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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos57その後のエルトリア/フローリアン家の日々~Hopeful Days~

†††Side????†††

目まぐるしい時間を駆け足のように過ごして来た所為もあってか、過去へと遡ったあの日のことが、まだ数年しか経っていないと言うのに何だが随分と昔のことのように感じます。
エルトリアの命を脅かす死蝕現象は、未だに完全な解決を見てはいません。だけどそれでも、父が――博士がその人生を懸けて続けた研究の成果は、ちゃんと花実をつけることが出来たのです。紫天の盟主ユーリ、王様、そしてシュテルとレヴィ、フラムとアイル。あの子たちの頑張りのおかげで、エルトリアは今日も徐々にですが緑を取り戻していっています。

「何度見ても思うけど・・・結構戻ってきたよね、エルトリア」

「そうですね。みんなの頑張りのおかげです。それから6人を連れて来てくれたあなたのおかげ」

エルトリア復興の為にこの世界へと来てくれたユーリは、復興の為にその力を尽くしてくれました。シュテルとアイルを除く、王様とレヴィとフラムも、当初はいろいろ好き勝手してくれましたが、それでも最後はちゃんと協力もしてくれて。
レヴィとフラムは、腕試しや修行とかいう動機の下に凶暴な危険生物を狩ってくれるおかげで、村を救ってくれたことが何度もあって。シュテルが設計してくれた浄水法。そのおかげで、死んでしまっていた水場が幾つも蘇らせることが出来て。
アイルは氷結能力で砂漠化していた地域に水源を生み出してくれたことで自然を育て易くしてくれましたし。王様も、“紫天の書”の中に保有していたたくさんの魔法で、エルトリアと、僅かに残っている人々を救うのに役立ってくれました。

「それってもしかして皮肉ってる? わたし独りだったら、結局はなんにも出来ないままだったし」

「まさか。素直な気持ちですよ、キリエ」

「そ。でも忘れてない?」

「忘れてません。私たちを助けてくれた、優しい魔導師たちにも感謝しています」

「そうよね・・・。みんな、元気でやっているかしら・・・?」

「ええ、きっと元気ですよ」

それぞれの時代の中、ほんの少しだけ触れ合えることの出来た人たちに、心からの感謝を。皆さんのおかげで、私たちの世界エルトリアは今、とっても綺麗です。それを証明するように私は目の前に広がる大草原を見回して深呼吸。

「おーい! アミター、キリエー!」

そんな時、私たちの名前を呼ぶ声が背後から聞こえてきました。私たちを呼んでいるのは「あら、レヴィ。どうしたの?」エルトリアの救世主の1人、レヴィ。彼女が私たちの元へと駆け寄って来て、「あのね、ユーリが戦闘訓練したいってー!」そう言ってきました。

「そうですか。じゃあ私も参加しましょう!」

エルトリアは徐々に再生していっているとは言え、強力な危険生物は未だに現れてしまいます。そういうわけで、戦闘の勘が鈍らないように、そしてそれぞれの愛機がさび付いてしまわないように、私たちは時折仲間内で、戦闘の訓練をしたりします。一番やる気を見せるのはレヴィ、もしくはフラム。次いでアイルでしょうか。彼女たちにも譲れないプライドがあるようです。

「それにしてもユーリから戦闘訓練したいって珍しいじゃない」

「そうですね。以前は戦うこと自体に恐れを抱いて忌避していましたけど。徐々に力の扱いが上手くなっていっている所為でしょうか」

上手くなったとはいえ、時々加減を間違えてクレーターを造ってくれたりもしちゃって。その当時を振り返ってちょっと「ふふ」思い出し笑い。相手をしていた王様の呆然とした顔が未だに忘れられません。レヴィに続いて歩くこと少し。すでに空ではユーリとシュテルが訓練を始めていました。

「あー! シュテるん、ずるい! 一番手はボクって言ったのに!」

「無駄な戦いが楽しいなど、付き合いきれぬな」

「一番手を豪語していたあなたが居なくなる方がダメなのですわよ」

レヴィがプンプン怒って、王様が鼻を鳴らし、居なくなった――というより私たちを呼びに来たレヴィが悪いと肩をすくめるアイル。そしてフラムは「おお、熱く燃えているでありますなぁ、シュテるん」楽しそうに戦うシュテルを見て微笑んでいます。そしてユーリとシュテルの戦闘訓練は、ユーリの勝利で終わりました。

「シュテル、ありがとうござました! シュテルとの戦闘訓練は、やっぱりためになります!」

「そう言って頂けると嬉しいですよ、ユーリ。ですが、次は負けません」

シュテルが負けを認めて降下してきたところで「次はボク! ユーリ、ボクだからね!」レヴィが真っ先にユーリの元に。降りてきたシュテルに「お疲れ様でした」「お疲れ、シュテル」私とキリエで労いの言葉を掛けます。

「はい。しかしこうも簡単に負けてしまうとは。もう少し、真剣な修行が必要なようです」

負けず嫌いはマテリアルみんなの共通な性格みたいで。でもそれがさらに強くなる秘訣ですから、良いことだと思います。と、「始まりましたね」ユーリとレヴィの戦闘訓練が開始。速さでユーリを翻弄するレヴィ。対するユーリは、その圧倒的な攻撃力による範囲攻撃でレヴィに確実にダメージを与えて行きます。

「「きゃっ!?」」「おっと」「のわっ!」「あらあら」「わわっ!」

レヴィがきちんとユーリを狙わずに攻撃を放ち、その流れ弾が地上に居る私たちのところへ着弾。真っ先に「馬鹿者! どこに撃っておるか、レヴィ!」王様の叱責一発。次に「まったく。これだからウチの末っ子は」アイルが砂埃の付いたスカートを払うのですが・・・。

「「「「ぷっ・・・!」」」」

私とキリエ、それに王様とフラムがつい噴き出していましました。シュテルもアイルから顔を背けてふるふる体を震えさせていて。明らかに笑うのを我慢しています。そしてとうとう「わはははははは!」王様とフラムが笑い声を上げたことで、私たちも笑ってしまう。

「なんですの急に? 何が可笑しいんですの?」

「髪です! アイル、あなた、髪の毛が面白いことになっています!」

私にそう言われて、アイルは自分の髪を触り、「なんですのコレぇぇぇーーーー!」絶叫。レヴィの雷撃の影響を受けてしまったのか、アイルのストレートヘアがハリネズミのようにボッサボサに。お腹を抱えて大笑いのキリエと王様とフラム。口を押えて笑い声を上げるのを我慢するシュテル。そんな中で、ユーリとレヴィの訓練も終了したようで。

「本気を出し過ぎです、レヴィ! すっごいビリビリします!」

「だって、負けたくないんだもん! それなのに負けたぁ~~! 悔しい~~! もーいっかい! もーいっかい! もうい――」

「レヴィぃぃぃーーーー! あなたの次の相手は・・・この私ですわよぉぉぉーーーーーッ!!」

アイルが急上昇してレヴィに突っ込んで行きました。髪も直さず、ボサボサのままで。するとユーリとレヴィも「あはははははは!」大きな笑い声を上げる。アイルは「笑いことじゃありませんわよ、馬鹿! 絶対に許しませんわよ!」そう怒鳴って、レヴィと追いかけっこを始めてしまいました。

「盟主! 次は私と一槍、お願いするであります!」

「あ、はいっ! フラムとは近接戦でお願いします!」

この数年で会得した飛行魔法アンピプテラを発動したフラムの背中からは3対の炎の羽が展開されました。そしてフラムは、大空へと飛び上がりました。そして始まるユーリとフラムの近接戦闘訓練。近接戦だけを見れば、おそらくマテリアル最強でしょう。一番の勉強家で努力家ですから。それでも魔力量の差が、フラムを苦しめます。マテリアルで一番魔力量が少ないのがフラムですから。

「ぅく・・・! ま、参ったであります、ユーリ」

「フラム。ありがとうございました! シュテルとは別方向で勉強になります。また、訓練に付き合って頂けますか?」

「もちろんでありますよ!」

降下してくるフラムを見守っていると、「よし。今度はわたしと一本どう? ユーリぃー!」右に左にと肩を回すキリエがそう挑戦宣告。ユーリは「お願いします」快く承諾。そうしてキリエはユーリの居る高度へと飛んで行きました。

「次は王様、行きます?」

「無駄な戦いなどで消耗したくないわ。次は貴様が行け、赤毛」

「そうですか」

そうは言ってもうずうずしているのはお見通しですよ、王様。さてさて。レヴィとアイルの鬼ごっこはどうなっているでしょうか。

「ヴァリアントザッパー、エネルギー満タン! 消耗部品の交換も完了のオールオーケー! 今のわたしには死角なんてなくってよ、ユーリ」

「そ、それなら私は、真っ正面から全力全開でぶつかるだけです!」

いま不穏な台詞がユーリから聞こえて気がしました。いえ、きっと気のせいですね。レヴィとアイルの魔法の撃ち合いに意識をちょっと取られていたことによる幻聴に違いありません。というか、本気で撃墜しようとしてますね、あの2人。

「なーんかユーリって、お姉ちゃんとかシュテるんの影響が強めな感じよね。キリエお姉ちゃんは、それがちょっぴり寂しいのです」

「えっ? 私、アミタとシュテルの影響受けてますか? そんなことないと思うんですけど・・・」

「受けまくりよ。1.丁寧語喋り。2.無闇に熱血でド真っ直ぐ。3.割と天然。ほら、共通点多いでしょ?」

「当たっておるな」「当たっているであります」

キリエに同意した王様とフラムに、「そうですか?」私とシュテルは小首を傾げます。ユーリも「1は元々ですし、3も生まれつきの人格ですし、2も・・・影響受けてます?」微妙に認めちゃいましたね。

「盟主とアミタは一緒に居ることが多いでありますから、少なからず影響を受けていてもおかしくないであります」

「確かに、基礎学習の教授担当、それに地域復活の計画立案、そして実行も私が担当していますから・・・」

「いきおい、アミタと一緒の行動が多いのは確か、ですね」

「そうしてディアーチェは、ユーリがなかなか帰って来ぬな・・と、時々寂しい思いを抱いているのですね」

「誰がッ! いつッ! そんなことを言ったか!」

「まあまあ、落ち着くでありますよ、陛下。別に恥ずかしがることではないかと――」

「貴様の耳は節穴か、フラム! 我の話をちゃんと聞いておったのか!? ん!?」

「落ち着きましょう、ディアーチェ」

「元は貴様の所為であろうが、シュテル!」

王様が喚いている間に、キリエとユーリの訓練が始まってしまいました。キリエは(私もそうなんですけど)、ユーリやマテリアルの子たちとは違って魔力運用で発現する現象――魔法を使う魔導師ではないですから、マテリアルに比べれば勝てる確率が高いです。とは言っても、そんなの関係ないっていうほどにユーリの魔法は強力ですから、「きゃーん!」キリエもまた敗北です。

「やりましたー、私の勝ちですー♪」

「あーん。今日こそはなんとなーく勝てるような気がしてたのに~。やっぱりもう、戦闘じゃ敵わないのね~」

軽い口調で落ち込んでるキリエに、王様は「案ずることはないぞ。貴様は卑劣な手段を使ってこそ、誰にも負けぬ戦いが出来るのだ。ゆえに、今回負けて当然なのだ」なんて褒めているのか貶しているのか判らない称賛を贈りました。

「そうだよ、キリエ! よっ、ずるっこの天才!」

「はぁはぁはぁはぁ・・・、レ、レヴィ・・・逃がす、ものです・・か・・・」

何時の間にやら戻って来ていたレヴィと、フラフラなアイル。どうやらレヴィの逃げ勝ちみたいです。王様とレヴィにそんなことを言われて「何でかしら? 少しも褒められてる気がしない!」ガックリ肩を落とすキリエ。合っています、褒められていませんよ、キリエ。

「卑怯と言うよりは、頭を使って策を巡らせる、でしょうか」

「策士でありますな。少々汚い寄りの」

とまぁ、そういうわけで、キリエも敗退。さて次は「アイル。あなたが行きますか?」未だに息を整えていないアイルに訊きますと、「辞めておきますわ。今の状態で戦うなんて、ユーリに対し失礼ですもの」戦闘訓練を辞退。では「王様。本当にやりませんか?」私か王様のどちらかになりますね。

「先ほど言うたであろう。無駄なことはせぬ主義だ。それに、訓練など我には不要」

「せっかくですから、一本やりましょう、ディアーチェ! ディアーチェには、遠距離戦の指導をしてほしいです!」

アイルに続いて辞退しようとする王様に、ユーリ直々の指名が入りました。これはもう決まりましたね。何せ王様は・・・。

「一本だけだぞ」

ユーリには本当に甘いですから。これまでユーリの我が儘――もといお願いには必ず応えていましたからね、王様は。本当にユーリのことが好きなんですから。そういうわけで、次はユーリと王様の戦闘訓練。キリエと代わるように空へと上がった王様が位置に付きました。

「改めて、ディアーチェ、あなたに・・・ありがとうと言わせてください」

「き、急になんだ・・・、なんの礼だ・・・!」

「決まっているじゃないですか。私を助けてくれたこと、こんな青空の下に連れ出してくれたことを、です」

「ふ、ふん。我はただ、我が成すべきことを、成そうと思うたことを成しただけよ。感謝されるいわれなどないわ」

「それでも、ありがとう、です。私はディアーチェが、私たちの優しい王様のことが、大好きですっ❤」

何とユーリから大胆な告白。2人を地上から見守る私たちみんなが固唾を呑んで王様の反応がどんなものか期待を抱きます。ま、ほぼ予想が出来ているのですけど。

「ぶはっ!? やめよ、やめよ、今すぐその口を閉じよ! 怖気が走るわ!」

ほら、やっぱり「素直じゃないですね」王様は声を張り上げて、ユーリの話を拒もうとしました。

「我々の王はそういう人ですから」

「素直になったディアーチェはちょっと見たくないわね~」

「私も、であります」

「私も、ですわ。そもそも私たちの王は――」

「あれでこその王様、だよね♪」

みんなに慕われている王様、ディアーチェ。私たちみんなも王様のことが大好きですよ。言葉にはしないだけで、その想いは変わりません。

「き、きき、貴様、我が闇統べる王として生まれたこと、忘れておるのでないだろうな!?」

「忘れてませんよ? 私の大切なディアーチェで、みんなの大事な王様です♪ だからこの、大好き、は・・・これから何度だって伝えますから❤」

「のわぁぁぁぁぁぁ!! 黙れッ、黙れッ! いいや、黙らんで良いわ! 我が闇統べる王の力で、二度と貴様が軽口を叩けぬようにしてくれるッ!」

「負けませんよ! この想いを伝えるためにディアーチェに勝つ必要があるならッ!」

「だからやめよ、と言うにッ!」

そんなこんなで始まった王様とユーリの戦闘訓練? 王様が割と本気でユーリを墜とそうとしているようですが、ユーリの魔力出力のおかげもあって次第に押され始めてしまう王様。

「ディアーチェのハート、撃ち抜いちゃいます❤」

「ええい! 恥ずかしいことを、臆面なくベラベラと並べおって!」

「ホント仲が良いわよねぇ、あの2人」

キリエに「親子というか、姉妹というか」私もそう同意する。あの2人の中の良さは特にすごいですから。

「闇統べる王と、紫天の盟主。あの2人が強く結びついてくれているのは、我々にとっても大変喜ばしいことです」

「ボクもー♪ 2人が仲良しだとうれしー!」

「ですわね。ですがあまりに仲が良すぎて、嫉妬してしまいそうですわ」

「アイルの嫉妬は面倒でありますよー。陛下は大変でありま――いひゃい!? いひゃいでありまひゅ、アイルぅ~!」

そうして王様とユーリの戦闘訓練は、「馬鹿なぁぁぁぁ!」ユーリに軍配が上がることに。これからも王様は、ユーリから愛の告白を受け続けることになりました。ごちそうさまです。

「さてと。ユーリ、順番的に私が最後となります! これが終わったらご飯にしましょう!」

「はいっ!」

負けたことに納得がいかないみたいの王様と代わるように、私はユーリの前に立つ。と、「アミタにも、改めてお礼を言わせてください」まさか私にもお礼が言いたいなんて思いもしませんでした。けど、「はい」聴く姿勢を取る。

「アミタとキリエがあの時代――最後の夜天の主の居る時代へ訪れてくれたこと・・・えっと、なんと表現をすれば良いのでしょうか・・・?」

「あなたの思うままに、話してください」

「あ、はい。・・・アミタとキリエ、2人があの時代に来なければ、私はハヤテ達みなさんと戦って朽ち果てていたかもしれません。もしくは、力の限り暴走と破壊を続けていたかもしれません。もちろん、ディアーチェ達もなんとかしてくれようとしてくれたとは思いますけど・・・」

「・・・それで間違いないですよ、ユーリ。私たちは別に、何も出来たわけではありませんから。時の旅人となり、ほんの少し時間の流れに手を出したところで、人も時間も、そう大きくは変わらないものです」

そう、湖に小石を投げ入れて波紋が起こしたとしても、湖は何ら変わる事無く湖のまま。そこに生きる生命たちにもなんら変化は訪れない。

「生きとし生けるものは皆、自身のあるべき姿、向かうべき未来へ向かって進み往くものです。たとえどんな試練があったとしても、それだけはきっと変わらない運命です。ですから、強く真っ直ぐに生きようとする人たちは素敵だと、私は思っています。なのはさん達と触れ合い、王様たちやユーリと巡り合ったことで、私は人間のことが、もっと、もぉーっと大好きになりました!」

「私も、ですね。エルトリアに来て、エルトリアに生きる人たちのことが好きになりました。博士の願いの為、この地で生きようとしている人たちの願いの為、私はこの星を蘇らせたいって、そう強く思います」

胸の奥が温かくなる。本当に、あなた達と出会えて良かった。そう思います。

「フローリアン一家と紫天の翼たち。手を取り合い、頑張って行きましょう!」

「はいっ! 今日も明日も、明後日も、これからずっと!」

「願いは1つ! 緑の大地をもう一度!」

「その願いを叶えるためにも――」

「「今日も鍛えて参りましょう!!」」

こうして始まる私とユーリの最終戦・・・なんですけど。

「情熱・熱血・熱い思い! アミタに教わった全部を胸に、私はもっと・・・頑張ります!」

なんて嬉しいことを、戦闘中に言われたりしちゃったら隙なんていくらでも出来ちゃいますよ。そういうわけで、「あ痛たた・・・負けちゃいましたぁ」私の惨敗という結果なり、晴れて全滅ということになってしまいました。
連戦であったにも拘らず息1つ乱していないユーリと、結構ボロボロな私たち。もう笑いしか起きません。そんな中で、くぅ~~、とお腹の鳴る音が二重にも三重にも聞こえて。お腹を鳴らしたのは・・・

「あぅ~、お腹空いたぁ~~」

「はい。たくさん頑張りましたから」

「わ、我ではないぞ! 腹を鳴らしたのは我ではないからな!」

素直に認めるレヴィとユーリ、あくまで違うと言い張る王様の3人。ともかく「お腹も空いたことですし、そろそろ帰りましょう」良い時間ですし、お昼ご飯にしましょう。私たちもそうですけど、あの人もお腹を空かせて待っているでしょうし。

「やったー! ご飯だー! ボクとフラムとでね、夕べの内に果物採ってきたんだよー! 川で冷やしてあるの!」

「食べ頃でありますから、期待しても良いでありますよ!」

「ほう。良い働きだ、レヴィ、フラム。褒めてやろう」

「「えっへーん!」」

胸を張るレヴィとフラム。私たちの家へ続く家路を歩いているとユーリが、「エフェル!」私たちと一緒に過ごしている家族の名前を呼んで、その子の元へと駆け出しました。続いて「迎えに来てくれたの!」レヴィも、「それはご苦労なのであります!」フラムもその子に駆け寄って行きました。

「エフェル。様子はどうですか?」

「何の問題もなし! 紙に滑って転ぶこと1回、机の下に転がったペンを取ろうとして、机下に後頭部をぶつけること2回、思案中に室内をウロウロして足の小指を家具にぶつけること4回、水と実験水を飲み間違い未遂2回」

シュテルに訊ねられたことでそう答えてくれたのはエフェル――自称正式名を、スライムを基にした汎用人工精霊プロトタイプ・エフェルヘリンズ。私たちの中で一番小さな体躯のユーリが胸に抱えられるほどに小さな体(身長は大体90cmくらいでしょうか)を持ち、薄い桃色の肌で素っ裸。驚きの二頭身さんです。
50cmほどの大きな頭部に40cmほどの小さな体。手足は本当に短くて、長方形のような体の四方から突き出している三角の手足です。もちろん指なんて有りません。顔のつくりは、性別の判別が出来ないのっぺりとした童顔で、紫色のショートヘア、瞳はパッチリした青色、お鼻は無く、口の大きさは変幻自在。そして抱き心地は・・・スライムという材質特有なのかプニプニでフニフニの柔らかさで、枕にすると安眠できます。そして・・・

「わーい♪」

レヴィがエフェルの頭部を胴体から外して、ボールのように跳ねる頭部をバウンドさせる遊び(バスケットボール、というらしいです)をフラムと行い始めた。そう。エフェルは頭部の着脱が出来るんです。これもスライム特有なのか、頭部は硬軟自在で、液体状になったりゴムのような硬さ、果ては鋼鉄のような硬さにもなったり出来ます。で、その特性を活かして自身の頭部をボールに見立てて遊ばせるなんて、とんでもないことも平気で出来ます。

(そう、あれはいつだったでしょうか・・・)

エフェルの頭部吹っ飛び事件。エルトリアに帰ってから1年と半年ほど経過した後でしょうか。復興の合間の休憩途中、近くの木に実っていた果物を採ったレヴィに、自分にも寄越せと座って休憩している王様が言い、それに従ってレヴィが果物を剛速球の如く投げたのでしたね。

――馬鹿者! なんでそんな本気で投げるか!――

王様の前を横切ろうとしていたエフェル。そして果物はエフェルの側頭部に勢いよく衝突。そしてそれは起きました。エフェルの頭部が吹っ飛び、王様の受け止める形になっていた手の中へ。頭部の代わりに果物が首の上にちょこんと乗って・・・。

――うぉぉぉぉーーーーーいっ!!??――

――きゃぁぁぁぁぁーーーー!!――

王様とユーリのあんなに大きな悲鳴、エルトリアに来てから後にも先にもあの時のものが最高でしたね。驚いた王様は立ち上って、エフェルの頭部をものすごい速さで投げ捨てて、頭部はキリエの後頭部にヒット。そこからバインと跳ねて、近くに居たアイルの側頭部にヒット。またもバインと跳ねて、地面を何度かバウンド。コロコロと私の足元に転がって来たんでした。

(あの時は本当に驚きました。着脱可能だったなんて)

その光景が楽しかったようで、それからはよくエフェルの頭部を使ってレヴィとフラムが遊ぶようになりました。王様は言わずもがな参加しません。あの時の驚きざまを思い出して恥ずかしがるからです。私は一度、そのようなことをされて嫌ではないですか?とエフェルに訊いたことがあります。

――自分の頭で遊ばれるなんて、嫌じゃないんですか?――

――いいえ。むしろ恐れずに接してくれるだけで十分なんです――

エフェルはそう言って小さく微笑みました。それから聞いたのですが、どうやらこれまでにも同じように遊ばれたことがあるようです。ですから平気――というよりは、自分も楽しいということでした。

「あっちゃあ。もう。一度没頭したら自分の身のことなんか度外視しちゃうんだから!」

「仕方ありませんよ、キリエ。そういう人だって、私たちは知っているでしょう?」

エフェルからの報告を聞いて頭を抱えるキリエに、私はそう言って宥めます。あの人にとって、エルトリアの再生は人生そのもの。だからこそキリエはあの人の願いの、夢の為に過去に遡った。私だってあの人の為に、必死に調べた。

「ふむ。これはまた我が闇の力で灸を据えねばならぬようだな」

「それかもしくは凍らせてみます? 私はまだお仕置きをしたことがないので効くかもしれませんわ」

「ボクのバチバチで痺れさせても良いんじゃない? あ、でも肩こり腰痛が治るって言ってたっけ」

「ディアーチェもアイルもレヴィも、無茶しちゃダメですよ!」

「判っておるわ、ユーリ。なーに。研究も大事だが、自分の身もちゃんと案じよ、と忠告するだけよ」

そうしてみんな揃って家に到着。そして・・・

「「「「「「「「ただいま! 博士!」」」」」」」」

私たちの大事なお父さん――グランツ・フローリアン博士に、元気いっぱいで帰宅の挨拶をした。


私たちからは、時間も距離もきっととても離れている海鳴の皆さんへ。私、アミティエ・フローリアンと、キリエ・フローリアン。そして紫天の翼たち、王様――ロード・ディア―チェ、ユーリ・エーベルヴァイン、シュテル・ザ・デストラクター、レヴィ・ザ・スラッシャー、フラム・ザ・リヴェンジャー、アイル・ザ・フィアブリンガー。
私たちみんな、今日も仲良く元気に過ごしています。そんなみんなと、いつかまた、皆さんと会えたらいいね、っていつも話をしています。博士も、娘たちがお世話になった皆さんにご挨拶がしたい、って言っています。

(ルシリオンさん。あなたが送って下さったエフェルには、博士を助けてもらいました、本当に感謝しています)

なのはさん達との別れ際、ルシリオンさんはユーリの髪にゴミが付いていると言い、あの子の髪に触れました。まさかその時にコンパクトに縮めたエフェルを引っ付けていたなんて思いもしませんでした。ですが、そのエフェルのおかげで、博士の患っていた不治の病を治すことが出来ました。

――私は、汎用人工精霊プロトタイプ・エフェルヘリンズ。創造主(マスター)・ルシリオン様のご指示により、フローリアン博士の治療をさせて頂きます――

エフェルは、ルシリオンさんの持つ治癒術式・エイルのみを扱えるように調整された半永久自律型使い魔さんらしく、エフェルはそのエイルという魔法を使って博士の病を治してくれました。
そのおかげで、博士にこの緑を取り戻し始めたエルトリアを見せることが出来、今もなお再生の為の研究を続けさせてあげられています。今すぐにでもあなたに直接お礼を言いたいです、博士に未来をくれてありがとうございます、と。でもそれはまたいずれ。


今は、話すことも触れ合うことも出来ないけれど・・・でも、皆さんと出逢えたこと、助けてもらったこと、私たちは決して忘れません。そしていつか、エルトリアの大地に今以上の緑が戻ったら、皆さんにも見に来てほしいです。
それまでは私たちも毎日、一生懸命に頑張って生きていこうと思います。きっといつだって・・・笑顔を忘れずに。それではまたお会いしましょう。海鳴の強く優しい皆さん。

アミティエ・フローリアン




EpisodeⅡ:Vixi et quem dederat cursum fortuna peregi….Fin




◦―◦―◦―◦次章予告◦―◦―◦―◦

闇の書事件・砕け得ぬ闇事件も終わり、八神家やその仲間たちに平穏が戻った。

「はやてちゃん、ルシル君。制服姿がとっても似合うわ♪」

「なんかこの学校の制服、初めて着る気がしないんだけど・・・?」

約束されていた聖祥小学校への転入が果たされるはやてとルシリオン、そしてイリス。苦難を共にした友達と、はやてとルシリオンとイリスの新たな活動の場――学校生活が始まる

「はじめまして、そんでおはようや。リインフォースⅡ」

「・・・リイン・・・フォース・・ツヴァイ・・・?」

八神家に新たな家族が迎え入れられる。そしてそれは、リインフォース・アインスとの別れが近づいていることも意味していた

「ルシル。あんた、あたしに変身しなさい!」

「アカン。ルシル君、やり過ぎや!」

「よーし。とりあえずあんたを1発殴るわ。歯を食いしばりなさい」

日常にて巻き起こるトラブルの数々

「シュテルンベルク家、当主のパーシヴァルです」

ついに果たされるシュテルンベルク家との再会

「あの、助けてください! 僕、追われているんです!」

平穏だけが全てではない。世界を揺るがす事件が勃発

「チーム海鳴! 事件解決に尽力するよ!」

幼くも強い魔導師と騎士たちが事件解決に乗り出す

「あなた、管理局を、わたし達を裏切る気・・・!?」

「ごめんなさい・・・それでも、私は・・・あの子の事が・・・!」

海鳴チームの厚く堅い友情に入る亀裂

「お待たせ、迎えに来るのが遅くなった。怒ってもいいぞ?」

「ううん・・・! また逢えて・・・嬉しい、です・・・!」

それは、離れ離れだった家族が再会を果たす物語

Next Episode…EpisodeⅢ:Usus, magnus vitae magister, multa docet.



 
 

 
後書き
サェン・バェ・ノー。
月曜日に更新させる事が出来なくて申し訳ありませんでした。前話については日曜に書き上がっていたのですが、前話と今話を纏めて1つとしようとしていたので、昨日の内に投稿できませんでした。しかし書き上げてみれば、文字数が思った以上に多くなってしまい、結局前後編となってしまいました。

それはともかくとして。エピソードⅡ闇の書編も、ちょうど丸1年で完結となりました。今日11月18日から1年前に始まったエピソードⅡ・・・長いっつうの!とひとりツッコみを入れています。これまで応援した下さった読者の皆様、ありがとうございました。

で、次はエピソードⅢとなります。エピソードⅣSTS編と続く空白期を描くストーリーです。どうぞお暇があれば読んでやってください。ちなみに、次章のタイトルを変更しました。
そして次回は、恒例の番外編です。書く事が多すぎて若干鬱になりそうですorz

 
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