魔法科高校~黒衣の人間主神~
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入学編〈下〉
特別閲覧室×言葉の打ち合い
「流石にセキュリティーが厳重だな・・・・」
「そう簡単にデータには辿り着けないか」
「だがこれを盗み出す事ができれば・・・・!」
壬生先輩は目の前で行われている作業を、複雑な心境で見詰めていた。機密文献・・・・・この国の魔法研究の、最先端を収めた文献資料にアクセスできる唯一の端末に、ハッキングを仕掛けている同志・・・・。「ブランシュ」のメンバー。男子部主将の司の仲介で彼らと引き合わせたのは、半年以上前の事になる。司は何故か、自分が所属しているエガリテではなく、ブランシュに壬生先輩を連れて行った。
本来壬生先輩は、学校外まで活動を広げるつもりはなかったし、少しでも法に触れるような事はしないつもりだった。彼らと会ったのは、世話になっている司に対する義理立てだった。ブランシュ日本支部の代表を務めているという司の兄に色々教わって、魔法技能による差別は学校の中だけで解決できる問題ではないと思い直した今でも、壬生先輩の関心の焦点は学内における二科生の差別にあった。
本当は、壬生先輩は討論会の方に参加したかったが、思うという事もあって声に出して希望を発言した。だが壬生先輩の方が敵役だからと、司に説得されて断り切れなかった。自分は何をしているんだ、と壬生先輩は思った。鍵を無断で持ち出して、ハッキングの片棒を担いで・・・・これが本当に自分がしたかった事なのだろうか。思考が禁じられた方向へ進もうとしていると、そう感じた壬生先輩は意識を目の前の任務にと戻した。しかし魔法による差別撤廃を目指しているはずの自分たちに、何故、魔法研究の最先端資料が必要なのか?司の兄は魔法学の研究成果を広く公開する事が、差別撤廃の第一歩になると言っていた。
「(でも、魔法を使えない人に魔法学の研究成果を広く公開する事が、意味があるとは思えない・・・・)」
何度も心の中でリフレインされた疑問が、再び脳裏に蘇る。魔法を使えない人間に、魔法学は役に立たない。ある意味では即物的な魔法理論には、宗教的な精神性も無い。最先端の魔法研究の成果を欲しがる者がいるとすれば、それは、魔法を利用しようとしている者たちではないのか・・・・?
「(ううん、きっと、魔法が使えない人達にも役に立つ研究成果が、秘匿されているのよ・・・・)」
自分を納得させる為に考えた理屈。そう考えるように誘導された答えであり、何度心に繰り返しても蒼い翼については考えもせずに自分を本当に納得させる事は出来なかった。
「・・・・よし、開いた!いよいよ国の最先端資料にアクセスできる・・・・!データを移すぞ。記録用キューブを用意しろ!」
「ああ・・・・・」
記録用ソリッドキューブを出す同志たちから、ドアの方を見ると何らかの音が聞こえたと共に同志たちに悲鳴のような声が出た。
「な!バカな!さっきまでアクセスできたはずが、遠隔操作によってアクセスできない様にセキュリティーをさらに厳重にしただと!」
「遠隔操作だと!どこからだ!」
「こ、これは!ここの特別閲覧室の外からだ。そこから遠隔操作をしているようだ『そこまでだ』!!!!」
と声が聞こえたので、振り返るとそこにはドアが開いていた。電子ロックをして鍵をかけたはずだったのに、そしてそこにいたのは二人だった。二人が登場した際に、男の方が拳銃型のCADで撃つと同時に記録用キューブとハッキング用の携帯端末が砕けた。しかも製造工程をビデオテープを巻き戻したかのように分解されたのだった。このドアは何重にもなった複合装甲の扉を内側からロックしていたのに、外から開けられた事に驚いたようだった。この二人が特別閲覧室に着いた頃を遡ってみよう。
「ふむ。このドアは電子ロックしてあって開けられないようになっているな」
「どうされますか?お兄様。このドアは物理的に強固であるため、対戦車ロケット砲の直撃にも耐える複合装甲ですが。魔法で破壊は可能ではあります、加重・振動・溶解、大規模な魔法式を構築となります」
「せっかくだから、このドアを壊さずにやってみようか?フェルトにミレイナ」
『何でしょうか?一真さん』
「このドアの電子ロックの解除と、特別閲覧室にアクセスし終えたあとにもう一度ロックをかけることは可能か?」
『可能ではありますが、そのドアをロックから解除するのはそちら側からじゃないと開けられないようになっています。外部からだとそちらからが早いかと、それかそちらの端末を扉前にところでアクセスしたら、こちらから何とか出来ますが?』
「なるほど。ならば、端末をドアの右端にある機械のところに繋げてと。経由は蒼い翼からで頼む」
『了解したのです~。まもなく扉のロック解除と閲覧室にあるセキュリティーをさらに厳重にするです』
「よし。ロック解除と、さてと行くぞ、深雪」
「はい、お兄様」
と言う訳で、今に至る訳だ。まあ本当は、ドアごと筒抜けにするはずが電子ロックをハッキングして開けるのは容易い事だ。あとドアを閉じないように、開けたままにしてあるけど。
「よう、お前たちは産業スパイと言うべきか?お前らの企みは全て終止符となった」
銀色に輝く拳銃形態の特化型に見えるCADを右手に構えて、左手は今にも抜きそうなハンドガン。そして壬生先輩からは見知った人影でもあった。その背後には、携帯端末形態のCADを構えた華奢な人影が淑やかに控えている。彼ら兄妹の表情には少しも興奮というのがなく、自分たちが犯罪行為を働いていた最中という事を忘れそうになる。
「織斑君・・・・」
呟いた壬生先輩の隣で、右腕を上げる動き。降参のサインではなくハンドガンを後輩へと向ける、仲間の男。この男は第一高校の生徒ではないことを知っていたし、司の兄であるリーダーが連れて行くように指示した男だ。そのリーダーが直接指名した仲間が示したのは明白な殺人の意志。壬生先輩は無言の悲鳴をあげていた。制止しようにも、声が出なかったし手も動かなかった。自分がこの人殺しの仲間だという認識が、彼女を竦み上がらせた。人の命を簡単に殺すことの出来る弾丸は、発射されたが何か防がれた音によって兄妹には当たらなかった事という事実。見ると浮かんでいる長方形の装甲みたいなのが、何枚か浮かんでいて何発が撃ってもその盾によって防がれたのだった。その後に拳銃が暴発して周りにもダメージがあると思ったら、その男の周りだけ結界みたいなのが張っていた。
「愚かな真似はやめるんだな、こいつはシールドビットと言ってな。深雪の脳波でコントロールしている。ついでにその拳銃が暴発した理由は簡単な事だ。俺が自分の銃で相手の銃口に向けて発砲したからだ、こういう銃火器での事は出来るヤツがあまりいないけど」
と言ったあとに、その男は暴発したダメージで倒れた。手は銃の暴発で、血だらけになり破片が身体に当たりとても痛がっていた。あとは口調は静かにそして冷静になりながら、ハンドガンをしまうのだった。あまりにも格が違う相手とすぐに理解をしたし、何をしても敵わないと分かる。
「壬生先輩。これが現実ですよ」
「えっ・・・・?」
「誰もが等しく優遇される、平等な世界。そんなのはあり得ない。才能も適性も無視して平等な世界があるとすれば、それは誰もが等しく冷遇された世界。本当は壬生先輩もご理解できているのでしょう?そんな平等を与えることなんて、誰にもできないとは言いませんが出来るとしたら数人しかいない事でしょう。ですが、それは騙し、利用する為の甘美な嘘の中にしか存在しないのですよ」
壬生先輩の、焦点の合っていなかった瞳が、焦点を結ぶ。彼女を正面から見詰める、後輩の無表情な目の中に見える感情は。そして右手にはまだCADを構えたままだ。
「壬生先輩は、魔法大学の非公開技術を盗み出す為だけに利用されたのです。これが、他人から与えられた、耳当たりの良い理念の、現実ですね」
その感情とは、憐れみなのか。
「どうしてよ!何でこうなるのよっ?」
そう感じたのか、一気に感情が爆発した。
「差別を無くそうとしたのが、間違いだったというの?平等を目指したのが、間違いだったというのっ?差別は、確かに、あるじゃない!あたしの錯覚なんかじゃないわ。あたしは確かに、蔑まされた。嘲りの視線を浴びせられた。馬鹿にする声を聞いたわ!それを無くそうとしたのが、間違いだったというの?貴方だって、同じでしょう?貴方はそこにいる出来の良い妹と、いつも比べられていたはずよ。そして、不当な侮辱を受けてきたはずよ!誰からも馬鹿にされて来たはずよ!」
壬生先輩の叫びは、心の叫びみたいな感じではあったというより嘆きであった。心の底からの絶叫でもあった。だが、その叫びは一真の心には届かない。逆に差別を受けていないという事は事実であって、共感も感じない事であった。一真にとっては、「しょうもないことだな」として受け容れている、単なる事実だからだ。壬生先輩の叫びは、彼の心には届かなかったが、隣にいる少女の心には届いたようであった。
「私はお兄様を一度も見比べたり蔑んだりしていません」
静かな声だった。その声には、壬生先輩の嘆きを沈黙させる感情=怒りが込められていた。
「仮令私や蒼い翼関連の人達以外の全人類がお兄様を中傷し、誹謗し、蔑んだりしても、私とお兄様の部下は変わる事のない敬愛や仲間意識を捧げる事でしょう」
「・・・・・貴女・・・・・」
絶句する壬生先輩。あまりにも鮮烈な深雪の誓言に、壬生先輩の言葉だけじゃなく、思考と感情まで断たれる。
「私やお兄様の部下やお仲間も同じことを言いますでしょうが、魔法力故ではありません。少なくとも、俗世に認められる魔法の力ならばお兄様を数段上回ります。ですが、そんなものは、私のお兄様に対する想いに何の影響もありません。それに魔法力は普段なら私が上回りますが、本気を出したらこの一国を滅ぼすほどのお力を持っておりますのよ?私や部下・仲間はお兄様に対する想いは、微塵も揺らぐ事はありません」
「・・・・・・・・」
「誰もがお兄様を侮辱した?それこそが、許しがたい侮辱でありそれを無くそうとしたお兄様。侮辱をする輩など、お兄様にとってはどうでもいい事なのですよ。あとはお兄様の素晴らしさを認めているお方はたくさんいます。壬生先輩、貴女は、可哀想な人です」
「何ですってっ?」
声だけは大きかったが、力は無く、想いも感情も空っぽであった。
「貴女には、貴女を認めてくれる人がいなかったですか?魔法だけが、貴女を測る全てだったのですか?いいえ、そんなはずはありません。そうでない人を、私は少なくとも一人、知っていますから。誰だと思いますか?」
「・・・・・・・・」
「お兄様は、貴女を認めていましたよ。貴女の剣の腕と、貴女の容姿を」
「・・・・そんなの、上辺だけのものじゃない」
「確かにその通り、上辺だけのものです。でも、それを確かに、先輩の一部であり、先輩の魅力であり、先輩自身ではありませんか」
「・・・・・・・・」
「上辺なのは当たり前です。カフェで二回、お兄様と貴女が直接顔を合わせて話をしたのは、まだこれで三回目だけなのですよ。たった三回、会っただけの相手に、貴女は何を求めているのですか」
「それは・・・・・」
「結局、誰よりも貴女を差別していたのは、貴女自身です。誰よりも貴女のことを劣等生と、『ウィード』と蔑んでいたのは、貴女自身です」
反論しようとも、それはできなかった。後輩が言っている事が全て事実であり、その指摘は思考が漂白されるほどのショックを与えたのだった。考える事を止めたら、人は自らの意志を放棄する事となる。とその時悪魔の囁きは忍び込むというより、傀儡師の囁きでもあった。
「壬生、指輪を使え!」
今の今までこの少女の背に隠れていた男。その男が叫んだので、悲鳴にも似たが俺に向けて腕を振り下ろす。小さな発火音と、白い煙と同時に耳障りな不可聴の騒音。それはサイオンノズルである魔法の発動を妨げるキャスト・ジャミングの波動であった。俺は深雪を隠すようにしてから、目を閉じてからこちらに向かってくる三つの足音が煙の中から聞こえる。俺は三つの内二つの輩を徒手空拳で、叩き倒したのだった。深雪は煙が無くなったあとに、壬生先輩に向けるが一真の指示によって深雪は攻撃するための魔法式を解いた。代わりに一真が風術を使って、煙を一塊にして吸い込んだ。吸い込んだ先は外へと繋がっていて、煙がなくなったときは銃暴発で戦闘不能になったのと近接格闘術で昏倒している者だった。
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