| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

異なる物語との休日~クロスクエスト~
  休日の④

「うわぁぁぁっ!」
「すっごぉぉぉい!」
「広~い!」
「きれー!」
「うっひゃあ! すっごいねぇぇ!」

 上から順に、リナ、ヒメカ、サナ、オウカ、シーナ。

 真っ白い湯気が立ち上る露天風呂を見て、裸体にタオルを巻いただけのあられもない格好になった少女たちは歓声を上げる。

 雪が所々に積もって、日光を浴びて宝石の如く煌めいている中を、きゃいきゃいとはしゃぎながら彼女たちが歩いて行くのを見て、コハクの頬は自然と緩んだ。それに気が付いてから、やけに年寄臭い思考をしてしまったことに気付き、頭を抱えたくなってしまう。

 はしゃぎ回る少女たちとは対照的に、クールに、あるいは優美(エレガント)に歩いていく少女たちもいる。

「素晴らしい眺めですね」
「本当、よくこんなの作る気になったわね、って感じよね」
「わざわざ人の手で作業させてるっていうのが……」
「何を考えてるのやら余計に分かりにくくしてるわね」
「……」
「あの壁の向こうにリュウが……ああ、どうしてこう無慈悲に男女の湯を分ける壁とは存在するのかなぁ……」

 そんな彼女たちですら、感嘆を漏らさずにはいられないらしい。それほどまでに、《白亜宮》の存在が用意したこの露天風呂は精巧に作られていたのだ。グリーヴィネスシャドウの言葉が正しいのであれば、これを整備したのは彼女の弟……グリーヴィネスダークという名の青年だ。人間ではないため、疲労の規格が異なっているのかもしれないが、それでも凄まじい労力を要する作業であったであろうことは想像に難くない。

 だから誰もが、この光景に驚嘆の反応を返したのだ。若干一名変なのがいる気がするが。

「こら、マリーちゃん、壁の方にちょっとずつ進路変更するのやめなさい」

 ミザールがその若干一名のイレギュラー……マリーを引き留める。最初に会った時は毒舌の光る過激な少女なのかと思っていたが、話していくうちにだんだん小動物のような本性を見せていき、今ではなんとなくツンデレさんなんだろうな、という推測がコハクの中で成り立っている。恋人だという、リュウという少年を散々気にかけ、今も壁に張り付いてなんと登ろうとまでしているではないか。

「だって……だってリュウが……壁の向こうにリュウがぁぁ……!」

 謎の悲壮感を漂わせながら引きずられていくマリーに、どこか自分と似たものを感じて、コハクは苦笑した。

 ――――本当にリュウさんの事が大好きなんだなぁ。

 ――――私も、セモンのこと大好きだけど。

「コハクさん! 背中の洗いっこしましょう!」

 しみじみと感じていたコハクに向かって、既に洗い場に到達したオウカが声を上げる。

「構わないわ」

 断る理由は特にないので、甘んじて受け入れることにする。

 オウカの肌はきめ細かくて、髪の毛もサラサラだった。サナやミヤビほどではないが、きちんと出るところは出ているし、引っ込むところは引っ込んでいる。自分の体つきが貧相であることを常々気にしているコハクからすれば、羨ましい事この上ないスタイルだった。

 そんなことを彼女に言うと、

「コハクさんだってお肌とっても綺麗じゃないですか。どうやったらこんなつやつやもちもちになるんですか? 教えてください!」
「えぇ? そんな特別なことしてるつもりはないけどなぁ……」
「うーん。遺伝ですか……? だとしたら羨ましいです……」

 むぅ、とばかりに頬を膨らませるオウカ。

 取りあえずお互いの体を洗い終わった二人は、浴槽の方へと移っていく。

 ちょっとしたプールほどは在るのではないかと思えるほどの巨大な浴槽は、素人目にも一級品と分かる、それ自体がちょっとした調度品なのではないだろうかと思えてしまうほど完璧な構造で組まれた石たちでつくられていた。湯はどんな成分を含んでいるのかは分からないが、少なくとも毒ではなさそうだ。

 すでに他の少女たちは入浴中であり、お互いにスタイルのことをいじり合ったりして遊んでいる。

「ミヤビちゃんってホントに十八歳? どうやったらこんなにスタイル良くなるの?」
「ちゃん付けすな」
「うっわぁ……お肌すべすべ! どうやってお手入れしてるの?」
「すりすりすな! 凍らすぞ!」

 嫌がるミヤビを追い詰めて、シーナとリナがいじり倒しにかかる。それでも言葉通りに凍らせたりはしないのは、ミヤビなりの友情の表れなのだろうか。

 対照的にアリス、シノン、アステの三人は静かに湯につかっている。アリスのかがやくような金髪や、アステの桜銀色と表現すべき美麗な髪は、この露天に非常に似合っていた。シノンからは常識人の余裕とでもいうべきものがにじみ出ている。

「ひゃぁっ! もう、ヒメカちゃんったら、突然揉まないで!」
「ごめんごめん、サナちゃん見てたらついつい」

 きゃいきゃい騒ぐサナとヒメカ。

「あぁぁっ! リュウ! リュウぅぅぅぅッ!!」
「ちょっ! マリーちゃん待って!」

 別の意味で騒いでいるマリーとミザール。

 そして。

『ぎゃぁぁっ!!』
『うおわぁぁぁっ!?』

 どーん。

「……男風呂が、騒がしい……イオったら何かやらかしたのかしら」

 アステが壁をにらんでそう呟く。イオ、と言うのはあのメテオという少年のリアルネームだったはずだ。やんちゃそうな性格をしていたので、案外そうなのかもしれない。

 ――――セモン、大丈夫かなぁ。

 そんな場違いなことを考えながら、コハクは湯船につかった。

「あぁ……癒されるわぁ……」
「ほんとですねぇ……」

 ゆるみきった顔で疲労をため息と共に吐き出すコハクとオウカ。

 ヒロインたちは今日も平和です。



 ***



 一方、男湯。

「おわぁぁっ!」
「おいおい、大丈夫か」

 入った途端、なぜかそこに落ちていた石鹸で足を滑らせて、リュウが転びかけた。いきなり不運である。

「くそぅ……何故だ……なぜ斯様に神はこの壁を作りたもうたのか……ッ!!」
「多分暇つぶしとご都合主義のためだと思う」

 理央の歯ぎしりをしながらの呟きに対して、セモンはとっさに思ったことを以て回答とした。だってそうなんだもの。あの純白の少年神(アホ)はどう考えてもこの旅館自体をご都合主義で彩っている。だってそうでもなければしめし合わせたかのように宿泊用の部屋がホール二つしか無かったりとか、宴会会場がやけに広かったりとか、なぜか卓球台が一台だけ置いてあったりとかするわけないもの。

 取りあえずそんな異常は置いておいて、さっさと体を洗ってしまう。女性陣と違ってそこまで気にする必要もないセモンの作業は手早い。

「……って何をしてるんだゼツは」

 隣の洗い場に座っているゼツが、その長い黒髪をバスタオルの中に丁寧に織り込んでいた。見慣れない動作に、セモンは思わず質問してしまう。

「え? ああ、俺髪の毛長いからさ、こうやって保湿しないとすぐガサガサになっちゃうんだよ」
「ふーん……大変なんだなぁ」

 コハクも小波も髪型はショートヘアスタイルだし、セモンは言わずもがなである。知人で一番髪の毛が長いのがゲイザーってどういうことなの。

 そんなわけで湯船に向かう。謎の技巧を凝らして創られたその中央には、なぜか一体の、蝙蝠の翼をもった悪魔の石像……ガーゴイルだ。

 ――――何考えてんだ設計者。

 内心で突込みを入れてしまう。本当に今日は突込みのネタが尽きないな。

「うっはぁ……すげー……あぁあ……癒されるわぁ……」
「全くの同感だ……」

 お湯に肩までを沈めると、温泉の暖かさが身に染みる。それに中てられて、思わず年寄くさいセリフを吐き出してしまうセモンと、同じく年長組の来人。

「温泉ってのはいいもんだなぁ……ユクモ村のハンターは羨ましいぜ……」

 しみじみと呟く来人。
 
「イヤッホォォォオ―――――――――――イッ!!」

 歓声の尾を引きながら、雷斗が水面にダイブする。ドッボ――ン!という凄まじい音と共に、水しぶきが上がった。

「おい馬鹿! 何やってんだ!」

 頭から思いっきり湯を被った理音がいきり立つ。

「何って……お約束だろ?」
「マナーを守れマナーを。俺たちゃ静かに入りたいんだぞ」

 何を言っているのか理解できない、とばかりに首をかしげる雷斗に、突込みを入れるのはアツヤだ。

 それに激しく頷いて、リュウが突込みを引き継ぐ。先ほどの水しぶきで最も被害を受けたのは彼だった。本当に不運である。

「ハリンを見ろ! あんなまるで聖者のような表情で湯につかっているじゃぁないか!」
「いやー、あはは……」

 今の今まで水音一つ立てずに湯を堪能していたハリンが、苦笑しつつ頭をかく。さすが、しっかり者は一味違う。

 ……ハリンと言えば。

 比較的近い世界線から来たというメテオは、先ほどから男湯と女湯を隔てる壁を凝視して静まり返っていた。こういう場では一番騒ぎそうな人物だと思っていたのだが……。

「……メテオ? どうしたんだ?」
「ああ、セモンか。いや……どうやったらあの壁、超えられるかなぁ、と思って」

 ……推測は間違ってなかったらしい。

 何とまぁ、この少年も温泉イベントのお約束を忠実に実行しようとしているではないか。

「何考えてんだお前」
「だって! 男のロマンだろ!? 一回は塀を飛び越えて女湯を覗きたいって言うのは! 俺だけに限った話じゃねぇ! 俺は……俺はただ……己に与えられた役割を果たして見せるんだぁぁぁぁッ!!」

 ネオぉぉぉぉぉおッ! と誰かの名前を叫びながら、メテオは飛び上がった。

「そうはさせるかぁぁぁぁッ!!」
「行かせねぇぞ!! シノンの裸は俺のモノだ!!」
「サナの裸はお前らに見せるわけねぇだろうがァァぁッ!!」

 キリト、理央、雷斗が絶叫し、どこからか取り出した己の得物を抜きはらう。

「うおぉぉぉおっ!!」

 メテオも半透明の片手剣をどこからか抜き放ち、大乱戦に至ってしまった。

「おいおいおい」
「どうするんだよコレ……」
「つーかメテオ使命感強すぎだろ」
  
 唖然として、あるいは苦笑してそれを見守るのは、上から順番にセモン、ジン、ゼツ。

「かくなるうえは《錬金術》で……って、!?」

 HPを犠牲にして物質を自在に操るスキルを行使しようとしかけていた理音が、異変に気付いて手を止める。

「なん、だ……?」

 その殺気に、セモンの研ぎ澄まされた感覚も触れた。

 発生源は――――風呂の中央。

 唯のオブジェクトかと思っていた、ガーゴイル。

『――――風呂場ニオケル、レベル5以上ノ重大ナマナー違反ヲ確認。コレヨリ誅殺ヲ開始イタシマス』

 びこーん、と、ガーゴイルの双眸に()()い光がともる。右手に三叉の鉾を持って、背中の両翼をはためかせて。

 風呂場の守護者は、マナー違反をした客へ襲い掛かった。

「ぎゃぁぁっ!!」
「うおわぁぁぁっ!?」
「メテオのせいだぞぉぉぉっ!!」
「いや違う! どこかで俺にご都合主義をさせた神のせいだ!!」
「十中八九あってると思う!」
「畜生なんだこいつ! ゴッデボリューションしてもHPへらねーぞ!!」
「おいちょっと待て『解析結果:HP無限』って何だそれ!」
「どわぁぁぁぁっ!?」

 どーん。

 後で知った話だが、轟音は女風呂まで届いたらしい。


 ――――なお、リュウは吹き飛ばされた岩が作った空洞に閉じ込められていたおかげ(せい)で、ガーゴイルから狙われなかった代わりにしばらく出られなかったという。

 本当に幸運なのか不運なのか、よく分からない少年だ。


 そんなわけで、主人公ズは今日も平和(?)です。 
 

 
後書き
 俺の中でのミザールさんは、仕事できるけど家に帰ると旦那に甘えまくる、公私の切り替えが速いギャップ萌えの人。
 俺の中でのマリーさんは普段は毒舌だけどリュウ君がいないととたんに腑抜けるツンデレの人。
 俺の中でのミヤビさんは、女友達とキリト君には優しいけど他人と男には厳しいツンツンクーデレの人。

 取りあえず作者の皆様方、本当にすみませんでした。特に亀驤さん。まるでマリーさんが変態のように。違うんだ! これは究極のデレなんだ!! コハクもたまにこうやって暴走するんだ!
刹「言い訳無用です。不幸が連続するリュウさんはどうするんですか」(ざしゅっ
 ぎゃぁっ!

 余談ですが、この世界はSAO事件終了から三~四年後の一月上旬です。キャラの年齢とかは勝手に脳内で補完をお願いします。

刹「次回もお楽しみに!」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧