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ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫

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アインクラッド篇
第一層 偏屈な強さ
  ソードアートの登竜門 その参

 
前書き
 ヒロイン(❓)登場です。私としては彼女のことはヒロインというよりもサブ主人公として捉えていますが。しかし彼女がヒロインじゃないなら私の物語にはヒロインが登場しないことになってしまうので彼女は体裁上ヒロインということで通します。
そういえば小説の常識ができていないとご指摘があったので試験的に色々修正してみましたが、どうでしょうか。突貫工事といわれても仕方ないのでミスが多そうで怖いです。
 あと場面転換に   ◆   を投入しました。
まだ文だけで場面転換をする技術がないのでこれで通します。強引ですね。 

 
 朝八時。

 トールバーナの門をくぐると視界に≪INNER AREA≫という紫色の文字が出現し、ここが安全な街区圏内であることを証明する。途端、俺は空腹のあまりに倒れこみたい衝動に駆られる。体感十二時間(実際には二十四時間)もの時間食事を摂取しないと、現実ほどではないにせよやはり相当の空腹感が溜まるのだ。

 一日食べない程度でここまで疲労するのだから、三日、いや二日以上断食でもしてみたら発狂死するかもしれない。少なくとも俺なら死ぬ自信があった。

 そんな事を考える時間すら苦痛で、俺はトールバーナーの門のすぐ近くにある食事付き宿屋(≪INN≫の看板のない隠れ宿屋だが)に入り込んだ。ここの二階が現在の俺のホーム。他の宿屋と比べれば値は張るが、居住空間も広々としており一階のレストランも無料となり環境としては中々に優秀。しかしとある難点からこの宿屋をホームとするプレイヤーは少ない。

「ただいまー」

 何の返事もないが、閉店というわけではなく、ただ此処のNPC店主が無愛想なだけなので問題ない。

 一階は食事処になっており、勝手にテーブルに座ったら店主がおずおずとやってきてぼそぼそと注文を聞いてくる。それがこの店のルールだった。相変わらず不気味な店だが、味は最高なので俺はいつものメニュー≪ワイルドボアミートスパゲッティ≫を注文する。注文する料理のフルネームを言わないとこの店主はマトモな食事を出してくれない。捻くれ者である。いや、確か設定的には名前の呼ばれ方で店主のやる気が違うのだったか。前に一度、「ボアのミートスパで」と略して言ったら黒くて固くて酸っぱい謎の固形物を食わされた。やる気なさすぎだろう。これも、この宿不人気の理由のひとつだ。
 ちなみに、メニューを指差して「コレください」でもマトモな食事は出てこない。しかも食べ終わるまで店主が席を立たせてくれないので(オレンジ覚悟で無理矢理逃げればなんとかなるが)初見の客は泣くか怒るかむせるかしてこの店から去っていく。

 しかしその点を克服さえすれば、この店はトールバーナ、いや第一層の中でずば抜けて一番おいしい料理を出してくれる。

「ワイルドボアミートスパゲッティ……をください」

 噛んだり料理名を間違えたり、もしくは早口で言い過ぎて『~をください』などの接尾語めいた言葉が店主に料理名と認識されただけでもアウトなので、この注文フェイズは俺のSAO歴の中でも屈指の緊張感が走る。といっても一日二~三回は注文するので緊張自体は珍しくない。さて……。

「おう、ワイルドボアミートスパゲティ……な」

 おお、成功。店主はいつも確認のために料理名を繰り返す。この時料理名が知らない名前だったり繰り返されなかったりすると失敗となり、暗黒物質が出てくる。だがこの暗黒料理から脱出する方法もなくはない。プレイヤーは料理が出るまでのおよそ五秒間の猶予時間に逃げ出すこともできるのだ。
 かくいう今の俺も椅子にこそ座ってはいるが、いつでもダッシュできるように椅子ごと体を出入り口に向けている。この店の常連は皆そうやって臨戦態勢で椅子に腰掛けながら注文を頼むので、初見プレイヤーから見れば何事かと思うことだろう。

 なんてことのない。ただの生きる智慧であった。また、救済措置とも言う。

 そんなことを考えていた五秒後、ワイルドボアミートスパゲティがやってきた。ボアのミートスパとは似ても似つかぬそれは、やっぱりとてもおいしかった。

 食後、不本意ながらも二十四時間ダンジョンに潜伏していた俺はうつらうつらと食堂の椅子に腰掛けている。
 
 念のためアラームをセットし、落ちかけた瞼で窓を見る。あまり綺麗とは言えない窓、その向こう側にはトールバーナの門が見えておりそこから人が出たり入ったりしている。
 時間帯にはいつも俺が起き始める頃の朝。ここが現実ならサラリーマンや学生があの門を出入りしていたのだろうか。しかしここはSAO。あの門の下を歩く人々が現実でどんな職業なのだろうが関係はない。この世界では職業という制度はない。ここでの俺達は誰しもが有象無象、一介の剣士でしかないのだ。窓の向こうでプレイヤー達の出入りが多くなっていた。 
 
 夜型の戻ってきたプレイヤーと朝方の出発しにいくプレイヤー達の対照的な表情が交錯する。

 しかしたった今出発したプレイヤーのほとんどが午後四時にこの街へ集うだろう。
 午後四時に、第一回≪第一層フロアボス攻略会議≫が始まる。何人集まるかはわからないが、できれば俺は多く集まることを望んでいる。既にこのゲームが始まり一ヶ月が経とうとしているが、いまだ殆どのプレイヤーが始まりの街で嘆くばかりで攻略しようというプレイヤーはむしろ少数派だ。少数派はいつも心細い。今俺がやっていることは本当に生きるためなのか。みんなと同じで引き篭もって外からの救出を待ったほうがいいんじゃないか。

 そう思うプレイヤーは少なくないし、実際そうやって前線から身を引くプレイヤーも少なからず居た。少数派のためにも、第一層のフロアボス攻略は必要なことなのだ。実績をあたえなければならない。命を危険に冒してまで上げたレベルは価値のあるものだと。今まで戦って死んでいった仲間達の思想は間違ってはいなかったのだと。

 夢うつつのせいだろうか、久々に真面目なことを考えていると聞き慣れた、しかし珍しい(SE)が聞こえてきた。

 カランカラン。

 店内にプレイヤーが入ってきたのだ。しかも珍しい女性プレイヤー。そのうえ珍しいソロだった。
 
 なにげなしにそちらを見る。しかし女性プレイヤーは俺の視線には気づいていないようだ。いやきっと、気づいてはいるだろうがそういう男性からの視線にはもう慣れっこなのだろう。無視を決め込んでいた。

 彼女の容姿は目を引いた。艶のある黒に近い濃紺色のロングストレート。輪郭に自信があるのか横髪を耳の後ろで流しており、やはりというか輪郭は綺麗なラインで構築されている。目の色も(きらめ)くようなコバルトブルーで、その全身の青色は、涼しげという形容と冷たげという形容の中間に位置する顔の造りとマッチしていた。
 背は女性にしては高く、凛としている。成人のようで未成年のような曖昧な印象を受けるが、『大人びた高校生』が一番しっくりくるだろう。
 服装は青色のコートで思えば片手剣士(ソードマン)であるキリトとよく似た装備だった。キリトと同様に片手剣士御用達のアニールブレードを持っている。だがキリトとは決定的に違う点がある。キリトは盾なしの片手剣という(俺ほどではないが)独特なビルドだったが、彼女はセオリー通り盾を持っている。しかもこの最序盤には珍しいと思われるカイトシールドだ。

 これは相当の実力者ということを示唆しているのではなかろうか。というのも俺は前線で戦う片手剣士の何人かとは会ったことがあるが、あそこまで立派な盾は今まで見たことがない。つまり俺が遭遇した盾持ちの片手剣士の中では装備的には最強、と思っていいだろう。

 最初こそは女性プレイヤーということに注目したが、そのカイトシールドを見て以降はカイトシールドのほうに注目が向いた。

 店内に入って数秒間、青色の彼女は立ち尽くしていたが「いらっしゃいませ」の言葉もない料理店はどうも初めてだったらしく、苦々しい顔をしながら空いているテーブルへ座っていった。

 店内には俺と青色の彼女とお助けNPC(この店の料理を食べる正攻法を教えてくれる)以外には客は居ない。というか普段はNPCを除けば一人もいない。常連も両手で数えるほどしかいないこの店には商売繁盛という観念すらないのだ。この店が潰れないのはただただNPCの店だからに過ぎない。

 うららかな朝日を浴びながら、うつらうつらと『あの盾の防御力とかダメージカット率とか凄そうだなぁ』などと呑気に考えていると、唐突に眠気が消えた。何故だか自分でもわからなかったが次の瞬間、店主の言葉と供に、ただの反射的な正常反応だったということを理解した。

「あいよ……≪コノスパゲッティ≫……な」

―――……あっ!!やばい!!

 無論、この店に≪コノスパゲッティ≫という料理はない。恐らくあの青色の彼女がメニューを指差して「このスパゲッティで」とか言ったに違いない。そして俺がその言葉を聞いて、いつもの癖で反射的に臨戦態勢に入ったのだ。

 この時俺は豪快に椅子を転ばしながら立ち上がり、必死の形相で「危険だ!! 逃げろっ!」と叫んだ。

 しかし唐突に逃げろなんて言われても普通は動かない。青色の彼女も、まず自分に言われたのかどうかを考えたような顔をして、次に言葉の意味を咀嚼したような顔をして、最後に何故そんなことを言ったのかを思案するような顔をして、やっとのことで重い腰を上げた瞬間。

五秒が経過した。

「あーあ……。うっわっなんじゃありゃ! えっげつねぇ……」

 青色の彼女が座るテーブルに運ばれていく店主の盆の上の料理は、依然俺が食べさせられた≪暗黒物質≫ではなく、≪虹色に輝きながら生物的な動きをする流動体≫だった。







「うぇっ……うぅ……ぐぅ……グェッ……ゲェ……」

 蛙の断末魔のごとき鈍い声を出す青色の彼女、もとい名前をインディゴ(相互自己紹介により判明)の前の席に俺は座っている。

 決してナンパ目的だとかではない。というかこんな声を出す女性にナンパする男はいないんじゃないだろうか。俺はただただインディゴが心配で(あと救えなかったという若干の罪悪感で)前の席に座ったのだ。そして心配で座ったのだから俺が女性の泣いている顔を見たがっているサドというわけでもない。

 確かにクールな美少女が悲鳴とも断末魔ともいえない声を出している光景は中々に背徳的だが俺は人格者なのでそんなことで興奮したりしない。

 とはいっても「やっべぇ!見たことねぇ!」と興奮気味に言いながら席に座ったのだから少なくとも野次馬であることは認めるし、サドだと思われても仕方のないことかもしれない。ただしそれは間違いで俺はサドではない。何度でもいう。サドではない。

「あうぅ……ウゲェ……がぁぁぁぁ……」

 カタンとスプーンを取りこぼし、喉を掻き毟る様な仕草をしながら大粒の涙をぽろぽろ流している。この店は圏内なので首を掻き毟ってダメージを受けることはないのだが、見ていてすごく痛々しい。あまりにも(つら)そうなので出切る事なら替わってやりたいぐらいなのだが、この店のシステム上、他の人に出された料理を食べることはできないのだ。本当に可哀相だ。できるなら本当に替わってやりたい。できないけど。

「……同情するよ。その虹色の流動体は常連の俺も初めて見る。もしかしたら低確率で発生する大ハズレなのかもな」

 わざとらしく神妙そうな面持ちで言う俺をインディゴは憎らしそうに睨み付ける。しかしぽろぽろ流れ落ちる涙のせいで迫力は一切ない。

 俺がごく稀に失敗して食べる羽目になる暗黒物質は焦げきったレモンのような味がするが量自体は少ない。せいぜいレモンサイズの固形物だ。しかし今俺の目の前で(うる)んだ瞳でいるインディゴの味覚神経に猛威を振るっている虹色の流動体≪コノスパゲッティ≫はスパゲッティ用の大きな器に並々たっぷり入っている。体積で換算したら暗黒物質の四倍以上の量だろう。それに味も暗黒物質よりもまずい筈だ。暗黒物質のほうは泣くほど不味い料理ではない。

 気の毒に思いながらも冷静に≪コノスパゲッティ≫についての情報を纏めていると、インディゴは言葉を粗雑に投げかけてきた。

「ぐぅ……もっと……喋りなさいよ……気が……紛れるから……」
「お、おう。じゃあ喋らせてもらおうかな」

 話したいことは、実はある。俺がこの席に座ったのはただの野次馬というだけではない。ひとつ知りたい情報があったからだ。その情報は俺に必要のない情報ではあるが、いかんせん、一人のMMOジャンキーとして知っておきたいことだった。

「そのカイトシールド、どこで手に入れたんだ? 俺、色々情報集めてるけどそんなの知らないぞ?」
「……これはね、≪亜人の騎士≫っていうクエストのボスドロップ品よ……ついさっき即席パーティー組んで……運良く……」

 そこまで言って口にスパゲッティ(のような物)を含む。十数秒の間、苦悶の表情を出したり引っ込めたりしたあと、言葉を続けた。

「……六度目のチャレンジのラストヒットボーナスでドロップ。ほかに持ってる人はいなかったからレアドロップでしょうね」
「六度目!? もしかして君って超強い?」
「……これには負けるけどね」

 そういって口にスパゲッティ(ではない謎のなにか)を含む。苦しさのあまりか拳をテーブルに何度か弱弱しく叩きつける。

「まぁ……次からは気をつけろよ……店主のこだわりのせいでこの料理店は料理のフルネーム言わないとマトモなのは出てこないから……」
「それ、頼む前にいって欲しかったわ……」
「寝オチ……いや、寝ぼけててさ……まぁ……ドンマイ……」

 知りたいことも知ったし、離席しようかなぁ、なんて思ったが特に用事もなく眠気も吹き飛んでいた俺は食事を最後まで鑑賞することにした。

 一時間後、俺の予想の半分の時間でインディゴは完食した。大した精神力だ。野次馬である俺としては、なにかねぎらいの言葉をかけるべきだろう。

「まぁこういうのものRPG醍醐味だよなぁ」

 ねぎらいの言葉なんか出るわけがなかった。出てきたのはゲーマー特有の負け惜しみ定型文だった。

「賛同しかねるわ……というかなんでこんなに不味いものがあるのよ……おいしいものだけでいいじゃない……」
「あ~、聞いた話によると食事のデータはどっかの会社からの貰い物らしい。多分だが、その中にマズい味のデータがあってSAOスタッフが『使わなければ勿体無いよね』とか言って適当にぶち込んだんじゃないか? もともとゲームとしてのSAOで食事なんてあまりしないだろうし、それでよかったんだろうな」

 俺の言葉にインディゴは少し反応に困るように顔を歪めたのち、ひとつ深く息吸い込んで声を出した。

「おいしい店だった……って聞いたから来たのに……ホント損したわ……ハァー」
「えぇ……それは嘘吐かれたな。いやただ単に教えてくれたソイツが幸運だったのかもな」
「優しそうな人だったんだけどなぁ。まったく。これからは誰も信じれないわね」
「かはは、最早SAOでは騙し騙されなんて醍醐味のひとつだろ。こんなもんかわいいもんさ」

 そういうと青色ナイト装備の彼女は首を横にゆっくり大きく振った。否定の意思のようだ。

「違うわ。醍醐味は不味い料理を食べることじゃないわ。もっと王道で、もっと格好のつくものでしょう」
「ふーん、例えば?」

 俺の言葉にインディゴのコバルトブルーの目はスッと細くなった。口元の僅かな緩みを見て取れた。

「もちろん、ボス攻略戦、とかね」

 彼女のゆったりとした言葉に俺は思わずクックックと、深く笑った。
 
 

 
後書き
 あやうく六千字を切るところでした。ふぅ、危ない危ない。
 今回登場した彼女、インディゴですが砕けた感じで解説します。
 彼女、目の色がコバルトブルーなんですよね。この事についてですがゲーム開始当時にカラコン付けてたことにします。これに関してはまったくの偶然です。あまり気にしなくてもいいですね。
 あと彼女の容姿は基本濃い青です。ゲームなので彼女も外見に関してははっちゃけているんですよ。髪を染める大学生みたいなものですね。
 彼女の登場シーンをなんで不味い料理をつらそうに食べてるシーンにしたのかは今では謎です。ごめんねインディゴさん。
 あと装備ですが所謂ナイト装備です。強そうですね。私はゲームではタンクがとても好きなのですがSAOだとあまりそういうプレイヤーにスポットライトが当たりません。ですので彼女はタンキーな装備になっていくような予感がしますよ。珍しいですねタンク系女子。

 藍色の彼女ことインディゴについては以上です。

 ではまた。 
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