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ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
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第四十五話 異変

ルナはライドチェイサーに跨がり、クレバスを飛び越える。
途中の大型メカニロイドを破壊し、最後の直線を潜り抜けた。
視界が開ける。
吹雪の向こうに凄まじいエネルギー反応を感知した。
ルナは壁にライドチェイサーをぶつけ、堅固な壁を破壊した。
真っ白な雪原が広がっていた。

ルナ「………」

無言で降り立つと、雪原から敵が飛び出した。
見せ付けるように巨体を晒した“永久凍土の番人”、アイスノー・イエティンガー。

ルナ「お前がアイスノー・イエティンガーか」

ルナがバレットを構える。
僅かに震えているのは寒さのせいだけではなかった。

ルナ「(かなりのプレッシャー…こいつはマジでやらねえとやばいかな…?)」

イエティンガー「然り。我々の、あの方の理想を邪魔しないでもらおう」

ルナ「シグマの野郎は何を企んでやがる?」

イエティンガー「我が主の理想を阻むのならば、例え女子供(おんなこども)でも…滅殺するのみ!!」

ルナは目つきを鋭くする。
これ程までに強烈な威圧感を感じたのは久しぶりだ。
レッドアラートとの戦い以来は小規模な戦闘と事務作業を繰り返していた彼女には少しイエティンガーの身体が通常より大きく見えた。

ルナ「悪いが、俺も負けるわけにはいかねえ、譲れねえもんがあるからな」

イエティンガーに向けてリフレクトレーザーが放たれた。
レーザーの煌めきが冷気に触れ、冴え冴えとした光を映した。
イエティンガーは宙に浮くと、矢のような氷塊を撃ち出した。
氷塊がルナに冷たい切っ先を向ける。
ばら撒かれる瞬間、ルナは軌道を読み切って全てかわした。

イエティンガー「かわしたか…流石は我々の元となったレプリロイド。だが、これはどうだ?」

イエティンガーが消えた……のではなく、潜り、雪原の中を走った。
舞い上がる粉雪がルナに迫る。
ダッシュでかわすと、イエティンガーの氷龍昇を背後に見る。

ルナ「(パワーはイグニス並だ…)」

巨体が繰り出すアッパーは胸がすくほどに壮観であった。
あれをまともに喰らえば命はないと感じられた。
細かい雪が空中に散る。

イエティンガー「(思っていたよりも素早い)」

ルナ「トランスオン!!メルトクリーパー!!」

コケコッカーに変身し、前方に火炎を繰り出す。
あまりの高熱に雪が蒸発する。
イエティンガーは冷気を吐き出し、火炎を掻き消すと戦略を変え、今度は氷を纏い、突進してきた。

ルナ「なっ!!?」

左、右。
一撃目はかわせたが、すれ違いざまに掠った冷気が、ルナの足を凍りつかせ、彼女の自由を奪う。
そして突進を受けたルナが弓なりになる。

イエティンガー「もう一撃…」

ルナ「くそ…ったれ…!!」

バレットを自らの足に放つ。
出力は最低だが、足のアーマーが熱でひしゃげた。
即座に足の痛覚をシャットアウトすると滑り込むように突撃を回避した。

イエティンガー「大したものだ…」

ルナ「見くびんのも、大概にしやがれ…」

痛みに表情を歪めながら、イエティンガーを睨む。

イエティンガー「何故そこまで戦う。本来ならば同胞である我々が?」

平和主義である彼は、出来ることなら余計な犠牲を生みたくはなかった。
自分が倒すべき敵は、蒼の英雄と紅の破壊神と朱の舞姫である。

ルナ「……確かに俺も、無用な戦いは避けたいさ。でもさ、俺にも俺なりにちっぽけだけど信念がある。少なくても、逃げることは絶対にしない」

きっぱりと言い切る。
敵や死に対する恐怖など微塵もなかった。
紺色の狙撃手と世界で謳われた戦士の姿に彼は悟る。

イエティンガー「ならば、次の一撃で決着をつけるとしよう」

雪が舞い上がる。
その凄まじさは、敵の居場所を分からなくする。
地上ですらの感知も不可能となった。
加えてルナは片足の機動力を失っており、片足のみで逃げることは出来ない。
イエティンガーの一撃をまともに喰らい、命を果たす以外に術はない。

ルナ「…………」

彼女は目を閉じた。
覚悟を決めたような横顔。
死への恐怖も、負けることへの悔しさも存在しない。
とても静かな表情。
千切れるような冷気の中で、彼女の表情は、芸術的にさえ思えた。
祈りを捧げるように俯く。
イエティンガーは雪の中ゆえ、彼女が見える訳ではないが、優れた戦士の五感が、彼女の発する空気を感じた。
歴戦の戦士でさえもああも潔くは出来ないと、イエティンガーは密かに感服する。

イエティンガー「今、楽にしてやろう…」

氷龍昇を繰り出す瞬間、ルナが瞳を開いた。
火花が散り、ルナの身体が宙を舞った。
金属同士がぶつかり合う音も聞こえた。
氷龍昇をまともに喰らったのだ。
イエティンガーは手応えを感じた。踊るように宙に浮くルナを見て、彼女が死んだと思った。
散り際の桜に似ていると称賛した。
しかし彼女は生きていた。
受ける直前で片足の加速装置を回すことで後退し、ダメージを僅かながら軽くした。

ルナ「トランスオン!!サンダーダンサー!!」

ドクラーゲンに変身すると、電撃をイエティンガーに向けて放つ。
迸るエネルギーがイエティンガーに直撃した。

イエティンガー「馬鹿な…!!あの攻撃で生きているなど…!!」

驚愕、後に攻撃に転じようとするが、氷を電撃が溶かし、水へと変える。

イエティンガー「か、身体が…」

水は電気を通す。
つまり感電してしまう。
低温下での運用を前提にして造られた新世代型レプリロイドである彼は、最新型の超伝導部品が使われており、大電流が回路に流れやすい状態であった。
そこに、オリジナルより劣化するとはいえ、強烈な電撃をまともに受けたイエティンガーの身体が許容範囲を大きく超えた電流を浴び、全機能をショートさせる。

イエティンガー「我が攻撃が…敗北を招いた、か……!!」

ショートする音が聞こえたかと思うと、直後に爆発した。
巨躯が爆風を放って四散し、炎に覆われた残骸が吹き飛んでいく。
雪原に落ちた屍が無残に、巨人の跡形も残さずにばら撒かれた。
そして変身を維持出来なくなったルナは地面に落ちた。
ギリギリだが、見事に勝利した。 
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