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計画的偶然
第四章

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第四章

「しないと思うわ」
「しないの?だって」
「殆どスパイじゃない」
 実際に波江は話しながら007の映画を思い出していた。流石のジェームス=ボンドでもジャック=バルバロッサ=バンコランでもここまではしないだろうと思いながら話している。
「何でそこまでして」
「どうしても。ゲットしたいの」
 それが答えであった。
「だからよ」
「そうなの。どうしてもなのね」
「ここまでしたんだし。だから」
「わかったわ」
 それを聞いて微笑む波江であった。もう知美の気持ちがわかったせいだがそれ以上に彼女の行動に諦めに似た感情を抱いたからである。
「それならね」
「有り難う。そう言ってもらえたら」
「それで。そのメイクで電車に乗るのね」
「これからはね。小道具も持って」
「チョコレートね」
「ええ。それも使うわ」
 そこまで念入りにする知美であった。やはり本気だ。
「絶対にね」
「そうしなさい。じゃあ吉報を待つわ」
「有り難う」
 笑み自体はあどけない普通の女の子の笑みだ。しかしそこまでに至る経緯を知っている波江にしてはそう簡単には信じられない複雑な気持ちにさせる笑みであった。この話から暫くして。波江の前にあの男の子を連れた知美が現われたのであった。
「彼氏、できたの」
 その彼氏の横でにこにこと笑って波江に告げるのであった。
「はじめまして」
 その彼氏の保志健一は少し緊張しながら波江に挨拶をしてきた。
「知美ちゃんの彼氏になった保志です」
「保志君ね。宜しく」
「知美ちゃんを電車で見掛けているうちに気になって」
「それでね」
 知美も言ってきた。
「電車の中で倒れ掛かったところを助けてもらったのよ」
「そうなの。よかったわね」
「ええ。おかげで助かったわ」
 話を聞いていて実情は察しがついていた。しかしそれは顔には出さないのであった。
「それからなのよ」
「そうなの」
 演技を合わせている。しかしそれでも心の中では別のことを考えているのであった。しかしそれは内緒である。心の中の言葉は秘密だ。
「電車の中で見ているうちに気になってそうしたことがあって」
 健一は何も知らないまま話すのであった。
「けれどこれからは。その偶然から」
「ええ。楽しく過ごしてね」
 真実は何も言わないまま健一に告げる波江であった。
「知美と二人でね」
 とりあえず知美にも健一にも話すのであった。真実は隠して今は微笑むのであった。二人に対して。


計画的偶然   完


                  2008・3・6

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