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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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エピソード1・プロローグ

 
前書き
この小説を書こうと思った理由は、ボクタイのSSがあまり見当たらなかった事に端を発します。そして密かに書いていて意を決して投稿したこの作品が、少しでもボクタイSSが増えるきっかけになれれば、執筆者として嬉しく思います。
 

 
古の時代、月光仔が暮らしていたとされる月面に存在する都市、楽園。その地に封印されていた絶対存在(エターナル)、破壊の獣ヴァナルガンド。絶対存在は生きているわけではなく、ただそこに存在するもの。ゆえに死ぬことも無いため、もし封印が解き放たれれば獣に宿る破壊衝動の下、世紀末世界で暗黒物質ダークマターによる吸血変異を生き延びた生命をことごとく葬り去るであろう。
そんな破壊の獣を意のままにコントロールしようと目論んだ人形使いラタトスクは、太陽仔の父と月光仔の母の血を受け継ぐ太陽少年ジャンゴと、太陽意志ソルが地上に降臨した姿であるおてんこさまが召喚したパイルドライバーによって浄化された。そしてジャンゴはかつて月の一族の住処であった楽園の最深部で兄サバタと対面するも、彼は既にヴァナルガンドと同化してしまい、大崩壊(ラグナロク)を引き起こそうとしていた。世界の命運をかけてジャンゴは兄を吸収したヴァナルガンドと死線を繰り広げる事になる。ヴァナルガンドのガイコツが組み合わさった両腕から繰り出される拳は、人の身では耐えられない破壊力を以てジャンゴを肉塊に変えようとする。対するジャンゴはいくつものフレームを備えた太陽銃とスミスの所で鍛えた多くのソードを用い、死に物狂いでヴァナルガンドに立ち向かっていく。怪奇光線による状態の悪化、噛み付きからの吸血、破壊光線の圧倒的な威力。それらを前にして常人ならとっくに力尽きているはずの中、それでもジャンゴは守るべきもののために戦い続けた。

ヴァナルガンドの弱点であるはずのサバタに一切攻撃せずに。

ジャンゴにとってサバタは物心もついていない幼少の頃、闇の女王クイーンの襲撃によって生き別れてしまった血の繋がった双子の兄弟。数奇な運命の下、死の都イストラカンにて太陽少年となった自分に対するカウンターとして、暗黒少年として育てられた彼と最初は兄弟だと知らず戦う事になる。最終的にはクイーンと共に戦い、兄弟の仲を取り戻す事が出来た。
その後、ジャンゴの故郷サン・ミゲルの近くにある遺跡で、因果とも言える再会を果たす。遺跡の奥で太陽銃を使える謎のヴァンパイアと二人で戦い、父親だと気づいて迂闊に近づいた所をヴァンパイアの血を受け吸血変異が進行するジャンゴ。そんな彼をサバタはダークマターに侵された身でありながらパイルドライバーを使うという暴挙とも言える方法を使って吸血変異を食い止めた。そしてヴァンパイアの血を克服したジャンゴとサン・ミゲルに降りかかる異変を防ぐべく共に影の一族と戦うが、黒きダーインの目的、絶対存在でもある終末の獣ヨルムンガンドの四方封印は解放されてしまっていた。後にジャンゴはサン・ミゲルの住人たちの協力の下、太陽の力を使って再度封印を施す事に成功するが、それは変異域へ向かう最後の封印を解くべく、月下美人へと昇華したサバタの力があってこそでもあった。

そう、これまでジャンゴが行ってきた世界の命運を決する戦いには、必ずサバタの存在があった。自分の半身とも言える兄が共に戦ってくれたから、あの激戦を生き延びる事が出来たのだとジャンゴは思っていた。それに父も母もいなくなった彼にとって唯一血の繋がった家族でもある。だからこそ彼は絶望的な状況でも諦めずに兄を救おうとして、サバタに攻撃しないのだ。
ジャンゴの無謀にも等しい行動を破壊衝動に染まったサバタは嘲笑混じりに蔑んでいたが、ジャンゴの決死の覚悟を目の当たりにしていくと次第に彼本来の精神と破壊衝動の齟齬に苦しみ始めた。その反動でヴァナルガンドに僅かな硬直時間が発生する。その隙にジャンゴは太陽銃ドラグーンを最大チャージまで溜め、ヴァナルガンドの頭を的確に撃ち抜いた。最大威力で放たれた太陽弾の直撃を受け、弾かれた様に上を向いたヴァナルガンドは叫び声をあげると、倒れながら徐々に全身が石化していった。
戦いが終わったのか確かめるべく近づいたおてんこさまは、これが嘆きの魔女カーミラの石化能力によるものだと推測した。それに応えるように現れたカーミラから、このまま同化が進めば、サバタの魂が破壊の獣そのものになってしまう。それを止めるにはヴァナルガンドを墓石とし、共に永遠をねむるしかない。と残酷な真実を伝えられる。どうやっても兄を救えなかったのか、と落ち込むジャンゴとおてんこさま。カーミラは二人に白き森で頼まれていたサバタの最後の願いを教え、これが彼の望みだったのだと諭した。犠牲を払わずして未来をつかむことはできないのか、と自問自答するおてんこさま。
沈黙が場を支配した時、石化したはずのヴァナルガンドが突如動き出し、カーミラを取り込もうとする。このままでは石化が完全に解かれ、破壊の獣が大崩壊を引き起こしてしまうと判断したおてんこさまはカーミラに自らの太陽の力を使うよう伝える。しかしそれはおてんこさまが地上にいられなくなることを意味した。おてんこさまはジャンゴに生きて未来をきずき上げていく事を託し、ヴァナルガンドに飛び込んでいき、おてんこさまが発した太陽の光で辺りが白く染まった。

託された想いを噛みしめながらジャンゴは棺桶バイクで楽園の遥かなる荒野のハイウェイを走る、世界を存続させるため犠牲になった者達の事を思いながら。イストラカンに向かう旅では一人だったが、そこからはおてんこさまが時々敵の手でいなくなる事があったとはいえ、ずっとそばでジャンゴを導いていた。それが天涯孤独だったジャンゴにとってどれほどの支えになっていたか、彼自身も把握できていなかった。
だというのに、後ろからは耳障りな雄叫びをあげて石化を解いたヴァナルガンドが追ってきているではないか。彼らの犠牲が無駄だったと絶望してしまったジャンゴは諦めてこのまま自分も死んでしまおうと思い、バイクのアクセルを緩める。だが直後、カーミラの叱咤が届く。そしてこれはヴァナルガンドの最後のあがきで、月蝕の影の中から誘い出し、太陽の光を直に浴びせる事で完全に石化できると伝えられる。そして諦めなければ想いは生き続けると教えられたジャンゴは、逆転に、未来に繋ぐためにハイウェイを滑走する。
内部でも抵抗されているせいでヴァナルガンドの怪奇光線に先程の威力は無い。それでも馬鹿にならない破壊力ではあるが、それらをこの短期間で培ったバイクテクニックでどうにかかわしていく。体当たりでもこちらをスクラップにしようとする破壊の獣からの決死の逃走劇。地球の縁から太陽の光がこぼれてくるが、しかし目に見えてヴァナルガンドとの距離が徐々に狭まっていく。だがさっき一度諦めかけたジャンゴはもう二度と諦めないと叫んだ、その瞬間!

「アンコーク!」という声と同時にヴァナルガンドの体内から黒い影が脱出してきた。速度を同調させたジャンゴはその影、サバタの復活を嬉しく思った。しかし喜ぶのもつかの間、老朽化か何かでハイウェイが途切れており、横転したジャンゴはハイウェイに身を乗り出す事に成功するがバイクは途切れた道の先に落ちていった。一瞬だけ意識を喪失してしまうが、サバタの声ですぐに取り戻したジャンゴは迫り来るヴァナルガンドを兄弟で見据えた。
ごく短時間の最終決戦、サバタがヴァナルガンドから暗黒物質を吸い出し、ジャンゴがその身に宿ったヴァンパイアの血でトランスし、ダークジャンゴとなってヴァナルガンドを弱らせる。太陽の力と暗黒の力、そして石化能力の猛攻撃はヴァナルガンドの力を上回り、破壊の獣が完全に石化し、それによって顔が崩壊して塵となっていった。

「やったのか、カーミラ……ヌグッ!!」

突如胸を押さえてしゃがむサバタに、ジャンゴは驚く。

「ここまでか……本体が石化したとあれば、この幻影も消えるのが道理だ……」

「サバタ……?」

まさか、と思った時、ジャンゴの顔を見たサバタは穏やかな表情で光となって散っていった。思わず手を伸ばしたジャンゴだが、その手が掴めるものは無かった。

「ヴァナルガンドと成り果てたおれには、もはやおまえと共に未来を歩むことはできない。おれはこの地で……カーミラと共に、破壊の獣として永遠のねむりにつく。だが、もしもいつか目覚めることがあれば……おれは必ず、おれ自身を取りもどす! たとえどんなにつらくとも、もう二度と……未来をあきらめたりはしない!! さらば太陽少年! わが親愛なる弟よ!! 太陽がそうであるように……月もまた、いつまでもおまえを見守っている。そのことをわすれるな……」

そしてサバタの声が消えるのに続いて、薄らとおてんこさまが姿を現した。だがその表情から、おてんこさまも同じなのだと気づいてしまった。

「ジャンゴ……よくやったな。ヴァナルガンドの石化に成功した今、世界は崩壊をまぬがれた。未来は守られたのだ。だがわたしたちには……その未来をおまえと共に歩むことはできない」

母を失い、父を失い、生き別れの兄を失い、迷惑もかけられたが憎めない弟分も失い、そして相棒として過ごしてきた友さえもいなくなる事に、ジャンゴは歯を噛み締めて涙を流すのをこらえる。いくら世界のために戦ってきたとはいえ、太陽少年はあくまで少年なのだ。その精神はまだ未熟な部分も多く、失う事の痛みに心は限界だった。

「ジャンゴ……暗黒の力に近づきすぎたわたしには、もはやこの姿を維持することはできない。父なる太陽の下へ還るべきときが来たのだ。わたしが去ろうとも、おまえの戦いはまだ終わらない。あの星に生きるすべての命をほろぼすこと……それが銀河宇宙の意思であるならば、われわれの戦いに、勝利はない。だがおまえが生きている限り、敗北もまた、ありはしないのだ。未来へ命をつなぐこと……それこそが、命持つものにとっての勝利なのだからな! さらばだ、太陽少年ジャンゴ!! おまえの未来が……太陽と共にあらんことを!」

そしておてんこさまも光となって昇華していき、それが消えるまでジャンゴは見届けた。友の最期をしっかり看取るために。

「さようなら、おてんこさま。さようなら……サバタ、カーミラ。みんなが残してくれた未来を、ボクは決してあきらめない! ありがとう……ボクらの太陽!!」














本来ならこのまま、月に静寂が訪れるはずであった。
しかし突然発生したミリ単位にも満たぬほんのわずかな時空の歪みが、何の因果か目に見える程肥大化してしまった。その歪みが何も無い場所で起きたのなら何の問題も無かったのだろう。だがまるで導かれたように、歪みは破壊の獣の傍で実体化、その場にあった存在を全て飲み込んでいく。運命の悪戯まで働いたのか、破壊の獣と同化していた心も分断され、解き放たれる。そのうちの一つ、おてんこは時空の歪みが閉じる寸前に流れに弾かれ世紀末世界に呼び戻されるが、他の存在はそのまま別の世界に放り出される光景を目撃するのだった。

「まさかこれは……交わるはずの無い異なる世界とこの世界の運命が交差した影響なのか。歪みに飲み込まれたのは、サバタ、カーミラ、そして……ヴァナルガンド。この戦いは……破壊の獣と人類の未来を賭けた戦いは、他の世界を舞台にしても続くということか!」

これは太陽少年のあずかり知らぬ戦い。そしてこの影響で、彼は人としての息を吹き返した。世紀末世界の地球とは違う地球、表面上は平穏でありながら運命が集束している街に、再び目覚めし暗黒少年は降り立った。

 
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