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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life11 聖書の子らの新たなる道 -赤VS白- -不敗VS逆転劇-

 
前書き
 途中で、バーサーカーのセリフに士郎のセリフが被せてある箇所が有りますが、態となのでお気になさらず。

 途中で、士郎とサーゼクスの会話の語尾に「!」が付いているのはお互いに大声な時です。 

 
 一発でも当たれば大ダメージは確実の魔力弾が、白龍皇が展開している魔法陣からマシンガンの様に幻想殺しに向けて放たれていた。

 「ごぉっ!」
 『一発一発の威力は見事だが、精度は低いし技も荒い。才能の上に、胡坐でもかいていたのかね?』

 しかし、それも懐に回り込まれて鳩尾に気を練り込んだボディブローを喰らい、あっさり対処される。

 「ハァ――――ハハ!」
 『何が可笑しい?』

 普通なら、悶絶するほどの一撃ではあったが、苦悶の表情を浮かべつつも笑いながら立ち上がるヴァ―リ。

 「何、が可笑し、いって?そりゃぁ、おかしいさ。実力差が有ると知っていたが、ここまで圧倒的だったなんてね。正直俺を楽しませてくれる相手なんて、異形達の中でもトップレベル位だと思っていたからさ、アンタと言い渦の団のある派閥(奴ら)と言い、人間も中々に侮れないなと、思ってね!」

 言い切ると同時に不意を突く様、幻想殺しに向けて殴り掛かるヴァ―リ。

 「!?いな、ぐっ!?」
 『左様か』

 一瞬にしてヴァ―リの前から姿を消したかと思えば、真横に姿を現し又もやボディブロー。
 その時、先程から気にしていたあちらの状況に急変が走ったようで、焦る士郎。
 今まさに、残存している巨大ゴーレムの掌がゼノヴィアを、押し潰そうとしているのだから。
 此方側の誰もが、間に合わない距離に居た。たった1人である、士郎を除いて。

 (ギリギリか!?)

 悶絶している最中のヴァ―リに見向きもせずに、ある歩法技術で助けに行く事を瞬時に決める士郎。

 士郎がまだ『衛宮士郎』だった頃、『万華鏡』の修業の元である平行世界とも言うべき異世界にて、『魔』を知っている世界の住人達の中の達人であればだれもが使える移動術がある。
 『瞬動』または『クイック・ムーブ』とも言う技術だ。
 長所としては士郎が治めている移動術の中で一番迅く、短所としては目的地点に止まるまで方向転換が不能と言う処だろう。
 理論としては、足場に魔力または気を集中させて爆発的な移動速度を生み出す歩法だ。
 本当は瞬動術と縮地法を組み合わせた『縮地』も使えるのだが、士郎にとっては速度のみを追求するのなら『瞬動』だけの方が遥かに速いのだ。

 「ッ!」

 決めたと同時に足元に素早く気を集中させて、()ぶ。

 元いた地点には音速でも超えたのか、空気の広がりに地面には熱が残っている。
 今まさにゴーレムの掌の中心がゼノヴィアに当たる瞬間、滑り込むように掴みながら押し出していった。

 「ゼノヴィア・・・さん」
 「ゼノヴィア先輩・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」

 リアス眷族のうち3人は、沈痛な面持ちになっている。3人の動体視力では、先の光景が見えなかったからだ。

 しかしながら当の本人たちは、着地地点にて砂埃が舞っていた。
 そこで、あるモノが落ちて来る。

 「・・・・・・?」
 「あれは・・・・・・」
 「幻想殺しの仮面に、赤い切れ端?」

 そう、ゼノヴィアを助けた際に直撃はしていないが、仮面に接触して抜ける際に外れると共に被っていたフード部分も千切れてしまったのだ。
 砂埃が薄まり落ち着いていくと、中から人が見えた。

 「あれは・・・?ゼノヴィアさん!!」
 「もう一人は・・・・・・って、あれは!」
 「藤村先輩!?」

 そこには、上記の部分が千切れ飛んでいった残りの状態の幻想殺しの格好をした、藤村士郎がゼノヴィアを所為お姫様抱っこをしている状態で立っていた。

 「え・・・・・・・・・・・・・・・し、士郎!?」
 「士郎さん!?」

 遠目から見ていたリアスに、リアスとギャスパーを先程から守っていた一誠も大いに驚いていた。

 「ほぉ?あれが、幻想殺しの素顔か・・・つか、若いじゃねぇか!それこそ、ヴァ―リや兵藤一誠と同じ位に!?」

 少し離れた地点では、隻腕状態であるアザゼルも驚いている。

 職員会議室では――――。

 「――――あれが、幻想殺し君の素顔ですか?」
 「―――――はい、そうですよ。クロム先生」

 導師ルオリアの問いに、ここまで来たら仕方がないと嘆息してから認めるサーゼクス。
 後ろでは、何とも言えないような表情で見ているグレイフィア。

 「彼があの・・・・・・しかし、気配からして人間のようにしか思えないのですが・・・」
 「その通りだよ、ミカエル。彼は魔法を使いはするが、メインは何所までも人間さ」

 理解はしていたが、大なり小なり驚く重鎮達。
 その当の本人である士郎は、ゼノヴィアに声を掛けていた。

 「おい、ゼノヴィア!しっかりしろ!」
 「・・・・・・・・・・・・一体何がっ、て!士郎さん!!?」
 「ああ、俺だが?」
 「え?もしかして、私を押し倒しに来たんですか!!」
 「・・・・・・・・・・・・は?」
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 状況を理解しているのかはよく解らないが、とんでもない事を口走るゼノヴィア。

 「ですが駄目ですよ!士郎さん。こんな公衆の面前で――――」
 「・・・・・・・・・」
 「――――ですけど、士郎さんがドウシテモト言うのであれば、私は・・・私、はもぷきょきゅぎゅ!!?」

 ゼノヴィアの頭に、士郎の拳骨が降りた。
 余程効いたのか、頭を押さえるゼノヴィア。

 「如何だ、ゼノヴィア?起きたか?」
 「ッッ~~~~・・・・・・士郎さんが・・・私を嬲ってくれた!!?だ、だが、思っていたほど感じなかった・・・・だ、だが、それも時間の問題だな。これからは、ゆっくりと時間をかけて士郎さんに調、きょろんぽ!!??」

 また殴られるゼノヴィア。

 「一応聞いておくが、お前起きてるだろ?それでもまだ、起きたまま寝言をほざくと言うなら・・・」
 「す、すいませんでした!」

 士郎の腕の中から自ら脱出して、敬礼状態で立ち上がるゼノヴィア。

 「で、ですけど、如何して士郎さんが・・・・・・」
 「詳しくは後でな、それより、も!」

 その場を蹴り、一瞬にしてバーサーカーに詰めよる。

 当のバーサーカーは、あの時から今も直、力押しで剣を合わせたまま祐斗を地面に埋めようとしていた。
 事実、祐斗は太腿の辺りまで足が沈んていた。

 「ぐぐぐぐぐ」
 「さぁ、このままけ「ふん!」ぬぅ」

 士郎は一本の剣を投影したまま、バーサーカーの小剣(クラディウス)の鍔に刀身を当てて切り上げた。そして、そのまま手首に向かって投げつけた。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)
 「むぅぅ」

 しかし、その爆風に負けずに左腕で士郎へ殴り掛かるバーサーカー。
 それをあっさり躱した後に直、懐に潜り込み腕を両手で掴み上げる。

 「全身強化(トレース・オン)!」

 体全体を一瞬で強化してから、合気道と柔道を士郎なりにミックスさせてアレンジした技で、投げる。

 「ふん!」

 投げられたバーサーカーは、そのままゴーレムの軍勢に着弾して、土煙が出来る。

 ッズッォン!!

 間近で戦っていた眷属らは、改めて驚く。
 普段時は確かに完璧超人ではあったが、何所までも唯人であったはずだった。
 それが今は正しく、歴戦の超一流の戦士を思わせる姿と存在感を露わにしていた。

 自分が投げたバーサーカーを見ずに、直に振り替える士郎。

 「さて、大丈夫かい?木場祐斗く「呼び捨てで構いませんよ、藤村先輩」大丈夫そうだな・・・」

 太腿まで沈んでいる祐斗を、勢いも付けずに引っ張り出す。

 「――――っと、有り難う御座います、藤村先輩」

 しかし、この祐斗は士郎に対して通常通り接していた。
 それに驚くゼノヴィア。

 「木場、お前は士郎さんについて驚かないのか?」
 「え?うん、まぁ・・・」
 「祐斗は俺の正体に気付いていたからな。まぁ、気付かせるように、それなりに情報(ヒント)が行くように誘導したんだがな」

 士郎の発言にそれぞれの反応を見せる2人。

 「へ?何時そんな事をしたんですか?」
 「やっぱり・・・」
 「その話は今を潜り抜けてからだ。祐斗、ゼノヴィアを頼んだぞ。あいつは俺が相手をする・・・・・が、もしもの時はサーゼクス様お願いします!」

 大声で、職員会議室に残っているサーゼクスに呼びかける士郎。

 「うん!断るよ」
 「へ?」

 しかし、笑顔で断るサーゼクスに間抜けな声を漏らす士郎。

 「士郎、君は“不敗”なのだろう!?メフィスト・フェレス殿経由で君主(ロード)の1人であり君の友人でもある“彼”から聞いたよ!?」
 「そ、そうですか!・・・」

 大声で話しながら戦闘を継続する士郎。
 何故なら、ゴーレムの軍勢に着弾したはずの巨漢が士郎に近づいてきたからだ。
 先程から無銘の剣を投影しつつ、投擲してから壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)をして、会話するための時間を稼いでいる。

 当のバーサーカーは何が楽しいやら、大声で笑いながら進んで来ていた。

 「圧政者に近づけば近づくほどに、走狗どもがより強大化していく。つまりは、傲慢を押し潰すところまで目前と言う事に他ならぬ!フハハハハ!それでこそ、屠り切った後の凱歌はさぞ叫び甲斐が有るであろう!!さあ、圧政者の走狗共!出来るモノなら、嬲るなり蹂躙してみるがいい!!」

 攻撃を受けて体のあちこちに傷が付いても、お構いなしに前進し続けるバーサーカー。
 恐らく痛覚など感じていないだろうと思われる。

 そして、士郎とサーゼクス(2人)の会話に戻る。

 「故に死ぬことは勿論、一度たりとも敗ける事など赦しはしないよ、士郎!」
 「ふー、わかりました!それでは、期待の応えるとしま「あー、それと!」はい!?」
 「アレについては如何いう事かな!」

 士郎に聞こえるように大声で質問するサーゼクス。
 しかし、ちょっと笑顔が黒い。

 「アレとはなんでしょう!」
 「“彼”の事でいろいろ聞いているよ!なんでも、“彼”に対しては『ため口に呼び捨て』らしいじゃないか」
 「それが何でしょ・・・・・・はっ!」

 サーゼクスの黒い笑みと、先にサーゼクス自身が口にした言葉の『ため口に呼び捨て』と言う言葉で、事の次第に思いついてしまった士郎。

 「如何いう事かな!し・ろ・う!“彼”もそれなりに君と歳も離れているし、何より君主(ロード)の称号を持っているよね!なのに何故“彼”には『ため口に呼び捨て』なのかな!プライベート時の事で、僕がいくら頼んでも君は『さん付けで敬語』だったのに!」

 語尾が強調されているのは、決して大声で話しているだからだけでは無い。

 「・・・・・・・・・・・・・・・今は『公』で戦闘中なのですが・・・」
 「うん!だから乗り切った後ちゃんと日にちを取るから、きっちり説明を聞くとするよ!」

 どこまでも黒い笑みでそんな事を言うサーゼクスに、背中に幾らか嫌な汗をかきながら溜息を吐きつつ前を向く士郎。
 そこには、3メートル程離れた地点まで戻って来ていたバーサーカーの姿が有った。やはり笑っていた。

 「フハハハハ!圧政者及び走狗共は、追い詰められると仲違いするのは必然!さあ、その醜さも含めて私が押し潰して見せよう!」

 このバーサーカーの今迄の言葉と格好を考慮して、ある考えを導き出す士郎。

 「――――会話が通じるか知らんが確認だ、貴様の真名はスパルタクスで相違ないか?」
 「!」

 言い当てられたのが図星だったからなのか、虚を突かれた表情をしたモノの、一瞬で笑みを浮かべ直したバーサーカー。

 「確かに私はスパルタクスだが、それが如何した!私が貴様を潰し、圧政者を屠る結果には何の影響もない!」

 会話が成立したのには驚きではあるが、言い当てられたからと言って隠さず認めるあたりは、バーサーカーのクラスには恥じない様だ。

 「いや、ただ確認と共に言いたい事が有ったんだよ。――――今まで、幾度も追いつめられた所からの逆転劇もこれまで。貴様が言う圧政者の走狗に倣って言おう――――バーサーカーよ、返り討ちに遭う覚悟は万端か?」

 この言葉に、今まで以上の醜悪な笑みと共に笑う笑う、只笑う。呵呵大笑とも言うべき轟音で、笑う巨漢。

 「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!私の真名をスパルタクスと理解しての、その言葉その傲慢、いいぞいいぞ!実にイイ!!それでこそ、屠り甲斐があると言うものだ!さあ、蹂躙してみるがいいぃぃいいい!圧政者の走狗ぅうううううう!!私はそれを受け止めて、押し潰して見せるぅうううううう!!」

 どれ程の強敵にも、ただ“不敗”であり続けた錬鉄の魔術使いと、ローマのある時代において奴隷解放のために立ち上がり、レジスタンスのリーダーとして幾度もの困難を乗り越えて来た“逆転の雄”の激突が、改めて始まった。


 -Interlude-


 時間は少々遡り、駒王学園の新校舎でのある一室にて、とある2人ほどが厳重なトラップを敷かれた空き教室にて拘束されていた。
 容姿から見て、先の事件で拘束された神の子を見張る者(グリゴリ)の元幹部であるコカビエルと、とある件にて『皆殺しの大司教』と言う悪名と共に堕天使側に追放されたバルパー・ガリレイだ。
 その内、コカビエルは意識にまで封印を施されているのか沈黙しているが、バルパー・ガリレイは只の縄程度だったので何とか逃げ出せないかと悪あがきをしていた。

 (冗談ではないぞ!このままでは確実に私は処刑される!未だ聖剣の研究も極みに達していない上、私を追放した教会の上層部共への報復も出来ぬまま果てるなど・・・・・・冗談では無いわ!)

 非常に手前勝手かつ逆恨みにも等しい理屈が、今のこの男の正義だった。
 そして、その歪み切った正義を叶えたい男の目の前に、救世主が現れる。救世主にしては似合わない存在だが。

 シュッ!

 この部屋の内外の罠と警戒網を潜り抜けて来た仮面で貌を覆っている黒子が、バルパーの前に突然現れた。

 (な!?なんだコイツは・・・)

 そんなこと思っていると、当の黒子の口が開いた。

 「バルパー・ガリレイだな?私と共に来てもらおう。何、お前にとっても悪い話では無い筈だ。何れ、貴様を追放した教会上層部とやらにも復讐できるぞ」
 「!?むぐむぐ!」

 その言葉に、電撃が走ったように体を揺らすバルパー。
 その反応を了承と受け止めた『アサシン』は、バルパー・ガリレイを持ち上げてから瞬時にその場から消えた。
 後に残されたのは士郎の投影で造り出された鎖で拘束されたまま、意識まで絶たれている堕ちた天使だけ。

 こうして『アサシン』によって、バルパー・ガリレイはいつの間にかに強奪されたのだった。
 その事実をサーゼクス達が知るのは、渦の団(カオス・ブリゲード)が引き上げた後になった。


 -Interlude-


 士郎がサーゼクスと大声で会話しながらバーサーカーを迎撃している時に、白龍皇ヴァ―リは漸く立ち上がっていた。

 「ゴホッ、あれが幻想殺しの素顔か・・・。外見は俺とそれほど変わらないように思えるが、その上で人間のままでありながら格上か。まいったな」

 言葉ではその様に零すが、表情は嬉々そのものだった。

 「しかし、あの巨漢を相手にしている以上、俺の相手はお前たちと言う事なのか・・・」

 嘆息しつつ振り返るヴァ―リ。
 彼の視線の先には、隻腕状態でもやる気だけは十分のアザゼルと、リアスとギャスパーを守るように立ちはだかっている一誠だ。

 「おう、俺達じゃ不足ってか?ヴァ―リ。幻想殺し――――あの、藤村士郎って奴から見たらお前でも不足じゃねえか!俺達で我慢し解けよ。そして今日でお前の生は終わりだ」
 「確かにご尤もだが――――」

 視線をアザゼルから一誠に移すヴァ―リ。

 「――――いくら赤龍帝を宿しているからと言って、兵藤一誠ではつまらなさすぎる」
 「うるせぇよ、このバトルジャンキー!こちとら、部長たちとキャッキャッウフフと出来れば文句ないんだよ!誰がお前なんかと好き好んで争いたいもんかよ!」

 一誠の言葉に改めて嘆息するヴァ―リ。

 (こんなのが俺のライバルか・・・だが、待てよ?)

 あまりにも実力差が有り過ぎる宿敵を見ながら、とあることを思いつくヴァ―リ。

 「兵藤一誠、君は復讐者に成ると言い」
 「は?何言っているんだお前!」
 「頭の悪そうな君にもわかるように説明するよ。まずは――――」

 そう、純粋な悪意を語り始めるヴァ―リ。
 それらを纏まると、自分と言う貴重な存在に兵藤一誠と言う平凡過ぎて面白みも無い存在を殺す事で、彼らの人生を貴重なモノとするとの事だ。
 正しくガキの駄々にも等しい設定だ。
 善か悪かは別として、意外とセンスが無いようだ。

 無論その事に激昂する一誠。

 「テメェなんかに、俺の両親を殺されてたまるかよぉおお!」
 『Welsh(ウェルシュ)Dragon(ドラゴン)Over(オーバー)Booster(ブースター)!!!』

 アザゼルからもらい受けた腕輪を犠牲にして、掛け声とともに『赤龍帝の鎧(ブーステッドギア・スケイルメイル)』に一時的に至った一誠。

 それを如何にも楽しそうに眺めながら言葉を紡ぐも、最終的には挑発するヴァ―リ。
 勿論それに応じる一誠。

 捨て身で殴り掛かるもあっさり躱され、アスカロンで斬りかかるも矢張り躱される。

 それはそうだろう。つい1月か2月前まで、一般人だったのだ。悪魔に転生して基礎力が上がりその後も鍛え続けて入るだろうが、まだまだ何もかも足らない才能も無い上、攻撃防御共に素人に毛が生えた程度なのだから。
 現時点では、裏の世界を知らずとも柔道か合気道の達人とでも戦えば、あっさり負けるだろう。

 ドンッ!

 「ガハッ!?」

 あまりにも素早いヴァ―リは、アザゼルの光の槍もあっさり避けつつ一誠の懐に入り込み胸に重い一撃を加えた。
 鎧には罅が入り、当の一誠は既に足が嗤っている状態に追い込まれていた。
 それをヴァ―リは嘲笑う。更には・・・。

 『Divide(ディバイド)

 一瞬にして、一誠の体から力が抜けていく。

 『Boost(ブースト)

 しかし、一瞬で力を元に戻す。
 何故この現象を受けるか、ドライグから説明を受ける一誠。
 しかし、説明中でも敵は待ってくれない。

 「ほらほらほら!」

 遊ぶように一誠に向けて撃ち出してくる魔力弾。
 避けること敵わず当たると思いきや、その魔力弾が明後日の方向から来た何かに相殺されるかのように打ち消されていく。
 そして、“それ”はヴァ―リの背後にも来ていた。そこから着弾する直前に爆発する。

 「ぐっ!?これは・・・・・・!」

 自身への攻撃に使われた力には覚えが有ったので直にそちらへ向くと、犯人は幻想殺し―――藤村士郎だった。
 なんと、不気味なほどに笑い続けながら攻撃を受けるたびに、次第に体が変貌していく巨漢と戦闘中にもかかわらず、此方に“何か”を投擲したようだ。

 「フハハハ!私を前にして他にも手を出すとは、素晴らしい傲慢だ!それでこそ屠り甲斐が有る!」(「そこの白蜥蜴、お)前も俺が相手をしてやるからトットト来い!」

 しかし士郎は、バーサーカーの言葉を無視してヴァ―リに言い放つ。

 「フフ・・・ハハハハハ!ここまで舐められるとは、怒りを通り越して楽しそうだな。普段は逆の方が好きなんだが、これも自分の力量不足を認めるしかない様だ、な!!」

 ガシッ。

 士郎と巨漢の戦いに、お招きに上がろうと向かって行こうとした処で、後ろから誰かに掴まれるヴァ―リ。

 「余裕ぶっこいてんじゃねェェェええええ!!」

 ゴンっ!

 「っっっっ!?!?!?」

 アスカロンを籠手に収納したままの龍殺しの力をのせた一誠の一撃が、ヴァ―リの顔面に突き刺さる。
 今のは完全にヴァ―リ自身のニアミスだ。
 つい、士郎からの誘いの魅力さに気を取られて、アザゼルすらも認識外に追いやったのだから。

 あまりの威力に、白龍皇の兜の一部が割れてヴァ―リの顔が少しだけ覗く。
 それに、隙を突かれたとはいえモロに顔面に大きな一撃が入ったので、脳が揺さぶられたのか体勢がぐらりと歪み、大きな隙が又もや出来る。

 (ここだ!)

 一誠は、白龍皇の余剰のエネルギー排出口である光の翼の付け根に手を回して、過剰なまでに溜めた力を譲渡した。
 これにより、白龍皇の鎧のシステム部分がオーバードライブして事態を直ちに収束させるため、あまりに多くのドラゴンの力までも排出させられてしまった。
 この事態にアルビオンから助言を受けるも、その絶好の好機を逃す程一誠は甘くは無く、龍殺しの力が籠った拳でヴァ―リの防御を貫き腹部に重い一撃を再度加えた。

 ゴホッ。

 堪らず吐血するヴァ―リだが、顔は笑っていた。

 「ハ、ハハハハ、ハ!や、やれば出来るじゃないか。流石は俺のライバ――――」

 それを言い切る前にまたも顔面を殴られるヴァ―リ。

 「まだまだ終わっちゃいないぜ!このイケメンドラゴン!」

 何とも締りの悪い言葉で、自らを鼓舞する一誠だった。


 -Interlude-


 バーサーカーと相対しながらも、横目で一誠の奮闘ぶりを見ていた士郎。

 (実力差が有るから白龍皇(あいつ)も俺が引き受けようとしたが、一誠がやる気を出してるから一先ず任せるか。今此処で俺が手を出したら無粋そうだし、な!)

 バーサーカーの両手を合わせて振り下ろした一撃を、難なく躱す士郎。
 そして、士郎の両手には投影により造りだした馴染の夫婦剣である、干将莫邪を握っていた。
 スパルタクスの耐久値が異常だと判断するや否や、素手では分が悪い戦術を切り替えての事だった。

 その技量に対して、周りが驚く。

 「剣!?」
 「藤村先輩は、剣まで扱えたんですか!?」

 素手であれほどの力量を見せた戦闘者が、剣でも相当な技量を見せているのだから。

 「今更か!さっきから見せているだろう?」
 「いや、あれは投擲とかじゃないですか!」
 「――――尤もだが、話は後でな。それと近づくなよ!見てれば解るだろう、が、な!」

 今度は8本(・・)の腕の内5本からのラッシュを躱しつつ、小剣(クラディウス)を捌いていった。
 そう、このバーサーカー。人語は話しているが今やマトモナ人の形をしてはいなかった。
 上記の通り腕が8本あり、その内2本は蛸の様に関節が無いのか、ぶらりと下がって地面にヘタリ付いていた。
 首から上は亀の様になり、眼は妖怪の様に7つがギョロギョロと蠢きまわっていた。
 下半身は一見正常に見えるが、尻側に足がもう一本生えて計3本になっていた。
 これで口元に笑みを浮かべながら人語を喋るのだから、不気味以外の何物では無かった。

 どうしてこの様な事態になっているかと言うと、先程から幾つかの部分に一点集中の攻撃を繰り返していたら、傷が出来るたびに再生が開始されて見る見るうちに膨れ上がり、今の状態に変貌していった。
 恐らくはスキルの効果であろう。スパルタクスの伝承には不死などと聞いた事もないし、ゼノヴィアの一撃で普通の達人でも動脈辺りを切られたら死ぬだろうし、一応不死殺しの概念武装による攻撃を繰り返しても、効果は他の様子と変わりなかったのだから。

 そして士郎の予測通り、バーサーカー―――――スパルタクスの唯一のスキル『被虐の誉れ』の効果である。このスキルにより傷が自動的に治癒されていた。
 通常の人間で即死な傷でも死なないのは耐久値EXの恩恵であり、結果的に歪な形相に変貌しているのは唯一の宝具、疵獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)の肉体強化の暴走の影響であった。

 「ウッ、オオオオオオオオオオオオオオ!!」

 この様な状態でも、圧政者の走狗と勝手に捉えている士郎に向けて、連撃を繰り返しながら進むバーサーカー。

 「チッ、キリが無いな。で、あれば――――壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)
 「ォオオオオオオオオオオオ!」

 次の投影物の時間稼ぎのために干将莫邪を即座に投擲して爆散させた後、5メートル前後後退してから自らの剣の丘に埋没する。

 「投影開始(トレース・オン)
 「そ、こ、かァァアアアアアアアアア!!」

 しかし、肉体強化の耐久値が凄すぎたのか爆発の威力が弱かったのかの真偽のほどは不明だが、爆発の煙を切り抜けて、8本の内5本の腕が士郎に殺到する。
 当の士郎はそれに対して焦る事も無く、不敵な笑みを浮かべたままだ。そして両者の間に石造りの様な斧が宙から出現しつつ、バーサーカーの攻撃を防ぎきった。
 だが、防ぐだけではそれは終わらない。
 石造りの斧の柄を即座に掴み、右肩に背負うように構えた。
 そして――――。

 「―――――投影、装填(トリガー・オフ)―――――全行程終了(セット)―――――是、射殺す百頭(ナインライブス・ブレードワークス)!!」

 ――――神速の九連撃が異形のバーサーカーを捉え、一撃一撃が深い傷を与えていった。


 -Interlude-


 結界外からゴーレムたちを順次出現させていくキャスターが、偵察用として結界内に放っているゴーレムの視界を通して、戦況を見張っていた。

 「幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)屈折延命(ハルペー)、はたまた射殺す百頭(ナインライブス)とはね。あの魔術師は一体何なんだ?――――興味は尽きないが鹵獲してから調べれば済む事か・・・。炉心の核として使えるかどうかは別として。それにしても、あれはもうこちらの制御を受け付けないな。さて、如何す――――!!?」

 警戒用のために張っていた結界に、“何か”が反応した。
 そして、その“何か”の正体は判別できないが、即座にこの場から離脱するような警告をされた様な悪寒を受けて、躊躇いなく瞬時に転移魔法陣でその場を離脱するキャスター。
 その判断は正しかったようで、コンマ1秒遅れてからその場には1本の矢が刺さっていた。

 「――――逃げましたか。ここ最近、きな臭そうな雰囲気を感じ取ったので来てみましたが、如何やら当りだったようですね」

 古風な西洋の鎧を身にまとい、ブロンド髪をなびかせる青年が弓矢に遅れてその場に舞い降りた。
 手には先ほど結った、矢の番たる弓を持っている。

 「それにしてもこのような荒事を黙っているとは、後日にでも士郎には説教を受けて貰わねばなりませんね」

 その青年は、嘆息しながらも穏やかな顔で当の士郎が見えているのか、駒王学園に視線を向けて言い切った。


 -Interlude-


 バーサーカーは耐久値を超える攻撃を受けて、宝具による肉体強化の暴走により大きく膨れ上がった風船のような状態になっていた。
 それに対峙していた士郎は、困惑顔でいた。

 「あれほどの攻撃を受けても直、霊核に傷一つ付いていないと言うのか・・・!」

 しかし、これでは最早攻撃など出来るまいが如何したモノかと考えていると、一誠の怒声とアザゼルの大笑いの声が聞こえて来た。
 この事から恐らく、一誠がまたスケベな事でキレているんだろうと予測できる。締まらない事だ。

 「オ、オオオオ、オオオオオオオオオオオオ!?」

 ギョロギョロと、異形の怪物の眼があらゆる方向に蠢きだす。

 (何だ?)

 釣られるように周りを見ていると、敵魔術師集団は撤退したのか一人たりとも見当たらず、無限に表れていた小さいゴーレムの増援も無くなり残存しているのも動きが鈍かった。
 つまり敵は事実上、眼前の異形化した英霊と、一誠と対峙している白龍皇のみと言う事になる。

 だからと言って如何したかと頭を過ぎるも、あることに気付く。

 (今、この結界内に居るのは味方ばかりで敵がほとんどいない。そして、コイツは風船のように膨らんでいる。まるで、破裂寸前の・・・よう・・・に・・・って、まさか!)

 士郎の胸中では、思いついた不安が肥大化していく。

 「コイツ・・・・・・ッ、自爆するつもりか!?」

 英霊とは、歴史の積み重ねで薄い厚いで強弱も変わっていくが、基本的には神秘の塊だ。
 そんな神秘の塊が、宝具の暴走で存在自体を強化した果ての爆発など、被害規模は予測不可能だ。
 少なくとも、結界内の駒王学園は更地と化すだろうし、自分たちも唯で済むはずがない。
 最悪、被害は周辺にまでのぼり、大惨事となるだろう。

 (冗談じゃない!この街には家族がいや、家族は此処にも一人いたな)

 士郎の視線の先には、祐斗と協力して残存巨大ゴーレムと戦っているゼノヴィアの姿があった。
 この事に腹を据える士郎。もとより、逃げるなどと言う選択肢は無いのだから。

 「投影開始(トレース・オン)

 早速、剣の丘に突き立ててある武器の検索に入る。

 (・・・・・・違う・・・・・・違う・・・・・・・・・違う・・・・・・――――該当アリ!)

 即座に投影で造り出した武器を右手に添える。
 それは、青龍偃月刀だった。
 しかし、だたの青龍偃月刀ではない。
 士郎がまだ『衛宮士郎』だった頃、宝石翁の修業中でのある地域での過去の偉業に対して人々の信仰により、単なる有名な武将が神格化したと言う逸話の残滓を、青龍偃月刀に収めて概念武装の宝具とした物だ。
 だが、複数の条件を満たさない限りこの宝具は正しく機能せずに、単なる業物でしかなくなる。
 逆に、条件さえ満たせば『必殺』を内包した概念武装としての効力が発揮できる宝具となるのだ。
 しかし、不幸中の幸いか条件はクリアできていた。ある二つを除いては。

 「投影開始(トレース・オン)

 即座に自らに埋没してから、輝き煌めく一本の剣が左手に握られた。

 「あれは・・・・・・!」

 サーゼクスと共に結界維持に努めていたミカエルは、士郎の左手に握られている剣を見て、瞠目していた。

 「如何かしたのか?ミカエル」
 「ええ、少々・・・」
 「そうか。それにしても、アレはまるで魔力の爆弾のようだな。何とかしたいが、此処は士郎に任せるしかない様だね」

 期待を籠めた眼で、士郎を見やるサーゼクス。

 これで、満たしていない――――満たしているか怪しい条件は一つだけ。

 (引き返している余裕はないし、これに賭ける!)

 その思いのまま、バーサーカーに直進する士郎。

 「オ、オオ、おオオオオオオオオオオ!」

 バーサーカーの咆哮は、この地を更地に変える前兆――――残り10秒前まで来ていた。

 ここで条件項目を出すと、一つは此処がアジア圏内である事。一つは相手が英雄と言う人種である事。一つは自らが窮地に立たされているか、守るべき者がいる事。さらに、残りの二つの内一つ――――使い手自身が英雄の様な人種である事。そして、最後に―――――。

 一瞬でバーサーカーの目前まで来ると、青龍偃月刀で切り伏せると同時に真名解放を行う。

 「我が身果てるとも、信念まで朽ちず(関聖帝君)!!」

 関聖帝君。
 三国志に出て来る劉備に仕えていた関羽の死後、人々の信仰によって神格化して呼ばれる様になった称号だ。
 そんな関羽の死後に、彼と敵対した世に知られる武将等が、最も叶えたい願いを目の前にして非業の死を遂げていると言う、逸話に基づいた概念武装である。

 しかし、今にも爆発しそうなバーサーカーを切ったはいいが、最後の条件をまだ満たしておらずタイムリミットが3秒短縮されて、残り5秒前。

 そこで最後の条件を満たす為、青龍偃月刀を地面に突き刺す。
 同時に左手に握られている剣を、青龍偃月刀に向かって振りかぶりながら真名解放を再び行う。

 「絶世の名剣(デュランダル)!」

 デュランダル。
 シャルルマーニュ十二勇士最強の騎士であるローランが所有する、天使の力が込められている刃毀れしない剣で在り折れ無い剣であり、全てを切り裂く剣でもある。 

 その絶世の名剣(デュランダル)の強度と切れ味の前に、容易く切り裂かれる青龍偃月刀。

 (如何だ!?)

 士郎がすぐに振り向き、バーサーカーを注視する。
 当のバーサーカーは、先程まで脳が痺れる位の多幸感で満ちていた。
 何といっても最後の一撃は、圧政者も多くの走狗も一度に屠れるだろうと確信できていた程の、一撃だったからだ。
 しかし、対峙していた圧政者の走狗からの攻撃をして、自身の武器をもう一方の武器で破壊すると言う妙な行動の後、溢れるぐらいに感じていた魔力の塊の霧散と共に自らの意識も薄らいで行ったのだ。

 青龍偃月刀に内包された概念武装の効果の発動条件最後の一つが、青龍偃月刀事態の破壊であった。

 「オッ、オオ、オッオオオォォォォォォォ・・・・・・・・・―――――」

 心からの歓喜も栄光も味わえずに、消えて行くバーサーカー。
 彼、スパルタクスが最後に眼にしたのは、圧政者と見定めた筈の人物――――サーゼクスの笑顔だった。

 (アレは・・・アレが、圧政者だと言うのか?その様には・・・思えぬ・・・。私は・・・一体・・・何、を――――)

 そうして異形と化していた“叛逆の英雄”は、消滅間際に狂気の渕から脱出した後に煌びやかな光と共に霧散して消えて行った。
 それを見送り一息つこうとした処で、黒い闇の中に逃げようとしている“誰か”とヴァ―リの姿を視界に居れた。
 最早頭分しか見えないので、縮地でも瞬動でも間に合わないと判断した士郎は、未だに消していなかった絶世の名剣(デュランダル)を全速力で投げ尽きた所に――――。

 「――――壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 絶世の名剣(デュランダル)の内包された神秘を爆発でぶつけたものの、手ごたえは薄いと感じた士郎。
 現に、爆発させた地点の煙が晴れるとそこには、なかなか大きいクレーターが出来ていた。
 相当な手ごたえが感じられたら、クレーターの規模はもう少し小さい筈だからである。

 「む・・・・・・逃げられたか」

 何とも締りの悪さに嘆息するも、会談自体は成功している上、此方側に死者は誰も出ていない様なので納得する事にした士郎。
 そんな冷静な観察をしながらも士郎は、此処に居る家族の1人であるゼノヴィアの無事を確かめに、足を前に進めるのだった。


  
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