| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

少年は旅行をするようです

作者:Hate・R
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

少年は剣の世界で城を上るようです 第七層

Side 愁磨

「じんぐるべ~る、じんぐるべ~る、すずがー、なるー・・・。」

「え、ど、どうしたんだ、アリアちゃん?」


49層の迷宮区。俺達はキリトを誘い、マッピング兼レベ上げ兼暇つぶしをしていたのだが、

安全エリアに入った瞬間、急にアリアがクリスマスソングを歌い出した。

戸惑うキリトだが俺達も同じだ。近いイベント的はまだハロウィンすら一ヵ月以上も後だ。


「ん・・・?急に歌いたくなるとき、ある・・・よね?」

「その歌かはさておき、まぁ分かるような、分からないような……。」

「分かれば、いいの・・・。」


勝手に納得し、アリアはインベントリの中身を整理し出す。キリトは一人で

わっちゃわっちゃしだしたが、諦めた様にウィンドウを開き、何やら作業する。

相変わらず兄妹でも見ているかのようなホンワカした気持ちにさせてくれる二人だ。

色合いも銀と黒で、ちょっと俺とノワールを見ているような―――


「きっさまぁ!娘が欲しければ俺を倒して行け!!」

「お前も急にどうしたんだ!?てか娘とかなンンッ!ナンノコトカワカラナイナー。」

「…………貴方も大概馬鹿よねぇ。良い意味でだけれど。」


褒められているのか貶されているのか微妙な評価を貰い、苦笑いを張り付かせて

再度ウインドウに目を落とし、ちょいっと操作したところで動きが止まる。


「え………?」

「おー?何、どうした?」

「え!?いや、べ、別になんでも「あるわよねぇ~?」うぐっ!ほ、ホントに何でも

ないから!」


・・・明らかに何かあるのに、意地でも隠す気であるキリト。

ほぉぉ、いい度胸だ。まさか俺達相手に隠し事が通用するとでも思っていたのか?

認識を改めさせる・・・いや、矯正してやる必要があるなぁ?


「キリト……俺達を侮った事、後悔するがいい!」

「な、お前、何を……!?」

「行け、アリア!お前に決めた!!」

「・・・・ら、じゃー!」


ポケモン風に勢い良く指を差すと、すったかたーとキリトの後ろに走り寄るアリア。

そして両肩に手を付け膝立ちになると―――


ぽふん。
「・・・おにーちゃんの、みせて?」

「「「ゲッファァッ!!」」」


肩に顎を乗せ、耳に向かって囁く。キリトからは見えないが普段からのジト目が

流し目に見え、俺とノワールも無駄に吐血する事になる。尤も、俺達はアリアを

馬の骨に奪われた様な気分になったせいで憎さ相まっての事だが!!


「わ、分かった……見せるから、頼むから離れてくれ、アリアちゃん……。」

「・・・キリト、わたしの事きら「もういいから!ホントごめんなさい!!」

・・・つまんない。」


いつもより少し目を不機嫌めに細め、キリトの頭をぺしんと叩いてから俺達の所に

戻って来る。カモン!と両手を広げると、膝に横座りになって胸に額をぐりぐり

してくる。ノワールは人前でそれをやられると恥ずかしいとアリアに言ってしまって

いるので、手をワキワキさせた後、渋々頭を撫でるだけに留まった。


「あぁー可愛い。物理的に目に入れても絶対痛くない。もうキリトとかどうでも良いわー。」

「散々人を弄っといてそれか!?あんまり酷いと泣くぞ!」

「まぁ冗談は置いておいて、さっさと見せなさいな。またアリアを嗾けた後私達と

決闘させるわよ。」


物凄く納得していない表情だったキリトが、諦めの溜息と共にウインドウを

可視モードにして、習得スキル欄を見せて来る。"片手剣"に"索敵"・"隠蔽"・"体術"

"投剣"・"限界重量拡張"・"生存能力"・"武器防御"・"戦闘時回復"・"疾走"と

明らかにソロのスキル構成と言った感じだが、その一番下に見慣れない"二刀流"と

言うスキルがあった。ふむ、俺的にはやっとかと言う感想しかない訳だが。


「・・・キリト、"エクストラスキル"げっと?」

「と言うより"ユニークスキル"じゃないかしら?聞いた事無いし。良かったじゃないの、

おめでとう。」

「……………え、それだけ?」

「え、何か反応欲しいの?熟練度低いしスキルも出てないからどうしようもないだろ?」


ノワールとアリアも同じような認識だったらしく、少々拍手したくらいにして何も

言わない。何か期待していたのだろうか、肩透かしを食らったアホ面でこっちを見る。

・・・全く、これだからゲーマーは。


「何だよその顔は、若干可愛いぞ。全員がユニーク持ちの一家にフツーの反応期待するな。」

「か、可愛いとか言うな!結構気にしてるんだぞ!……まぁ、それもそうだな。

悪かったよ………ん?全員て、実質はノワールさんは持って……なかった、よ、な?」


いらん所に気付いたキリトが歯車が錆びた様にギ・ギ・ギと此方を向く。

"実質"と妙な言い方なのは、ノワールが超本気(若しくは超気紛れ)の時のみ使う

"片手用短槍"の二槍流がシステム的・正式に装備可能なのにソードスキルが使えないせいで、

実質として"ユニークスキル"化している事を差してだ。そしてつい最近、実質ではなく

ノワールもついに(恐らくだが)ユニーク持ちになった訳だ。


「三日くらい前に取ったのよ。これらがあればこの前の女王様、確実に殺せたのに。

……惜しかったわ。」
ガシャッ
「お?」

「あと、これもね。」
ブォン――
「おぉ!?」


武器を通常の槍から十字槍に代え、更に目を瞑りスキルを発動する仕草(傍目からは

不動だが)すると、身体が山吹色に薄く光り、アクセサリのような小さな丸っこい羽が

背に浮かぶ。タンッと3m程跳ぶと、上昇が止まった滞空段階でそのまま空中で3秒程

止まってから落ちて来る。落下が始まった段階で槍が真紅に輝き、技名のコールが僅かに響く。


「"天鎚"。」
ヒュッ―――!!

落下が目に見えない速さまで加速され、ほぼ同時に、着地。

―――ズドォォォォォオオオオオオオオオオオオオン!!!
「どぅわぁぁっぁぁぁああああ!?」


隕石でも落ちて来たのかと見紛う地震とクレーターと地割れを発生させる。

以前見た俺達はコソコソと退避していたが、知らなかったキリトは吹っ飛ばされ、

地面を転がる羽目になった。跳び起きると、HPを1割ほども減らされた事を

まるで気にせず俺に掴みかかって来る。


「な、なななななななん!!」

「エクストラの"神槍"と特殊アクティヴスキル"飛輪"だとさ。」

「なんなんだよ!!」


俺の話を聞いていないのかと突っ込みを入れたくなるが、気持ちも分かる。

"天鎚"の威力も然る事ながら、一番は"飛輪"だろう。効果は実に単純に『数秒滞空出来る』と

言うものだが、その利便性は計れるものではない。

そもそも空中でのソードスキル発動は地上で発動するよりも更に完璧なモーションを

要求され、そのせいで48層ボス、果ては下層の飛行系モンスターに歯痒い思いをした。

そのプレイヤーの中には当然、俺達も入っているのだ。


「ありえねぇ……"ユニークスキル"二つ持ちだって?ふ、フフフ、俺がビーターなら

お前らは間違いなくチーターだろうよ。実力が伴ってなきゃどうなってたろうな…。」

「さぁて、"もしも"なんて考えるのは人間を辞めた時にやめたからなぁ!人生楽しいぞ!」

「さぞ楽しいだろうな!?あー………まぁ、いいか。」


ガックリと項垂れた後、ちょちょっと操作すると新たに剣と鞘が背中に現れ、

装備していた剣とX字になる。随分諦めの良い事だが、成程。最前線で使って行けば

習得度の増加は早く、修錬も積みやすい。仮にミスっても俺達ならフォローも容易い。

合理的かつ、効率的な決定だとも言えるだろう。


「よし!キリトも諦めた事だし、マップ完成させるまで突っ込むぞ!」

「りょうかいよ~。」「・・・はい。」

「マジか!?って言ってもマジなんだよなぁ……ああもう!ならとことん付き合って貰うぞ!」

「「おー!」」

「・・・おー。」


・・・その後、僅か5時間でマップを半分以上・ボス間の前まで埋め、"二刀流"の習得度を

100までカチ上げた。ついでにボスを見ようと提案したのだが、残る三人に反対され渋々街に

戻った。そして折角の最前線街だからと、全員で飯でも食って行こうとしたら―――


「「「あ。」」」

「あらアスナちゃん、こんばんは。お付もいないなんて珍しいわね?そんな可愛い格好で私に

ナンパして欲しいのかしら?」

「こ、こんばんはノワールさん。それはお断りします。……お揃いでどうしたんですか?」


転移門前で、ボス攻略戦以来会っていなかった栗色の髪の美少女とバッタリ出くわした。

いつもは白と赤を基調にした騎士服風の鎧を着ているのだが、

今はクリーム色の肩が出るカーディガンと白いフレアスカート、月光を思わせる真っ白な

生足には低いヒール付きの靴を履いている。

ノワールがナンパして居なかったら俺がナンパしていた所だ。・・・まぁ、とある事情で

嘘なのだが。


「いや、49層のマッピング終わったし飯でも食って行こうかなーって、あ。

アスナに渡しとくから、ヒースクリフとかにでも渡しておいてくれ。」

「あ、はい、ありがとうございま……って、マッピングが終わった!?

今日の夕方の時点で半分以上残っていた筈では………埋めたんですね。そうですか。」


ガックリと項垂れたアスナに巻物化したマップデータを渡して、とある事情である横を

チラリと見る。当然そこに居るのは、俺の手を握るアリアだ。とは言えども、機嫌は誰の

眼からも分かるほど頗る最悪。・・・まぁ、これがその事情な訳で。

栗色の髪、美少女、名前と同じなのはこの三つだけで、性格も見た目も全くあちらの

"明日菜"と違うのだが、どうも毛嫌いしているのだ。それをあちらも承知しているので、

ノワールと話しつつもこちらをチラチラ気にしている。

しかし悲しいかな・・・・それもアリアを苛立たせる要因の一つなんだよなぁ・・・。


「あ、あの、アリアちゃ「パパ、いこ。」あっ……。」

「こらこらアリア、だからそういう態度とっちゃダメだって何回も……。

あーもう、分かったって。ごめんキリト、アスナ。食事はまた今度な。」

「き、気にしないでくれ。またな。」

「・・・・・ん。」


アスナに話しかけられるや否や、体を傾けてまでその場を離れようとする。

止めても更に力を強め聞かないので仕方なく二人と別れ、家のある"ミーシェ"に転移する。

家に入ると真っ直ぐ走ってソファに飛び蹴りを食らわせ宙返り、そのまま仰向けに着地して

足をバタバタし出す。・・・・・どんだけ嫌いなんだ。流石にアスナが可哀想なんだが。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide キリト

「……………………………。」

「……………………………。」


シュウマ達が転移した後、その場に取り残された俺と、俯いたまま無言のアスナ。

ど、どないせぇっちゅうんじゃああああああああああああああ!!?

いや、アスナとは少々面識あるが、とてもじゃないが仲が良いとは言えないんだぞ!

その上傷心(っぽい)女の子を俺に預けるだと!?

あいつ、今度会ったら絶対何か奢って貰うからな!!


「あー………アスナ、大丈夫か?」

「……………………………。」


あぁぁあぁぁああぁあぁあぁあぁ、無理!ホント無理!どうしたらいいんだ!?

頼むから誰か代わって―――

グイッ
「お……?」

「…………………ねぇキリト君。」

「は、ハイィ!!」


不思議な踊りでも踊り出す寸前、アスナが俺のコートの背中をワッシと掴んで来た。

俯いたまま。前髪は垂れ下がり、表情は全く見えない。・・・今まで数々のモンスターと

戦って来た俺だが、今までで一番怖い。幽霊系のモンスターでもダッシュで逃げるレベルだ。


「キリト君、アリアちゃんと仲、良いよね……?どうして?」

「どどどどどうしてと言われましても本人に理由を聞いた訳でも無く、

何となくとしか言えないです!」


な、なんだ?どうした?まさか俺に二人の仲を取り持てなんて言わないよな?

無理だからな?狩りでもクエストでも何でも手伝ってやれるが、対人となったら俺は

とことん無力だからな!?

バッ!
「キリト君!!」

「ひゃいぃっ!!」


そして勢い良く顔を上げたアスナの眼には・・・何と言うか、覚悟としか見れない

物があるんですが。


「私がアリアちゃんと仲良くなるために協力して!!」

「……ですよねー。」


あぁ、今更ではあるが・・・神も仏もこのアインクラッドにはいないらしい。

Side out
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「・・・・・ぅう。」

「もう、アリアったら。どうしてそんなにアスナちゃんの事嫌いなのよ?

明日菜と似てもいないでしょう?」

「・・・いやなの。」

「もう……仕方ないわねぇ。」


ふくれっ面・涙目・不機嫌MAXと最早無表情とは言えないアリアを二人で優しく撫でる。

俺達が幾ら問うても答えを出さないアリアだが・・・まぁ、それはつまり、同族嫌悪と

言う奴だ。心の底では他人を遠ざけている癖に、何かとお節介を焼いて焼かれて関わって、

多少でも関わってしまえば自分の命を賭して守りに行く。

・・・あぁ、だから明日菜とも仲が良かったのか。今更納得だ。


「よし、アリア!」

「・・・なに?」

「明後日アスナとデートな!命令です!」

「……え?」「・・・・・・え?」


Side out


Side アスナ

「お、おはようアリアちゃん。えーっと……い、良い天気ね!」


私が"死神の翼(ゴッド・オブ・プテリュクス)"、通称"死神一家"の皆さんとキリト君と出会った翌々日



キリト君とアリアちゃん対策を話し合っていたらノワールさんからメッセージが

飛んで来て日にちが決まり、その翌日服を買いに行って、そして今日アリアちゃんと

デートする事になった。・・・なんでだろう。

で、でも仲良くなるチャンスよね!なんでか嫌われてるみたいだし・・・。


「・・・・・・・・・・・・ん。」


と、凄い間を空けて返事をして来たアリアちゃん。黒い軽鎧は脱ぎ捨てて、

淡い感じの色で纏めたゴスロリっぽい服に身を包んでいるせいか、いつもよりも

更にお人形さんのような印象だ。前もって服を合わせる様にしたから私もそれなりに

フリフリしているんだけど、別次元の可愛さだ。

どうしよう、抱きしめたい・・・!!いや、駄目駄目。絶対怒られるから。


「何処か行きたいところある?って言うか、私アリアちゃんが好きなものとか

知らないから、聞かせてくれたらうれしいかなー、って……。」

「・・・・行きたいの、おうち。好きなの、パパとママ。あと、ほんのちょっとだけ、

キリト・・・。」

「あ、あはははは……ええっと、他には?」

「・・・・・・・・んん。」


あ、今のは悩んでる『ん』ね。キリト君に教えて貰っておいて良かった。

でも好きなものって聞いたらパパとママって、可愛いなぁ。

・・その後にキリト君って、ちょっと、うぅん、どうやって最初コミュニケーション

取ったのかな?慣れてないと『ん』しか返事しないって言ってたからこうやって

答えてくれる質問にしたんだけど。


「・・・あ、そだ。」

「えっ!なに!?どこか行きたい場所あるの!?」

「・・・・・・うるさい。まえ、フローリアで見つけた花飾り、欲しいって、ママが

言ってた。でも、ひばいひんだ、って・・・。」

「そっかぁ………あ、でもフローリアの小物売ってる人なら私知り合いかも。行ってみよ!」

「ん。」


即答!?え、ええっと今のは嬉しい『ん』よね、確か。多分。

うう、うるさいって言われちゃったけど結果オーライよね!よし、前に出すぎないように、

でも根負けしないでガッツを見せる!『ウジウジしてるのが嫌いっぽいかなぁ?』

ってキリト君も言ってたし!よし、頑張れ私!

………
……


「ここ・・・。」

「ここかぁー!私も良く使ってる店だから店長さんは知り合いなん、だけど……。

取り敢えず入ってみよっか。」


アリアちゃんに連れられて来た店は、ここフローリアの花々しさにも負けないピンクの可愛い

店だった。街・迷宮区・フィールド。階層全てに花が咲き乱れるここフローリアは

別名"フラワーガーデン"と呼ばれ、女の子にも人気なんだけど、その、なんて言うか・・・

カップルにも人気なのだ。そのせいかな・・・さっきから妙に注目されてるのよね。

アリアちゃんは気にしてないみたいだけど。

カランカラーン
「こんにちはー。」

「・・・ちわ。」


店に入ると、最初に目についたのはこれでもかと並べられた数多くのアクセサリー。

壁側には服や、店内にあっても違和感がない程の装飾過多な武器や鞘、KoBの鎧ような

騎士服。そして店の奥・・・カウンターに立つ、天井にまで届きそうな巨大な影が、

低い声で応えた。


「……おう。アスナ嬢ちゃんと、いつぞやのド派手一家の娘っ子かい。」

「お久しぶりですシグさん。その、今日はアリアちゃんが欲しい物があるって……。」

「・・・ん。」


ここ"ラヴァーズ・アガペー"の店長シグさん。・・・階層の雰囲気に似合った名前と

店構えに誰もが嬉々と入店して、そのほぼ全員が店長の顔を見て逃げて行ったのは、

女性プレイヤーの間では誰もが知ってる伝説だ。そしてまぁ、ほぼ全員に

入らないのがこの子達なんだけれど。その指差した先を見ると、カウンターの後ろ、

シクラメンの花の髪飾りが一つ、額の中に飾られていた。


「やれやれ、またそいつの交渉かい。何度も言うがいくら金詰まれたって売らねぇぜ。

そいつぁ死んだ友人の形見で、俺の命を救ってくれたお守りだ。」

「・・・知ってる。だから、ママにあげたいの。」

「ったぁー……参ったなぁ。」


ドレッドヘアをガシガシかいて困った顔をする大男と、それをおねだりするように

見上げ続ける女の子。・・・何なんだろう、この状況。しかもシグさん、何度もって

言ってたよね?なんかすごーく気になる話が聞こえて来たけど・・・。


「あの、シグさん。形見とお守りってどういうことですか……?」

「あ?あー、別に隠してる訳じゃねぇんだが……そのままの意味だよ。

友人だった女が装備してたんだが、死んでな。その時に共通タブに残ってたのを

インベに移しといたんだ。で、素材集めに行く時ふと装備して――いや、行っとくが

胸にだぞ?迷宮区に潜ったら、突発性のエリートに襲われてな。

逃げ切れねぇで戦って、勝った時のHPの残りが400でな。このアクセで上がるのが

丁度同じ数値だった、ってぇそれだけの話しだよ。」


重い話しを何でもない様に話すシグさんだけど・・・共通タブを設定するのは

余程仲のいい友達でも稀で、恋人まで行かないけれど仲の良い男女が設定するものだ。

それって、つまり・・・。


「野暮な勘違いすんなよアスナ嬢ちゃん。あいつとはホントに、ただの腐れ縁ってだけ

だったんだ。だが……そうだな。いつまでもここに縛っておく訳にもいかねぇのも確かだ。

だから交換だ、アリア嬢ちゃん。」

「・・・こうかん?なにと?」

「こいつは俺にとって二番目に大事なもんだ。だから、嬢ちゃんの二番目に大事な

もんと交換。どうだ?」

「無理。」


即答!?今日二回目の事だけれど、私も、当然シグさんも目を見開いて凍り付いた。

ちょっとこわ・・・じゃなくて、無理に頼んでるのはこっちなのにそんな・・・。

と、思わず口を挟みそうになったところで、声を出せなくなった。


「・・・わたしの、二番め、"わたしの命"。だから、だめ。」

「ほぉ。じゃあ一番目とか三番目はどうだ?」

「一番は、"みんなの命"にきまってる。三番めは・・・・・"ごはん"?」

「「ブフゥッ!!」」

「・・・・なんで、笑うの?」


ジットぉとこっちを睨んで来るアリアちゃん。い、いや、だって。

命とか形見とかって話してたのに、いきなり"ごはん"って・・・!

ほ、ほら、シグさんだって爆笑してるじゃない!?


「どぅあっはっはっはっはっは!!成程なぁ、飯か!ああ、飯は生きてく為に

必要だわなぁ!!ああ、確かに全部貰えんな!よし、仕方ない!いいぞ持ってけ!」

「かるっ!?」

「・・・ん、ありがと?」

「いや良いって事よ。………違うな、ありがとよアリア嬢ちゃん。ふっふっふ、

まさかあいつと同じ事言う奴がいるたぁな。ああ、すっかり忘れてたぜ。

誰かの為に頑張るのが、あいつだったな。」

「・・・??」

「気にすんな、ほれ。」


一応会計(と言っても0コルでだけど)を済ませると、ポイッと髪飾りをアリアちゃんに

放った。え、えぇええぇえ・・・形見って、形見って、もっとこう・・・ねえ?

と顔に出ていたらしく、シグさんはニカッと笑って答えてくれた。


「いいんだよ、所詮は物だ。良く言うだろ?思い出はここにあるってな。」

「そ、それはそうですけど……。」


自分の胸を指差して、凄くサッパリした表情のシグさん。うぅぅん、私には

やっぱり理解できないよ。そう言えるのが大人と子供の違いなのかな?

だとしたら・・・もう少し子供でも良い気がする。


「・・・これ、も。」

「おぉ、今日は随分奮発するじゃねぇかお嬢ちゃん。毎度あり!今後ともご贔屓に。」

「ん、よきにはからえ。」

「若干使い方間違ってると思うんだけど……「・・・うっさい。」って、待って

待って!おいて行かないでー!」


最後にカウンターの近くにあった何かを購入して、アリアちゃんはさっさと

店から出て行ってしまった。うぅ、私もちょっと見たかったんだけどなぁ・・・。

でも今日は我慢!何故なら私がエスコート役なんだから!・・・あれ?エスコートって

連れまわされるって意味だっけ・・・。

Side out


Side 愁磨

「・・・ただい、ま。」
てててっ
「お、お邪魔しまぁ~す。」

「お帰り、アリアにアスナちゃん。今日はどうだった?っとと。」
ぎゅっ
「・・・・・・・・・つかれた。」


夕方。暗くなってから帰って来たアリアは何故か鉄扇を装備していた。

・・・まぁ本人は疲れたって言うし、お伴だったアスナちゃんは憔悴してるし聞かない事に

しておこう。言うほど機嫌も悪くないみたいだし、手を繋いで帰って来た所を見ると

和解したんだろう。


「あ。ママ、プレゼント。」

「あら?あらあら?これってあの怖い店長さんの所の?ありがとぉアリア~!愛してるわー!」

「・・・ん、わたしも。」


ごそごそと何か取り出したと思ったら、彼是10回は交渉に行ったであろう、

ファンシーショップに飾られていた髪飾りをノワールにプレゼントしたアリア。

頑として断って来た店長さんをどうやって説得したんだか・・・。


「アスナが、ろーらくした、の。」

「「…………へー。」」

「違いますよ!?なんでそんな目で私を見るんですか!アリアちゃんが交渉しただけです!」

「や、冗談なのは分かってるんだけど。あの店長さんがねぇ……。」


ノワールの色仕掛けにも微動だにしなかったあの店長さんがなぁ・・・と思い、

ふと二人を見やる。

アリアは淡い水色系を基調に黄色や白い布をあしらったフリッフリのゴスロリ服。

アスナちゃんも同じく淡い水色を基調にしているが、こちらは赤を合わせた

ゴス成分の入った、制服系といった感じだ。・・・ふむ、あの店長さん実は

ゴスロリか制服が好きなんだろうか。まぁそれはいい。


「それでアリア、俺の分h「・・・パパのはない。女の子の、おみせ。」

えぇぇえぇえぇえぇえぇえぇ!そぉんなぁ………。」

「・・・・・・アスナのかったら、お金なくなった。」

「「「へっ?」」」


俺だけお預けされて項垂れたのも束の間、またポケットを探りながら言った

まさか過ぎる言葉にアリアを除いた三人は同時に声を上げる。

・・・アリアが、アスナちゃんに、プレゼントだと・・・!?

前日まであんなに険悪だったのにいったい何が!?


「・・・はい、アスナの。」

「えっ!?あ、ありがと………。」


ポカーンとしたまま受け取ったアスナちゃんの両手に咲いたそれは真っ赤な・・・

アネモネだろうか。大きさからいって、恐らく胸飾りだろう。

花言葉は辛抱、無邪気、期待、可能性、純真無垢などなど。

アスナちゃんに合わない訳ではないが、何故アネモネ?


「・・・9月、30日。誕生花、"シュウメイギク"。

えーめーで"ジャパニーズ・アネモネ"。シュウメイギク無かったから・・・代わり。」

「あ、そ、そうなんだ?ありがとう。」

「ううん。たんじょうび、おめでと。」

「「「ぅえぇっっ!?」」」


アリアが花に詳しかった事も意外だったが、続いた言葉に更に驚いた。

そ、そうか。今日ってアスナちゃんの誕生日だったのか・・・。全く知らなかった。

と言うか何故アリアが知っている!キリト・・・が知ってるとも思えんし。


「あ、う、えぇ?な、なんで私の誕生日知ってるの!?」

「・・・ふふ、な・い・しょ。」


・・・・これまたビックリ。アリアは人差し指を唇に付け、悪戯っ子の様に微笑んだ。

な、何と言ったらいいのか・・・驚いた以外の言葉が見つからない。

寧ろ何かハイになる怪しい物でも食ったんじゃないかと心配になる。


「誕生日はだいじ。・・・ね?」

「………ええ、そうね。誕生日は一番大事な日よ。」

「うん、よし!今からケーキとご馳走作るぞ!ノワール、アリア!知り合い全員呼んどけ!」

「任せなさい。フフフ。」

「・・・キリトしか、いない・・・。」

「え、えの、わ、私は何を「「主役は待機!!」」はいぃぃ~~~!」

「・・・ふふ。」


その後。調理時間を短縮させるアイテムを総動員し、一時間でパーティ用のご馳走と

ウェディングケーキかと見紛う巨大ケーキを完成させ、一足先に来たキリトと

クラインとエギルに手伝わせて会場を仕立て、急な(強制)招待によって集まった

赤白の騎士達と漆黒の軍団とその他大勢でアスナちゃんの誕生日を祝った。

・・・当然、ゲームの中と言う事もあり酒が入り、最終的にほぼ全員が酔い潰れて、

男共は静かな牧草地に倒れ、数少ない女性陣5名は家のベッドで仲良くお休みした。

そして俺はと言うと―――


「よぉPoH。ザザにジョーまで引き連れて酒飲みとは、風情がありすぎじゃないか?」

「ゲェっ!し、"死神"!?テメェなんで!?」

「Wow……まさか俺達の"隠蔽(ハイディング)"を見破るとはな。流石、SAO最強プレイヤー様。」


会場から少し外れた森に入った所。キリトかと突っ込みを入れたくなる

お揃い隠蔽付黒マント(レア装備)を被った三人組・・・殺人ギルド"笑う棺桶(ラフィン・コフィン)"



リーダーと幹部二人に、ケーキを持って声をかける。フードから僅かに覗く、

骸骨仮面を装備したのが"赤目のザザ"。目の部分が丸く刳り貫かれたズタ袋を

被ったのが"ジョニー・ブラック"。そして、いつもとあまり変わりない姿の"PoH"だ。


「買い被りすぎだよ。あくまで最強はヒースクリフ団長様、ってね。」


対隠蔽用スキル"看破"も持っていない俺が何故こいつらが居るのを分かったかと

言えば・・・まぁ勘だ。ここはモンスターこそ弱いもののフィールドと安全圏の境が

分かり難い上、安全圏が異常に狭いと言う珍しい層であり、尚且つ盛大なパーティ後である。

『誤って圏外に出てしまう空気の抜けた高レベルのプレイヤーが居たらラッキー』、

と言う訳だ。それをこいつらが逃す訳が無い。尤も、ラフコフの最上位三人が

来るとは思いもしなかったが。


「ま、今日の所はノワールお手製ケーキだけで勘弁してくれ。お前らだって、機嫌の

悪くなった俺を相手にはしたくはないだろう?」

「Hu~……俺等三人を前に言うねぇ。だがお前の意見も一理あるし、こいつの手前もある。

ケーキ貰って帰る事にしよう。」

「……"死神"。この恩、一生、忘れんぞ。」

「はっは、今度ともウチの妻をご贔屓に。今度は家で酒でも飲みながら語ろうぜ。」

「俺は、人見知り、だ。遠慮、する。」


非常に残念な声で俺の誘いを断り、ケーキ1ホールを受け取ったザザはスキップで去り、

それにおっかなびっくりジョーが続く。二人が森の暗闇に消え、見えなくなった所でPoHも

歩き出したかと思ったら、思い出した様に振り返った。


「そうだ"死神"。あの話(・・・)考えてくれたか?」

「あー……アレ(・・)なぁ。パスパス。お前の考えには同意するけど、俺はゲームを

楽しみたいだけだ。それと前も言ったろ?人の名前を呼ばない子とは遊びたくない、ってな。」

「くっくく、名前を呼ぶなんて友達みたいじゃないか。おぉお……気持ち悪い。

しかしそれは残念。お前の呼び名は俺のギルドにあってこそだと思ったんだが……。

気が変わったら教えてくれ。」


楽しげに、憎々しげに嗤いながらPoHは暗闇に消えて行った。

"アレ"ってのはつまり、俺等三人"笑う棺桶"に入らないか、という勧誘の話だ。

『デスゲームなんだから殺してこそ』と言う思想は理解するが、それを進んで、

楽しんでする気は毛頭ない。あぁ・・・ゲームクリアしたら他の世界に連れてって

やるのも一興かも知れんな。考えておこう。


「ふ、ふ、ふ……ははっ!異世界を旅するのは楽しいなぁ。色んな人間がいる。

誰一人として同じ者はいない。別世界の同じ人物だとしても完全に同じ者はいない。

お前の創った世界は悪くない……。」


呟いた俺の言葉に・・・反応する者はもういない。だから、俺達が楽しむのだ。

この三千世界を。まぁ・・・・まずは明日のボス謁見の為に寝ようかね。

Side out 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧