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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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StrikerS編
  78話:そのトラウマを乗り越えろ

 
前書き

たいへん遅くなってしまいました。ツイッターで昨日ぐらいに上げられるなんて言っておきながら……
 

 
 




現在俺達は、現場に向かうヘリの中。ミッドの市街地を過ぎ、だいぶ山岳地帯に近づいてきた頃だ。

『ガジェット反応!空から!?』
『航空型、現地観測隊を捕捉!』

その時、六課のロングアーチから緊急連絡が入る。空からの強襲か……

『士副部隊長、どうしますか?』
「どうするも何も、今の戦力で空でまともに戦えるのは、なのはとフェイトだけだ。二人に任せるしかない」
『私は今パーキングに着いた。すぐに空に上がれるよ』
「私もいける!」

グリフィスの言葉に一言返すと、フェイトとなのはがやる気十分といった感じのことを言ってきた。なんともまぁ、頼りになるねぇ。

「じゃあ二人共、頼む」
「了解!ヴァイス君、ハッチ開けて!」
「うっす!なのはさん、お願いします!」

なのはの指示で操縦士のヴァイスがヘリのハッチを開ける。その影響で、中に風が吹き込んでくる。

「じゃ、ちょっと出てくけど、皆も頑張ってズバッとやっつけちゃお!」
「「「はい!」」」
「…はい!」

少しだけタイミングがズレて返事をしたキャロを見て、なのははこちらに視線を向けてきた。俺は「言いたければどうぞ」とアイコンタクトを送り、一旦ヘリのイスに座った。

「キャロ?」
「っ…」
「大丈夫、そんなに緊張しなくても。離れてても、通信で繋がってる。一人じゃないから、ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから……ね?」

キャロの頬に触りながら、諭すように言うなのは。キャロは「はい…」と小さく返事を返す。
なのははその返事を聞くと満足したように頷いて、今度は俺に顔を向けてきた。

「それじゃあ、こっちの事は任せたよ」
「あぁ、こいつらも大切な俺の部下だからな。死なせるような事はしねぇよ」

それなら安心、と笑顔でそう言い残し、なのははヘリから飛び降りていった。……って、飛び降りかよっ!?
そして飛び降りていったなのはは桃色の光に包まれ、そこからバリアジャケットを着た状態で飛び出していった。

「スターズ1、高町なのは―――行きますっ!」

おぉ、派手だね~。しかし…別に飛び降りなくても……
それはさておき、こっちも仕事だ。

「任務は二つ。ガジェットを逃走させずに全機破壊する事、そしてレリックを安全に確保する事」
「よって、今回はスターズとライトニングで分かれて、車両の前後から中央に向かっていくことになる。
 その途中でガジェットを破壊していき、第七車両にあるレリックをどちらかで確保する、という感じだ」
「「「「はい!」」」」
「でっ!」

リインが説明中に言葉を切り、回転しながらバリアジャケット―――もとい騎士服を展開する。

「私は現場に降りて、管制を担当するです!」
「んで、俺はヘリで指揮と非常事態への対応が主だ。現場は頼むぜ」
「「「「はい!」」」」

返事を返した四人は、それぞれ自分の新しいデバイスを見つめたり、少し緊張した面持ちでじっとしていた。

「…キャロ、今いいか?」
「は、はいっ!」

その中で、両手を握って若干俯いていたキャロを呼ぶ。キャロは何か考え事をしていたのか、ビクッと驚いてこっちへやってきた。
まぁ、考えていた事はおおよそわかるけどな。やってきたキャロを隣のイスに座らせて、その目をのぞき込む。

「…怖いか?」
「っ…」
「自分の、味方をも傷つけてしまう、その力が」

キャロはその言葉に、顔を俯かせる。直前で見えたキャロの目には、確かに不安と…恐怖の色が浮かんでいた。

「はい……でも、士さんが言ってくれた事を、忘れた訳じゃないです」
「ん…?」
「私の力は、傷つけるだけじゃなくて、誰かを守る事もできるって」

うん…確かに言った。

「だから私は、怖いけど……ちゃんと守れるって…」

そう言って俺を見上げるキャロの顔には、前途の二つの他に、別の感情が見て取れた。それは不安や恐怖といった負の感情じゃなかった。
キャロは今、前を見ようとしている。過去に起きた事で後ろへ歩くのではなく、それでも前に……未来に進もうとしている。

「ん、わかった」

俺はそう言って、キャロの頭を撫でる。撫でられたキャロはきょとんとした様子でこちらを見上げてきた。

「ちょっと危なそうだったら、戦線から外すつもりでいたんだが…そういう想いがあるなら、大丈夫だろう。だけど忘れるな。なのはもさっき言ってたように、俺達はいつでも側にいる。お前の力は、皆を守れる優しい力だ」
「…はい」
「大丈夫、お前は強いよ」

それを聞いたキャロは再び「はい…」と言うと、またも顔を俯かせてしまう。しかしその両手は強く握られていて、キャロの決意の強さを物語っていた。

「ま、気負いはするなよ。リラックスリラックス」
「は、はい…!」
「さ~て新人共、隊長さん達が空を抑えてくれているおかげで、安全無事に降下ポイントに到着だ。準備はいいか!?」
「もう着いたか…ほら、キャロ。行って来い」
「はい!」

席を立ったキャロは揺れるヘリの中を走って行き、エリオとフリードがいるところに向かっていった。
ヘリの開け放たれたハッチのところに、スバルとティアナの二人が立っていた。

「スターズ3、スバル・ナカジマ!」
「スターズ4、ティアナ・ランスター!」

「「行きます!」」

一緒に飛び降りて行った二人は、その途中でデバイスを起動。バリアジャケットを展開する。あ~ぁ、だから言わんこっちゃない。部下がマネしちまった。
そう思っている間に、ヘリは別の降下ポイントへと到着した。

「次、ライトニング!チビ共、気ぃつけてな!」
「「はい!」」

元気のいい返事を返して、エリオとキャロはハッチ前に立つ。
エリオはふと隣に立つキャロの顔を見た。その表情には不安の色が見えた。

「…一緒に降りようか?」
「え…?」

それを見たエリオは、優しい顔で手を差し伸べた。キャロは少し戸惑いながらも、「うん!」と答え手を取った。

「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリード・リヒ!」
「キュク~!」

「「行きます!」」

ヘリから飛んだ二人は先の二人やなのはと同様、空中でデバイスを起動、バリアジャケットを展開。リニアレールの上に着地する。

「それじゃあ士さん、こちらは任せるですよ?」
「おう。そっちも管制の方、頼んだぜ?」
「はいです!」

リインも元気いい返事を敬礼と共にし、四人の元へ―――正確にはエリオとキャロの元へと向かった。
上から見ているが、四人は自分のバリアジャケットを見て喜んでいたりするようだ。見にくいからサーチャーでも飛ばしとくか。

まぁ、それはそれとして……

「ほら四人共、感心するのはいいがお仕事お仕事!早速来るぞ~!」
『『『『っ!?』』』』

俺がそう促すと、四人も察してか気を引き締めるようにデバイスを構えた。
最初に動きがあったのは、スターズ側。列車の天井が盛り上がり、そこから数本の攻撃が飛び出す。

〈〈 Drive Ignition 〉〉
〈 Variable Barret 〉
『シューーートッ!』

それに対し二人のデバイスが即座に声を上げる。ティアナは片手に持つデバイス―――クロスミラージュの銃口を向け、魔力弾を形成。それを打ち出して、ガジェットを数体撃破する。

そして先程開けられた天井からスバルが突入し、丁度落下地点にいたガジェットを一体殴り潰した。
スバルはそのまま敵の攻撃をかいくぐりながらガジェットを殲滅。攻撃の勢いで天井を完全に破って飛び出したりもしたが、そこは彼女のデバイス―――マッハキャリバーがウィングロードを自発的に発動し、うまく着地させた。


うん、まぁ見たところ大丈夫のようだな。マッハキャリバーの機能もしっかりできてるし、あれならスバルもかなり楽に動ける筈だ。
ティアナの方もクロスミラージュのおかげで、二重の魔力弾の精製に時間がかからなくなってる。

とは言っても、それらは全部デバイスのおかげだ。二人共元は自作のデバイスだったから、かなり違いがあると思うが、厳しいことを言うならそれをちゃんと扱えなきゃ意味がない。

エリオ達のデバイスは前の物とだいたい同じだから、勝手は分かっているがスバル達とは違って経験が浅い。戦いに不慣れながら、ガジェットを倒していく。
見てて確かに不安にはなるが、ここで俺が手を出す訳には行かない。どこまでやれるか、見させてもらおう。

『士さん、一両目のガジェットを倒しました!』
「了解。リニアの制御はどうだ?」
『ダメですね……ケーブルを破壊しても変化なしです』
「わかった、そっちはリインに任せる。頼めるか?」
『勿論です!』
「ティアナはそのまま進んでスバルと合流、その後ガジェットを殲滅しながらレリックの確保だ」
『了解!』

下の様子がわかりやすいように、四人がマークされてるモニターを展開。スバルは四両目で戦闘中、ライトニングは十一両目を突破…と、ティアナが合流したな。
それを確認するとすぐ、ロングアーチから連絡が入る。空の二人は制空権を獲得し、追撃に移るとのこと。ついでに本部にはやてが帰ってきたことも伝えられた。

『ライトニングF、八両目突入!―――っ、エンカウント!新型です!』

マズいな、よりにもよってライトニングの方が当たったか。これは、加勢するべきか?
そう思ってハッチから外の様子を伺う。フリードの火球も弾き返され、エリオの攻撃も受け止めている。相当固そうだ。

そのとき、ガジェットがAMFが発動。斬りかかっていたエリオは勿論、離れていたキャロもその影響を受けた。

「エリオ、加勢する!もう少し堪えろ!」
『だ、大丈夫です!まだやれます!』
「だが…!」

するとサーチャーの映像で、新型ガジェットが動きを見せる。エリオはそれを察知して飛び上がって回避する。
しかしガジェットの攻撃はエリオの動きを追い、天井にまっすぐな穴を開ける。

『くっ―――うあぁ!?』
「エリオ!」

サーチャーの映像ではエリオが攻撃をかわしきれず、壁に叩きつけられていた。このままじゃマズい!

「ヴァイス、今すぐ車両にヘリを寄せてくれ!」
『やってますが、いつ流れ弾が飛んでくるか…!』
「なら高度は気にするな!とにかく真上に行け!」
『う、うすっ!』

ヴァイスが返事をすると、ヘリは上昇する。しかしその途中で腕のような物を巻かれたエリオが車両から現れ、外に放り出された。
あの感じだと、エリオは気を失っている!マズいぞあれは!そう思い俺はトリスを待機状態からディケイドライバーへ変える。

「はやて、ライダーを使用する!飛行許可を―――」

しかしドライバーを腰に付けようとしながらその言葉を言い切る前に、キャロがエリオの後を追うように飛び出した。
これには驚いたが、はやてとなのはは心配していない。あれができる状況だとは言え、本当に大丈夫なのか?
そう思っていると、なのはから通信が繋がった。

『士君は大丈夫だって判断してキャロを送り出したんでしょ?』
「っ、なのは…」
『だったら少しは信じてあげて。キャロの強さを』

……なのはの言うことはもっともだな。いつの間にか、心配し過ぎていたか。
キャロのあの言葉を信じたから、あの想いを感じたから背中を押して送り出したんだ。だったら最後まで信じてやらなきゃな。

そう思っていると、サーチャーの映像にキャロとエリオの姿が映った。

「キャロ、大丈夫か?」
『は、はい!エリオ君は私に、任せてください!ちゃんと―――守ります!』
「…わかった、頼んだぞ!」
『はいッ!』

キャロはそう返事を返すと同時に、落下していくエリオの手を掴んだ。そして二人はピンク色の光に包まれ、落下速度が落ちた。

さぁ、見せてもらうぞ。お前の……想いを。










今目の前で落ちて行っているエリオ君。私と同じフェイトさんの保護児童だと聞いているけど、実際はあまりそういう話はしていない。

でも、エリオ君が優しい人だってことはわかる。
最初に出会ったあの時、エスカレーターから足を踏み外した私を、エリオ君は助けてくれた。さっきもそう。怖がる私に手を差し伸べてくれた。笑いかけてくれた。

スバルさんやティアナさん、六課の人達もそうだ。訓練で疲れた時に笑いかけてくれた、励ましてくれた。

そんな人達がいっぱいいるこの場所が、私の新しい『居場所』。私が望んで得ようとした『居場所』。
出会って時間もあまり経っていないから、まだちゃんとした『居場所』とは言えないかもしれない。でもここは私が望んだ、私がいたいと思う『居場所』だ。

『キャロ、大丈夫か?』
「は、はい!エリオ君は私に任せてください!」

だから、この新しい『居場所』を……優しい人を、私に笑いかけてくれる人達を……

「ちゃんと―――」

自分の手で、私の……力で!


「守ります!」


―――守りたいッ!!


〈 Drive Ignition 〉

落下するエリオ君の手を掴んだ瞬間、ケリュケイオンが光を放った。
その光は私とエリオ君を包み込み、落下速度が落ちる。私は気を失っているエリオ君を引き寄せて、優しく抱きしめた。

「キュク~!」

フリードも私の前まで飛んで来てくれた。いつも竜召喚のときに、フリードには苦しい思いをさせてしまっていた。

「フリード、不自由な思いさせててゴメン……私、ちゃんと制御するから!行くよ……〝竜魂召喚〟!」

私達を包む光は更に輝きを増し、足元には正方形の召喚魔法陣を展開する。

「『蒼穹を走る白き閃光…我が翼となり、天を駆けよ!』」

詠唱を始めて、召喚魔法陣からは大きな翼が出てきて、その翼をはためかせる。
同時にケリュケイオンの光が増す。

「来よ、我が竜フリードリヒ―――〝竜魂召喚〟!!」

そして遂に、召喚魔法陣からフリードの本来の姿、〝白銀の竜〟が姿を現した。
フリードリヒは私達を包む光を突き破り、雄叫びを上げながら私達を乗せて翼を打つ。

できた……フリードを制御できた…!これが、私の…力!
ちゃんと、皆を守れる力!










フリードが一回りも二回りも大きい竜へと変わり、キャロとエリオを乗せ列車を追うように飛んでいく。あれがフリードの本来の姿……

「すげぇ…すげぇじゃんよ、キャロ」

笑みを浮かべながら、俺は言葉を漏らす。これがキャロの力、『竜召喚』の一端か。
フリードが飛んでいくその先に、列車の天井から新型ガジェットが出てくる。それに対し、キャロはフリードに指示を与える。

『フリード、ブラストレイ!―――ファイア!』

フリードの炎の砲撃が放たれ、新型ガジェットに命中する。しかし防壁か何か張っていて、しかも球体の形状が影響してか、フリードの砲撃を耐え切った。
あれでもダメなのか…!

しかしキャロとエリオはそれに物怖じせず、別の攻撃に切り替えた。

『我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を!』
〈 Enchant Field Invande 〉
『猛きその身に、力を与える祈りの光を!』
〈 Boost Up Strike Power 〉
『行くよ、エリオ君!』
『了解、キャロ!』

フリードから飛び出したエリオは、まっすぐに新型ガジェットへ向かう。

『ツインブースト!スラッシュ&ストライク!』
〈 Empfang.(受諾) 〉

そこへキャロの魔法が放たれ、エリオとストラーダへと力を与える。
新型ガジェットはまっすぐ突っ込んでくるエリオに対し、腕のような物やケーブルを伸ばしてくる。
『はああぁぁぁぁ!!』
〈 Stahlmesser 〉

しかしキャロから強化された攻撃力を持ってそれらを破壊し、列車へと着地した。

〈 Explosion 〉
『一閃必中!』

着地したエリオはカートリッジを使用、一気に突っ込み新型ガジェットを切り裂いた。

エリオの背後でガジェットは爆破し、結果車両内のガジェットの全てが破壊されたことをロングアーチから報告がされた。
それと同時に、スターズの二人がレリックを確保したと報告された。

「これにて、一件落着…か」

ふぅ、と息を吐き、肩の力を抜く。フォワードの皆は、本当によくやってくれたな。
帰ったら飯でも作ってやろうかな……



しかし、事件はまだ終わりではなかった。



『っ、崖の上から列車に向かう生命反応!まっすぐにレリックの方向へ進んでいます!』
「生命反応…?ガジェットじゃないのか!?」
『ガジェットとは明らかに違う反応です…生命反応、車両へ到達!スターズの真上です!』

スターズの真上?そこには何も……
そう思った瞬間、車両の天井から大きな音がして、突き破ったかのように穴が開いた。

「まさか…!スバル、ティアナ!周囲を注意しろ!何か来るぞ!」
『何かって―――うわっ!?』
『スバル!?』

やはり、何か来ているのか!?

「ヴァイス!今すぐ列車に近づけろ!」
『は、はい!』

まさか…奴らか!?



















「スバル、大丈夫!?」
「うっ、うぅ…!」

何かに吹く飛ばされて、壁に激突したスバルは呻き声を挙げる。
士さんの言う通り、何かいる…?

〈正面3メートル先、生命反応〉
「っ!」
〈 Shoot Barret 〉

クロスミラージュの指示に咄嗟に魔力弾を打ち出す。
放たれた数発の魔力弾は何かに当たり、消滅する。すると当たった場所にノイズのような物ができて、そこに何かが現れる。

「シャァァァ…」
「何…こいつ…!?」

そこに現れたのは、カメレオンのような体をした人型の何か。左肩を何かを払うように叩き、呻き声のようなものを出す。

『やっぱり〝怪人〟か…』
「怪人…これが…!」

士さんが通信で漏らした声に、目の前の状況を理解し驚く。これが噂に聞く異形の生物、士さんが戦い続ける相手…!

『ティアナ、スバル!そいつを外に追い出せるか!?』
「い、いきなりそんなこと言われても…!」

士さんは指示を飛ばしてくるが、その方法が分からない。こんな異形を相手に、どうすれば……

[ティア、聞こえる?]
[す、スバル!?あんた、意識あったの!?]

そのとき聞こえてきたのは、スバルの声だった。
視線だけ向けると、スバルは肩を押さえながら片目だけ開けてこちらを見ていた。見ただけでかなりのダメージだということがわかる。あの頑丈なスバルが…!

[ティア、私がディバインバスターで外に打ち出す…!]
[そんな無茶な!あんたその体で…!]
[今はそれしかない!でもこの車両だと打ち抜く自信がないから、隣の車両に誘い込んで!]

確かに、私は砲撃魔法は使えないし、使えたとしても時間がかかるだろう。
それならスバルの砲撃で打ち抜く方が得策か……

[…本当にいけるのよね?]
[うん…任せて…!]
[なら…頼むわよ!]

念話でそう言うと、私は怪人を見ながら後ろにある車両の扉へ向かう。と同時に、挑発代わりに怪人に向けて魔力弾を放つ。
顔や肩に魔力弾を当てられた怪人は、私を完全に敵と見定めたのか、更に来る魔力弾を弾いて走って来た。

私は扉を開けて隣の車両へ。それと同時に怪人は扉を破壊して中に入ってくる。
破壊された扉は私に向かって来るので、私は前に飛んでそれを避けた。

前転でうまく体勢を立て直し、私はそのまま〝フェイクシルエット〟を発動。中に入ってきた怪人の周りに私の幻影を作り出し、攪乱する。

(スバル…早く…!)

しかしその期待を裏切るように、怪人はまさしくカメレオンのような舌を出し、そのまま回転することで私の幻影を早々に消し去った。
スバルはまだ隣の車両から現れていない。怪人は周りに他の敵がいないことを確認してから、私に向かってまっすぐ歩み寄って来る。

私は怪人に向かって後ろに下がりながら魔力弾を放つが、まるで効果なし。食らいながらも怪人はそのまま歩いてくる。
そして遂に、ドンと背中が壁に当たる。これ以上下がることはできない。


―――万事休す、か…!




「―――ディバイィィン…」




諦めかけたまさにその時、怪人の向こう側から声が聞こえた。私は迷わず壁に足をつけ、一気に蹴り出して怪人から距離を取る。
これで怪人に背中を向けることにはなるが、気にする余裕はない。とにかく距離を取るために必死に転がった。


「バスタァァァーーー!!」


その叫び声と共に轟音が唸る。そして何かに衝突する音がして、何かを破壊したような音も聞こえた。
次第に音は消えていき、私と誰かの息づかいしか聞こえなくなった。私は顔を上げてゆっくりと周りを見渡す。

車両の片側の壁には大きな穴が空いていた。今は止まっているから、外からの風は比較的穏やかだ。
そしてその穴を空けた張本人は……隣の車両に行くための扉にもたれかかっていた。

「スバル…あんた、意識あんでしょうね?」
「あ、あはは……一応は…」

私の言葉に返ってきたのは、力のない返事だった。それでも大した怪我わなさそうだし、今感じているだろう疲れは多分私と同じなんだろう。

怪人から放たれる、プレッシャーというか、圧力というか。普通の日常じゃあ味わうことのない物、だと思う。今更ながら考えるとドッと疲れが来る。
それでも私は立ち上がって、スバルの元へ行く。

「立てる…?」
「できれば…肩貸して」

スバルにしては珍しい言葉だけど、今回は何も言わずにスバルを立たせて支える。
いつもなら一言二言愚痴か何か言っていたかもしれないが、同じ思いをさせられたからか素直に肩を貸した。

あれは多分、今の私達じゃあしょうがないことの部類に入る物だ。あれを目の前にして冷静に対処できるのは、おそらく歴戦の魔導師や士さんのような慣れている人達だけだ。
怪人については書類やデータ、士さんの口から聞いていた。でもやっぱり伝聞と実戦じゃあ感じ方が違った。それはスバルも同じだろう。

だけど、それでも見ておきたいものがある。

「スバル、ウィングロードできる?」
「大丈夫、魔力には多少余力あるから…マッハキャリバー」
〈 Wing Road 〉

スバルの足元から出た道は、壁にできた穴から外へと出た。
私達はそれに乗り、無理のないように歩いていく。

私達が見たい物。それはあの怪人と、士さんとの戦いだ。
魔導師相手じゃない、いつも戦っている怪人との戦闘。この間とは違う、士さんの本気が見られるかもしれない。


陸戦魔導師なら誰もが目指す、あの人の本気の戦いを……














一方、スバルのディバインバスターによって外へ放り出された、カメレオン怪人はと言うと……

「シャァァァ……」

スバル達がいる車両の一つ隣の車両、その天井の上にいた。

あの時、ディバインバスターで放り出された怪人は、カメレオン特有の長い舌を車両に貼り付け、引き戻す勢いで車両の上に戻っていたのだ。
そしてその一部始終を現場で見ていたエリオは、初めて見る怪人の姿に驚いていたが、その後別のことに気づいていた。

「―――キャロ、大丈夫…?」
「………」

キャロの様子が先程からおかしいのだ。両肩を体を抱くように両手で掴み、体を震わせていた。
ここまで酷く怯える人を初めて見たエリオは、どうすればいいのか困った。声をかけても返事がない。

対するキャロは、頭の中にある映像を浮かべていた。
森で異形の者に捕らわれ、攫われそうになった時のことだ。

あの時のことを思い出し、その時感じた恐怖などの感情も蘇り震えているのだ。
無理もない。六、七歳の子供が抵抗も何もできずに攫われそうになったのだ。それはもうトラウマと言っても過言ではない。

その事実をまだ知らないエリオには、どうすることもできないのは当然とも言える。
トラウマへの恐怖で震えるキャロと、キャロを心配しつつも何もできないでいるエリオ。そして自らの上にいる二人を心配しながらも飛び続けるフリード、というなんとも言えない図が出来上がっていたその時……


ダンッという大きな音を立てて、車両の上に何かが落ちて来た。

急に聞こえたそれにエリオは思わず顔を向け、震えていたキャロも顔を上げた。
そこにいたのは黒のTシャツと動きやすいズボンを着た士だった。

「士さん!」
『ようエリオ、よくやってくれた。キャロとのコンビネーション、うまくできたな』

いつの間に着替えたのか疑問を覚えつつも、エリオは士に呼びかけた。
それに対して士は通信で返事を返した。視線もこちらに向けている。

『キャロ』
「は、はい!」
『お前もよく頑張ったな。昔のことがあったのに、それをよく乗り越えた。ほんと、お前は強いよ』

士は次にキャロに声をかける。自分はそんなに凄いことをしたつもりはないのに、べた褒めされてなんだか嬉しくなってしまったキャロは、少し顔を俯かせた。

『スバルやティアナも頑張ったし、終わったら美味い飯でも食わせてやる。うんと腹減らしとけよ、お前ら』

その言葉に思わず顔を綻ばせるライトニングの二人。ご褒美に士の料理だなんて、なんて贅沢な……と頭の中で思ったが、あることを思い出し気を引き締める。
まだ車両の上には、怪人が残っているのだ。まだ任務は終わっていない。

『大丈夫、後は俺に任せろ』

そんな二人の心境を読んだのか、士はそう言って自らのデバイス―――トリックスターを取り出す。

『―――安心しろ、キャロ』
「え…?」

士はトリックスターを手にしたまま、顔をキャロに向けて再びキャロに声をかけた。

『お前の〝もう一つのトラウマ〟も、ちゃんと乗り越えられる。今日はその為の一歩に、俺が手を貸してやる』

だから安心して、そこで見ていろ。
そう言う彼の表情は、キャロが今までに見たことのないような、満面の笑顔だった。






「さてと、こっちはすること終わったし…始めようか」

手にしていたトリックスター、愛称トリスを腰に当てる。
ベルトへ変わったことを確認し、手を離して左手を左腰にあるライドブッカーに伸ばす。

怪人の方はというと、何かを探すように辺りを見渡していた。

「多分だが、お前さんの探し物はこの下だぜ?」

士はそう言って、足のつま先で車両の天井をトントンと叩く。そこは確かに、スバル達が怪人を追い出した車両だった。
目標の前に邪魔者。そう思ったのか、怪人は士を敵と見なしゆっくりと戦闘態勢に入った。腰を少し下げ、両手を横に広げる。

「よしよし、それでいい」

士はそれを見て笑みを浮かべる。勿論これはキャロ達に見せた物じゃない。
左手で取ったライドブッカーを銃へと変形させ、右手に持ち替えて指でクルクルと回す。

「それじゃあ……来い」

回すのを止め、士はガチャリと銃口を向けてそう言い放つ。

それと同時に、怪人は士に向かってまっすぐに突っ込んで行った。




 
 

 
後書き

個人的にはこれでかなり書けたつもりです。まぁ携帯投稿なんで文脈が変な部分もあると思います。

そして書いている間に鎧武は最終回、新シリーズ・ドライブが始まってしまいました。

鎧武はミッチ救済と城乃内が初瀬のことを知ってからの行動が良かったと、個人的には思ってます。
その前だったら、兄さんよく生きていてくれました。沖合の船ナイスファインプレー。

そしてドライブ。意味不明な予告とは裏腹のビジュアル。多分平成二期の中だと一、二を争う物だと勝手に格付けしています(笑)
刑事物ということで従来の「二話完結」で行くみたいですけど、泊の名推理がいつ出るのか、楽しみです。


誤字・脱字等ありましたら、連絡ください。感想も待ってます。
 
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