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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos50-B束の間の奇跡/家族は巡り合う~Testarossa Family~

†††Sideすずか†††

フェイトちゃんとアリシアさんのお母さんであるプレシアさん、それにフェイトちゃんとアルフさんのお世話役で魔法の先生でもあるリニスさんの闇の残滓が出現。さらに治まってた他の残滓たちも出現。
そういうわけで、私となのはちゃんとアリサちゃん、シャマル先生とザフィーラさんは残滓の討伐を。リニスさんとプレシアさんの残滓と会うためにフェイトちゃんとアルフさん、アリシアちゃんは別行動で出撃。
マテリアルの子たちが協力してくれたことでヤミちゃんを止めるための手段、対U-Dカートリッジの完成が間近なシャルちゃん、ルシル君、シグナムさん、ヴィータちゃんのベルカ式組はお留守番。はやてちゃんとリインフォースさんも、対U-Dプログラムを受け取るためにお留守番。

「――残滓討伐2体目!」

≪さすがですわ、スズカ。実戦を繰り返すたびに確実に強くなっていますわよ≫

「ありがとう、スノーホワイト」

順調に闇の残滓を討伐していると、“スノーホワイト”からすぐ近くに転移反応が発生したって報せを受けた。それは目視で確認できる程に近い場所で、知らせを受けてからすぐに誰かが転移して来た。その誰かと言うのが「リニスさん・・・!」フェイトちゃん達の目的の1人だった。

『こちらすずか。リニスさんと遭遇しました』

『了解。こっちでも反応を捉えたよ。リニスだけじゃなくてプレシアも転移するようで、フェイトちゃん達が到着するまで留めておいて!』

エイミィさんからの指示に『了解!』って応じて、ボーっとしてるリニスさんの元へと向かう。そして「あの、リニスさん・・・?」と声を掛ける。リニスさんは、最初は聞こえていないかもって風に呆けていたけど、「・・・・え? あ、はい」ハッとして私に振り向いてくれた。

「はじめまして。私、月村すずかと言います。時空管理局嘱託魔導師です。リニスさん、ですよね。フェイトちゃんとアルフさんのお世話役で、魔法の先生だったという・・・。今のご自分の状況、ご理解していますか?」

「ええ、まあ。ここが新暦66年で、私の知る時代にとっては未来・・・と言うくらいには。あなたはフェイト達とお知り合いなのでしょうか?」

意識はハッキリしてる。フェイトちゃん達が来てくれるまでお話しで時間を稼ごう。まずは「はい。私、フェイトちゃん、アリシアちゃん、アルフさんの友達です」フェイトちゃん達の友達だっていうことを伝えよう。

「っ!! フェイト達のお友達! それはそれはありがとうございます! それであの! アリシアのことなんですが、その・・・本当に生きているんでしょうか!?」

リニスさんが使い魔になったのは、フェイトちゃんが生まれた後。アリシアちゃんが今に生きていることは知らないはずなんだけど。どこでその話を聴いたんだろう。えっと、とにかく「はい。フェイトちゃんとアリシアちゃん、私や他のお友達と一緒に学校に通っているんです」って微笑み返す。

「学校にですか!? アリシアも一緒に!?」

「はいっ。同じ学年、クラスですよ。フェイトちゃんとアリシアちゃん、双子っていう設定と言いますか何と言いますか・・・それで一緒に、です」

「双子・・・。2人は仲が良いんでしょうか? その、フェイトとアリシアは・・・」

「フェイトちゃんが、アリシアちゃんのクローンだということもみんな知っています。それでもアリシアちゃんはフェイトちゃんと仲が良いですよ。元気いっぱいのアリシアちゃんはクラスで人気者ですし、フェイトちゃんも負けず人気者です」

「そう、ですか。本当に生きてくれているんですね・・・。それに仲が良いって。あの、すずかさん。プレシアは、あの子たちの母親は・・・?」

「えっと、それは・・・(これ、私が話しちゃっていいのかなぁ・・・? でも、フェイトちゃん達に言わせるのもどうかと思うし・・・。お母さんの死のことなんて・・)あの・・・」

そう悩んでいると、「そうですか。プレシアはもういないんですね」私が言い淀んじゃったことから察したみたいで、リニスさんは寂しげに「お気遣いありがとうございます」微笑んでくれた。

「プレシアは体を病んでいましたし、魔法でも医学でも治せないほどの末期。2年と経過していれば亡くなっていてもおかしくはありません・・・」

私たちの間に重い沈黙が。えっと、何か、時間稼ぎが出来る話題を。そう必死に考えを巡らせていると、「あの、私という存在について教えて頂いてもいいでしょうか?」リニスさんにそう訊かれた。

「・・・今、この街――海鳴市で、あるロストロギアによるトラブルが起こってまして、リニスさんはそのトラブルに巻き込まれてしまったと・・・」

「トラブル・・・。時間移動とか、ですか? 先ほど未来から来たという子供たちと会いましたから。あ、でも私の場合は時間移動とはまた別だと思うのですが。私、もう消滅しているはずですから。その記憶を持っている上で未来へ時間移動したというのも不自然ですし」

自称なのはちゃんの娘――ヴィヴィオさん達のことだ。ここが新暦66年だという事もあの子たちから聴いたんだね。それにしてもリニスさん鋭い。私は「そのトラブルというのが、過去の記憶を蘇らせたりする・・・ような」ってかみ砕いた表現で伝えた。詳しい説明だと上手く伝えられないかも知れなくて。

「なるほど。それで納得がいきます。消滅の記憶がありながらこうして存在している理由。記憶の実体化と考えれば辻褄が合います。そういったことが不可能ではないと、文献で見たことがありますし」

すごい。さすがフェイトちゃん達の魔法の先生で、大魔導師って謳われてたっていうプレシアさんの使い魔。博識だし頭の回転も速い。リニスさんは「わたしは一種の亡霊のようなモノなんですね」そう寂しげに呟いた後、「それでも良かった」って微笑んだ。

「フェイトに友達が出来たらいいな、って。そのお友達と笑い合って、時には喧嘩したりもして、それでも最後には仲直りして・・・。そうしてずっと支え合えって生きていってくれたら・・・そう願っていました。すずかさんの他にもまだお友達が居るようで。そして楽しく過ごせているようで、すごく安心しました」

あ、この感じ、すごく嫌な。よく感動ものの幽霊(ホラー)映画でいう終盤、幽霊の成仏フラグみたいな。それをどうにかするために、「他にもですね!!」思わず大声を上げてリニスさんの消滅を妨害(出来るといいなぁ)。

「っ? えっと、はい? あ、あら? また、体が・・・」

「リニスさん!!」

出来なかった。リニスさんの体がゆっくりと半透明になっていって、消えちゃった。そして少し遅れて「すずか!」フェイトちゃん達がやって来た。私は「ごめんね。引き止めておくことが出来なくて」謝る。

「ううん。私たちももっと早く来ていれば良かったから」

「そうだよね。ごめんね、フェイト、アルフも。わたしにバリアジャケットが無いから、どうしても遅れちゃうよね」

「あ、そう意味で言ったんじゃ――」

「解ってるよ、フェイト。でもやっぱりこれから一緒に行動しようと思うと、バリアジャケットって有った方が良いかなぁって。とにかく。シャル、エイミィ。リニスとママの反応は!?」

アリシアちゃんが、しゅんとしてるフェイトちゃんとアルフさんに微笑みかけた後、アースラに通信を繋げた。先に応じたのは『えっと、リニスの反応は捉えきれてない、ごめん!』エイミィさん。遅れて『その代わりだけど、なのはがプレシアと遭遇!』シャルちゃんが、なのはちゃんとプレシアさんの居るポイントを教えてくれた。

「アルフ、もうちょっとスピード上げていいから!」

「アリシア、でも・・・」

「お願い、アルフ!!」

必死に願い出るアリシアちゃんに困惑してるアルフさん。ここで「待って、アリシアちゃん。私が、魔力コーティングするから」魔導師の全力飛行に耐えられるように、魔力の膜でアリシアちゃんを護る。急いで「スノーホワイト!」魔法を発動。もっと早くこうしておけば良かったって後悔。

「あ、なんか温かい・・・」

アリシアちゃんを覆う、私の魔力光である藤紫色の魔力の膜。これできっと大丈夫。という事で、プレシアさんとなのはちゃんの居るポイントへ私も同行して全力飛行開始。

†††Sideすずか⇒なのは†††

プレシアさんとリニスさんの残滓が出て、さらに他の残滓も出て来たことで、私たちはそれぞれ分担してアースラから出撃。フェイトちゃん、アリシアちゃん、アルフさん(呼び捨てで良いって言うけど、すぐには切り替えられない)は、リニスさん達の元へ。私たちは残滓の討伐へ。
私の残滓を倒してすぐ、“レイジングハート”から魔力反応の転移反応を探知したって報告が。そのポイントへ移動してすぐ“レイジングハート”を構え直す。と、「来た・・・」到着直後に転移して来たのは「プレシアさん・・・!」だった。服装は時の庭園の物。

「こちらなのは。プレシアさんを発見。フェイトちゃん達は・・・?」

『すぐに向かわせる! まずは引き止めておいて、なのは!』

先ずはアースラに連絡を入れるとシャルちゃんが応じてくれた。私は「なんとかやってみる」って返して、通信を切る。よし。行こう。

「ここは・・・? 私は一体・・・?」

「あの、プレシアさん・・・」

「??・・・あなた、確か・・・私の庭園に乗り込んできた子供たちの1人・・・」

「はい。高町なのはです。プレシアさん。今あなたが置かれている状況とかって解りますか?」

私たちが時の庭園に乗り込んだ後の記憶を持ってる。虚数空間に落ちる前か後か、そのどっちかで色々と変わってくる。フェイトちゃんをアリシアちゃんの妹として認めた後か、その前か。出来れば認めた後のプレシアさんでありますように。それだったら安心してフェイトちゃんと会わせられる。それを確認するための問い。

「・・・時の庭園が崩落し、私は虚数空間へと落ちたわ。そこで・・・そこで・・・。っ! アリシア! アリシアはどうなったの!? 憶えているわ! 私は神と取引をした! 私の命で、アリシアを蘇らせると! アリシア! あれは夢だったの!? いいえ、今のこの状況はそもそもどういうことなの!?」

錯乱状態になってしまったプレシアさん。私は一発でその錯乱を収める言葉、「アリシアちゃんは元気です!」と告げる。するとプレシアさんは「え?」って私へと目を向けてきた。私はもう一度、「アリシアちゃんは、元気ですよ」そう言って微笑みかける。

「本当なの? 証拠を、あの子がちゃんと生きている証拠を!!」

「えっと、写真とか持っていればよかったんですけど。でも、確かにアリシアちゃんは今を生きています。プレシアさん、あなたのその命で。今は私たちと同じ学校に通っているんですよ。同じ学年で同じクラス。フェイトちゃんとアリシアちゃんは双子だってことにして。それほどまでに仲が良いんです」

「アリシアとフェイトが・・・双子・・・」

「えっと、詳しいお話はフェイトちゃんやアリシアちゃん本人から聴いた方が良いと思います」

「っ! 近くに居るの!?」

「・・・今、リニスさんも居るんです」

「リニス・・・!? どういうこと?・・・あなた、今の私の置かれている状況を知っているようね。話しなさい」

私はプレシアさんに話す。プレシアさんやリニスさんは、あるロストロギアによるトラブルに巻き込まれている状態で、再現されて過去の記憶が実体化した人だってことを。するとプレシアさんは「そういうこと。死んだ記憶がありながら存在するなんておかしいと思ったのよ」って、すぐに納得してくれた。

「つまり今は、私の知る時間から未来なわけね。あなたの成長具合からしてそう経ってはいないようね。おそらく1年以内・・・」

私は「その通りです」って頷き返す。プレシアさんは「それでも構わないわ。もう一度あの子たちと会えるのなら、私はそれだけで・・・」そう言って静かに表情を柔らかくした。時の庭園でフェイトちゃんに酷い事を言っていたあの険しい表情が嘘のよう。やっぱり人は変われる、ってことが判った。

「ねえ、あなた。フェイトはやっぱり、私を恨んでいるかしら・・・?」

「プレシアさんはどう思いますか?」

「私が訊いているのだけど?」

ジトッとした目を向けてきたプレシアさんに「私の答えを聴かなくても、解ってるんじゃないですか」と返す。フェイトちゃんは最後までプレシアさんをお母さんって慕っていた。虚数空間に落ちるのを、自分が落ちるのも構わずに助けようとしたんだもん。恨んでるわけがないよ。プレシアさんだってそれが解ってるからこそ「・・・そうね」とフッと寂しげに笑った。

「なのはぁー!!」

「っ!」「フェイトちゃん!」

私の名前を呼ぶのはフェイトちゃん。声のした方を見ると、フェイトちゃんとアルフさんとアリシアちゃん、そしてすずかちゃんも一緒にこっちに向かって来ていた。プレシアさんが「アリシア・・・!」震える声でその名前を呼んだ。フェイトちゃんが展開したフローターフィールドに、アルフさんがアリシアちゃんを下ろした。プレシアさんがアリシアちゃんの元へと急ぐ。

「ママ・・・!」

「アリシア・・・!」

アリシアちゃんとプレシアさんが抱擁を交わした。20年以上、ずっと再会したいって思ってた2人だから、嬉し涙を流しながら何度も「ママ」「アリシア」って名前を呼び合ってる。だけどフェイトちゃんのことも・・・って思って、フェイトちゃんに目を向けた。

『いいんだ、なのは、すずか。私にとっても、母さんとアリシアの再会の方が大事だから。母さんはこの瞬間の為に、自分の人生を費やした。だから、今だけは母さんとアリシアの邪魔はしたくない』

念話で伝えてきたフェイトちゃんが微笑んだ。とここで、「フェイトもおいで!」アリシアちゃんがフェイトちゃんを呼んだ。フェイトちゃんが「でも・・・」って少し言いよどむと、「いらっしゃい、フェイト」プレシアさんからも呼ばれたことで、フェイトちゃんは涙ぐんで「母さん・・・!」プレシアさんに抱きついた。

『なのはちゃん。私たち、ちょっとお邪魔かも知れないね』

『うん。リニスさんを捜しに行こう、すずかちゃん』

未だにリニスさんが行方不明。だから捜しに行こう。すずかちゃんと頷き合って、アルフさんに一瞥した後、私たちはその場から去った。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

別れの時にしか得られなかった、母さんの温もりに包まれてる。涙が止まらない。私の背中に回された母さんの手がそっと背中を撫でてくれる。母さんが「私はいつも、気付くのが遅い。ごめんなさい」そう謝った。私は首を横に振る。

≪至近に転移反応≫

“バルディッシュ”から簡潔な知らせが入った。母さんがアリシアの背中に回してた手を離して、転移反応のする方へと向けた。携えるのは起動した杖型デバイス。そして「わわっ?」その驚きの声と一緒に転移して来たのは「リニス!!」だった。

「フェイト、アルフ!・・・プレシア、アリシア!!」

満面の笑顔で私たちに抱きついてきたリニス。こんな奇跡が起こるなんて想像もしていなかった。母さんが居て、リニスが居て、アリシアが居て、アルフが居て、私が居る、こんな時間が本当にあるなんて。私たちはゆっくり話そうということで近くの陸地――人気のない公園に降りる。

「フェイト、アルフ、久しぶりです! 見間違えましたよ!」

「リニス、リニス、リニス!」

アルフが尻尾を勢いよく振ってリニスに抱きつくと、「前言撤回です。甘えん坊は変わらずです」って訂正。アルフは「えへへ」って涙を湛えながらも笑顔を浮かべる。私は「また逢えて嬉しい、リニス・・・!」さっきから流れっ放しの涙を拭ってリニスに歩み寄る。

「はい。私もすごく嬉しいです。・・・バルディッシュ、ちゃんと使ってくれているんですね」

「うんっ。これまで何度も助けてくれてるんだ。リニスのおかげで、バルディッシュのおかげで、私は強くなれてる」

「それは嬉しいことです」

リニスに頭を撫でられる。昔はよく魔法が上手くいくとこうして褒められていた。それを思い返すとまた涙が溢れてきた。リニスは私とアルフの頭を撫でつつ「プレシア、アリシア」私たちの再会を見守っていてくれた母さんとアリシアの名前を呼んだ。

「お久しぶりです、プレシア。そしてこの姿では初めましてですね、アリシア」

「ええ、久しぶりね、リニス」

「リニスは初めてかもだけど、わたしはリニスのこと知ってたよ」

アリシアのその言葉に「え?」母さんとリニスがそう漏らした。そのこともちゃんと話さないとダメだよね。私とアリシアは顔を見合わせて、コクリと頷き合った。そして母さんとリニスに、リニスが居なくなって後のことから、時の庭園崩落までの出来事を話す。
ジュエルシードを発端としたPT事件の顛末、そしてアリシアが事故で亡くなってから蘇生するまでの間、魂だけの存在として私たちを見ていてくれたこと、母さんがアリシアを蘇らせたこと、話せることをすべて。そして最後にアルフが、私が母さんから受けてたお仕置きのことをリニスに告げ口した。

「ちょっ、プレシア!? あ、あなた! フェイトを鞭打ちしたって本当ですか!?」

母さんの死の理由、アリシア復活の理由を知って泣いていたリニスの表情がガラリと変わった。ものすごい怒りの形相で母さんに詰め寄るリニス。その後ろで「やれー、やれー、リニス♪」アルフが母さんへの仕返しをしてやったりと言った風に笑顔。母さんは若干身を引きながら「やったわ」と認めた。さぁ大変。リニスが「あなたは馬鹿ですか!」すごい声量で怒鳴った。

「あのね、リニス。私、それは自分が母さんの期待に応えられなくて、不甲斐無い所為だって――」

「フェイトは黙っていてください。・・・プレシア! さっき、アリシアは魂の状態であなたやフェイト達の生活を見ていた、と言っていました! つまり、あなたの虐待まがい――いいえ、最早虐待はアリシアにも見られていたということ! そうですよね、アリシア!」

「え、あ、う、うん・・・。フェイト、可哀想だった」

アリシアにまで非難の目を向けられてしまった母さんは「本当に申し訳なかったって反省しているわ。ごめんなさい、フェイト。私は、酷い母親だったわね」って謝って、私の頬にそっと触れた。

「いくら謝っても普通なら許してもらえないような、酷いことばかりあなたにはしたわ」

「ううん。母さんだって色々と抱えてたことを知ったから、恨みなんてないよ。母さんには笑っていてほしかった。その為だったら、って。だからもう、いいんだよ母さん」

さっきはアリシアと一緒だったけど、今度は私ひとりを抱きしめてくれた。心から謝ってくれていると、そして私を本当の娘だって認めてくれたって、それだけで解る。私も母さんの背中に手を回す。母さんって、こんなに細かったんだって思った。もっと大きな人だって思ってたのに。

「・・・はぁぁぁ。フェイトが許すのであればもう何も言いません。アルフはどうです?」

「・・・本気で反省してるっぽいし、これ以上責めたらフェイトからあたしに注意来そうだから、あたしも許すよ」

リニスとアルフがそう締めたことで、この話は終わり。そう、過去より現在の話をしたい。そういうわけで、私たちは事件後からこれまでの話をすることにした。どこから話そうかと思案していると、「アリシア、フェイト。あなた達、学校に通っているそうだけど」って話題を母さんが出してくれた。

「うんっ! えっと、なのはから聴いたの?」

「ええ。力強い瞳を持っていたわ。庭園では敵として見ていたから気付かなかったけれど、本当に真っ直ぐな・・・」

「私はすずかさんから聴きました。聡明そうな女の子でしたよ。礼儀正しくて。さすがフェイトのお友達。良い縁を持っているようで嬉しいです」

家族に友達を褒めてもらえるとこんなに嬉しいんだ。私とアリシアは顔を見合わせて、お互いに嬉しさでにやけてるのを見てまたにやける。リニスとアルフ、母さんもそんな私たちの様子に微笑んでる。

「双子だっていう関係で同学年に籍を置いているとの事ですけど・・・」

「うん。私たちの友達みんな同い年だったから、アリシアひとり年齢を高くしたり低くしたりしちゃうと、学校のイベントで一緒になれないから」

「本当は学年上なのに、仕方なく低くしたんだよ」

「よく言うよ、アリシア。独りにしないでぇ~って泣きついて、同学年にしてもらったんじゃないか」

「ちょっ、言わないでよアルフ! わたしのお姉ちゃんとしての威厳とか考えて!」

そうだった。始めからアリシアを同学年にするって決めていたけど、アリシアにその話をする前にアリサとシャルが悪戯心で、

――アリシア。あんた、フェイトのお姉ちゃんよね――

――そうだよ。見た目はみんなより小っちゃいけど、中身は大人だよ♪ だから子ども扱いしないでよね、えっへん――

――そっか。じゃあ、アリシアは学年1つ上ってことでオーケー?――

――え?――

――しょうがないか。お姉ちゃんだもんね。じゃあアリシアは4年生から、それとも5年生? その辺りの学年に転入ってことで。残念ね、アリシア。学校イベント、フェイト達とは一緒になれないけど、お姉ちゃんだもんね、大丈夫だよね――

――あ、ああ、・・・あう、ご、ごめんなさぁーーい! 大人ぶってごめんなさーい! わたしもフェイト達と一緒がいーいぃ~~~~~~!!!――

そうからかったから、アリシアが泣いちゃったんだよね。アリシアが顔を真っ赤にしてアルフをポカポカ叩く。母さんとリニスが微笑ましくそんなアリシアを眺めてる。もっとハッキリと私たちのことを知ってもらうために写真とかあればいいんだけど、残念ながら無い。
そう思っていたら、『こちらシャルで~す♪ 今からそちらにお届け物をお届けしまーす♪』シャルからそんな一方的な念話が。そのすぐ後、何かがこちらに向かって来るのが魔力反応で判った。

「どなたかこちらに来ます。魔力反応・・・大きい・・・!」

「あなた達は下がってなさい。それでも私よりは下だわ」

母さんが私たちを護るように躍り出た。今の念話、アリシアやアルフにも届いていたようで、「待ってくれリニス!」「わたし達の友達だから!」って臨戦態勢に入った母さんとリニスを制止した。その魔力反応――ルシルが、私たちが視認できるようになったところでスピードを落として、そして降下して来た。

「おーい、ルシルー! おーい!」

アリシアが両手を振ってぴょんぴょん飛び跳ねて、ルシルにここだと合図。そんなルシルは「見えているよ」と苦笑しながらトンッと地面に降り立った。私が「どうしたの? ルシル」って声を掛けた中で、ここに来た理由を察した。ルシルの左手には1冊のハードカバーの本が。

「初めまして、フェイト、アリシア、アルフの友人であり同僚の、八神ルシリオン・セインテストです。ご歓談の中、お邪魔して申し訳ありません」

「いえいえ。私はリニスと申します。で、こちらがプレシア・テスタロッサです。まあまあ、これはまた可愛らしいお嬢さんが。あなたも、フェイト達のお友達ですか?」

「「ぷっ」」

リニスが挨拶したルシルに向かってそう言うと、アリシアとアルフが吹き出した。リニスがその2人の様子に小首を傾げている中、「リニス。この子、男の子よ」って母さんが一発でルシルを男の子だって見破った。

「え? 男の子・・・? そうなんですか?」

「・・・はい。生物学上では俺は男です」

ルシルが言いづらそうに自分の性別を答えると「ご、ごめんなさい! てっきり女の子だと・・・」リニスが慌てて頭を下げて謝った。そこにアルフと一緒に笑い声をあげていたアリシアが「しょうがないよ、リニス。誰が見たって女の子だもん」ってルシルにトドメを刺した。ずーんと肩を落としたルシルは「やっぱり髪か、髪の長さがダメなのか?」って後ろ髪に触れた。

「んー・・・顔立ちじゃない?」

「ア、 アリシア! こら!」

容赦なくルシルの精神にダメージを与えるアリシアを注意するリニス。私はすぐに話題を変えようと「ルシル、ソレ、手に持ってる物」って指さす。するとルシルは「シャルの提案だ。アルバム、あった方が良いだろ?」持っていたアルバムを私に手渡した。

「うん、ありがとう。持って来てくれて。でも大丈夫なの? カートリッジの稼働確認とか・・・」

「ああ、ベルカ式組の確認は終わった。あとは君たちミッド式組だ。ま、ゆっくりと話すといいよ、ご家族と。それくらいは許される」

そう言って微笑むルシル。私はふと、ルシルにごめんなさい、って思った。ルシルだって家族を亡くしているのに、私たちにだけこんな幸せな奇跡が起きて。そんな思いが顔に出ちゃったみたいで、「気にしないでいいさ。俺は踏ん切りがついてる」って微笑みを絶やさなかった。

「では俺はこれで失礼します」

そうお辞儀したルシルはまたすごい速さで帰って行った。私とアリシアとアルフは、アルバムを届けてくれたルシルに「ありがとう!」お礼を言って、そしてまた母さん達と話をする。今度はアルバムをみんなで眺めながら。
なのは達の写真を見せて友達だって紹介したり、学校の通学途中で見つけた犬や猫の写真や、管理局に研修生で入った時の写真を見せたり、他にも学校で起きた面白いこと、楽しいこと、友達がたくさん出来たこと、話したいことが尽きない。それなのに・・・

「母さん、リニス・・・!?」「ママ!?」「リニス!」

2人の体が透けていっているのに気付いた。だけど母さんもリニスも全然慌てることなく、「ねえ、プレシア」リニスが母さんを呼んで、「ええ。悪くないわ」って母さんは静かに目を閉じて応えた。

「フェイト、アルフ、アリシア。このひと時、とても楽しかったです。私やプレシアの居ない未来、あなた達が幸せに包まれているようでホッとしました」

「「「リニス!」」」

「私の選択は間違いじゃなかった。そう思えたわ。アリシアもフェイトも・・・そしてアルフ、あなたも。多くの友人を得て、自ら選んだ将来への道を進んでいることが知れて、安心したわ」

「母さん!」「ママ!」「プレシア・・・!」

どんどん薄くなっていく母さんとリニスの体。どうすれば食い止めることが出来るのかも判らないまま、「まだ、まだたくさん話したいことがあるのに、教えてもらいたいこともあるのに!」声を掛け続ける。アルフも「あたしもそうだよ! リニスにもっと魔法を教えてほしいよ!」そう言って泣き出す。

「一目見ればあなた達がどれだけ強くなったのか判ります。きっともう私が教えることはない。素晴らしいお友達を、切磋琢磨し合える仲間を得て、管理局に入って誰かを助けられるように、守れるようにという立派な意志を持ってくれて、師としてこれだけ素晴らしい教え子を持てたこと、とても誇らしいです」

「「リニス!」」

「アリシア。あなたはまだ明確な未来像を得ていないようだけど、まだ焦ることはないわ。あなたにはたくさんの時間あるのだから。後悔のないように、納得のいくように、ゆっくりでいいわ、自分の将来を考えなさい」

「ママ!!」

私とアルフはリニスに抱かれて、アリシアが母さんに抱かれた。そして入れ替わるように母さんが私たちの前に来て、リニスがアリシアの前に立った。

「フェイト、アルフ。これまで辛い目に遭わせた私が言うのもどうかと思うけど、幸せになりなさい。私は・・・母さんは、それだけを願うわ」

「母さん!」「っ!・・・プレシア」

「アリシア。私が言いたいこと、ほとんどプレシアに言われてしまいましたけど。でも、私からも言葉を贈らせてください。本当は、何をやりたいか決めているのですよね・・・?」

「っ!・・・うん。ずっと悩んでいたけど、今回の一件で決めたよ」

「じゃあ、その道を突き進みなさい。きっとそれがアリシアの進むべき道だと思うから」

「・・・うんっ、ありがとう、リニス!」

今度は母さんに抱かれて、アリシアはリニスに抱かれた。さっきのリニス以上に希薄な存在感で、抱かれているのにそんな感じが全然しない。本当にこれでお別れなんだって痛感する。

「今と未来を生きるあなた達と、たとえこの身が過去の記憶の再生であったとしても、こうして触れ合えたこと、本当に、本当に・・・幸せでした」

「アリシア、フェイト、アルフ。束の間だったけれど、家族として話し合えたこと、幸せだったわ」

最後の最後、私とアリシアとアルフ3人、母さんとリニスに左右から抱かれた。本当に最後、私たちは感じる事が出来た。母さんとリニスの温かさ、柔らかさ、そして愛を。

「母さん、リニス!」

「ママ、リニス!」

「リニス、プレシア!」

「空からプレシアと一緒に、あなた達を見守っています」

「私たちの娘たち――家族の未来が幸せに彩られているように・・・」

「「ありがとう・・・幸せに・・・」」

それが母さんとリニスの最期の言葉だった。私たちを抱きしめてくれていた2人が光となって、空へと昇って行った。

 
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