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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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第二章 彼と彼女の事情
  第十六話 机上演習~Road to Elysion Ⅱ  / 楽園への道2~

第十六話
朝早い時間に僕は登校した、代表と今日からは対Aクラスの戦略を練るためにも机上演習をしようという話しが以前から出ていたのだ。
「昨日の帰りは遅かったのに今朝は早いのか、妃宮。」
昨日無茶ぶりをしたことを責めてくる西村先生。
先生には書類関係で無駄な手間をかけさせてしまったのだから返す言葉もない。
「茶道部の臨時顧問を引き受けくださったこと、感謝しております。」
「はぁ……ああいう事は余りしてくれるな。しかしどうしても必要ならばまた便宜は図ってやるが、あんまり教師を働かせてくれるな。」
「畏まりました。」
西村先生って本当に良い先生なんだけど…ね。
少し熱血気味なのは否め無いだろう。

ようやく四月頭からの試召戦争も終わりが見え始めていた。
BC連合を粉砕したことで、「B組及びC組」との三ヶ月に渡る不戦条約と、対Aクラスを前提とした1週間限定の三クラス相互同盟を得た。
今現在、Cクラスの代表は一時北原という女生徒が代行している。
しかし、ほとぼりが冷めた頃には、つまりFクラスがAクラスとの対戦が終わった頃には、友香さんが代表の座に復帰する目通しになっている。
本人は、私なんかが、だなんて言われていたけれども友香さんが根本から脅迫されていたという話(若干情報操作はされてはいる)をCクラスの面々は友香さんの変容に納得したというのは、普段から人望を得ていたという裏返しであろう。


前の学校で僕の身にそんなことがあったなら、そんなものはあいつ等の連帯感を高めるための絶好の機会とされただろうけれど。
というか半ば似たようなことは起こったよな…
僕自身、あの悪夢を味わっているからどれほど人が他人を貶めることに抵抗を持たなくなるのか、身を持って知っているし、そういった出来事に事実以上に尾鰭が付け加えられていくことも知っている。
「体操服、ね……」
あの事件だけはいつ思い出しても身の毛が弥立つ。
犯人の男子生徒が一体あれで何をしたのかなど、想像するだけでも汚らわしいし。
それをネタに更に団結を深めたあいつ等を二度と周りに作りたくない。


って今はそんなことどうだって構わない。
軽く(かぶり)を振り、代表殿と待ち合わせしているFクラスの教室を目指す。


教室に来たのはいいのだが、どうも入りにくい。
「妃宮、なんだって……あぁ…」
唇の前に人差し指をたててみせると訝しげな表情になったが、教室の中を指さし、その方をのぞき込んだ彼も何故なのか納得してくれた。
クラスに僕らよりもはやい先客がいるのだ。
吉井と姫路さんという普段はあまり早くない二人が今日に限って随分と早くに居るのは、まぁたぶんきっと恐らくそういうことだろう。
代表殿がニヤニヤし始めているのは、親友の初々しさが余りにも余りだからだろうか。
「次の戦いは面白くなりそうだな、参謀。」
「えぇ、代表だけでなく、吉井君も何か野望が御有りなようですね。」
「野望、そうだな。それは言い得て妙だな。」
「お褒めに与り恐悦至極でございます。」
廊下から教室の中のことを窺っている僕らに、中にいる二人は全然気がついていないようだ。
「本当は、知っていたのではないのですか?(わたし)が手紙のことで根本君に脅されていたのを……」
「……」
何も答えることの出来ない吉井君、それに確信を得る姫路さん。

短期決戦ではあったが、後半戦での友香さんの奮戦(本人には冗談でも言えない)や、根本恭二写真集(関係各所にのみ配布、現在ムッツリ商会にて部分的販売中とのこと)などさまざまな爪痕を残して、対BC連合戦はFクラスの作戦勝ちで終わった。
彼ら二人もこの前の対戦ではヒドい目にあった当事者たちで……
そんなことを僕は静かな廊下から彼らを見守りながら考えた。
「ありがとうございます。本当に…本当にありがとうございます!」
そして……
二人の距離がゼロになった。
(見かけによらず積極的なんですよね、姫路さんって……)
「むご……」
幸せ死にそうな吉井
「あっ!ごめんなさい……つい」
「もう一度!」
解放された瞬間にそう口走ってしまった吉井。
だめでしょね、それは……
「もう一度……って何をですか?」
首を傾げてみせる姫路さん、あぁこの子悪い子だ。既成事実を作って島田さんから大きくリードを取りたいんだろうな。
「相手が吉井じゃなければその手は有効だったろうにな。」
ため息混じりの代表殿、どういうこと?
「もう一度壁を壊したい!!」
『何を言っているんだよ僕は』といった感じの吉井に、どうして素直に成ってくれないんですかと悲しそうな姫路さん、呆れ果てて何もコメントできないでいる僕、やっぱりなと再び深々とため息をつく代表。
「次壊したら留年に成っちゃいますよ?」
そんな姫路さんの声がむなしく教室に響いた。
(参謀、合わせろ。)
小声で僕に指示を出す代表殿。
「だからだ、Aクラスとの対戦でもあれは有効だろうが。」
少し大きめの声でそう切り出した代表の言葉、何となくしたいことが読めたのですが……
「いくら何でもむちゃくちゃです。その作戦は却下です。」
僕らの声にようやく気がついたらしいお二人さんが、扉から何食わぬ顔をして入ってくる侵入者に身構える。
「明久、お前はどう思うよ。」
「な…何をさ」
「俺はな、お前に今度はCクラスに潜入してもらってAへの突破口を開いて欲しいんだよ。」
「嘘ぉお!!」
絶叫する吉井、いくら何でもそれは露骨過ぎはしないですかね。
「代表、そんなに何度も何度も壁を壊したいだなんて考える方がいるわけ無いじゃないですか。」
わなわなと僕の方を崇め始める吉井の様子に、途端に不機嫌になる姫路さん。
「そうはいってもな、旧校舎の奴らに一人はそんな殊勝な趣味を持っているだろうことはってのはお前もさっき聞いただろ。あんなことを叫ぶようなバカに、俺はこいつ以外心当たりがない。」
えぇ、僕も全く心当たりがありませんね。
「……吉井君、どうですか?やってみたくないですか?」
目の色が明らかにおかしくなっている姫路さんが吉井にしゃべりかける。ご愁傷様だとしか言いようがないですね。
こちらに助けを求めるような目線に、少しだけの同情を寄せながらも、僕は追い落としにかかる。
(わたくし)も……吉井君がそのように叫ばれていたかのように存じます、ですから……って吉井君、土下座しないでください。」
「嫌です!お願いします。自分調子乗りました!!」
彼の絶叫が朝早くの旧校舎中に響いたのは言うまでもない。
そして、その声を聞きつけた西村先生に教育的指導を受けていたのはさらに運の悪いことだとしか言いようがないことだろう。


しかし、『姫路さんに根本が手紙の件で脅迫されていた』とはね。
内容は推して知るべしとでも言うべきか。
そもそも、そんなものをよく見つけたものだ、僕らが本陣を屋上に設定したのがそんな事態を招いたのだろうけれども。
「まぁ、そんな事だろうとは思っていたがな……」
ぼやく代表殿にどうしてそれを伝えてくれなかったのかと目をやる。
「妃宮、お前も小山の件を知ってたんだろが。そこんとこは五分五分といこうじゃないか。」
白っとそんなことを言ってくる坂本に、僕は何かを答える気は無い。
吉井と姫路さんのほんわか初恋劇場を楽しみ終えたところなのだから。もっとも、さっきの言葉もある意味においては外野のヤジの一環であろうけれども。
全く、根本はどこまで卑劣な奴なのだろうか。
手元にある写真(集)が実質ジョーカーであるからその分で許してやろう……など露にも思わない。
僕や、友香さんも含めてだが二度と根本の策謀に関わり合いになりたくないというのが純然たる思いだ。
とは言え、せいぜい自分たちがそういった事態に巻き込まれないように警戒しておくという受け身の対策しかとれないのがもどかしく、僕は感じていた。


黒板で次の対Aクラス戦の机上演習を僕と代表はしていた。
僕がAクラスの少数精鋭を動かし、代表はBCFの三クラス連合軍の指揮を取っていた。
使っているのは大きめのマグネット式の将棋の駒で、金や角といった強力な駒の下には、実際の戦争において重要な人物の名前が一駒につき一人ずつかかれていたりする。
例えば玉には北原さんに根本、そして我らが代表殿、唯一存在する王には霧島とかかれている、つまりそれらが各クラスの現在の代表首の駒として見なされている。
また、僕は角(機関銃という遠距離武器にはこれ以上も無く相性があると思う)であり、姫路さんは飛車。
一枚の桂馬にはムッツリーニと名が書かれている、保健体育という最強の切り札というのと、その他の教科はぼろぼろというのも表されていたりいなかったり。
その他、銀には友香さんの名前が書かれていたり、金には久保という学年次席の名前が書かれていたり。
これらの将棋の駒は別に将棋を指すわけではないのだから駒は黒板の上に描かれた構内の図上を縦横無尽に動いている。
「雄二よ、お主の用意はまだかの。」
「もう少し待ってくれ。」
駒を動かすときに不正が無いよう、あらかじめ指示書の形でそれぞれの駒をどのように動かすのか書き付けては、軍人将棋のごとく僕らの指示書を元に審判役の秀吉君とムッツリーニが二人がかりで膨大な数の駒を一気に移動させていく。
クラスの奴らは僕らのお遊びを興味深そうに眺めている、やはり次の戦いの指揮官としての演習でもあるのだから眺めている奴らは『こうえいのシュミレーションゲーム』のプレイ動画を眺めている気分なのだろうと僕は思う。
まぁ、眺めているだけでも駒が右に、左に動き、ほかの駒を攻め、攻められ、戦ったあげくに戦死判定と書かれた黒板右端の捨て場にもっていかれる様子はなかなかに面白いかもしれない。

前半戦、圧倒的な人海戦術を持って攻めてくる代表の連合軍に対して僕はAクラスの教室の広さを有効に利用した籠城戦を展開していた。
「くっそ、そこで久保を前線に送ってくるか……」
「私ならばここで勝負をかけます、すでにCクラスの戦力は半減していますから新校舎内の行動は飛躍的に自由度が増えますので。」
後半戦に入りBCFの三クラスで完全包囲を取り始めた代表殿に対して、僕は新校舎の階段側の包囲陣に強襲をしかけていた。
ちなみにそこの指揮官が妃宮と書かれていたのは偶然だろう。

AクラスはCよりも新校舎の階段に近く、そのためCの戦力は無視できるものとして作戦を立てた僕は左側には戦線を膠着させるためだけの戦力しか配置せず、最初に少ない兵力で階段側に攻撃を仕掛けた。
圧倒的な堅さを持つ防御陣に跳ね返され教室内に逃げ込ませた彼らを追って送り込まれた打撃部隊を戦闘準備万全のAクラス新手で返り討ちにあわせて以来、戦況はAクラス有利に傾いていた。
BとCで降着している左側の戦線に蹴りを付けようとBクラスを通って増援を送られたが、展開させていた部隊を教室内に引っ込ませて様子を見させる事にしたために大損害が出る前に撤退できた。
「妃宮の方が一枚上手といったところかのぅ」
「………俺たちが翻弄されている。」
「悪気はないのですが……机上演習はしっかりとやっておかなければいけないので。」
「クソっ、翔子め!!」
だんだん僕のことをAクラス代表の霧島さんに重ね始めつつある代表殿。
「次の指令書を頼むぞい。」
「そうですね……」
「クソ……巻き返す方法は何か……アイツを、何とか…」
ちなみに壁破壊作戦はまだ決行されていない。
とはいえ、最初に吉井という駒を作っていないためそれは無しと言うことになるだろうが。


もはや籠城戦は終わった、多大なる犠牲の末にBクラスの兵力を壊滅状態に追い込み、さらに妃宮という悪魔みたいな駒を何とか潰すことに成功した。根本の奴が僕が捕虜になったと聞いて安心しきっていたが、その気持ちがよく分かってしまった。
残りの兵力で今まで苛烈に責めてきていたCクラスを逆に籠城を余儀なくさせることに成功したのだから、Fクラスの坂本と書かれた駒ももうすぐで落とせ……ない。
「姫路さんの駒を落とす方法が……」
「姫路のおかげでなんとか膠着状態に持ち込めたか……」
「何とか姫路さんを疲れさせてその隙を……」
「姫路に負荷をかけすぎるのは拙いな……」
「私って、そんなに活躍しないといけないんですか…」
本人でさえ驚きの獅子奮迅ぶりを図の上の姫路さんは見せてくれている。
僕の駒がやられたときからバッシング続きだった代表へのヤジも、いつの間にか姫路さんへの熱烈な応援に変わっていた。
何かの少女アニメのワンシーンかなにかでしょうか、全く…
Fクラスの最後の守護神である姫路さんの圧倒的な力を前に攻め込むことを躊躇うAクラス。
そしてついに堅牢な守りを見せたCクラスが玉砕し、残る攻撃目標はFクラスのみ。
「妃宮さん、もうやめてくれ!」
「「俺たちは補習室に行きたくないんです!!」」
駒であっても彼らは補習室に行きたくないようだ。
「代表どうしますか?」
Fクラスの前にもてる戦力の全てを展開し終えた僕は代表に尋ねる。
「……俺たちの負けだ。」
「「「嘘だあぁ!!!」」」
こうして机上演習は三階という同一平面上でのみの戦闘で終始し、Aクラスの粘り勝ちで終わったのであった。








 
 

 
後書き
物理
講義
コイルの公式についての確認です。
十分に長いコイルの内部の磁場の強さをHとすると、Hは単位長さ当たりの巻き数nおよび電流の強さIに比例します。
H=niとなります。また磁束密度をBとすると
B=uH=unIとなります。
ここでこのコイルの自己インダクタンスをLとして、自己インダクタンスについての説明もしましょうか
微少時間内に電流の変化した割合が誘導起電力Vに比例します、その時の比例定数をーLとなり、これをコイルの自己インダクタンスといいます。この自己インダクタンスはコイルに蓄えられているエネルギーを以表すときにも使います。
U=LI^2/2
バネのエネルギーを出す式に似ていますよね。関連させて覚えてください。

また容量Cのコンデンサーを充電した後、上のコイルを通して放電すると共しんと呼ばれる現象が起こります。
これは二つの電気素子に同じ周波数、固有周波数と呼ばれるものが起きます。
これをFと置くとこれは次のように表されます。
F=1/2π(LC)^1/2
そのため周期も求まりますね。

以上の公式はすぐに引き出せるように覚えておくと完璧です。 
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