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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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異なる物語との休日~クロスクエスト~
  休日の⑤

「ああ……疲れた……」

 温泉に癒されるために入った筈なのに、謎のガーゴイルの襲撃によってどっぷり疲れてしまった。もっとも、かの《白亜宮》騒動以後、セモンの体は肉体的疲労を蓄積しない超人的な存在と化してしまったので、疲労といっても精神的なそれになるのだが。

 なにより不運なのはリュウだ。相変わらずの幸運を発揮してガーゴイルとの戦闘は回避したものの、彼はそのまま天然サウナとなった洞窟の中に生き埋めとなり、ようやくガーゴイルがもとの位置に戻って戦闘が終了した頃には、すっかり逆上せてしまっていたのだ。現在はハリンが団扇で扇いでいる。というかハリンの女子力が高い。さすがSAOの良心。

 さて、そんなわけで現在男子組は、思い思いにだらだらしながら女子組が温泉から上がってくるのを待っているのだが――――

「「……来ない」」

 理音とアツヤの銀髪コンビが、口を揃えてぼやいた。理由は単純明快である。すでにセモン達が風呂から上がってから三十分近く経過しているのにもかかわらず、いまだに女子組が上がってくる気配が一向にないからだ。

「まぁ……女の子は風呂長いって言うしな」

 キリトが苦笑しながら言う。

「って言ってもなぁ。さすがに三十分も待たされてると暇だぜ」
「良いんじゃないか? 楽しんでるんだろうし」

 VSガーゴイルで疲れ切ってしまったメテオがしかめっ面。来人が苦笑い。さすが年長者。セモンもあれくらい懐の広い人間になりたい。

「だろーなぁ。性格的に結構はやく上がってくると思うんだけどな、詩乃のやつ」

 今のは理央だ。さすが、長い付き合いをしているというだけあって、恋人の内面はしっかり把握しているらしい。
 
 それに対して、ゼツがうんうんと頷く。

「分かる分かる。遊んでんのはうちのリナだろうしな」

 ――――一体何をしているというのだ。

 内心で苦笑するセモン。

 まぁ、別にコハクがなかなか上がってこないことは、セモン達にとってそんなに問題でもない。リュウにはまだ休息を取ってもらっていた方がいいだろうし、コハクには心の底から楽しんできてもらいたいと思う。

 問題なのは――――ここに、暇になってくると大問題を引き起こしそうな、『何でもできる男』がいるからである。

「そうだ! 暇だっていうなら、卓球大会やろうぜ卓球大会!!」
「……Why?」

 予想通り、その『何でもできる問題児』……雷斗が、なぜか一台だけ設置されている卓球台を指さして言った。

「いや、温泉旅館って言ったら卓球だろ。お約束だろ? お分かり?」
「そう言う問題じゃないと思うが……まぁいい。スポーツなら余裕だ。やってやるぜ!」

 ジンが乗り気になった。「そう来なくっちゃな」と笑う雷斗。

「お、俺はパス……」

 かすれた声で、リュウが右手を挙げる。看病をしていたハリンもだ。

「じゃぁ僕も。しばらくリュウ君を仰いでたほうがよさそうだしね」
「おれは参加だな!」
「勿論俺もだ。陸軍仕込みの技術を見せてやる」

 理央とゼツが参加表明。

「じゃぁ俺も出るよ。ちょうど暇だったんだ」
「えっと……じゃぁ、俺も出ようかな。数合わせ的にも」

 キリト、理音の二人が手を挙げる。

「仕方ない。……まぁ、やるならやるで優勝を目指させてもらおうか」

 アツヤもやる気になったようだ。

「あ、俺パスな」
「おう? 意外だな。俺との決着を付けんと申すのか、来人」
「そうじゃねーよ。ただ……なんとなくな。謎の責任感を感じた」

 来人は参加拒否……彼もこの旅館に毒されて来始めたのだろうか。どこぞの少年神がドヤ顔でご都合主義を敷いているのが丸見えである。

 これはつまり――――数合わせで、「セモンが参加しろ」という事なのである。

 セモンは、直感的にそう感じた。

「じゃぁ……出るよ。これで八人だ」

 仕方なく手を挙げると、雷斗が満足げにガッツポーズをとる。

「おっしゃぁ! ……っつっても、卓球台は一つか……うーん、いちいち待ってると時間がかかって……」

 そこまで言って。急に、雷斗は口を閉ざした。その眼は、彼にしては珍しく、驚きに見開かれている。

 どうしたんだ、と問おうとして――――彼の視線の先を追ったセモンは、謎の頭痛を感じた。

 ……いつの間にやら、卓球台が四台に増えていた。時間短縮のつもりなのだろうか。というかどこから湧いて出たし。

「……まぁ、これで一台につき一試合、という事で」
「よっしゃ、早速始めようぜ!」

 セモンがしかめっ面のままそう言うと、早くも衝撃から立ち直った雷斗が、勇んで卓球台の一つに向かった。

「……っと、待った! 対戦の組み合わせはどうするんだよ!?」

 叫んだのはアツヤだ。確かに、現在の状態では誰が誰と戦うのか全くの未定だ。とりあえず雷斗というチーターがいる時点で、奴が決勝に残るのは間違いないだろうが、かといって組合せを決めないと勝負がそもそもはじまらない。

「あ~!何故か既に用意されていたくじ引きがここに~!」
「わざとらしいぞ来人!!」

 キリトが絶叫。

 ポケットから番号が書かれた紙切れを取り出す来人。マズイ。本格的にご都合主義結界の犠牲になり始めたらしい。

「とにかく引こうぜ!! 早く!」

 真っ先に飛び出して行ったのは雷斗だ。

「あっ、待て! 最初に引くのは俺だ!」

 ジンが続く。

 その次に理央、キリト、理音、ゼツ、アツヤ、セモンが引いていく。

 結果は以下の通りだ。

 ジンVSキリト
 アツヤVSゼツ
 雷斗VS理央
 理音VSセモン

「……オワタ」
「ご愁傷様とだけ言っておこうか、理央」
「おっと、そう言うお前の相手は俺だぜ、キリト。負けねぇからな」
「おっ、俺の相手はアツヤか。よろしくな!」
「やるからには勝たせてもらうぜ」
「よっしゃぁ!! 速攻で全滅させてやるぜ!!」

 上から順に理央、キリト、ジン、ゼツ、アツヤ、雷斗。

「えーっと……全力で、行かせてもらうぞ」
「分かった。精一杯やろうぜ」

 理音の宣言に、セモンも頷く。もちろん、セモンが全力を出してしまうと道具がぶっ壊れるので、出したくても全力が出せないのが事実なのだが。

 ――――馬鹿にしてるみたいで、嫌だな。こういう能力は。

 セモンは内心で顔をしかめる。《自在式》が起動できるようになってから、常人をはるかに超えるようになってしまった身体能力。《主》が何を思ってセモンをこれに覚醒させたのか、結局のところよく分からないままだった。だが、何にせよ、奴は自分が楽しむためにこの力を《設定》したにすぎないのだろう。相変わらずご都合主義な奴だ。

 ――――それでも。

「……やってやるっ!」

 対戦相手には、精一杯の敬意を払う。

 短縮のために一セットのみの試合となるため、11点先取(デュース制あり)だ。先攻はセモン。とてもプラスチック製とは思えない謎の強度を誇るボールを上空に投げると、それを理音コートの端を狙って叩き入れる!!

 スカァン!! という音が響いた。ボールは狙い通りの場所に、凄まじいスピードで飛んで行って……

 その瞬間。

 セモンは、とっさに左方向に飛んでいた。ラケットを振る。すると、カァァン!! という音と共に、ラケットがセモンの手の中から吹き飛んだ。

「なっ……」

 何が起こったのか、一瞬理解しづらかった。だが、認めないわけにはいくまい。

 ――――理音は、セモンのボールを弾き返したのだ。それも、すばらしい反射速度で。

「……すげぇな」
「《錬金術》を使うには、空間把握能力も必要だったからな。それに、色々鍛えられてるし」
「なるほど」

 一筋縄ではいくわけもない相手だった。

 それからも、恐ろしいスピードでの攻防が続く。セモンは研ぎ澄まされた直感で、理音の攻撃を先回りして防御する。理音は理音で、こちらの攻撃を的確に弾き返してくる。

 これが、卓球の試合だなどと、いったい誰が言えたものだろうか。握っているのがラケットではなく剣だとしても、全く問題はないだろう。

「う、ぉ、ぉおおおお!!」
「ぜぁぁぁぁぁッ!!」

 まだ行ける。

 もっと強く。もっともっと強く―――――!!!

 
 そう、セモンが願った瞬間だった。

 バギィ゛!! という、気味の悪い音と、パァン!! という激しい音が、同時に鳴り響いた。

「あ」
「あ」

 セモンの右手。そこには、既にラケットの姿は無く、唯々、真っ二つに折れた残骸があるのみだった。見れば、ボールも粉々に割れているではないか。

 どう見ても、セモンが力を入れすぎた結果である。

「……やっちまったぁぁぁぁぁッ!!」



 ***


 さて、時間も残り少ない。誠に残念だが、ここからしばらくはダイジェストでお送りしよう。

 セモンは降参し、あの試合は理音が勝利した。結果は0-1である。

 ゼツは卓越した身体能力と状況判断力で攻め立て、アツヤは圧倒的なスマッシュ力で攻めていった。結局、40-38という僅差でゼツが勝利し、次の試合に進む。

 ジンとキリトの勝負は、キリトの出す技をジンが読み切り、『切り裂いて行く』という展開。だがしかし、キリトはSAOで最も反応速度に特化した人物。加えて、ここに居るキリトはさらに強化を施された真なる怪物だ。対するジンもスポーツ系では、万能型であるライトをしのぐスポーツ馬鹿だ。身体能力と適応力なら超一級品。結局、ひたすらデュースが続きまくり、ジンの集中力が切れた280-282で、キリトが勝利を収めた。

 雷斗と理央の勝負は、一方的な蹂躙(ワンサイド・ゲーム)……かと思いきや、これが意外な展開となった。勝者はもちろん雷斗だったのだが、彼の放った攻撃を、理央がどれだけ後ろに飛んで行っても正確に打ち返してくるという、驚くべき実力を発揮したのだ。結局、雷斗の攻撃力の前に屈することとなったのだが。

 第二試合はゼツVS雷斗と、キリトVS理音。

 ゼツと雷斗の試合は、素晴らしい対応力を見せたゼツが粘った。時々ネタボイスが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。帰ってきたときに雷斗がところどころ焦げていたが、きっと気のせいだろう。結果は20-22で雷斗の勝利。

 キリトと理音の勝負は、今回の卓球大会で最もまともで堅実な勝負となった。スピードは確かに常人を逸している。だがどちらも卓越した技術と反応速度、未来予測を持つ強者。わずかに反応速度の勝ったキリトが、11-9で勝利し、決勝への駒を進めた。ちなみにまともに11先取で終了した試合はこれだけである。あとはちょっとバカみたいなスコアで終了している。

 そして今――――

「へへっ、お前ならここまで上がってくると思ってたぜ、キリトォ……ッ」
「俺もだ。ここまでは余裕だったかも知れなかったが、ここからはそうはいかないぞ!」
「言ってろ!!」

 決勝の舞台が、幕を上げる。

「……何考えてんだアイツら」

 アツヤが眉をしかめて呟く。

 彼がそう指摘する通り――――今、雷斗とキリトは、両手にひとつずつラケットを握っていた。ルール上はあり得ない装備だろう。だが、あの二人ならば使いこなしかねない。

「それでは……試合開始!!」

 決勝戦の審判役を買って出たハリンが、腕を振り下ろす。

「どぉりゃぁぁぁぁッ!!」

 ズカァン!! という条規を逸したサウンドと共に、ボールがキリトに向かって放たれる。キリトはそれを、二本のラケットを交差させて弾き返した。あれは、二刀流ソードスキル、《クロス・ブロック》の構えだ!!

「せぇぃ!!」

 バァン!! という音と共に、ボールが弾き返される。

「何っ!!」

 それはコートの角にあたり、あらぬ方向へと吹き飛んで行った。キリト、一点先取。

 因みにこのボールが、休んでいたリュウの頭にぶち当たって「ぐっはぁぁぁぁッ!?」と彼が絶叫したりしたのだが、誰も気にしなかった。マジ不運。

「まずは一点、だな」
「やりやがったなこの野郎……だがッ!!」

 雷斗が素早くボールを放つ。その速さ、光のごとし。

「何っ!?」
「へへっ、どうだ!」

 ライト、一点取得。キリトも咄嗟の事に反応し切れなかったのだろうか。

「……面白い! 此処からは本気で行くぞ!」
「ククククッ、そりゃぁこっちの台詞だぜ!! かかってこいやァ!!」
 
 何か雷斗の台詞が悪役っぽいのはこの際無視する。

 ――――そこから先は、形容するならこれらの言葉に尽きるだろう。

「ど う し て こ う な っ た」
「俺の知ってる卓球と違う」
「おい聞けよ。何か変な音出てるぞ」

 まるでSFのような音を迸らせながら、神速で振るわれていく二刀……もとい二ラケット。すでに繰り出されているのは卓球のスマッシュではなく、SAOのソードスキル。

 そこには、かつて多くの人々に愛された『ピンポン』の姿は、既になかった。

 ――――卓球? ああ、あいつは良い奴だったよな……。

「うォォオオオオオッ!!」
「ぜぇぁぁぁぁぁぁッ!!」

 世界の常識をはるか彼方に置き去りにして、漆黒の剣士……じゃなくて球児(?)達が攻防を続ける。ちなみにラリーがはじまってからすでに十分近く経過しているが、いまだに点数は1―1。つまり変動なしである。良く続いてるな、とむしろ感心してしまうほどだ。

 だが、まだまだソードスキル・スマッシュ・ラリーは終わることを知らないように見える。一体いつまで続くんだ……この場にいる全員がそう思い、天を仰いで、セモンが「しまった、ここの神はあの《(クソ野郎)》だ」と気付いてしかめっ面をしたあたりで――――

 事態が、大きく動いた。

「リュウゥゥゥゥウウウウウッ!!!!」

 少女の絶叫が響き渡る。神速で女湯の更衣室から飛び出した何かが、疾風とともにセモン達を突っ切り、リュウに思いっきり抱き着く。というか体当たりをかます。

「グッハァッ!?」

 卓球玉の衝撃も冷めやらぬうちにさらなるダメージを負ったリュウはすでに轟沈寸前である。本当に不運だ。

「リュウ……ハァハァ……寂しかったんだからぁ……ハァハァ……」
「ちょっ、やめろマリー!! お前そんな変態キャラじゃないだろうが!」

 前言撤回。末永く爆発しろ。少女……マリーに思いっきりすりすりされながら喚くリュウに対して、いつもは自分が言われている(とは気付いていないが)事を心の中でぶっ放してみる。

「だってぇ……だってぇ……ッ!!」

 恨めしそうな顔でミザールをにらむマリーを見て、来人が苦い顔。

「……新羅……何したんだお前……」
「何で私を疑うのよ!? マリーちゃんが男湯の方に飛び出して行こうとしたから全力で止めてただけよ!」
「いや、ふつう逆だろ」

 事実男湯で、メテオがご都合主義結界に操られて特攻をかまそうとしたのを見ているセモンは、思わず突っ込みを入れてしまっていた。

「……ね、ねぇ、清文?」
「うん? 琥珀か。どうだった、気持ち良かったか?」
「うん。最高だった……んだけどさ、あれ……何……?」

 視線の先には、今だS(ソードスキル)S(スマッシュ)R(ラリー)を続けるキリト&雷斗。

「あー……」
「すでに手遅れの気配が……」
 
 苦笑いをするのはシーナ。

「ほっときましょ。それが一番よ」
「ネオさん? それはいつも俺にやっている対処方法では?」
「効果抜群だものね」
「やめて!!」

 アステとメテオが夫婦漫才やってる。

「こんな時には……」
「みんなの抑止力に出てもらうしかありませんね!!」

 リナとオウカが何かうれしそうだ。

「というワケで、ミヤビちゃん、GO!!!」
「ちゃん付けすな!! というか『GO!!!』って何!? 私は氷漬けマシーンじゃ(無い)!!!」

 そんなことを叫びながらも、キチンと凍らせるミヤビ。……ダブルライトを。

「うぉーい!?」
「何故に俺も!?」
「止めなかったから同罪」
「キリトは!? 当事者のキリトはどうなんだよ!?」
「和人は(良いの)
「出たよ旦那バカ!!」

 そんなわけで卓球大会は強制終了となった。

 のだが。

「皆さんお上がりですか~? あらあら、卓球してたんですね。お兄様が卓球台を増やしてたのはそう言う事だったんですかぁ」

 ものかげからひょぃっ、といきなり出てきた女将(グリヴィネ)に、一同絶句。


 そう。ここは《白亜宮》の長が――――あの《主》が支配する旅館。

「お客様、お夕飯の用意ができました!」

 騒動は、終わらない。 
 

 
後書き
 お久しぶりです。Askaです!
刹「ずいぶん間が空きましたね……」
 まぁね。PCのセキュリティがぶっ壊れたり、テスト期間だったりして触れなかったから。
刹「で、結果は?」
 数学が一桁確定。
刹「」(ザシュッ!!
 ぎゃぁぁぁぁっ!!

 し、仕方ないじゃないか!! だって見たこともない問題が出てきたんだもん!! 何だよあれ!! 聞いてないぞ!!
刹「公式忘れたあなたが悪いんです」
 う……。

 まぁ、そんなわけでしたが。コラボ編もあと二話。来月の受験連休(我々の高校ではそれが春休み)で完結が望めるでしょう。
刹「もっと速くしなさいよ……それでは、次回もお楽しみに」 
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