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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第152話

愛穂達から逃げるように能力を使ってその場を離れた麻生。
かなりの距離を移動して適当な道に着地する。
ここなら愛穂達が仮に追いかけてきても見つかる事はない。
今までの自分の行動をふと思い返して近くの壁にもたれかかる。

(らしくないな。
 守ると決めたのに離れてどうする。)

この相手が普通の魔術師、超能力者なら愛穂達をかすり傷一つつけることなく守りきる自信がある。
だが、相手は麻生も知らない魔術を使い、この世には存在しない生物を使役してくる。
直感しているのだ。
あれは守りながらでは勝つ事は難しい。
一人で戦う方がやりやすいと。
だから、美琴や上条や一方通行(アクセラレータ)とは行動を共にしなかった。
土砂降りの雨の中麻生は空を見上げる。
どす黒い雨雲が一面を覆っていた。

(ともかく、あの獣を使役する魔術師を捜さないと。
 もう一度あの獣が出てくれば逆探知できるかもしれないんだが。)

そう考えて、適当に歩く。
相手は何が目的かは分からないが自分を狙っていることは間違いない。
認めたくないが星の守護者と呼ばれているのだ。
麻生を絶対に狙ってくると思っていた。
唐突に凄まじい轟音が鳴り響いた。
その音のする方に視線を向けるとビルなどを薙ぎ倒して、窓のないビルに衝撃波がぶつかるのが見えた。
その瞬間、麻生の身体に少し違和感を感じる。
気にするほどのものでもないのだが、確実に感じた。
一瞬、ヴェントが学園都市統括理事長に攻撃でもしたのかと考えた。
それは違うな、と自分で否定する。
あれほどの魔術が使えるのならあのファミレス店で戦った時に使っている筈だ。
少なくとも上条に対しては使う筈だ。
そうなるとあれほどの事ができる人物など限られてくる。

一方通行(アクセラレータ)。」

その人物の名前を呟く。
わざわざあれほどの攻撃をしたのだ。
それも上層部トップの統括理事長がいると思われるビルにだ。
麻生も気がついた。
打ち止め(ラストオーダー)を攫うように猟犬部隊(ハウンドドッグ)に命令したのは誰なのか気がついた。
学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリー。
麻生も自然とそのビルの方に視線を向ける。
あれほどの衝撃を受けてもビルは健在だった。

(アレイスター=クロウリーか。
 警戒しておいて損はないかもな。)

なぜ打ち止め(ラストオーダー)を攫ったのは分からない。
しかし攫った事には必ず意味がある筈だ。
ともかく、あの獣を使役する魔術師を捜しつつヴェントを倒しに行こうと決める。
この二つは具体的にどこにいるのは全く分からない。
無駄だと思っているが上条の電話に連絡しようとする。
その時だった。
凄まじい閃光が麻生の眼を襲う。
咄嗟に腕で目を守る。
それをしても閃光が麻生の目を襲う。

(魔術師の攻撃か!?)

能力を使って結界を張る。
次に襲ったのは未知の魔術でもティンダロスの猟犬でもない。
音と衝撃だ。
防御の結界ではなかったので麻生は音と衝撃を受けて濡れた路面に転がる。
すぐさま受け身をとって、何が起こったのか把握しようとする。
そうして前を見る。
さっきの閃光の正体はすぐに分かった。
街の一角で、膨大な閃光が溢れていた。
光の中心点から、無数の翼のようなものが吹き荒れた。
まるで刃のように鋭い、数十もの羽。
一本一本は一〇メートルから一〇〇メートルにも及び、天へ逆らうように高く高く広げられていく。
周囲にはビルがあるが、そんなものを気にしている様子はない。
濡れた紙を引き裂くように、次々とビルが倒壊していった。
人間の作り上げた貧弱な構造物を食い破りながら、翼は悠々と羽ばたく。
世界の主は人間ではないと、言外に語っているかのごとく。
まるで、巨大な水晶でできた孔雀の羽のようだった。

「こいつは・・・・」

麻生は知っている。
かつてミーシャ=クロイツェフと名乗った、あれが現れた時と全く同じ戦慄の気配。
指先一つ動かさずに人類を滅亡させる術式を操り、その片手間で自分を半殺しにした存在。

「天使。
 まずい状況になってきたな。」

何故、学園都市に天使が出てくるのかそれを考える。
麻生は自分の中にある天使の情報を思い出す。
そして気がついた。
あの天使は魔術界に存在するとされている天使にどれも当てはまらない事に。
自分で気がついて眉をひそめた。
どうなっている、と思わず呟いた時、ゴッ!!、と。
破壊の一撃が放たれた。
生み出された壮絶な雷光は、蛇のように生物的な動きで学園都市の外へと飛んでいく。
その残像を麻生は追う。
強烈な光が突き刺さった地点は、まるで土地の地下にまんべんなく爆薬が仕掛けてあったように、森と土と木々と人が上空まで舞い上げられた。
数条遅れて、爆音が全身を打つ。
今度は身構えていたので転ぶ事はなかった。
それを見て麻生は思う。

(科学の天使っていった所か。
 だが、これからどうする。)

あの天使を止めるには残っている能力使用時間をフルに使わないといけない可能性が高い。
だが、この街にはティンダロスの猟犬を操っている魔術師がいる可能性がある。
この魔術師は未知数。
出来る限り多くの使用時間を残しておきたい。
つまり、両方相手にする事はできない。
やるからにはどちらかを絞らないといけない。
未だに莫大な光を放っている天使を見て麻生は決意する。

(両方を相手にする。)

無茶な決意かと思うが麻生にはちゃんと考えがあった。
あれほどの天使を召喚するためには相当な準備が必要になる筈だ。
ミーシャがあの時出現したのも御使堕し(エンゼルフォール)が原因だった。
なら、あの天使も何かしらの原因があって召喚されたに違いない。

(何かが起こったのなら必ず原因がある。
 その原因さえ分かれば。)

まずはあの天使の所に向かう。
おそらく近づけば戦闘になるかもしれない。
なので、距離を開けて能力を使用してあの天使を調べる。
どんな性質なのかはっきりすれば召喚した原因が分かる筈だ。
あの光を放っている天使に向かって走り出す。
どれくらい走っただろうか。
かなりの距離を人間が出せる限界速度で走っていると、路地の入り口辺りに見慣れた集団がいた。
黒ずくめの集団、猟犬部隊(ハウンドドッグ)だ。
何故ここに、と少し考えていると路地から轟音と閃光を撒き散らした一撃でおそらく路地の中にいた黒ずくめたちが吹き飛びのを見る。
その一撃に麻生は見覚えがあった。
超電磁砲(レールガン)
それを出せる人物など一人しかない。
路地の中から御坂美琴が出てくる。
黒ずくめはさっきの一撃を見て、すぐさま手に持っているマシンガンを連射する。
その前に美琴が磁力でマンホールの蓋や水道管や看板などを引き寄せて盾にする。
超能力者(レベル5)の美琴にあんな装備では勝てる筈がない。
だが、目の前でああなっているのを何もせずに素通りするのもな。
そう思った麻生は軽く腕を振るう。
そこから派生した風は一瞬で暴風となり黒ずくめたちを吹き飛ばす。
いきなり吹き飛んだ黒ずくめに驚いていたが、麻生がいる事に気がついて声をあげる。

「アンタ、何でここにいんのよ!?」

「それはこっちの台詞だ。
 お前こそどうして。」

「私はあの馬鹿とシスターがあの光の放っている、何て言ってたっけ、天使?
 とにかくあれが友達だって言うからそれを助けに行ってんのよ。
 それでこいつらが邪魔だから私が代わりに相手をしている訳。」

あの馬鹿とシスターと言えば、上条とインデックスで間違いないだろう。
状況を聞く限り別れてそれほど時間は経っていないはず。

「美琴、この場は任せるぞ。」

「手伝ってくれない訳?」

「俺にもする事がある。」

「前に言ってた私は関わるべきじゃない事?」

美琴に言われ、何も答えられない麻生。
それを見てはぁ~、とため息を吐く。

「行きなさいよ。
 でも、後できっちりと説明してもらうからね。」

「美琴・・・・ありがとう。」

お礼を言って麻生は上条達が走って行った路地に入る。
ちょうど吹き飛ばされた黒ずくめたちがゆっくりと起き上がるのが見える。
倒していきなさいよね、と火花を散らしながら軽く笑みを浮かべる。

「さぁ、来なさい。
 もうちょっとだけ相手をしてあげるわ。」

負ける気はしなかった。




路地を抜けて、周りを見渡すと上条とインデックスがあの天使に向かって走っているのが見えた。
すぐさま追いついて声をかける。

「お前ら。」

後ろから声をかけられたので上条は一瞬、ビクリと反応する。
しかし、声の主が麻生だと分かると少しだけほっとしている。

「きょうすけ、どうして此処に?」

走りながらインデックスは聞いてくる。

「あの天使を止めに来たんだ。
 さっき美琴に会ったんだが、あれはお前達の友達のようだが。」

「あれは風斬だ。」

「風斬だと?」

上条からその人物の名前を聞く。
風斬氷華。
九月一日に上条とインデックスが友達になった少女だ。
麻生も少しだけ話をした事がある。
彼女の正体はAIM拡散力場の集合体。
この学園都市の能力者達が無意識に発せられるAIM拡散力場が集合した現象だ。
それを思い出して、あの風斬がどうして天使のようになったのか分かる。

打ち止め(ラストオーダー)を攫ったのはこの為か。
 ミサカネットワークを利用してAIM拡散力場そのものを制御して、人工的に天使を召喚した。)

苛立ったような舌打ちをする。
アレイスター=クロウリー。
この事態を引き起こした原因はおそらくそいつのせいだろう。
認識を改めていると、上条が聞いてくる。

「何か分かったのか?」

「ああ、大体はな。
 難しい説明は省くか、風斬がああなったいる『核』がある。
 その『核』に適切な治療を施せば風斬は元に戻る筈だ。」

「ひょうかは助かるんだね!」

少し嬉しそうな顔をする。
逆に上条の表情は曇っていた。

「でも、ヴェントがいる。
 あいつは風斬を見てもの凄くキレていた。
 多分、目標の俺を後回しにして風斬を殺しに行くはずだ。」

それを聞いたインデックスの表情も一気に曇る。
そんな中、麻生は言う。

「俺はヴェントを倒しに行く。」

「でも、その『核』についてはどうするんだよ。」

「それはお前とインデックスで行け。」

「でも、どうやって止めるかは全然分からないぞ。」

ふむ、と呟いて麻生は携帯を取り出す。
ある人物に電話をかけると今まで繋がらなかったのに今になって繋がった。

「ちょっ!?
 この状況で電話をかけてくる普通!!」

繋がった事に内心驚きつつも、これで問題ないなと考える。
おそらく黒ずくめたちと戦闘しながら電話に出ているのだろう。
電話越しから銃声音とそれを弾く金属音が鳴り響いている。
律儀だな、と感心して言った。

「美琴、これからあれを止めに行く。
 だが、あの馬鹿とシスターは何も知らなくてな。
 アドバイスしてやってくれないか?」

「今の状況分かって言っている!!」

「お前ならできると俺は信じているんだが。」

ぶっ!!、と美琴の声が聞こえる。
少し間が開いてこう言い返してきた。

「わ、分かったわよ。
 絶対に今回の事について説明を」

「よしインデックス。
 これに聞けば分からない事は全部答えてくれる。」

美琴の言葉を最後まで聞かずに携帯をインデックスに渡す。
三人はそれぞれ行動を開始しようとした時だった。
ドクン、と麻生の中で何かが弾けた。
足を止めて明後日の方に視線を向ける。
麻生が突然、止まった事に上条達は戸惑いながら声をかける。

「恭介?
 どうしたんだ。」

上条の問いかけに麻生は何も答えない。
独り言のように麻生は呟く。

「まさか・・・破られかけている?
 そんな馬鹿な。」

信じられないような表情を浮かべている。
あの麻生がこんな表情を浮かべる事はただことではない、と悟った上条はもう一度訪ねる。

「何があったんだよ、恭介!」

その声がようやく届いたのか、ゆっくりと上条の方に視線を向ける。

「悪い、当麻。
 俺行かないと。」

「どこにだよ?」

「俺の大事な人の所へだ。」

その表情は真剣だった。
だが、どこかに焦りの色が見える。
それを見て上条は言う。

「行って来い。
 ヴェントの方は俺が何とかする。
 『核』に関してはインデックスで大丈夫だな。」

麻生の表情を見たインデックスはコクン、と頷く。
彼女も何となく悟ったのだろう。
麻生の大事な人に何かあったのだと。

「すまない。
 後は任せる。」

返事を聞かずに能力を使って一気に移動する。
麻生は感じた。
愛穂に渡したお守りが破壊されつつあることを。
あのお守りは天罰術式を守る加護以外に、もう一つ特殊な加護を付加させてある。
それは防御の加護だ。
ティンダロスの猟犬が出てくる可能性を考えて付加させたのだが、その加護が破られつつあるのを感じた。
相当な事がない限り破壊されることはない。
この状況でその加護が破られつつある原因は麻生は一つしか浮かばなかった。
つまりティンダロスの猟犬の使役していた魔術師が愛穂達を襲ったのだ。
何が狙いかは全く分からない。
今は考えている余裕はなかった。
能力を使ってその破壊されつつある場所に急いで向かう。

「間に合ってくれ、愛穂、桔梗!」 
 

 
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