つぶやき

海戦型
 
唐突な台車語り
 
 寝坊助少年の朝は、常に焦りから始まる。

「うおーーーっ!!くあーーーっ!!遅刻するぅぅぅーーーーーっ!!」 

 彼がこうして焦りに焦るあまり口調が変になっているのもいつものことであり、当然の如くガラガラと音を立てて台車に乗っているのは最早人間が呼吸をするぐらいに指摘する必要のない事柄である。近年はパンダだって「笹食ってる場合じゃねえ!」と急用を思い出して台車に駆け乗る光景が当たり前になってきた。

 しかし、古来よりこの手の焦りはとある事故を誘発するものである。

「きゃー遅刻遅刻~!!」
「なにーーーっ!?曲がり角からパンを咥えた女の子がーーーっ!?くおーーーっ!!ぶつかるーーーっ!?」

 そう、それは衝突事故である。相手は言わずもがな台車で走り、既に曲がり角を片輪浮かせてコーナリングの体勢に入っており、同じ体制に入っている少年に避ける術はない。急加速を続ける台車たちはやがて流れるように美しい角度で衝突し――。

 瞬間、台車同氏の衝突によって生じる莫大な加速エネルギーの衝突が周囲の時系列を粉砕し、時間と空間と次元断層を超越し、世界を真っ白に染め上げ、極小のワームホールを発生させた。



 とある遠い未来――世界の希望は閉ざされようとしていた。

『最早無駄なのだ。宇宙とは其の内で生成できるエネルギー、存在させるエネルギーに限りがある。その有限を使い切ったとき、宇宙は閉じる。これまでは宇宙の死とともに余剰エネルギーを爆発させることでなんとか世界の連鎖をつないできたが、もうそれを行うエネルギーも残ってはいない』
「余剰エネルギーの爆発……ビッグバン!?」
『星の瞬きから力を抽出し、黒き井戸から力を抽出し、様々な方法でエネルギーを効率化させた。しかしそれでも最早宇宙を存続させる力は残っていない』
「星の瞬き――超新星爆発か!黒き井戸とはブラックホールのこと!?そんな……私たちが力学で解明したと思っていたものは、すべて宇宙存続のための意志だったというの!?」

 謎の宇宙収縮現象の原因を突き止めるためにビッグバンの中心たる『座標ゼロ』を目指した人類の目の前に突き付けられたのは、宇宙の管理者たる高位知的生命存在による残酷な現実だった。

 宇宙収縮の原因――それは有限の世界の定め、純粋なる「老死」。
 人間がそうであるように、宇宙にもまた限界が訪れてしまった。

『見よ、この器を』

 光だけで実体を持たない生命体は、『器』――宇宙存続のための力が入っていた半透明の球体には、今や人間の手に一掬いできるかどうかといった儚い光しか残されていない。誰の目から見ても、限界が訪れていることは明白だった。

『既に我らの生命の連鎖は終わろうとしている。人間よ、終末を受け入れるのだ………』
「嘘だ……それならば我々は、今まで一体何のために過酷な宇宙を旅してここまで来なければならなかったのだ!!故郷の皆に何といえばいいのだ!?」
『何と言おうと、事実は覆らぬ……覆らぬのだ……』
「方法はないのか……宇宙を存続させる方法は!!なんだっていい!我々人類の技術力のすべてを注いでもいい!!」
『その技術の礎となったのは宇宙の法則だ。技術力の原動力は宇宙の力だ。宇宙由来の力を使うことで宇宙が収縮しているならば、必然……汝らの技術は宇宙の寿命を縮める存在でしかない。宇宙由来でない力があれば話は別だが――』
 
 その瞬間、時空に白い孔が開き、そのうちから眩い光が飛び込んできた。

「限界を超えて曲がれ、俺の台車ぁぁぁーーーーーッ!!!」

 それは余りに神々しい輝きで――余りに無駄のない造形で――余りにも、余りにも、希望と意志の力に満ち満ちていた。

 光が『器』を貫く。彗星のように尾を引く眩い光が空間を真っ二つに切り裂くような広がった閃光を喰らうが如く掻き込み、吸い込み、その器の内が次元を超越した加速の力に満ち溢れていく。

『何だと!?バカな、これほどのエネルギーがどこから……これではビッグバンに匹敵するどころか、新たな宇宙の創生が行える力ではないか!?あの原始的な乗り物に乗った何の変哲もなさそうな少年がこれを――可能性の果てにいる我等でさえ何もできなかった運命を覆すというのか!?』
「綺麗だ………なんだろう、あの乗り物は?前時代的なデザイン過ぎて逆に何に用いるどういう道具なのかは全くわからんが、なぜか神々しい!!動力も何もなしに宇宙存続のエネルギーを纏うとは、どれだけの可能性が秘められているんだ!?」
「いや、そんなことよりエネルギーだ!!つまり、もう宇宙収縮現象は起きないんだな!?」
『あ、ああ……もう無駄に収縮する必要はない。いや、それどころかあの乗り物をこの世界に再現することができれば、或いはもっと永く宇宙を存続させられるのか……?台車を駆る男、台車男か。彼の存在は、これより先の宇宙の全ての希望の光となるだろう』

 エネルギーをもたらした光――台車に乗った神々しき少年は、やがて更に加速して白い光の中に飛び込み――消えた。

「………おい、映像データ取れたか!?」
「は、はい!!映ってますけど……一体何で今そんなことを?」
「決まってるだろ――データを分析して、あの神の遣いの乗り物を再現するんだよ!!人間が乗ってたってことは人間の技術だろ!?だったら俺たちの手で再現して、宇宙の限界を超えてやろうぜ!!」
『これが、人間。これが……宇宙の理を越えた可能性なのだな………素晴らしい』

 この日、一つの滅亡に瀕した一つの世界がとある希望をその手に掴んだ。

 そして精密な分析の結果、一つの試作型無限加速永久機関が開発される。

 ディメンションでアジャストなインフィニットスピードなんてハァそりゃすごいなア、の頭文字とかを取って名づけられたその名は――零零肆式超次元永久機関『DAISHA』。

 『頭文字無理あるだろ』とか『音声分析でダイシャって呼んでたって理由じゃダメなの?』とか色々物議をかもしたが、この希望を胸に人類は前へ前へと加速度的に進んでいく。今までも、そしてくれからも――!!



 そして、台車同士の激突で発生したエネルギーを異次元へと送り出すことで世界の崩壊を未然に防いだ寝坊助少年は、遅刻少女とともに互いのホワイトホールを突き抜けて奇跡的に衝突を回避し、そのまま学校へと向かうのであった。

「回避成功!!台車に不可能なぁぁぁーーーーしッ!!」

 ………結果、加速しすぎて止まらなくなった台車が学校の壁を突き破り、台車と壁の激突によって生まれたホワイトホールが加速エネルギーと共に世界を以下省略。
 結論だけいうと校舎内で台車に乗った罪を先生に咎められ、台車は没収された。没収されて以降寝坊助少年は数時間に亘って大泣きし、折れた先生に台車を返してもらった。

 めでたしめでたし。


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忘れられがちだけどキングオブファイターズのクーラって普段は髪の毛栗色だよねっていう話をしたいが為だけに書きました。つまり上の文章はおまけで食玩の玩の部分です。ゲーニッツとオズワルドの恰好良さは異常。