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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第2部 風のアルビオン
  最終章 決戦

 
前書き
どうも、作者の銭亀です。

今日は終業式でした。

学校に行くのももう、あと17日…

嬉しい反面、寂しさもこみ上げてける次第であります。 

 
翌朝……。

ウルキオラは部屋のベッドから起き上がると、机に向かって歩き出した。

机の上に置いておいた斬魂刀とデルフを、腰と背中にそれぞれ差す。

そして、机の側にあった椅子に座った。

「なあ、相棒」

デルフがかちゃかちゃと口を開いた。

「なんだ?」

「本当にこれでいいのかい?」

「何がだ」

「貴族の娘っこのことだよ」

デルフは当たり前だろ?と言いたげであった。

「ワルドとの婚約のことか?」

「おうよ」

「ルイズが誰と結婚しようが、俺には関係ない」

ウルキオラは無表情で答えた。

「まあ、相棒がいいんならいいんだけどよ…」

デルフのこの一言を最後に暫しの間、沈黙が流れた。

しばらくして、デルフが再び口を開いた。

「そうだ、この前の話の続きをしてくれよ」

「虚のことか?」

「おう」

ウルキオラはデルフに虚について、話し始めた。




さてその頃、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。

周りに他の人間はいない。

皆、戦の準備で忙しいのであった。

ウェールズも、すぐに式を終わらせ、戦の準備に駆けつけるつもりであった。

ウェールズは皇太子の礼装に身を包んでいた。

明るい紫のマントは、王族の象徴、そしてかぶった帽子には、アルビオン王家の象徴である七色の羽がついている。

扉が開き、ルイズとワルドが現れた。

ルイズは呆然と突っ立っている。

ワルドに促され、ウェールズの前に歩み寄った。

ルイズは戸惑っていた。

今朝方早く、いきなりワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのだった。

戸惑いはしたが、自暴自棄な気持ちが心を支配していたので、深く考えずに、半分眠ったような頭でここまでやってきた。

死を覚悟した王子たちの態度が、ルイズを激しく落ち込ませていた。

ワルドはそんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と言って、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭にのせた。

新婦の冠は、魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく、清楚な作りであった。

そしてワルドはルイズの黒いマントを外し、やはりアルビオン王家から借り受けた純白のマントを纏わせたか。

新婦しか身につけることを許されぬ、乙女のマントであった。

しかし、そのようにワルドの手によって着飾られても、ルイズは無反応。

ワルドはそんなルイズの様子を、肯定の意思表示と受け取った。

始祖ブリミルの像の前に立ったウェールズの前で、ルイズと並び、ワルドは一礼した。

ワルドの格好は、いつもの魔法衛士隊の制服である。

「では、式を始める」

王子の声が、ルイズの耳に届く。

でも、どこか遠くで鳴り響く鐘のように、心許ない響きであった。

ルイズの心には、深い霧のような雲がかかったままだった。

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そしつ妻とすることを誓いますか」

ワルドは重々しく頷いて、杖を振った左手を胸の前に置いた。

「誓います」

ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。

「新婦ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」

朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。

今が、結婚式の最中だということに、ルイズは気付いた。

相手は、憧れていた頼もしいワルド。

2人の父が交わした、結婚の約束。

幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。

それが今、現実のものになろうとしている。

ワルドのことは嫌いじゃない。

おそらく、好いているのだろう。

でも、それならばどうして、こんなに切ないのだろう。

どうして、こんなに気持ちは沈むのだろう。

滅び行く王国を、目にしたから?

愛する人を守るため、死を選んだ王子を目の当たりにしたから?

違う。

悲しい出来事は、心に傷つけはするけれど、このような雲をかからせはしない。

深い、沈うつな雲を、かからせはしない。

ルイズは不意に、ウルキオラのことを思い出した。

どうして自分の心に、ウルキオラが出てくるのだろう?

止めて欲しかったのだ。

誰に?

ウルキオラに止めて欲しかったからだ。

どうして?

その理由に気づいて、ルイズは顔を赤らめた。

悲しみに耐え切れず、昨晩、廊下で出会ったウルキオラの胸に飛び込んだ理由に気付いた。

でも、それはほんとの気持ちなのだろうか?

わからない。

でも、確かめる価値はあるんじゃないだろうか?

なぜなら自分から、異性の胸に飛び込むなんて、どんなに感情を高ぶらせたって、ついぞなかったことなのだから。




一方……。

こちらは、ニューカッスル城のとある部屋のなか。

「なるほど、虚っていう種族の中にも色々あるんだな」

「ああ」

椅子に腰掛け、デルフに虚の説明をしていたウルキオラは、視界が一瞬曇ったことに気付いた。

「…」

「どうした?相棒」

デルフは急に話を止めたウルキオラを不審に思った。

ウルキオラの視界が、まるで真夏の陽炎のように、左目の視界が揺らぐ。

「目がおかしい」

「疲れてるんじゃないか?そんなことより、早く続きだ、続き!」

デルフは、虚の話をするように促した。




「新婦?」

ウェールズがこっちを見ている。

ルイズは慌てて顔を上げた。

式は自分の与りしらぬところで続いといる。

ルイズは戸惑った。

どうすればいいんだろう?

こんな時はどうすればいいんだろう。

誰も教えてくれない。

唯一、その答えを持っているウルキオラは、今ここに居ない。

「緊張しているのかい?仕方がない。初めての時は、ことが何であれ、緊張するものだからね」

にっこりと笑って、ウェールズは続けた。

「まあ、これは儀式に過ぎぬが、儀式にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と……」

ルイズは気付いた。

誰もこの迷いの答えを、教えてはくれない。

自分で決めねばならない。

ルイズは深く深呼吸して、決心した。

ウェールズの言葉の途中、ルイズは首を振った。

「新婦?」

「ルイズ?」

2人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。

ルイズは、ワルドに向き直った。

悲しい表情を浮かべ、再び首を降る。

「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」

「違うの。ごめんなさい……」

「日が悪いなら、改めて……」

「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」

いきなりの展開に、ウェールズは首を傾げた。

「新婦は、この結婚を望まぬのか?」

「その通りでございます。お2人方には、大変失礼を致すことになりますが、私はこの結婚を望みません」

ワルドの顔に、朱がさした。

ウェールズは困ったように、首を傾げ、残念そうにワルドに告げた。

「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」

しかし、ワルドはウェールズに見向きもせずに、ルイズの手を取った。

「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒むわけがない」

「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うわ」

するとワルドは、今度はルイズの肩を掴んだ。

その目がつりあがる。

表情がいつもの優しいものではなく、どこか冷たい、トカゲが何かを思わせるものに変わった。

熱っぽい口調で、ワルドは叫んだ。

「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる!そのために君が必要なんだ」

豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。

「……わたし、世界なんかいらないもの」

ワルドは両手を広げると、ルイズに詰め寄った。

「僕には君が必要なんだ!君の力が!ウルキオラ君の力が!」

そのワルドの剣幕に、ルイズは恐れをなした。

優しかったワルドがこんな顔をして、叫ぶように話すなんて、夢にも思わなかった。

「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう!君は自分で気づいていないだけだ!その才能に!それに、君の使い魔であるウルキオラ君は、未知の力を秘めたすばらしい存在だ!」

「ワルド、あなた……」

ルイズの声が、恐怖で震えた。

ルイズの知っているワルドではない。

何が彼を、こんな物言いをする人物に変えたのだろうか。




とある部屋、ウルキオラはデルフと話していた。

「なるほど、死神とかいう連中と虚は1000年以上も争っていたのか?」

「そうだ」

ウルキオラは目を擦りながら言った。

「相棒もその死神とやらと戦ってたのかい?」

デルフはウルキオラの質問に答えなかった。

「相棒?」

デルフはウルキオラに聞き返した。

「なんだ…これは?」

「どうした!?相棒!」

「これは、ルイズの視界…か?」

ウルキオラが言った。

いつか見た本の内容を思い出した。

『使い魔は、主人の目となり、耳となる能力を与えられる』

なるほど、逆の場合もあるのか…と思った。

だが、どうして、いきなりルイズの視界が見えるようになったのか?

ウルキオラは左手を見た。

そこに刻まれたルーンが、剣を持ってるわけでもなく、技を使用しているわけでもないのに、光り輝いていた。

なるほど、と思った。

これも能力か?

伝説の使い魔『イーヴァルディー』の能力なのだ。

ウルキオラはどんな映像が流れるのか気になった。




ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズが、間に入って取り直そうとした。

「子爵……、君はフられたのだ。潔く……」

しかし、ワルドはその手を跳ね除ける。

「黙っておれ!」

ウェールズは、ワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。

ワルドはルイズの手を握った。

ルイズはまるで蛇に絡みつかれたように感じた。

「ルイズ!君の才能とウルキオラ君が僕には必要なんだ!」

「私は、そんな、才能あるメイジじゃないわ」

「だから何度も言っている!自分で気づいてないだけなんだよルイズ!」

ルイズはワルドの手を振りほどこうとした。

しかし、もの凄い力で握られているために、振りほどくことができない。

苦痛に顔をゆがめて、ルイズは言った。

「そんな結婚、死んでもいやよ。あなた、私をちっとも愛してないじゃない。わかったわ、あなたが愛してるのは、あなたが私にあるという、有りもしない魔法の才能と、ウルキオラの力だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて、こんな屈辱はないわ!」

ルイズは暴れた。

ウェールズが、ワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。

しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。

突き飛ばされたウェールズの顔に、赤みが走る。

立ち上がると、杖を抜いた。

「うぬ、なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」

ワルドは、そこでやっとルイズたちから手を離した。

どこまでも優しい笑顔を浮かべる。

しかし、その笑みは嘘に塗り固められていた。

「こうまで僕が言ってもダメかい?ルイズ。僕のルイズ」

ルイズは怒りで震えながら言った。

「いやよ、誰があんたと結婚なんかするもんですか!ウルキオラも、私自身も、あんなになんか渡さないわ!」

ワルドは天を仰いだ。

「こうなっては仕方ない。ならば目的の1つは諦めよう」

「目的?」

ルイズは首を傾げた。

どういうつもりだど思った。

ワルドは唇の端をつりあげると、禍々しい笑みを浮かべた。

「そうだ。この旅における僕の目的は3つあった。まあ、旅の途中でもう1つ目的が見つかったから、合計は4つか…。その内の3つが達成できれば、よしとするか」

「達成?3つ?どういうこと?」

ルイズは不安におののきながら、尋ねた。

心の中で、考えたくない想像が急激に膨れ上がった。

ワルドは右手を掲げると、人差し指を立てて見せた。

「まず1つは君だ、ルイズ。君を手に入れることだ。しかし、これは果たせそうにないようだ」

「当たり前じゃないの!」

次にワルドは、中指を立てた。

「2つ目の目的は、ルイズ。君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」

ルイズはハッとした。

「ワルド、あなた……」

「そして3つ目は……」

ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、全てを察したウェールズが、杖を構えて呪文を詠唱した。

しかし、ワルドは2つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。

ワルドは、風のように身を翻らせ、ウェールズの胸を青白く光るその杖で貫いた。

「き、貴様……、『レコン・キスタ』……」

ウェールズの口から、どっと鮮血が溢れる。

ルイズは悲鳴をあげた。

ワルドはウェールズの胸を光る杖で深々と抉りながら呟いた。

「3つ目は……、貴様の命だ。ウェールズ」

どう、っとウェールズは床に崩れ落ちる。

「そして、旅の途中で出来た目的は、ルイズ、君の使い魔のウルキオラ君を我々に引き込むことだ」

「貴族派!あなた、アルビオンの貴族派だったのね!ワルド!」

ルイズは、わななきながら、怒鳴った。

ワルドは裏切り者だったのだ。

「そうとも。いかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」

ワルドは冷たい、感情のない声で言った。

「どうして!トリステインの貴族であるあなたがどうして⁉︎」

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない」

ワルドは再び杖を掲げた。

「ハルケギニアは我々の手で1つになり、始祖ブリミルの降臨せし『聖地』を取り戻すのだ」

「昔は、昔はそんな風じゃなかったわ。何があなたを変えたの?ワルド……」

「月日と、数奇な運命の巡り合わせだ。それが君の知る僕を変えたが、今ここで語る気にはならぬ。話せば長くなるからな」

ルイズは思い出したように杖を握ると、ワルドめがけて振ろうとした。

しかし、ワルドに難なく弾き飛ばされ、床に転がる。

「助けて……」

ルイズは蒼白な顔になって、後退った。

立とうと思っても、腰が抜けて立てないのだ。

ワルドは首を振った。

「だから!だから共に、世界を手に入れようと言ったではないか!」

風の魔法が飛ぶ。

『ウィンド・ブレイク』。

ルイズを紙切れのように吹き飛ばした。

「いやだ……、助けて……」

「いうことを聞かぬ小娘は、首を捻るしかないだろう?なあ、ルイズ」

壁に叩きつけられ、床に転がり、ルイズは呻きをあげた。

涙が溢れる。

このには居ないウルキオラに繰り返し助けを求めた。

「助けて……、お願い」

まるで呪文のように、ルイズは繰り返す。

楽しそうに、ワルドは呪文を詠唱した。

『ライトニング・クラウド』だ。

「残念だよ……。この手で、君の命を奪わねばならないとは……。だが、安心してくれたまえ。君の愛しのウルキオラ君は私が『レコン・キスタ』に引き込んで差し上げよう」

あの魔法をまともに受ければ、命はない。

体中が痛い。

ショックで息が途切れそうだ。

ルイズは子供のように怯えて、涙を流した。

「ウルキオラ!助けて!助けて!!」

ルイズは絶叫した。

呪文が完成し、ワルドがルイズに向かって杖を振り下ろした。

『ライトニング・クラウド』がルイズに向かって伸びていく。

ルイズは目を瞑った。

しかし、いつまで経ってもルイズの体に魔法は襲い掛からなかった。

恐る恐る目を開けると、そこには白い服を身につけ、頭に仮面があり、腰と背中に剣を差した、1人の男がルイズの目の前に、背を向けて立っていた。

「ウ、ウルキオラ…ウルキオラ!」

ルイズは泣きながらその名を連呼した。




「ウルキオラ君……」

ワルドが呟く。

ルイズとワルドの間に、一瞬で現れたウルキオラは、右手でルイズに襲いかかろうとした『ライトニング・クラウド』をかき消した。

「何をしている、ワルド」

ウルキオラはワルドに向かって言った。

ワルドは答えない。

「どうした?聞いているんだ。ルイズに攻撃を仕掛けて、何のつもりだ…とな」

ワルドは禍々しい笑みを浮かべた。

「何、ルイズが邪魔になったのでね、排除しようと思ったのさ」

「なんだと?」

ウルキオラは冷徹な声で問いかける。

「そのままの意味さ。才能あるものが敵に回るほど、厄介なことはないからね」

ワルドは両手をあげ、首を横に振りながら言った。

ウルキオラは横目でルイズを見た。

ウルキオラ、ウルキオラと泣きながら弱々しい声で、呟いている。

生命に支障はないようだ。

ワルドはそんなウルキオラに提案を持ちかけた。

「ウルキオラ君…私と共に世界を変えないか?」

ワルドの声に、ウルキオラは振り向いた。

「どういう意味だ」

「そのままの意味さ!我ら『レコン・キスタ』の一員に入り、世界を変えよう!君にはそれが出来る!君の力は素晴らしい!あんな小娘など、もはやどうでもいい!君がいれば、あのエルフも敵ではない!」

ルイズは恐怖した。

ワルドがウルキオラを勧誘している。

もしかしたら、ウルキオラが『レコン・キスタ』に行ってしまうかもしれない…。

ルイズは不安で不安で仕方がなかった。

「お前の仲間とやらになれということか?」

ワルドは興奮した口調で言った。

「その通りだ!ウルキオラ君!我らと共に来い!そんな小娘の使い魔などやるより、我らと共に来た方が余程君という力は発揮されるだろう!」

ウルキオラは「ふっ」と笑うと、ワルドと目を合わせた。

「確かに、お前の言うとおりかもな。ワルド」

ルイズは胸が苦しくなった。

ウルキオラが行ってしまう。

自分の元からいなくなってしまう。

涙が津波のように流れた。

悲しすぎて、うまく言葉が出なかった。

「まって…お願い…行かないで…ウルキオラ…」

ルイズは、聞き取れないような、小さな声で、涙ながらに呟いた。

ワルドは満面の笑みを浮かべた。

「そうか!そうか‼︎わかってくれたか!ウルキオラ君!流石は私の見込んだ男だ!」

ワルドは高らかに、大声で笑った。

ルイズは悔しくて、体が震えた。

悲しくて、涙が止まらなかった。

自分に力がないから…自分がウルキオラに何1つしてあげなかったから…ウルキオラを元の世界から無理やり連れてきたから、ウルキオラは行ってしまうのだ、と思った。

後悔の念がルイズの心を襲った。

「ああ、よくわかった」

ウルキオラはワルドに向かって言った。

ルイズは、悲しみから何も言えなかった。

すると、ルイズの前にいたウルキオラの姿が一瞬で消えた。

響転である。

ウルキオラはワルドの後ろ、5メイルほど先に移動していた。

「ぐわああああああ!」

ワルドの悲痛の叫び声が礼拝堂に響いた。

ルイズはその声に驚き、ワルドを見た。

すると、ワルドの左腕が切断され、地面に落ち着いた。

ワルドは、痛みからか地面に膝をつき、呼吸を荒げていた。

ウルキオラはデルフを振り降ろし、血を払った。

「お前が、俺を引き入れることができると思っていることが、よくわかった」

ウルキオラがワルドに向き直る。

ルイズは目を見開き、惚けていた。

「き、貴様〜!何のつもりだ!くそ!くそ〜!」

ワルドは切られた左腕の痛みを紛らわすかのように左肩を右腕で掴んでいた。

「何のつもりだ、だと?主人を守るのが使い魔の使命だろう?まさか、知らんわけではあるまい」

ウルキオラは冷静にワルドの問いに答えた。

ワルドは切られた左腕の痛みに耐えながら、呪文を詠唱した。

「ユピキタス・デル・ウィンデ……」

呪文が完成すると、ワルドの体はいきなり分身した。

1つ…2つ…3つ…4つ…、本体を合わせて、5体のワルドが現れた。

「分身か?」

「だだの『分身』ではない。風のユピキタス……。風は偏在する。風の吹くところ、何処となく彷徨い現れ、その距離は意志の力に比例する」

ワルドは息を切らしながら、ウルキオラに語った。

「なるほど、これで全ての謎が解けた。まさか、そのような魔法があるとはな…。仮面の男は、やはりお前だったか…ワルド」

ワルドの顔は驚きに支配された。

「ま、まさか…気づいていたのか!」

「お前と仮面の男の魔力が、酷似していたのでな…あながち間違っていなかったらしいな」

ワルドは屈辱で顔を歪めた。

「「「「「ふざけるな…ふざけるな〜!使い魔ごときが…使い魔ごときが…調子に乗るな〜〜‼︎」」」」」

5人のワルドは血相を変えて、ウルキオラに怒鳴った。

そして、5つの『ライトニング・クラウド』がウルキオラに襲いかかる。

「「「「「ふ、ふはははは!どうだ!流石に君といえども、5つの『ライトニング・クラウド』をその身に受ければ、ただでは済まんだろう!」」」」」

しかし、ウルキオラはデルフを右手に構えたまま、その場を動かない。

そして、ウルキオラに5つの『ライトニング・クラウド』が、襲いかかった。

「ウルキオラ!」

ルイズは叫んだ。

ウルキオラが死んでしまう。

立ち上がろうとしたが、痛みで立ち上がれなかった。

凄まじい電撃が、ウルキオラを襲う…はずだった。

しかし、電撃はウルキオラの持つデルフに吸収された。

「「「「「なに⁉︎」」」」」

ワルドはその光景を見て、驚愕した。

ウルキオラはデルフに視線を向けた。

「無駄なことを…それがお前の能力か?」

デルフはかちゃかちゃと金属音を響かせた。

「おうよ!伝説の剣を見くびるなよ!」

デルフは興奮した口調で言った。

「「「「「くそ!」」」」」

ワルドはもう一度呪文を詠唱した。

しかし、『イーヴァルディー』の能力が上乗せされたウルキオラの響転により、本体を除いたワルドは一瞬で消滅した。

「く、くそ!くそー!」

ワルドはその場にへたりこみ、地面に向かって叫んだ。

「理解したか?貴様程度の実力では、俺に擦り傷を負わせることも出来ん」

ウルキオラは冷徹な声でワルドに言い放つと、デルフを鞘に収めた。

ワルドは地面にふっしたままである。

少しすると、ワルドは立ち上がり、閃光の名に恥じぬ動きでルイズの後ろに移動した。

ワルドは再び、『偏在』の魔法唱えたらしく、1人がルイズの首を絞め、1人がルイズに杖を向けていた。

「「動くな!さもなくば、ルイズは粉々になるぞ!」」

ワルドはルイズを人質に取ったのだ。

「ウルキオラ!助けて!」

ルイズは暴れている。

ワルドは少しずつ、扉の近くに移動した。

「「おしい、おしいな!ウルキオラ!あともう少しで僕を殺せたのに…」」

ワルドは笑いながらウルキオラに言った。

ウルキオラはその場を動かずにじっとしていた。

「「これでわかったろう?君にとって、ルイズは足手纏いにしかならないということが!」」

ワルドは更に大声で笑った。

少しして、笑うのをやめた。

「「まあ、足手纏いのルイズのおかげで、私は逃れることが出来るのだがな…。感謝するぞ、僕のルイズ!はっはっはっは!」」

ルイズは悔しくて涙が止まらなかった。

「「まあ、目的が1つ達成できたのだ。さらばだ!ウルキオラ君」」

そう捨て台詞を残し、ワルドは扉から、走り去った。

暫くすると、分身のワルドが口を開いた。

「この借り、必ずや返させてもらうぞ!イーヴァルディーのウルキオラ!」

そう言って、ルイズの首を絞めていた、分身のワルドが消えた。

ルイズはその場にへたり込んだ。

ウルキオラがルイズに向かって歩き始めた。

「無事か?ルイズ」

ウルキオラはルイズの前で立ち止まり、言った。

ルイズはウルキオラの顔を覗き込んだ。

ルイズの顔は涙と血で汚れていた。

「ウ、ウルキオラ…ウルキオラー!」

ルイズはウルキオラの胸に飛び込んだ。

ウルキオラは無表情でルイズを受け止めた。

「怖かった…怖かったよー!ウルキオラー!」

ルイズはウルキオラの胸に顔を埋めた。

「だから、俺の胸で涙を拭くな」

ルイズはそんなウルキオラの言葉を聞かず、ただただ泣いていた。




「落ち着いたか?」

ルイズは泣くだけ泣いたのか、ウルキオラの胸から顔を離した。

「うん…」

ルイズは赤くなった顔をウルキオラに見られたくなかったので、俯いて言った。

「そうか、なら、脱出するぞ」

ウルキオラはそう言って、ルイズに背を向け、歩き出した。

「ま、待って…」

ルイズは離れていくウルキオラを引き止めた。

「なんだ?」

ウルキオラはルイズを振り向き、横目で見て、言った。

「あ、ありがとう…た、助けてくれて…」

ルイズは真っ赤な顔でウルキオラに言った。

「気にするな…俺の役目は、お前を守ることだ」

ウルキオラは言った。

ルイズはウルキオラに向かって走った。

そして、ウルキオラの腕に抱きついた。

「くっつくな…鬱陶しい」

ウルキオラは冷たく言い放った。

「なによ…別にいいじゃない」

ルイズは頬を膨らませて言った。

「あなたは、私の使い魔でしょ?」




その後、タバサ、キュルケ、ギーシュ一行が、ギーシュの使い魔ヴェルダンテの掘った穴から現れた。

ウルキオラはウェールズの亡骸から、風のルビーを引き抜き、その穴からアルビオンを脱出し、タバサの使い魔シルフィードでトリステインへと帰投した。




疾風のように飛ぶシルフィードのせいで、強い風が頬を嬲る。

温かい何かが、心の中に満ち、悲しい出来事で傷ついた自分の心が癒されていく。

ルイズはウルキオラの肩に頭を置いて、目を閉じた。

せめて、この風が…。

異世界から吹く、この心地よい風が…。

頬を嬲る間は、寝ていようと思った。







 
 

 
後書き
第2巻終わりました!

いやー、疲れた。非常に疲れた。

誤字脱字の訂正は後日やります。

明日はクリスマスを楽しんできます。

それでは、またの機会に。 
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