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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth19狂いたる災禍騎士団~Plünderer ordeN~

 
前書き
プリュンダラー・オルデン戦イメージBGM
テイルズオブグレイセス『惑う剣』
http://youtu.be/nBBk4jHjxQo 

 
†††Sideヴィータ†††

「「オーディン!」」「オーディンさん!」「我が主!」

化け物みたいな体になっちまったアンナ。それがすげぇショックだった。助けるって約束したのに、誓ったのに・・・助けられなかった、守り切れなかった。そのアンナが発生させた水柱の包囲がオーディンを呑み込んで、海中に引きずり込んだ。
頭ん中がごちゃごちゃして訳わかんねぇのに、オーディンが危ねぇってのだけはハッキリしてて。だから「助けねぇと!」オーディンが沈んだ場所へ全力で翔ける。シャマルにザフィーラ、シュリエルもあたしに続く。けど・・・

「魔神はあの異形の女に任せ、我々にはお前たち残りの騎士の討伐が命じられている」

元人間だったキメラ達が集まった騎士団プリュンダラー・オルデンって奴らがあたしらに向かって来ていた。さっきアンナに殺されたアイツらと同じデケェ鳥に熊、新しく獅子?(翼があって尻尾が蛇。そんでもって獅子の頭の両隣りに狼と山羊の頭もある。って何でもありかよ!!)も。
つうかこんな時に「邪魔をすんなぁぁああああああッ!」“アイゼン”を大きく振りかぶる。後ろに居るシュリエルも「退けぇぇぇええええッ!」そう叫びながら、血色の短剣ブルーティガー・ドルヒを数十発って掃射した。熊にはザフィーラの「うおおおおおおおッ!!」鉄拳制裁。ソイツらは回避や魔法陣の障壁を展開して防御。あたしは回避した奴(甲冑を着た鳥)に向かって、

――シュワルベフリーゲン――

魔力を付加させた実体弾フリーゲンを打ち出す。フリーゲンをさらに回避した鳥へ向かって“アイゼン”の一撃、テートリヒ・シュラークを「おらぁぁぁああああああッ!」お見舞いしてやった。んで、ザフィーラは熊の障壁を粉砕して、熊の顔面に打ち込んだ。ありゃ頭蓋骨粉々じゃね? よろけたところにシュリエルの多弾砲撃ナイトメア・ハウルが撃ち込まれた。直撃だ。
熊も力なく落ちてく。ザフィーラの一撃とシュリエルの血も涙もねぇ砲撃の直撃だし、当たり前だ。あたしの一撃は鳥の頭蓋を確実に粉砕した。まず死んでるはずだ。落ちて行ってんし。次は獅子を墜とす。そう意気込んだ時、『私は大丈夫だ。アンナは私に任せ、各騎はそれぞれの戦いに集中してくれ!』オーディンからの思念通話。

「これは驚いた。魔神は水中戦もこなすのか」

獅子が海の色んな所から上がる水柱を見てそう呻いた。あたしだってビックリだ。普通、どれだけの魔導が扱えたとしても水中戦が出来る人間なんていねぇ。

――ペンダルシュラーク――

「油断大敵よっ!」

オーディンの異常さに動きを止めてたあたし達の中で、シャマルが一番最初に戦闘再開。シャマルの攻撃が一斉に獅子へ襲いかかった。だけど「温いわっ」獅子はそう吼えて、避けもせずに真っ向からシャマルに突っ込んで行きやがった。シャマルのペンダルが次々と直撃していくけど、奴はものともせずに牙を剥きながら突進を続ける。

「シャマル!」

シュリエルがブルーティガー・ドルヒを獅子に向かって放ちながら「あれはまずい!」追いかける。あたしにだって解る。奴の突進はまず過ぎる。直感が、あれの直撃だけはダメだっつてる。

「ザフィーラ!」

「判っている。止めるぞ、ヴィータ!」

あたしとザフィーラもシャマルに突進する獅子の行く手を妨害するために立ちはだかる。“アイゼン”を振りかぶる。ザフィーラも構え直す。そんでソイツの後ろを飛ぶシュリエルは拳に黒い魔力を付加。シュリエルとの挟撃。

「せぇぇぇぇいッ!」「はっ・・・!」

突っ込んで来た獅子に向かって“アイゼン”を振り下ろす。ザフィーラも拳打を繰り出す。完全に捉えた。

「んだっ!?」「これは・・!」

見えない障壁に完全に弾き返された。けど、そのおかげで獅子の突進が僅かに鈍った。

「ならばこれでどうだ・・・!」

――シュヴァルツェ・ヴィルクング――

追いついたシュリエルが獅子に向かって拳打を繰り出した。シュリエルの拳打シュヴァルツェ・ヴィルクングは、打撃力強化と色んな効果を破壊する能力がある。あたしとザフィーラの何の効果も無いただの打撃とは違って、アレなら間違いなく攻撃が通るはずだ。
獅子も見ただけで判ったのか身体を捻って避けた。でも片方を避けただけで、もう片方の拳打が腹に入って、奴は思いっきり体を折った。決まった。そう思って「よっしゃ」軽く拳を握ったら、ザフィーラが「待て。様子がおかしい」って言った。
獅子の兜が上に向かって開いた。人面(若ぇ男の面だ)が露わになって「実に軽い拳だ」って笑顔を見せた。おいおい嘘だろ。シュリエルのヴィルクングの直撃で潰されないってどんだけ強力な障壁だよ。

「今すぐ離れろシュリエル!」

焦りを見せたザフィーラが獅子へと突っ込んでく。シュリエルもそう言われる前にソイツから離れようとしてたけど、その前に「逃さん!」左腕に噛みつかれてミナレットの島へ高速で落ちて行く。あたしは「シャマルはオーディンの様子を見てろ!」シャマルにそう言ってからシュリエルを追いかける。正直シャマルはどんくさい。そんでもってあたしら守護騎士ん中で一番とろい。一番重要なんが、コイツらと真っ向から戦えるだけの戦闘力が、シャマルには無ぇって事だ。

「ウルリケ団長からの命令を新たに受諾。隊長格による敵騎士各個撃破。ん、了解。・・・さぁ行くよ、グラオベン・オルデンの騎士!」


VS―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
狂いたる災禍騎士団プリュンダラー・オルデン
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―VS


「テメェ・・・!」

あたしの前に立つ塞がんのは、真黒な甲冑を着た二足歩行のデカイ黒猫。武装はあたしの“アイゼン”と同じ鉄槌だ。つっても“アイゼン”より一回りも二回りもデケェけどな。見ればザフィーラの方にもまた新しい熊(体格的にゃいい勝負だ)が立ち塞がってやがる。シュリエルと獅子の姿は見失っちまった。たぶん島に落ちた。まずいな、ぜってぇ別の騎士団が居るはずだ。いくら何でもシュリエル1人で相手に出来るわけがねぇ。

「テメェ、じゃないやい。僕はカッツェ隊のⅠ。判った? この哀れぺったん娘」

「ぺ、ぺったんこだぁ? おい。あたしの何に対してそう言ったのか言ってみやがれ。つってもどんな返答でもテメェのその面を原型が無くなるくらいでぶん殴るけどな」

胸はデカけりゃ良いってもんじゃねぇんだよコラ。あんなんただのぜい肉だ。騎士にそんなモンは要らねぇんだ。シグナムとかシャマルとかシュリエルとか、デカい胸っつう余計なモン付けてる所為で戦い難そうじゃん。
あたしくらいの方がちょうど良いんだよコンチクショウッ!・・・・ホントはあたしだってもうちょっと欲しかったっつうのっ!
イラついてるところに、轟音を立てながらミナレットが動いた。砲門が、シュトゥラじゃねぇ方へ向く。

『カリブルヌス、発射!』

あたしらん中で唯一対処できるオーディンは海の中だ。だから砲撃カリブルヌスを見送るしかねぇ。今度はどこの国の街に破壊と死を撒き散らすつもりだよ。キッとクソ猫を睨みつけっけど、「やーいやーい、哀れぺったん娘~♪」クソ猫は自分の胸に肉球の両手を置いて「ぺったんぺったん♪胸ぺったん♫」とか歌い始めやがった。

「ブチノメシテヤル」

「ヴィータちゃんっ、ザフィーラ!」

「お前は来んなっ! 目を付けられたらお前ツブされんぞ! てかあたしの邪魔すんな! このクソ猫はあたしがぶち殺す!」

シャマルに怒鳴る。その間、あたしはクソ猫から目を逸らしちゃいなかった。だってぇのに「そういうお前もだぞっ・・!」ソイツはいつの間にか距離を縮めて来てた。振り上げられてる鉄槌が、あたしに向かって振り下ろされる。

――フェアーテ――

高速移動の魔導フェアーテを発動して、そのシャレになんねぇ一撃を全力回避。そんで間髪入れずに隙だらけのソイツの顔面に向かって“アイゼン”の一撃を振り抜いた。躱す事なんざまず無理なタイミングだったんだ。だってぇのにソイツは猫らしいしなやかな動きで避けやがった。
ソイツはあたしの背後を取って「次は外さないぞっ」槌の方じゃなくて石突きの突きを繰り出してきた。振り向く暇も無くあたしは最大の防御力を持ってる障壁パンツァーヒンダネスを展開。本来の形は全身を覆う多方面体なんだけど、今回は一点集中の盾形にした(結構難しいんだぜ、コレ)。

「あたしだって今度は外さねぇッ!」

刺突の軌道からちょっとズレた後に一回転。遠心力で威力増強したテートリヒ・シュラークをお見舞いしてやる。

「おっと、残念♪」

ま、これも避けられたんだけどさ。でも「アイゼン!」“アイゼン”のカートリッジをロード。ハンマーフォルムから強襲用形態ラケーテンフォルムへ変形させる。ラケーテンは、爆発的な攻撃力と加速力を得る事が出来っけど、逆に魔導の補助機能や射撃や範囲攻撃が出来なくなる。ま、チマチマするよか一撃必殺の直接打撃で決める方があたしに合ってるって思うから気になんねぇんだよな。

「ラケーテン・・・!」

クソ猫の攻撃を避け続けながらもう一発ロードしてブースター点火。一気にクソ猫へ最接近。突然の加速に驚いたみてぇで、アイツは防御か回避、どっちをとるのか迷ったのか動きを鈍らせた。バーカ。こういう場合、直感でもいいから一瞬で答えを出さなきゃ負けるんだっつうの。

「ハンマァァーーーーーーッッ!!」

「・・・っ!?」

クソ猫の脳天めがけて振り抜いた。でもコイツはギリギリで首を反らして避けやがった。空振って隙だらけ。とか思ってんだろどうぜ。けどそれは大間違いだ。見てたろ? ラケーテンの一撃は、たとえ避けられたとしても二撃目をすぐに繰り出せるんだっつうの。
ブースターの加速を利用してその場で高速回転。だから「甘ぇぇっ!」無理して避けた事で体勢が整ってねぇクソ猫の脇腹にかましてやった。それで終わった。いくら改造された体でも脇腹を抉られりゃまともに戦闘を続けられるわけがねぇ。クソ猫が信じられないって面を浮かべながら海に落ちた。

『各騎! ミナレットの近く、島に降り立っている場合はすぐに避難してくれ!』

クソ猫の最期を見届けてると、オーディンからの一方的な思念通話が来た。あたしは空。ザフィーラとシャマルも空。シグナムも空。けどシュリエルは、その問題の島だ。まぁオーディンの思念通話が届いてるはずだ。「んあ? なんだ、空間が揺れてる?」ピリピリと肌で感じる。

――押し流せ(コード)汝の封水(ヒュドリエル)――

その直後、馬鹿デケェ津波が発生して、ミナレットの島を襲った。「おいおい、マジかよ」何度も津波に襲われた島は見るも無残ってやつで、ミナレット以外は綺麗サッパリ押し流されてた。

†††Sideヴィータ⇒シュリエル†††

私の左腕に噛み付く獅子に、「おのれ、放せ!」と拳打を何度も打ち込む。しかしどれだけ堅い障壁なのか、私の拳打のどれもが決定打とならず、獅子に通らない。「プリュンダラー・オルデン副団長の意地に懸けて、貴様を潰す」と、獅子の額に在る人面が笑みを見せる。
島へと落下する中、血色の短剣ブルーティガー・ドルヒを我らの周囲に展開、一斉射出して獅子に着弾させていく。もちろん私自身にも被害が出るかもしれないため、魔力を全身に纏う防御態勢パンツァーガイストを発動している。

(やはり通じていないようだな・・・!)

着弾する直前で、不可視の障壁で完璧に防がれているのが見えた。結局、獅子から逃れる事が出来ずに島へと墜落、地面に叩き付けられた事で「がはっ」息が一瞬止まる。何度も咽る。が、いつまでもこのまま――押し倒されている体勢でいるわけもいかない。唯一の弱点らしき人面の前にハウリングスフィア一基を設置、「響け!」零距離でのナイトメアを撃ち込む。

「むごぉ・・!」

獅子は呻き声を漏らし、ようやく右腕に噛み付いていた牙を僅かだが放した。この好機を見逃せはしない。「コード・・・ゼルエル」オーディンの魔導・肉体強化の魔導を発動。“闇の書”の頁が1枚半減ってしまったが、この獅子から回収すればいい。

「いつまで私の上に乗っているっ!」

獅子の腹に膝蹴りを打ち、宙に浮かせる。すぐさま後転跳びをし、立ち上がってすぐに「ナイトメア!」獅子の腹に砲撃。間髪入れずに「封縛!」獅子を捕獲輪で捕える。どれだけ強固な障壁を持っていようと、“闇の書”たる私のこの術には抗えまい。傍に浮遊している“闇の書”が開く

蒐集開始(ザムルング)

≪Sammlung≫

大気中の魔力素を体内に取り込み蓄積、そして放出するための重要な器官である魔力核が獅子の体より抜き出される。“闇の書”より光が放たれ、獅子の白い核より魔力を蒐集していく。無理やり魔力を引き出されることで、「うごぉぉおおおお・・・!」獅子が苦痛に満ちた呻き声を漏らす。
蒐集を終えた“闇の書”を手元に呼び戻す。ふむ、どれどれ・・・・23頁が埋まったか。これで580頁を超えたな。完成まで100頁を切ったが、オーディンから完成させないよう厳命されているため、「この辺りを維持するしかないのか」嘆息する。
完成すれば、私は融合騎としての機能を扱えるようになる。そうすればオーディンと融合でき、彼の力になれるのだが・・・。しかし私の個人戦力の高さを自他ともに認めているため、完成しても融合騎としての役目はないようだ・・・・はぁ。

『カリブルヌス、発射!』

ミナレットより砲撃が放たれた。カリブルヌスが向かう先は・・・ネウストリア、だったか。聖王家のアウストラシアにちょっかいを掛け続けるという・・・。ネウストリアはイリュリアとは関係ない国のはず。何故わざわざ敵対するようなマネをするのだ・・・?

「うぐ・・これが、闇の書の蒐集か。なんと恐ろしい・・・」

「お前の見た目の方が十分恐ろしいと思うのだがな、私は」

「・・・・確かに魔導が扱えん。・・・・殺せ。魔導の使えない今、俺を殺す事など容易いだろう」

よろよろと立ち上った獅子が憎々しげにそう言い捨てる。そうだな、魔力を回復されてまた戦場で遭うのは勘弁してほしい。ゆえに「せめてもの慈悲だ。苦しまずに逝かせてやろう」魔力球ハウリングスフィアを4つ設置する。獅子の額に在る人面に目をやる。口の端が上に上がっている。あれは、笑っている・・・?

(・・・しまった・・・!)

周囲の警戒を怠ってしまっていた。百何十という騎士やキメラに包囲されているのが判った。いや、魔力反応どころか気配までも完全に殺されていて、まったくと言っていいほど気が付かなかった。その事から判る相手の実力。一騎討ちならば問題はないが・・・物量で押し切られるのは辛い。
デアボリック・エミッションで一掃できればいいが、一発では殲滅できないだろう。私の困惑を感じ取ったのか「包囲に気が付いたか」と獅子が笑い声を上げた。それを合図としかのように「突撃せよ(アングリフ)!」と、女性の声による号令が下されたのが聞こえ、直後に「オオオオオオオオッ!」雄叫びと共に周囲の木々の間という間から騎士やキメラが現れた。

「っく、闇に・・・染まれ!」

――デアボリック・エミッション――

先手はもちろん私が頂く。私を中心として爆ぜるデアボリック・エミッション。魔力障壁の発生阻害の効果もあるこの魔導・・・防ぎきれるものなら「防いでみろ!」呑まれる騎士・キメラに言い放つ。一発目の効果が切れる。私の周囲に倒れ伏す何十人という騎士、そしてキメラ。その中には獅子も含まれており、獅子・山羊・蛇の3つの頭は泡を吹いている。

(それでもまだまだ居るが・・・)

デアボリック・エミッションの効果範囲に入っていなかった者たちをぐるりと見回す。ふと、ある女騎士が目に留まる。私たちと同じ鎧ではなく衣服型の騎士甲冑を身に纏い、円錐型の大きな槍を携えている。そして一番目が行くのは、その女騎士が乗る戦車だ。キメラらしい2頭の馬に牽引されている。

「闇の書の管制プログラム・・・思っていた以上に凶悪ね」

その女騎士は重量級の槍を軽々と振り回して私に穂先を向け、そう言い捨てた。身構え、「何者だ?」と問う。佇まいからして、おそらく騎士団長級で間違いないだろう。

「イリュリア騎士団・狂いたる災禍騎士団(プリュンダラー・オルデン)団長・ウルリケ・デュッセルドルフ・フォン・ブラッディア」

「(やはりか)・・・信念の騎士団(グラオベン・オルデン)・支天の翼シュリエルリート」

互いに名乗りを上げた。ウルリケが槍の穂先を空へ向けると、周囲に居る騎士やキメラが一斉に身構えた。突撃命令の一歩手前か。シグナム達は・・・手一杯か。ならば私単独で出来るところまで戦い抜いてやろう。

『各騎! ミナレットの近く、島に降り立っている場合はすぐに避難してくれ!』

意気込んだとき、オーディンからの思念通話が届いた。かなり慌てているよう。おそらくカリブルヌスが放たれた事による焦りだろう。今、島に降り立っているのは私だけだ。ゆえに『各騎、問題ありませんっ!』そう応じた。オーディンが何をしようとしているのかは判らない。ただ、ミナレットを破壊する魔導を放つのだと判断する。

「なに・・・? 大気が・・震えてる・・・?」

ウルリケが辺りを見回し始め、キメラ達は一斉にある方角を見、身構えた。そして、「津波ですっ、ウルリケ団長!」ある騎士が悲鳴じみた声を上げた。

――押し流せ(コード)汝の封水(ヒュドリエル)――

正に津波がこの島を襲いかからんと迫ってきていた。連中に意識が津波に向いている今、

――スレイプニール――

背に展開されている黒翼をはばたかせ、空へと上がる。それに気づいたウルリケが「撃墜しろ!」と命令を下したが「もう遅い!」ブルーティガー・ドルヒを20基展開、一斉射出し、空に上がろうとしていた騎士やキメラを撃墜する。
そのまま一気に高度を上げ、オーディンが起こしたのであろう50m程の大津波より逃れる。最後に、地上に居るウルリケらに目をやると・・・ウルリケと目が合った気がした。その直後、連中は津波に呑まれた。そして津波は何度も島を襲い・・・ミナレット以外を押し流し、島を廃墟へと変貌させた。

「凄まじいな・・・。すべてを押し流すほどの津波を作り出すとは・・・」

「「シュリエル!」」

「お前たち。・・・どうやら互いに敵を攻略できたようだな」

ヴィータ、シャマル、ザフィーラが私の元へと集まった。ヴィータは「もちろんだ」と歯を見せ笑い、シャマルは「私は役立たずだったけど」と落ち込み、ザフィーラは無言で頷くのみだ。

「オーディンの魔導でほとんどの戦力を削れたが・・・」

かなり離れた地点で空戦を繰り広げているアギトと融合しているシグナム、フュンフと融合しているファルコへと目をやる。騎士の決闘の邪魔はできんな。ならばオーディンの助力へと向かうのが賢明だろう。未だに海面が至る所から爆発による水柱が立て続けに起こしている。

(いやしかし海中に居るオーディンとアンナの戦いに介入できるのだろうか・・・?)

みなの意見を聞くために振り返ったとき、目を疑わざるを得ない光景が視界に入った。何かを言う前に、何かを考える前に、体が動くままにシャマルとヴィータを左右に突き飛ばす。

「ここで気づくなんて運が良い!」

「ウルリケ・・・!」

私たちの背後より迫って来ていたのはウルリケだった。翼の生えた巨大な猫2匹に牽引された(馬はどうなったのだろうか)戦車に乗ったウルリケが、血に塗れた騎士甲冑と槍を携え、空を疾駆していた。突撃してきた戦車を横に移動する事で回避。しかしウルリケの槍の穂先が太ももを掠め、浅く裂かれてしまった。

「テメェがウルリケか!」

――シュワルベフリーゲン――

ヴィータが物質弾に魔力を纏わせたフリーゲンを8基打ち放った。戦車後方からの急襲だ。そこに私も戦車の軌道を予測しハウリングスフィアを1基展開。

「響けっ」

――ナイトメアハウル――

ハウリングスフィアと私自身からの多弾砲撃、ナイトメアハウルを戦車の横っ腹と背後目掛けて放つ。時機の良い直撃確実の攻撃だ。ウルリケ。どのような手を以って対処をする?

「イリュリア騎士団・高位騎士第三位である私を――」

――パンツァー・ブルート――

「容易く落とせると思わない事ね!」

戦車より真っ赤な液体が大量に流れ落ち、フリーゲンとナイトメアハウルからウルリケを守るように膜となり完全に防ぎ切った。膜は再び液体となり、ウルリケの周囲で渦を巻く。それにしてもこの臭い・・・「血液・・・!?」シャマルが口を手で覆い隠す。ウルリケの槍や騎士甲冑に付着している血は、あの者のものではなく返り血のようだ。おそらくあのとき島に居た騎士やキメラを・・・・。プリュンダラー・オルデン――略奪者の騎士団、か。

(血を略奪するのは団長のウルリケではないか・・・)

よく見れば戦車の車輪の下には血の道が出来ている。液体として流動し、しかし個体としての硬度もあるようだ。血を操る。そのような事が魔導で出来るものなのだろうか。

「まとめてかかって来なさい、グラオベン・オルデンの騎士。遥かに古き時代の騎士・鮮血姫シリア・ブラッディアの末裔、ウルリケ・デュッセルドルフ・フォン・ブラッディア・・・・参る」

戦車を牽引する2匹の猫が鳴き、速度を上げて突撃してくる。ウルリケに追随する血液の塊はまるで蛇のよう。そして「鮮血姫の御技、とくとご覧あれ!」と槍を薙ぎ払うように払った。

――グラオザーム・ケッツァー――

血の蛇が蠢き、至る所から触手を何十本と私たちへ向け伸ばしてきた。ヴィータは「気色悪っ! こっち来んな!」嫌悪感を抱いたようで迎撃しようとはせず、回避を行う。ザフィーラはシャマルを庇うために渦巻く障壁パンツァーシュトルーデルを展開したが、血の触手は障壁に衝突して間もなく回り込むようにザフィーラとシャマルへ襲い掛かる。私は自分に向かってくるモノとザフィーラ達に向かっている触手に向け、ブルーティガー・ドルヒを射出する。しかし触手を完全に絶つ事が出来ず、

「うぐ・・・!」「痛っ・・・!」

「ザフィーラ!」「シャマル!」

ザフィーラの右太腿と左前腕、シャマルの左肩を貫いた。

†††Sideシュリエル⇒シャマル†††

私とザフィーラを貫く血液の触手。誰の、何のモノともしれない血液が私の体を侵食する。ゾワッと背筋を這い上がる嫌悪感に悲鳴を上げそうになる。でも私は必死に歯を食いしばって悲鳴を上げるのを耐えた。でも・・・

(なにこれ・・・!?)

私の肩を貫いている触手が脈動してる。その都度、何かを失っているような感覚が私を襲う。

「・・や・・・私の血液と魔力を・・吸収して・・いやぁああああああっ!」

堪えきれずに悲鳴を上げた。「シャマル!」ヴィータちゃんが“グラーフアイゼン”で私の大切なものを奪っていこうとしている触手を断ち切ってくれた。「大丈夫か、シャマル!」心配してくれるヴィータちゃんになんとか頷いて応えて、傷口を見る。小さく開いた穴。そこから私の血が流れる。私の心も、体も、命も、すべてオーディンさんが進む行く手の為のもの。それが、あんな得体のしれないモノに穢された。怒りで今度は頭に血が上る。

「ウルリケぇぇーーーーっ!」

――ナイトメアハウル――

「来なさい、シュリエルリート!」

――フェアドレンゲン・カヴァレリスト――

シュリエルの多弾砲撃と、それに構わず突撃を敢行するウルリケの戦車の突進が、真正面からぶつかり合う。ヴィータちゃんに「私とザフィーラは大丈夫」って微笑みかけて、シュリエルの元に送り出す。そして私は「ザフィーラ!」自力で触手をどうにかしたザフィーラと一緒に治癒の魔導・静かなる癒しを掛ける。

「ラケーテン・・・ハンマァァァーーーーっっ!!」

「わざわざ突っ込んでくるなんて自殺行為だと知りなさい!」

治癒の間にも繰り広げられるシュリエルとヴィータ、ウルリケの戦闘。ウルリケはヴィータちゃんの一撃を槍で受け止めて捌き、待機していた血の触手で反撃。シュリエルはブルーティガードルヒで触手を集中砲火して粉砕、その隙にヴィータちゃんがもう一度突撃を仕掛ける。だけど今度は血の膜で防御されて、しかも「うわっ? なんだよこれっ、放せ!」膜が蠢いてヴィータちゃんを取り込もうとし始めた。

「クラールヴィント!」

ペンダルを4本と伸ばしてヴィータちゃんをしっかり捕まえて、「えーいっ!」引っ張り出そうとするんだけど、力が足りない。その合間にも「守護騎士ヴォルケンリッターの血、どのような味かしら♪」ウルリケは舌なめずりをして、新たな触手を私に向かって勢いよく伸ばしてきた。
そんな私を庇ってくれたのは「させん!」シュリエルで、効果破壊のシュヴァルツェ・ヴィルクングを迫る触手へと何発を打ち入れ、砕き散らせた。「シャマル、今の内だ」ザフィーラが手伝ってくれたおかげで、「すまねぇシャマル、ザフィーラ」ヴィータちゃんを無事救出・・・と言えるのかしら。

「くっそ、血生臭ぇ・・・おえ、さすがに気持ち悪い」

血塗れになったヴィータちゃんが濃すぎる血の臭いに何度もえずく。それを見たウルリケは「血は生物の命そのもの。その命の香りを気持ち悪いとは」って不満そうに言い捨てた。血が蛇がウルリケの元に戻って、グルグルと周囲を旋回し始める。
ヴィータちゃんが「ぺっぺっ」って口に入った血を吐き捨てて、でもウルリケは「勿体ない」と血の蛇に両手を入れて、血を掬って・・・ゴクゴク飲んだ。う゛っ。血をあんなに飲むなんて・・・吐き気がする・・・。

「吸血鬼、というものをご存じ?」

口端から垂れる血を手の甲で拭ったウルリケがそう訊いてきた。吸血鬼。血を吸う怪物だったと記憶しているけど。ヴィータちゃんが「お前がそうだってぇのかよ・・・?」と訊きかえす。

「私の祖先、鮮血姫シリアはね、対象の血を飲む事で相手の魔力を吸収するという魔導を有していたようなの。私はその魔導を扱える能力を色濃く継いでしまったようなのよね。人間以外――あらゆる生物の血液であれば操る事が出来る」

血液から魔力を吸収するなんて・・・。

「つまり周囲に血を流す者が居れば、それだけ私が有利とな――」

――鋼の軛――

島から突き出してきた白い拘束条――ザフィーラの鋼の軛。死角である足元からの奇襲だった事もあって、鋼の軛がウルリケの乗る戦車と、牽引していた猫キメラ2匹を貫いた。半壊した戦車から落ちて顔面蒼白になるウルリケと目が合っちゃった。フイッと目を逸らす。と、「トドメを刺すべきだ」ザフィーラがそう言い、

――牙獣走破――

「うおおおおおおおッ!」

魔力を脚に付加して、蹴打を打つ体勢で急降下。落下途中でもウルリケは「グラオザーム・ケッツァー!」追随して落下してる血の塊から触手を伸ばして、ザフィーラを迎撃・・・出来なかった。シュリエルのドルヒとヴィータちゃんのフリーゲンが先に着弾して相殺したから。
ウルリケは迎撃するために槍を突き出したけど、半身ずらして紙一重で避けたザフィーラの蹴打がズドンってすごい音をさせてウルリケのお腹に直撃。ものすごい勢いで地面に落下、叩き付けられたウルリケを私たちは見下ろすのだけど・・・。

「おいおい、立ち上ったぞアイツ・・・!」

鋼の軛で拘束されていた2匹の猫キメラを潰し終えたヴィータちゃんが戦慄する。槍を支えにしてるけど、それでもしっかり立ち上っているウルリケは、血の蛇に顔を突っ込んで・・・あれって飲んでるのよね、やっぱり・・・うぷ。

――ハウリングスフィア――

「今が好機だ、ヴィータ!」

「応よ! アイゼンっ、ギガントフォルム!」

≪Explosion. Gigant form≫

シュリエルの周囲に3つの魔力球が展開されて、ヴィータちゃんは“グラーフアイゼン”を純粋破壊特化の形態ギガントフォルムへ。そして前面にヴィータちゃんの頭くらいに大きな物質弾を作り出して魔力を付加。

「おぉぉらぁぁあああああああッ!」

――コメートフリーゲン――

「響け!」

――ナイトメアハウル――

2人の攻撃が一直線にウルリケの背後へ向かって・・・着弾、大爆発。ウルリケを守る障壁も血の膜も無かったから、2人の攻撃は確実に直撃したわ。地上に居るザフィーラからも『見事の急襲だ、ヴィータ、シュリエル』って2人へお褒めの思念通話が。
粉塵が少しずつ晴れていく中、ザフィーラが粉塵の中に鋼の軛をいくつも突き出させていった。完全に晴れると、軛に貫かれて拘束されたウルリケの姿が見えた。私とヴィータちゃんとシュリエルも島に降り立って、宙に仰向けに拘束されているウルリケを見上げる。

「しかし血液のアレは、なおも蠢いているな。油断しない方がいい」

「だな。コイツが気を失っても動いてんしな」

少し離れたところでプルプル震えてる血の塊。き、気持ち悪い・・・。そして話はウルリケの処遇に。「やっぱ完全に討った方がいいんじゃね?」というヴィータちゃん。ザフィーラも「この騎士の能力は危うい。討つなら今だ」ってヴィータちゃんに賛成。
シュリエルだって「そうだな。高位騎士第三位と言っていた。後々、厄介な障害になるはずだ」って。3人が私を見る。私だってウルリケの危険性は理解できている。だから「異議なし」3人の意見に賛成。

「じゃあさ、コイツの魔導資質――魔力を蒐集しとかね?」

「残念だがそれは出来ない。闇の書完成まで100頁を切った。オーディンからは100頁を切った場合、蒐集しないように厳命されている。蒐集するのであれば、400頁を切らないように頁を消費しなければ・・・」

そうなのだ。オーディンさんはどうしてか“闇の書”を完成させたくないようで。まぁ私たちはオーディンさんの言う通りにするだけで、もちろん文句なんてないのだけど。ヴィータちゃんが「そっか。んじゃ、殺るか」ってアッサリ話を切り上げて、傍に突き立っていた槍を破壊した“グラーフアイゼン”を、ウルリケに突きつけた。そして私たちも一斉に魔導を――というところで、

「残念。闇の書の蒐集とやらを一度体験してみたかったけど」

――フェッセルン・ブレッヒェン――

プルプル震えていた血の塊は渦状になって高速回転、軛を一瞬で粉砕した。自由になったウルリケが地面に降り立った。私は「クラールヴィント!」相手を拘束し、なおかつ魔力発露を阻害する効果を有する捕縛の魔導――戒めの鎖でウルリケを拘束する。これでウルリケは血を操る魔導を扱えないはず。だから一斉に攻勢に出ようとした。でも・・・・

――トーデスゼンゼ――

渦から元の蛇状に戻っていた血の塊が私たち人数分に分裂して、大鎌となって私たちに襲いかかってきた。あまりに高速の斬撃だったせいで、お腹を横一文字に斬られた。「げほっ!」吐血。受けたダメージと、魔力と血を奪われた事もあって両膝をついて・・・倒れこんだ。揺らぐ視界の中、ヴィータちゃんとシュリエルも腕や足から血を流しながらも身構えているのが見えた。

†††Sideシャマル⇒ザフィーラ†††

ウルリケの操った血液の大鎌は、シャマルの腹を裂き、ヴィータの右腕を裂き、シュリエルの右太ももを裂いた。我もまた腹を裂かれたが、守護騎士最高の防御力を有する肉体を持つ我は、シャマルほどの重傷にはならなかった。
ゆえに「しっかりしろシャマル! 治癒の魔導を急いで自分に掛けろ!」一番重傷のシャマルを庇いつつ、追撃してきた血の大鎌を蹴り上げ、軌道を逸らす。砕けた大鎌は血の滴となってウルリケの周囲に集まり、また一つの塊となった。

「ヴィータ、シュリエル!」

「問題ねぇっ!」「問題ない」

「ほう。斬り落とすつもりで放ったのだけど、裂いただけか・・・って、ああああああ!!」

突如ウルリケは絶叫し、ヴィータに破壊された槍へと駆け寄っていく。我らに隙だらけな背後を見せるなど愚の骨頂。

「わ、私の・・アビコールが・・・orz」

槍の銘らしき言葉を漏らすウルリケへと接近を試みる。

――ブルーティガー・ドルヒ――

まずはシュリエルのドルヒが急襲。ウルリケは咄嗟に反応し、砕けた“アビコール”で迎撃したのだが・・・「ぎゃぁぁああああっ!」今度こそ粉々に砕け散った様を見て悲鳴を上げた。ふむ。あの者は相当おのれの武装に思い入れがあるようだ。ならば・・・。
方向転換をし、放置されている戦車へと駆け寄る。その間にヴィータが「ギガント・・・ハンマァァーーーッ!」“グラーフアイゼン”を振りかぶり、ウルリケへ最接近した。それを迎撃するのが血液の蛇。ヴィータは攻撃へ入る前に咄嗟に障壁を張り、蛇の突進を防いだ。しかしその衝撃は凄まじく、小柄な矮躯のヴィータは弾き飛ばされる。

「よくも私のアビコールをぉぉ・・・・食い殺せ!」

ウルリケが号令を下す。血液の蛇は大口を開け、ヴィータを丸呑みしようと襲い掛かった。ここで我は、損壊している戦車を持ち上げ「うおおおおおおおおおおッ!!」ヴィータと蛇の間に放り投げた。蛇はヴィータではなく戦車を丸呑みし、粉砕した。視界の端に映るウルリケはその光景に呆然としていた。そして・・・・

「ぎょえええええええええええッ! 今度はエウリノームがぁぁぁあああああああッ!」

血を吐きそうなほどの絶叫。見ていて気の毒だが、情けは無用だ。

――鋼の軛――

ウルリケの足元より拘束条を突き出させ、「うぐっ?」あの者を再び貫き拘束する。間髪入れずに「刃を以って、血に染めよ!」シュリエルがドルヒを一斉射出し、全弾ウルリケに着弾させた。そしてヴィータは再びギガントフォルムの“グラーフアイゼン”を振りかぶり、「今度こそぶっ潰す!」ウルリケへ向け振り抜いた。衝突の轟音と共にウルリケは血を撒き散らしながら吹き飛び、地面に落下、ぐったりとして動かなくなった。

†††Sideザフィーラ⇒ヴィータ†††

「ヴィータちゃん、ザフィーラ、シュリエル。ありがとう。今度はあなた達の怪我を治すわ」

あたしらの背中に掛けられた声。振り向くと、ちょっと顔色が悪ぃけど、それでも立ち上ってるシャマルが。「シャマル!」急いでシャマルん所にまで駆け寄る。シュリエルは「無茶はするな、シャマル」って言うけど、シャマルは首を横に振って「治癒と補助担当だもの」って微笑んだ。そんであたしらに静かなる癒しを掛けてくれた。やっと右腕から流れる血が止まった。

「・・・アビコールも・・・エウリノームも・・・」

地獄の底から這い上がってくるような、狂う一歩手前みてぇな声。バッと振り返ると、ウルリケが頭から鼻から口から血を流しながらも立ち上っていた。おいおい。手応えあったんだぜ、さっきのあたしの一撃。あれをまともに食らって立つってどんだけ打たれ強いんだ。

――ナイトメア――

シュリエルが何も言わずに砲撃を放った。直撃する寸前、また血の塊が膜になって砲撃を防いだ。すぐにハウリングスフィアを3つ設置、多弾砲撃ナイトメアハウルを撃ち込んだ。でも、ウルリケは血の膜をデケェ剣にして、砲撃を薙ぎ払って対処しやがった。

「砲撃ではもう突破できないか・・・『デアボリック・エミッションを仕掛ける。お前たち、避難してくれ』」

シュリエルからの思念通話。あたしは「それでダメならあたしのギガントシュラークな」ってシュリエルを見る。すると「その時は頼む」ってあたしの頭に手を置いた。むぅ、ガキ扱いしやがって。あたしの頭を撫でていいのはオーディンだけなんだよ。だから首を振って振り払う。

「行ってくれ・・・」

シュリエルがウルリケに向かって歩き出す。あたしらはシュリエルに任せて空に上がる。その途中、「誰が逃がすか!」アイツの元にまた集まった血の塊から鞭のようにしなる超長い剣が伸びてきた。シャマルが「この・・・!」あたしらを守るように渦巻く風の盾・風の護盾を展開、初撃は防げたけど、2撃目で寸断された。その間にもっと高度を上げることができた。その直後、

――デアボリック・エミッション――

シュリエルの攻撃が発動した。あれを食らったらさすがにただじゃ済まねぇはずだ。少しの間効果が続いて、そんでからデアボリック・エミッションが消えた。シュリエルの姿が見えた・・・・なんでか倒れてる状態で。

「「「シュリエル!!」」」

そんでウルリケなんだけど。・・・あれ? おい、アイツって髪の色・・・白だったよな。なのに今は灰色だ。騎士服もどことなく変わってる。間違いねぇ、今のアイツは「融合状態かよ!」最悪過ぎんだろ、これ。とりあえず「シャマル! シュリエルを頼む!」シャマルにシュリエルを避難させるように言う。
シャマルに無茶させっけど、でも「ええっ!」強く頷いて・・・“クラールヴィント”の魔力糸が輪を作った。旅の鏡っつう魔導だ。空間を繋ぐ鏡で、離れた場所に在るモノを取り寄せる事が出来る。そいつを使ってシュリエルを取り寄せる。そんでから、あたしの最強の一撃をお見舞いしてやるよ、ウルリケ!

†††Sideヴィータ⇒シュリエル†††

「ぅ・・・ぐ・・・は・・っ・・・はぁはぁはぁ・・・」

気が付けば、私は倒れ伏していた。このような状況になる前の事を思い出す。そう・・・ウルリケは血の膜でデアボリック・エミッションの一撃を防御しきっていた。第三位の高位騎士と自称していたが、第三位でこの強さだというのか・・?
それでもしばらく続けていれば防御を貫けると思った。しかしその前に「アレは・・・!」血の膜の中に、アギトやアイリ、フュンフのような小さな少女が転移してきたのが判った。ただでさえ厄介な実力者だというのに・・・「まだ上に行くのか・・・!」僅かに怯んでしまう。だが、私はオーディンの信念に連なる騎士・支天の翼シュリエルリート。臆するな。

「おかえり、フィーア」

ウルリケに四番騎(フィーア)と呼ばれた融合騎は「ただいま、ロード・ウルリケ」と応じ、2人は「融合」と一言告げた。そしてそれは一瞬。フィーアと融合したウルリケが血の膜の中で、私へと人差し指を向けた。

「(思い出した・・・)純粋魔力の、砲撃・・・を受けたのだ・・・」

手をつき体を起こそうとするが、思った以上にダメージが大きいようだ。上半身を上げる事すら難しい。

「まずは1人・・・管制プログラム、という事は・・・あなたを破壊すれば残りの守護騎士も消えるのよね」

ウルリケは血の膜を塊に戻し二振りの大鎌へと変え、両手に携えた。しかしその血の大鎌が私に振り下ろされる事はない。何故なら『シュリエルっ、今すぐ転移させれるからっ』シャマルからの思念通話。私の元へ歩み寄って来ていたウルリケが、私の背後に現れた旅の鏡を見て「何よソレっ!」と駆け出す。鏡よりザフィーラの腕が伸び、私の腕を取った。そして鏡に引っ張り込まれ、場所は上空へ。

「ヴィータちゃん!」

「応よッ! 食らいやがれぇぇぇーーーーッッ!!」

――ギガントシュラーク――

とてつもなく巨大化した“グラーフアイゼン”が、ウルリケへと振り下ろされた。


 
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