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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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九校戦編
  第14話 新人戦の途中は

スピード・シューティングで1位になったら、一高の天幕ではちょっとしたお祭り状態になっていた。女子のスピード・シューティングでは、1位から3位を独占。男子はそれに及ばなかったが、1位と3位の優秀な成績との理由だ。それに対抗魔法である術式解散『グラム・ディスパージョン』を使ったのも、要因だった。

森崎だけは不満気だが、顔にだしていても、口では言ってこない。まあ、とっとと天幕からぬけだしていったのだが、そのあとに市原先輩から

「陸名くんが使った魔法についても、大学の方から『インデックス』に正式採用するかもしれないとの打診がきています」

「はぁ、五十里先輩おめでとうございます」

魔法を使ったのは僕だが、具体的に起動式を完成させたのは五十里先輩だ。千代田先輩も、最初に言われたことからすばやく起動して、

「啓、やったじゃない」

「けれど、あの起動式のプロトタイプを書いてきたのは陸名くんで、僕がおこなったのは理論があっていることと、クレーの色の識別など、部分において、陸名くんが起動式に落とせなかったことをプログラムにしただけなので」

五十里先輩の言う通りだが、『インデックス』は新種の魔法が登録されるはず。そういわれると、古式魔法に似たものはある。そこはどうなんだろうかと思っていると市原先輩が、

「大学から『インデックス』の打診がきたのは2種類よ」

「はい?」

「1種類は、クレー選択型ダブルバウンドエリア魔法。2種類目は、共振弾補完型共振破壊エリア魔法の2種類よ」

「どういうことですか?」

「これは推測でしかないのだけど、スピード・シューティングの対戦型で、エリア魔法を使った魔法は、今日まで存在しなかったから、今回は北山さんの魔法と同じく、新種の魔法として認められたのじゃないかしら」

「……そうすると、五十里先輩がよろしければ、共同開発ってことになるんですかね?」

「今はまだ打診の段階だから、実際に『インデックス』登録する、ということになってからでもかまわないと思います。それよりも登録されるにしろ、されないようにしろ、魔法の固有名称でも、考えておいたらどうかしら?」

「あっ、そういえば、考えていませんでしたね。五十里先輩」

「そうだね」

ところが、ここで同席していた七草生徒会長が、爆弾発言を落としてくれた。

「陸名くん、さすがに期末試験の理論面実質3位だっただけはあるわね」

僕は先生から聞いていたけれど、恥ずかしいから、まわりに教えていないぞ。まわりからも

「それって、どういうことかしら」

「なんだ、それー」

「魔法言語学の試験で、名前を書き忘れて提出しちゃったんだって」

七草生徒会長が、小悪魔っぽく見えるのは気のせいじゃないだろう。さらに追い打ちをかけるように、市原先輩が

「陸名くんは総合でも実質9位。『プシオン誘導型サイオン起動理論』を常用されているそうなので、起動式の完成度が高くなければ、プシオンのノイズに悩まされているのでしょう。その中で、実技で15位に入ったのですから、試験の起動式がしっかりしていれば、もっと上位に食い込んでも不思議ではありません」

暗に魔法科高校の先生の出す期末テストの起動式が下手。そういう内容も含まれているのだが、それよりも、こう連鎖して暴露されるのって、僕は達也が生徒会の話は、嫌そうな感じをしていたのが、なんとなくわかった。そのあと、皆のおもちゃにされていたが、あまり思い出したくはない。

この場だけでなく、レオたちと夜にあつまった時には、すでにばれていた。ルートは桐原先輩から壬生先輩を通じてエリカだ。桐原先輩には剣道で勝負を挑むことをきめた。どうせ剣道部にいりびたっているのだし、剣術だと、手加減をしないといけないから、余計にフラストレーションがたまってしまう。



その夜、ホテルのミーティング・ルームに集まった3年生。真由美、十文字、摩利、鈴音の4人は、今日の新人戦について話をしていた。

「スピード・シューティングは思ったより良い成績だったが」

「問題は、バトル・ボードね」

バトル・ボードの予選通過は女子2人にたいして、男子は無しだった。来年度の定員である24名の中に入るので足切りにはあわなかったが、本戦のクラウド・ボールに新人戦のバトル・ボードのそれぞれ男子が予選落ちというところが問題視されていたのだ。

「男子の方は、てこ入れが必要かも知れんな」

「しかし十文字、てこ入れと言っても今さら何ができる?」

しかし、十文字から答えはなかったが、腹案を考えていて、それをどうするかを煮詰めているところだった。



大会5日目で新人戦2日目。
クラウド・ボールと、アイス・ビラーズ・ブレイクの競技とはいっても、まず、注目するのは深雪のアイス・ビラーズ・ブレイクだろう。深雪の魔法力に、達也のCADプログラミング技能が組み合わさったのをきちんと視るというのは、チャンスだろう。僕とは振動系魔法で、プラスかマイナスかの違いがあるにしても、興味はつきない。雫も振動系魔法は得意らしいが、スピード・シューティングを観る限りは、そこまで得意としているかは不明だ。

クラウド・ボールとアイス・ビラーズ・ブレイクを見ていたが、興味をひかれたのは、雫の共振破壊の使い方だ。地雷源と呼ばれる千代田先輩と同じく、地面への振動系魔法をかけていたようだが、氷柱がいきなり崩れたようにみえた。どのような起動式かは、同じ学校内の競技経験者なら観ることができるから、後でみさせてもらおう。

あとはやはり深雪だが、氷炎地獄『インフェルノ』を使ったのはそれほど意外感はなかったが、空気の圧縮と解放による魔法で相手陣地の氷柱を、一機に破壊したことだ。ぼくなら、地雷原を使わせてもらっていただろうが、このあたりが、あらゆる魔法を得意とするタイプの深雪と、得意不得意の魔法がある僕が、想定していた競技への魔法の使い方の違いだろう。

そして、三高の『クリムゾン・プリンス』のアイス・ビラーズ・ブレイク。相手の氷柱を1本1本正確に倒していくさまは、まさに手も足も出させないという感じだった。自陣の氷柱は一本もたおされず、じわじわと相手の氷柱を足していくさまは、雫の戦法に似ている。メガネをかけていたので、正確にはわからないが、氷炎地獄と地雷源の共振魔法のコンビネーションでは、防ぐのは難しかっただろうなと、あらためて思わされた。

それは、ともかく今日の夕食は、昨日とも違い、明暗がわかれた感じだ。1年生女子が明で、1年生男子が暗だが、達也とコンビのようにしている僕は、明の側にいた。深雪が達也を放さないというのもあるし、暗い方に僕がはいっていっても、一部ではいまだに僕が2科生だからと、同じく優勝できるんだという根拠のない自信を持たれていて、ひどいのになると、森脇みたいに敵視しかねない目つきをするのだから、一緒にいたくはない。

とりあえず、今日いじられているのは、達也だ。昨日は僕がおもちゃにされているところを助けてくれなかったから、こちらも助けるつもりはなかったのだが、

「翔、『プシオン誘導型サイオン起動理論』について、まわりはきちんとしっているのか?」

「マイナーな理論だから、別に知らなくてもいいんじゃないか?」

達也が、話をふってきたのは、森脇が外にでていったから雰囲気を変えるためだろう。学校で習う理論じゃないと、師匠から聞かされているので、とりあえず、知らせるつもりはなかったが、

「翔さん。お兄様もこう言っていることですし、私も興味がありますわ」

「陸名、わたしも知りたいなー」

「深雪さんはともかく、滝川までかよ」

同じ、操弾射撃部女子の滝川が珍しく聞いてくる。それだけ達也の方式とともに、僕のおこなったエリア魔法に興味をもったのかな?

「まあ、簡単に言うと、『プシオン誘導型サイオン起動理論』っていうのは、普通の起動式の前に、プシオン起動式……正確にはプシオン誘導式というんだけど、これを記述するだけともいう」

「それじゃあ、プシオン誘導式って、いらないんじゃないの?」

「学校では習わないと聞いているんだけど、魔法式には必ずプシオンが付随する。これは僕も観えるから、知っているけれど、サイオンにひきづられてプシオンが付随すると考えられている。なので、発想の逆転として、サイオンにひきづられてでてくるプシオンを、誘導式として先に記述して、通常の起動式を書くとどうなるかというと」

「どうなるの?」

「魔法式の構築が早くなる。けれど、プシオン誘導式のパラメータが合わないと魔法式の構築速度が遅くなるので、これの調整にプシオンを検知できる必要がある。現代魔法技術ではプシオンを高精度で計測できる機器がないから、すべて人手が必要ってことで、プシオン誘導式はかけても、そのパラメータ設定が主要30項目、安定化パラメータが300ばかりあるから、属人性が高いというのもあって、手に染める魔法師は少ない、っていうのが現状らしいよ」

「それで全部かしら?」

「これ以上、話すならエンジニア志望で、なおかつプシオンをかなりの精度で感じられる人でないと、意味は少ないかな」

「じゃあ、1つだけ質問させてよ」

「滝川か。いいよ」

「その『プシオン誘導型サイオン起動理論』とかいうのに、属人性が高いってことだけど、適正を見分ける方法なんてあるの?」

「ああ、例えば、学校の授業で使う起動式にたいして、ノイズを感じるなら、まず適正は高いね」

「私には、そんなノイズなんてわからないから、関係ないのね」

「とはいっても、トーラス・シルバーの起動式は『プシオン誘導型サイオン起動理論』にのっとった、起動式を書いているから、プシオン感受性が低くても速度が上がる人もいるから、評判がいいんだろうね」

「へー!」

そういうところで、動揺したプシオン波が深雪から流れてきたのを感じた。達也がエンジニアだから、トーラス・シルバーか、トーラス・シルバーという名のチームメンバーではないか、との師匠の推測は正しいのかもしれないと思いつつ、関係していたら、自分の起動式をみてもらおうかなと考えていたが、もうひとつなんらか特別な視線を感じた。そっちを向いてみると、中条先輩だ。生徒会書記でデバイスオタクとは聞いていたが、まさか、起動式の話に、食いついてきそうな勢いだ。っというか無意識にプシオンを放っているぞ。視線は一瞬あったけれども、そこは気がつかなかったふりをした。



大会6日目で新人戦3日目。
アイス・ビラーズ・ブレイクとバトル・ボードだが、深雪もほのかも本日最初の競技だ。アイス・ビラーズ・ブレイクでの深雪の対戦相手は、面白くないとのエリカが言う理由で、バトル・ボードのほのかの方を見にきていた。

エリカのいう「黒メガネ」の集団と化している、バトル・ボードだったが、ほのかがおこなったのは、光学魔法による幻術。しかも単純に水路に影が落ちたように見せるというものだ。たぶん、僕も先行して抜かれるまでは気がつかないかもしれない。だが、抜かれて、影の中にほのかが入っていったのを感じとれば、気を周囲に広げて、水路の境目を探って、いくだろうなと思っていたが、一般的でないし、バトル・ボードにまだ未練が残っているのかな。

アイス・ビラーズ・ブレイクは、午後は一高の3人でのリーグ戦になるはずだったのが、明智が下りたらしく、深雪と雫の決勝戦になっていた。2人の決勝は、同じ振動系魔法を使う者として、メガネをはずして観戦することにした。

深雪の氷炎地獄『インフェルノ』と雫の防御に情報強化、攻撃に地面への振動魔法だが、攻撃の魔法式が展開できていない。氷炎地獄のエリア内の干渉力で深雪がうわまわっているからだろう。そして、氷も炎で温められた空気で溶け出すのも時間の問題だろうと思った。ところが、雫は特化型CADを取り出した。

それだけならまだしも、出てきた魔法は『フォノンメーザー』。超音波の周波数を挙げて物体の温度を上げるAランク魔法だが、蒸発したのは一部分だけ。事象改変力がたりないのだろうが、続けて深雪が出した広域冷却魔法『ニブルヘイム』。これもAランク魔法だが、氷炎地獄『インフェルノ』より難しい魔法だ。しかも、僕が可能なドライアイス生成で冷却が止まるのではなく、液体が地面や氷柱についている。あの液体は液体窒素だろう。そしてまた、氷炎地獄『インフェルノ』に切り替えられたが、そこは液体窒素とドライアイスの膨張率は約700倍。一瞬で雫の領域の氷柱が吹き飛んだ。

深雪の魔法力の暴力的な強さを、思い知った瞬間だった。

真向勝負で、空気が燃え上がるような灼熱地獄『ムスペルスヘイム』というのは、アイス・ビラーズ・ブレイクでは不利だろうなぁ、と考えていた。



大会7日目で新人戦4日目。
今日は新人戦の目玉ともいえる、モノリス・コードと、ミラージ・バットだが、モノリス・コード1回戦とミラージ・バットの1回戦にでる里美がかぶるのだが、モノリス・コード・フリークの雫は、迷わずにモノリス・コードを見に行った。僕だけは、モノリス・コードに出ている森崎が変な空回りをしないように、ミラージ・バットを観戦した。モノリス・コードも、ミラージ・バットの里美も勝利して、ミラージ・バットの2回戦にでるほのかの試合は、レオたちや、雫たちと一緒に観る。観戦中にもらした

「他の選手より飛び上がるタイミングがはやいな」

「ほのかは、先行している光のノイズが観えている」

「そっか、エレメンツの家系だもんな」

ふとした言葉だったのだが、雫からの視線を感じて、自分で言った言葉のうかつさを思った。それは魔法師の血筋を探らないというものだが、エレメンツは特に、他人への依存性があると一部では知られているから、

「ほのかと、つきあおうとか、してないって」

小声で答える。周りには聞こえなかったようだが、雫には、それで意図は伝わったのだろう。僕がエレメンツに依存性があるのを知っていて、なおかつそれを利用する意図は無いと。

ほのかも無事に勝って、午後のモノリス・コードでそれは起こった。
 
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