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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第67話 再生怪人が弱いと言う設定は割と通用しない場面もあったりする

 
前書き
前回のあらすじ

・桂が行方不明になったw
・妖刀探せと依頼来たw
・神楽が風邪引いてて動けないw
・なのはと定春呑気にお散歩中w

以上!

新八
「wの使い方間違ってませんか?(汗」 

 
 前回も申し上げたと思うが夜の江戸町内を一人歩くのは大変危険な行為だ。何故ならそれは辻斬りにとって格好の獲物になってしまうからである。
 なので、余程腕に自信があるか、或いは余程早死にしたい者でない限り夜の一人歩きは控えた方が良い。
 ましてや、辻斬りとやり合おうなんて考えない事だ。
 辻斬りの相手が人とは限らないのだから―――




     ***




 額に「打倒辻斬り」と書かれた鉢巻を締め、右手にだんびらを持ち、左手に安酒の瓶を持ったエリザベスが夜の往来にて仁王立ちしていた。
 酒を数リットル口に含み、それを刀の刀身に向かい吹き付ける。これに何のメリットがあるかは不明だが、とにかく気合充分と言う感じだけは見て取れていた。
 主である桂小太郎を殺めた……かどうかは定かではないが、とにかく桂を傷つけた辻斬りをエリザベスは決して許す事が出来ず、こうして夜道にて待ち伏せをしていたのである。

「ちわっす、エリザベス先輩! コーヒー牛乳と焼きそばパン買ってきました!」

 そんなエリザベスに向かい息を切らせながら新八が進言した。彼の手には紙袋が持たれており、その中に買い物した品々が入っているのであろう。
 しかも、よく見れば新八はかなり汗だくになっている。相当走り回った為であろう。
 そんな新八に対し『俺が買って来いって言ったのはコロッケパンだ! 後、お前買い物だけで一体どんだけ時間食ってんだ!』と、無慈悲な内容が書かれた板を見せつけていた。
 前回の男らしい一面から一転し、元の腑抜けた新八に逆戻りしたらしい。現在はエリザベスのパシリとしてコンビニやらスーパーやらへ買い出しに勤しむ今日この頃である。
 ちなみに、現在エリザベスが持ってる安酒も彼が購入してきた品であったりする。

「す、すみません……たまたま立ち寄ったコンビニが混んでたもんで、後コロッケパンは売り切れてたんで代わりになる奴って事でやきそばパン買ってきました! すんません!」

 すっかり腰巾着っぷりが板についてる新八であった。売っていなかったのであれば仕方がないとばかりにエリザベスは半ば不満そうに紙袋から焼きそばパンを取り出し、それを一口の如く口の中へと放り込んだ。

「しかし、大丈夫でしょうかねぇ。まさか辻斬りを逆に辻斬ろうだなんて・・・しかも相手はあの桂さんをやった相手ですよ!」

 新八は今回の作戦に余り乗り気ではなかった。確かに彼自身も辻斬りは許せない。
 罪のない人を無慈悲に切り捨てる行為。それは侍道からは逸脱した行為に他ならない。同じ侍道を志す彼にとっては正に我慢出来ない行為であったのだ。
 だが、今回の辻斬りは相手が悪い。何せ、あの桂小太郎を仕留めた程の手練れだ。果たして、そんな奴相手にたった二人で勝てるのだろうか?
 不安が募るばかりであった。

「やっぱり、此処は僕たちだけじゃなくて銀さんとかに頼んだ方が良かったんじゃないですか? 僕たちだけじゃ勝ち目なんてないに等しい―――」

 言い掛けたその時だった。突如エリザベスの持っていた刀が音を立てて新八目がけて飛んできたのだ。
 猛烈な風切音と共に鋭い刃が真っ直ぐ迫ってくる。咄嗟に新八はバランスを崩し背後の壁に激突した為に難を逃れる事が出来た。
 後少し反応が遅れていれば新八の体と首が離れ離れになっていたかもしれない。

「いたた……いったい何するんだよ!」

 流石にこれには我慢できなかったのか、怒り心頭な表情でエリザベスを見る。
 すると其処には『俺の背後に立つな! 早死にする事になるぞ』と書かれた板を見せつけているエリザベスの姿があった。
 ただし、その時のエリザベスは濃い眉毛を蓄えており、かなり目力がある顔をしていたのだが。
 まぁ、どんな顔をしようとやった行為は許されるものじゃない。

「うっせぇよ! どっちが前か後ろか分からないゾ○クみたいな体してる癖に!」

 ちなみにゾ○クとは某公国軍が開発した水陸両用MSであり、その大きさは当時のMSよりも一回り近く大きかったと推測されており、全身に装備されたメガ粒子砲の威力は―――

「ってか、地の文も何MS解説してんだ! 出てこないからね。水陸両用MSとかメガ粒子砲とか、そんなのこの銀魂の世界じゃ縁遠い世界だからね!」

 と、地の文にまでツッコミを入れる流石はツッコミの伝道師である。
 そんな風に騒ぎまくっていれば当然人通りの少ない通りではかなり目立つ事になる。

「おい、お前たち!」

 そんな二人に対し声を掛けてきた。まさか、辻斬り!
 思わず肩を震わせた新八であったが、声の主は近辺を巡回していた同心であった。提灯を片手にこちらを照らしており、その表情からは疑いの目が向けられている。
 そりゃそうだろう。こんな夜道で騒ぐのだから怪しまれて当然とも言える。まして一人は異形の生物なのだから。

「あ、すみません。僕たち別に怪しい者じゃないんで」
「いや、どう見てもお前ら怪しいんだが……まぁ良い。とにかく早く帰る事だ。何せこの辺りには―――」

 言葉の途中で同心の動きが止まった。一体どうしたのだろうか?
 まるで、同心の人だけ時が止まったかの様に微動だにしない。
 かと思われた刹那だった。突如として、同心の上半身だけが横にスライドしたのだ。ほんの数センチ横にずれた後、上半身は地面に倒れ、残った下半身から噴水のように血が噴き出した。それらの光景が新八、そしてエリザベスの目の前で起こったのだ。
 新八の目が硬直した。目の前で同心が真っ二つにされた事もそうだが、何よりもその後ろにいた存在に目が奪われたのだ。
 其処に居たのは、刀を手に持ち薄汚れた緑色の着物を着て、少し風変りなメガネを掛けた終始目を瞑っている男だった。
 
「この辺りには辻斬りが出るから危ないよ~~」

 男から発せられた間延びした声。何処か人を小馬鹿にするような癪に障る声が聞こえてきた。
 新八はこの男に見覚えがあった。そうだ、あの時の男だ!
 以前、橋田屋の件にて自分たちの前に敵として現れた人斬りだった。
 確かその名前は―――

「似蔵……あんた、あの人斬り似蔵!」
「おやおや、俺もすっかり有名人になったもんだねぇ~。お前さんみたいな小僧に名前を憶えて貰えるなんてねぇ~」

 相変わらず間延びした口調が不気味に聞こえてくる。まさか、こいつが桂小太郎を倒した相手なのか?
 そうでなかったとしてもこいつが相手では分が悪いどころか勝ち目がないと言える。
 奴の居合い切りは正に一瞬の間に起こる出来事なのだから。気が付けば自分が今切られた同心のようになってしまう。
 そんなイメージが脳内に浮かび上がると、新八の体が硬直してしまった。
 まるで、全身見えない何かに押さえつけられているかの様に微動だにしなかったのだ。
 そんな新八の今の心情など知っているのかいないのか、似蔵は不気味に笑みを浮かべて手に持っていた刀についてた血糊を振り払って見せた。
 一振りで刀についていた血糊が全て拭い去られる。それだけでも彼の腕前が分かる仕草であった。
 勝てない。新八の脳裏に瞬時に浮かんだ答えであった。彼を相手にするには自分では到底役不足だ。
 やる気満々のエリザベスが隣には居るが、どれほどの実力かいまいち分からない。下手に挑めば目の前で骸になってしまった同心と同じ運命を辿るかもしれない。それだけは嫌だ。だが、体が言う事を聞いてくれない。
 咄嗟に隣に居たエリザベスが新八の腕を掴み後方へと投げ飛ばした。少しでも動けない新八を似蔵から遠ざける為だ。
 だが、その結果として無防備な状態を似蔵の目の前に曝け出す結果となってしまった。
 そんなエリザベスに似蔵の不気味な笑みが映る。

「え、エリザベス先輩ぃぃぃ!」

 跳ね飛ばされた新八が叫ぶ。今から駆けつけても間に合わない。
 似蔵の刀が頭上に振り上げられた。
 その刹那であった。突如激しい振動と音が響き渡った。余りの音に驚き一瞬目を瞑った新八は急ぎ視界を元に戻した。
 其処には先ほどまで持っていた刀を跳ね飛ばされ丸腰の状態となった似蔵と、その似蔵の前に立ち尽くす銀時の姿があった。

「銀さん!」
「やれやれ、妖刀探して回ってたら随分と懐かしい顔に会っちまったじゃねぇか」

 呟きながらも銀時の背中からは何時も以上に闘志が芽生えているのが分かる。が、その燃え滾る展開とは裏腹に銀時の下半身は何故かポリバケツの中にあった。
 どうやら新八達と同じくずっと待ち伏せを行っていたらしい。
 しかもポリバケツの中で―――

「おやおや、こりゃまた偉い大物が掛かってくれたみたいだねぇ。俺の事覚えてるかぃ」
「生憎だなぁ。俺が覚えられる敵キャラはラスボスクラス位なんだよ。そんじょそこらの雑魚ボス程度なんざいちいち覚えていらんない性質なんでな」

 互いに会話をかわすもその会話はまるで鋭利に尖った刃のように鋭かった。まだ刃を交えていないと言うのに既に刃を交えあっているかの様に思えてしまう。

「銀さん、どうして此処に?」
「なぁに、前に扇風機を買った店でちょいと情報を小耳に挟んだんでな」
「扇風機を買ったって……あのガラクタの事ですか?」

 実は前に扇風機を買い直す為にと骨董品店に足を運んだ事があったのだ。その際に多少いざこざに巻き込まれはしたがそれを無事に解決したお礼にとタダで扇風機を貰ったのである。
 ところが、これがとんだガラクタであり結局廃品回収に出す羽目になってしまったと言うのは新八にとっても記憶に新しい事である。

「そんで、いろいろと探し回ろうと思ったんだけど、面倒臭いんで待ち伏せしてたらこれ……って訳だな」
「どんだけ適当だったんですか! まぁ、そのお陰で何度も助けられてる訳なんでしょうけど」

 今更な事ではあるが銀時のこの適当っぷりに新八は何度か助けられているのだ。その為に余り強く反論が出来ない現状だったりする。
 しかし、せめてもう少し真面目に取り組んでほしかったりする。

「さてと、お喋りはこの辺にしておくとするか。おいコラ! ここ最近で起こってる辻斬りは全部てめぇの仕業で間違いねぇな? 返事はYESかはいしか聞かねぇぞ」
「くくく、あぁそうだよ。俺もおニューの刀を手に入れて多少舞い上がっちまってねぇ。ちょいと腕試しにと夜な夜な腕っぷしの強そうな奴とやりあってたんだよ」
「ヅラもその中の一人って事か?」
「ヅラ? あぁ、桂小太郎の事か……奴も大した事なかったねぇ。あっさり片付いちまったよ」

 終始人を食ったような言動を見せる似蔵に銀時は苛立ちを感じていた。相変わらずこいつの話し方は癪に障る。
 だが、それが奴の戦術であるならばそれに乗るのも癪に障る。なので此処はぐっと耐える選択をした。敵の手のひらで踊るなど御免こうむるからだ。

「桂さんが……あんたまさか桂さんを!」
「寝言は寝て言いな。ヅラがてめぇみたいな雑魚キャラ如きにやられる訳ねぇだろうが」
「くくく、酷いねぇ。さっきから人の事を雑魚雑魚と……案外傷ついちゃうじゃないか」
「辻斬りやってる野郎がそんなピュアなハート持ってる訳ねぇだろうが! そんな事する奴ぁ大概泥水より薄汚ねぇハートしてんだよ」
「薄汚いねぇ。生憎俺ぁ自分の魂は見た事がないから分からないんだが、多分そうなんだろうねぇ……あ、そうだ。すっかり忘れる所だったよ」

 思い出したかの様に呟くと、似蔵は懐をまさぐりだした。そして、懐から束ねられた黒い髪の束を手に取って見せてきたのだ。
 艶のある特徴的な黒髪。あれは間違いなく桂の髪に相違なかった。

「それは、桂さんの……」

 驚く新八の横で『貴様、桂さんになにさらしとんじゃぁ!』と怒りのこもった板を見せびらかすエリザベス。そんな驚く二人の前で銀時もまた目を凝視させていた。

「あの狂乱の貴公子とも言える桂小太郎を斬った記念にと毟り取っておいたんだが、あんたらが持ってた方が奴も喜ぶだろうよ。何せ、あんたと奴ぁお友達だったってんだろ? 白夜叉さんよ」

 そう言い銀時に向かい黒髪の束を放り投げる似蔵。だが、それを受け取る動作をするまでもなく、銀時は脱兎の如く跳躍し、似蔵と距離を詰めた。
 互いに刀を振れば斬られる位置まで接近し、木刀の一撃を叩き込む。それに合わせるかの様に似蔵も刀を抜き放ち応じ出た。

「おいおい、慌てんなよ。まだ開始のゴングすら鳴ってねぇんだぜ?」
「そうやって余裕ぶっこいてろ。その余裕ごとてめぇの寝ぼけた神経を叩き起こしてやる」
「やれやれ、あれを見せてもまだ信じないってのかぁ。しょうがないなぁ……」

 言葉を区切り、似蔵は後方へと飛び退いた。そして、再び懐に手をやり、またしても髪の束を取り出して見せた。その髪の束を見たとき、銀時は、そして新八は凍りついた。

「そ、その髪……てめぇ!」
「あ~、前にあんたの横でちょろちょろしてたガキが居たなぁ。たぶんそいつの髪だろうよ」

『あの栗色の髪はまさか……』と、震えながら板を掲げるエリザベスの横で、新八は真っ青な顔をしていた。あの髪の色、そしてそれを束ねているリボンは間違いない。

「お前……まさか、なのはちゃんを斬ったのか?」
「あぁ、確かそんな名前だったねぇ。いやぁ惜しい事したねぇ~。こんな艶の良い髪をしてんだ。さぞかし色っぽい娘だったんだろうねぇ~。斬るんだったらもうちょっと熟れてから斬りゃ良かったよ」

 さも残念そうに呟きながらも、似蔵は手に持っていた栗色の髪を鼻先に近づけて匂いを嗅いで見せた。その仕草はまるで変態、もしくは狂気じみた輩を連想させられた。

「しかしやはり女の髪は良いねぇ、この艶でこの香り、う~んやっぱ良い女は髪も良い髪してる―――」

 会話は其処で打ち切られた。無言のまま銀時の猛烈な一撃が似蔵に向かい浴びせられたからだ。無論、その一撃すらも似蔵は刀で防いでいたのだが。

「てめぇ、年頃の娘にとっちゃ髪は命よりも大切だって習わなかったのか? しかもそれを父親の前でちらつかせるたぁ、ぶっ殺して下さいって言ってるようなもんなんだぜ!」
「そうかい? それじゃぶっ殺してみてくれよ。お義父さん!」
 
 目の前の銀時を振り払うかの如く似蔵が横薙ぎに剣を振るった。それを後方へステップしてかわし、再度切り掛かる。再び互いの剣同士がぶつかり合い火花を飛ばす。
 互いの目と目が合わさり息が混ざり合う。

「後悔してるんじゃないかい? あの時俺を仕留めておきゃ桂も、あんたのガキも死ぬこたぁなかったんだからなぁ」
「寝言は寝て言えってんだろうが! てめぇみたいな雑魚にヅラも、それに家のガキもやられる訳ねぇだろうが!」
「まぁ、確かに以前の俺なら桂に勝てなかっただろうねぇ。だが、奴を斬ったのは俺じゃない。こいつのお陰さぁね」

 不気味な笑みが更に不気味さを増す。そんな似蔵のメガネに映った銀時の顔が突如何かを見つける。それは、似蔵の腕から管の様な物が続々と生えてきている光景だった。余りにもおぞましいその光景に銀時も胆が握られた思いがした。

「なぁ、紅桜!」
「紅桜……だと!?」
 
 銀時の目の前で紅桜と呼ばれた刀は徐々にその形を変えだした。はじめは何処にでもある刀だったのが徐々に厚みを帯び、まるで西洋の世界に出てくる巨大な剣を彷彿とさせる位にまで大きくなったのだ。

「てめぇ、そんなでかい刀引っさげてモンハンでもする気か? だったらここじゃなくてココット村とかジャンボ村とかに行けよ」
「生憎だねぇ。俺が狩りたいのは、あんたらみたいな腕っぷしの強い奴らだけだよ!」

 その言葉を皮切りに今度は似蔵が攻勢に打って出てきた。離れていた銀時に向かい今度は似蔵が一気に距離を詰める。その速さに銀時は驚くが、すぐに木刀を構えた。次の瞬間には似蔵の持っていた巨大な剣が振り下ろされていたからだ。
 防いだ木刀から剣の衝撃とは思えない程の重圧が腕から全身へと伝わってきた。
 まるで丸太ん棒か鉄球の直撃を食らったかの様な衝撃だった。

「くそっ、どんだけ馬鹿力なんだよ!」

似蔵の剣を弾き、再度木刀の一撃を振りぬくが、それすらも似蔵の振るう刀がまるで舞い散る木の葉を払いのけるかの如く簡単にあしらってしまう。其処へまた強烈な一撃が繰り出される。防ぐだけで腕がもぎ取られてしまいそうな威力だった。

「ほらほら、どうしたんだい? 守ってるだけじゃぁ俺は倒せないよぉ~」
「野郎……」

 額に冷や汗を流す銀時とは対照的に似蔵は余裕の表情を浮かべていた。それもその筈だ。銀時の攻撃は全て紅桜の一撃でかき消されてしまうのだから。
 それに対してこちらの攻撃を向こうはどうにか相殺するので手一杯の状態。とても勝負になっていないのは明らかであった。
『この小説でこんな戦闘シーンがあるって事は。今回はシリアスパートなのか!?』と書かれた板を掲げつつ驚愕を見せるエリザベスであったが、その表情からは一切表情が見て取れなかった。
 
「銀さん!」
「来るな、新八!」

 新八の身を案じ来ないように促す。だが、その一言を放つ瞬間が似蔵にとっては重大な隙となってしまった。

「よそ見はいけないなぁ。よそ見は―――」
「!!!」

 横目に映る似蔵のにやけた不気味な顔。そして迫り来る紅桜の脅威。完全に劣勢に立たされていた。こちらの攻撃は尽く跳ね返され、逆に向こうの攻撃はどうにか捌くだけでも全神経を使う羽目になる。まるで勝負にならない。

「ちっ、何が妖刀だよ。あの刀鍛冶めホラ吹きやがって。ありゃどう見ても生き者……いや、化け物じゃねぇか」
「人の事言えるのかいぃ? あんただって世間から見りゃ立派な化け物じゃねぇか。化け者同士仲良くやって行こうや」
「折角だが御免こうむるぜ。俺は例え死んだっててめぇにお義父さんなんて呼ばれたくねぇんだよ!」
「そりゃ残念。じゃ死んで貰おうかぃ? 白夜叉さ~ん」

 



     ***




 広大な宇宙を一隻の船が漂っていた。天人の飛来により飛躍的に文化が向上した今の江戸では宇宙旅行も出来るのである。
 そんな宇宙を漂う船の中にて、一人佇む男の姿があった。ダークグリーンの派手な色の髪にそれよりも更に色の濃いジャケットを着こなし、サングラスにて素顔を隠している川上万斉は、両耳に嵌めているヘッドフォンから流れてくるメロディに至福の一時を感じていた。

「万斉殿、そろそろ次の場所に到着致します」
「……」
「万斉殿!!」

 隣で怒号を挙げる浪人に気づいたのか万斉は片方のヘッドフォンを持ち上げて浪人の方を見る。どうやらそれほどの音量で聞いていたのだろう。耳に悪いので良い子は真似しないように。

「どうしたでござるか?」
「次の現場に到着しました。支度の方を宜しくお願いします」
「分かったで御座る。ところで、お主は知っておるか? 今江戸で話題のアイドル歌手寺門通の新アルバムが登場したのでござるよ」
「いや、そんなのどうでも良いんでさっさと降りる支度して下さいよ。頼みますよ万斉殿! 次の相手はさっき会談した春雨とは比べ物にならない位ビックな相手なんですからねぇ!」
「知ってるで御座るよ。例の……何でござったかなぁ? じ、じ、地獄耳観察日記でござったか?」
「あんた一体どう言う耳してんだよ! 時空管理局ですよ! しかもその将軍クラスの人との面会なんです! ただでさえ時間に厳しいんですから急いで下さいよ!」

 浪人の慌て振りがさも面白く見えたのか、それとも今聞いている曲が気に入ったのか、理由は定かではないが万斉は半ば上機嫌で頷いて見せた。
 先ほどの春雨との会談は上手く行った。今度は以前報告で聞いた異世界の組織との会談である。
 規模的に見ても春雨より巨大な組織と言うのは聞いている。だが、巨大な組織であればある程裏に根付いている闇もまた大きい。
 その闇に万斉は付け入ろうとしているのだ。

「さて、拙者の弁舌で上手く奴らを転がせられるで御座ろうか? 一世一代の大プロデュースでござる。腕が鳴るで御座るなぁ」

 そう言いながら、万斉の口元が上向きに持ち上がった。そして、再びヘッドフォンを耳に傾けながらしばしの間音楽を楽しむのであった。




     ***




「おかしいねぇ、あんたこんなに弱かったっけ? 前に戦った時の方がまだ強かったよねぇ?」

 呑気な物言いをする似蔵の前ではふらつく銀時の姿が見えた。似蔵の怒涛の攻撃にひたすら防ぐ事の繰り返しを行ってきたのだが、いよいよ限界が訪れてきたのだ。

「おかしいねぇ、お前さんの刀……つくづく化け物じみてるんじゃねぇのか? あれか、RPGとかで良くあるラスボスの魔王が使う魔剣って奴か?」
「世間じゃこいつは不幸を呼ぶ剣と言うがねぇ、俺にとっちゃ強者と引き合わせてくれる吉兆の剣さねぇ。まぁ、相手がこうもあっさりと倒されてるんじゃちょいと有難みが薄れちまうんだけどさぁ」

 ブンブンと自慢の刀を振り回して見せる似蔵。その刀は既に似蔵の腕半分まで浸蝕し始めており、最早剣が似蔵の一部になっているのか似蔵が剣の一部になっているのか全く分からなくなってしまっていた。

(おいおい、久々のシリアスパートだってのに、こりゃないんじゃねぇのか? 幾らなんでも相手が相手過ぎんだろう)

 心の中で愚痴りながら銀時は手元を見た。頼りの木刀には所々亀裂が走っている。恐らく次の一撃を防いだら簡単に折れてしまうだろう。それが折れた時、それが自分の最期になるやもしれない。

「悲しいねぇ、桂と言いあんたと言い、かつての猛者がこうも弱くなっちまってるとはねぇ。俺ぁ残念でならないよ。もうちっと骨のある奴かと思ったんだが……とんだ見込み違いだったのかねぇ」
「何が言いてぇんだ? 要点を掻い摘んでから喋れや」
「あんたみたいな古い侍はもう必要ないって事だよ。時代はもうあんた等を必要としちゃいない。あの人を必要としてんのさ。あのガキもかわいそうにねぇ、あんたじゃなくあの人に拾われてりゃ長生き出来たのにねぇ」

 再び栗色の髪の束を取り出しそれを鼻先に近づけて匂いを嗅ぐ。相当気に入ったのか。どちらにしても銀時にとっては不快でしかなかった。
 大事な娘の命の一部でもある髪をあんな輩に持たれるなぞ屈辱以外ないのだから。

「ま、良いさ。あの世で親子仲良く宜しくやってな!」
「!!!」

 来る! 奴が来る! 猛然とした勢いで似蔵が迫ってくるのに対し、銀時は身構えた。この次の一撃で全てが決まる。死ぬか生きるか。こうなればやぶれかぶれだ。
 覚悟を決めた正にその刹那だった。
 突如銀時の目の前に黒い影が舞い降りたかと思うと、似蔵に一撃を受け止めたのだ。

「なっ!」
「ん~?」

 突然の事に銀時は驚き、似蔵は首を傾げた。似蔵の目の前にいたのは銀時の様に白い着物一式を身に纏い、栗色の長い髪を根本で束ね、顔には白い仮面で覆い隠した細見の剣士であった。

「おやおや、これはまた奇妙な巡り合わせだねぇ。まさかあんたが現れるなんてねぇ」

 仮面の剣士を前にして似蔵はさも嬉しそうに呟いていた。銀時もその剣士の後ろ姿に見覚えがあった。そう、以前桂が見せた監視カメラの映像に映っていた剣士だった。
 江戸転覆を目論んだ地上げ屋一派を尽く壊滅させた凄腕の剣士。それが今目の前に立ち銀時の窮地を救ったのである。

「気が変わった。あんたがこの町に居るとなりゃいの一番にあの人に伝えなきゃねぇ~。きっとあの人も喜ぶ事間違いなしだろうさぁねぇ」

 似蔵から戦意が消えていくのが分かる。あの人に伝える。喜ぶ? 一体何の事なのか銀時にはさっぱり分からなかった。

「でも……折角会えたんだし……一手殺り合おうや!」

 言葉を放った直後、似蔵が横薙ぎに刀を振るう。が、それが仮面の剣士に当たる事はなかった。
 一瞬、それは正に一瞬の世界だった。刀を薙いだ音がしたかと思うと上空を一本の腕と刀が舞っていたのだ。
 紛れもなく、それは似蔵の腕と紅桜であった。

「あ~らら、やっぱ俺じゃ駄目か……流石は噂に聞くだけの事はあるねぇ~」

 腕を切り落とされたと言うのにこの余裕っぷりである。とぼとぼと歩きながら地に落ちた紅桜を拾い、それを鞘に納める。

「今日の所はこれで帰るわ。次に会う時にゃもう少し骨のある戦いがしたいねぇ、白夜叉」
「待てコラ! 逃げるのかよ!?」
「そいつに感謝しな。あんたを救ったのは紛れもないそいつなんだからさぁ」

 そう言い残し、似蔵は走り去ってしまった。追い掛けたかったが今の銀時では到底出来そうにない。既に体の節々が悲鳴を上げており、正直今にでも倒れてしまいそうな程なのだから。
 
「やれやれ、あいつの言う通りなのは癪だが、とにかく助かったぜ。有難う―――」

 言葉を言い終わる前に、仮面の剣士は振り返った。そして、有無を言わさず、持っていた刀を振りかざし、銀時のどてっぱらに深く突き刺したのだ。

「が・・・あぁっ!」
「ぎ、銀さぁぁぁん!」

 信じられない光景が其処にあった。助けてくれたと思っていた仮面の剣士が今度は銀時の腹に自分の刀を突き刺したのだ。余りにも予想外の出来事に困惑する銀時。
 そんな銀時の耳元に仮面の剣士の顔が近づく。

「契約完了だ……後は好きに使え」
「そ……その声! お前……まさか!」

 痛みで意識が朦朧とする銀時と、銀時の腹に突き刺さった刀を手離し、仮面の剣士は去ろうとする。

「うおぉぉぉぉぉ!」

 頭上から怒声が響いた。見上げると、エリザベスが持っていた刀を両手に持ち新八が飛び降りて来ていたのだ。
 渾身の一撃が仮面の剣士に襲い掛かる。咄嗟に避けた仮面の剣士だったが、新八の振るった剣の切っ先が仮面の剣士の顔を覆っていた仮面に当たる。その衝撃で顔を覆っていた仮面が弾き飛ばされてしまった。

「お前、よくも……よくも銀さんをぉ!」

 怒りに目が血走った新八が刀を構え、仮面の剣士を見入る。仮面がはぎ取られた為に剣士の素顔が月夜の光を受けて明らかになった。
 その素顔をみた新八の中で、一瞬時が止まるような感覚を感じた。
 そんな馬鹿な。その顔は、お前は―――
 驚愕の余り思考が停止し棒立ち状態となっていた新八の横腹に、剣士は強烈な回し蹴りを叩き込んだ。骨がきしむ音がする。悲痛の声をあげながら、新八は壁に叩き付けられてしまった。
 
「づ……」

 相当の衝撃を食らったのだろう。新八は腹部を抑えたまま身動きが取れない状態になっていた。そんな新八や銀時を尻目に、剣士は落ちていた仮面を拾い、再び顔に嵌める。

「骨は折れてはいまい。私を捉えた腕は評価するが、まだまだ練度が足りない。死にたくなければ戦場に首を突っ込まない事だな。少年よ」

 動けない新八に向かい、仮面の剣士は言葉を投げ掛ける。そして、それを言い終わるとその場から跳躍し、姿を眩ませてしまった。痛みが和らいだのを感じ、新八はよろよろと身を起こした。
 そして、銀時の元へと駆け寄る。

「銀さん、銀さん!」
「へへっ、ぱっつぁんよぉ……あいつに掠り傷つけるなんざぁ、やるじゃねぇか。見直した……ぜ―――」

 その一言を最後に、ガクリと銀時の首が項垂れた。幾ら新八が肩を揺らしても、一切反応を示さない。
 まるで、その体が死体となってしまったかの様に。

「嘘だ、嘘でしょ? 銀さん……銀さぁぁぁぁぁん!!!」

 月夜の照らす夜道に新八の悲鳴が響き渡る。だが、幾ら新八が悲痛の叫びを流そうとも、銀時がその身から赤い鮮血を垂れ流そうとも、月はただ闇夜を照らすだけであった。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

妖刀を探していた銀時の前に現れた化け物刀紅桜とそれを扱う人斬り似蔵。
窮地を救ってくれた謎の仮面の剣士。
その仮面の剣士に重症を負わされてしまう銀時。
新八が見た仮面の剣士の素顔とは?
そして、いつになったら神楽の風邪は治るのか?

次回をお楽しみに

『これ、次回予告じゃなくて今回の話の要点まとめじゃね?』と書かれた板を持ち上げるエリザベスがいた。 
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