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第三章

「俺はそこまでは言わないさ」
「そうか」
「ああ、けれどな」
 それでもと言うフェリペだった。
「相変わらず滅茶苦茶美味いぜ」
「そうだろうな、それで今度な」
「ああ、独立して自分の店持つんだな」
「そう考えてるんだよ」
「そうか、遂になんだな」
「金も溜まったしな」
 料理を作って働くその中でだ。
「だからな、いよいよな」
「御前の店を持ってか」
「お客さん達に俺の料理を食ってもらうぜ」
 にかっとした笑顔での言葉だった。
「そうして美味いって言わせてやるぜ」
「世界一美味いってか」
「そう言わせてやるさ」
「そうか、頑張れよ」
 カルロスのその言葉を受けてだ、フェリペは親友に穏やかな声で言った。それは励ましの言葉だった。
「いい店にしろよ」
「絶対にそうするからな」
「俺の方もな」
 ここで自分のことを言うフェリペだった。
「最近な」
「お客さん増えたよな」
「ああ、それでな」
「忙しいんだな」
「酒だってな」
 厳選して入れているそれもというのだ。
「すぐに完売になるよ」
「どの酒もか」
「お陰で儲かってるさ」
「それは何よりだな」
「それで今度妹夫婦に二号店持たせるよ」
「おいおい、羽振りがいいな」
「それだけ頑張ってるってことさ」
 家の商いに、とだ。フェリペハカルロスに笑って返した。
「俺もな」
「そうなるか」
「ああ、そうさ」
「そうか、じゃあまた来るな」
「そうしてくれよ」
「今みたいに楽しませてもらうからな」
 その酒を飲みつつだ、カルロスはフェリペに笑顔で返した。その後暫くしてカルロスは自分の店を出してフェリペも妹夫婦が経営する二号店を出した。
 そうして二人は仕事に励んでいたがここでだった、フェリペはある日店を経営していてだ、電話がかかって来たのでそれに出た。かけて来たのは妹だった。
 妹は彼にだ、剣呑な声でこう言って来た。
「あの、うちにね」
「ああ、何かあったのか?」
「何か着物を着たおっさんが来たのよ」
「着物?日本のか」
「そう、そのおっさんがね」
 こうフェリペに話すのだった。
「うちのお酒飲んでこんなこと言って来たのよ」
「まずいとか言ったのかよ」
「酒は美味いけれどそれに合うお料理がないとか」
「おいおい、御前もハイメも料理上手だろ」
 だから店を任せたのだ、その二号店を。
「けれどそれでもかよ」
「そう、酒と料理が釣り合わないと駄目とか」
「それ言い掛かりだろ」
「そう思うけれど作り直せ、とか言ってね」
 そしてだったというのだ。
「お皿を投げてお店の中で怒鳴り散らす始末なのよ」
「殆どゴロツキの嫌がらせだな」
「何でも河原雌丘とかいうね」
「完全に日本人の名前だな」
「息子の、やけに柄の悪い自称新聞記者の息子と一緒にね」
「そっちの店で暴れたのか」
「料理が釣り合わないとか言ってね」
 その酒とだ。
「あと化学調味料が駄目とか言って」
「それで店の中で怒鳴り散らしたか、そういえば」
「そういえばって?」
「噂で聞いてたぜ、料理に難癖つけてくる日本人がいるってな」
 フェリペはそのことを思い出してカルロスに述べた。 
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