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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第4部 誓約の水精霊
  第2章 忠誠と敬意

トリステインの王宮で、アンリエッタは客を待っていた。

部屋の外に控えた呼び出しの声が、アンリエッタに客の到着を告げる。

通して、と告げると扉が開いた。

ルイズが立って、恭しく頭を垂れた。

その隣にはウルキオラの姿も見える。

頭を下げることなく、ただアンリエッタを見つめている。

「ルイズ、ああ、ルイズ」

アンリエッタは駆け寄り、ルイズを抱きしめた。

顔を上げず、ルイズは呟いた。

「姫様……、いえ、もう陛下とお呼びせねばなりませんね」

「そのような他人行事は、承知しませんよ」

「ならばいつものように、姫様とお呼びいたしますわ」

「そうして頂戴」

それからアンリエッタはウルキオラとルイズのの手を掴んだ。

「この度の戦争はあなた達のおかげですわ、ルイズ、ウルキオラさん」

ルイズは、アンリエッタの顔を、はっとした表情で見つめた。

「私に隠し事をしなくても平気よ。ルイズ」

「私、何の事だか……」

それでもルイズはとぼけようとした。

アンリエッタは微笑んで、ルイズとウルキオラから手を離し、ルイズに羊皮紙の報告書を手渡した。

それを読んだ後、溜息をついた。

「ここまでお調べになったのですか?」

「あれだけ派手な戦果を挙げておいて、隠し通せるわけがないじゃないの」

それからアンリエッタは、ウルキオラの方を向いた。

道中、アンリエッタが女王になったことはルイズに聞いていた。

「敵の竜騎士隊と艦隊を撃墜したとか。厚く御礼を申し上げますわ」

「お礼を言われる覚えはない」

ウルキオラの、なんとも情の籠っていない言葉に、ルイズはむっとした。

アンリエッタはそれでも微笑みを崩さなかった。

「あなたは救国の英雄ですわ。アルビオン軍はあなたが斃したも同然でしょう」

アンリエッタの言葉に、ウルキオラは反論した。

「俺は全ての艦隊を落してはいない」

「どういう意味ですか?」

アンリエッタは怪訝に思った。

あの場で艦隊を落すことができるのは、ウルキオラ以外居ないではないか、と言いたげな顔である。

「最後の艦隊を落したのはルイズだ」

「ちょ、ちょっと!ウルキオラ!」

ルイズが何とか隠し通そうとした『虚無』の力をウルキオラは軽々と話してしまった。

アンリエッタは真面目な顔つきになって、ルイズを見つめた。

「それは真ですか?ルイズ・フランソワーズ」

少し間が開いたが、ルイズは渋々といったように、ゆっくりと……アンリエッタに語った。

「始祖の祈祷書には、『虚無』の系統と書かれておりました。姫様、それは本当なのでしょうか?」

アンリエッタは目を瞑った。

口を開こうとしたところ、ウルキオラの言葉が響く。

「バカか?お前は?」

「バカとはなによ!」

急にバカ呼ばわりされたので、ルイズは激昂した。

「俺の司る死の形を忘れたか?」

「え…?」

ルイズは石化したかのように固まった。

アンリエッタは全く話についていけずに、ウルキオラを見つめている。

「俺の左手の甲に刻まれたルーンは、伝説の使い魔であるイーヴァルディー。そして、俺の司る死の形は、虚無。虚無を司る俺を召喚し、俺にイーヴァルディーのルーンを刻んだお前が、虚無の力を扱えるのは当たり前だろう」

ルイズはハッとした顔つきになった。

それもそうだわ、と思った。

「あの、ウルキオラさん?」

アンリエッタが言った。

「なんだ?」

「虚無を司るとは、どうゆう意味ですか?」

アンリエッタの質問に、ウルキオラは説明する。

「俺の種族が虚だということは覚えているか?」

「はい」

「俺はその中でも、破面という上位種族にあたる」

アンリエッタは興味深そうにウルキオラの話を聞いている。

「そして、破面は人間を死に至らしめる死の形を司る」

「死の形…ですか?」

「そうだ。それは孤独であり、老いであり、犠牲であり、虚無。これ以外にも様々な死の形がある」

「そのようなものが…」

アンリエッタはたいそう驚いた様子だ。

「それで、ウルキオラさんが司るものが…虚無だということですか?」

「そうだ」

ウルキオラはルイズに向き直る。

「ルイズ、お前の力は紛れもない虚無だ。俺の虚無とは性質の異なるものではあるが、それに変わりはない」

「う、うん…」

ルイズは軽く頷く。

「ルイズ」

アンリエッタは、真面目な顔つきでルイズの名を呼んだ。

「はい」

ルイズもそれに答えるように、背筋を伸ばす。

「あなたに約束してほしいことがあります」

「なんでしょうか?」

アンリエッタは深呼吸をする。

そして、再びルイズに向き直る。

「あなたの力はおそらく虚無。ならば、決して虚無の使い手ということを、公言しませんように。また、みだりに使用してはなりません」

「かしこまりました」

アンリエッタは、ポケットから一枚の羊皮紙を出した。

「これをお持ちなさい。私が発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外へのあらゆる場所での通行と、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です」

ルイズは恭しく礼をすると、その許可証を受け取った。

「あなたとウルキオラさんにしか解決できない事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします」

それからアンリエッタは、憮然としてウルキオラに向き直る。

思いついたように、近くの机の上にあった巾着袋を手に取ると、それをウルキオラに手渡す。

その中には、宝石や金貨などがぎっしり詰まっていた。

「これからもルイズを、よろしくお願い致しますわ。ウルキオラさん」

「いらん」

ウルキオラは、渡された巾着袋をアンリエッタの前に突き出す。

「是非、受け取ってください。本当ならあなたを『シュヴァリエ』に叙さなければならぬのに、それが出来ぬ無力な女王のせめてもの感謝の気持ちです。あなたはわたくしと祖国に忠誠を示してくださいました。報いるところがなければなりませぬ」

アンリエッタは真摯な目でそう告げた。

ウルキオラはそんなアンリエッタの目を見つめる。

「お前は俺を過大評価しすぎだ。アンリエッタ」

「どういう意味でしょうか?」

アンリエッタもまた、ウルキオラの目を見つめる。

「俺は、何もシュヴァリエとかいう爵位を貰いたくてアルビオン軍を叩きのめしたわけではない。それに、俺はお前にもこのトリステインにも忠誠を示した覚えはない」

ウルキオラのあまりの言葉に、ルイズは怒りの目を向けた。

「ちょっと!ウルキオラ!あんたどうゆう……」

「いいのです。ルイズ」

「姫様…」

アンリエッタはルイズの怒りを鎮めた。

「ウルキオラさん、あなたがどのような気持ちでアルビオン軍を斃されたとしても、結果的には私を、トリステインを守ったことになるのです。そして、私はそれを忠誠として受け取った。ただ、それだけです」

そういって、アンリエッタはウルキオラの手を握る。

「それを受け取って頂かないと、私の気が収まらないのです」

アンリエッタは真剣な顔つきでウルキオラを見つめる。

「わかった」

「ありがとうございます」

ウルキオラは、アンリエッタに突き出した巾着袋を、自分の方へと引き戻した。




ウルキオラとルイズは並んで王宮を出た。

「姫様の前で、あれはないでしょ」

「俺は、敬意を表する相手以外に言葉を思考したりしない」

ルイズは、ウルキオラを見上げて睨んだ。

「あんた、敬意を表する相手なんているの?」

「ああ、一人だけな」

ウルキオラは悲観的な顔つきで言った。

「そ、そう…」

ルイズはそれを読み取ったのか、申し訳なさそうに下を向いた。

「わ、悪かったわね」

「別に」

ウルキオラはルイズの歩幅に合わせることなく、ずかずかと歩いていく。

ルイズはとてとてと小走りして、ウルキオラの後を追い、袖を軽くつまむ。

無意識にウルキオラが離れるのが嫌だと感じたのである。




ルイズはウルキオラの袖を掴んで歩くうちに、ウキウキし始めた。

街はお祭り騒ぎで華やかだし、楽しそうな見世物や、珍しい品々を取りそろえた屋台や露店が通りを埋めている。

地方領主の娘であるルイズは、こんな風に賑やかな街を歩いたことがない。

そして異性の袖を掴んで街を歩くなんてことも、したことがなかった。

その両方が、重かったルイズの心を軽くさせる。

「騒がしいな」

ウルキオラがそういうと、

「ほんとね」

とルイズもつい楽しそうに呟く。

「俺の世界の人間たちの祭りもこんな感じだ」

「そうなの?」

「ああ。こんな風に、派手な露店が並んでいた」

そういってウルキオラは、遠い目になった。

ルイズは、きゅっとそんなウルキオラの袖を強く握る。

なんだか、急にウルキオラがどこかに行ってしまうような、そんな気分になってしまったのだ。

いつか……、ウルキオラが帰る日はやってくるのだろうか?

ウルキオラは帰らなくてもいいと言っていたが、敬意を表する相手がいるのなら、少しは帰りたい気持ちがあるのかもしれない。

そういえば、やり残したことがあるって言ってたわね。

でも、こうやって並んで歩いているときぐらい、自分の方を見てほしいものだ。

ルイズはそう思った。

そして同時に、そんな風に思ってしまう自分に腹が立つ。

好きだから?

ち、違うもん。

なんていうか、そ、そう。

プライドの問題よね。

そう自分に言い聞かせた後、ルイズはあたりを見回す。

そして、わぁ、と叫んで立ち止まる。

ルイズが立ち止まったことで、ルイズに袖を掴まれているウルキオラは、前のめりになる。

「なんだ?」

ウルキオラが振り返る。

ルイズは宝石商に目をとめたらしい。

立てられたラシャの布に、指輪やネックレスなんかが並べられている。

「見たいのか?」

とウルキオラが尋ねる。

ルイズは頬を赤く染めて頷いた。

二人が近づくと、頭にターバンを巻いた商人が揉み手をした。

「おや、いらっしゃい」

並んだ宝石は、貴族が身に着けるにしては装飾がゴテゴテしていて、お世辞にも趣味がいいとは言えない代物だった。

ルイズはペンダントを手に取った。

貝殻を彫って作られた、真っ白なペンダントである。

周りには大きな宝石が沢山嵌めこまれている。

ルイズはそのキラキラ光るペンダントが気に入ってしまった。

「欲しいのか?」

ルイズは困ったように首を振った。

「お金がないもの」

「ここにある」

そういってウルキオラは、アンリエッタから貰った巾着袋をカウンターに乗せる。

「いくらだ?」

巾着袋を開けると、一円玉ほどの大きさの金貨が、溢れるように入っていた。

商人は、ウルキオラがそんなにお金を持ていることに驚いたらしい。

「こ、こんなにいりませんよ。四枚で結構です」

先々王の肖像が彫られた金貨を四枚取り上げると、商人はルイズにペンダントを渡す。

ルイズはしばしあっけにとられたが、思わず頬が緩んでしまった。

ウルキオラは、アンリエッタから下賜されたお金で、まず自分のための買い物をしてくれたのだ。

そこが凄く嬉しかった。

手でしばし弄繰り回した後、ウキウキ気分でペンダントを首に巻いてみる。

お似合いですよ、と商人がお愛想を言った。

ウルキオラに見てほしい、と思って袖を引っ張る。

しかし、ウルキオラは他の宝石を見て、動かない。

一体何を夢中で見ているのかしら?

「どうしたの?」

ルイズはウルキオラの顔を覗き込む。

そして目が合う。

ルイズは恥かしくなって、目をそむけた。

「女は…」

「え?」

ウルキオラが小さく呟いた。

ルイズが聞き返す。

「こういうものが好きなのか?」

「う、うん…みんながみんなってわけじゃないけど…」

「そうか…」

ウルキオラは商人に向き直る。

「この、緑色の指輪を三つくれ」

「へい。六エキューです」

ウルキオラが金貨を渡す。

商人がそれを数えて、指輪をウルキオラの目の前に差し出した。

ウルキオラはそれを受け取り、ポケットに入れた。

「指輪なんてどうすんのよ?」

ルイズはウルキオラが指輪を買ったことを不審に思った。

「お前には関係ない」

そういってウルキオラは人ごみに紛れた。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

ルイズもその後を追った。




部屋に戻ってきたルイズは、ベッドの上に横たわると、鼻歌交じりで始祖の祈祷書を開いた。

どうやらご機嫌なようだ。

ウルキオラが部屋を出ようとドアに手をかける。

しかし、ルイズが杖を振って『ロック』の呪文をかけ、鍵を閉めてしまったので、開かなかった。

「こんな夜中にどこに行くのよ」

「なんだ。簡単なコモンマジックができるようになったのか?」

ウルキオラはドアから手を離し、ルイズの方を向いた。

「ええ、虚無に覚醒したら、出来るようになったわ。未だに系統の方は無理だけど……って違うわよ!どこに行くのかって聞いてるの!」

「シエスタのところだ」

シエスタという単語を聞いて、ルイズはしかめっ面になった。

「何しに行くのよ」

ルイズはじろっとウルキオラを睨んだ。

「指輪を渡しに行く」

「な、なんでよ!」

ルイズはベッドから立ち上がった。

「マフラーのお礼だ。女はこういうのが好きなのだろう?」

そういって、ウルキオラは緑色の指輪をポケットから取り出す。

露店で買った指輪だ。

ルイズは、ああ、なるほど。

だから、あの時買ったのね、といった顔になった。

しかし、それと同時に怒りが立ち込める。

シエスタへの贈り物なんて、渡してたまるものかと思った。

「そんなことより、あんたには大事なことがあるでしょー!」

ウルキオラは全く理解不能といった顔である。

「なんだ?」

「相談したいことがあるのよ」

ルイズはベッドに腰掛け、しょぼんとした顔になった。

「相談?」

「そそ、ほら!」

ルイズはベッドをポンポンと叩きながら言った。

おそらく、座れと言いたいのだろう。

しかたなく、ウルキオラはベッドに腰かけた。

「それで?なんだ?」

「ほら、私って虚無の使い手じゃない?」

ルイズは小さい声で呟いた。

「そうだな」

「そのね、戦艦を落したときの虚無の魔法、『エクスプロージョン』っていうんだけど、あのときこっきり、それから何度唱えようとしても、途中で気絶しちゃうの。たぶん、精神力が足りないんだと思うんだけど…」

「足りないなら、寝て回復させればいいだろう」

ウルキオラは、そんなこともしらんのか、といった表情で言った。

「そのくらい知ってるわよ!でも、回復が遅いのよ」

「回復が遅い?それは違うな」

ウルキオラはベッドから立ち上った。

「どういうこと?」

「強大な力は、それ相応のリスクを伴う。この世界で言えば、それは精神力、つまりは魔力だ」

「うん」

「今さっき、『ロック』の呪文は成功しただろう?」

「回復の速度が問題じゃなくて、精神力の消費度が問題ってこと?」

「ああ。あの艦隊を落したとき、お前の放った魔法は、俺の『虚閃』より強力だった」

ルイズの顔が驚愕の色に変わる。

「レキシントンを落すには、最低でも三発の虚閃を放つ必要があった。それを、お前は一発で落した」

「そんなこと…」

「ないと、断言できるか?」

ルイズは黙りこくてしまった。

「あれだけの威力を持っているのだ。連発できないのは必然だ。つまり、強力な呪文を使うための精神力が溜まるのには、時間がかかるということだ」

「ということは、次、最後まで唱えられるようになるのは……」

「さあな。一週間か一月か、もしかしたら一年かもな」

「そんな…それじゃあ、姫様のお手伝いなんて……」

ルイズははぁ、と溜息をついた。

「一つだけ、今すぐにでもお前の精神力を回復させる術はある」

ウルキオラの言葉にルイズはがばっと顔を上げた。

「ほ、ほんと?」

「ああ」

「な、なになに?」

ルイズはウルキオラに詰め寄った。

「俺の霊圧を、精神力に変換させて、お前に渡すことだ」

「た、確かにあんたの力は強大だけど、そんなこと出来るの?」

ルイズが言った。

「ああ、このルーンが、イヴァールディーのルーンがそれを可能にしてくれる」

「じゃあ、お願い。私は何をすればいいの?」

「お前はそこで立っているだけでいい」

そういって、ウルキオラはルイズの肩に手を置いた。

ウルキオラに触られたので、少し顔が赤くなった。

「始めるぞ」

左手の甲に刻まれたルーンが光り始めた。

すると、ウルキオラの周りに、緑色の霊圧が渦を巻いて現れた。

それは、ドド、と軽く音を立てて、ルイズの中に流れ込む。

「んっ…」

ルイズは、自分の中に流れ込んでくるウルキオラの力を感じ取った。

暖かい何かが、ルイズの中で渦を巻いて唸っている。

これがウルキオラの……、そう思うと、顔がまた赤くなった。

ウルキオラの手が、肩から離れた。

ルイズは少し名残惜しく感じたが、それを理性で吹き飛ばす。

「終わりだ」

ウルキオラはそういって、いつもの椅子に腰かけた。

「あ、ありがとう」

「精神力に変換したとはいえ、まだお前の体になじんでいない。使うにはもう少しかかる」

ウルキオラはそういって、机の上にあった本を開いた。

ルイズはそんなウルキオラの手から、本を取り上げた。

「まだ何かあるのか?」

ルイズは無言のまま、ウルキオラの袖を引っ張った。

「寝る」

「そうか」

沈黙が流れる。

「だから、寝るの」

「なら寝ろ」

ルイズはウルキオラには、通じないと知ると、ああもう、といってウルキオラをベッドに引っ張った。

「一緒に寝るの!なんでわかんないのよ!」

「ならそう言え」

ルイズは、小声でわかってくれてもいいじゃない、と言って布団に潜り込んだ。

ウルキオラもベッドに横たわる。

しばらく、ルイズはぶつぶつと文句を垂れていたが、そのうちにおとなしくなった。

ウルキオラは、ポケットの指輪を指でなぞりながら、渡すのを忘れたな、と思った。

明日渡せばいいか、と思いながら、窓から見える双月を眺めた。 
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