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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第4部
江戸日常編その2
  第62話 テンションが上がるとその人の本性が見えたりする

 
前書き
今回からまた毎度の様なギャグテンポのお話に入ります。では、お楽しみ下さい。 

 
 江戸の夜は長い。下手したら昼よりも夜の方が長いと思ってしまう場合も多かったりする。それもその筈、何故なら此処かぶき町は色町。即ち大人のエロスを楽しむ為の町でもあるのだ。
 その為に、この町が本領を発揮するのは決まって夜が多かったりする。そして、今宵もまたとあるスナックにて大人のエロスなシーンが展開されようとしていた。
 まぁ、所詮ギャグなのであんまり本気にしないように。万が一思っていたのと違うと言われても私は一切責任を負いませんので。




     ***




「それじゃ、江戸が平和になった記念って事で……乾杯!」

 並々と注がれた黄金色の飲み物を片手に、真選組局長の近藤勲が乾杯の音頭を取る。それに釣られるかの様に大勢の大志達がこぞって持っていた飲み物を掲げる。そして一気にそれを煽る。
 此処は江戸のかぶき町にあるスナック【スマイル】。現在、真選組と万事屋ご一行。更にはジュエルシード事件の時にお世話になったアースラ隊のメンバー等々を引き連れて今宵はあらゆる無礼講一切オッケィと言う波乱万丈な宴会が執り行われているのであった。

「え~、皆の衆。今宵は江戸の平和を守ったと言う記念の祝いだ。今宵の支払いは全て俺が持つから遠慮せずジャンジャン飲んでたらふく食って大騒ぎしていってくれ」

 何時になく男前な事を言う近藤。だが、そんな近藤の言葉になど一切耳を貸そうとせずに、大志達はひたすらに飲みまくり食いまくり、騒ぎまくっていた。
 そんな薄情な大志達を前にして近藤は一人寂しく涙しながら席に戻っていく。その時の近藤の後ろ姿はあまりにも哀れであった。

「しっかし近藤さんも粋な事しますねぃ。俺ら全員引き連れて飲み明かすなんざぁ気前の良い事じゃないですかぃ」
「騒ぐのも良いが明日の仕事に支障が出ないようにしろよ。明日からは何時も通りの業務になるんだからな」
「相変わらず固いですねぃ土方さんは。そんなんだから何時まで経っても女にもてねぇんですよ」
「そのセリフをそっくりそのままてめぇに返してやるよ」

 局長である近藤が一人さみしく涙していると言うのに部下である土方と沖田の二人はそんな近藤の事など一切お構いなしに毎度の如く一触即発な喧嘩寸前の口論を行っていた。 そんな二人の危険な雰囲気にあまり馴染みがないアースラ隊のメンバーは慌てふためいていたが真選組の隊士達は毎度の事なのでたいして驚いた様子はない。
 そんな毎度お馴染みな口論戦のすぐ脇では銀時達万事屋メンバーが今回の事件の疲れを労うかの様に浴びるように飲みまくっていた。

「しっかし案外近藤さんも気前が良いんですねぇ。僕たちを誘って宴会なんて開くなんて。しかも費用は全部向こう持ちだなんて」
「どうせあれだろ? お妙に良いとこ見せる為に見栄を張っただけのこったろうさ。まぁ、何はともあれタダ酒飲めるんだし今の内にたらふく食ってたらふく飲んでおこうじゃねぇか」

 心配する新八を余所に銀時は日頃の鬱憤を晴らすのと今回の事件での憂さ晴らしもかねてか、高い酒をジャンジャン注文して飲みまくっていた。そのすぐ横では神楽がこれまた大量に料理を注文してそれこそ出された途端すぐに食べ切ってしまい、また次の注文をするの繰り返しを行っていたのであった。
 が、その中には何故かなのはの姿は見られなかった。

「そう言えば銀さん。なのはちゃんは今どうなんですか?」
「未だにおねんねの真っ最中さ。医者の話じゃ後2,3日は意識は戻らないだろうってさ」
「でもまぁ、命に別状がなくて良かったじゃないですか。最初はそれこそ肝が冷える思いがしましたよ」
「だけどよぉ、そのお陰で最近しけ続きじゃねぇか。このままじゃ今月の家賃だって危ねぇんだからよぉ」

 既にお分かりと思うだろうが万事屋の仕事は全てなのはが集めて来る。彼女の居る居ないによっては万事屋の存亡に関わると言っても過言じゃなかったりする。情けない話だが実際問題そうなのだから仕方がない。

「でも驚きましたよね。まさかフェイトちゃんやアルフさんだけじゃなくてアースラ隊の皆まで駆けつけて来てくれてたなんて」
「ま、あれだ。俺が向こうで色々とコネを作っておいたお陰って奴だろうよ」
「あんたが作ったのは寧ろ溝じゃないんですか? それも思いっきり深い奴」
「ま、何でも良いわ。折角来てくれたってんだし挨拶位して行くか」

 持っていた酒を一気にあおり切った後、グラスをテーブルに置いて真っ赤な顔をしたまま別のテーブルに向かっていく。
 其処にはアースラ隊のメンバーとフェイト達が座りテーブルに並べられた料理を摘まみながら会話を楽しんでいる所であった。

「よぉ、今回もまたお前らに世話んなっちまったな」
「銀さん、久しぶりですね」

 銀時の存在を確認し、クロノがまず先に立ち上がり銀時と固い握手を交わした。今の二人のこの行いに二人の強い絆が見て取れた。

「珍しいわねぇ、気難しいクロノが貴方にだけは接し方が違うもんねぇ」
「か、艦長……僕は別にそんなつもりはないんですけど」
「あらあら、此処はアースラじゃないんだから普通の親子になりましょうよ」

 既にほろ酔い状態のアースラ艦長であるリンディが息子であるクロノを見て嬉しそうに笑みを浮かべている。そんな彼女の微笑みを見て頬を赤らめる息子の姿があった。

「おぉおぉ、相変わらず仲良いみたいじゃなぁい。この際だからお前の母ちゃん俺が貰っちゃおうかなぁ?」
「え!? それって……」
「冗談冗談。幾らお前の母ちゃんが美人だからって既に別の男に食われちまった女だしな。しかしもったいねぇなぁ~」

 酔っぱらっているせいか普段よりも何処か肉食系な銀時になっていた。本来の銀時なら恐らくこんな事を言う訳はないだろう。

「全く、冗談じゃないわよ。そんな事になったらこんな男が私のお義父さんになる事になるんでしょ? そんなの絶対に嫌よ」
「あんだぁ、何で此処にてめぇが居るんですかぁ?」

 こちらでも毎度の如くと言って良いのだろうか。銀時とフェイトの二人が壮絶な睨み合いを行っていた。二人の目線の間で激しい火花が舞い散っているのが錯覚で見えてしまっている。

「やれやれ、本当この二人は何時でも何処でも喧嘩するねぇ。案外仲良かったりして?」
「「誰がこんな奴と!」」

 そんな事では何故か息ぴったりになってしまう二人であった。この二人、果たして仲が良いのか悪いのか?

「なぁなぁ銀ちゃん。この金髪の嬢ちゃんって誰なん?」
「あんだよはやて。随分久しぶりじゃねぇか」
「しょうがないやん。私ってシリアスパートやと殆ど出番なんてないんやし」

 久しぶりの登場のせいか何時もよりメタい発言が目立つ八神はやてであった。

「ねぇ、銀時……この子誰?」
「ん、私? 私は八神はやてって言うんや。よろしゅぅにね」
「八神はやて、もしかして……貴方も私達側の人なの?」
「う~ん、よぉ分からんけどそうみたいやでぇ」

 突然の乱入でやってきたはやてとフェイトの二人がお互いを見合う。同じ世界の人間同士であれば気が合うだろう。

「ところで貴方、此処江戸に住んでるって事は、貴方なのはと知り合いなの?」
「知り合いも何も、なのはちゃんとは親友同士やでぇ」
「親友………」

 はやてのその言葉にフェイトは俯き、黙り込んだ。いったいどうしたのか? 心配になりはやてがその顔を覗き込もうとしたはやてだったが、徐々にフェイトの顔が持ち上がったと同時に変貌したその顔が見て取れた。

「勝った、私の勝ちね」
「へ? どゆことやぁ」
「貴方がなのはの親友ならば、私はなのはの嫁よ!」
「んなななぁぁ!」

 フェイトの衝撃発言に心底驚くはやて。何の意味で驚いたかはこの際伏せて置く事にしよう。今はそれよりもこちらで新たに生まれた修羅場を見なければならないのだから。

「ど、どゆ事や! 何でお宅がなのはちゃんの嫁なんや?」
「当然よ。私はなのはと愛を誓い合った仲なんだから」
「嘘こけ」

 無論、嘘である。なのはがフェイトの嫁である事も、なのはとフェイトが互いに愛を誓い合った事も、全てフェイトのでっちあげた妄想話でしかないのだ。
 当のなのは本人にそんな自覚も記憶もメモリーもありはしないのだ。

「な、なぁんや。嘘やったんかぁ、安心したわぁ」
「残念ね、今は嘘でも何時かはそうなる運命にあるのよ」
「そうはさせん! なのはちゃんは私の親友やけど、今日から私もなのはちゃんを嫁に貰ったるわぁ!」
「おい、何下らない意地の張り合いしてんだよ。悪いけどお前ら何かになのはをやる気はサラサラn―――」

 銀時の言葉が終わるよりも前にフェイトとはやてが二人揃ってその顔面に分厚い灰皿を叩きつける。そして、互いを強い目線で睨み合った。

「良い、今日から私と貴方はライバル同士、即ち敵同士よ!」
「上等や、絶対に負ける気なんてあらへんからなぁ!」
「こっちだって!」

 何とも下らない意地の張り合いに発展してしまった。お互いに一人の人間を巡ってこれから血で血を洗う激しい戦いを行っていく事になるのであろう。まぁ、実際にそれをするかは知らないのだが。

「フェイト、いつの間にか友達が出来たみたいだなぁ」
「お前……その目は節穴か? 何処が仲良く見えるんだよ?」

 どうやらクロノは何処となく空気を読まない一面があるようだ。この調子で世間で言うKY路線一直線になってしまうのだろうか?

「あ、主……一体どうしたんですか? 主の体から凄まじい闘気を感じるんですが?」
「喧しい、女同士の戦いや! 男は黙っとりぃ!」
「そうよ、女同士の戦いに男は邪魔なのよ!」
「あ、はい……しぃませんでした」

 はやてとフェイトの凄まじい気迫に押されたのか、盾の守護獣であるザフィーラはすごすごと元居た席へと引き下がっていった。其処には他の守護騎士メンバーに加えて何故かフェイトの使い魔でもあるアルフの姿があった。

「やっほぉ、席座ってるよぉ」
「お前……お前も俺と同じ守護獣なのか?」
「うんにゃ、私はあそこであんたのご主人様と睨み合いをしているフェイトの使い魔さ」
「成程な、しかしその耳と尻尾……お前も狼か? それとも犬―――」

 ザフィーラの言葉が終わるよりも前に彼の顔面に向かい大皿が投げつけられた。それを諸に食らい言葉が遮られる。その大皿を投げたのは正面に座っているアルフ本人であった。

「犬って言うな! 私は狼だ!」
「す、すまん……以降気を付ける」

 鼻っ柱を抑えながら謝罪し、アルフとは真向いの席に座る。座っても尚も鼻から手が離れない所を見るとどうやら人に見せられない状態にあるのだろう。

「おいおい、ザフィーラ大丈夫かぁ? 幾ら美人なメス狼に会ったからってまさか盛っちまったかぁ?」
「冗談にしては笑えんぞヴィータ」

 ヴィータの言った冗談がよほど気に入らなかったのか、ザフィーラの顔には不満の様子が見受けられた。考えてみればザフィーラもアルフも同じイヌ科であった。

「ザフィーラ。盛るのも良いけど後先は考えなさいね。後戻り出来ない状態になっても知らないからね」
「シャマル。だからそう言う冗談は止めてくれって言ってるだろうが」

 更にザフィーラの苦難は続くようで―――

「安心しろ。そうなった場合は私が介錯してやる。江戸の侍の風習には切腹と言う習わしがあるようだ。もし過ちを犯した場合はベルカの騎士の名に恥じぬように潔く腹を切れ」
「だからお前らいい加減にしろっての! お前ら絶対俺を使って楽しんでるだろう」

 トドメとも言わんばかりのシグナムから放たれた無情な一言に心が折れそうになるザフィーラ。そんなザフィーラを凄く不気味な笑みを浮かべながら見つめる3人の姿があったのはこの際伏せて置く。

「3人とも安心しなよ。幾らこいつがあたしと同じイヌ科だからってこんなむさい奴こっちからお断りだって」

 どうやらアルフにとってはザフィーラは好みのタイプじゃなかったようだ。そして、そんな無意識に放たれた言葉は更にザフィーラの心を傷つける事になったのだが、当の本人には全く無関係な事であったようで。





     ***




「あ~あ、こんな事になるんだったら身内だけで宴会すれば良かったかなぁ?」

 所代わり、こちらでは真選組局長である近藤勲がキャバ嬢を隣に置きヤケ酒を嗜んでいた。

「もうその辺にしたらどうですかぁ、近藤さん。ヤケ酒は体に障りますよ」
「お、お妙さん! そんなに俺の身を案じてくれるんですか?」
「どうせヤケ酒するんだったらバケツでしてくれないかしら。その方がこっちの儲けにもなるし。因みに貴方がどうなろうと私自身には一切関係ないので思う存分肝臓なり体なり好きな様に壊して下さいね」
「お、お妙……さん……」

 思っていた言葉と全く正反対の言葉を投げ掛けられた為か、近藤の顔が真っ青になってしまった。そんな近藤に対し、何時の間に用意したのか巨大なバケツをテーブルに置き、其処にテーブル上に乗っていた酒をありったけ入れていく。

「あの……お妙さん、そんな色んな種類のお酒を入れちゃうと……味とか滅茶苦茶になっちゃうんじゃ」
「どうせどの道肝臓を壊す事になるんだったらいっその事今日壊して下さいな。ついでに臨死体験もしちゃって下さいね」

 天使の様な笑みを浮かべつつやってる事は悪魔じみてるお妙。そんなお妙の行為にたじたじとなっている近藤。徐々に後ろに下がろうとしていた近藤の喉元を片手で掴み、テーブルに置かれ、並々に注がれた酒入りバケツをそのまま口の中へと流し込んで行く。ゴボゴボと音を立てながら必死に逃れようともがき続ける近藤の事など一切気にせず微笑みながら大量の酒を流し込んで行く。





     ***




 それからは皆入り混じってのどんちゃん騒ぎになっていた。真選組も万事屋もアースラメンバーも皆集まっておおいに飲みまくり食べまくっていた。
 皆がどんちゃん騒ぎまくる中、土方は両手にグラスと酒ビンを持って席につく。其処には宴会を楽しんで微笑を浮かべているシグナムの姿があった。

「今回のお前の働きには感謝している。お陰で隊士の被害は最小限に済んだ」
「そうか、私としても実戦で実力を試せて良かった」

 互いに今回の事件の苦労を労う。土方がシグナムの前に一つグラスを置き、酒を注ぐ。その後で自分の元に置いておいたグラスにも同じように酒を注いでいく。

「明日からまた江戸を守る為に働く事になるが、今日だけはその事は忘れて楽しめ」
「あぁ、頂こう」

 グラスを持ち、同時に酒を体の中へと流し込んで行く。ほろ苦さの中に大人にしか分からない味が二人の舌の上に広がっていく。その感触を二人は楽しんでいた。

「美味いな。酒なんぞ余り飲んだ記憶はないが、これが酒と言う物なのだな」
「ただの酒じゃねぇよ。苦労をした後に飲むから美味いんだ。これからもこの味を味わいたかったら戦って生き残ることだ。この意味が分かるか?」
「愚問だな。主を残して死ぬ訳にはいかん。私が果てる時は主の盾となり剣となる時だ」

 シグナムの放った言葉には彼女の強い意志と覚悟が伝わってきた。その言葉と熱意に土方は満足したのか笑いながらまた酒を飲んでいく。
 シグナムもまたグラスに残っていた酒を一気に飲み干す。

「おいおい、美味いのは分かるがあんまり飲みすぎるなよ。明日二日酔いになっても知らんぞ」
「……足りん」

 聞き間違いだったか。トーンの低いシグナムの言葉が響いた。その言葉に土方が驚愕しだす。

「へ?」
「聞こえなかったのか、足りんと言ったのが聞こえなかったのかぁ!」

 怒号と共に土方の顔面に鉄拳が叩き込まれる。土方の顔が梅干し状になってしまったのに一切気にせず、土方の手から酒ビンを奪い取り、ラッパ飲みの如く一気に飲み干してしまった。

「お~いおいぃ、まだ潰れるにゃ早いんじゃないのかぃぃ兄ちゃんよぉ」
「あ、あのぉ……シグナムさん? 何かいつもと違いませんかぁ? 何時もと雰囲気とか言葉使いとか……違いませんかぁ?」
「なぁにごちゃごちゃ抜かしてんだゴラァ! 男だったらもっとどっしりと構えて樽ごと飲むもんだろうがゴラァ!」

 そう言いながら土方の頭を脇で挟み、テーブルの上にあった酒をひたすら土方に注ぎ込んでいく。

「ひ、ひぐにゃむひゃぁん、こここ、これ以上は飲めにゃいんでしゅけどぉぉぉ!」
「ガタガタ抜かしてんじゃねぇよ。まだ宴は始まったばっかだろうが。宴の途中でぶっ倒れたら士道不覚悟で切腹にするぞぉゴラァ!」
「い、いや……そんな局中法度はない―――」
「私が今作った。文句あるかぁ?」
「あ、ありましぇん」

 すっかり気合負けしてしまった土方十四郎その人であった。どうやら烈火の将シグナムは普段は騎士道精神の塊の様な人物なのだが、絶望的なほどに酒癖が悪いようだ。

「お、おい……ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。お前ら同じ騎士だろう。酔っ払ったこいつ何とかしてくれ……このままじゃ俺こいつに殺されちまう」

 こうなれば最後の手段。同じ騎士仲間である三人に救いを求める事にした土方。このままシグナムの猛攻に晒され続ければ最悪土方の命運も危うくなってしまうだろう。
 そうなる前に同じ騎士である三人に救いを求める他なかった。
 
「ほれほれ、あんたも盾の守護獣名乗るってんならこれくらい飲み干してみなよぉぉ」
「ごぼごぼがぼごぼ―――」
「ZZZ……」
「お~い、おかわりまだかよぉ?」

 だが、其処にあったのはべろんべろんに酔っ払ったアルフに捕まり土方と同じ目にあっているザフィーラの姿が。たらふく飲んですやすやと寝息を立てているシャマル。土方とシグナムの泥仕合になど露程も興味を見せず料理を平らげ続けるヴィータ。三者三様の姿が見受けられていた。
 要するに三人とも土方を助けられる状況では全く有り得ないのであった。そんな光景に絶望する土方の首にシグナムの手が伸びる。

「ど~こ~へ~行く気なんだぁ~土方~く~ん?」
「えと……その……あの……」
「宴はまだまだ続くって言っただろうが! 戻っての見直しじゃぁゴラァ!」
「あの、もう飲めないんですが……」
「嫌ならこの場で切腹して貰おうかぁ?」
「はい、お供致します……」

 絶望した土方の目に光はなかった。ただ、操り人形のようにズルズルとシグナムに連れて行かれるその様は、余りにも滑稽かつ哀れに見えた。

「おぉ、怖い怖い。酔っ払った女ってなぁ怖いねぇ」

 土方の不運を見ながら酒を楽しむ銀時。例え土方が苦しもうが自分には関係のない事。寧ろおおいに苦しむが良いゲヘヘ! とばかりに嬉しそうにそれを眺めながら酒を飲んでいた。

「ぎ、銀さぁぁぁん!」
「あん?」
 
 すぐ横で新八の苦しむ声が響く。見れば新八が顔を真っ赤にしてケラケラとおかしく笑っている神楽に技を決められていた。
 確か逆エビ固めだった気がする。

「た、助けて銀さん! 神楽ちゃんが間違ってお酒飲んじゃったせいですっかり酔っ払っちゃってるんだけどぉ!」
「おぉいレフェリー! さっさとカウントするアルゥ! でねぇとこいつの脚をへし折るアルよぉ!」

 どうやら神楽の頭の中ではレスリングの試合をしている真っ最中の様だ。その相手が不幸にも新八だったと言うのが目の前で起こっている現状なのだろうけど。
 やっぱりそんな事も銀時には全く関係ない事だったりする。

「ま、どっちも俺には関係ないけどぉ。土方がシグナムに殺されようが新八が神楽に足折られようが俺にゃ全く関係ないしぃ」

 一人我関せずと言いたげに酒を飲む銀時。そんな銀時の肩に突如重みが圧し掛かった。肩を見ると、其処にはすっかり酔っ払い寝息を立てているリンディその人の姿があった。

「あ、あの……リンディさん?」
「う~ん、ねぇ銀さん……」

 普段のリンディとは何処か違う甘い声色が銀時の耳に入ってきた。男を落とす女性特有の誘惑ヴォイスであった。そんな声を聴いた銀時の脳裏に不安がよぎる。
 まさか、俺の元にも酔っ払った女が来たのか……と。

「あ、あのぉ……いったい何でしょうか? リンディさん」
「銀さん……私って、貴方にとって抱く気も起きないほどおばさんかしら?」
「えぇ? いやいやいや! そんな事断じてない! 良い、もし独身だったら真っ先に口説いて夜の草むらに直行してる位だよ! だけど俺人妻に手を出す程俺勇気ないしさぁ」
「あら、大丈夫よ銀さん。私今夫居ないから。今私フリーよぉん。抱くなら今がその時じゃないかしら」

 徐々に話がずれ始めている事に銀時の不安は更に募っていく。そんな銀時の不安を余所にリンディの悩殺ヴォイスは更にエスカレートしていく。
 それだけに留まらず、突如リンディは着ていた上着をそっと脱ぎ始める。

「ちょ、ちょっと待て! 一体何を為さる気なんですかぁ!」
「えぇ、だって銀さんフリーだったら抱いてもOKって言ったでしょ? だから此処で抱いて貰おうかなぁ? って思ってねぇ」
「ちょちょちょ、周りに目をやってくんない? たくさん人が見てるんだからさぁ」
「良いじゃない。大勢の人に私達の愛し合う姿を見せれば良いだけでしょ?」
「だけでしょ? じゃねぇだろうが! あんた自分の息子の目の前であんなシーンやこんなシーンなんて出来る訳ねぇだろう!」
「良いのよ。あの子だってもう子供じゃないんだし、そろそろこう言う事を知っててもいい年の筈よぉ」

 完全にダメであった。幾ら逃げ道を作ろうとも其処に先回りされて捕まってしまう。しかも粘着的な捕まえ方なのでそうそう逃げられない。
 一体どうやって逃げれば良いのか。銀時の脳裏で幾つもの策略が張り巡らされている。が、どれもダメだった。さまざまな策を模索してはみたがどれもこれも彼女、リンディ・ハラオウンには無駄な策であった。
 必死に悩む銀時の目の前で遂にリンディは背広を抜いてワイシャツを脱ぐまでに至ってしまった。
 今の銀時の目の前には下着姿のリンディしかいない。

「ぎゃああああああああああああ! リンディさささぁぁぁん! もうこれ以上は勘弁してちょうだぁぁぁぁい! これ以上やったらこの小説が18禁小説になっちまう!」
「大丈夫よ。そう言う場面になったら花の断面図とかを説明して誤魔化すでしょ。問題ないわよ」
「問題なくねぇよ! お願いだから誰か助けてぇぇぇぇ! そうだ、クロノ! 助けてくれ、このままじゃ俺がお前のお袋さんを傷物にしちまう!」

 最後の手段として彼女の一人息子でもあるクロノに救いを求める銀時。しかし、当のクロノと言えば銀時とリンディの行いを遠目から見つめるだけであった。

「おい、何してんだよてめぇ! 早く助けろよ!」
「いや、母さんも銀さんなら問題ないて言ってましたし、僕としても銀さんが養父になってくれるんだったら良いかなぁって思ってましたし―――」
「何滅茶苦茶な事言って……はっ!」

 銀時はクロノのそばにあるグラスを見た。其処に注がれていたのは間違いなくお酒であった。恐らく此処のキャバ嬢が間違えて持ってきてしまったのだろう。そしてそれを本人が酒とは知らずに飲んでしまい酔っ払ってしまったようだ。見ればクロノの顔も何処となく赤くなっている。既に酔っ払ってしまっているようだ。周囲に目を回したが結果は散々な物となっていた。
 フェイトとはやては睨み合いを続けており、真選組では酔っ払い暴れまくってるシグナムを取り押さえようとして返り討ちに会っている始末。
 他の万事屋メンバーや騎士達も同じ有様であった。最早此処に銀時を救える救世主は何処にもいない。

「ね、銀さん……今夜は二人で、たのしみま・しょ」
「へ………ヘルス・ミィィィィィィ!」





 その後、銀時がどうなったかは読者方のご想像にお任せすると致しましょう。とにもかくにも、この宴のお陰で二つの世界との間で硬い絆が芽生えたのは明らかな事だったと言える。が、余りにも馬鹿騒ぎしてしまったが為に遂には支払が近藤の貯金だけでは賄えられず、結局真選組の資金を使う羽目となってしまい後で近藤がパン一で江戸市内を歩く姿が多数目撃された情報があったがそれが真実かどうかは……真相は定かではない。




     つづく 
 

 
後書き
次回、「バナナは腐る寸前が美味い!」お楽しみに 
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