つぶやき

海戦型
 
こんなFGOマスターは嫌だ2
 藤丸立香の日記


 壮絶な一日を終えて、未だ頭の整理がつかない。どうやら俺は世界を一度救うぐらいの事をやらされたらしい。
 カルデア到着からの出会い――マシュ、ロマン、オルガマリー所長、そしてレフ教授。あとフォウ君もかな。そのすべてが先ほどの事のように思い出される。

 レイシフト直前の爆破騒ぎ、目の前で死に絶えようとする女の子、炎――レイシフト先で辿り着いた、冬木という名の煉獄のような都市。そこで俺は英霊の力を得て復活したマシュと契約し、予備人員の筈が正式にマスターになってしまった。

 道中は大変だったけれど、幸いにして二人の頼れる……うん、きっと頼れるマスターと遭遇することが出来たのは本当に頼もしかった。

 先輩の一人は、再原(さいばら)稔示(ねんじ)さん。所長からもある程度信頼のおけるバリバリの魔術師さんだ。三騎士の一角、ランサーのディルムッド・オディナを従えて颯爽と登場した際には格好良くてすげーと叫んでしまい、恥ずかしい思いをしたものだ。まぁ、エロいオーラを放っているらしい泣き黒子に所長が若干クラっときてるときは慌てて護符みたいなのをディルムッドさんに張り付けてたけど。
 しかも後から追加でアーラシュという大英雄を召喚した。

 ただ、アーラシュさんは途中で……。本当に残念だ。命を救われたお礼も言えなかった。

 もう一人が、羽間(はざま)邂(かい)さん。なんとこの人は1人で3人もサーヴァントを召喚しているというとんでもない人だった。しかも3体とも召喚が不完全で宝具を使えないという別の意味でもとんでもない人だった。
 でもカイさんはどんな絶望と理不尽の中でも全くめげない人で、常に全力で運命に抵抗していた。その勇気を、大分分けてもらったと思う。多分彼がいなかったら、これからのグランドオーダーで俺は予備マスターとしてすべてを稔示さんに投げ出していたかもしれない。

 ともかく、これから俺は人理修復の長い戦いに参加するのだ。二人と肩を並べて――。




再原(さいばら)稔示(ねんじ)の日記

思い出した、俺は転生者だ。いや、マジで忘れていたのでカルデアに帰ってきて吃驚した。でもこれはどうやら俺が自分で自分にかけた暗示で忘れていたようだ。
うーん、そりゃそうか。早い段階から色々と用意してたらレフに目をつけられたり疑われたり大変だから、昔の俺は転生者知識を活かしつつ今の俺が困らないような仕組みを考えてたんだなぁ。

多分、オルガ所長にいくら罵倒されても嫌いになれなかったのも、所長に一族秘伝である筈の礼装のコピー品を渡して応援したのも、所長を助ける最後の手段を模索した結果の暗示だったんだな。
まぁ、その努力は半分成功、半分失敗だったけど。
……くそっ。多分これからも未来のことは必要な部分だけ本能的に理解できて、後から後から開示されていくんだろうな。

皆を騙してるようで正直居たたまれない。これルールブレイカーとか刺さったら全部術解けそうという怖さもあるけど。

しかし、騎士王との決戦では俺もマスターらしいことが出来たと思う。

アルトリアオルタが最大の宝具を放出した瞬間、アーラシュの弓でディルムッドのゲイジャルグを射出してカウンターを狙う作戦だ。あの槍は魔力を断つため、エクスカリバーの魔力の奔流でも貫ける。
槍そのものは直感で避けられたが、流石のオルタもその後俺が「令呪でディルムッドを槍の飛んだ場所に転移させる」ことまでは読めなかったらしい。ぶっちゃけFF15のシフト戦法をパクったけど上手くいった。

決着の瞬間、ディルムッドとアルトリアが何か会話をしていた。
多分Zeroの世界での因縁、なんだろうな。俺は入り込めなかった。

そして、アーラシュ。
ゲームじゃ無料ガチャでちょくちょく出てくるステラ爆散おじさんだと思っていたが、共に行動した間にその器の大きさに何度励まされたか分からない。ディルムッドもその脱落は大いに嘆いていた。あの瞬間に出会った彼は、もう会えない。霊基の登録がされていなかったあの段階での契約サーヴァントはカルデアにも送れない。次に会うとしたら、別のアーラシュなのだ。

あの時、レフによってオルガ所長が消滅させられそうになった瞬間、助けを求める声にアーラシュは躊躇いもなく頷き、レフにステラをぶちかました。当然彼の五体はその場で砕け散り、光の奔流となって消えたけれど……彼の遺したものは大きい。死の間際、彼はどういう理屈か自らの「弓矢作成」をカイの連れていたサーヴァント――何でこうなったなオリオンに託していた。

原作主人公は闘うと決意した。カイの奴も自分たちのサーヴァントと一緒にやれることを模索している。俺も、この中じゃ一番まともな魔術師だ。頑張らないと。

所長――俺の礼装、「魔術回路を不備なく後世に継承するために死後の肉体を再生する」というそれが発動して肉体だけは再生させられ、今は別の医療器具も使って心臓も動いている所長。しかしその魂は、カルデアには戻らなかった。
多分、昔の俺の読みでは「レイシフトで魂が存在できるなら、カルデアに戻る瞬間までに所長の肉体を再生させれば逆説的に生き返る」といったことを考えていたのだろう。しかしそうはならなかった。もしかしたら、オルガ所長の魂はもう虚数の狭間に消えてしまって、あの肉体の心臓を動かしている意味などなくなってしまうかもしれない。

それでも俺は――最期に所長に「託す」と言われたから。




羽間(はざま)邂(かい)の日記

泣きたくなるような事ばかりだった。サーヴァント召喚には半分失敗して所長に罵倒され、沢山いたマスターはたった3人になり、最後に戦う相手がアーサー王(♀)とか超展開もいい所だ。

役に立たないくまオリオンは俺の頭に乗ってるだけだし、ライダーなのに剣一本で戦うメアリーはアンがいないせいで不機嫌だし、あんまり人の言う事聞かずに突っ走って暴れるハイドはバーサーカーだし。

でも俺は死にたくなかったし生きて家に帰りたかったから、その為のことをした。雑魚の掃討には積極的に参加して敵にオリオンぶつけて倒したり、敵の不意打ちをオリオンを盾にして凌いだり、ハイドに笑われたり、メアリーにカトラスでつつかれたり、オリオンをオルガイツカ所長から引き剥がしたり……ん?何か間違えたか?

とにかく必死だった俺はアーラシュの弓矢作成スキルで作ってもらった弓矢で戦ったりもしたが、宝具を使えないサーヴァントの集まりだった俺らが出来たのは雑兵相手のみ。アーチャーを人数による撹乱で突破して以降は本格的に役立たずだった。

そして――世界は滅んだらしい。

俺は一般人だ。魔術師だった時代もあったらししが、廃れて一般人と大差ない家系だ。なのに人理焼却とか外の世界には何もないとか言われて、何も聞けないくら訳が分からなくなった。周りはそんな俺を可哀想なものを見る目で見て、部屋で休むように言われた。

部屋に飾ってある家族の写真。父さん、母さん、姉ちゃん。
もう死んでいるのだという事に遅ればせながら気付いた俺は、世界を救わねば皆と再会できないという絶望的な事実に打ちのめされ、シャワーも浴びずにベッドに倒れ込み――泣いた。枕元に来たオリオンに頭を撫でられているうちに泣きつかれ、眠った。

次の日の朝、ベッドを出た俺の前にサーヴァントたちが立っていた。
オリオンもメアリーもハイドも、不完全な召喚をしたへぼマスターに付き従って戦ってくれるそうだ。

オリオンは「心配だから」。メアリーは「アンを探す」。ハイドは……「マスターがいないと殺しが出来ない」。オリオン以外ろくでもない理由だったが、どうしてか目の前の3人は頼もしかった。




 = =

なんとなく続きを書いてみたものの。