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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第2部
  第5章 出港までの休日

 
前書き
どーも、お久しぶりです。

作者の銭亀です。

無事にテストも終わり、こうして再開できたことを嬉しく思っています。

読者の皆様には長い間お待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした。

では、続きをお楽しみください。 

 
港町ラ・ロシェールは、トリステインから離れること早馬で2日、アルビオンへの玄関口である。

港町でありながら、狭い峡谷の間の山道に設けられた、小さな街である。

人口はおよそ300ほどだが、アルビオンと行き来する人々で、常に十倍以上の人間が街を闊歩している。

狭い山道を挟むようにそそり立つ崖の一枚岩をうがって、旅籠やら商店が並んでいた。

立派な建物の形をしているが、並ぶ建物の一軒一軒が、同じ岩から削り出されたものであることが近ずくとわかる。

『土』系統のスクウェアメイジたちの巧みの技であった。

峡谷に挟まれた街なので、夜の暗さが一層増している。

ラ・ロシェールで1番上等な宿、『女神の杵』亭に泊まることにした一行は、一回の酒場で、くつろいでいた。

『女神の杵』亭は、貴族を相手にするだけあって、豪華なつくりである。

テーブルは、床と同じ一枚岩からの削り出しで、ピカピカに磨き上げられていた。

顔が映るぐらいである。

そこに、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていたワルドとルイズが帰ってきた。

ワルドは席に着くと、困ったように言った。

「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」

「急ぎの任務なのに」

ルイズは口を尖らせている。

ウルキオラが口を開いた。

「なら、俺一人でアルビオンに行き、手紙を回収するか?」

その言葉にワルドは動揺した。

「い、いや、それはダメだ」

「なぜだ?」

ウルキオラは怪訝に思った。

「君1人では向こう側への信頼が足らないからだ」

「確かにそうだな」

ウルキオラはワルドの答えに同意した。

ギーシュはホッとした。

ギーシュは風竜の上で目を覚ましていたのだ。

(これで明日は休んでいられる)

ギーシュはため息をついた。

「あたしはアルビオンに行ったことないからわかんないけど、どうして明日は船が出ないの?」

キュルケの方を向いて、ワルドが答えた。

「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく」

ウルキオラは表情を変えずに話を聞いている。

(潮の満ち引きでも関係してるんだろうか…潮の干満は月の動きで決まるからな)

「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った」

ワルドは鍵束を机の上の置いた。

「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュとウルキオラが相部屋。僕とルイズは同室だ」

ギーシュはウルキオラを見て少し怯えた。

「安心しろギーシュ。俺に睡眠は必要ない。お前たちの警護でもしてやろう」

ワルドは少し目を見開いた。

「睡眠が必要ない?」

ウルキオラは相変わらず無表情だ。

「ああ、霊圧を消費しない限り、食事も睡眠もいらん」

全員がギョッとした。

それは、ウルキオラが本当に人間じゃないことを示していたからだ。

ワルドは驚きながらも、ウルキオラに問いかけた。

「霊力とはなんだい?君の力のことか?」

「ああ、魔力のようなものだ」

「そうか…」

暫し沈黙が流れる。

その間、ルイズは先程のワルドの言葉を思い出した。

「ワルド、同室なんてダメよ!」

急にルイズが大声で叫んだため、全員がルイズに視線を移した。

「どうしてだい?婚約者同士なんだから当然だろ?」

「でも、私たちまだ結婚したわけじゃないじゃない!」

ワルドは首を振った。

そして、ウルキオラに言った。

「君はどう思う?ウルキオラ君」

ウルキオラは何を聞いているんだこいつは?と思った。

「知ったことか。好きにしろ」

全く関心のないウルキオラにルイズは少しがっかりする。

「君の使い魔もこう言っている。それに、大事な話があるんだ。2人っきりで話したい」

ルイズは少し悩んだが、暫くして首を縦に振った。




貴族相手の宿、『女神の杵』亭で1番上等な部屋だけあって、ワルドとルイズの部屋は、かなり立派な作りであった。

誰の趣味なのか、ベッドは天蓋付きの大きなものだったし、高そうなレースの飾りが付いていた。

テーブルに座ると、ワルドはワインの栓を抜いて、杯についだ。

それを一気に飲み干す。

「君も腰掛けて、一杯やらないか?ルイズ」

ルイズは言われたままに、テーブルについた。

ワルドがルイズの杯に、ワインを満たしていく。

自分の杯にもついで、ワルドはそれを掲げた。

「2人に」

ルイズはちょっと俯いて、杯をあわせた。

かちん、と陶器のグラスが触れ合った。

「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」

ルイズはポケットの上から、アンリエッタから預かった封筒を押さえた。

いったい、どんな内容だろう?

そして、ウェールズから返して欲しいという手紙の内容はなんなのだろう?

なんとなく、それは予想がつく気がした。

アンリエッタとは、幼い頃、共に過ごした仲である。

彼女がどうゆう時に……、あんな表情ーー最後の一文を書き添える時に見せた表情をするのか、ルイズにはよくわかっていた。

考え事をしている自分を、興味深そうにワルドが覗き込んでいる。

ルイズは頷いた。

「……ええ」

「心配なのかい?無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるか」

「そうね。心配だわ」

ルイズは可愛らしい眉を、への字に曲げて言った。

「大丈夫だよ。きっとうまくいく。なにせ、僕がついているんだから」

「そうね。あなたがいれば、きっと大丈夫よね。あなたは昔から、とても頼もしかったもの。で、大事な話って?」

ワルドは遠くを見る目になって言った。

「覚えているかい?あの日の約束……、ほら、君のお屋敷の中庭で……」

「あの、池に浮かんだ小舟?」

ワルドは頷いた。

「君は、いつもご両親に怒られた後、あそこでいじけていたな。まるで、捨てられた子猫みたいに、うずくまって……」

「ほんとに、もう、変な事ばっかり覚えているのね」

「そりゃ覚えているさ」

ワルドは楽しそうに言った。

「君はいっつもお姉さんと魔法の才能を比べられて、デキが悪いなんて言われていた」

ルイズは恥ずかしそうに俯いた。

「でも、僕はそれはずっと間違いだと思ってた。確かに、君は不器用で失敗ばかりしていたけど……」

「意地悪ね」

ルイズは頬を膨らませた。

「違うんだルイズ。君は失敗ばかりしていたけれど、誰にもないオーラを放っていた。魅力とも言っていい。それは、君が他人にはない特別な力を持っているからさ。僕だって並みのメイジじゃない。だからそれがわかる」

「まさか」

「まさかじゃない。例えば、そう、君の使い魔……」

ルイズの頰が赤く染まった。

「ウルキオラのこと?」

「そうだ。彼の左手に浮かび上がったルーン……。あれは、ただのルーンじゃない。伝説の使い魔の印さ」

「伝説の使い魔の印?」

「そうさ。あれは『イーヴァルディー』の印だ。始祖ブリミルが用いたという。伝説の使い魔さ」

ワルドの目が光った。

「イーヴァルディー?」

ルイズは怪訝そうに尋ねた。

「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」

「信じられないわ」

ルイズは首を振った。ワルドは冗談を言っているのだと思った。

確かにウルキオラはやたらすばしっこく、馬鹿みたいに強いけど、伝説の使い魔だなんて信じられない。もし、そうなのだとしても、何かの間違いだろうと思った。

自分はゼロのルイズだ。

落ちこぼれ。

どう考えたって、ワルドが言うような力が自分にあるなんて思えない。

「君は偉大なメイジになるだろう。そう、始祖ブリミルのように、歴史に名を残すような、素晴らしいメイジになるに違いない。僕はそう予感している」

ワルドは熱っぽい口調で、ルイズを見つめた。

「この任務が終わったら、僕と結婚しよう。ルイズ」

「え……」

いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。

「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれは、国を……、このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている。

「で、でも……」

「でも、なんだい?」

「わ、わたし……、まだ……」

「もう、子供じゃない。君は16だ。自分の事は自分で決められる年齢だし、父上だって許してくださってる。確かに……」

ワルドはそこで言葉を切った。

それから、再び顔を上げると、ルイズに顔を近づけた。

「確かに、ずっとほったらかしだったことは謝るよ。婚約者だなんて、言えた義理じゃないこともわかってる。でもルイズ、僕には君が必要なんだ」

「ワルド…」

ルイズは考えた。

なぜか、ウルキオラのことが頭に浮かぶ。

ワルドと結婚しても、ウルキオラは自分の使い魔としていてくれるだろうか?

多分、それは無理だろう。

もし、あの異世界から来たウルキオラをほっぽり出したら、どうなるのだろう?

キュルケあたりが世話を焼くかもしれない。

そんなのやだ、とルイズは思った。

少女のワガママと独占欲で、ルイズはそう思った。

ウルキオラは……、無口でムカつくけれど、他の誰のものでもない。

ルイズの使い魔なのだ。

ルイズは顔をあげた。

「でも、でも……」

「でも?」

「あの、その、わたしまだ、あなたに釣り合うような立派なメイジじゃないし……、もっともっと修行して……」

ルイズは俯いた。

俯いて、続けた。

「あのねワルド。小さい頃、私思ったの。いつか、皆に認めてもらいたいって。立派な魔法使いになって、父上と母上に褒めてもらうんだって」

ルイズは顔をあげて、ワルドを見つめた。

「まだ、わたし、それができてない」

「君の心の中には、誰かが住み始めたみたいだね」

「そんなことないの!そんなことないのよ!」

ルイズは慌てて否定した。

「いいさ、僕にはわかる。わかった。取り消そう。今、返事をくれとは言わないよ。でも、この旅が終わったら、君の気持ちは、僕に傾くはずさ」

ルイズは頷いた。

「それじゃあ、もう寝よっか。疲れただろう」

それからワルドはルイズに近づいて、唇を合わせようとした。

ルイズの体が一瞬強張る。

それから、すっとワルドを押し戻した。

「ルイズ?」

「ごめん、でも、なんか、その…」

ルイズはもじもじとして、ワルドを見つめた。

ワルドは苦笑いを浮かべて、首を振った。

「急がないよ。僕は」

どうしてワルドはこんなに優しくて、凛々しいのに……。

ずっと憧れていたのに……。

結婚してけれと言われて、嬉しくないわけじゃない。

でも、何かが心にひっかかる。

ひっかかったそれが、ルイズの心を前に歩かせないのだ。




酒場の椅子に座りながら、ウルキオラは『鬼道全集』を読んでいた。

イーヴァルディーのルーンのおかげもあり、すでに90番台も問題なく使えるのだが、他に読む本もないので、仕方なくよんでいる。

そんなふうにしていると、デルフリンガーはボソッと呟いた。

「なあ、相棒」

「なんだ?」

ウルキオラは本から目線を変えずに、答えた。

「相棒はいったいなんなんだい?」

「どういう意味だ」

デルフリンガーの問いの意味がわからず、聞き返した。

「相棒は人間じゃねーんだろ?」

「ああ」

「やっぱり亜人なのかい?」

ウルキオラはデルフリンガーに視線を移した。

「虚だ」

デルフリンガーは聞きなれない言葉にカチャカチャと疑念を表した。

「その虚ってのは、いったいなんなんだ?」

「……虚は、死した人間の……」

ウルキオラがデルフリンガーに自らの種族の説明をしようとしたが、後ろからの衝撃で口を閉じた。

「こんなところでなにしてるの?本を読むのがお好きなの?もう、探したのよ。あたし」

衝撃の正体はキュルケであった。

キュルケは、後ろからウルキオラを抱きしめている。

「離れろ」

ウルキオラは怠そうに答えた。

「なんで?いいじゃない。ところでなにを見てるの?」

キュルケはウルキオラの持っている本を覗き込んだ。

「なに…これ?読めないんだけど…」

ウルキオラはページをめくりながら答えた。

「俺の世界の文字だ」

「あなたの世界?」

キュルケは首を横に傾けながら言った。

「そうだ」

「へー、あなたの世界ではこんな字を使っているのね…」

キュルケは興味津々だった。

「早く寝ろ。起きられなくなるぞ」

「もう!冷たいのね…わかったわ。今日はもう寝るわ」

キュルケはウルキオラから体を引き離し、部屋に戻っていった。




翌日、ウルキオラは酒場で紅茶を飲んでいた。

すると、上からワルドが降りてきた。

「おはよう。ウルキオラ君」

「どうした?随分早い起床だな?」

ウルキオラがそう言うと、ワルドはにっこりと笑った。

「君は伝説の使い魔『イーヴァルディー』なんだろう?」

「…そうらしいな」

ウルキオラは怪訝な顔でワルドを見ている。

ワルドは、なぜか誤魔化すように、首を傾げて言った。

「……その、あれだ。フーケの一件で、僕は君に興味を抱いたのだ。先ほどグリフォンの上で、ルイズに聞いたが、君は異世界からやってきたそうじゃないか。おまけに伝説の使い魔『イーヴァルディー』だそうだね」

「ああ」

誰が『イーヴァルディー』の事を話したんだ?オスマンしか知らないはずであった。

「僕は歴史と、兵に興味があってね。フーケを尋問したときに、君に興味を抱き、王立図書館で君のことを調べたのさ。その結果、『イーヴァルディー』にたどり着いた」

なるほど…と思った。

「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」

「どういう意味だ」

「つまり、これさ」

ワルドは腰に差した魔法の杖を引き抜いた。

「決闘か?」

「その通り」

ウルキオラは表情を変えずにワルドを見つめた。

「いいだろう。どこでやる?」

「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ。中庭に練兵場があるんだ」




ウルキオラとワルドはかつて貴族たちが集まり、陛下の閲兵を受けたという練兵場で、20歩ほど離れて向かい合った。

練兵場は、今ではただの物置場となっている。

樽や空き箱が積まれ、かつての栄華を懐かしむかのように、石でできた旅立て台が、苔むして佇んでいる。

「昔……、と言っても君には分からんだろうが、かのフィリップ3世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」

ウルキオラはポケットに手を突っ込んだまま聞いている。

「古き良き時代、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……、貴族が貴族らしかった時代……、名誉と誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった。でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」

ワルドは物陰の方を見つめた。

「どうした?」

「立会いには、それなりの作法というものがある。介添人がいなくてはね…安心したまえ、もう呼んである」

ワルドがそう言うと、物陰からルイズが現れた。

ルイズは2人を見ると、ハッとした顔になった。

「ワルド、来いって言うから、来てみれば、何をする気なの?」

「彼の実力を、ちょっと試したくなってね」

「もう、そんなバカなことはやめて。今日はそんなことしている時じゃないでしょう?」

「そうだね。でも、貴族という奴は厄介でね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」

ルイズはウルキオラを見た。

「やめなさい。これは、命令よ?」

ウルキオラは答えない。

ただ、ワルドを見つめた。

「なんなのよ!もう!」

ルイズはたいそうお怒りである。

「介添人も来た。こい、ワルド」

ワルドは腰から、杖を引き抜いた。

ウルキオラは未だにポケットに手を突っ込んだまま動かない。

ワルドはフェイシングのように、ウルキオラに杖を突き出し攻撃する。

ウルキオラはそれを難なくかわしている。

ワルドは当たらないと察したのか、後ろに後退し、魔法を放った。

杖で攻撃している際に、詠唱を完成させたようだ。

ボンッ!と空気がはねた。

見えない巨大な空気のハンマーが、横殴りにウルキオラを襲った。

しかし、ウルキオラはそれを左手一本で受け止めた。

「な、なに!?」

魔法は完璧に捉えたはずだった。

普通なら10メイルほど吹き飛ぶはずなのだ。

それを片手で受け止められれば驚くのも無理はない。

「終わりか?」

ワルドはハッとした様子でウルキオラを見つめた。

「確かに、ギーシュよりはやるようだが…所詮は人間…この程度が限界か…」

ウルキオラは左手の人差し指をワルドの前に突き出した。

「縛道の61 六杖光牢」

ウルキオラの人差し指から黄色い光が放たれる。

ワルドの腹の辺りに、6つの長方形の光が刺さる。

「くっ!なんだ!これは!」

ワルドはウルキオラのいた方向を見たが既にそこにウルキオラの姿はなかった。

「なっ!いったいどこへ…」

「ここだ」

ワルドは右側から声がしたので振り返る。

すると、そこには斬魂刀の鋒を自分の首の前で止めているウルキオラの姿があった。

「勝負あり、だ」

ワルドはその場から引こうとしたが、腹に刺さった6つの光の板が邪魔して動けない。

「参った…」

ワルドはしんみりしたこえで負けを認めた。

すると、ワルドの動きを封じていた6つの光の板が四散した。

ウルキオラは、斬魂刀を鞘に戻した。

そして、そのままワルドに背を向け歩き出した。

ルイズはウルキオラの横を通り過ぎ、ワルドに駆け寄る。

「ワルド!」

ワルドはウルキオラの背中を見ながら、小さく呟いた。

「少し…計画を変更する必要がありそうだ」





そしてその夜……。

ウルキオラは一人、部屋のベランダで月を眺めながら、紅茶を飲んでいた。

ギーシュたちは、一階の酒場で酒を飲んで騒ぎまくっている。

明日はいよいよアルビオンに渡る日だということで、大いに盛り上がっているらしい。

キュルケが誘いに来たが、ウルキオラは断った。

ウルキオラは夜空を見上げた。

瞬く星の海の中、赤い月が白い月の後ろに隠れ、一つだけになった月が青白く輝いている。

その月は、ウルキオラに故郷を思い出させた。

虚圏の月。

あの男と戦い、消えた場所。

そんなふうに、月を見ていると、後ろから声がかけられた。

「ウルキオラ」

振り向くと、ルイズが立って、腕を組んでウルキオラを睨んでいる。

「なにしてんのよ。こんなとこで」

ウルキオラは再び月に目線を移した。

「虚圏のことを思い出していただけだ」

ルイズは俯いた。

「……悪いとは、思ってるわよ」

「情けをかけられる気はない」

「な、なによ!謝ってあげたのに!」

「それに…」

ウルキオラはそこで言葉を切った。

「なによ」

「嫌々お前の使い魔をしているわけではない。俺がやりたいからしているだけだ」

ウルキオラの言葉にルイズは驚いた顔をした。

「そ、そう」

ルイズの顔は真っ赤に染まっていた。

ルイズは俯いた顔をあげ、月を見ようとした。

「な、なに!」

月を眺めようとしたが、月が巨大な何かに隠れて見えない。

月明かりをバックに、巨大な影の輪郭が動いた。

目を凝らしてよく見ると、その巨大な影は、岩でできたゴーレムだった。

こんな巨大なゴーレムを操れるのは……。

巨大ゴーレムの肩に、誰かが座っている。

その人物は長い髪を、風にたなびかせていた。

「フーケ!」

ルイズは怒鳴った。

肩に座った人物が、嬉しそうな声で言った。

「感激だわ。覚えていてくれたのね」

「あんた!牢屋に入ってたんじゃ……」

ルイズは杖を握りながら言った。

「親切な人がいてね。私みたいな美女はもっと世の中のために役に立たなくてはいけないと言って、出してくれたのよ」

フーケは嘯いた。

暗くてよく見えないが、フーケの隣に黒マントを着た貴族が立っている。

あいつがフーケを脱獄させたんだろうか?

その貴族は喋るのはフーケに任せ、黙りを決め込んでいる。

白い仮面を被っているので、顔はわからないが、男のようだった。

「……お節介な奴がいたものだ。で、何の用だ?」

ウルキオラは表情を変えずに言った。

「素敵なバカンスをありがとうって、お礼を言いに来たんじゃないの!」

フーケの目が吊りあがり、狂的な笑みが浮かんだ。

フーケの巨大ゴーレムの拳がうなり、ベランダの手すりを粉々に破壊した。

硬い岩でできた手すりである。

岩で出来たゴーレムの破壊力は、以前より強くなっているようだった。

「ここらは岩しかないからね。土がないからって、安心しちゃダメよ!」

「安心も何も、警戒する必要がない」

ルイズの驚きを気にもとめず、ウルキオラは拳を広げ、ゴーレムの方へ向けた。

「縛道の63 鎖条鎖縛」

そう言って、拳を握ると、黄色い光を放つ鎖が、ゴーレムに巻きつき、動きを封じた。

「な、なんだい!これは!」

ゴーレムはガチャガチャと動くが、鎖条鎖縛が解除されることはなかった。

その隙に、ウルキオラはルイズを抱えて消えた。

響転で一階へと移動した。




移動した先の一階も、修羅場だった。

いきなり玄関から現れた傭兵の一隊が、一階の酒場で飲んでいたワルド達を襲ったらしい。

ギーシュ、キュルケ、タバサにワルドが魔法で応戦しているが、多勢に無勢、どうやらラ・ロシェール中の傭兵が束になってかかってきているらしく、手に負えないようだ。

キュルケたちは床と一体化したテーブルの足を折り、それを立てて盾にして、傭兵たちに応戦していた。

歴戦の傭兵たちは、メイジとの戦いに慣れていて、緒戦でキュルケたちの魔法の射程を見極めると、まず、魔法の射程外から矢を射かけてきた。

暗闇を背にした傭兵たちに、地の利があり、屋内の一行は分が悪い。

魔法を唱えようと立ち上がろうものなら、矢が雨のように飛んでくる。

ウルキオラはテーブルを盾にしたキュルケ達の下に、姿勢を低くして移動し、上にフーケがいることを伝えた。

フーケのゴーレムはウルキオラの鎖条鎖縛で封じられているため、今の所害はない。

他の貴族の客たちは、カウンターの下で震えている。

でっぷりと太った店の主人が必死になって傭兵たちに「わしの店がなにをした!」と訴えかけていたが、矢を腕にくらって床をのたうち回った。

「状況は?」

ウルキオラの言葉にワルドは答える。

「参ったね…あのフーケがいるとなると、アルビオン貴族が後ろにいるということだな」

キュルケが杖をいじりながら呟いた。

「……やつらはちびちびとこちらに魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らい、一斉に攻撃してくるわよ」

ワルドは何かを決心したかのように言った。

「いいか諸君」

ワルドは低い声で言った。

ウルキオラたちは、黙ってワルドに耳を傾けた。

「このような任務は、半数が目的地に着けば成功とされる」

「無論だ」

ウルキオラは短く肯定の意を添えた。

こんな時でも優雅に本を広げていたタバサが本を閉じて、ワルドの方を向いた。

自分とキュルケとギーシュを指して「囮」と呟いた。

それからタバサは、ワルドとルイズとウルキオラを指して「桟橋へ」と呟いた。

「時間は?」

ワルドはタバサに尋ねた。

「今すぐ」

タバサは呟いた。

「聞いての通りだ。裏口へ回るぞ…ウルキオラ君」

ワルドはウルキオラに呟いた。

「なんだ?」

「君の力で少しだけ相手を封じることが出来るか?」

ワルドがそういうと、ウルキオラは立ち上がり、人差し指を傭兵たちに向けた。

その間、ウルキオラに向かって何本もの矢が飛んできたが、ウルキオラの体に当たると同時に小枝のようにポキポキと折れていった。

「なっ!矢が効かないだと!」

傭兵たちは驚きを隠れない。

「虚閃」

ウルキオラの人差し指から、緑色の閃光が放たれた。

それは、傭兵たちを吹き飛ばし、店の出入り口は見る影もない。

傭兵たちが怯んでいる間に、ウルキオラたちは裏口に向かった。




酒場から厨房にでて、ウルキオラたちが通用口にたどり着くと、酒場の方から派手な爆発音が聞こえてきた。

「……始まったみたいね」

ルイズが言った。

ワルドはぴたりとドアに身を寄せ、向こうの様子を伺った。

「誰もいないようだ」

ドアを開け、3人は夜のラ・ロシェールの街へと躍り出た。

「桟橋はこっちだ」

ワルドが先頭をゆく。

ルイズが続く。

ウルキオラはしんがりを受け持った。

月が照らす中、3人の影法師が、遠く、低く延びた。 
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