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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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喪失‐ロスト‐part1/王子との謁見

貴族派、レコンキスタの放つ怪獣からは目を付けられてはならない。サイトたちが乗るアルビオン王党派の軍艦『イーグル号』はアルビオン大陸の下へ潜り込んだ。
怪獣の他にも、空を飛んで王党派を狙おうとしている輩がいた。それはイーグル号を凌駕する巨大な戦艦だった。ウェールズの話によると、あの戦艦はかつてのアルビオン軍の戦艦『ロイヤル・ゾウリン号』。レコンキスタの手に落ちたその時の戦地に因んで『レキシントン号』と勝手に改名されてしまった。王党派との最初の闘いの勝利をネチネチとアピールしている辺り、相手に対するいやらしさが垣間見える。ともあれ、そのレキシントン号の存在と怪獣たちの両方が空を飛びまわっていたために、ウェールズたちは空賊のふりをしていたのだ。…が、実をいうと貴族であるルイズたちにとって驚くべき事実が他にもあった。
「本物の空賊ですって!?」
ウェールズが空賊の頭のふりをしていた際に言っていた『炎の空賊団』というのは、ウェールズたち王党派の貴族たちに協力している本物の空賊団だったという話だった。声を上げるルイズや、同じように王党派に協力する空賊が存在していると言う事実に驚くギーシュたちに向けて、空賊船長の三兄弟たちが前に出て名乗りだした。
「その通り!わしは空賊団船長の長男、『ガル!』」
「『ギル』!」
「『グル』じゃ!」
「んで、俺様は炎の空賊団の用心棒、グレンファイヤーだ!この姿ではグレンって呼んでくれ!」
最後はグレンが、前髪をかき上げながら改めてルイズたちに自己紹介をした。
「王党派に味方をする空賊がいるとはね」
これには、ワルドはルイズほど大きなリアクションをとらなかったが、王党派の空賊が存在すると言う事実に驚いていた。
「普通は驚くのも無理はない。何せ、この辺りの空賊は我ら以外全てが貴族派に付きおったからのう」
「ま、所詮レコンキスタという虎の尾を借る狐…」
「要は束になってもうちの足元にも及ばん雑魚共だがな!」
ぎゃははははは!と空賊三兄弟たちは馬鹿笑いをした。
「彼らのおかげもあって、僕たち王党派も空賊に成りすますことができた。グレンの力もあり、僕ら王党派は全滅を免れ、それどころか貴族派の仕向けてくる怪獣を相手にしても戦いぬくこともできるようになり、こうして今日を生きている。
変装については最初抵抗があったが、一度なりきるとなかなか面白くてね。ただの王族生活じゃなかなかできない体験だったから、思った以上にはまり込んでしまったよ。はははは」
空賊への成りきりにハマった王子、しかもそのくせ空賊たちと打ち解けている、ウェールズ以外にきっと誰もいないであろう。気さくに笑って見せるウェールズに、サイトたちは開いた口を塞ぐのに苦労した。
ともあれ、彼ら炎の空賊たちが味方をしてくれたおかげで、王党派は貴族派の使役する怪獣に相対することもできるようになったのである。
「とはいえ、君たちが本当に我ら王党派を支持するものか試すために、あのような無礼を働いたことは事実。許してほしい。何せ、王党派の軍からも命惜しさに貴族派につく者もいたからね」
「いえ、そのことはもう…」
気にしないでほしいと、ルイズは首を横に振った。
「貴族派って奴らが怪獣を操っているって…やはり本当なんですか?」
特にその問いは、その問いを投げかけたサイトにとって、ずっと聞きたかったことだった。アンリエッタが、独自にアルビオンへ放ったとされる間者の話による情報、レコンキスタが怪獣を使役していると言う事実。怪獣の被害に何十年もの間晒され続けてきた身であることもあり無視することはできなかった。
「以前、炎の空賊団たちが参戦してくれた時からこれまで幾度か怪獣がレコンキスタ軍と共に姿を現した。しかしその度、怪獣はその気になればすぐそばのレコンキスタ軍を踏みつぶせるはずにもかかわらず、奴らは一度たりともレコンキスタに手を下してこなかった。それどころか、我ら王軍だけに危害を加え、主にこの大陸の北方の街は壊滅させられた」
ウェールズから引き継ぐ形で、ギルが続けて説明を入れた。
「おかしいと思って、わしらはグレンたちに貴族派の重役の一人を捕まえさせ、捕虜に口を割らせたら、はっきりと言ったんじゃ。『レコンキスタの長であるクロムウェル閣下は異形の存在をも己の友とした』とね」
「異形の存在を、己の友に…?まさか!」
気付いたサイトはウェールズと三兄弟の空賊船長、そしてグレンを見た。その視線を受け止め、ガルが頷きの姿勢を見せた。
「そう、簡単に言っちまえば、レコンキスタのリーダーであるクロムウェルと言う男は、怪獣を使役する力を持っている」
「クロムウェル…確か噂で聞いた反乱の首謀者の名前!」
グルからわかりやすくも、驚くべき事実を聞いて声を上げたギーシュを見て、ウェールズがゆっくりと頷いた。
「単純に聞いたところで信じがたい話なのだが、レコンキスタは出現してまだ日が浅い。にも拘らず、各地のアルビオン貴族や賊共を次々と自分の味方に引き入れた。その上、これまでハルケギニアでは姿を見せたばかりの怪獣を操っている。
我々もトリステインに怪獣が出現したと言う話は聞いている。もしかしたら…」
「トリスタニアに現れたディノゾールも、クロムウェルが呼び出していたと?」
キュルケがふと、サイトがルイズに剣を買ってもらうために彼女と共に王都へ出かけたときのことを思い出す。トリスタニアと言う一国の中心が襲われ、そしてトリステインからハルケギニア中へと怪獣の脅威を知らしめることとなった悪夢の一日。その時のトリスタニアの惨状が、彼らの記憶の中に色濃く残っていた。
「わからないが可能性は十分あるな」
「クロムウェル、一体どこであざ笑ってやがるんだか…もし見つけたらぶっとばしてやる!」
頭の中に、怪獣たちを利用して高らかにこちらを見下ろしてあざ笑うクロムウェルの姿を想像し、グレンが怒りの感情を抱くあまり顔から炎を吹き出しそうになるほど表情を歪めた。
「それにしても、どうして彼らは王党派の味方を?」
素朴な疑問を打ち明けるルイズ。普通に考えると疑問が浮かんで当然だろう。さっき空賊に成りすましたウェールズの話だと、王党派よりも貴族派の方が戦力的に大きい。怪獣まで使役していると言う話なら、強い方に味方に付くのが自然だ。なのに、この炎の用心棒をなのる少年…もとい炎の巨人グレンファイヤーをはじめとした炎の空賊たちは王党派の味方に付いていることについて迷いさえ抱いていないように見受けられる。
すると、長男船長であるガルがその理由を明かした。
「知れたことよ。わしら炎の空賊団は自由を愛する者の集まり!レコンキスタは『聖地の奪還』とハルケギニアの統一などと言う勝手で偽物の正義で塗り固められた理想のために無駄な戦争を引き起こしている、自由の敵。わしらはそやつらから金目のものをいただいて飯を食っていると言うわけじゃ」
「まぁ、簡単に言えば俺たちは義賊ってわけ」
「義賊っていっても、結局賊は賊じゃない」
「それはちがいねえ!」
胸を張るグレンへのルイズの厳しいツッコミに対してギルがそう言うと、またしても馬鹿笑いする炎の空賊団たちであった。彼らにどんなことを言っても面白おかしく受け止め笑い飛ばしてくるだろう。あまり突っ込むのも無駄に突かれそうだ。
「全く、今の状況だから見逃すことになってるけど、ほどほどにしてくれよ?」
ウェールズがため息混じりに言う。流石に金品がらみの問題については皇太子である以上見逃せないらしい。
でも最後にもう一つ気になることがある。
この炎の用心棒を名乗る少年、グレンファイヤーのことだ。これについては誰もが気になるだろう。巨人に変身する力を持つ少年。サイトから見れば自分とはまるで同類。気にならないはずがない。思わずサイトたちはグレンに注目した。
「…おいおい、そんなにオイラを見ないでくれよ?照れるじゃないか」
眩しいライトに顔を照らされたかのように右手で顔を隠してわざと照れた素振りを取るグレンに、一発魔法でもかましたくなるほどイラッと来たが、ワルドがそんな彼女を見かねて彼女の肩にポンと手を置いた。
「任務のことを、皇太子に」
あ、いけない。ルイズはハッとなって任務のことを思い出す。一人熱くなりすぎて忘れがちになってしまうなんて情けない。気を取り直してルイズは、アンリエッタから託された、ウェールズ宛の手紙を皇太子に渡した。
「これが、アンリエッタ姫様から預かった密書です」
「ありがとう…確かにアンリエッタの字だな。懐かしいな」
ウェールズは渡された手紙を愛おしそうに眺めた後、慎重に封を開けた。その手紙の内容を読み終えると、彼は驚きに震えた。
「こ、これは真実なのか…!?姫が…あの愛らしいアンリエッタ、私の可愛い…従妹がゲルマニアの皇帝に…嫁ぐと…!?」
「そ、そうです。皇太子様」
その驚きは、きっと間違いであってほしいという本音が隠れている証かもしれない。ルイズは、ゲルマニア皇帝との望まぬ結婚をするアンリエッタと、そんな従妹を想うウェールズがかわいそうに思えた。
「王子、大丈夫かの?」
「あ、ああ…すまない。少し取り乱したようだ」
知らないままでいた方がよかったかもしれない事実を聞いて絶望さえ覚えた。そんなウェールズを見てグルが彼の顔色を窺うと、ウェールズは首を横に振って作り笑いを浮かべた。
「手紙は、我らの現在の本拠地にある。このまま大陸下を潜行し、城へ送ろう」




その頃…アルビオン王国のとある暗がりの下。
燭台の炎に照らされたその場所に、何人もの貴族たちが長いテーブルを囲う形で集まっていた。奥に座っているのは、かの貴族派=レコンキスタの長である男『オリバー・クロムウェル』である。
レコンキスタの目的はハルケギニアの統一と民主制の拡大。そしてエルフに奪われた、始祖ブリミル降臨の地『聖地』を取り戻すことである。人によっては、彼らもまた一つの正義を掲げていると言う見立てもできるだろう。だが、アンリエッタたちトリステイン貴族に炎の空賊たちやアルビオン王党派…彼らを支持する者にとってレコンキスタは、いたずらに戦を起こすただの簒奪者としか見られていない。
「現在の我が軍は、このアルビオンの首都『ロンディニウム』の占拠に成功。次はサウスゴータ攻略を予定しております。ですが…」
「王党派軍と結託している炎の空賊どものせいで予定より大幅に遅れが生じています。それどころか…これまであの炎の巨人によってこちらが使役する怪獣が返り討ちにあっています。前回はゴメスと…つい先日は閣下と手を結んでいたベル星人とやらが倒されました。兵たちもあの炎の巨人のせいで王党派に恐れをなし、士気が低下傾向にあります」
せっかくハルケギニア統一のための手始めにアルビオンを手に入れようとしていたのだが、彼らにとって炎の空賊団と、彼らに組する炎の用心棒グレンファイヤーは強敵であり、とても厄介な邪魔者でしかない。何とかこれを退ける手はないものかとこうして集まっていたのだ。
「無理もないか。クロムウェル閣下が始祖から授けられたお力で使役した怪獣が、こうもやられていくようではな」
「閣下は我らに味方してくれている宇宙人や怪獣を『お友達』とはおっしゃるが、いかんせん奴らは得体がしれない存在ですしな」
王党派との戦争で怪獣を用いたことで圧倒的な勝利を飾ったレコンキスタだが、一方で戦争に怪獣を使うと言うことに疑問を抱くものがいた。何せハルケギニアに元から存在したオーク鬼やトロル鬼などのモンスターよりも恐ろしい力と巨体を持ち、人知を超えていると言ってもいい。何かの拍子で突如裏切る、逆らう…そいつらを自分たちの戦力に加えると言うことに不安を覚える者は少なくなかった。
「貴様、閣下のお力はあの始祖ブリミルより授けられた失われし伝説の系統『虚無』なのだぞ!その力を侮ると言うことは閣下と始祖ブリミルを侮辱することに等しい!」
レコンキスタがなぜ、クロムウェルに従っているか。それは彼が持つとされる『魔法』にあった。
「そうは言っていない!だが、現実を見ろ!怪獣共もだが、厄介なのはあの炎の巨人だけじゃない。空賊共も一兵それぞれが精強ぞろいだ。平民にも拘らず、我が軍はメイジでさえ痛手をこうむっている。所持している兵器もゲルマニア製のものを独自に改良した厄介な代物!あれをどうにかしない限りは…!」
炎の空賊たちをどうこうする以前に、彼らの士気も著しく下がっていた。グレンたちの存在が彼らの精神面にも強く影響し、自分たちの軍に勝ち目が薄くなっていると言う意識を芽吹かせていた。だが、ここで引き下がっては自分たちの野望を完遂するどころか、そうなる前に国の一つも取れずレコンキスタが瓦解してしまう。
「静まりたまえ!」
クロムウェルが皆に向けて大声を出して自身を注目させた。
「案ずることはない。すでに手は打っている」
彼のその言葉を聞いて、貴族派たちはざわつき始めた。
「手とは?」
何か策略か方法があるというのか。伝説の系統『虚無』を持つ者として、この状況を打開する魔法か何かをこの方は持っていると言うことか?
「私を誰だと思っているのだね、諸君。私は始祖ブリミルより虚無を受け継ぎし者、オリバー・クロムウェルだぞ?
たとえ炎の空賊共がいようといまいと、我らには始祖ブリミルのご加護があるのだ!卑しい空賊ごときと組する王党派など落ちぶれたもの!
これは試練なのだ!始祖が我らに与えてくださった試練の一つ!試練とは、乗り越えるためにあるのだ!恐れず進もう!新生アルビオンに栄光は約束されているのだから!」
クロムウェルは立ち上がり、右腕を掲げて皆に激励の言葉を轟かせた。
「ああ、閣下…なんと神々しいお姿なのだ…」
クロムウェルを見る、この場の貴族派の貴族たちは陶酔しきった笑みを浮かべクロムウェルを崇めた。彼らにとってクロムウェルとは、どんなに愚かしい存在であろうとなかろうと、そこまで崇高な存在、神に等しい存在だったのだ。
しかし、これは言い換えれば、狂信的教祖に従う哀れな狂信者そのものであったことに彼らは気づいていなかった。実際、なぜクロムウェルが聖地を求めるのかはっきりとした理由が不明だ。貴族派たちはこう考えているのだ。『始祖のお力を受け継いだクロムウェルが、聖地を取り戻そうとするのは当然の事』と。だから彼らには、クロムウェル自身が聖地を狙う真意を見極めようともしないまま、ただ自分たちは神に愛されていると言う意識と全く同じ盲信を抱いている。
(地球といい、この星といい…人間とはつくづく愚かなものだ)
そしてクロムウェルも含め、彼らは気づいていなかった。自分たちはすでに、『支配』されている側にあったことを…。
(しかし、だからこそ…)




アルビオン王党派軍の現在の根拠地はニューカッスル城。大陸の真下には、アルビオン王族のみが知る秘密の港が存在している。現在のアルビオンの空を飛び回る怪獣や艦隊に見つからないよう、イーグル号は雲を潜り抜けながらその港へと入港した。
入港の際、信用に足るとされたサイトたちは武器を返却された。
「おお、デルフ!」
その手にデルフを手渡されたサイトは武器とはいえ、しっかりと意思を持った仲間が手元に帰ってきたことを喜んだ。
「いやー、相棒と引き裂かれて一時はどうなるかと思っちまったぜ。そういや相棒…」
サイトの元へ返されたデルフはため息を漏らすと同時に、今のサイトにとってあまり尋ねられたくないことを口にした。
「なんでゼロに変身しなかったんだ?」
ルイズたちにバレたらまずいと思い、サイトにしか聞こえない程度の小声でそう言った。それを聞いてサイトの表情が険しくなった。
「……いいだろ」
「いいいだろ…って、お前さんならみんなを助けるためなら、むしろ変身してもおかしくなかったんじゃねーの?」
まだ会って長い期間が経ったわけではないが、デルフはサイトの性格を大方理解しているつもりだ。彼は困った相手を見過ごせないお人よしだ。そんな男がもしウルトラの力を手にしているのだとしたら、それを用いて誰かを助けたがるものだと。だが、ベル星人に襲われた時、彼は変身しようとするそぶりさえなかった。それがデルフには不思議に思えてならなかったのだ。
「もうゼロに頼りたくない。それだけだよ」
秘密の港は、広く開いた洞窟だった。光るコケが生え、それが明かりの代わりとなって一帯を照らしている。
「こんな天然の隠れ家があるなんてね」
洞窟の壁を見渡しながらキュルケが呟いた。
「ああ、これならあのレコンキスタも簡単には見つけることなどできないだろうね」
ギーシュもこの秘密の隠れ港を見て簡単の声を漏らす。サイトもまた、この自然に出来上がったこの洞窟を興味深そうに眺め続けていた。
イーグル号から降りると、城に待機していたウェールズの側近たちが出迎えてきてくれた。
「パリー、喜べ!硫黄が手に入ったぞ」
サイトたちが搭乗した客船には硫黄が詰め込んであった。それを手に入れることは
「火の秘薬ではありませんか!これで我らは王家の誇りと名誉を叛徒共に示すこともできましょう!」
出迎えてきてくれた老貴族、パリーはウェールズからの知らせを聞いて大いに喜んでいた。そして視線を、皇太子と行動を共にした炎の空賊団の船長たちに移す。
「殿下をよくぞお守り成された」
「なに、協力している以上当然の事よ」
ルイズは握手しあうパリーとガルの姿を見て、彼ら炎の空賊たちが王党派たちから強い信頼を手にしていることを察知したと同時に、いくら義賊でも族であることに変わりない彼らがここまでウェールズをはじめとした空賊たちから信頼されていると言うことを意外なものとして受け止めざるを得なかった。自分がもし皇太子の立場だったら彼らのことをかたくなに拒んでいたかもしれない。
「さあ、大使殿。件の手紙はこちらだ。ついてきてくれ」
ウェールズはルイズたちを見てそそくさと歩きだし、ルイズ達は案内されるがまま、着いて行った。



ウェールズの部屋はニューカッスル城の一番高い天守の一角にあった。
内部は王子の部屋とは思えないほど質素であり、家具も木製の机と椅子、ベットしかない。壁には戦局を示すタペストリーが掛けられている。
ウェールズは机の引き出しから宝石の散りばめられた小箱を取り出した。蓋を開けると裏にアンリエッタの肖像画が描かれていた。
「俺もよくトリステインの姫さんの話をウェールズから聞いててさ、あれはあいつの宝物なんだ」
ルイズたちの横で、グレンが説明した。
「あんた、あの方は王族であるウェールズ殿下なのよ?礼節をわきまえなさいよ。っていうか、なんでここまでついてきたのよ!」
賊が礼儀を知りたがるかどうかなんて考えられないが、それでもこれはピシッとしなければならないと考えるルイズとしては、王子の部屋にまでついてきたグレンと空賊船長三兄弟に納得がいかない。しかし、ウェールズは微笑しながらルイズに言った。
「いいんだよ、ミス・ヴァリエール。僕は寧ろこうして呼び捨てにし合えるだけの仲の友が欲しかったくらいなんだ。何せ、王族と言うのは孤独な身なのが当然ともいえるからね」
「結構気さくな方なのね」
キュルケとしてもウェールズの空賊たちとの打ち解けようは意外だった。ウェールズは内心で王族ではない者の暮らしに憧れの感情があるのだと見た。ゲルマニア人である自分にも、成り上がりの国の人間の癖に…なんて言葉も言ってこないのだろうか。
「へえ…すごく気のいい人なんだ」
サイトはウェールズの人となりの一端を見て好印象を抱いたが、タバサそれを聞いて彼の袖を引っ張ってきた。
「だとしても、馴れ馴れしく話しかけない方がいい」
「どうして?本人がいいって言うなら別にいいんじゃないの」
「やれやれ…君は単純だな。とはいえ、平民の君にはわからないだろうね」
首を傾げるサイトに、今度はギーシュが呆れる、すると、キュルケがサイトにその理由を明かした。
貴族と言う者は常に腹の探り合いをしなければならないし、常に出世して立場を高めたがるもの。特に気位の高いトリステイン貴族はその度合いが強い。
「異国の王族と仲良くしているとその母国に取り入ろうとしていると思われちゃうの。滅亡間近の王族の味方をしてもメリットが大きくない。場合によっては出世の足を引っ張ることもありうるのよ」
見た目からして聡明さがうかがえるウェールズが王族としてのしがらみを理解していないわけがないが、理解したうえで砕けた口で言い合える相手を求めても迂闊に仲良くすることにも気をつけなくてはならないのだと言った。
「キュルケ、さすがに口が軽いんじゃないかい?」
「それをあなたに言われたくはないわね、ギーシュ。それに、愛する人が知りたいことなら包み隠さず教えるものじゃないかしら」
しかし、サイトにとっては到底理解し難い。この世界では平民に当たり、そもそも貴族政治なんてとっくの昔にほろんだ地球人であるサイトにとってどうでもいいものだ。皇太子が寧ろかわいそうじゃないか。そして、こんな辛い現実を作ってウェールズ太刀を苦しめるレコンキスタにも怒りを覚える。怪獣を戦争の道具に用いるなんて、とても許せる行為じゃない。生き物の命をどんな目で見てることか。
ウェールズは手紙を取出し、愛おしいように口付けし、開いてゆっくりと黙読する。
「これが例の手紙だ。このとおり確かに返却した」
「ありがとうございます」
ルイズは深々と頭を下げながら手紙を受け取った。その手紙は封筒もその中もすでにボロボロだった。
(何度も読まれたのね…)
同じ内容の手紙を飽きずに何度も読み漁っていたことは丸わかりだった。その事から、ルイズは手紙をしたためた時のアンリエッタの顔を思い出した。愛おしそうに手紙を抱き、自らの気持ちに嘘はつけないと始祖に打ち明けたときの彼女の顔…。ウェールズとアンリエッタの仲をこの時確信した。そのため、この手紙がウェールズにとって読まずにはいられないほどのものだったのだろうとルイズは察知した。
「明日の朝、民間人を乗せてイーグル号が出港する、それに乗って帰りなさい」
「あの、殿下。王軍に勝ち目はあるのですか?」
ルイズからそう尋ねられると、ウェールズは遠い目で窓の外を眺めて答えた。
「…今度の作戦がうまくいかなかったら、我が軍は確実に滅ぼされるだろう。次の戦いでも、きっとレコンキスタはグレンを警戒し、強力な怪獣を用いてここへと攻め入ってくる。決戦の場はサウスゴータ地方。情けないが、今の王軍はわずか5000。レコンキスタ共は10倍の五万。当然、王軍だけで立ち向かっては勝ち目がない」
「そんな…!!」
それでは、最早勝ち目がまるでないと言うようなものじゃないか。たまらずルイズはウェールズに言った。
「殿下、トリステインに亡命してくださいまし!それほどの劣勢では、いくら強い味方を付けていたとしても…アンリエッタ様からの手紙にもそう書かれていたはずです!」
しかし、ウェールズは首を横に振った。
「大使が手紙の内容について言及するとは、越権行為が過ぎるのではないかな?
亡命など出来んよ。それにアンリエッタは王女だ。国の大事を、僕を助けるために私情を挟むような事はしない」
「私は姫様の気性は大変存じております!姫様がご自分が愛した人を見捨てるわけがございません!!私は幼い頃、恐れながら姫様のお遊び相手となったことがありますから、あのお方のお気持ちはわかっていると自負しているつもりです!」
それを聞くと、ルイズとワルドを除くサイトたち一行がルイズに注目した。
「アンリエッタ姫殿下と…ウェールズ皇太子が恋仲…!?」
この事実に特に驚いていたのはギーシュだった。たちまちそれを聞くや否や、ギーシュは真っ白になって膝を着いて放心状態に陥った。
(こいつ、実はお姫様に惚れてたのか?)
実を言うと…いや、もしかしたらお気づきの人がいない方がおかしいかもしれない。学院でアンリエッタがルイズに今回の秘密の任務を与えた際に自分もその任務に就くと名乗り出た際に言った、『お願いしますね、ギーシュさん』の一言とアンリエッタの笑顔を向けられたその時から、惚れてると言ってもいいほどギーシュは完全にアンリエッタの虜になってしまっていたのだ。その分、あのアンリエッタに思い人がいたと言う事実は相当ショックだったらしい。
身分違いの恋など叶わないなんて自分に偉そうに説教垂れていた上に自分はモンモランシーと言う彼女がいるくせに…。人のこと言う前に自分のことをどうにかしとけよとサイトは、そしてキュルケも一人場違いに真っ白になるギーシュに呆れかえる。
「なんだなんだ?そいつなんで真っ白な灰になっちまってんだ?」
奇妙に思ったグレンがサイトたちに尋ねるが、タバサがグレンに対して一言言った。
「気にしたら負け」
「あ、そう…」
見た目からして空気の読めないキザ野郎。彼女の言う通りあまり気にしたらいけないのだろうと思い、グレンはそれ以上ギーシュのことについて尋ねようとしなかった。ちなみにワルドは今のギーシュの様子に一切の興味を示さなかった。
ルイズの言葉にウェールズは額に手を当て、微笑みながら言った。
「君はアンリエッタと僕が恋仲と…?」
「そうです!姫様とウェールズ殿下は―――」
「…ああ、その通りだ。君の言うとおり、僕とアンリエッタは恋仲だ」
ウェールズは一度窓の外を向くと、遠くを見つめるよう眼をした。
「だが、この恋文が公表されれば、アンリエッタは始祖の名のもと僕に永遠の愛を誓った事が公になり、彼女は重婚の罪を犯したことになる。当然ゲルマニア皇帝との婚姻は破棄され、同盟も成らずトリステインは孤立無援、軍の再編成もままならなくなり、トリスタニアにおける怪獣の被害がもとで行われている復興作業に支障をきたす。そんな状態で、もしも我らが敗北し貴族派のトリステインへの侵攻を許すことになったり、また別の理由が飛来する怪獣を相手にしたら、トリステインは間違いなく滅亡する。
それに、始祖ブリミルの名において永遠の愛を誓ったのは昔の話だ。彼女と僕の名誉、そして始祖に誓って言おう。亡命を勧めるような事は一文たりとも書かれていなかったと」
かたくなに亡命を拒むウェールズに、ルイズはとにかく彼を説得しようと言葉を発そうとしたが、その前に窓の外を眺め終えたウェールズがルイズへと視線を戻し彼女の肩に手を置く。
「ミス・ヴァリエール。君は正直でどこまでも真っすぐで良い目をしている。亡国への大使としては適任かもしれない。だがしかし、そのように正直では大使にはむかないよ。しっかりしなさい」
ウェールズは微笑ながら言った。
あの笑みは、嘘だ。キュルケは恋愛について経験豊富なためかウェールズの笑みが無理に作ったものだと理解した。本当にアンリエッタと恋仲なら、さっきの手紙の内容を呼んだ時と同様内心ではうろたえているのかもしれない。他の男にアンリエッタを奪われることに歯がゆい思いをしているかもしれない。きっと、自分の存在そのものさえもいずれアンリエッタと互いに交換し合った恋文と同様、ゲルマニア皇帝との縁談…つまりトリステインの未来に置いて障害でしかなくなることを考えて亡命を拒んだのだ。見ていて正直じれったくて、自分もルイズのように亡命を進めるべきかと思った。できることなら、身分もしがらみも関係なく恋する者たちの味方をしていたい。でもゲルマニアは祖国だ。喋ったところでメリットなんかないし、本人たちの意思のもとで決まっている以上、手を貸したところで何もできないのが目に見える。アンリエッタとウェールズの愛し合っていると言う事実は、両国のためにも…敢えて聞かなかったことにしておこうと悟った。
愛し合う二人が結ばれないと言う残酷な現実にルイズは俯き、目じりに溢れてきた涙をぬぐった。
「ならば皇太子様、私から一つせめてもの提案がございます」
すると、ワルドがウェールズの前に一歩出て言った。
「なんだね?ワルド子爵」
次にワルドの口から言い放たれたその提案に、大半の人間が耳を疑った。
「王党派の勝利を祈願の意味も兼ね、私とルイズの婚姻の媒酌をお願いしたい」
「「「「!!?」」」」
サイト・ルイズ・ギーシュ・キュルケ・タバサがワルドの突拍子もない突然の提案に唖然となった。こんな時に…!?いくら勝利祈願のためだからって、そんなの気分的にもいいものなのか?いや、いいはずがない!
しかし…。
「ああ、喜んで引き受けよう!兵たちも、炎の空賊のクルーたちもきっとお二人のめでたい晴れ舞台をご覧になって入り一層士気を高めるだろう!」
意外にもウェールズはワルドたちの結婚式の媒酌の役を快く引き受けたではないか。
「ワルド、何言ってるの!私そんな…」
そんな気分にはなれそうにない。だから拒否しようと思った。しかし、ウェールズがルイズに向かってこう言ったのだ。
「ミス・ヴァリエール。どうかあなたとワルド子爵の門出を祝わせてほしい。もしかしたらこれが最期になるやもしれない。もしもとはいえ、最期になるかもしれないこの僕に、何かを残させてほしいのだ」
悪意がない分、余計にタチの悪い。ルイズはとてもグレンファイヤーのような強力な戦士が味方に付いている王軍でも、これまでトリステインを襲ってきた怪獣たちの脅威をこの目で見てきた。しかも敵は怪獣を操ることができると言う人知を超えているかもしれない存在。どんな手を使って勝ちを拾うつもりなのかはわからないが勝てる見込みが見えないのだ。でも、ウェールズからここまで頼まれてしまうと、断ることができなくなった。
ふと、ウェールズは机の上の水の張った盆を見た。盆には時計のように長短の二本の針が浮いていた。
「もうこんな時間か」
彼は机の上のベルを手に取ってそれを鳴らすと、この部屋に数人ほどの兵が入ってきた。
「今日はもう遅い。彼らに客室を用意させてほしい」
「はっ!」



その夜、ニューカッスル城では明日の戦いに備えた、気分高揚のための晩餐会が開かれた。国王ジェームズ一世は弱り切った腰を浮かせ、手に持ったワインを掲げた。
「皆の者、よくこの王に付き従ってくれた。
明日の戦にて、我々の運命が決まる。滅びるか。それとも生き残って戦い続けるか。きっとこれまでにない辛い戦いとなるだろう。
炎の空賊たちよ、自由を愛する戦友よ。叛徒どもに翻弄される我らのような惰弱な軍によく手を貸してくれた。わしはこれまで賊と言う存在を侮っていたが、これほど心強く勇敢な者たちと触れて、とても嬉しく思っている」
王党派の貴族たちは全員着飾り、炎の空賊たちのクルー、そしてサイトたち一行もしっかりと国王の話に耳を傾けていた。
「もし敗れることになったとしても、せめて栄誉ある敗北を描こう!だが最後まで決して諦めずに戦おう!我らにはあの叛徒どもと違い、真に始祖ブリミルのご加護がある!正義がある!誇りがある!明日の戦いに打ち勝ち、我らの誇りと名誉を示し、未来を勝ち取ろうではないか!」
国王が高らかに宣言し、ウェールズ皇太子や王党派の者達は手に持ったグラスを掲げた。
「「「「「「アルビオン王国万歳ーーーーー!!」」」」」
「タバサ、どうしたの?晩餐会には参加しないの?」
一方で、キュルケとタバサもまた晩餐会の席に出席していなかった。キュルケとしては、ワインを飲んで気分を変えて行こうかとも思ったが、以前フリッグの舞踏会に参加した時と違ってタバサが参加しないことに疑問を感じていた。
「…本当は、パーティーは嫌いだから」
その意図が、タバサが本来静かな環境を好むとともに、きっとさっきのウェールズとの会談の内容にあると見たキュルケは納得した。
「そうね、なんだか…もう負けるのが目に見えているのに無理に明るくふるまっているようにも見えるわ。それにワルド子爵とルイズの結婚のことも、気分じゃないわね。皇太子と姫殿下が引き裂かれたって言う事実が明かされた直後にあんな話を持ちかけてくるなんて…何を考えているのかしら?」
自分がもしワルドのような婚約者に、こんな時に結婚式を挙げようと言われたとしても、正直嬉しくないし断らずにはいられない。いくら王党派の士気向上のためもあるとはいえ、結婚式とは本来新郎新婦とその一族郎党のために行う儀式。国の政治的な高揚のために行うなど野暮と考えていた。ルイズも押しに弱いものだと思った。結局キュルケはその日の夜は一滴もワインを飲まなかった。
サイトとギーシュはバルコニーにてグラスを片手に立っていた。ギーシュはバルコニーの柵に身をゆだねながら、ぐったりと沈んでいた。
「姫殿下と皇太子さまが…姫殿下と皇太子さまが…」
「お前まだ引きずってんのか?いい加減にしろよ…ったく」
ここにいる人たちはこいつのくだらない浮気癖以上に、明日死ぬかもしれないと言う瀬戸際に立っているのだ。もう放っておこう。サイトはルイズの姿を目で追って行った。
晩餐の最中、ルイズたちは王党派の貴族たちから料理やワインを何度も進められていた。
「大使、ミス・ヴァリエール!我々にもあなた様の花嫁姿をお見せしてほしい!あなたのお美しい花嫁衣装姿をご覧になって、我々が大切なものを守っていると言う実感が欲しいのだ!」
「この酒はいかがでしょうか!?アルビオン一の酒ですぞ!飲めば頬が落ちるほどの美味を味わえますぞ!」
「す、すみません、ちょっと失礼します。ごめんなさい」
ルイズは、それらのもてなしを丁重に断ると、急ぎ晩餐会の場を後にした。ここにいたいと言う気持ちが全く持ってなかった。ウェールズとアンリエッタの引き裂かれた愛、直後のワルドからの突然の結婚式をつい先ほど持ちかけられたことで、彼女の心は穏かではなかった。落ち着くためにも、彼女はここを離れずにはいられなかった。
「あ、あのルイズが…追いかけないと」
「ああ、君に言われなくとも分かっているよ」
ワルドはルイズを追いに、そしてサイトもまた手伝いのために、未だへこみ続けるギーシュをほっぽりだしてルイズを追っていくことにした。

 
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