| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第135話 美羽との再会

 
前書き
漸く更新できました 

 
 桃香の次の就職先を決まり、正宗と桃香は今後のことを話し始めた。

「桃香、この時世だ。県令が任地の職を放棄して逃げ出すことは多々ある。お前が突然県令を辞したとしても大丈夫だ。県令を辞す旨を書いた朝廷への奏上文をしたためてくれ。この私も連署する。幸いなことに司空の王允殿とは知己がある」
「正宗さん、私が急に県令を辞めても大丈夫なの」

 桃香は心配そうな表情で正宗のことを見つめる。

「大丈夫だ。王允殿を通せば事後承諾で問題ない。後は私が郡大守へ働きかける。数日中には暫定の政務を行なう官吏を臨穎県の政庁に送ってくるはずだ。桃香達は官吏が到着してから、月華先生を探しに幽州に向えばいい」

 桃香は胸に手をあて安堵の表情を浮かべる。環菜はまだ落ち込んだ表情を浮かべていた。時折、頭を上げたり項垂れたりを繰り返している。彼女はショックから未だ立ち直っていないようだ。正宗が桃香を直臣に取り立てたことに呆気にとられていた冥琳は正宗と桃香の会話を静観して聞いていた。
 その後、正宗は桃香と今後のことの細かい話の擦り合わせを行なった。話の中盤になると桃香では話に付いてこれず、それを見かねた環菜が打ちひしがれた心身に鞭を打ち正宗との話の引き継いだ。



 正宗と環菜は一通りの話を終えると、正宗は桃香に視線を移した。

「桃香、月華先生を探しに幽州に向う前に冀州の都・鄴城に向って欲しい」

 正宗は唐突に言った。鄴城は正宗の居城であり、冀州魏郡にあり幽州に向う道中にはない。鄴城を経由すると遠回りして幽州に向うことになる。

「鄴城に?」

 桃香は要領を得ない表情で正宗のことを見ていた。わざわざ遠回りして行くように言う正宗のことを不思議に思ったのだろう。

「今後、桃香達が支援を受けるには鄴城に一度を足を運んでおいた方がいい。鄴城には私の妻の揚羽がいる。現在、揚羽は鄴城のある魏郡の大守を務めている。環菜は面識がないな。「揚羽」の名は察していると思うが真名だ。姓と字名は司馬仲達」

 正宗は桃香に話した後、環菜に視線を移し言った。

「私が突然行って会ってくれるかな?」

 桃香は正宗を困り顔で見ていた。彼女が冀州で問題を起こした時に揚羽から手厳しい叱責を受けたので、揚羽のことが苦手なのだろう。揚羽の叱責は当然のことなのだが、これは桃香自身の気持ちの問題なので他人がどうこう言ってもしょうがない。

「私が文を書くから門前払いとはならないだろう。揚羽は公私の区別のできる人間だ安心していい。冥琳、桃香に手形と当座の路銀を用意してやってくれ」
「畏まりました」

 冥琳は正宗に対して軽く頭を下げた。

「桃香様」

 環菜は小声で桃香にだけ聞こえるように囁いた。

「正宗さん、ご配慮ありがとうございます」

 桃香は環菜の反応に何か気づいたのか正宗に対して頭を下げ礼を述べた。

「正宗様のご厚情感謝いたします。主人である桃香も正宗様のご期待に添うべく頑張る所存にございます」

 桃香が礼を言うのを確認すると、続けて環菜も正宗に礼と感謝の口上を述べた。環菜の献身的な補佐のお陰で臨穎県の政務に支障が出なかったのだろうなと思う正宗だった。

「桃香、本題に移るぞ。月華先生の容態が快方に向かってきたら、折を見て冀州の鄴城まで先生を連れてきて欲しい。幽州より鄴城の方が療養には適しているだろう」
「冀州へ連れていけばいいんですね?」
「そうだが。月華先生の容態を優先するようにして欲しい。旅をする体力がないのであれば、無理を押して冀州へ連れていくことはない。私も荊州と洛陽への用事を終えれば冀州に戻るので、その頃に一度月華先生の元を尋ねようと思う」
「正宗様、定期的な報告は司馬大守へ行なえばよろしいのでしょうか?」

 環菜が正宗に確認してきたので正宗は頷いた。

「揚羽に報告すれば私の元に連絡が来るようになっている。私が冀州へ戻るまでは揚羽に報告してくれ」
「畏まりました」

 環菜は拱手して返事した。



 三日後、桃香は朝廷への奏上文をしたため、それに正宗と桃香で連署し王允の元に送られた。また、正宗は潁川郡大守の元へ文を送った。文は桃香が臨穎県県令の辞任にするため、その後任が決まるまでの間、期限付きで行政と治安維持の代行を依頼する内容だった。使者として潁川郡大守の元を訪問したのは泉だった。潁川郡大守は正宗の依頼を快く受け入れた。この対応の良さは正宗が車騎将軍の地位にあったことも大きいかもしれないが、一番の要因は正宗の妻である麗羽が潁川郡の隣郡である汝南郡汝陽を本貫とする汝南袁氏の出身であることことも大きかった。汝南袁氏は「四世三公」と呼ばれるほどの名門中の名門である。隣郡を本拠とする名門一族と縁戚関係にある人物と問題を起こしたくないと考えるのは無理からぬことだろう。
 こうして全ての雑事への対応を終えた正宗達はそれぞれの目的地に向け旅立つのだった。
 この間、冥琳は正宗に桃香を登用した存念を問いただすことはなかった。冥琳がそうしなかった理由は麗羽の存在があるかもしれない。桃香の目的地が幽州であることも意味深だった。この考えにたどり着いていたのは朱里もだった。



 冀州魏郡の鄴城へ向った桃香達と別れ、荊州南陽郡に向う正宗は一週間の道程で美羽が居る宛県に入った。美羽の居城である宛城に到着するまでの南陽郡領内の民の表情は活気に満ちあふれていた。正宗達は美羽が南陽郡を善く治めていることを肌で感じることが出来た。
 宛城の城門前に正宗達が近づいてくると衛兵達が駆け寄ってきた。衛兵達の表情は緊張していた。正宗達の率いる兵達は統一した軍装に身を包んだ完全武装した兵三千の部隊であり、その兵達の整然として隊列を見れば練度の高さは傍目からも窺いしれた。衛兵達にとって正宗達は脅威そのものである。しかし、衛兵が正宗達を警戒するのでなく、緊張した表情になっているのは正宗達が夜盗の類でなく官軍であると察したからだろう。

「宛にようこそお越しくださいました。物々しい兵でございますが、何かあったのでしょうか?」

 衛兵は正宗の身なりを確認し、丁寧な物言いで正宗に駆け寄ってきた。正宗の軍装か彼が身分ある武官と推測し、近隣で何か問題でも起こったのかと心配しているのだろう。

「いや、何もない。気を使わせてしまったな」
「控えよ。この御方は劉車騎将軍であられる」

 直ぐ後ろに控えていた冥琳が衛兵に厳かな物言いをした。

「これはご無礼の段お許しください」

 衛兵は冥琳の言葉に表情を変え、慌てて片膝を付き拱手して謝罪した。

「気にするな。武装した兵達が城門前に近づいてくれば警戒するのは当然のことだ。例え、官軍と思しき軍装であろうとな」
「寛大な配慮痛み入ります」

 衛兵は緊張した声で正宗に礼を述べた。

「この宛に私の義理の従姉妹・袁大守が在地しているので会いにきたのだ。この兵達は護衛だ」

 正宗は衛兵に宛城を訪ねた用件を伝え、引き連れている兵達の説明をした。

「大守様のご縁者でございましたか。大変恐縮ではございますが、しばしお待ちくださいませんでしょうか?」
「この兵数が警戒されても仕方ない。袁大守への取り次ぎを頼む」
「畏まりました」

 衛兵は拱手したまま頭を更に下げ城門の方に去っていった。城門近くに戻った衛兵を見ていると他の衛兵と暫し会話をした後、大慌てで城門を越えた街の方に向って走っていた。

「美羽に早馬を出しておけばよかっただろうか?」
「そうですわね」
「衛兵に余計な心労をかけたかもしれませんね」

 正宗の発言に麗羽と冥琳は思い思いの言葉を述べた。正宗は宛の城門から城郭へ視線を移す。

「一郡で一州に匹敵する人と農業生産力がある南陽郡の郡都・宛城だけのことはあるな」

 正宗の知る歴史において宛城は荊州牧が州都とした城である。これだけの城郭を抱えるからこそ荊州の州都を漢寿から宛に移したのだろう。それに正宗の知る歴史においても南陽郡を獲れば天下を獲れると言われていた。正宗は自らの目で直接見て南陽郡がそう言われる理由を実感できた。しかし、同時に豊かな南陽郡は争いの火種に成り得る。

「正宗様は初めてでございましたね」

 榮菜は後ろより声を掛けてきた。

「榮菜は久しぶりの宛だったな。お前が宛を去る時に比べてどうだ?」
「美羽様は南陽郡を善く統治なされていると思います」

 榮菜は城門に向って途切れることなく人が進む様を嬉しそうに見つめていた。榮菜は正宗の命令で美羽の元で客将をしていたこともあり、荒廃した南陽郡が復興したことは感慨深いものだったのだろう。

 四半刻(三十分)後、騎乗した女の子が三人城門からこちらに近づいてきた。正宗は遠目で三人が誰であるか直ぐにわかった。中央が美羽、左が明命、右が亜莎だった。美羽は正宗を確認すると馬足を早め正宗の元に駆け寄ってきた。残る二人は美羽を追いかけるように馬を走らせた。
 正宗は馬を降りると馬に乗る美羽の元に歩いて近づいていった。

「兄様——————!」

 美羽は馬上であるにかかわらず、無邪気な笑みを浮かべ正宗の胸目がけて飛び込んだ。正宗は突然のことに驚きながらも美羽を受けとめ抱き上げた。彼の表情から久方ぶりの美羽と出会いを心から喜んでいるがわかった。

「美羽、大きくなったな。元気にしていたか?」

 正宗は美羽を地面に下ろし彼女の目線にかがむと彼女に語りかけた。

「妾は元気なのです! 兄様も元気でしたか?」
「私も元気だ」

 正宗は美羽を優しい表情で見つめ頭を撫でた。美羽は正宗の行為に暫し少し気恥ずかしそうな表情を浮かべるが、直ぐにうれしそうな表情に変わった。

「美羽さん、本当にお久しぶりですわね」

 麗羽は馬を降り美羽に声をかけ近寄ってきた。冥琳達部将以上の者達も馬を降りて美羽達に近寄ってきた。

「麗羽姉様、お久しぶりです」

 美羽は麗羽を確認すると後ずさりし、正宗の背に隠れるように移動した。麗羽は美羽の態度を気にすることなく笑顔で近づいてきた。

「美羽さん、どうしたんですの?」

 麗羽は腰を屈め美羽に顔を近づける。

「えい!」

 突然、麗羽は美羽との間合いを詰め抱きしめた。美羽は麗羽の胸に押し付けられ苦しそうにバタバタと手足を動かしていた。

「美羽さんは昔から本当に恥ずかしがりやさんですわね。最後に会ったのはもういつだったかしら。そうそう、あれは正宗様が黄巾賊討伐のために出征したころでしたわね。あの頃から本当に大きくなって」

 麗羽は美羽を愛犬を愛でるように熱烈な抱擁をした。抱擁を受ける美羽は窒息しそうなのか先程に比べ抵抗が鈍くなってきた。そして、手足がだらりと脱力しているように見えた。

「麗羽、そろそろ美羽を解放しないか。こんな人目の多い所では美羽も大守の体面に関わるじゃないか」

 美羽の危機を察知した正宗は慌てて麗羽を止めた。麗羽に解放された美羽は力無く崩れ、それを正宗が背後から支えるように抱きしめた。麗羽は美羽の状況を不思議そうに眺めていた。

「美羽、大丈夫か?」
「美羽さん、どうしましたの?」

 麗羽は美羽を本当に心配そうに見つめていた。

「麗羽、美羽はお前との久しぶりの再会に感激して疲れたのだろう」

 美羽を心配そうに見つめていた正宗は美羽を両手で抱き上げ、彼女をお姫様抱っこ状態で運びながら騎乗した。その様子を麗羽は羨ましそうに指を加え正宗と美羽のことを見つめていた。

「明命、案内を頼めるか?」
「あっ! はい」

 明命は麗羽の美羽への抱擁を引きつった表情で傍観していたが、正宗の言葉で我に返ると正宗達を宛城に案内するために自分の馬をとりに行った。その後ろを亜莎が慌てて追いかけた。



 現在、正宗達は明命と亜莎の先導で宛城の内部に入った。城門を抜けると人の活気に満ちた城下を目の当たりにした。人の海でごったがえしていたが、事前に城兵達が正宗達の進行を妨げないように交通誘導を行なっていた。
 城兵に誘導され進む正宗達と三千の兵達は宛の民の興味の視線に晒されていた。特に南陽郡大守・美羽と一緒に騎乗している正宗に視線が一番集中していた。視線を向ける者の中にはコソコソと何やら会話をしている者もいた。

「ううん」

 美羽は意識を取り戻したのか虚ろな目を開いた。未だ完全に覚醒しきっていないのだろう。

「美羽、大丈夫か?」

 美羽はゆっくりと周囲を見回し、最後に自分の頭の上を見上げた。

「兄様っ!」

 美羽は驚いた表情で正宗を見た。

「意識が飛んでいたようだな。美羽、麗羽のことを悪く思わないでやってくれ。美羽に会うことができて嬉しかったんだと思う」

 正宗は周りの者に聞こえないように小さな声で美羽に言った。

「兄様が気に病まれることではないです。別に気にしていません。はははは」

 美羽は違和感のある乾いた笑みを表情に浮かべていた。正宗は美羽に罪悪感を覚えたのか、美羽の頭を撫でながら考え込み出した。正宗が視線を空に向けると青空の真上に太陽が上っていた。正宗はそれを見て何か思いついたような表情に変わった。

「美羽、調度昼餉の時間だな。私と美羽の二人だけで昼餉でも食べに行こうか?」
「兄様、本当ですか!?」

 美羽は正宗を元気一杯の期待に満ちた表情で見上げた。正宗が優しい表情で頷くと美羽は凄く嬉しそうな笑みを浮かべた。

「美羽、行きつけの酒家などはあるのか?」
「あります! 高級な店ではありませんが、味は確かな酒家があります。妾もよく明命と亜莎と一緒に行っています」
「そうか。それは楽しみだな。一度、荷物を置いたら一緒に行こうな」
「はい」

 美羽は麗羽に窒息させられそうになったことなど忘れているようだった。

「姉様、兄様と久しぶりにお会いしたので一緒に昼餉をとりたいと思うのです」
「ええ、よろしくてよ。私は冥琳さんと宛の街の賑わいを見物したいと思ってましたから」

 麗羽は美羽に笑顔で快諾した。美羽は機嫌良さそうに鼻歌を歌いだした。そして正宗達は明命の案内で美羽の邸宅に案内され、正宗と美羽は美羽の行きつけの酒家に一緒に出かけるのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧