第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第二節 木馬 第五話 (通算第30話)
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一般的に巡洋艦は戦艦に較べて艦体が小さい分、旗艦機能のスペースが十全ではなく、狭いことが多いのだが、《アーガマ》はさすがにアイリッシュ級の試作艦だけあって、艦橋そのものが大きめにつくられていた。
宇宙世紀の艦艇に艦橋がナンセンスであるという論も無い訳ではないが、人は合理だけで生きていける訳ではない。つまりは、運用的問題から、集中管制と分割管制を併用しなければならない状態になっており、艦橋に人的資源が集中するという兵器的に考えると非常に危険な状態であることは判っていても、それを行わなければ今度は円滑な艦運営に支障をきたすおそれがあるのだ。
人は、人と顔を合わせ同じ場所で働くからこそ仲間意識が芽生える。
(不合理だからと言って人は簡単には変わらない……か)
シャアは、ブレックスに従って艦橋に入りながらそう思った。ニュータイプといわれたシャアであっても、常に人の有り様を理解できる訳ではない。あくまでサイココミュニケーターシステム――サイコミュシステムの余録としてのニュータイプ同士の共振なのだ。日常では多少勘が鋭い程度のことでしかない。
「クワトロ大尉、こちらがヘンケン大佐だ」
「ヘンケン・ベッケナー中佐だ」
シャアが怪訝な顔をした。ヘンケンが手を差し出すときに「辞令がまだ降りていないのさ」と付け加えた。
「あぁ……了解であります。艦長」
「で?クワトロ大尉にはこの艦に来ていただけるのですか?」
シャアは苦笑いする。ブレックスにも先ほど言われたことだったからだ。
「いや、ジオン共和国軍にそこまで無理は通せまい」
ブレックスがヘンケンの期待を潰す。期待されて悪い気はしない。だが、やはり自分が選んだ道ではあっても、ジオン共和国軍人であることは自由ではないことを思い知らされた。
「では例の件は?」
「?」
シャアがブレックスに説明を促す。ヘンケンが、艦長席から立ち上がり、副長に後をまかせるといって、会議室へ移りましょうと誘った。ブレックスは無言で頷く。シャアとて異論があろう筈が無い。ブリッジクルーに聞かせていい段階にない話ということだ。
「クワトロ大尉には次の作戦に参加してもらいたい」
「それは構いませんが、どのような作戦なのでしょうか?」
ブレックスは苦笑いを浮かべる。ヘンケンも笑顔を消して、真剣な眼でシャアを見ていた。
「奇襲だよ」
「奇襲……ですか?」
沈黙がおりる。
「グリプスへの奇襲だ」
腕を組み、憮然とした表情のままヘンケンがブレックスの言葉を継いだ。
グリプスはティターンズの本拠地である。いかに国際平和維持軍であるエゥーゴとはいえ、簡単に近づけるものではない。
「新造艦の慣熟訓練のためと偽って、衛星軌道航路の使用許可は取り付けた」
衛星軌道航路はルナツー駐留の地球機動艦隊の軍管区で
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