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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第十三話

 セモンがコハク、ハザードから聞いたのは、あの日、《白亜宮》に踏み込んだ後の出来事だった。

「そうか……ごめん、大変な時に迷惑かけたな」
「ううん、良いわよ。清文が戻ってきたんだから、それで……」

 コハクが優しく接してくれるのがうれしい。SAO時代は冷たかった彼女だが、最近は甘すぎるのではないか、とセモン自身が思うほど優しく接してくれるようになった。こんな素晴らしい人に長い間寂しい思いをさせていたのか、と思うと、セモンは愕然とした気持ちになる。

「琥珀」
「……?清文……?」

 コハクをぎゅっと抱きしめる。細い彼女の体は、強く力を入れればすぐに壊れてしまいそうだ。そんな体に、強い意志が宿っている。

 彼女のことを、これからずっと守るのだ。自分が、この手で。

「……お楽しみのところ申し訳ないが、そろそろ先に進まないか……」

 はじかれるように後ろを見ると、壁に寄りかかっていたハザードが目を開けていた。ついさっきまで眠っていたと思ったのに、切り替えが早い奴である。

「ああ……ごめん」
「別にいい。それよりも、この先に何があるのか、お前は知っているのか?」
「……」

 ハザードの問いに、セモンは少し考え込む。

 以前ここに来た時のことを、思い出すのだ――――

「……ここに来た時、《イクス・アギオンス》っていう名字の奴らに襲われた。《七剣王》って名乗ってたと思う……あの時はカズ達が戦ったんだけど……その間に、俺は《白亜宮》の最奥部で、《主》っていう奴に会ってきた――――陰斗と、同じ顔をしてた」
「――――!? 同じ顔、だと!?」

 驚愕にひきつるハザード。セモンも同じ気分を味わった。

「それだけじゃない。ここには、刹那と同じ顔の奴も何人かいる」
「それはもう見た。しかし……シャノンと同じ顔か……」

 まずいな、と呟くハザード。

「今、シャノンと刹那が《白亜宮》内を先行している」
「な……!?……マズイ!」

 ハザードが告げた事実。それは、セモンを焦らせるのに十分なものだった。

 シャノンこと天宮陰斗は、一部の例外を除いて『自分と同じ特性をもった存在』をひどく嫌う。これは彼にとって、「自らの持つ技能は唯一であり、自分は絶対である」という信念を覆すことだからだ。
 
 そして《主》はシャノンと同じ顔。彼とは、すごぶる相性が悪かった。

「この城の中の事象は、全部アイツにコントロールされてる……たぶん、もうシャノンは辿り着いてる!」
「まずいぞ……何を起こすか分かったもんじゃない!」

 急がなくてはならない。だが、《主》がどこにいるのか分からない――――

 ――――その瞬間だった。

 セモンの脳裏に、奇妙な光景が浮かんだのは。

 それは、一本の線だった。光でできた、ほそい、ほそい、糸のような線。それは曲がりくねり、何かを示すかのようにつづいていく――――

「……こっちだ」
「セモン? ……ちょっと!」

 コハクの制止を聞かずに、セモンは走り出す。

 この線は――――《主》への場所を、指示している!


 ***


「チックショウ!開けよ!開けよオイ!!」

 ずがぁん、ずがぁん、というひどい音を立てて、双巨剣が純白の扉をたたく。しかし扉は微動だにしない。まるでシャノンの侵入を拒むように。嫌がるように。

 一撃が無意味だったと悟ったシャノンは、巨剣に真紅と黄金のエフェクトライトを宿らせる。《帝王剣》ソードスキル、《ヘリオ・プロメテウス》と《シャマシュ・アポロニア》が同時に発動し、扉を破壊せんと荒ぶる。

 それでも、扉は開かない。

 再び彼がその双巨剣を振り回そうと構えた時。

「お兄様、落ち着いてください……!」
「はぁ……はぁ……くそっ……」

 どうやら自我を取り戻したらしい刹那が歩み寄り、シャノンをなだめた。シャノンはそれで少し理性を取り戻したのか、巨剣を振り回すのをやめる。必至で暴走を止めようとしているのか、肩で息をするシャノン。

 それが、セモン達が彼らのもとに辿り着いた時の光景だった。

「シャノン! 刹那!」
「……誰かと思ったらセモンか。ハザードにコハクも……どうやら無事復活したっぽいね……」

 不機嫌そうな表情でこちらを見てくるシャノン。彼の悪い癖だ。自分の思い通りに世界が進まないと、すぐに不機嫌になる。

 精神の不安定さ。シャノンに見える危うい局面の一つ。

「どうしたんだ?」
「開かないんだよ。この扉が。他ならないこの僕が来ているというのに……」

 シャノンはますます不機嫌そうな表情になって、叫ぶ。

「もうすぐなんだ!もうすぐそこまで迫ってる……!僕のための力が!」
「落ち着け!シャノン」

 ハザードが彼を鎮めようと手を伸ばす。

「うるさい!」

 シャノンはその手をはたく。こんな状況だが、見事な一撃だ、と感嘆してしまう。リアルのシャノンにはあんな動きはできない。

「ぐっ!?」

 ハザードが顔をしかめた。どうやら激痛が走っているらしい――

「……なんて力の強さだ。何が起こっている……?」
「もしかして、シャノンも《主》の干渉を受けてるのか……?」

 セモンはなんとなく感じたことを呟いた。

 セモンはつい先ほどまで、《主》の使用した幻覚に精神操作をされて、コハクに剣を向け、ハザードと壮絶な一騎打ちを演じた。ハザードの言うところによれば、それによってセモンの実力は高まっていたらしい。

 それと同様の事が、シャノンにも起きている可能性がある。

 シャノンの精神は不安定だ。自負心の塊だ。「自分が強い」と思っている人間ほど、マインドコントロールを受けやすい。加えて、シャノンは《主》と同じ顔をしている。つまりは…程度は分からないが…彼は《主》に近しい存在なのだ。

 《主》の強い干渉を受けていても、何ら不思議なことはない。

『まぁ、似た様なものかな』

 
 ――――その時、その声が響いた。

『やぁ、セモン。目を覚ましたんだね。ちょっと残念だよ』
「《主》……!」
『ハザードにコハク、それに僕の触覚に刹那までいるのか……待ちたまえ、今開けるよ』

 まるで友達を家に招待した時のような砕けた口ぶりで、《主》は声だけをこちらに届かせる。直後、シャノンがあれだけ叩いても傷一つつかず、全く開くそぶりを見せなかった扉が、あっさりと開いた。

 真っ先に駆け込んだのはシャノン。追随して刹那。彼らを追って、セモン、コハク、ハザードの順に中に入る。

 
 《玉座》の光景は以前とは違うものだった。


 広い。以前も非常に広い空間だったが、今回はそれを余裕で凌駕する広さだ。天井が見えない。中央に敷かれた()()いカーペットを伝って言ったその先に、あの純白の《神》が座していた。

「何だと……」
「本当に、シャノンと同じ顔……」

 ハザードと琥珀が呆然と呟く。

 その声を聞いて、《主》はにやり、と嗤った。

「初めまして、そして久しぶり。ようこそ《白亜宮》へ。ハザード、コハク、セモン。そして僕の代替と、刹那」

 代替――――身代わり。スペア。

 その言葉に、セモンは言い知れない嫌悪感を抱いた。以前も思ったが、どうやらセモンはこの《神》とはそりが合わない。親友と同じ顔をしているからだろうか。

「代替……だと……!?」

 憎悪あらわに怒鳴ったのは、シャノンだ。自らのを貶められたと思ったのだろう。彼は双巨剣を抜き放つ。

「ふざけるな! 僕は唯一だ! どうして君が僕と同じ顔をしているのかは知らないが、それは絶対だ!」

 だが《主》はその言葉に苦笑して、首を左右に振った。

「唯一?いいや、違うね。そもそも、《この世》というありとあらゆるところに、絶対の《唯一》など存在しない。なるほど、僕は確かに自分が唯一絶対の存在だと思っているが、もしかしたらどこかに僕と同等の力をもった《神》がいるかもしれない――――まぁ、塗りつぶすだけだけど」

 そうして彼はシャノンから目をはなし、セモンを見る。

「やぁ、セモン。おめでとう、君は呪縛に打ち勝った。これは素晴らしい事だ――――今まで呪縛に耐えられた人間は二人しかいないんだよ。《ユニット》の分際で耐え切ったのは、君だけだ」

 拍手をする《主》。セモンは彼の言葉の一つに言い得ぬ嫌悪感を感じ、《主》を睨み付ける。

(ユニット)……だと?」
「そ。僕の意思の通りに動く、僕の世界の住人達」
「吐き気がするな――――お前は俺達をモルモットのようにしか見ていない」

 ハザードもまた、《主》をにらむ。だが《主》は動じない。まるで、その言葉が掛けられるのは当然だ、と思ていたとばかりに、次の言葉を紡ぎだした。

「そうだね。だが同時に違う。
 僕は君達に期待しているんだ。もし君達が僕の想像を超えたところまで行ければ、それはとても愉快なことだ。残念ながら現在のところ、人類は全く僕の望んだとおりに進んでくれている――――つまり、僕の法則から脱せていない」

 《主》は座っていた玉座から立ち上がると、鷹揚に両手を広げて、さらなる続きを放った。

「今回の《仮想世界侵攻》はね、人類がそれにどう対処するかを見るためのモノなんだ。僕の予想を裏切った対処方法を取ってくれればそれでよし……ただ、残念ながら誰も僕の意思に反しない。僕の意思を裏切ってばかりの存在は嫌いだけど、時には反乱してくれなきゃ。
 安心してくれたまえ。君たちがもし《ダメ》だったとしても、ユビパッチン一つで消したりはしないよ。だってつまらないだろう?せっかくここまで創ってきた存在を、あっさり消しちゃうなんてさ」

 それは、間違いなく神の言葉だった。超越したところから、唯々、自分の箱庭を見つめる、神の言葉。

 そんなものを、許すわけがない存在が、ここに居る。

「ふざけるな……!僕より上位の存在だなどと、許さないぞ!」

 シャノンだった。彼は今度こそ双巨剣を構えると、《主》に向かって突進する。いつの間にかビットが装着されて鋸状になった刀身には、爆発的な黄金のエフェクトライトが宿っている。

 《太陽剣》《帝王剣》複合ソードスキル、《アメンラー・インティカ》。

 SAO、ALO――――ソードスキルの存在する世界で、最高の破壊力を誇る剣技が、《主》を打斃さんと迫る。

 だが純白の少年神は、欠伸をかみ殺して呟いた。

「……受けてやるまでもないよ……グリヴィネ」
「はい、お兄様」

 そして、その存在が降臨する。

 がきぃん!という激しい音を立てて、シャノンの刀身が弾かれた。返す一撃で、シャノンの胴を打ち、彼を吹き飛ばす。

「ごはっ!?」

 奇しくも以前、《主》に切りかかったセモンと同じような声を上げ、シャノンは地面に墜落した。信じられない――――シャノンを、こうも簡単に吹き飛ばすなんて。

「お疲れ様。悪かったね」
「いえ。お兄様の安全が第一ですからっ!」

 《主》のねぎらいに笑顔で答えるのは、同じく白い女性。天宮刹那と同じ顔をしたその存在は、《主》の眷属を取りまとめる王妃――――

「グリーヴィネスシャドウ……!」

 グリーヴィネスシャドウ・イクス・アギオンス・アンリマユが、姿を現した。セモンの呟きに反応して、彼女がこちらを振り向く。しかしその視線は、セモンには注がれず、代わりに呆然と立っていた刹那に注がれる。

 にっこり、と笑う、グリヴィネ。

「あ……」

 刹那が、悲鳴のような声を漏らした。それを見て、少年神が追い打ちをかける。

「どうだい?刹那。君と同じ顔の存在をみた感想は?……もちろん、オリジナルはこっちのグリヴィネだよ」
「あ、ああ、あああ……」

 がく、がく、と刹那が震えはじめる。そんな妹をなだめるかのように、シャノンがゆらり、と立ち上がり、引き絞るような声を出す。

「惑わされるな、刹那……僕たちは唯一だ……!」
「何を言っているのか。まぁ、僕の代替、君に関しては唯一と言ってあげてもいい。けど――――刹那は違うな。証拠、見せてあげようか?」

 にやり、と嗤って、《主》は空を仰ぐ。その両目が、()()く光った。

「どうせなら、『この世界』に沿った奴らを呼ぼうじゃないか!『ユニットID【グリーア・イクス・アギオンス・マスプロダクト】、イクセシスナンバー13から26までをコール』!」

 直後。

 《主》のすぐ隣に、十三組の二重光輪が出現する。それぞれが違う色。漆黒と白、赤と白、若草色と濃緑、紺碧と黄、赤と黒、橙と赤銅、黄緑と白、銀と群青、赤と銀、蒼と白、山吹色と黄――――そして、銀と緑に、蒼と群青――――

 その色は、《彼女たち》が纏うマフラーと、同じ色。

 光輪の中から出現したのは、刹那と同じ顔の少女たち。違いはマフラーの色と、瞳が()()色であること、そして、装備している武器――――

 それは、セモン達にも大いに見覚えのある武器だった。

「SAOの……ユニークスキルホルダー専用装備だと……!?馬鹿な、俺の知らない武器まで存在している……!」

 ハザードがうめく。それに答えるかのように、《主》はにやり、と笑みを浮かべ、言った。

「彼女たちはね、刹那と同じ、《グリーア型》のユニットだ。イクセシスナンバーと言って、他の世界の干渉を受けている。当然、君達の世界……『神話剣の世界』の干渉をね。《二刀流》、《神聖剣》《神話剣》《妖魔槍》《獣聖》《帝王剣》《太陽剣》《流星拳》《舞刀》《星衝剣》《三日月弓》《武神六椀》《SO-TENN-KENN》。これは君たちの世界における、《ソードアート・オンライン》に用意された十三のユニークスキルの名称だ。ここに居るグリーア達は、全員が一人ずつ、それを所有している」

 無表情のままで、グリーア達は敵対者を見つめる。

「ああ、ああ、ああああ……」

 刹那が、遂に膝を屈した。

「あああああああああッ!!!」

 頭を抱えて絶叫する刹那。自らと同じ存在がいる、という事実に、彼女もまた、耐え切れない。

「そう、刹那。君もまた、《グリーア》だ。グリーア・イクス・アギオンス・オブザーバゼロ。《観測者》の役割を与えられた最初の一体」
「――――違う!刹那は人間だ!」

 それでも。

 どれだけの事実が、目の前に存在しても。覆しようのない神の言葉が降り注いでも。

 それでも、大切な人のためにあがく。刹那は仲間だ。彼女は、シャノンの妹。セモン達《聖剣騎士団》の、大切な仲間なのだ。

「そう、違う!!断じて否だ!!」

 セモンの叫びに、後を押されたかのように、シャノンが絶叫する。そこにあったのは、己の内側だけに向いた世界を、他人と共有できるようになった、かつてとは違う、親友の姿。 

「違う。そいつらは刹那じゃない。刹那は、そいつらじゃない。僕の刹那は一人だけだ。天宮刹那は――――僕の妹は、たった一人だけ。一人いるのなら、もういらない。なぜならば、唯一であるのだから。絶対なのだから。
 僕と同じ顔のお前が、何度否定しても、僕が同時に何度でも否定する」

 シャノンは、《主》を睨み付けて、叫んだ。

「刹那は!僕の愛する天宮刹那は!たった一人だけだ!僕達は唯一!お前の代替などではない!」

 刹那を、抱きしめて。仮想世界の異常存在は、神へと、ケンカを吹っ掛けた。

「……素晴らしいね。予想した以上だ――――敬意を(ひょう)そう。君達に、彼女たちと戦う権利を与えてあげる。――――演奏準備(ゴスペル・スタンバイ)

 ゆらり、と《主》の右腕が掲げられる。同時に、各々の武器を構えるグリーア。

「――――《開始(オーベルテューレ)》!!」 
 

 
後書き
 どうもお久しぶりです、Askaです。今回は刹那たんのさらなる正体が明らかになる、ボス戦前哨戦でした。
刹「コハクさんが……ヒロインなのに完全に空気……」
 仕方ない。あいつ基本出番無いから。

 そんなわけで次回はハクガ達あたりに視点を動かそうと思います。 
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