這い上がるチャンプ

　ジャックがだ、見送りに来てこう言った。
「向こうでか」
「ああ、レギュラーになってな」
「また活躍するっていうんだな」
「そうさ、その俺を観ていてくれよ」
「全然残念そうじゃないな」
「このチームを去ることか」
　ここでミッキーの目の動きが止まった、そのうえでジョンに言うのだった。
「そのことか」
「ああ、残念じゃないのか」
「まあそう言うとな、このチームでずっとプロをやってきたしな」
「そのチームを去ることもか」
「プロの常だからな」
　プロ野球選手の、というのだ。
「トレードはな」
「だからいいんだな」
「ああ、最初からそう思っているからな」
「だからか」
「向こうでも野球をやるさ」
　これがジョンへの言葉だった。
「そして向こうでな」
「レギュラーになるんだな」
「最初からレギュラーになってもらう為に獲得したっていうしな」
　それが彼がこれから行くチームの主張だ。
「年棒も上がるしいいこと尽くしだよ、それにな」
「レギュラーだからな」
「ああ、また活躍出来るから」
「そういうことだな」
「見ていなよ、六年連続ゴールデングラブだったけれどな」
「また、だな」
　ジョンも笑って応える、彼の守備を知っているが故に。
「あっちのチームで」
「あっちでもゴールデングラブ獲得するからな」
「そうか、頑張れよ」
「そうしてくるな」
　こう話してだ、そしてだった。
　彼はそのトレード先に入団した、そして入団会見の後で。
　早速練習に参加した、その守備の評価はというと。
「全く衰えていないな」
「控えの時も守備練習は欠かさなかったっていうしな」
「肩も怪我の影響がない」
「これなら大丈夫だな」
「契約通りスタメンだ」
　レギュラーで使うとだ、首脳陣は彼の守備を見て話した。
「打撃が少し弱いが」
「それはもう折込済だ」
「こっちは打てるバッターが揃っている」
「そこにあの守備が入るとな」
　内野の要であるショートに、というのだ。
「大丈夫だ」
「ああ、いけるな」
「これでな」
　こう話してだ、彼をオープン戦からショートに使った。オープン戦でも評判通りの守備を見せて実際のペナントでもだ。
　見事な守備を見せた、抜けたと思った打球も。
「捕った！」
「そして投げたぞ！」
「速い、凄い肩だぞ！」
「打った奴も足が速いがな！」
　しかしだ、ミッキーの肩の前には。
　アウトになった、その守備を観てだ。
　ファン達はだ、驚嘆し歓声と共に言った。
「よし、アウトだ！」
「今のはよく止めた！」
「この守備ならな！」
「安心してペナントを任せられるぞ」
「ああ、いける」
「大丈夫だ」
　こう言ってだ、彼に万全の信頼を置く様になった。とにかくその守備でだ。
　ミッキーはチームの危機を幾度も救った、そしてだった。