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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter44「理想と真実の物語〜分史世界破壊命令(中編)」

 
前書き
長らくお待たせしました。
これからも更新が遅れそうですが、できる限り早めに更新できるように努力いたします。

それではどうぞ…… 

 
クロノスとの激戦を命からがら退けたルドガー達。
逃げることだけを考えて偶発的に発生した時空の歪みに飛び込んだはいいが、皆その先がどこに繋がっているかなど考えてもいなかった。

『うっ……ここは?』

意識が覚醒したルドガーは社の境内らしき場所に倒れていた。
他の仲間達も意識を取り戻し始め、レイアが現在いる場所がリーゼ・マクシアだと気付く。
目の届く範囲にエルや、アルヴィンとローエンの姿が見当たらず、違う場所に飛ばされたようだ。
エル達もそう遠くない所に飛ばされているというジュードの推測を頼りに、ルドガーと一緒に飛ばされたメンバーと、麓にあるニ・アケリアという村に向かう。

「緑がいっぱい……」

ニ・アケリアへ向かう街道を進む中、キャロが辺りを見てそう呟く。

「エレンピオスとリーゼ・マクシア。ほんまに正反対の世界なんやな……」

マクスウェルが作り出した理想郷がリーゼ・マクシア。
その反対に黒匣多用により滅びゆく世界がエレンピオス。身体に霊力野が有る無いの違いがあるが、同じ生を受け生きている人間の片方が滅びゆく運命にあることにやはり何とも言えない心情になるはやて。

『変なのがきましたよ!』
『も~、面倒っ!』

道中魔物の群れに遭遇してしまいエリーゼとレイアが戦う構えをみせる。魔物を撃退するが、また次に一回り大きい魔物が群れを引き連れ襲ってくる。レイアがルドガーに骸殻で一掃してくれと頼み、彼もそれに答え、懐中時計を掲げ、変身を試みる。

『!?』

しかし、骸殻の力は発動しなかった。ルドガーは勿論、仲間達も動揺をみせる。
立ち尽くすルドガーに魔物の一体が飛び掛かる。やられると六課の誰もが思った。

『ぼさっとしないで!』

そこへ突然長い金髪の女性が現れ、魔物を斬り捨てる。
女性は次々と魔物を斬りつけ、最後にルドガーの後方にいた魔物を精霊術で消し去った。

『この辺りは、私たちの聖域よ。部外者は立ち去りなさい』
『待って!』

女性を呼び止めるジュードだが、女性はそのままニ・アケリアのある方へと歩いていった。
エリーゼ達の話からあの女性が分史世界のミラのようだ。
ミラを見てから様子がおかしいジュードを気に掛けるルドガー。
だが、エリーゼの骸殻が使えなけば正史世界に戻れないという声が重くのしかかり直ぐに注意がそちらに移る。どうにかして再び骸殻が使えるよう方法を考えるが何も浮かばず、とにかくニ・アケリアへ急ぐことにした。

「何故クルスニクは骸殻へ変身できなくなった?」
「もしかして完全にまだ力を使いこなせていないのかも」

シャマルの考えに一理あると思うシグナム。
しかし何か別の理由があるではと、簡単に結論を出すことができない。
ニ・アケリアに着くとエルとローエン、アルヴィン、そしてユリウスが待っていた。
再開を喜び合う一同。その中ルドガーはユリウスと話すため、彼の前に行く。
その顔に再開の喜びや笑みは見受けられず、クルスニク兄弟の仲の良い話を聞かされていたエリオとキャロは心を痛める。いざルドガーがユリウスに尋ねようとした瞬間、タイミングが良いのか悪いのかGHSがなった。こんな時にと思いながらも通話ボタンを押し、耳に当てる。

『分史対策室です』

やはり通話の相手はヴェルだった。まぁ分史世界で正史世界と通話できる者等クラン社しかいないのだが。とにかく今はヴェルから話を聞くことが優先だ。

『対応中の分史世界の座標を解析した結果、カナンの道標の存在確率が“高”と判定されました。
道標を発見した場合、その回収は、最優先事項となります』
『一か八かだったが、うまくいったな』

カナンの道標という聞いたことのない言葉について尋ねようとしたが、ユリウスが話をすり替えるように入ってきた。代わりにエルが道標がなんなのかヴェルに尋ねた。

『深々度の分史世界に点在するカナンの地への手がかりです。時歪の因子とどうかしているはずで---』

カナンの地への行き先を示す物だから道標なのだと、話を飲み込みつつ連絡を聞いていたが、突然ユリウスにGHSの通話を切られてしまう。

『あとは俺にまかせろ。時計を渡すんだ、ルドガー』
『会って最初に言うのが、それかよ……?』

わけの分からない状況に叩き込まれても、兄のことを心配しない時はなかった。
やっとその兄と再開したら、訳も話さずただ自分を遠ざけようとするユリウスに怒り半分情けなさという、複雑な心情になってしまう。ルドガーの気持ちを読み取ったジュードがユリウスにこれまで彼が列車テロ以降から巻き込まれた状況を伝える。警察に追われ、それから逃れるためクラン社と契約してまった事をユリウスはジュードから聞かされ始めて知ったようだった。
自分のせいで弟を苦しませていたことにすまないと謝るユリウス。
だがそれでもユリウスは何もルドガーに話そうとはせず、何も心配するなと言ってそれ以上は何も語ろうとはしない。

『っ!』

ルドガーはユリウスの発言に苛立ちを露にし、地面に懐中時計を叩きつける。
憤るルドガーの姿にはやては、彼がただ兄への怒りとは別に自分への怒りを覚えているのではと思っていた。

『これは、エルのパパの!』

時計を拾おうとするユリウスだったが、エルが時計に覆いかぶさったことで動きを止める。
エルの物でもなければ父親の物でもないとエルに返すユリウス。
だが次のエルの発言に彼の表情が変わる。

『そうなの!パパとルドガーの時計が、ひとつになったんだから!』
『やはり、この子が-------か!』

何かを確信したのかボソッと言葉を口するユリウス。
同時に彼から表情が消え、僅かに瞳の奥から殺気をはらんだ視線をレンズ越しにエルへと向けたかと思うと、急に自身の左腕を押えて苦しそうに動きを止めた。

『騒がしいわね。親子ゲンカなら余所でやって』

緊迫する空気の中、先ほどの出会ったミラが現れた。再会の喜びから思わず彼女の名を叫んでしまったエリーゼとティポに叱咤し、その場を離れようとしたが、グギューという唸り声のようなルルの空腹を知らせる音を聞いて足を止め、何か食べさせて上げると話した。ルルはその言葉を聞いて元気を取り戻したようで、ミラに着いて行きしまいにはエルまでついて行ってしまった。
エルのことも心配だが別の理由にミラが時歪の因子である可能性を考えたルドガーはその後を追った。

「なのはちゃん……あのユリウスさんの目……」
「うん……本気だった」

エルに対して向けたユリウスの本気の殺気。自分の気のせいかとも思ったはやてだが、なのはの肯定に確信を持つ。あの温かい日常でルドガーへ向けていた笑顔と、幼いエルへ向けた殺気を帯び冷たい表情のユリウスを見てどちらが本当のユリウスなのかわからなくなる。
民家を手当たり次第あたり、エルとルルを見つける。
ルドガーの心配とは裏腹にすっかりくつろいで食事をしていた。

『心配させるなって……』
『……ごめんなさい』

その声はいつもエルを叱る時と異なり、静かで広く響くことのないものだが厳しさが宿っており、それまで笑顔だったエルが俯いて素直に謝ったのだ。
いつもなら何か反論するだろうが、エルも悪いと思ったようだ。
ルドガーの真剣な表情からその様子からルドガーが心の底からエルを心配している証だと六課の面々は感じていた。
エルが飲み干したミラの作ったスープを美味しかったと話していると家主であるミラが入ってきた。
勝手に入るなとルドガー達に言うが、エルにお礼を言われて嬉しかったようで、頬を赤らめて答える。

『こんなので喜ぶなんて、ろくなものを食べてないのね』
『食べてなくない!エルのパパのごはんは、も~~~っとおいしいし!スープとか、なん時間も煮込むし、パパのごはんはスゴイんだから……』

勢いのあったエルの声が段々と小さくなっていく。自慢をして父親のことを思い出したようで悲しげな表情を見せるエル。それを読み取ったミラが彼女のことを思って自分も父親のスープを食べてみたいと話すとエルに笑顔が戻り、いつもの調子に戻る。心温まる会話に、子供は笑顔が一番だと思っていたはやて。その時、家の扉が開く。
同時にミラの表情が強ばったものへ変わる。

『おかえりなさい、姉さん』

玄関には目を閉じたミュゼがいた。

『臭い。お前、また人間の食べ物をつくたったのね』
『ごめんなさい。この子たち、お腹すいてたから---あうっ!』

震えた声で事情を話すミラへミュゼは精霊術を放つ。
臭いと私が動けない。どうやらこの世界のミュゼは視力を失っているようだ。

『ごめんなさい、姉さん……』
『なにするのっ!』

「アカン!」

ミュゼに抗議しようと飛び出そうとしたエルに思わず静止の声を上げてしまうはやて。
無論エルは保護者であるルドガーが止めたが、予想外のことが起こった。

『なに……これ?』

飛び出そうとしたエルの腕を掴んだ瞬間、先ほど発現できなかった骸殻がよみがえった。
骸殻は直ぐに解かれるが変身した瞬間を見たミラはたじろぐが、今度はミュゼの身体から黒いオーラのようなものが放たれ再び驚く。思いもよらぬタイミングで見つけてしまった本命の時歪の因子。
ミュゼはミラを何処かへ向ってしまったが、村の人間に2人の行き先を聞いて廻ると直ぐに行き先は大体の見当がついた。

『聞いたか?妹に内緒で何かをやってる姉だってよ』
『……ああ、よく聞こえてるよ』

「……なんてわかりやすい皮肉なんや」

誰にでもわかり、聞いていると逆に清々しくなる皮肉を吐くアルヴィン。
さぞユリウスもはやてと同じような心境なのだろう。

2人を追ってニ・アケリア霊山に向かう中、社の境内でミラを見つけることができた。
丁度その時だった。
レイアのGHSに着信が入った。

『ミラ!?』

突如レイアの持つGHSを見たミラが、レイアに向け精霊術を放ったのだ。
ミラの取った行動に声を上げるエル。
間一髪ユリウスがレイアの前に立って剣で精霊術を防ぐ。

『なんのマネだ!』
『それは黒匣でしょう!黒匣と、それにまつわる存在を消去するのか、私と姉さんの使命!』

エレンピオスと黒匣にまつわるものを排除する。
かつての正史ミラと同じく、この世界のミラの使命も同じだとしたら、その覚悟も同じならミラは自分達をこの場から生かしはしない。違うミラだがアルヴィンとレイアはこの中で誰よりもミラのことをわかっているため、最悪の事態を考えずにいられない。

『どうする?まともに相手してくれそうにねぇぞ』
アルヴィンの言うとおり最早穏便にことを終わらせることは無理だろう。
考えたすえ思いついた策に一瞬躊躇ったが、最善の手をうつことをルドガーは決断した。

『なんとか騙そう』
『よせ、ルドガー!』
『わかった。話、あわせる』

弟に重荷を負わせたくないユリウスに対し、アルヴィンはルドガーのその判断に同意した。
ユリウスと同様レイアは反対したが、アルヴィンに諭され自分達が何をしにここにいるかを思いだし、何も言えなくなる。ルドガーにあわせる形でアルヴィンがミラの“説得”を始めた。エルの子供らしい表現と嘘を言うこともなく本当のことも話さないやり方は、ミラを自分達のペースに持ち込みつつ話しを確実に信じさせる……その姿を見た六課メンバーは仕方のないことだとわかっていたが複雑な心境になってしまう。

『……時歪の因子を壊せば、昔の姉さんに戻るのね?』
『……そうだ』

別にルドガーはミラの問いを肯定する必要はなかった。時歪の因子を破壊すると、この世界が無くなるという事実を隠したままでもよかった。最後の最後で“嘘”をついたのは罪悪感、贖罪……自らに罰を与えるために口にしたものではあるが、それは被害者側からすれは偽善だった。

自分も同じ身の上であるはやてはルドガーの心情が痛いほど伝わり、かつての自身の姿と重なっても見えてしまう。
時歪の因子を破壊すれば優しかった以前のミュゼに戻ると解釈したミラは、姉のためにルドガー達と協力する決意を固める。確実に目的を達成するためにミュゼの情報をルドガー達に話す。
ミュゼは視力を失っているため音と匂いで周りを視ているらしく、この弱点を突くには音と匂いを消すしかない。ユリウスはミュゼの周囲に火をかけるのだと即座に理解し、六課メンバー達はよく空気を遮断することだと気付いたなとユリウスの頭の回転の早さは流石だと感じていた。

『これでいいのか?』
『………』

ユリウスはこれから先、ルドガーが必ず後悔することになるとわかっていた。たがらこそ遅いとわかっていてもルドガーを止めようとするのは彼を守りたいがための兄としての言葉だった。

『若者をいじめるなよ。仕事には、こういうこともあるだろう』
『わかってるさ。だからこそ……』

敢えてその先を何も答えずユリウスはそう言い残し先へと進んで行った。
その後ろ姿からは後悔の念が見え隠れしているようにフェイトには見えてならなかった。
ニ・アケリア霊山の頂上に着いた一行が見たものは天に祈りを捧げているように、何者かに語り掛けるミュゼだった。ミラが言うにはミュゼは毎晩誰かに語り掛けているらしい。事情を知らないエルやルドガーは、エルの言うミラ達の父親なのかもしれないと考えていたが、アルヴィンとレイアはミュゼが誰に語りかけているか見当がついているようにシグナムには見えていた。
覚悟を決めたミラがミュゼに話し掛ける。
ミュゼは言い付けを破りここまで来たミラを怒鳴りつける。
心配とは裏腹に姉の自分へ向ける言葉から徐々にミラの感情も高まっていく。

『なんで?昔は、なんでも話してくれたのに!?』
『お前なんかに話すことはない!とっとと帰りなさい!』

2人を見ていたユリウスはまるで今の自分とルドガーの今の状態を鏡で見せ付けられているようには見え、胸に痛みを覚えてしまい、またフェイトはかつて自分を生み出した母親の姿がフラッシュバッグしたようで思わず目を背けてしまう。大切な人間……肉親に存在を否定される痛みは想像を絶する。それは自分が傷つきやすいからという理由もあるかもしれないが、彼女の事をよく知るなのは達はその自己診断を否定するだろう。

(私はアルフやなのは皆が助けてくれたから、母さんの事も乗り越えることができた……けどミラさんは)

ミラには本当の意味で助けてくれる肉親も仲間もいない上、もうじき彼女自身も世界と共に終わりを迎えることになる。
そうなれば……いや、むしろ何も知らずに終わることは彼女にとって幸せなのかもしれない。
一つを犠牲にし百を救うやり方はフェイトを始め、なのはやはやても正直認めたくない方法だと否定していた。
だが初めてフェイトはその方法で救えるものもあるのだと、このまま何も知らずにミラが消えるのは彼女にとって“救い”なのだと思えていた。

『どうしてよ……どうして姉さんはっ!』

激情に駆られたミラ火の精霊術をミュゼな向けて放った。
まさか自分の妹が裏切るとは考えていなかったようで、周囲を包む炎に戸惑うミュゼ。
その隙にミラはルドガーへ合図し、ルドガー達は一斉に駆け寄る。
しかし、ミュゼは片手で容易く炎をうち消した。
予想外の事態に足を止めざるおえなくなる。

『お前……私を裏切ったなっ!』

ミュゼの肌や顔が黒く変色した。怒りを引き金に彼女にとり憑いていた時歪の因子が覚醒し、その影響なのか光を失っていた目も開眼する。時歪の因子特有の不気味な赤い光を宿していた。
姉の異形の変化を目の当たりにしたミラはミュゼを化物と叫ぶ。
それが癇に触ったのか、精霊術をミラに放った。動揺のあまり身動きが取れないミラ。
更にエルまで心配してミラの下へ行ってしまう。

『まずい!』

エルを助けようとユリウスは動く。
だが左腕を負傷しているのか痛みに耐えかねその場でうずくまった。

『エル!おおおっ!』

ルドガーはエルの前に入って骸殻に変身。間一髪槍で精霊術防ぎ、エルを守ることができた。
エルとミラの無事を確認し安堵するも、直ぐ意識を目の前の相手に戻し集中する。

『うう……うがあああ!』

荒れ狂い発狂するミュゼへルドガー立ち向かう。
これまで幾度か時歪の因子化した恐ろしい姿の人間を見たことのあるフォワードであるが、狂気そのものであるミュゼの姿に恐怖を抱いてしまう。
特に六課中最年少であるエリオとキャロにとってこの光景はホラー映画を目の前で鑑賞している気分だろう。隣で2人が互いの手を強く握っている姿を見たフェイトは今後この光景が幼い2人のトラウマにならないか心配であったが、2人の覚悟を知っているフェイトはこれ以上、今無理に見ることを止めるのは2人の覚悟を汚すことだと思い止めないようにした。

『くっ!強い』

ミュゼの髪を使った鋭い一撃を槍で防いだが、ダメージの大きさに骸殻が解かれた。

『こざかしい人間が!魂ごとあの方の輪廻から消滅させてやる!』
『おうおう。なんかとんでもなくヤバめなこと言ってね?』
『冗談言ってる場合じゃないでしょ!』
『姉さん……私は!』

それぞれの想いを胸にルドガー達は剣を振るう。
大切なモノを守りたい、救いたい……だがその意志により次の犠牲が生まれる。
光が当たるところには必ず影があり、愛を守るために憎しみが生まれる。
その結果人は憎しみという名の武器を取り、光をその手で影に塗り替え、また新たな憎しみを作り出す。このループは人が愚かなゆえに繰り返されるのか?ならば人が変わればこの連鎖を断ち切ることができるのか?。話しが飛躍しすぎた。思考を目の前の戦いを見ることだけにはやては切り替える。
だがはやては最後に思った。本当の化物とは心という不安定で自制すら危ういモノを抱えている自分達人間なのかもしれないと。

(ルドガーやったら……なんて答えるやろう?)

目の前で達人クラスの剣捌きで大精霊と激戦を繰り広げるルドガーに言葉にしないが問いかける。
まあ記憶映像である彼が仮にはやての声が届いていたとしても答えるはずもないが……。

『ルドガー!』
『おう!』

レイアがルドガーのハンマーの上に飛び、ミラとアルヴィンの術技により怯んでいるミュゼへレイアは急降下し、棍を振り下ろす

『『流星槌!』』

棍の一撃はミュゼの腹部に命中。
戦闘継続不能に陥る大ダメージ負う。

『おのれ、ミラァ……!』

自らに一撃を与えたレイアへではなく、妹であるミラに憎しみのこもった、まるで呪咀を唱えるかのようにミラの名を口にする。同時にミュゼはついに両膝を地面につける。
心配したエルがミラに話しかけるが、大丈夫だと告げ、肩で息をし地面に手をつく異形の姿となった姉の下へと移動する。

『もう動かないで!』

姉を傷つけたのは自分自身であるが、それは姉を思っての行いだ。
今ならミュゼともわかりあえるかもしれない。
そんな仄かな希望を抱くのは姉妹の関係を修復したいという自らの願望を叶えたいから。
しかし、現実は冷たくミラの首へと強く襲いかかる。

『よくも……人間の分際で、よくもっ!』

死ねと連呼し本気の殺意を持ってミラの首を絞める。
近しい者の触れ合いを見るのは、微笑ましく見えるが、それとは真逆であるこの2人の関係を第三者である六課メンバーからすれば、目の前で昼ドラを見ているような気分だろう。

『ルドガー、ミラが!』

この状況は時歪の因子を砕くにはまたとないチャンスだ。
仕事に忠実な人間なら隙だらけのミュゼの背に槍を躊躇なく突き刺し目的を達成させること優先する。非人道的と非難する者もいるだろうが、これは正史世界の存在を脅かす分史世界を破壊する行いであると言ってしまえば、それはもう十分過ぎる立派な大義名分も成り立つわけだ。そしてだからこそフェイトは気になるのだろう。ルドガーがどういう選択をするかを。分史世界のミラをあくまで偽者として見捨てるか、それとも……

エルの声を聞いたルドガーは、時計を出して再び骸殻に変身。

そして……

『はああっ!』

ミュゼを狙った槍が横から突き抜け、それを寸前のところで躱したミュゼ。
離れたミュゼの前に立つと、怒涛の攻撃をしかける。
槍でそれらを上手く防いでいたが、それも追い付かなくなり槍を弾き飛ばされてしまう。

『邪魔をするな!』

止めをさそうと精霊術を使おうとしたその直後。

『え?』

そんな間の抜けた声を漏らしたのはミュゼだった。
ミュゼの背中からはルドガーの槍が突き抜け、血が流れている。
ルドガーがやったのではない。槍の持ち主であるルドガーもその他の人間も同様唖然としている。
では誰が?

『姉さんが……悪いのよ』

ミュゼの背後には屈んだ態勢のミラが居た。
その手にはミュゼを貫いているルドガーの槍が握られており、表情はわからないがその言葉と光景はこれまで理解してもらえなかった“愛”が爆発し“憎しみ”に変わった瞬間にも見え、ある意味人間を象徴したモノだとはやては思った。

『お……前……なんかに……』

背後からかけられた声で誰が自分をこんな目に合わせたわかったミュゼは、ゆっくりと振り返り、地べたに座るミラを見る。

『お前じゃない!ミラよっ!』
『ミラァァァッ!』

思わず目を手で覆ってしまうようなおぞましい形相で絶叫し、ミラを睨むミュゼ。

『うおおおっ!』

落ちた槍を拾い、空いていた距離をルドガーが駆け抜け、ミュゼの身体に背後から槍を突き刺した。
グサッという音と一緒に肉を貫いた感触が見てるだけ今にも伝わってきそうで、思わずフォワード達は身震いしてしまう。
本当の意味で命のやり取りをしたことのない人間には耐え難いものなのは当たりまえの反応だろう。

『あああ……ああ~~~!』
『姉……さん』

時歪の因子を失い、断末魔と共にミュゼは消滅し、ルドガーの槍の先には分史世界の核である時歪の因子が光っていた。崩壊の時は近い。

「これが……世界を壊すということなの?」

時歪の因子が砕け散るのを目の当たりにし、世界を壊すことがこんな簡単にできてしまうのかと、世界の儚さを実感していた。分史世界にも自分達と同じように人が生きている。
それがもうじき全て消え失せるという事実に六課メンバーは戦慄しる。

『ミラ!』

ミュゼの消滅により唖然とするミラのもとへ駆け寄ったエルが彼女に抱きつく。
ほぼ同時に世界が砕け、ルドガー達は正史世界のニ・アケリア霊山に飛ばされていた。
ルドガーの手には、カナンの道標と思しき物体があった。1つの世界の犠牲の上に手に入れたカナンの道標。正史世界にとって喜ぶべきことなのかもしれないが、ルドガー表情はうかないものであり、アルヴィン達もルドガーの心情を理解して声をかけかねている。

『っ…なんなの……今の?』

意気消沈していたルドガーの耳にこの場にいるはずのないあり得ない声が響いた。
いや、存在するはずのない者の声だというべきか。あり得ない、あり得ない。
目の前にある現実を信じることができない。
だが彼女は---ミラは確かにエルと手を繋いで存在している……この正史世界に。状況を理解できないルドガー達だが、ユリウスは何か心当たりがあるようだ。

『姉さんはどうなったの!?何が起こったのか説明してよ!』

ミラはルドガー達以上にこの状況に動揺しているミラの問いにどう答えるか考えたが、正直に話す。

『……お前の世界は、俺が壊した』

ルドガー達は説明した。ミラの世界を破壊し、ミュゼを消滅させたと話したが、そう簡単に世界を壊したと話しても信じてもらえるはずもない。事実、ミラは話しを信じる信じない以前に、突拍子のないことで意味を理解できないでいる。だが、わかったこともあったようだ。

『……ひとつだけわかった』

ミラは拳を握りしめ、振り上げると、ルドガーの頬を力いっぱい殴りつける。
殴られることも覚悟していたとはいえ女性にグーで殴られるのは思ったより心身ともに痛みがあるのだと、頬を押さえながらミラへ向きなおる。

『私を騙したのねっ!』
『やめて、ミラ!ルドガーの仕事なんだよ』

怒りに震えるミラの前にルドガーを庇うようにエルが入る。だがミラの怒りはおさまることなく、逆に増すばかり。ルドガーへ怒りの声をはき続ける。

『ふざけないで!世界を壊す仕事なんてあるわけ---』
『あるんだよ、それが』

怒りがエルにまで移りかけた時、今度はユリウスが2人の間に入った。
ルドガーの兄としでなく数多くの分史世界を破壊してきた者としてルドガーの苦しみを理解できるのだろう。

(ミラさんの怒りも、ルドガーの苦悩も私にはわかることすらできへん……)

はやて達は骸殻能力者の苦しみ、世界を破壊された者の怒りも悲しみも共有することもできない。
だからこそこんな苦しみと悲しみしか生まれない分史世界を作ったクロノスに対して心の底から怒りが沸いてくる。重い空気の中、ルドガーのGHSが鳴りだす。
レイアが黒匣に強い敵意を持つミラの前でGHSを使うのはまずいと思ったようだが、今のミラは激しい動揺で周囲の状況にまるで気づいておらず、ルドガーはGHSに出ることにした。
相手はニ・アケリアで別れたジュードだった。
彼らも正史世界に戻ってきたようなので、一向は村で合流することになった。

『ミラも、いこ』
『………』

子供ながらにミラのことを心配してエルが声をかけた。このままこの場にいるわけにもいかず、ミラもルドガー達の後を重い足取りでついて行く。

「痛そうだったな……あのパンチ」

スバルが思わず呟いた一言。慌てて場違いと考え口を押さえるが、口には出さないが皆同じことを思っていた。ああ、なんて痛そうなんだと……
ニ・アケリアに戻り、合流したジュード達に経緯を説明する。その内容にジュードはショックを隠せないようだが、ルドガーを責めることはできない。

元々、ミラの居た分史世界を破壊するつもりだったのだから。

『兄さん!?』

取り出していたカナンの道標を、突然ユリウスが奪い取る。

『わかったはずだ、ルドガー。こんな思いはしたくないだろう』

痛い思いをした今のルドガーなら、話が通じるとふんだユリウスは強行手段に出た。
取り返そうと思えば直ぐに足が動くはずだが、足が動かない……心の奥底で全て投げ出して逃げ出したいと思っている自分がいることに気付き、自分の覚悟はこんなものなのかと笑えそうになる。

『なるほど、そういうわけで連れが増えたのか。かなり興味深いな』

その時、イバルを連れたリドウがルドガー達の前に現れた。
顔を合わせたくない人物の登場に、ルドガーとは別にはやて達も顔を顰めていた。
あんなヤミ金紛いのやり方で借金を自分が好意を抱く人物に負わせた奴の顔を見ればそんな顔にもなるだろう。ヴィータにいたってはユリウスと同じように舌打ちまでしていた。リドウは分史対策室室長として道標の回収に来たようだが、元室長ユリウスの身柄を確保するよう命を受けているのかもしれない。

『ミラ様……』

リドウの脇にいたイバルがミラの姿を見て驚いている。それもそうだ。かつての仕えていた主と瓜二つの姿をした女性が居るのだから。同じ仕えるべき主を持つシグナムも、10年前に紫天の書の「王」を司るマテリアル、ロード・ディアーチェがはやての姿を真似て現れた時は、初見で内心驚かされていた。

『なに動揺してるんだ?ニセ者だぜ、アレ』

「ニセ者……」
「エリオ……」

エリオはフェイトと同じだ。オリジナルのエリオ・モンディアルのクローンだということでニセ者呼ばわりされ、自分が何者なのかわからなくなったことがあった。管理局の研究所で自暴自棄になった自分を隣で心配するフェイトに救ってもらはなかったら今の自分はいなかったかもしれないと思い出してしまいゾッとする。ジュードとイバルがニセ者呼ばわりしたリドウに声を荒げたのを見た時は、自分が庇われたような気がして気持ちが軽くなる。そんなジュードとイバルをリドウは嘲笑うと、わざとらしい口調で今思い出したかのように話す。

『ああ、ユリウス元室長は、こういう若者の邪魔が趣味だったな』
『リドウ!』

心当たりがあるのかリドウが話そうとしていることを止めるかのように怒鳴るユリウス。
だが、リドウはその反応を見てニヤっと笑い、話を続けた。

『例えば……ルドガー君が入社試験で不合格になるように仕組んだりさ』
『なっ!?』

リドウが言ったことの意味が一瞬わからなったが、直ぐにルドガーはユリウスを睨むと問いただす。

『本当なのか!?入社試験の時、俺をわざと不合格にしたっていうのは!?』
『あ、あれは……』
『兄さん!』

激しくユリウスに怒りを見せるルドガー。なのははクランスピアの入社試験の内容を思い返す。
実際に同じ内容の試験を合格した人間達にこれが普通だと言われればそれまでだが、教導官としての目で見たあの試験内容は、入社試験にしては高すぎるように思える。特に最後のあの不意討ちは戦い慣れた人間でも見抜けるのは難しい。ここまでする理由。

「ルドガー君をクランスピア社に関わらせたくないからわざと……」
「そういう事やったんか…!」

ユリウスは知っていたのだろう。ルドガーが骸殻の力を持っていることを。
もしルドガーがクラン社に入社してエージェントになれば分史対策エージェントととして分史世界の破壊を任されていたはずだ。だからルドガーの懐中時計をユリウスが持っていた。
“闇”を知るユリウスとしては、たった1人の弟にそんな重荷を背負わせたくなかったのだろうと、ユリウスの考えを予想する。しかし、その予想は半分正解で半分不正解だ。真実はもっと酷なものだ。
ルドガーにとってもはやて達にとっても。

『さて……室長として命令するぞ、ルドガー君。ユリウスを倒して、カナンの道標を回収しろ』

リドウにとってこんなに愉快な仕事はない。背中を見るたび蹴落とすことだけを考えていた男を、自分の部下になった男の弟を使いズタボロにできるのだから。笑うことをこらえるのがこんなに苦しいとは思わなかったとリドウは向かい合う兄弟を見て思っていた。
リドウの命令を受け一瞬迷うルドガーだが、直ぐに迷いを捨て、ユリウスと戦う姿勢をとる。

何も教えてはくれない兄への不信感から、それは敵意に変わってしまう。

『ルドガー……俺を信じてくれ』

自分を信じほしいと言う兄。頼み……いや、懇願しているとように六課メンバーには見えてきていた。兄の目を見て思う。俺は兄と戦いたくない……だが、今の自分はもう引けないところまで来ている。
剣を抜けと自分に命じる。

動け、動け、動け!ルドガーは剣の柄を握ろとする……

『……っ!』

柄に伸びかけた手が止まり、ルドガーは首を横に振る。
それはリドウの命令に従えないという意を表した動作だった。

『おいおい、勘弁してくれよ……』

命令に背く行動を選んだ部下を見て、リドウは心底面倒くさそうに話すと、苛立ちをあらわにした。

『兄弟そろって面倒だなっ!』

リドウはユリウスに向かって飛び蹴りを食らわせる。
ふっ飛ばされ倒れるユリウスを無視して、今度はルドガーの前に立ちふさがるリドウ。

『業務命令に反する部下には、お仕置きが必要だな』

フォワード達はこの時思った。
自分達の上司がなのはやフェイト、ルドガー達のような人徳のある人でよかったと心底思うと共に、もっと自分達の環境を感謝するべきだと誰に対してかは本人達もわからないが、ありがとうと心の中で礼を述べていた。
ルドガーは双剣を抜きリドウと対峙する。
ジュードとローエンはイバルと戦い、残った仲間はルドガーと共にリドウと戦う。
ナイフを主武装としているリドウは接近戦を仕掛けてくると身構えていたが、ナイフに糸でも着けているのか、距離を取ると周囲をなぎ払うかのようにナイフを広範囲に振り回す上、一撃一撃が確実に急所を狙ってくる。
これにはリドウをただの悪徳ドクターと印象付けていたシグナムとヴィータも驚かずにはいられない。

『やはり兄弟だな……ムカつかせるのが上手い!』

戦闘に傷つくこと勝利したが、ルドガー達は肩で息をするほど消耗している。それに対し負けたはずのリドウは呼吸も乱さず、悪態をついている。その様子から考えるにリドウはわざとルドガー達を消耗させる戦いをさせ、余力を残せる程度に戦っていたようだ。武器を取り出したリドウ。

『やめろ、リドウ!』
『過保護すぎだろ、お兄ちゃん!』
『がはっ!』

ルドガーを庇ったユリウスは、リドウにまた吹き飛ばされてしまう。
ユリウスに対する仕打ちに怒り、リドウに向かって行くルドガーだったが、喉元にナイフを突き付けられる。リドウは告げる。これは最終通告だと。カナンの道標を回収して本社に帰還しろと。
この通告を無視すればどうなるか……語るまでもない。
選択の余地はなくルドガーはリドウの命令に従うことにした。

自分の師がこうも簡単に敗北すると思ってなかったティアナ。
今でこそ達人以上、言ってしまえば人外レベルの域の強さを持つルドガー。
この時点のルドガーでも並み以上の強さだが、それでも現在のルドガーの強さには遠く及ばない。
フォワードと戦って苦戦するくらいだろうとティアナは分析し、願わくばこの当時のルドガーのデータをシュミレーターに入力し自身の実力を試してみたい。

(……これじゃ私もシグナム副隊長と同じ戦闘狂じゃない)

だがそれが彼女の強さと呼べる。
主を守るという信念とは別に闘争本能と言い表すことのできる強い感情が彼女をより強くさせているのだと、ティアナは“力”という強さの本質を少しだけ理解できたような気がした。

 
 

 
後書き
~オマケチャット~

ニ・アケリア参道を歩いているとエルがルドガーとユリウスにルルの飼い主はどちらかと尋ねる。
ルドガーはユリウスと答え、ユリウスはルルを拾った時の話しを話し始める。

ユリウス『思い出すなあ、告白を断れたルドガーが、やさぐれて街に飛び出していったあの夜を』
エル『ルドガー、フラれたんだ!?』

ああ、俺の若気のいたりがただ洩れだ。幼くともやはり女子なエルにこれを知られると後々が怖い。
しかし、ルドガーは知らなかった。
この会話が未来で更なる事態を巻き起こすことを。

はやて「フラレタ?ハテ、ドコノオンナノコニテヲダシタンヤロウカァ~。キニナルワァ~」
なのは(般若だ……般若が私の隣にいる……!)

目からハイライトが消え、鬼のオーラを纏うはやてに近くにいる人間は身震いしてしまう。

ユリウス『けど、結局お前、あのノヴァって子とは友達づきあいを続けてよな?』
ルドガー『なっ!?』

ユリウスはルドガーのメンタル領土に爆弾投下を続ける。

幸いその爆弾は別の話と興味が移り、その際は爆発することはなかった……なかったのだが……

『のヴあ?ノヴァ?Nova?ナニソレ?ディアボレルンカ?』



どうやらユリウスが投下した爆弾は時限式だったようだった。

 
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