕に強い衝撃が駆け抜けた上に体勢が崩れ、空中でのバック宙によって何とか体勢を立て直す。
その一瞬をジークリンデが見逃すはずはないと分かっていたが、こうしなければ地面に足を着いた途端に更に体勢を崩してそのままダウンまで押し込まれてしまう。

「(にがさへんっ……!)」
吹き飛んだクラナを、着地から即座に前傾姿勢で突っ込んできたジークリンデが追う。低空タックルはジークリンデの得意な突進系戦術の一つだ。と言ってもこの少女、実は格闘技と言う枠に絞れば苦手な戦術の方が珍しいくらいなのだが……

「ッ」
着地の為に大きく膝を曲げて地面に降りたクラナからも当然其れは見えている。下段の攻撃と言うのが原則対処の難しい物が多いため、一瞬だけクラナは対処に悩んだ。あの高さの突進であれば、曲げた膝を戻す力を利用して相手の突進にタイミングを合わせ、ひざ蹴りを叩き込むと言うのがセオリーだ。相手が受けるにも其れが一番やりやすいだろう。だが……

「(ジークリンデさんがそれをただガードしてくれるか?)」
いや、とクラナは思い直す。余りにも基本的すぎるからだ。教科書通りの戦術と言うのは、誰にとっても効果があると納得できる故に最もポピュラーなのであり、その戦術は当然正しく、最も効果の高い物である事が多い。だが同時に、当然の如く相手にとっては最も読みやすい戦術だ。これほど使い古された捌き方に対する返しを、彼女が持ち合わせていないと考えるのはあまりにも安易すぎる。

「(それならっ……!)」
数瞬後の刹那、クラナは跳んだ。

「なっ!?」
既にクラナとの距離が4mと迫り、あと一歩と言う所まで迫った時、ジークリンデは思わず声を上げた。クラナの姿が、突然上方に消えたからだ。青い髪のその少年は、地上から3mも無いような極低空で超高速の空中前転をしたかと思うと、突進してきたジークの後頭部に向けて、踵落としを繰り出してきたのである。

前傾姿勢での突進にとって上方からの攻撃は咄嗟の対処が非常に難しい。ガードするには十分に腕が上がり切らず、かつ、静動を掛けるには既に間に合わない。

「ならっ!」
「せぁッ!」
咄嗟の判断に従って、ジークリンデは右腕を上げた。クラナの踵落としは確かに、此方はガードしにくく、かつその間合いに飛び込むことを回避するのも難しい。ならば突進の勢いを潰さない攻撃で、相手の攻撃を迎撃する。
踏み込んだ右足を軸に身体を跳ね上げ、右腕を振りあげる。衝突した右の掌底と右足が一瞬だけ拮抗し、しかし即座にクラナの身体がジークリンデの後ろへ向けて吹き飛んだ。半ば彼女の技を足場にする形で前方へと再び跳んだ彼とジークリンデの視線が、一瞬だけ交錯し、殆ど同時に背中合わせに着地する。

「「ッ!!」」
お互いに、此処で背中を取られる事だけは避けなければならない。即座に考えることが一致したのは、彼等が格闘選手であるゆえだろうか?
何れにせよ二人は殆ど同時に、自らの右腕を相手に向けて振り向きざまに繰り出し。激突させた。

「(凄い……)」
その拳の一撃だけでも分かる。目の前の人物が、どれだけの力と技を持つ格闘家であるのか。映像でみるのとも、話で聞くのとも圧倒的に違う。自らの肌が、拳が情報を伝えてくれる。
目の前にいる人物の、圧倒的な強者としての気配……

「流石、です」
「ううん、君こそ……!」
互いにうち止められた拳を引いて、距離を取る。クラナが顔を上げると、ジークリンデの顔にはこれまで以上に屈託なく、ただただ裏表の無い楽しそうな笑顔が浮かんでいた。

「もっともっと打ち合お!ウチ、今凄く楽しい!キミのこと、もっと知りたい!」
その言葉に思わず、クラナの口角が上がる。

「はい!よろしく……お願いします!」
土を蹴る音が響く。
林の中の小さな広場で、一組の男女が、拳を撃ち合わせていた。


────


「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……ふぅ……」
其れから、何時間が過ぎただろうか……?本人達ですら分からない程長い時間を、彼等はただただお互いの力と技を尽くして、拳を打ちつけ合う事だけに費やした。時間の流れなど、とうの昔に意識の中から消え去って居た。なぜなら、ただただ楽しかったからだ。それ程に、彼等はお互いの力を認め合い、同時に互いを気に入ったのだった。
最早、相性と言うほかあるまい。共に打ち合い練習しているだけで何処までも楽しくなれる、そんな相手がいることが、幸せで仕方が無かったのだ。
ちなみにだが、バトルジャンキーとか言ってはいけない。義母親譲りだとかいうのもなしである。まぁ若干高町家症候群に近い気もするが、あくまで友情である。
……まぁ、なのはにしてもあれでいて最終的には友情にたどり着いてしまったのだが。

「あー、もーむりや~、身体がうごかへんよ~」
「俺も……はぁ……ちょっとキツイ……」
息を切らしながら、二人は草地の上、大の字になって寝転がっていた。それは少しでも彼らを知るものからすれば異常な光景だっただろう。「あの二人があそこまで体力を消耗するなんて、何をしたらああなるんだ」とでも思うかもしれない。実際、基礎体力だけならば下手な武装管理局員を上回るポテンシャルを持つ二人である。そう思う人間がいたとしても、その疑問は至極まっとうだ。
まぁ、と言ってもしたことと言えば二人でスパーリングをしていただけなのだが。

「(久しぶりに、ちょっと飛ばしすぎた……)」
少々自分の限界値を考えずに無理しすぎたようだ。先日のヴィヴィオのことを全く言えない体たらくぶりである。

「(俺って未熟者だなぁ……)」
わかりきった事実をいまさらのように自覚しなおして、クラナは苦笑しながら空を見た。隣ではジークリンデが同じように倒れている。
なんというか……不思議な物だと思う。今日初めて会ったばかりだと言うのに、彼女とはずっと前からこんな風に練習をしていたような気がした。これほどの気の合いかたを、誰かとの間に感じたのはいつ以来だろうか……?
クラナ自身、夢中になり過ぎると良く時間を忘れてしまう事があるのだが、それにしても、これほど初対面の相手との一体感を感じた事は久しく無かった。お陰で既に空は茜色に染まり、ちらちらと星すら見え初めて…………あれ?

「……アル、今何時?」
[はい相棒。現在18時34分です]
「ちょっ!?」
「ふぇ!?ど、どないしたん?」
ガバッと勢いよく跳ね起きてクラナはポケットにつっこんでいたアルを持って時計を呼びだす。確かに其処には、18:34の文字が表示されていた。と思ったら、35分になった。

「あ、アル!此処に来るのに使ったバスの折り返しの時刻表!」
[はい相棒♪]
何故かやや楽しげに言いつつ、アルはこの場所に来るのに使ったバスの時刻表を表示する。其処に書かれていた最終バスの時刻は、物の見事に“16:35”と表示されていた。既にニ時間も前だ。

「あぁ……」
「く、クラナくん大丈夫?」
やってしまったと頭を押さえる。
今日は一応18時半には帰宅するとなのはには言ってあった。既にこれを五分過ぎており、このままだと確実になのはから直接通信で連絡が来る。
自慢ではないが、クラナはなのはと通信で喋るのがあまり得意ではないのである。何故かと言えば、家と違って、逃げ場がないからだ。

「あー……」
[あ、問題はありません相棒。既になのはさんへはメールを送信しておきました]
「え……(本当か!?)」
なんと気の効くデバイスだろうか!此奴が相棒で本当に良かった!とクラナは驚きつつも笑顔でアルを見る。アルは楽しげに点滅しながら即座に答える。

[はい!“練習先で仲良くなった方と今日はキャンプをするので、帰りは明日になります”と!]
「……は?(なにそれ!?)」
なんと余計な事をするデバイスだろうか!此奴が相棒だと本当に碌な事が無い!と、クラナは驚きながらアルを見る。アルはやっぱり楽しげ(と言うか面白がっているのだとクラナには分かった)に点滅しながら、即座に答えた。

[何と言うか、お二人とも凄く楽しそうでしたし、この時間帯から山道を徒歩で帰るのも危険かと判断しまして……]
「な……(お前馬鹿!そりゃそうかもしれないけど、何の断りも無くエレミアさんにお世話になるって……しかも其れをなのはさんに言った!?何考えてるんだよ!?相手は初対面の、其れも女の人なんだぞ!?)」
「あ、あの~……」
言語で絶句しつつ、念話で怒鳴り立てるクラナの後ろで、不意に声がした。勿論この場で自分とアル以外の声の発生源など一人しかいない。ジークリンデだ。

「す、すみません!此奴勝手に……!直ぐに訂正を……」
「あ、うん。その、そう言う事やったら、えぇよ?今日は泊まって行ったらええんや無いかな?」
「へっ……!?」
予想外の言葉に、クラナは混乱した様子で言葉を詰まらせる。まさかこの場でOKが出ると思っていなかったのだ。

「い、いや、でも、ご迷惑……」
「そんな事あらへんよ?ご飯、量には余裕あるし、一人で食べるよりおいしいやろし、あ、ちょっと作るの手伝ってくれるかな?そしたら寧ろ助かるくらいなんよ~」
笑いながら言うジークリンデにますます困惑しながら、クラナは必死に他の否定材料を探す。

「い、いやでも寝床とっちゃうんじゃ……」
「大丈夫。ウチ一人で寝るにはちょっと広過ぎな位スペースに余裕あるテントやし、毛布もあるんよ?」
「い、いやいやいや!だって、俺男ですしモラルとか……」
「あー……それは、そやね」
今更気が付いた。と言うように、やや残念そうな顔で言ったジークリンデにほっと息を着いたクラナに、ややからかうような調子でアルが言った。

[相棒~、もしかしてまた変な事をするおつもりだったのですか?]
「しないよ!?何言ってんだよ!?」
[でしたら、別段問題無いのでは?]
「あ、せやね!」
「!?」
なんとあっさり納得してくれたジークリンデに、クラナは戸惑いながら彼女を見る。と、何故か何処となく嬉しそうに笑顔を浮かべているジークリンデが居た。

「で、でも……」
「あ、いや、クラナくんがお家に帰りたかったら其れでええんよ。なんなら、ヴィクターにお願いして迎えに来てもらってもえぇから。でも、ウチはもうちょっとクラナくんとお話したいなー、おもて」
あははは、と笑いながら言うジークリンデに、クラナは少しだけ複雑な気持ちになった。
正直な所、クラナ自身ジークリンデから離れがたいと言う気持ちが無い訳ではない。これだけ気の合った人とこのまま別れてしまうのは残念だし、本当のことを言えばもっと色々な話を聞きたいとも思う。
だが今日初めてであった男女が同じテントで寝ると言うのは矢張り問題がある気がする。かと言って外に寝るのは辛い物がある……が……

「(何て言うか……)」
「?」
もう一度、ジークリンデを見る。緊張も羞恥も特に考えていなさそうなその顔を見るに、本当に対して考えなく言っているのだろう。そう思うと……

「……はぁ」
自分だけ真面目に考えているのが、急にばかばかしく思えてしまった。

「分かりました……その、一晩だけ、お世話になります」
「ん!よろしく!」
ぺこりと頭を下げたクラナに、ジークリンデは嬉しそうに頷いた。

────

「ほい!出来たで!」
「……こっちも出来ました」
ややテンション高めに言ったジークリンデに、クラナが返す。先程味噌汁をのんだ焚火の前で、クラナは魚を焼いていた。

「……それにしても」
「んー?」
小さく呟いたクラナに首をコテンと傾げてジークリンデが返す。そんな彼女に苦笑しながら、ぱちぱちと音を立てる焚火の脇で焼ける魚を見ながらクラナは呟いた。

「……いえ、魚用のトラップに……ちょっと驚きました」
「あー、うん。あれ実は、ちゃんと出来るのにひと月ぐらいかかったんよ~」
[おー、アウトドアなれしてらっしゃいますねエレミアさん!]
「そんなことあれへんて~」
ジークリンデの寝泊まりしているテントわきの川には、彼女御手製の魚取り用の罠が仕掛けられていて、夕方だと言うのに焼くための魚まで確保する事が出来た。
これとジークお手製のインスタント精米を使ったおにぎり、クラナの豚汁が今日の夕飯だ。

「そしたらいただく命に感謝して」
「…………」
二人で向かい合って座り、ジークリンデとクラナは手を合わせる。

「「いただきます」」
大事な食事の挨拶だ。

[しかしそうすると、エレミアさんは、長く此方にいらっしゃるんですか?]
「んー、此処に来たのは二週間くらい前やね。前にも何回か来てるから、その時覚えたんよ」
[何回もですか?]
「ん」
アルの問いかけに、ジークリンデはおにぎりをはみながら答えた。

「ウチ、いろんな所をブラブラ歩きながら、練習したり、友達と会うたりしてるんよ」
[おぉー、それは武者修行の旅のような感じですか?]
「んー、そう言われたらそう言う意味合いもあるのかもしれへんけど……」
その答えに口を開く瞬間、ジークリンデの笑顔に一瞬だけ悲しげな光が混じった事にクラナは初見で気が付く事が出来たのは、或いはどこかシンパシーのような物を感じたのかもしれない。

「一番は、ちょっと家に帰り辛い、いうんかな……?」
[あ……申し訳ありません。立ち行った事をお聞きしました]
申し訳なさそうに言ったアルに、ジークリンデはクスリと笑いながら首を横に振って答える。

「ううん。気にせんでえぇよ。ウチが勝手に言ったことや。それにしても……」
「?」
[どうしました?]
不意に、ジークリンデはクラナのバッグでチカチカと点滅するアルを見て不思議そうな顔をする。

「アルは何て言うか、ウチが今まで合ったデバイスのみんなと違うて、とってもにぎやかやね」
[おや、そうですか?]
「うん。話してて退屈せぇへんよ」
[それは光栄です!]
嬉しそうにチカチカと光りながら話すアルにニコリとジークリンデが微笑みかける。その様子を見て仄かに笑いながら、クラナは言った。

「……俺が、上手く話せないので……」
その一言で、ジークは何かを察したようにクラナを見た。少しだけいたわるような視線は、何処か自身の内面を見透かされているような感覚をクラナに与えてはいたが、不思議と其れが不快では無い。

「そっか……アルは、クラナくんのくちなんや」
[そうあれたら嬉しいです!]
「……まぁ、ちょっと煩いですけど」
[ちょ、相棒!?]
やや溜息がちに言ったクラナの一言に、アルはショックを受けたような声で返す。その様子に、ジークはクスクスと笑った。

「うん、君等はホント、えぇコンビや」
[そうですとも!相棒の生涯の相棒は私と決まって居ますからね!]
「それ決めるのアルじゃないんだけど……」
小さく笑いながらそんな事を言うクラナはしかし、彼自身アクセルキャリバーを当分は愛機として使い続けるだろうとは思っていた。元々、他と違って装備としても本当の意味で彼以外には使えないデバイスだし、何より今は、アルが居ること自体が当たり前過ぎて、他のデバイスを近くに置くなど想像もつかない。

「……何時か……」
「?」
不意に小さく、ジークリンデが口を開く。何処か期待を込めたような声で、彼女は言った。

「……何時か公式戦で、君等と試合出来たらええなぁ」
「…………」
ふと口から出たようなその言葉を実現するのは、そう簡単ではないだろう。クラナは男子、ジークリンデは女子だ。少なくともその性別の壁がある以上、IMで其れが実現する事は無いと思う。
だが、ジークリンデの実力は男子と闘っても一切そん色ないレベルの強さだし、男女混成の大会もDSAA主催大会の中には有る。決して不可能と言う訳でも無い筈だ。
だから、クラナはしっかりと頷いて言った。

「……はい、俺もそう思います。エレミアさん」
「……ジークや」
「え?」
不意に穏やかな声で言ったジークリンデは再び優しい微笑みを浮かべて、クラナを見ている。その笑顔に思わず鼓動が高鳴ったが、彼女には気が付かれなかったようだった。

「名前で呼んでくれへんかな?クラナくん。年上言うても一歳位やし、ウチが名前で呼ばせてもらってる手前、名字で呼ばれてるとくすぐったいんよ。それに……出来たら君には、名前で呼んで欲しい……」
「……え」
ごく当たり前のようにそんな事を言ったジークに、クラナは一瞬カチンと固まる。何故ならその言い回しだとどうにも含みがあるような……
と、ジークリンデ自身もその事に気が付いたらしく、その顔が下からまるでトマトのように真っ赤に染まって行く。そして……

「あ、ち、違うんよ!?これはその、単に名前で気軽に呼び合えるような友達になれたらええなー、って意味で、その、ホントにそんな変な意味やないから!!」
「え、えぇあはい!いえ、大丈夫です!分かってますはい!平気です!問題無いです!大丈夫です!!」
何故か同時に真っ赤になり、同時に俯いて同時に二人は何も言えなくなる。初恋同士のカップルか己らはと言いたくなるような光景だが、まぁ正直なところこの二人、どちらも他人と接触するのがあまり得意では無い人種である。ある意味ではこれも仕方ないと言えよう。

「……そ、それじゃあ……その……」
「あ……えと……」
クラナの方を伺うように、ジークが上目使いで彼を見る。その反則的な破壊力に矢で射ぬかれたように固まって朱くなったクラナは数秒の間迷うような様子を見せた後、すぐに何かを決意したように言った。

「じ……ジーク、さん?」
「……うん!」
まだ少し頬が紅潮してはいた物の、ジークは元気よく頷いた。
 
 

 
後書き
はい、いかがだったでしょうか?

と言う訳で原作におけるIM出場者最強キャラ。ジークリンデ・エレミアこと、ジークの登場です。

原作では人懐っこいのに人見知り、お姉さん位置なのにお茶目で何処か抜けている子供っぽさがある、小動物染みた可愛らしいキャラのジークリンデ。
その実力と優しさのギャップが、彼女の魅力の大きなところなのだなぁとつくづく感じています。

さて、今回読んだ方は、或いはクラナの様子に「誰だ此奴!?」なんて思うかもしれませんねwそれ程今回のクラナは沢山昔の彼に近付いていたと思います。

設定上、彼女はどう言う訳かクラナと非常に気が会うキャラとして描かれています。
或いは原作のジークの境遇と、クラナの境遇、考え方やあり方を比較すると、その理由が見えてくるかもしれません。

ただいきなりお泊りスル所になった展開は、やや強引だったなと反省する所です。すみませんやりたかったんです(笑)
あぁ!石は投げないで!

では予告です。



アル「アルです!ふわぁ!ラ波感ですよウォーロック!」

ウォーロック「らはかん、ですか?」

ア「“ラブコメの”“波動を”“感じる”だそうです、巷で流行っている言い回しだと聞きました!」

ウ「はぁ、ジークリンデさんとクラナさんはお付き合いをなさるんですか?」

ア「いえ。唯のお友達です」

ウ「……アルの言う事は時々分かりません……」

ア「私も良く分かって無いですけどね!さて、気持ちよく練習して気持ちよく覗けましたし!私は満足です!」

ウ「覗きは“気持ちよく”する物では有りません……人としての品位がですね……」

ア「わぁ!ウォーロックのお説教は嫌です!では次回!《破壊の宿業》です!な、何でしょうこのものものしいタイトル……」

ウ「其れに付いて議論する前にお話があります。是非お読みください」

 
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