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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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ワールド・カタストロフ~クロスクエスト~
  Round《9》~ワールド・カタストロフ~

 神の化身の気まぐれではじまったデュエル大会。

 邪悪をつかさどる《捕食者》の参入により、多くの勇士からその剣技が奪い取られた悪夢の舞台は、いよいよ最後の一戦へと突入する。

 ここまで勝ち上がってきたプレイヤーは二人。

 一人目は《捕食者》……《英雄》ジン。奪い取った無数のスキルと、その相互コンボという、一つの世界では決してなしえない動きで対戦者を蹂躙する、圧倒的なステータスをもつ存在。

 二人目は《神》……《光と闇の皇子》タツ。雷神系列天空神型主神の末席は、その圧倒的な神の力を以てして、ここまで最速で勝ち上がってきた。一瞬で勝負を終わらせる切り札をもつ存在。

 この二人が、今。

 舞台となるコロシアムで、対峙した。

 ジンの装いは今までとは少し異なっていた。纏うのは銀と青と白を基調としたハーフコートから、黒銀色の鎧……《災禍の鎧》へ。腕には《破皇拳》のスキルで造られた、SAO最硬の武具である《神聖剣》専用装備《解放者(リベレイター)》を素体とする純白のガントレット。

 握っているのは二本の剣……《神速剣》で唯一奪い取れたmod、《ソードユニゾン》と、《英雄剣》《勇者剣》の武器改造によって誕生した《ソード・オブ・レジェンドフリーザー》と《メモリーブレイク・エボリューション》。

 彼の瞳は今、右が漆黒に、左が真紅に光り輝いている。スキル《SEED》のジン専用形態、《Mode―ExtremeDarkness》。そして、《千里眼》と共に奪い取ったレジェンドスキル、《月光神龍》派生アビリティ――――《月光神化》。かさね掛けされている《千里眼》、《紅緋眼》、そして《天狗眼》により、相手のステータスは筒抜けである。

 透明である故見えないが、今彼の周囲には五百を超える《翔翼神》のビットたちが出現していた。特にシールドビットには絶対防御を生み出すスキル、《極光盾》が付与されており、不可視の防壁として立ちはだかる。

 視認はできないが、スキル《完全速攻治癒》によって、彼のHPを削ることはほぼ不可能。万一、一撃でそのHPを削り取っても、スキル《魂無き者》の蘇生効果がそれを阻む。

 口元に浮かんでいるのは邪悪な笑み。これから貴様の全てを奪い取るぞ、という、宣言。
 
 
 対するタツは、その両手に巨大な武器をいくつも連結させていた。大剣、片手剣、刀、弓、槍、盾、斧、槌、杖、爪、小手、投擲具、鞭や扇、銃と言ったものまで存在している。そしてその端から伸びる光と闇の帯が、触手の如く周囲を漂う。

 黒い髪から除く瞳は、苛立たしげに対戦相手をにらんでいる。背中からは帯電した六枚の翼が伸び、彼が天空神であることの象徴となっていた。

 彼は知っていた。この男(ジン)が、自らの友のスキルと武器を奪い取ったことを。その事象がこの世界に発生した時点で、知覚していた。

「よぉ。お前、強いんだろうな」

 開口一番、ジンが放ったのはその言葉だった。ニタニタと嗤いながら、タツを見る。

 対するタツは、まるで汚物を見た様に顔を歪め…事実、彼は半ばそう思っていた…吐き捨てるように答える。

「当然。一瞬で片付けさせてもらいます」
「ほぉう、そいつは面白いな。できるもんならやってみろよ」
「ええ、もちろん」
「くくく、面白い。お前のスキル、美味そうだ」
「渡しません。むしろ俺が貴方のスキルを奪ってあげましょう」
「面白い」

 くくく、と、くぐもった笑い声と共に、ジンが武器を構える。カウントがはじまっていた。

 そして今。

 ―― 5 ――

 最後の戦いは。

 ―― 4 ――

 命運を……

 ―― 3 ――

 世界の命運を掛けた戦いは。

 ―― 2 ――

 その火ぶたを。

 ―― 1 ――

 厳かに切って―――――


 【デュエル!!】


 落とした。

 閃光が弾ける。今までのような青天のエフェクトではなく、暗雲立ち込める嵐天に。

 同時に、タツが勝負を決める攻勢に出た。

 スキル、《真実の言霊》発動。

「――――『この勝負、俺のか――――」
(あめ)ぇ!」

 しかしその神の言葉は、見えない集中砲火によって途切れる。発動したら即座に効力を及ぼすはずの《真実の言霊》は、何かによって無効化された。

「……!?」
「くくくッ! 《スキルキャンセル》だよ! ……おら、足元に注意しろ!」

 いつの間にかタツの足元に、漆黒の闇が広がっている。《全知全能》が知覚する。これこそ、ジンの技能――――《スキル強奪》の光であると。

「――――《全知全……」
「無駄だよッ!」

 タツは《全知全能》の権能でもって、ジンのスキル強奪を奪い取ろうとする。しかし……何たることか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「これは……!?」
「おら、いただくぜ」

 バクン。

 タツの足首から先が、闇に飲み込まれる。奪い取られていくステータス。即座にタツの権能でそれらが再生されるモノの、すぐに吸収されてしまう。

「ぐぅっ……」
「ほぉ、こりゃいいな。自動レベル上げだ……しかも1000ずつ。とんでもない高効率だな……おお、見ろ、もうレベルが90000だぞ!! こりゃぁ遅くないうちにLv100000達成できるかもな!!」

 興奮し切った様子で、ジンが叫ぶ。タツはそんな彼に向けて、権能で再現したスキルを行使――――

「……『お前は、死……」
「だから無駄だっつってんだろうが。『俺のHPはその技能で減らないし、俺はその技能で負けない』」

 しかし、全く同じ技能で回避される。

 スキル《真実の言霊》が、複製(コピー)されたのだ(より正確には強奪されたのだろうが、タツのスキルは消えても復活する為、複製という事になる)。

「くっ……《大嘘の……」

 次に発動を試したのは、スキル《大嘘の言葉》。全ての事象をなかったことに変える、最強の無効化スキル。このデュエル大会自体を亡き者にしようとして――――


警告します(ワーニング)。貴様は今、大会運営に関して重大な損失を与えようとしています。よって、直ちにその事象を終了させなければ、全権限をはく奪したうえで無限流転監獄へと収容、この『セカイ』より追放いたします。繰り返します――――』


 脳裏に響く、冷徹な少女の声…大会のアナウンスを担当していた少女の声だ…によって、それを阻まれた。

 無限流転監獄。聞いたことのある…と言うより、《全知全能》で閲覧したことのある名前ではある。

 タツは所属上、ギリシャ系列の《神》である。そのギリシャには、神すらも投獄する監獄、《タルタロス》が存在する。

 無限流転監獄の別の名前は、《インフィニット・ネオ・タルタロス》――――その名から分かる通り、《タルタロス》の権能をもとに作り上げられた監獄なのだ。

 内部で渦巻いている、唯一許容された事象は【再生】【変革】【消滅】の3つのみ。収容された存在は、延々とそこで生まれては死んでいくだけの苦しみを味わい続ける。

 たしか死と再生に愉悦を感じる変態が自ら飛び込んで、2度と帰ってくることはなかったとかなんだとかいう馬鹿な話もあった気がするが、そんな笑い話だけで済ませられる場所ではなかったはずだ。

 つまり、大会運営は破滅させられない。

 何という手の込んだことか。アスリウの放った「そんなことをすれば、君は即座にこの『セカイ』から追放されるだろう」という言葉の意味のはこういうことか。

 この状況は、嵌め技に持ち込まれた状態と言える。タツは《全知全能》で知っている。この男を攻撃で倒すことができないという事を。彼に勝つ方法は、何らかのスキルや権能によるエクストラウィンだけである。

 そしてそれを可能とする《真実の言霊》は、ジン自身の手によって封じられた。

 万策尽きている。

 だがそれを許容するわけにはいかない。

 この身は――――《全知全能》なのだ。あらゆる事実をこの手中に収めていなくてはならないのだ!

「……何故。何故、貴方のその能力が奪えない……!?」

 思わず口をついて出たのは、在るはずのない未知への回答。

 そしてその回答は――――

「……お前にも、俺にも……奪えねぇ物だよ。
 わかんねぇのか? 《絆》だよ。俺は複数の世界で散々女どもを誘拐したが、アイツらは俺に傅く奴隷となった今でも、元の男を慕ってやがる。俺はどうしてもそのつながりを奪えなかった……お前もだ。どれだけ封じ込められても、どれだけ奪えても、関係性を、歴史を奪えない。俺は歴史を捻じ曲げてスキルを奪い取れるが、それだけだ。それでも奪えねぇスキルってのがいくつかある。
 俺の《情報捕食》はな。俺とカーディナルの二人がいるから、何でも奪える無敵の力なんだよ。一人だけでどんなスキルでも奪えると思いあがっていた、SAO世界に転生してきたばっかりの頃の俺と同じ今のお前に、俺が負けるわけねぇだろうが」


 悪役に、説教をされた。

 何とも言えないその事象に、面食らうタツ。

「もう終わりにしてやらぁ。死ね――――《ヒーロー・ゴッデボリューション》」

 繰り出されたのは、タツが友と言える数少ない少年の剣技。必殺の剣が、タツへと迫り――――


 タツとジンの間に出現した『何か』にぶち当たり、反射した。

「ぐぉっ!?」

 与えるはずだったダメージをもろに喰らい、面食らうジン。《スキルキャンセル》を撃ったのだろう。ソードスキルが終了する。

「何だ……!? この俺に、ダメージを与えるだと……!?」
「そう言うスキルだからな。たとえ神クラスの一撃でも、跳ね返してみせる」

 タツとジンの間に割って入った乱入者。黒い髪と、緑色のコート。2つの巨大な盾を構えたその青年は。

「……アクト!?」

 第1試合で、タツによって何も起こさずに倒された、《双盾》の使い手……《絶対防御》アクトだった。

「いやぁ、お疲れお疲れ。アクト君が無傷で残っててよかった。もう1秒遅かったらタツ君負けてたしねー」

 気の抜けた声でそう言いながら、影のように揺らめく空間――――そこから、くせ毛の青年……アスリウが姿を現した。

「偶然って怖いね。2つ重なれば必然っていうけど……タツ君が時間稼ぎをしないためにアクト君を一瞬で倒したから、コロシアムに残留していた彼のデータのHPは丸ごと残っていた。ほかのプレイヤーならHP回復に手間取っただろう。けどアクト君のHPバーはデータ損傷があんまりにも綺麗だったもんだから復元が速攻で終わってね。投入に成功したんだ」

 ゆっくりとジンに近づきながら、タツに語りかけるアスリウ。

「ありがとう、アクト君」
「構わない」

 対して興味もなさそうに、アクトは答える。アスリウに感謝されてもタツなら嬉しくないし、そもそも感情が無いアクトには関係が無いのだろう。

「テメェ……」
「やぁ、《捕食者》。ずいぶんと暴れてくれたみたいだねぇ……全く、『外側』の神々になんと弁明すればいいのか。とにかく、キミを此処でひとたび滅することで、その鬱憤を晴らそうじゃぁないか」

 そして。

 アスリウは、その右手を突き出した。人差し指、中指、そして親指を重ねるという、俗に言う《ユビパッチン》の構えで。

 その手は――――ずぶり、と、ジンの身体に沈み込んだ。否、アスリウの身体が、ジンの身体を透過しているのだ。そもそも実体が無いらしい。

「なっ……」
「次に僕か、誰かに『使われる』時まで、しばらく寝てると良いよ。この世界には、もう立ち入るな……消えろ、【終ワラヌ世界ノ終演劇(エンドレスワールド・エピローグ)】」

 アスリウの指が、はじかれる。

 バタン。

 どこかで、扉が閉まるような音がした。

 同時に――――

「なっ、て、テメェ……何をしやがった!!」
「キミの『物語(セカイ)』を『閉じさせて』もらった。もう無駄だ。キミという物語は終幕し、再び開かれるまで2度と起き上がれない。もっとも、僕は手を抜いているのでね。すぐに起きれるだろうけど……本気なら、君は《設定》ごと消滅していたわけだからね」

 くふふ、と笑って、アスリウは引き抜いた手を、まるでバイバイを言うかのようにふる。それに呼応するかのごとく、ジンの身体が透明になり始めた。

「こ、この野郎! おい、やめろ! 俺は……俺は……ッ!!」
「安心したまえ。キミが奪ったスキルはもう皆に返してあるよ。武器もね……もっとも、キミが持っているものの複製になるのだが……というか、キミのが『複製扱い』になるんだけどね」
「ゆるさねぇぞ……ぜってーぶっ殺す!!」
「残念だね。僕には勝てないよ……キミ、その感じからすると《鑑賞者》は『十番』じゃないね。奴と『一番』以外なら、残念だけど僕に干渉できない。たとえ《鑑賞者》が五番であっても、僕には勝てないからね……」

 意味不明な会話を繰り返して、喚き散らしながら消滅していくジン。

 タツの身体にも、スキルが戻ってきた。

「かくして《捕食者》ジンは失格となり、敗北した《月の剣士》、《純白の英雄》、《蒼藍の剣閃》、《光と闇の皇子》は復権。勝率換算で優勝は《光と闇の皇子》っと……」
「……」
「お疲れ。キミはきちんと時間稼ぎをしてくれたよ、タツ君。報酬だ。後で疑似神格でも送っとこう……さぁて、帰るかな。今日はルーク君とましろんが遊びにくるからねー。ましろんのアップデートしなきゃ」

 そして、現れた時と同じように、影のように消え去るアスリウ。

 終始、理解不能な大会であった。嵐のように始まり、嵐のように終わる。あっけなく、意味不明で、何の面白みも無い――――

 だが。

「……勝った、みたいですね」

 タツが勝利したことに、代わりはない様だった。

「一応、おめでとうと言っておこうか。全く祝福する気が起きないが」
「ありがとうございます。もともとあなたはそう言う感情を持っていないんです。無理強いしませんよ」

 祝福まがいのことをしてくるアクトに対して、そう、簡潔に答えて。


【Last―Battle:Winner is Tatsu!! congratulation!!!】


 ここに、全ての戦いは、終結した。

 全ての世界が、まじりあう。垣根を超えて、ぶつかり合う。

 そんな、《世界境界の崩壊(ワールド・カタストロフ)》が。 
 

 
後書き
 会場アナウンスしてたのは”セラフドールズ”のミカエルです。タツさんに『貴様』とか、さすが容赦ないさすが。
刹「もう最初の謎コメントに毎回無言の突込みを入れるのも疲れました」

 というワケで、よく分からんうちにトーナメント編終了!! 一応優勝はタツ君です!!
刹「一応ってなんですか一応って!」
 本当はジン君とリン君とシャオン君とタツ君でバトルロイルしようかと思ったけど枠と時間とネタがなくてやめた。乱戦とか難しすぎる。
 
 ネガティブじゃないと言えば、ジンも悪い奴ではないんです。こいつのデザインコンセプトは、一か月前に「敵の専用技能を奪い取れる超強い敵」っていうのを一時創作徘徊してた最中にいくつか見かけたAskaが、「ユニークスキル奪える規格外Lvのキャラなんてどーよ」と思って開発した、「最強オリ主その者」です。基本は主人公なので、根は良い奴……何ですがねぇ。性格と……やってることが……悪役すぎるんだよぉ!!

 今回ジンにスキル捕食された四名様(正確にはその作者三名様)にはあとでお詫びの品(と題した謎設定)を(勝手に)送り(付け)ます。←自己満足
刹「注釈多すぎです」

 章名のワールド・カタストロフですが、決してネガティブな意味ではなかったと分かっていただけたでしょうか? 実は本編で語られた意味以外にも隠された意味はあって、ジンがほかの作者様のスキルたちを捕食して、コンボ使用するじゃないですか。あれもこれの比喩だったりします。《ソードユニゾン》と《英雄剣》でチート武器融合とか、《千里眼》《紅緋眼》《天狗眼》コンボで何でも見通せるとか。
 
 さて、次回はいよいよ最後のコラボ、ガチ刹那たんと、一人の勇者がぶつかり合う『ワールド・プレディート』です。当選した作者様、出番ですよ! 
刹「うちの馬鹿作者の勝手で落選してしまった皆様も、どうか御閲覧下さい。
  それでは、次回もお楽しみに!」

 へんな終わり方してすみませんでしたぁぁぁっ!! 
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